螺旋忍法帖防衛戦~プラグマ

作者:八幡

●螺旋忍法帖
「正義のケルベロス忍軍の活躍すごかったね!」
 小金井・透子(シャドウエルフのヘリオライダー・en0227)はやや興奮気味に話を始める。
「しかもシヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)さんと、嶋田・麻代(レッサーデーモン・e28437)さんの二人が『螺旋忍法帖』の持ち主になったんだよ!」
 凄いよね! と息巻く透子に『螺旋忍法帖』って? とケルベロスが首をかしげる。
「螺旋忍軍が螺旋忍法帖を拝領することで『螺旋帝の血族からの御下命を受ける』ことができるんだって。それでね、螺旋忍法帖を持った螺旋忍軍が『御下命』を果たしたら、螺旋忍軍にとって最高の栄誉である『勅忍』のステータスが与えられるらしいんだよ」
 そんなケルベロスへ答えるべく、透子は宙に視線を彷徨わせながら暗号文章の解析結果をそらんじる。
「一度の御下命で勅忍となる事ができる忍軍は1つだけで、しかも螺旋忍法帖を持っていないものが御下命を果たしても勅忍にはなれないんだって……だから螺旋忍軍同士で争ってたのかもね!」
 栄誉のための切符は二枚、先に目的地へ着いたものの勝ちとなれば、足の引っ張り合いが発生するのも仕方がないことなのかもしれない。
 そして、そんな切符をケルベロスたちが奪い取った……となれば、螺旋忍軍の次の動きは容易に想像できるだろう。
「正義のケルベロス忍軍が持つ二巻の螺旋忍法帖を狙って螺旋忍軍が動き出したんだ……螺旋忍軍は『螺旋忍法帖の場所を探す』ことができるみたいでどこに隠しても見つけられちゃうんだよ」
 当然そうなる。しかも螺旋忍法帖の場所を探せるとなると、神出鬼没の螺旋忍軍から守り切るのは不可能だろう。期間が決まっているならまだしも……。
「でもね、チャンスでもあるんだよ! 螺旋忍法帖を欲しがってる螺旋忍軍を誘い出して一網打尽にしちゃえば螺旋忍軍を沢山倒せるし、それを見た他の螺旋忍軍は正義のケルベロス忍軍が持つ螺旋忍法帖をあきらめるはずだから!」
 うーんと唸るケルベロスに、透子は力説する。
 確かにこれほど良い釣り餌は無いだろう。そして釣り餌が手に余るものだと理解させれば、わざわざそれを狙いに来るものも居なくなる。
「シヴィルさんと麻代さん、それから二巻の螺旋忍法帖を守って螺旋忍軍をやっつけよう!」
 方針が決まれば後は行動に移すのみだ……小さく拳を握る透子にケルベロスは頷いた。

●プラグマ
「みんなに向かってほしいのは、北海道の五稜郭……奴隷商忍アレクシアっていう螺旋忍軍を迎撃して欲しいんだよ」
 透子は改めてケルベロスたちへ向き直り、作戦の内容について話を初める。
「奴隷商忍アレクシアは少女を誘拐し、大切に育て、他のデウスエクスに売り飛ばすことを繰り返してる螺旋忍軍なんだよ……少女たちを愛していると彼女は言ってるみたいだけど……」
 それは酷く実利的な……商品へ向ける愛情だろうと透子は言葉を濁した。
「奴隷商忍アレクシアは惨殺ナイフに似た技を使ってくるみたい。それと、奴隷商忍アレクシアの意のままに動く黒ずくめの螺旋忍軍を四体従えているんだよ」
 敵は合計五体。しかも一人の意思に従って動くということは、集団での強さを持つということ……非常に厄介な相手となるだろう。
 彼女の性格を理解した上での作戦が必要かもしれない。
「場所は森の中、隠れる場所はたくさんあるから待ち伏せにはもってこいだと思うんだけど、相手はあの螺旋忍軍だからね、気を付けて!」
 相手は獣ではなく知能を持った相手なのだ、相応の対策が必要だろう。
「もしみんなが負けちゃったり、勝っても部下に突破されちゃったりした場合、本陣で戦ってる人たちに負担がかかっちゃうかもしれないからなるべく全員倒してね!」
 万一複数チームが負けるようなことになれば、本陣のチームは複数の敵を相手にしなければならない……そうなれば、螺旋忍法帖を守り切れなくなるだろう。
 透子は一通りの説明を終えるとケルベロスたちを真っ直ぐに見つめ、
「大変な戦いになると思うけど、螺旋忍法帖を守れるように頑張ろう!」
 激励するように小さく拳を握り締めた。


参加者
風空・未来(けもけもベースボール・e00276)
深月・雨音(夜行性小熊猫・e00887)
灰野・余白(空白・e02087)
リリーナ・リース(柔らかな幸せと共に・e04132)
青葉・リン(あふれる想いを愛しいあなたへ・e09348)
舞阪・瑠奈(サキュバスのウィッチドクター・e17956)
エンジュ・グリオイース(醒天を駆けし刃翼・e21923)
紅・姫(真紅の剛剣・e36394)

■リプレイ


 遠くから近づく気配……地を掛ける音、風の騒めき、葉の擦れるような僅かな違和感……それを正しく言葉にすることは難しいが、気配と表現するのが最も正しいと言えるだろう。
 そんな気配を感じつつ、リリーナ・リース(柔らかな幸せと共に・e04132)たちは物陰に息を潜め、その気配の主へ自分たちの刃が届く間合いに入るのをじっと待つ。
 気配の主は青い戦場的なドレスを着た長い金髪の少女。得も言われぬ色気を持つその少女の姿を遠目に見て、リリーナは僅かに身を強張らせる。
 忘れもしないその姿……仄暗い感情を抑えるように握り締めた手だが、その手を柔らかな感触に覆われて……リリーナが、はっとそちらを見やれば、青葉・リン(あふれる想いを愛しいあなたへ・e09348)が何時もの笑顔でリリーナの手を握っていた。
 人懐っこい笑顔のリンを見たリリーナの表情も和らぐ。
 そして、そんな二人を横から見ていた、エンジュ・グリオイース(醒天を駆けし刃翼・e21923)は小さく頷いた。
 今回の敵である奴隷商忍アレクシア。エンジュはアレクシアの存在に嫌悪を感じつつも、メイドとしてリンを支えたいと願うのだ。そして、リリーナを含めこれ以上誘拐をさせないためにもここで討たなければならないとも考える。
 奴隷商という存在に嫌悪を感じるのはエンジュだけではない。
 深月・雨音(夜行性小熊猫・e00887)もまた「可愛い子を集めるかにゃ? もう螺旋忍軍ってやつら、どいつもこいつも、趣味は最悪にゃ」と艶の良いレッサーパンダの尻尾を膨らませ、舞阪・瑠奈(サキュバスのウィッチドクター・e17956)も単刀直入に下衆ですねと一蹴する。
 それから下衆だからこそ一体も本陣へ通すわけにはいかないのだと、瑠奈は油断無くアレクシアを観察し、瑠奈と同じく一体も通さない気構えでいる雨音は何時でも飛び出せるように神経を研ぎ澄ませる。
 各々に想いや因縁はあるだろうが、成すべきは単純明快。敵が来るのだから全力で戦い屠れば良いのだ。
 紅・姫(真紅の剛剣・e36394)は瑠奈たちを横目に見つつ思考を単純化する。単純化した思考はいざと言う時迷いを失くす。
 姫の言う通りではあるが……うちは守りより攻めの方が好きじゃのうと、灰野・余白(空白・e02087)が考えていると、あと一歩で奇襲の間合いに入ると言うところでアレクシアが足を止めた。


 待ち伏せるリリーナたちの刃があと一歩で届くというところで足を止めたアレクシアは金色の瞳を細め、
「散開して螺旋忍法帖を目指しなさい」
 短く命じると、配下の螺旋忍軍たちが散り散り駆けだした。
「見つかった?!」
 風空・未来(けもけもベースボール・e00276)は立ち上がると配下の散った方向を確認する。見つかったからアレクシアが配下を散らしたのか、元々の予定だったのかは不明だが、こうなってしまっては配下を追わざるを得ないだろう。もし追わなければ確実に本陣へ到着されてしまうのだから。
 最も近くに居た配下の進路をリンが塞ぎ、雨音が弾かれた玉のように一番遠くの配下へ向かって駆け出すと、その後を瑠奈と姫が追っていく。
「うちらはあっちじゃ!」
 それからこの場に留まるか一瞬迷ったエンジュが姫の後ろへ着いたのを確認した余白は、未来の背を押して残りの一体の配下へ向かって行った。
「ふふ、久しぶりね……帰っておいで、リリーナ。私がまた愛してあげる」
 散開した配下とそれを追った雨音たち……それからこの場に残されたリンとリリーナを順々に見回した後、アレクシアはナイフで口元を隠すように笑みを浮かべながらリリーナへ話しかける。
 アレクシアのナイフにはリリーナが思い出したくもないトラウマが映っている。
「貴女のところには帰りません。私には、大切な人がいますから」
 リリーナは裂帛の叫びでトラウマを跳ね除け、荒い息を吐きながらもアレクシアを見返す。その目に迷いは無く。ただ敵を倒すのだと、そう力強く語っているように思えた。
「へぇ……私の大切なリリーナに手を出すなんて、いけない娘ね」
 それから視線を大切な人へ向けたリリーナを見たアレクシアは、加虐的な笑みをリンへと向ける。
「人は物ではないのです、そんな形だけの愛なんて幸せじゃないです」
 アレクシアの動きに反応するように配下が放った螺旋の軌跡を描く手裏剣を、リンは夜空を思わせる紺青の革籠手で受け止める。本当に愛しているならお互い幸せになるはずですよとリリーナへ微笑み、
「売り飛ばすなんて愛なんかじゃありませんです……!」
 満月に似たエネルギー光球でリリーナの傷を癒し、さらにウイングキャットのタマへ命じて羽ばたきで自分の傷を癒してもらう。
 リンの言葉にリリーナは今はとても幸せです! と嬉しそうに返すが、アレクシアはその様子を愉快そうに見つめている。
 最初の攻防……身を守るだけで手一杯の二人が、この先どのように壊れていくのか……どんな手を使って壊していこうか、楽しみでならないと言うかのように。

「行かせないにゃ!」
 配下の目の前に回り込んだ雨音が、魔力を篭めた咆哮を上げると、配下は怯んだように一瞬足を止める。さらに足を止めた配下へ瑠奈が縛霊手の掌を向け、そこから巨大光弾が放たれた。
 巨大光弾をまともに受けた配下の足が痺れたようにもつれるがそれも一瞬のこと、お返しとばかりに手裏剣を雨音へ投げつける。
 雨音は、一直線に自分へ向かってくる手裏剣をよけるどころか獣化した腕を盾に踏み込みこんで受け止める……手裏剣からは螺旋力で精製された毒が染み出し、雨音の体を浸食するが……、
「ぷにぷに・にくきゅう・あたっく!」
 雨音はそんな毒などお構いなしとばかりに、獣化することによって得られた柔らかくて高反発な肉球で配下の急所へ瞬間に無数のパンチを打ち込んだ。打ち込むだけ打ち込むと雨音は後ろへ飛び退き、配下は内勁により内部を破壊され穴と言う穴から血を噴く。
「さっさと倒れて楽になりなさい」
 血を流してよろめく配下へ瑠奈はライトニングロッドを向けると、雨音が完全に離れたのを確認してから、ほとばしる雷で焼き払う。雷は確実に配下を捉え、その体を雷光が包む。
 そして雷光が消えぬうちに雨音が再び配下の懐へ飛び込み、斬霊刀を非物質化し霊体のみを汚染破壊する斬撃を放つと、配下は音も無く地に伏した。
「急ぐわよ」
 まずは一体目……だが、息をつく暇は無い。瑠奈は短く言い放つと、姫たちが向かった方へ駆けだした。


 螺旋力を帯びた手裏剣を、鉄塊剣で下から上へ弾いた姫は、そのまま鉄塊剣を振り下ろす。
 大地をも断ち割るような強烈な一撃は、配下の体をかすめて地面を抉った……配下とはいえ螺旋忍軍、なかなか素早く姫の一撃はなかなか当たらないでいた。
「助かるわ」
 エンジュは全身の装甲から光輝くオウガ粒子を放出し、奥歯を噛む姫の超感覚を覚醒させる。
 さらにエンジュのビハインドであるビャクヤが周囲の物品に念を籠め飛ばすと、配下はお返しとばかりに毒の手裏剣を投げつけてくる。
「当たれ!」
 その手裏剣を姫は体に纏ったバトルオーラで受け止めると同時に、走り込み電光石火の蹴りを配下の頭部へ叩き込む。
「我ら来たれり、永久に消えない心の傷を負わせてあげましょう」
 姫の蹴りを受けた配下がよろめいた隙を逃さず、エンジュは冷たく言い放つとフェアリーブーツで空を蹴る……すると蹴りの軌道を追う様に星型のオーラが出現し、理力が籠めたそれは実体となって配下へと飛んで行く。
 そして星型のオーラは姫の頭上を掠め、配下の顔面へ直撃した。
「……まだやりますか」
 だがエンジュの一撃を受けても配下に倒れる様子は無い……時間が掛かりすぎている。
 こちらは配下だけだが、恐らくアレクシアも相手にしているだろうリンたちが心配だ。リンに限って簡単に倒れる事は無いだろうけど、緊急事態だったとは言え支えると誓った相手の傍を離れている焦りが多少なりともある。
 二匹の狐が尻尾を繋いでいる姿が刻まれた時計に視線を向けエンジュが束の間の思考をしていると、その横を黒い影と赤い影が駆け抜けた。
 黒い影……瑠奈が配下の喉元へ手を伸ばすと、その手元で何かが砕けたように見え……配下の喉元から血が噴き出す。瑠奈の手には彼女が作り出した不可視のメスが握られていたのだ。
 ガラスで作られたメスは砕けてしまったようだが、配下に致命的な傷を負わせる。続いて間髪入れずに赤い影こと雨音が配下の後ろの木を狙って射撃し、跳ね返った弾丸で背中を撃ち抜いた。
「終わりよ!」
 それから姫が再び鉄塊剣を上段から振り下ろすと今度は違えず鉄塊剣が頭をとらえ……配下は膝をついて倒れた。
「片付いたわね」
「団長のところへ戻りましょう」
 未来たちが向かった場所はここからでは真逆になるし、未来と余白ならば問題ないだろう。エンジュの言葉に姫たちは頷いた。

「黒姫、お願いね!」
 配下の姿を見つけた未来が声を上げると、配下の足元に広がったブラックスライムが唐突に可愛い少女の姿をとって配下に抱き着く。抱き着かれた配下は黒姫から逃げるように身を捩るが、
「たっぷりと溺れな」
 身を捩ったところへ余白が、恋の色の螺旋をねじ込む。恋の色の螺旋は配下の体を駆け巡ると心だけでなく、文字通りに身を焼き始めた。
「灼けるような恋を味わう気分はどうや?」
 黒姫が未来へ抱き着き配下から奪った体力を分け与えるのを横目に見た後、余白は身を焼かれる配下へ視線を移す。
 確実に傷を負わせてはいるが、まだ倒れるほどでは無いようだ……配下は毒の手裏剣を未来へ向けて投げつけて来た。
「当たらないよ!」
 未来はその手裏剣の下を潜るように地面すれすれを飛び、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを配下の膝へと叩き込んだ。
 未来の一撃で膝から折れそうになっている配下へ、余白は氷結の螺旋を放つ……螺旋は違わず配下の体をとらえて凍らせるが、配下は最後の足掻きとばかりに螺旋の手裏剣を余白へ投げる。
「……っ」
 余白は高速に回転する手裏剣を深緑の槍で受け止め、螺旋の振動に若干眉を寄せるも、致命傷には遠く及ばない。
 凍り付いた配下の足元に居た未来は、そのまま右手を配下へ向け、
「さぁ、お食べ!」
 捕食モードに変形した闇夜黒姫・凛花は、そのまま配下を丸のみにしたのだった。


「リンさん!」
 アレクシアの青い衣装が赤く染まり、リリーナが叫ぶ。
「すごいわね。これだけいたぶられてまだ立つのね」
 幾度目か、深々と突き刺さったナイフを引き抜くと、地面に赤黒い血だまりが出来るのだが……この少女は倒れない。何故だろう? とアレクシアは首を傾げるが、理由は一つしか無い。後ろにリリーナが居るからだ。
 到底理解できない感情、不可解な強さ……だが、リリーナを庇うために何度でもナイフに刺されるというのであれば、なんといたぶりがいのある娘なのだろう。
 そして、リリーナにも幾度もトラウマを見せている。すでに限界のはずだが、それでも健気に抵抗してくるのは、このリンという娘がいるからだろう。
 ああ、リリーナは何と役に立つ……商品価値のある娘なのだろう。自分の手を離れてなお価値のある商品、商人としては若干の誇らしささえある。
「……で……さい」
 回収して売ることが出来れば、とんでもない値がつくことだろうとアレクシアが悦に浸っていると、リンが何かを訴えるように藍色の瞳を向けて来る。
「わたしの……わたしの大切な恋人を! そんな目で……見ないでくださいです!」
 何? と聞き返したアレクシアに、リンは絞り出すように言葉を紡いだ。その言葉に宿るものは憤慨、憐憫、愛情……どれだろうか? アレクシアには理解出来ない。出来ないが、
「あらごめんなさい。じゃぁ、そろそろ終わりにしましょう」
 これ以上いたぶったところで時間の無駄なことだけは確かなようだ。この娘たちの心が折れることは無い。
 アレクシアが言い放つと同時にリンの背中へ毒の手裏剣が突き刺さり……リンはゆっくりと倒れる。目の前で悪夢のようにゆっくりと倒れるリンへリリーナは手を伸ばそうとするが、
「リンさ……」
「あなたもよリリーナ」
 突き付けられたナイフの刀身に映し出される過去を前に、リリーナの意識も闇に飲まれた。

「……よく、耐えましたね」
 崩れ落ちるリリーナを瑠奈が受け止めると、その様子を見たアレクシアは驚いて後ろへ飛ぶ。
 飛び退いたアレクシアを追って、雨音が敵に喰らいつくオーラの弾丸を放ち、未来がブラックスライムを鋭い槍の如く伸ばす。
 弾丸と槍はアレクシアに届く前に、割って入った配下へと突き刺さり……配下はあっけなく地面に転がって動かなくなる。
「団長は酷い怪我ですが、命に別状はありません」
 リンの様子を確認していたエンジュが安堵したような、後悔しているような複雑な表情で仲間たちへ伝える。それからゆっくりとアレクシアへ振り返り、
「次は、あなたの番ですね」
 抑揚無く言い放つと同時に雷を纏わせた魔法の短剣を投げつける。短剣がアレクシアの体に当たると、その場に縛り付け。
「待って、私と――」
「黙れ下衆」
 何かを言おうとしたアレクシアの言葉を遮り余白は溜息をつく。そしてゲラゲラ笑う黒スーツの女が脳裏に浮かべ、だからこういうやつは嫌いなんだと、右手をアレクシアへ向けて突き出す。
 極限まで集中させた精神により、アレクシアの頭部で爆発が起こり、姫は鉄塊剣をその目の前で構える。
「ここまで耐えた、彼女たちが引き寄せた勝利です」
 事実として、姫たちの到着がほんの少しでも遅ければアレクシアはこの場を抜けて本陣へ辿り着いていたことだろう。だからこれはリンやリリーナがアレクシアを足止め出来たから得られた勝利なのだと宣言し……その剣を振り下ろした。

 目が覚めると自分を覗き込む仲間たちの姿があった。
 状況を聞いたリリーナはやることがあるからとその場に残ったが、リンの傷は深くまだ目を覚ましていなかったため仲間たちが先に連れて帰った。
 ……目の前で倒れるリンの姿を思い出して身を震わせる、今すぐにでも後を追ってリンの傍に行きたいけれど……その前に決着をつけなければならないことがある。
 リリーナはアレクシアの亡骸の前に立つと、
「貴女は、私から全てを奪って……今の私を作りました。恨んでいます。憎んでいます。けれど、貴女がいなければ、私はリンさんや、皆さんと出会えませんでした。もちろん、お礼なんて言いません」
 ぽつぽつと語り掛ける……それから一つの宝石をそっと拾い上げ、
「誘拐される前のこと。家族のこと。聞きたいことは、いっぱいあったんです。だけど……」
 ――さようなら、アレクシアさん。
 泣き笑いのような表情で別れを告げた。

作者:八幡 重傷:青葉・リン(あふれる想いを愛しいあなたへ・e09348) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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