驚きを運ぶバス

作者:雨乃香

 暗い夜道、街灯もなく狭い道の左右は真っ暗で足元も覚束無い。
 少女はそんな道を辺りを見回しながら恐る恐る、一歩一歩、震えながら歩いていた。
 進めども進めども暗い道は終わりを見せず、今にも泣き出してしまいそう担った少女は、遠く点る微かな街灯の明かりを見つけると、そこへ駆けていく。
 明滅する街灯その下にはぽつんと寂れたバスの停留場があるだけ。
 それでも少女は深く安堵した。理由もなくこれで帰れると、彼女はそう思っていた。
 そうしてしばらく待っていると、程なくしてバスがやってくる。
 暗闇から這い出るように、ねっとりと重い闇を纏い少女の前に止まったのはバスと蜘蛛を掛け合わせたような奇妙な乗り物。
 その車体の前面には大きな八つの目、そのすべてに映っている自分の姿。
 少女は悲鳴をあげることもできず、訳もわからず走り出す。自分の足元すら見えない暗闇の中、なにもない場所で足をもつれさせ、つんのめり、それでも少女は懸命に走る。
 その後を蜘蛛バスは距離を詰めるでもなく、ただ足を動かし少女の後を追う。
 もつれた少女の足がついに闇に捕らわれる。振り向けば、蜘蛛の頭が、

「っ、あは――!?」
 飛び起きた少女は、胸に抱く大きな熊のぬいぐるみの感触に、先ほどまでの光景が夢であったと悟ると、大きく脱力する。
「なんだ、よかった……」
 きつくぬいぐるみを抱きしめ、いいにおいのするその毛並みに顔を埋め、また寝なおすのも怖いなと思っている少女は、急激な眠気を覚えパタリとベッドに倒れ付す。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの驚きはとても新鮮で楽しかったわ」
 その傍らには、大きな鍵を握る影があった。

「下手なホラー映画より、よっぽど自分の見る夢の方が怖いってこと、ないですか? 内容自体はそれほど怖いわけでもないのに妙にリアルで、起きたときに胸がどきどきするような……そういった経験ありません?」
 ニア・シャッテン(サキュバスのヘリオライダー・en0089) は身振り手振りを加えわざとらしい演技で語りつつ、その胸に手をあて、ふっと表情を崩し、ケルベロス達に笑いかける。
「子供の想像力と感性なら尚更。子供の頃悪夢を見て飛び起きた、なんて、一度は経験があるんじゃないでしょうか? そんな夢から感じた驚きを奪うドリームイーターがまたとある少女の驚きを奪っていったようですね?」
 眠りから覚めないことを除けばある意味寝たままなんて優しいのかもしれませんが、仮に眠り続けている間悪夢を見続けているのだとしたらめちゃくちゃな拷問ですね? などとニアは言いながら、話を本筋へと戻していく。
「今回具現化したのは蜘蛛バスとでもいいましょうか、タランチュラ、わかりますよね? あれの体を四角くしてバスっぽく窓とかがついた、そんな感じのやつですね。若干毛がファサッってなってる」
 軍曹とかよりはよっぽどましですけどサイズが文字通りバスですし、ビジュアルはなかなかどぎついものがありますねと、直接対峙するわけではない彼女はケルベロス達の様子を見ながら気楽に笑っている。
「攻撃方法もそれに準じたものが揃っているようですね。本来タランチュラの毒性はさほど強くないのですが、子供の夢ですからね、気をつけていったほうがいいかもしれませんね」
 夜中の道でこんなのに出会ったら驚くどころか、腰が抜けてそのまま轢かれてもおかしくないでしょうねと、肩をすくめ、話を締めくくる。
「あくまで驚かせるのを目的にして行動しているとはいえ。先ほどいったような事故がおきないとは限りませんからね、最悪心臓が弱いひとはそれだけで、ってこともこのビジュアルなら十分あるでしょう、速やかな排除をお願いしますよ?


参加者
マイ・カスタム(レアリティは星二弱・e00399)
春日・いぶき(遊具箱・e00678)
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
フリードリッヒ・ミュンヒハウゼン(ほら吹き男爵・e15511)
塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)
ロフィ・クレイドル(ペインフィリア・e29500)
エルガー・シュルト(クルースニク・e30126)
雨宮・利香(黒刀と黒雷の黒淫魔・e35140)

■リプレイ


 地方都市の片田舎とは言えまだ寝静まるには早い時間、だというのに繁華街の明かりは落ち街は死んだように静かで、明かりがなければ足元も覚束無いような暗さだ。
 そんな夜道を微かな明かりだけでどんどんと進んでいく一人の少女の姿があった。
 ドワーフであるウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)にしてみれば夜道程度の暗さであればさしたる支障もなく歩くことができる。髪と同じ色の付け髭を誇らしげに弄りずんずんと歩いていく彼女の後頭部を便りにその後に続くロフィ・クレイドル(ペインフィリア・e29500)は目の前の付け髭の少女以上にインパクトのある出で立ちをしていた。
 なにせ事情を知らぬものが見れば、小柄な女の子が肩にバス停のポールを担ぎさらに小さな女の子の後を追いかけていると言う構図なのだ。
 そんな彼女の隣に立ち足元をライトで照らしているエルガー・シュルト(クルースニク・e30126)の姿がもっとも町の景色には馴染んでいたが、それゆえにこの三人の組み合わせがより奇抜なものとなっている。
 とはいえ、それを気にするような者もいない。
 デウスエクスの出現が予測されるこの周囲一体は、事前に通達した連絡により既に民間人は避難済みであり、戦闘による被害者が出るとすれば、ケルベロスだけだ。
「ん、そろそろじゃのう」
 ウィゼの言葉にエルガーがライトをあげ、先を照らしロフィが顔をあげるものの、その先にはまだなにも見えない。
「夜目が効くというより……ウィゼさんの目がいいのでしょうか?」
「かもしれないな」
 一旦立ち止まり、そう言葉を交わすロフィとエルガー。
 んしょ、と小さな声をだし、再びポールを持ち上げようとしたロフィに対しエルガーはライトを差し出し、
「代わろう」
 と提案するのだが、
「いえエルガー様にこのような物持たせられません」
 と頑なにロフィは拒む。
 そのやり取りも既に何度目か。彼女に付き従うテレビウムのクーも既に諦めているのか前を行くウィゼと共に先を進んでいる。
 それからしばらく歩いてい、ようやく二人にも目的地が見えてくる。
 徐々に広くなっていく道幅の先、街の中唯一光溢れる大きな交差点。繁華街から延びるその道の端だけは街灯の明かりが灯っていた。
「思ったより早かったねぇ」
 帰ってきた彼らに気づいたフリードリッヒ・ミュンヒハウゼン(ほら吹き男爵・e15511)は足を止め、頭上の真っ黒なとんがり帽子の位置が気になるのか、そのつばに時折手を伸ばしている。
 彼のその声に他のケルベロス達も彼女らが帰ってきたことに気付くと、作業の手を止め、一様に集まってくる。
「こっちも大方おわりましたよ」
「ま、証明つけて、道路の封鎖しただけだけどね」
 春日・いぶき(遊具箱・e00678)の言葉に塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)が言葉を続け肩をすくめて見せた。
「しかし蜘蛛とバスのミクッスとは……最近の子は想像力が豊かだね」
「それを誘き寄せるためにバス亭を移動させる発想もなかなかだけど」
 マイ・カスタム(レアリティは星二弱・e00399)と雨宮・利香(黒刀と黒雷の黒淫魔・e35140)の会話を横に、ウィゼがロフィを誘導し、交差点の中央へとポールが設置される。
「まだ予定時刻までは時間がありますねぇ」
 時刻表の一番下、終発のバスの到着時間と時計を見比べながらフリードリッヒが呟くと、それを覗き混みながら利香が続ける。
「移動させちゃったけど、待ってれば来るかな……?」
「まぁ、なるようになるでしょう」
 不安というよりも半信半疑といった感じ首を捻る利香、対して戻ってきたいぶきは軽く言いながらその視線を元々バス停のあった方角へと向ける。
「なんじゃ、まだ十分もかかるのか?」
 わらわらとバス亭の前に集合するケルベロス達の中待つのにじれたようにウィゼはまるで臨時のダイヤ変更の如く現在時刻から五分後に到着時間を書き換えた紙をペタリと張り付けて、時計と周囲を気にし始める。
「子供の発想力ってほんと自由ねぇ」
 しみじみと呟く翔子に隣のマイも頷きつつ、五分と言う時間はあっと言う間に過ぎていった。


「遅延するとはしょうがないバスなのじゃ」
 書き換えた時間になってもバスが現れないのは仕方ない事かもしれなかったが当のウぃゼは肩を落とし落胆していた。
「もう少し待ってみて駄目そうなら探すしかない、かな?」
 利香の言葉に、元の時刻表の時間通りにまで待って何もなさそうであれば、ということで話が纏まろうとした矢先。
 その気配に気づいたマイが振り返ったその視線の先、それは一際背の高いビルから飛びだし、彼らの頭上を越えて音もなくケルベロス立ちの前に降り立った。
 事前に話を聞いた通りの蜘蛛とバスを掛け合わせた奇抜な見た目。それが着地と同時にドリフトを決めるかのように体を回し、ケルベロス達の方を向く。
 長く四角いバスの車体と同じ形をしたその胴は毛に覆われている事を除けば、その内部も外見も普通のバスと遜色はない。それゆえに、正面と一体化した顔と、その無数の蠢く脚がアンバランスに映る。
「うわぁ……すご……。あれ、でも道なりに現れるって話じゃ……」
 その造詣に利香は驚いたように声を漏らしながらも、ふとそんなことに気付く。
「バス停を移動させてしまったからでしょうか?」
 推察した答えを自信無さそうにいうロフィはその見た目にも登場にも一切何ら驚きの感情は見せず、むしろどこか嬉しそうにその車体を眺めている。
「しかし律儀に停車はするのだな」
 そんな所を律儀に守る目の前の敵に対し、エルガーは粛々と武器を構えて対峙する。
「こりゃ虫の嫌いな人にはみせられんわな。シロは……大丈夫そうだな」
 感心したようにその姿を見つめいてた翔子の腕に巻きつくボクスドラゴン、シロの様子を確認すると、軽くその頭を撫で、武器をとる。
「相変わらず魔女ご本人は補足できず……」
「そろそろ現況に辿り着きたいところだよね」
 目の前の敵を産み出したと推測される魔女の姿はやはりその場にはなく、マイとフリードリッヒはやや落胆しつつも直ぐに頭を切り替える。
「なんにせよ、先ずは目の前の驚異からでしょう」
 呟くいぶきの指先に淡い色の炎がポツリと灯る。
 時計の針が一分先を示すと同時に、蜘蛛バスはゆっくりと動き出した。


「どうせならもっとかわいげのある動物がバスになればよかったのにね」
「ウイングキャットなんて良さそうだね」
 脚を地に突き立て徐々に加速し始める敵を前に、先手を打とうと攻撃を仕掛けようとしていたフリードリッッヒと翔子の二人であったが。ふとライトに照らされる蜘蛛バスの脇、扉に手をかけるウィゼの姿を見つけ、攻撃の手を止める。
「ん、このバス読み取り機がないぞ、これではケルベロスカードが使えないのじゃ」
 マイペースにそんな事を言う彼女を乗せたまま蜘蛛バスは動き出してしまった。
 巨体に似合わぬスピードを出しながらも速度を上げ、ケルベロス達の横を横切るその早さは尋常ではない。
 席に腰かけていないウィゼは扉から投げ出され、辛うじてその手すりに捕まり、車体の動きに合わせ揺さぶられる。
 そのまま加速を続ける蜘蛛バスは速度を落とさぬまま急旋回し、大きく回ると同時、投げ出されるウィゼの体。
「先ずは一発」
 反転し向かってくる車体の脇を掠めるようにすれ違い様冷気を纏うパイルを突き出す翔子。手応えはあるものの、その速度に即座に体は引き剥がされ、強烈な力で弾き飛ばされる。それだけで腕が持っていかれそうなほどの衝撃に、顔を歪めながらも翔子は叫ぶ。
「シロ!」
 名を呼ばれたボクスドラゴンは敵へと向けブレスを見舞う。しかしそれに怯むでもなく暴走するバスは十分な速度を乗せ、投げ出されたウィゼを抱き止めたエルガーの方へと向かい車体を滑らせ、進路上の建物を倒壊させ、踏み潰す。
「っとぉ!?」
 その先に位置していた利香は咄嗟に身を投げ出し、降りかかる瓦礫の山の間をぬけなんとかその進路から退避。
 さらにその先の進路上エルガーの腕の中ウィゼがブラックスライムを解き放ち、敵を飲み込もうと大きく口を開くものの、その足に噛み付くの精一杯なほどにサイズが違う。
 それだけでは敵の動きは止まらない。
 次の瞬間、蜘蛛の脚が唐突に二本纏めて切り飛ばされる。
「ふふん、蜘蛛を食らう蜘蛛もいるのさ」
 仲間達の攻撃の合間に、フリードリッヒが蜘蛛の巣の様に周囲に張り巡らせた硬質な糸、グラビティ・チェインによって補強されたそれは切れることはなく、敵の足に絡ませれば自らの速度に脚を断つこととなる。
 だが、それでも車体に乗った速度までを即座に殺せる訳ではない。ウィゼの体を抱き抱えるエルガーは歯を食い縛りその衝撃へと備え、予期しない横方向からの衝撃に突き飛ばされた。
 身を捩ったエルガーの視線の先には、赤い髪を靡かせ、同じ色の瞳を潤ませ、ぼぅとした瞳で蜘蛛バスを見つめる、ロフィの姿。
 しかしそれは一瞬の事。
 次の瞬間、彼女の体は車体に激突し、人の体から発せられるとは思えない音を経て宙を舞った。
 そのまま地面に強かに激突した体の上を鋭い蜘蛛の脚先が通過していった。
 誰もが唖然として見守る中、しかし、ロフィはゆっくりと立ち上がった。
 その体は薄くオウガメタルに覆われており、それが致命傷を避けたのだろう。それでも彼女の体は血だらけで、身に纏う衣服は一瞬でズタボロ、晒される肌は血か痣に彩られ、その彼女の白い肌がのぞく隙間もない。
 だというのに、ふらつきながら立ち上がった彼女は、笑っている。
 自らの体をかきいだき、ぞくぞくと震え、恍惚とした表情を浮かべている。
 そこに舞い戻る蜘蛛バスの体。二本の脚を失いスピードは随分と落ちていたがまだ十分な速度を持つそれに対し、ロフィは真正面からそれを迎え撃とうとする。
「攻め手を封じるよ!」
 これ以上は不味いと、ライフルから咄嗟にマイは光弾を射出。真正面から車体にそれをぶち当てることで多少なりとも敵の勢いを削ごうという作戦だ。それは効をそうした。
 衝撃に軋む車体、速度を落とすその蜘蛛バスの脚を、さらに一本、ロフィの蹴りが奪う。
 一連の行動と、やぶとはいえ自称医者であるいぶきは見た目よりは酷くないだろうとロフィの怪我を判断、くわえて、脚を奪われた事による敵の攻撃パターンの変化も加味し他の仲間への援護を優先する。
「灯の温もりを、あなたにも」
 指先に灯していた淡い色の炎、邪な力を払うそれを仲間へと灯し、微かな守りを与える。
「この借りは働きで変えそう」
 攻撃の後、膝をついて立ち止まっていたロフィの側を、エルガーは言葉を残し、かけていく。彼は同時に動いている利香に視線を送りつつ、脚を幾本も断たれ動きを鈍らせる蜘蛛バスへと向かい幻影の竜を放つ。
 込められた思いに呼応するように呼び出されたそれは、目の前の怪物と比べ遜色のない大きさで、悠々とその体を炎に包み込む。
 自らも炎を扱うとはいえ、その特性はやはり蜘蛛なのか、たまらず蜘蛛バスは怯み、後ずさるもののその角ばった体では自らに引火した炎を消す手だてはない。
「ッ! 見えた!」
 エルガーの目配せに機を伺っていた利香は自らの体に魔力より産み出した電流を流す。同時に彼女の動きが変わる。一歩で今までの二歩分以上の距離を詰め、その一歩を踏み出す時間は先ほどまでの一歩よりも格段に早く。
 闇に溶ける黒い刃を振るい彼女は縦横無尽に駆ける。
 無数に刻まれた刀傷、蓄積したダメージに蜘蛛バスはその動きを鈍くしながらも、ケルベロス達に対して愚直に攻撃を仕掛け続ける。


 大事な脚を早々に奪われた蜘蛛バスは終始ケルベロスに押される展開を強いられた。
 速度あってこその巨体であり、それを奪われてしまえばそもはただの大きな的にすぎない。反撃に放つ炎を宿す刺激毛による攻撃は事前に対策をしていたいぶきによってことごとく防がれ、有効打とはなり得ない。
「さぁ行くのじゃ、誇り高き魂をもつ英雄。アヒルちゃんミサイル発車なのじゃ」
 ウィゼの命を受け、飛び立つ無数のアヒル型ミサイル。蜘蛛バスの今の緩慢な動きではそれらを避ける事など到底叶わない、回転する嘴に穴だらけにされる車体、それらの点を繋ぐ様に、フリードリッヒの振るう刃が走る。
 意思を持ったままそうしてパーツを一つ一つ剥ぎ取られていくという感覚はいったいどんなものなのか。
 少なくとも気分のいいものではないだろう、だからこそ、敵も必死に反撃を企てる。
 正面、向かい来る翔子へと向け、大きく口を開きその牙を体に突き立てる、肩口に深く埋まったそれは、彼女の体に毒を流し込んでいく途中、パイルの機構を使うまでもない磨かれた技の一撃により、半ばからへし折れる。
「アタシを毒牙にかけようなんざ、二十年遅いよ」
 平然と言いのける彼女を見つめる羨ましげな視線があることには、誰も気づかない。
 その一人を除いては皆、戦く蜘蛛バスへと意識を向けていたから。
「心魂機関アクティヴ! 電流収束!!」
 車体に走る無数の傷にマイは腕を突きこみ、全力の電撃を敵の体内へと送り込む。縮み混む蜘蛛バスの体。
「お疲れ様、ここがお前の終着点だ」
 宣言するエルガーの足元とその脚部に浮かび上がる、複雑な幾何学模様。幾つもの異なる魔術が複雑に絡み合い、並列に処理された結果、召喚される二つの精霊。
「――シュネールガン・アクティーフ。我が身に来たれ、雷鳴の牙。我と共に咆哮せよ――」
 足元に展開した磁場と帯磁した脚部の反発力で加速する体。
 最短距離を一瞬で駆け抜けた速度を乗せ、振りかぶる拳は蒼雷を纏い、敵を貫くその瞬間、光と音が爆ぜた。


 蜘蛛バスの走行した後を除けば幸いにもそれほどの被害のない街中。
 しかし、ケルベロス達の戦闘したその交差点だけでもその被害は甚大であり、加えて本来バス亭のあった場所からここまでの一直線上に存在した建物にもいくつか被害がでているようだった。
「派手にやったわねぇ」
 まるで子供が散らかした跡を眺める母親のような物言いで翔子は軽くため息を吐く。
「被害者のお嬢さんのお顔でも覗きにいこうとおもっていたのですが」
「あぁ、それなら同行したいのだが」
「えぇ、僕は構いませんけれど」
 いぶきとマイ、二人は互いに目を見合わせて、再びその惨状に額を押さえる。
「朝までに間に合うといいですねぇ」
 二人の様子に苦笑しながら、フリードリッヒは先に歩き出す。
「修復が主な作業だからあんまり期待できないけど、警察にも協力要請したよ」
 利香のそんなささやかな気遣いに感謝しながら、ケルベロス達は長い長い修復作業へと乗り出した。
 せめてもの救いは、少女が熟睡し、彼らが訪れるまで起きなかったことであろうか。

作者:雨乃香 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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