ろくろ首の怪、現る

作者:なちゅい

●首を伸ばす女性……?
 ろくろ首といえば。
 首を長く伸ばしている姿が特徴的であり、様々な怪談、随筆において描かれる日本に伝わる妖怪の1種。
 その話には色々とバリエーションがあり、寝ているときに首が伸びる女性、頭部が胴体から分離するというものもある。中には、とある村は村人全員がろくろ首だという話も……。
「ひっ……!」
 その女子中学生、入福・千香は、とある廃屋の周辺で身を震わせる。
 先日、クラスメイトとパジャマパーティーでのお泊り会を行った際、誰からともなく始まった怪談話。
 その多くはありきたりな話が多かったのだが、最後に口を開いた女子から、妙にリアリティのあるろくろ首の話が語られた。なんでも、今は廃屋になっているはずの空き家に、首の長い女性の姿があったと……。
 怖いもの見たさで、千香はこの場にやってきていた。どう見ても人が住んでいないこの家を、彼女はあちらこちらから覗きこんでいたのだが、中にはやはり人影などはなく。
「はは、そんなんおらへんのや……」
 愛想笑いして帰ろうとした千香の後ろには、いつの間にか彼の背後に魔女の姿をした人影が立っていて。
「あなたの『興味』、とても興味があります」
 私のモザイクは晴れないけれどと呟くその魔女は淡いモザイクに包まれた触手を蠢かし、ボロボロのフードと衣装を纏う。そいつの正体はドリームイーターであり、「パッチワーク」の魔女の一人、第五の魔女・アウゲイアスだ。
 千香はいきなり現れた魔女に唖然としていると、アウゲイアスは太い鍵を千香の身体へと突き入れた。
「…………」
 目から光を失い、崩れ落ちる千香。その体から魔女は鍵を引き抜くが、千香の体には傷一つ付いてはいない。
 その代わりに、倒れる千香の体の傍には和服姿の美女の姿があった。だが、そいつはモザイクに包まれた首を伸ばし、虚ろな表情で呟く。
「うちは、誰やねん……?」
 一言呟いたそいつは、何処ともなく姿を消す。それを見届けたアウゲイアスもかすかに微笑んでから、この場から去っていったのだった。

 ある日、ビルの待合室にて。
「ドリームイーターがろくろ首を都市伝説として、生み出したそうだな」
 集まるケルベロス達がヘリオライダーを待っていると、ヴィヴィアン・ウェストエイト(忘失の焔・e00159)がそんな話を持ち出す。こうしたタイミングにも、ケルベロス達は互いの情報を交換し合い、多くの情報を交換しているのである。
 そこへ、少し遅れて姿を現したリーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)は、ケルベロスが集まっていることを知って、駆けて来た。
「ごめん、すぐに説明を始めるね」
 様々な依頼の陰で、「パッチワーク」の魔女の暗躍は続く。
 仲間内で怪談を語り合っていた少女の1人が、その怪談を確認しようととある廃屋を探っていたところ、魔女の姿をしたドリームイーターに襲われてしまったらしい。
「魔女は彼女から奪った『興味』を元に、怪人型のドリームイーターを実在化してしまうよ」
 生み出されたろくろ首のドリームイーターは廃屋の周囲を歩き出し、新たな事件を引き起こそうとしている。また、『興味』を奪った魔女は姿を消しているようだ。
「まずは、この怪人型ドリームイーターを先に対処しないといけないね」
 魔女の行方は気になるが、新たな被害が出る前にドリームイーターを倒す必要がある。また、こいつを倒せば、『興味』を奪われて昏睡する被害者も目覚めるはずだ。
 被害者の少女は、入福・千香。大阪府内に住む中学1年生だ。
 大阪市内の閑散とした住宅街、廃屋で倒れた少女はそのままの状態で眠ったままだ。怪人型ドリームイーターを倒した後、彼女を介抱してあげてほしい。
「『興味』から生まれた怪人型ドリームイーターは、住宅地を彷徨い続けているようだね」
 怪人形ドリームイーターは単体で活動している。一見すれば和服美女といった姿だが、人に出くわすとモザイクに覆われた首を伸ばすのだという。
「このドリームイーターはろくろ首についての噂話を鋭く聞きつけ、話をする人達のところへと引き寄せられる性質があるようだね」
 また、ろくろ首のドリームイーターは、人間を見つけると『自分が何者であるかを質問してくる』らしい。返答によっては、相手を殺そうとする傾向がある。
「一般人にとってこういった性質は危険だけど、皆なら逆に利用して相手を誘い出し、優位に戦うことも可能なはずだよ」
 戦いとなれば、ドリームイーターは攻撃のほとんどを長い首と、それを包むモザイクを使って攻撃を行うのが予知でも確認されている。
「以上だね。……確かに、いきなり現れた女性の首が伸びたら……」
 リーゼリットは少し身震いした。相手がドリームイーターと分かっていても、首を伸ばす人型の相手というのは怖い物がある。
 だが、一般人をこの脅威にさらすわけには行かない。1人の少女は実際に襲われ、倒れている状況にもある。怖がってばかりもいられないだろう。
「それでは行こう」
 準備が出来たら、ヘリポートへ。そうケルベロス達へと告げたリーゼリットは離陸準備の為、一足先に向かっていったのだった。


参加者
陶・流石(撃鉄歯・e00001)
相良・鳴海(アンダードッグ・e00465)
古海・公子(化学の高校教師・e03253)
阿守・真尋(アンビギュアス・e03410)
ルリカ・ラディウス(破嬢・e11150)
櫂・叔牙(鋼翼骸牙・e25222)
ヴァーノン・グレコ(エゴガンナー・e28829)

■リプレイ

●ろくろ首って……
 大阪府を目指し、飛ぶヘリオン内。
 メンバー達は歓談しながら、現場への到着を待つ。
「いやはや、日本のお化けに会えるなんてね」
「ろくろ首ねぇ。そういう怪談って江戸頃にいろいろできたんだっけ」
 棒つき飴を口の中で転がしながら、ヴァーノン・グレコ(エゴガンナー・e28829)が呟く。すると、時代小説が好きな陶・流石(撃鉄歯・e00001)がヴァルキュリアの彼にも分かるようにと、仲間達へ話を振る。
「ろくろっ首なぁ……」
 ぼさぼさの髪に無精鬚、アウトローな出で立ちの相良・鳴海(アンダードッグ・e00465)が呟く。
「怪談話にはよく聞くけど、ホントに目の前に出てきたら、そりゃあ一般人さんはびっくりしちゃうのも無理はないよね」
 そこで、一般論を語る長い金髪のルリカ・ラディウス(破嬢・e11150)。各地を巡り、デウスエクスと戦うケルベロスには、ろくろ首ごときでは驚かないのだろう。
「怖いのに興味があんなら、魔女もホラー映画の一本や二本でも借りてくれりゃ楽なんだがねぇ」
 嘆息する流石。とはいえ、今回は勝手知ったる仲間も姿もある。被害なく楽に終わればよいが、パッチワークの魔女が関わっているという情報もある。警戒するに越したことはないだろう。
「この手の、ドリームイーターの……事件件数も。随分長く、続いてますね……」
 中性的な顔立ちの櫂・叔牙(鋼翼骸牙・e25222)はたどたどしく語る。
「いい加減、抜本的対策。見つかると、良いのですが……」
 未だ見えぬパッチワークの魔女の陰。ともあれ、メンバー達は暗躍する彼女達の撒いた種を一つずつ刈り取っていくのである。

●夢喰いのおびき寄せ
 現場へと降り立ち、被害者の少女、入福・千香が倒れる廃屋を付近へとケルベロス達はやってくる。
 しかしながら、メンバーは少女へと戦闘の影響が及ぶことを懸念し、そこから少し離れた場所へと移動する。
 広場らしい物が見当たらず、比較的人気の少ない交差点を見定めた一行。
 その上で、相良・鳴海(アンダードッグ・e00465)が念の為にと接近する一般人がいないか見る間、流石が周辺にキープアウトテープを張り巡らせ、人払いをしてから噂話を開始する。
「この近くにはろくろ首の妖怪がいるそうだけれど、怪談話だなんて怖いわね」
 状況や気分に応じて男女の格好を使い分ける阿守・真尋(アンビギュアス・e03410)。今日は性別相応の気分らしい。
「何でもこの辺出るそうだ。首の長い女がな」
 その話に乗っかるように、黒い長髪を赤いリボンで纏めたヴィヴィアン・ウェストエイト(忘失の焔・e00159)が語る。
「首が伸びても気色悪いのは分かるが、怖いもんだろうか?」
「ちょっとやそっとじゃないぜ、二階の窓まで届いちまうぐらいだ」
 鳴海が問うと、ヴィヴィアンが首を振って答える。余談だが、鳴海は首の長いキリンよりも、ライオンやトラの方が怖いとのことだ。
「怪談話のろくろ首って、古風で和服だけど、どんな感じなのかなあ」
 今回現れるのは、あくまでも少女の想像による産物だと、ルリカは聞いている。
「現代風に何か、アレンジ加わってたりしてね」
 廃屋で倒れているはずの少女、千香の方に敵がいかぬようにと、ルリカは意識的にろくろ首の噂を話す。
「雪女も見たけど、こっちも美人だろうか」
 着ている服は、時代がかった着物なのだろうかと、ヴァーノンは首を傾げる。
「生きていれば魑魅魍魎、いろんなものが見れるね。少し楽しみだ」
 彼は口元を吊り上げ、その姿に興味を示す。
「日本では……首が伸びる、タイプが。メジャーですが……」
 仲間の話を聞いていた叔牙もぽつり、ぽつりと語る。海外ではどうやら、首が抜けるタイプの方が多いとのことだ。
「ああ、頭が取れて飛ぶ飛頭蛮に似た話を聞いたことがあるな」
 さらに流石が、ろくろ首が行灯の油を舐めるなどと聞いた覚えのある話を口にした。
「南米のチョンチョンとか、飛頭蛮とか、首が抜ける妖怪はいますけど、ろくろ首はまさに日本の妖怪、ですね」
 古海・公子(化学の高校教師・e03253)は眼鏡を上げつつ、何かを思い出す。
「あ、そうそう。川柳で、『芋はまだ 喉元あたり ろくろ首』というのもありまして……」
 それはホトトギスを歌った句ではなかったろうかと、流石は思うが、あえて口にはしない。
「おしゃべりはそこまでだ。来たぜ」
 鳴海は何かの気配を察し、仲間へと呼びかける。現れたのは、着物姿の美女だった。
「うちは、誰やねん……?」
 そう呟く美女はモザイクに包まれた首を伸ばす。こいつこそ、少女の『興味』から生まれたドリームイーター、ろくろ首だろう。
「アンタのことよく知ってるぜ。何せ俺が探してたんだよ、ろくろ首」
 現れた夢喰いへの問いかけに答える形で、ヴィヴィアンが呼びかける。
 また、他のメンバー達は口を噤む。
(「美人の質問に答えないのも、なんだか申し訳ないけどね」)
 顔だけなら、かなり美人な女性ということもあり、目の保養とヴァーノンは顔を綻ばせる。
 予め決めたチームの作戦としては、この後の戦いで盾となる予定のメンバーだけが答えようという手はずだ。
 どうやら夢喰いの望む答えらしく、ヴィヴィアンから目を背けたのを見て、真尋が呼びかける。
「さーて、何かしらね」
「……おしおきせなあかんなぁ」
 とぼけて答えた彼女へろくろ首は狙いを定め、構えを取る。
 叔牙は戦闘モードとなったのか、雰囲気を切り替える。鳴海も拳銃を抜き、相手の攻撃に備えていた。
「首長いのだけ見なかった事にすれば、わりと美人さんかもね」
 事前に張られていたテープがまだ効力を発揮しているのを確認し、ルリカは構えを取る。
「でもまあ、倒すけど!」
「ほな、いくでぇ!」
 全員がそれに同意する中、ろくろ首はその長い首をケルベロスに向けて伸ばしてきた。

●長い首とモザイクを絡めて……
 向かい来るドリームイーター、ろくろ首。
 その前へと、冷めた視線で敵を見据える叔牙が前に出て、背中と肩、前腕より光学攻撃用励起体を露出させる。
「敵機動解析・照準多重捕捉(マルチロック)。光条嵐舞……纏めて、持って行け!」
 それらから発する誘導レーザーは無数の光条となって敵の体を撃ち抜いていく。とりわけ、重点的に狙うはその脚だ。
「脚ねろうても、うちは首が伸びるねんで!」
 モザイクの纏わりつく首を伸ばす夢喰い。その狙いは真尋のまま、彼女の知識を吸収しようと絡み付こうとする。ライドキャリバーのダジリタが炎を纏ってろくろ首に特攻するが、敵は離そうとはしない。
 怒りを覚える真尋だが、その相手は元々1人。彼女はオウガメタルを鋭く伸ばして敵の胴体を狙い撃ち、射抜いた場所にグラビティで氷を張っていく。
 鳴海が全身を地獄の炎で覆って強化する間、ルリカが夢喰いに飛びかかっていた。
「誰もこの刃からは逃れられないんだから!」
 ただ格闘戦を仕掛けるだけではない。ルリカは飛び込むと同時にナイフのような形のオーラの刃を撃ち出し、敵に狙いを定めさせずに殴打と刃を見舞っていく。
 同じく、接近戦に臨むは流石だ。
「おう、目ぇ逸らしてんじゃねぇよ」
 敵を射抜くような鋼のように冷たく鋭い視線。それは、例え夢喰いであろうと、彼女の思惑通りに憔悴や動揺を与える。
「美人なお姉さんだね」
 不意に、ヴァーノンが夢喰いへと言い放つ。黙っていれば、美人にも見えるだけに残念ではある。
 しかし、相手は夢喰い。彼は愛用のリボルビングライフルを構えて照準をそいつに合わせた。
「遠慮なく味わってくれていいんだよ。……願いの力を俺に」
 ヴァーノンが発射した弾丸から、折り鶴のドリームイーターの魂が介抱され、その鋭いくちばしが敵の首の根元へと突き刺さる。
 そして、ヴィヴィアンが手にした鉄塊剣を力任せに叩きつけて行くと、ろくろ首の注意が彼へと向いた。
 うまく気を引くことができたとかすかに口元を吊り上げた彼の後方から、公子が用意したカプセルを敵目掛けて投げつける。被害者の少女がこの場にいないこともあり、公子は思い切って攻撃できていたようだ。
 それは、叔牙も同じだったようで。
「射線、確認。纏めて、持って行け……!」
 砲撃形態とした竜鎚から発射した砲弾を、彼はろくろ首に叩き込む。
 だが、敵は首とモザイクを自在に動かし、口の形にしたモザイクでヴィヴィアンへと食らいつく。そして、そいつはキャスターのポジションを最大限に活かし、素早く飛びのいた。
「あーあー、コイツは確かにめんどくせぇ。的がチョロチョロ逃げやがる」
 悪態づく鳴海は構えをとり、脚に地獄の炎を灯す。
「ならまずは……、その長ぇ首をどうにかしねぇとな」
 彼は地獄の炎を纏った一撃を繰り出し、敵の体へと叩き込む。
 綺麗な顔を歪める夢喰い。だが、まだその長い首が地に落ちるとは至らない。
「まだ、これからやで……!」
 関西弁を使うろくろ首は再び、その長い首をケルベロスへと伸ばしてくるのである。

 自在に戦場を飛びまわるろくろ首。
 そいつの動きを、ヴィヴィアンがメインとなって抑える。
「とっておきの悪夢を食わせてやるよ。飲み干してみな」
 ヴィヴィアンが指先に出現させた炎を投げ飛ばす。それに含まれていた地獄で補った記憶が敵の脳内へ到達し、その精神を汚染してしまう。
 だが、暴れ狂う夢喰いの首、モザイクはヴィヴィアンの体力を少しずつ削っていて。
「回復しますよ!」
 回復役として立ち回る公子は仲間と回復が無駄に重ならぬにと声がけしてから、前方に雷の壁を構築していく。
「先日、もたらされた……新しい装備。実用感は、どうか。試させて……貰う!」
 その手前では、叔牙が足に履いたフェアリーブーツを試すこととし、夢喰いの体へと星型のオーラを叩き込む。
 多少着物を破られようとも、ろくろ首は止まらない。再び、長い首を絡めようとしてくる敵の攻撃を、真尋が仲間の盾となる形で受け止める。
 さすがに夢喰いの力の小さくはない。彼女は自身の体力がなくなってきたことを察し、歌声を響かせた。
「闇に一番近い色は、青なのだそうよ」
 他者に聞かせる歌声ではあるが、それは自身とて例外ではない。真尋の歌声は自身の力となり、活力を与えていく。
 一方、前線ではケルベロスが攻勢を強める。ユリカが虚の力を纏わせた大鎌「opera」でろくろ首の胴体を切り裂き、己の腕を硬化させた竜の爪で力強く敵の喉元を超高速で貫こうとする。
「かなんなぁ」
 敵が焦りを感じさせる声を上げるが、ケルベロスの攻撃は止まらない。一時回復に当たっていた公子すらも攻撃に出て。
「……これ、入福さん脅すことにならないかしら?」
 公子は印刷物を依り代とし、赤い点を噴出させる。追い討ちをかけるは、赤い電信柱とアヒル。赤点を暗示させるその攻撃が徐々に夢喰いの体力を奪い取っていく。
 そこで、鳴海が動きの鈍ってきた敵に拳や蹴りを食わせながら、その頭を銃で狙う。
「この銃が……最後に残った、俺のプライドだ」
 確実に弾丸を当てる為、この瞬間まで手にしていなかった銃を構え、引き金を引く。狙い通りに頭に命中はしたが、夢喰いはなおも止まらない。
「うなじが見れなかったのは残念だ」
 モザイクに包まれた首。見えないからこそ気になるが、ヴァーノンもその頭目掛けて弾丸を射抜く。
「あかんかぁ……」
 銃弾を頭に連続して浴びたドリームイーターは、モザイクとなって消え失せていく。
「美味かったか? 俺の悪夢は。ちっと焦げてたがな」
 最後まで敵を抑えていたヴィヴィアンが、自身の指先に灯した地獄の火を煙草へと移す。
 消え行く敵を見ていたルリカは、大阪弁のろくろ首、ちょっと面白かったかもと呟くが、彼女はさばさばとした態度ですぐ首を横に振る。
「でも、こういうのはお化け屋敷の中だけで十分だよね」
 見た目だけでも、刺激のある敵。いくらケルベロスが場数を踏んでいようが、できるならば避けたい相手であるのは違いないようだった。

●少女にフォローを
 その後、廃屋へと急ぐケルベロス達。
 少女の解放の為、中へと入るメンバー達だが、鳴海だけが入り口で足を止める。
「廃屋で倒れてる女子中学生が起きたとこに、俺みたいなのが居たらろくな事起きそうにねぇから、俺外に居るわ……」
 そうして、彼は外で待つことにしていた。
 残りのメンバーで中へと上がり、居間で倒れる少女、入福・千香の姿を確認する。
「あれ、うち……?」
「もう大丈夫だ、悪い夢を見てただけさ」
「興味本意でこういったところに来るのは危険ね。けれど、無事で良かったわ」
 目覚めた少女へ、ヴィヴィアンが声をかける。真尋も千香を介抱しながら、傷はないかと確認しつつ歌声を響かせていたようだ。
 続いて、戦闘が終わり、クールな表情に戻った叔牙が千香へとペットボトルの冷茶を手渡しながら、こう告げる。
「ろくろ首の、正体は……デウスエクス、でした」
「ボクが知ってるろくろ首は、首がモザイクなんだよ」
 ヴァーノンがおどけながらその正体について語るが、千香は「うそやーん」と笑顔を見せた。
「ちゃうで、ろくろ首はな。こう首がめっちゃ伸びてな……」
 彼女はしばし、友人から伝え聞いた話をそのままケルベロス達へと伝える。
 それに笑っていたメンバー達だったが、言うべきことは言わねばと考える者も多かったようだ。
「ただ、金輪際都市伝説などの噂には首を突っ込まないことだ」
 千香の話が一段落したところで、ヴィヴィアンが釘を刺す。
「好奇心も、結構ですが……危ない事も、多いです。気をつけて……下さいね」
「うん、こういった場所には1人では来ないほうがいいかも」
 叔牙、ヴァーノンもまた、優しい口調で少女を諭す。公子も隣人力を働かせ、穏やかに千香へと語りかける。
「怖い物見たさを見たくなる気持ちも分かりますが、安全に確かめられないと思ったら退く、のも、また勇気ですよ」
「せやな……」
 お茶を口に含み、千香はしょげた態度をする。自身の行動があまりにむこうみずだったことを、自覚してくれたようだ。
 流石は終始、少女を襲った魔女に対する興味を強めてはいたが、彼女に負担をかけぬようにと仲間とのやり取りを黙って見つめていた。
「そろそろ帰るか。送るぞ」
「私達ケルベロスがいるから、安心してね」
 流石が誘うのに合わせ、ルリカも微笑んですっかり落ち着きを取り戻した千香の手を取る。
 しかし……。
「あ! デウスエクスよりもある意味怖いモノが来るんじゃ無くて? そろそろ中間考査の時期では??」
「もう、言わんといてーな……」
 教師らしい公子の言葉にげんなりした千香の様子に、廃屋からは笑い声が響く。
 外壁に背を預けていた鳴海もそれを聞き、小さく微笑むのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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