がうがうあべんじゃー

作者:犬塚ひなこ

●森の怒り
 この街の再開発計画が実行されてから暫く。
 街外れにあった緑豊かな森の半分がなくなってしまった。伐採に整地、宅地分譲と大人が言っていたことはよく分からなかったが、少女はそれを悲しく感じていた。
 そんなある時、彼女は噂を聞いた。
 ――森の木々が怒っている、と。
 噂によると残った緑が人間達に仕返しをしようとしているという。木々は蔦や枝を絡ませあい、追い出された動物達の姿を模った化け物を作っているらしい。そして、森に踏み入った人間を容赦なく殺そうとしている。
 その噂を信じた少女はひとり、街外れに向かった。
「……草木が人間に仕返しするなんて、だめ。ごめんなさいって伝えに行かなきゃ!」
 きっと森の木も分かってくれる。謝ってから、これ以上は木を切り倒さないと大人にお願いすると伝えれば良いはず。だから先ずは樹の化け物に会わなければならない。
 そう考えた少女は日中の間、ずっと森の中を彷徨っていた。
 されど噂は噂。彼女の前に件の枝の化け物なんて現れるはずがない。だが、少女は不意に胸元に違和感を覚えた。
「え……お姉さん、誰……?」
 いつの間に現れたのだろう。目の前には自分の胸に大きな鍵を突き刺した魔女のような人影が立っていた。そして、魔女アウゲイアスは魔鍵を引き抜きながら告げる。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 魔女の言葉が紡がれ終わると同時に少女の身体が地面に倒れ込んだ。
 やがて、その傍には枝や葉、花が幾重にも絡まりあって出来た化け物が現れる。狼めいた形を取ったそれは遠吠えをするように口を開け、鋭利な枝で出来た牙を剥き出しにした。
 そして――森から人間への報復が始まる。

●花と緑の偽狼
「森の木々が怒ってるの」
 そういってエルピス・メリィメロウ(がうがう・e16084)は話を始めた。
 今回、彼女が皆を集めたのは事件が起こる未来が予知されたからだ。不思議な噂に強い興味を持った少女が魔女アウゲイアスに襲われ、その『興味』を奪われてしまった。魔女は既に姿を消しているようだが、奪われた興味を元にして現実化した怪物型のドリームイーターが現れてしまっている。
「でもね、森は本当に怒ってるわけじゃないのよ。いまいるのは嘘の狼……夢喰いなの」
 エルピスはそれが本当の森の化身ではないと語った。
 怪物型夢喰いは枝や花、緑の葉でかたちづくられた狼の姿をしている。危険な噂通りに人間を見つけるとその枝の牙を使って噛み殺そうと襲ってくるらしい。
 だが、今現在は森の何処に潜んでいるかはわからない。
「だから噂話をして呼ぶ必要があるの。森の話、再開発の話、木の怪物の話。偽の狼についてならなんでもいいみたい」
 そうすれば引き寄せられた夢喰いがケルベロス達に戦いを仕掛けてくる。
 あとはいつも通りに戦えばいいと話したエルピスは仲間達を見つめた。その青色の瞳はどうしてか森の緑や泉を思わせるような彩をしている。多くは語らないが、皆とならば大丈夫だと考えているらしきエルピスは小さく頷いた。
「森を壊すのはいけないことかもしれないの。けどね、それと森が怒るのとは違うの。だって今も森は半分も残っているし、それにね……」
 人間側だって別の土地を緑地化して伐採した分を補おうとしている。整地したことも悪い部分だけではないのだと話し、エルピスはそっと目を閉じた。
 ありもしない怒りが具現化され、森の復讐とされてしまうことだけは避けたい。
 そうして、エルピスは戦いへの思いを抱いた。


参加者
ラウラ・ロロニ(荒野の琥珀・e00100)
大弓・言葉(ナチュラル擬態少女・e00431)
ジルカ・ゼルカ(ショコラブルース・e14673)
エルピス・メリィメロウ(がうがう・e16084)
御堂・蓮(刃風の蔭鬼・e16724)
藍染・夜(蒼風聲・e20064)
ナクラ・ベリスペレンニス(オラトリオのミュージックファイター・e21714)
メィメ・ドルミル(夢路前より・e34276)

■リプレイ

●木々の怒り
 深い森に復讐を抱く狼の影。
 それはまるでお伽噺か童謡のよう。ならばきっと、このように語られるのだろう。
 ――伐採された森が怒って、つよいつよい狼となった。
 ――そして、愚かな人間たちは懲らしめられたのです。
「でも、噂は噂、夢は夢だからこそ美しいものだろう。なぁニーカ?」
 ナクラ・ベリスペレンニス(オラトリオのミュージックファイター・e21714)は想像の翼を羽搏かせながら傍らのナノナノに問いかける。
 ニーカがこてりと首を傾げる最中、メィメ・ドルミル(夢路前より・e34276)は周囲を見渡した。自分の故郷ではこんな森がそもそもない。故に実に不思議だ、と。
「花と緑の狼か。そいつが復讐にくるってようが、なんだろうが……」
 おれはひと目、見てみたい。僅かに掠れたメィメの声を起点として、集った仲間達は森の怒りについての噂話をはじめた。
「森が……なくなる……怒るきもち……わかる……けど………」
 人を襲うのは良くない、とラウラ・ロロニ(荒野の琥珀・e00100)は首を振る。
 自然破壊は好きではないが、植物を攻撃に使うなんて、と考えたラウラの気持ちは複雑だ。同様にエルピス・メリィメロウ(がうがう・e16084)も思いを言葉にする。
「森の木々が怒っているのはきっとミンナが忘れちゃうからなの」
 皆が狼の事を忘れて木を切り、狼の事を考えないから木が狼の形になる。嘘じゃないの、きっと本当。エルピスはがうがう、と小さな唸り声をあげて語った。
 その傍ら、ジルカ・ゼルカ(ショコラブルース・e14673)もこくんと頷く。
 森の怒り。その話を信じたなら、夢主となった娘はきっと優しい子なのだろう。
「……狼って、昔から、森の守り神なんだって」
 その遠吠えは千里を越え、不届きものが森に立ち入らないよう響いたという。
 でも、とジルカは思う。ホントは人のことも傷つけたくないのではないか。
 様々な仲間の言葉や思いに耳を傾けながら、大弓・言葉(ナチュラル擬態少女・e00431)もふと考える。
「森の怒りはやっぱり禍々しいのかしら、それともファンタジックで可愛いのかしら?」
「怒りの現われか……」
 御堂・蓮(刃風の蔭鬼・e16724)も考え込み、実際のところそうあってもおかしくない程に人は自然を侵しているかもしれないのだと実感する。そして、本当に居るのなら受け止めるべきかもしれない、と。
 藍染・夜(蒼風聲・e20064)は胸の裡で自然を侵すヒトの驕りを大地へ詫び、足元の草花に触れる。
 森の誠の声が聞けるなら尋ねてみたい。
 我々が共に歩む道を切り拓いても許して貰えるのかを。
 夜が軽く瞳を閉じたそのとき、周囲に異様な気配が満ちた。エルピスの耳がぴんと立ち、尻尾が逆立つ勢いで揺れる。
 来たみたい、とエルピスが皆に視線を送れば、メィメが静かに頷いた。
 ナクラやジルカをはじめとした仲間達が見つめる先には枝や花で構成された狼めいた化け物が立っている。前を見据えた夜は皆と共に身構え、敵に呼び掛けた。
「さぁ、おいで狼」
 森の答えは闘いの末に――そして、戦いの幕があがる。

●狼と森
 構えを取った偽狼は吼えるような仕草を見せ、地を蹴った。
 枝で出来た牙を剥き出しにした狼が迫る。その矛先はどうやら蓮に向けられているようだ。しかし、すぐにその動きを察知した言葉が狼の進路を遮って受け止めた。
 痛、と小さな声が零れたが、言葉は果敢に痛みに耐えた。
「しっかり皆を庇うのよ、私もがんばるから」
 そして、ぷるぷると震えていたボクスドラゴンのぶーちゃんを呼んだ言葉は仲間を護る決意を固める。オルトロスの空木は反撃に移り、咥えた刃で敵を斬り裂いた。
 その間にメィメが敵の背後に回り込み、双眸を薄く細める。
「ふん、元気の良いのが出てくるらしいじゃねえか。それじゃ、手懐けるか」
 刹那、電光石火の一閃が敵を穿つ。
 撓った枝の感触があり、メィメは僅かに眉を顰めた。まるで弾き返されるような感覚は不可思議に思える。次だ、と身を翻したメィメは敵との距離を取った。
 その声に応える形でエルピスが飛び出し、夢喰いを見据える。
「オオカミは本当は優しいの。ワタシも森に棲むオオカミだけど、木々や草と仲良しだもん。だから、ね!」
 わおーん、と鳴いたエルピスの声が森に響き渡った。
 遠吠えめいた残響は敵に衝撃を与え、確かな痛みを与えている。其処へジルカとウイングキャットのペコラが追撃を与えに駆けた。
「かっこいいよね、狼。森を駆ける孤高の戦士……ってカンジ」
 た、食べないでよ、なんて怖気づいてしまいそうになったがジルカは果敢に武器を振るう。更にペコラが尻尾の輪を飛ばす中、ボクスドラゴンのトゥルバが仲間に己の属性力を宿していった。
「トゥルバ……そっちは……よろしくね……」
 ぽつりぽつりと相棒竜に願ったラウラは自らも魔力を紡ぎ、地面に守護星座を描く。
 其処に合わせてナクラが黄金の果実をみのらせた。
「ニーカも頼んだ。頼りにしてるからな」
 ナクラがその名を呼べば、ナノナノは翼をぱたぱたと揺らして応える。仲間にばりあを張ったニーカの姿を滄海めいた青い瞳に映し、ナクラは拳を握った。
 狼は葉の爪を尖らせ、再び襲い掛かる姿勢を見せる。しかし、それよりも先に動いた夜が刃に手をかけた。
「空の覇者と森の王者、どちらがより鋭く美しいだろうね」
 まみえる牙と爪。
 抜刀から刃を返し、流星の煌きを想わせる剣の軌跡が宙に躍る。其処に合わせて言葉がくるりと回り、愛らしい仕草で天空高く飛び上がった。
「ほらほら、ちゃんとこっちも見てね!」
 美しい虹を纏う蹴りを浴びせた言葉があざとさ全開で片目を瞑る。
 続いた蓮は森の怒りの化身だという敵を見つめ、追撃として流星めいた蹴撃を見舞った。
「再開発は人間の都合だ。あながち有り得ない話ではないかもしれん」
 だが、と首を振った蓮はこれは夢喰いだと己を律する。実際の件と夢喰いの件は違うことだともはっきり理解していた。
 この相手はドリームイーターが作り出した偽物。
 葉の爪の切っ先はメィメを狙っている。されど飛び出したニーカがそうはさせない。ありがとな、とナノナノに告げたメィメは反撃に入った。
 懐から取り出した刃を振りあげた彼は絡みあった枝を鋭く切り刻む。
「デカイ的なんだ、しっかり狙えよ」
「……うん……大丈夫……」
 狼に宿った不利益を増幅させたメィメ。その言葉に頷いたラウラがしかと答えた。そしてラウラは地面を蹴り、木々の幹を伝って高く跳びあがる。
 其処から放たれた一閃が狼の足を止め、動きを鈍らせた。その隙にナクラがニーカに癒しの力を施していく。
 ジルカは今が好機だと感じ、ペコラを呼ぶ。
「群れの仲間、守ろうとするのと同じなのかな。でも、それなら……」
 ――俺たちだって、そう。
 行くよ、とペコラに合図をしたジルカは全力で敵を蹴りあげる。その追撃として翼猫の爪が葉を裂いてゆく。幾らか枝が折れる音が聞こえ、森狼が傾いだ。
 蓮は空木に更なる攻撃に移るよう願い、自らは片手を振りあげる。途端に紙兵が散布されていき、仲間達の力となっていく。
「住処を奪われれば怒るのは当然だ。だが、力を行使するのはお前ではない」
 夢喰いに告げた蓮は意思を強く持った。
 徐々にではあるが、敵が弱ってきている。そう感じたエルピスは激しい攻勢を続けるべきだと考えた。
「全然こわくないのよ? これは本当なの。ふふふのふー」
 嘘かもしれないけど、と悪戯っぽく笑んだエルピスは華麗に森を駆け、敵を翻弄するように惑わせていく。鋭い蹴りが狼を打つ最中、夜も竜槌の一撃を放った。
 その間にも敵からの一閃が放たれたが、夜は動じない。
「癒しは頼んだ。此処からも容赦なく行く」
 宵空を思わせる藍色の髪、そのひと房が風に揺れた。そして、夜からの言葉を受けたナクラは最後まで仲間を支える思いを強く持つ。
「勿論だ。さあ、最高に可愛い俺のニーカ。出番だ!」
 癒しに徹する自分の代わりに、とナノナノに目配せを送ったナクラ。ニーカも心得ているとばかりに前に布陣し、しっかりと狼に対峙する。
 メィメとジルカ、そしてエルピスにラウラ。彼等も真剣に敵に向かっていた。
 頼もしい仲間達の姿勢に思わず笑みを浮かべ、言葉もぶーちゃんと一緒に攻撃を続けていく。その際、不意に浮かんだのはこの夢喰いの主になった少女のこと。
「森の木に謝ろうって純粋でいいわねえ……なら尚更、偽の狼さんはちゃんと倒さないとね! 覚悟してね!」
 そうして、森の戦いは続いてゆく。
 偽の怒りなど番犬の力で捻じ伏せてみせる。そんな思いと共に――。

●緑の夢
 声なき咆哮があがり、激しい攻防が巡り廻っていった。
 枝と葉の爪と牙は容赦なくケルベロス達を傷つけたが、誰も屈してなどいない。敵も適度に癒しを用いて自らを癒したが、メィメや蓮が動きを鈍らせ、攻撃手達が容赦なく攻撃を続けることで力を削っていた。
 エルピスは偽狼を見つめ続け、討伐への思いを強める。
「お父様もお母さまも森が大好きだもの……ワタシも、ワタシの森が大好きだもん」
 だから、と顔をあげたエルピスは再び咆えた。
 がうがう! という鋭い一声が森の木々を揺らした。嘘吐き狼の遠吠えは森の偽狼を貫き、その身を大きく揺らがせる。
 その一手が転機になったと感じ、ラウラはトゥルバを伴って駆けた。
「悪いだけの……怒りは……ここで……おしまい……」
 攻撃に転じたラウラの蹴りが炸裂し、トゥルバの吐息が狼を包み込む。いまだよ、と告げるようなラウラの視線を感じたナクラは自分も攻勢に出るべきだと察した。
「合わせて行こうか。遠慮は無しだ!」
 ナクラは指先を敵に差し向け、時空すら凍結させる弾を解き放つ。続いたニーカがちっくんと狼の枝を刺して力を奪い取った。
 だが、次の瞬間。力を振り絞って反撃に入った狼がエルピスに噛み付いてしまう。
「……!」
「大丈夫、任せて!」
 痛みを堪える仲間に向け、すぐさま言葉が癒しの力を紡ぐ。
 オーラで可愛らしいハートの空間を作った言葉の援護を受け、エルピスはありがとう、と小さく微笑んだ。
 きっと戦いは間もなく終わりを迎える。
 空木が神器の瞳で敵を睨み付け、蓮も思念を霊力に変換していった。
「奴等の……夢喰いの行為は共存への道を壊しかねん」
 この敵との共存は無意味だと断じた蓮は赤黒く禍々しい鬼めいたものを具現化させる。振るわれた鋭い爪が風を巻き起こし、森狼を切り刻んだ。
 其処に生まれた隙を狙い、ジルカは身構える。
「ペコラ、きみの爪と牙を見せてやって! 俺の爪も――見てみる?」
 少し悪戯っぽく笑ったジルカはペコラと共に敵を挟み込んだ。右からは翼猫の爪、左からは彼女のショコラ色に塗られたしなやかな爪。
 指先でなぞった枝から魔力が流し込まれ、甘やかな香と共に内側から散弾の如く弾け出す極彩色の星屑。
 其処に合わせ、夜は葬送への思いを募らせた。
 森の威を騙るさまを木々は悲しんでいる。きっと、何れ誰もが土へ還り地を豊かにする一助となるはずだ。ヒトと自然との共存の在り方へ妖しが口を挟む道理はない。
「――森へお還り」
 疾く黄泉路を逝きて贖え、と放たれた一閃は天を統べ空を翔ける白き鷹が如く、敵を幾度も切り刻んだ。
 ラウラは次が最期になると察し、言葉とエルピスも仲間に視線を向ける。その眼差しを感じ取ったメィメは掌を翳し、静かに掠れた声を綴った。
「夢は夢だ。そういうもんだろ。ほら、夢に帰れよ」
 そして、彼が見せたのは――より長き冬の夢。
 在りえぬ怒りも緑も今は眠るとき。枯れ果て、まぼろしと消えるのが良い。そういって放たれた魔力は夢喰いを包み込み、終わりの刻を与えた。

●小さな花
 こうして、在りもしなかった森の復讐は止められた。
 枝が崩れ落ちて花が枯れるように萎む。いつしかそれも幻のように薄れ、森狼の気配は完全に感じられなくなった。
「おやすみ、狼さん」
 ナクラは消えた夢の化身に告げ、考える。
 恐いけれど神々しい、そんな存在の写し身だったのか。夢は夢に過ぎないが、それならばやはり彼の者が眠るのは痛ましい傷を負った美しい森なのだろう。
 ラウラは周囲を見渡し、トゥルバと共に何処にも大事が無いことを確認する。
「被害が……でなくて……よかった………」
「これで一件落着ってところかな」
 言葉はぶーちゃんを撫で、よく頑張ったねと褒めてやった。
 そうして仲間達は倒れている夢主の少女の元へと向かう。夜は事前に彼女にかけてやっていた上着を退かし、大丈夫かい、と呼びかけた。
「う、ううん……あれ……?」
「気が付いたか。悪い夢でも見たんじゃねえか」
 不思議そうな顔をした少女に、メィメが安心しろと伝えてやる。
 エルピスもひょこりと彼女の顔を覗き込み、何も心配はないと笑ってみせた。しかし、少女は狼が居た気がするのだと首を傾げる。
 ジルカは少しだけ考え、そうだ、と思いついたことを告げてやった。
「狼はね、新しい森を守りに行ったよ」
「森を? そうなんだ……ふふ。あっ、私はそろそろ帰らなきゃ!」
 何故だか納得した様子の少女は立ち上がり、ケルベロス達に礼を告げてから駆けていく。その後ろ姿を見送ったエルピスとメィメはそっと手を振った。
 そうして、ジルカはふと考える。
 共存って、何だろう。
 森と人、狼と人。デウスエクスと、ソレ以外。もし一緒に生きる道があるなら――。
 まだその答えは出ないが、共存について色々と考える必要もある。
 ラウラも辺りを眺め、緑の木々を瞳に映した。
「森や……木々……なくなってしまった……ものは……また増やさないと……それは……ひとの……責任……」
「そうだな、難しい問題だがせめて残した自然は大切にしていきたものだな」
 蓮は同意を示し、騒がせて悪かったと森に告げる。
 ナクラはニーカを頭に乗せ、静かに思考を巡らせていった。
 物にも命にも、この地球に永遠は無い。無垢な心に残酷に映るルールは限りあるものを力いっぱい燃やして輝く。
 笑顔で去った少女もいつか、と考えたナクラは風に揺れる森を眺めた。
 夜も迷わせることなく森の中へ導いてくれた樹々へ触れ、眸を閉じて礼をする。
「互いに助け合い、大地を育む道を模索して行けたら良いね」
 自然と人の形。それらの問題はすべてが解決したわけではない。それでも緑を思い遣れる人が居るならば、と夜はそっと笑む。
 足元に咲くのは白く淡い花。
 新たな草花の芽吹きはきっと、緑豊かな未来に繋がるちいさな証。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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