「いよっすー。大仕事、やってのけたな! やーやーマジでお疲れさん」
螺旋忍軍の拠点に攻め込む大任を無事に果たしたケルベロス達を、相変わらずのくだけた調子で労う久々原・縞迩(縞々ヘリオライダー・en0128)、裏表のない晴れやかなその表情、眼差しには揺るぎない敬意が見て取れる。
「お陰で多くの情報を得る事ができた。しかも、シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)嬢と嶋田・麻代(レッサーデーモン・e28437)嬢が、『螺旋忍法帖』の所持者になったってな? この螺旋忍法帖ってのは螺旋忍軍にとって重要な意味を持つ代物らしいぜ。何せ――」
早速行われた暗号文書の解読により様々な事が判明した事を言い添えて、彼は続けた。
「螺旋帝の血族だけが創り出せるこいつを拝領すっと『螺旋帝の血族からの御下命』を受ける事ができるんだとよ。『螺旋忍法帖に書かれた御下命』を果たした忍軍は、惑星スパイラスに招聘されて一族郎党全てに『勅忍』の栄誉が与えられるってんで、更にその座も限られてるとなりゃ、そらー忍軍同士で出し抜き合い、足の引っ張り合いにもなるわな」
――ちなみに。
「今回『正義のケルベロス忍軍』が手に入れた螺旋忍法帖には『螺旋帝の血族を捕縛せよ』という御下命が書かれてたみてぇだな。螺旋忍法帖があれば、螺旋忍軍の核心に迫れるかもしれねぇ。ある意味、俺達にとっても重要な手札だぜ。――こうしている間にも、こっち側にある2巻きの螺旋忍法帖を狙って日本中の忍軍の刺客が動き出してるだろうしな」
螺旋忍軍はどういう訳か螺旋忍法帖の在処を探し当てる事ができるらしく、如何なる金庫の類も用を成さない。ケルベロス達が常に守り続けなければならないが、襲撃はいつなんどき在るとも、いつまで続くとも知れず、永遠に守り切る事は極めて困難と言えるだろう。
だが、これはチャンスでもある。と、ヘリオライダーの目が光る。
「奴らの狙いが螺旋忍法帖だってんなら、逆手を取って誘き寄せる事も可能って訳だ。餌に釣られてやって来た所を迎え撃ってやろうぜ。一網打尽に撃破してやりゃ、奴らも懲りてケルベロスから奪おうとはしなくなるかもな」
ぺちぺちと己の拳を掌で打ちながら、
「防衛拠点となるのは、石川県の金沢城と北海道の五稜郭だ。襲来する螺旋忍軍を蹴散らし、螺旋忍法帖を守り抜いてくれ! という訳で、だ。皆に向かってもらう拠点は――」
そして、ケルベロス達に告げられた行き先――『五稜郭』。
函館市に位置する星型の稜堡式城郭、その史跡が彼らの防衛戦の舞台となる。
「浚う雨音に気を付けろ」
彼は、その地で迎え撃つ事になるであろう襲撃者について説明を始めた。
名は『雨』。五稜郭本陣の螺旋忍法帖を狙って現れる螺旋忍軍の1人だ。
「女給服に身を包んだ小柄で可愛らしい少女だが、れっきとした螺旋忍軍で、剣士だ。ふてぶてしさが目つきにも表れているが、任務には忠実だと思われる。……考えるより先に斬りかかって来るタイプみてぇだから、鞘走る雨音にも気を付けてくれよ。と、それから、彼女が連れてる黒猫のオーラにもな。剣閃にばかり気ィ向けてっと、離れたトコから噛み付かれるぜ。謂わば猫型気咬弾だな。もっとも、頻度は『斬る、薙ぐ、ニャー、斬る、薙ぐ、斬る、ニャー』ってな具合に……刀振るってる方が多いんじゃねぇかと思うが」
ヘリオライダーは至って真面目に説明している顔である。
長くはもたない真顔の内に彼は、決して油断ならない理由をもう一つ挙げた。
「加えて彼女の脇を固める様に、影から支える4体の配下が付き従っている。配下の螺旋忍軍達を彼女はまるで気にしていないが、内2体が回復支援を、他2体が多角的に攻撃を重ねて来るって感じだな。どうにかして彼奴らの連携を崩せれば良いんだが……頼んだぜ」
できるだけ討ち漏らすな。
珍しく強い語調で彼が言う。
敗北すれば残った敵が本陣に流れてしまう。螺旋忍法帖を守る本陣のケルベロス達の負担を考えれば、複数チームが敗北を喫する事態は避けねばなるまい。
「『雨』に勝っても、配下を取り逃がそうものなら結局そいつが本陣に攻撃を仕掛けちまうだろうから、なるたけ突破されない様に、頑張って全滅を狙ってくれ」
螺旋忍法帖を守り切る為に。
「……なんか、忍法帖巡って城郭で忍者と云々ってェと、時代劇とか忍者物の世界みてぇだよな。ちぃとばかしワクワクしてんのは俺だけか? 忍法帖守って螺旋忍軍の秘密に迫るっつぅのも浪漫じゃねェか。絶好のチャンスだ、逃す手はねぇよな!」
託す様にそう言って、ケルベロス達に笑顔を向けるヘリオライダーなのだった。
参加者 | |
---|---|
シルク・アディエスト(巡る命・e00636) |
葛葉・影二(暗銀忍狐・e02830) |
七星・さくら(日溜りのキルシェ・e04235) |
ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205) |
リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197) |
ザンニ・ライオネス(白夜幻燈・e18810) |
クラレット・エミュー(君の世は冬・e27106) |
一之瀬・白(八極龍拳・e31651) |
●雨傘
本陣を背にした五稜郭敷地内、中央付近。一行は、全方位に油断無く目を光らせている。
(「……さしずめ、わたし達は本陣を雨から守る傘ってところかしらね」)
共に任に就く同僚達を頼もしく思いながら、同じ敷地内のどこかにいる大事な人の無事を願う様に誓いの指輪に、そっと唇を寄せる一瞬。七星・さくら(日溜りのキルシェ・e04235)は、すぐさま周囲の警戒行動に戻る。いつどこから襲撃されるとも知れない。あらかじめ地図情報を頭に入れ、襲撃警戒以上に索敵を主眼とする、ケルベロス達の動き。
自らも極力気配を薄め、周囲の物音や気配に意識を傾けながら、リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)は空に双眼鏡を向けた。翼を広げて高みから広く眼下を探る白いドラゴニアン、一之瀬・白(八極龍拳・e31651)は、さくら共々同じ旅団に属する同僚だ。上空に在って双眼鏡を覗いた白少年が視界を巡らせる。
――次の瞬間。
「!!」
鋭い風が、螺旋を描いて白の身体を射抜いた。
「白くん!?」
遠間から湧く気配と、落ちる様に急降下する白を目の当たりにして急ぎ駆け寄る、さくらとリューディガー。その眼前で鞘鳴りと共に閃く刃を、ザンニ・ライオネス(白夜幻燈・e18810)が身を挺して受け止める。間髪入れず降り注ぐ手裏剣の雨の中、反射的に本陣への進路を遮る葛葉・影二(暗銀忍狐・e02830)、シルク・アディエスト(巡る命・e00636)に、続くクラレット・エミュー(君の世は冬・e27106)は刃の雨に紛れて掠めた毒に目を細め、緑地に刺さった凍て付く刃にギリースーツでモフ度が増したジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)が飛び起きる。
「しとしとと降ってくれそうにない雨ですねえ。これは」
「こんな季節だ、ひと雨来てもおかしくはないさ――相見えようじゃないか」
奇襲に遭っても飄々としたジュリアスとクラレットのそんなやり取りを聞きながら、影二は襲撃者に向き直り、反撃の構え。始めから臨戦態勢で乗り込んで来た襲撃者達にとってこの現場は非戦状態に非ず、であれば隠密気流も螺旋隠れも何ら効果無く、地上の彼らはともかく飛行していた白はあまりに目立ち、恰好の的にされてしまったという事か。
(「今からでも誘導を――」)
シルクの脳裏をちらと過ぎる展望、しかし既に事を構えている以上、場を移すよりこの場を突破されない様にする事が第一義だ。元より、開けた場所ではある事だし。影二は無言のまま、簒奪者の鎌『猟鬼守』を振り被った。
(「――雨が降ろうと槍が降ろうと、全力を以って本陣を守り抜くとしよう」)
●雨影
襲撃者の少女は斜に構えたどこか虚ろな眼差しを僅かに見開いて瞬く。少し意外そうに。
「道を塞ぐ立て札は、斬って棄てるが手っ取り早いと思いましたのに。貴方がたは雨の仕事に障るお心算でございますか」
きっぱり『邪魔だ』とその眼に浮かべる様は、なるほど確かにふてぶてしい。
「お仕事に忠実な螺旋忍軍さんのようですが、こちらも真面目なケルベロス忍軍として本陣には向かわせないっすよ。守ることこそ本分と……自分は思っているもの、で!」
苦笑を噛み締め、ザンニは大鎌を以って少女の刀に応える。斬られた痛みの分を取り返そうと喰らいつく降魔の一撃に、弾かれた刃に引っ張られる様に半身を逸らした体勢で彼女は言った。
「奪うのが雨の仕事でございます。ああ、申し遅れました、雨は雨(あめ)と申します」
刃を鞘に戻す事無く、編み上げブーツの靴底を音も無く滑らせて向き直る。明らかに会釈ではない傾げる様な首の微動作に合わせ、黒いリボンで纏めた白い髪の房が跳ねた。
どこかおかしな敬語を操るのも彼女の戦略の一部なのだろうか。
それとも、調子が狂うのは、普段とは異なる自らの立ち位置の所為なのか――解らなくなりそうだったが、目的だけははっきりしている。『雨』を抑えるべく真っ向から対峙するザンニの後ろから、リューディガーの声が響いた。
「忍法帖も同朋も、必ず守りきる。ここから先は一歩たりとも通さん!」
豪快に空を裂く音と共に振るわれた縛霊手から撃ち出された巨大な光の弾が、『雨』の後方に影と控える癒し手二人を捉える。内一体の身体の上を走り抜け回転する禍き大鎌は影二の手に戻り、黒い忍装束の切れ端が宙に舞った。二人に倣って、シルクも同一固体に一斉掃射を浴びせる。構えているのは、彼女の魂に添う命器にも等しいアームドフォート『適者生存』である。
更にジュリアスの祝福の矢を受けたさくらが、祈る様な気持ちでライトニングボルトを放った。
最小限の戦力で『雨』を抑えている間に、残る全員で配下を殲滅すべく、攻撃を集中させて真っ先に潰しにかかる敵の救護ライン。手筈通りではあるのだが、抑え役の一翼を欠く初動は不測の事態。
(「白くん、大丈夫って言ってたけど――」)
戦列に合流するまで、僅かな時間といえども『雨』の抑え役がザンニ独りとなってしまう。
一時たりとも、気は抜けない。
「さあて、出番だノーレ」
前列で奮闘している5名に雷の壁による癒しと耐性の力を齎しながらクラレットが言った。ビハインドの『ノールマン』が応えて起こす心霊現象に、後方の影の一つが強ばっている。
その間も、せわしなく『雨』の周囲を交差する盾役の影。
ザンニが『雨』を狙って繰り出した旋刃脚を、躍り出た影の一つが代わりに受け止めた。
螺旋仮面の黒装束は声も出さず、その陰から覗く『雨』の温度の低いジト目に、仕掛けたザンニの方が思わず息を止める。直後に、浚う雨音――力強く薙ぎ払う剣閃が、ザンニを始めとする前列のケルベロス達を襲い、激流の如き波動が彼らを護るあらゆる力を押し流した。
「そう来たか。それでは、根競べと行こうじゃないか」
直接やり合わずとも干渉し合う。ならば何度でも対抗してやろうとクラレットは手套の内に傷跡の残る左手を軽く握り込む。横槍にも仲間達の狙いは違わず。
「ビハインドさんの金縛りに1つおまけと行きましょう。『照準固定……発射!』」
ジュリアスのPGライフル(ペインゴーストライフル) ――詠唱と共に掌から放たれた魔弾は着弾と同時におどろおどろしい気配を解き放ち、新たな恐怖に憑かれた影は怖気た様に後ずさる。そこに迫るはシルクがけしかけたドラゴンの幻影。大火力の息吹に呑まれ、同様に威力が倍化された手裏剣の毒に侵され、遂に膝を折った。
「ほう」
短く発する影二。そう易々と倒されるタマではないという事か。ジグザグの軌跡を描いて突撃するリューディガーのファミリアシュートを受けながら、ずたぼろの身体を引き摺り起こしたその影は、最後の力を振り絞る様に『雨』へと分身を重ねる。もう1人が見かねた様に同朋に重ねた分身は、『憑き物』に阻害され、さほど効果を見せずに掻き消えた。さくらがすかさず振るうドラゴニックハンマーが『砲撃形態』へと変化して行く。まず1人――。
「そろそろ、お休みなさい――!」
狙いは、外さない。轟く竜が中空を奔り抜け――。
●危急
「行かせないって言ったっすよ……!!」
両手を広げて『雨』の行く手を遮るザンニを『雨』が黙って見つめている。首を傾げ、不思議そうに。彼がこの短時間でボロボロになっているのは、『雨』の脇を固める盾役達の攻撃まで一手に引き受けていたからだ。
「本当に『1人』で抑えるお心算でしたとは。ですが、雨にも仕事がございます故」
「1人では……!」
「? そうでごさいましょうか、皆様、影を追うばかりで」
まるでそれを確かめる為に暫し戯れていたかの様な口ぶり。『雨』は余程、刀で語るのが好きらしいが、――1人ではないのだ作戦上は。そして、今この瞬間からも。
「うむ、本当に1人ではないのじゃ ……ザンニ殿、面目ない――!」
息を弾ませ駆けつけた白は、両者の間に立ちはだかる様に忍軍と向き合うと、バトルオーラ『龍勁炎華功』を纏い、小太刀を逆手で構えて見得を切る。その姿が妙に心強く思えて、ザンニは長く吐息した。これほど長く感じた2分もそうそうないであろう。
「戦闘スタイルがほぼ同じ相手と戦う事など、滅多にない機会じゃ……覚悟せよ! ――『さぁ。己の恐怖に喰い尽くされるがよい……!』」
出遅れた分の思いの丈を一撃に乗せ、省略した挨拶代わりに叩き込む幻龍剣【夢葬乱舞】。
無数の八卦龍紋呪符が光を纏い、形状を鋭く尖らせながら飛翔する。『雨』は勿論、盾役達をも巻き込んで、突き刺さった光剣が爆散した。爆炎が晴れた後、彼女らが如何なるトラウマに苛まれているのか直接観る事は叶わないが、一矢報いる事が出来たと思えばひとまず満足げに息を吐き、その爆縁の中からくぐもった舌打ちが聞こえた気がして白は耳を澄ませる。
「んん? もしや、最初に余に手裏剣を見舞ってくれた輩かのう?」
煽る気満々の白。『雨』がぽつりと呟いた。
「……それでも。お2人であったとしても、雨の脅威ではございません」
その言葉通りに――2人がかりで『雨』を抑えようとする度、盾役の邪魔が入り、同時に3人を相手取らねばならない彼らに結局、余裕は殆ど無かった。
時にリューディガーやジュリアスが間に入り、クラレットも看てくれている為、負傷の度合いは問題ではない。後方の影を落としにかかる仲間達の攻撃は、次第に盾役にも分散し始めている。影二が絶空斬で後方の影を狙うにはどうしても妨げになる『雨』と盾役、ならばいっそと攻撃すればジュリアスがそれに続き、その分、白とザンニも『雨』に専念できるのだが――。
(「役目としては果たしています……が、早く片付けたいものですね」)
長期化の雲行きにジュリアスも内心、焦り始めている。
そんな中、更に幾度目かの攻防を越えた所でそれは起きた。
「ぬ――?!」
防戦一方の白とザンニに盾役がそれぞれ張り付いた、その直後に、空気が動く。
「ま、待つっす……!」
――このまま彼女を抑え切れない、のか。
――否、そうはさせない。
「逃がさぬ」
離脱の動きを見せた『雨』の前に影二が立ちはだかった。鋭い眼光で射竦め、無言の圧で距離を詰める。リューディガーと共に。両者を交互に見遣り、『雨』が口を開く。
「スミさん――!」
呼び声に応える様に飛び出した薄墨を流した様な猫型オーラは、彼女の視線とは真逆――即ち影二へと喰らいついた。
「! 逃がさぬ、と言ったはずだ」
実体の無い衝撃波を無理やりに振り解き『雨』に飛びかかる影二の前で、リューディガーも同様に地を蹴っていた。彼らのカバーに回るケルベロス達の不意をついて、更に2つの気配が動く。
「あっ」
真っ先に気付いたシルクが咄嗟に口走る。
「行ってしまって良いのですか? 忍法帖はここにありますのに」
曰くありげな書を部分的にチラチラ。
『雨』ならいざしらず、盾役達は彼女が用意した『偽者』には食い付くどころか見向きもしなかった。負傷の影響など微塵も感じさせない素早い動作で、二手に別れられては彼女にはもう止められない。『雨』に体当たりをする寸前でそれに気付いたリューディガーは、苦渋の選択を迫られた。
――『雨』か、名も無い影忍2人か。
忍軍の目的を踏まえれば手配書に頼るまでも無く彼らの行先は、明白だ。逡巡は一瞬。
貴重な一手は攻撃に代え、これ以上の突破を許す訳には行かない。
「包囲を」
仲間達に呼びかけるさくらの声が聞こえる。
始めからそうしていたなら、何か違ったのだろうか。今となっては確かめる術もない。
影二に抑え込まれた『雨』が、それをものともせずに刃を振り回して彼を傷つけ、拘束下から抜け出した。だが、最早逃げ場など何処にもないのである。他ならぬリューディガー自身がそうさせない。
「貴様は完全に包囲されている。無駄な抵抗はやめろ!」
「逃げはしません。けれど、抵抗をやめる事もございません」
きっぱりと、意地でも折れない雨の猛攻。
単調で、見切って躱す事も容易と思われる攻撃、だが本人は攻撃が外れようとも何食わぬ顔で次手に移るのだという事を、刃を交え続けたザンニは身を以って知っている。
唯一残った影の回復支援に支えられながら、それすらどう思っているのか『雨』は最後まで顔に出す事も無く。さくらの時空凍結弾が影の時間を永遠に凍てつかせ、その最後の置き土産をリューディガーのブラックインヴェイジョンが喰らい尽くす。ブラックスライムに蹂躙された『雨』の刀は折れて尚彼女の手に握られたまま、黒猫のオーラが『雨』の最後の一撃となる。
「目的を果たす為なら、雨はどんな手段でも――」
「その命、露と散り地に還りなさい」
『雨』が言うのは、独断で離脱したと思われる影達の事だろうか。憐憫を込めたシルクの言葉と共に、主砲が火を噴き『雨』を黙らせた。
「『実は虚であり、虚は実……我が刃は影を舞う』」
声はすれども影二の姿は見えず、螺旋の気流があるばかり。葛葉流・螺旋虚影刃――刹那の後に、『雨』の背後に回り込んでいた彼の刃が、風を切る。
水音が、はねる。
そして、
「……討伐完了」
影二の小さな呟きが場に落ちた。
●残響
ふっ、と気が遠くなってザンニはその場にへたり込んだ。
おっと、とか何とか言いながら、支えてくれる誰かの掌を感じる。少し、ひんやりした指先。
「クラレットさん。や、自分は大丈夫っす」
「ふむ、確かにヒールは必要ない様だ。疲れが出たか?」
「ちょっとだけ、……っす」
遠い目をして乾いた笑みを浮かべる彼に、やあやあおつかれさまだ、とクラレット。
ジュリアスもうんうん、と首を縦に振り、
「梅雨も何時しかは晴れるって事です。……っと、事態はまだ決していないのでした」
落着はできない、一転神妙な面持ちで彼が鼻先を向ける方に、既に人影はない。
それでも、『雨』を取逃がす事無く撃破し、全員が無事最後まで立っていられたのは僥倖だと仲間を労いながら、それだけに余計悔しさ募る者達の気持ちをクラレットは慮る。
唇を噛みながら、さくらが打ち上げる一発の照明弾。
突破者の存在を伝える為のその合図が例え意味を為さずとも、黙って済ませる事は彼女の意に反する。『本陣』の無事を祈り、今できる限りの事をするだけだ。
空を奔る光と煙が未だ消え行かぬ間に、リューディガーは駆け出していた。
「俺は奴らを追う」
決着の行方を思い、居ても立ってもいられず、目指すは『本陣』。
使命感に駆られるままに。間に合うかどうか等と考えている時間も惜しい、ただこのまま場に留まる選択は、彼には在り得なかった。願わくばこの手で後始末を――。
その思いの結末は、果たして。
作者:宇世真 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年6月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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