「ケルベロスのみなさん、先日は螺旋忍軍の拠点への襲撃、本当にお疲れさまっす」
黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は、目の前に集まったケルベロス達の前で軽く一礼すると、そう話を切り出した。
「先日の作戦で、多くの情報と共に得られた……今はシヴィル・カジャスさんと嶋田・麻代さんが所持している『螺旋忍法帖』の事っすけど……あの巻物は、螺旋忍軍にとって重要な意味を持つものだって事がわかったっす」
ダンテの情報によれば、螺旋忍法帖は螺旋帝の血族のみが創る事が出来る特殊な巻物で、そこには『螺旋帝の血族を捕縛せよ』という御下命が記されているらしい……つまり、この巻物さえあれば、螺旋忍軍の核心に迫る事も出来るかも知れない、という事だ。
だが、そこでダンテは、
「とはいえ、世の中そんなに甘くないっす……どうやら螺旋忍軍も、螺旋忍法帖の在りかを察知する事が出来るみたいで、彼らはみなさんが奪取した螺旋忍法帖を狙って、日本各地から刺客を放ったみたいっす」
つまり、このまま『螺旋忍法帖』を安全に保管するのは、ほぼ不可能、という事だ。
その事実に、ケルベロス達の幾人かが苦い顔を見せる……が。
「でも、これは逆に、螺旋忍軍に大損害を与える絶好の機会でもある、って事っっすよ?」
続くダンテは、チッチッチ、と指を振ってみせてから。
「つまり、守り続ける事が難しければ、逆に刺客達を攻撃しちゃえば良い……って事っす」
確かにダンテの言う通り、敵が螺旋忍法帖を狙って来るならば、それを囮にして敵を誘き寄せる事で、敵の撃破を狙う事が出来る……そして、多くの螺旋忍軍を撃破する事が出来れば、敵は二度とケルベロスから螺旋忍法帖を奪おうとはしないだろう。
そんな仮定を踏まえた結果……今回、ケルベロス達は、石川県の金沢城と北海道の五稜郭を拠点とし、防衛戦をおこなう事になったのだという。
その防衛線は間違いなく、熾烈なものとなるだろう。
そんな事を、その場のケルベロス達が思いに抱くのを待つ事無く。
「そこで……みなさんには、五稜郭の防衛戦において、『最上・幻襄』という名の螺旋忍軍の迎撃に回って貰いたいっす」
矢継ぎ早に言葉を放ったダンテの表情は、ケルベロス達に負けず劣らず険しいものだ。
だが、それでも彼は、ケルベロス達の事を信じ、自分に成せる事……つまり、戦うべき螺旋忍軍の情報を伝える事に専念する。
「最上・幻襄は、かつて最上家なる忍軍を束ねていた頭領だったっすけど……数百年前にとある侍との戦いに敗れた事がきっかけで、彼への再戦を果す為、つい最近まで修行の日々を送っていたみたいっすね。だけど、気付いた時には、時は平成の世……その侍も人間の寿命を終えて、この世を去った上に、この日本から侍そのものが消えてしまった事に憤慨して、日本を滅ぼそうとしているらしいっす……ぶっちゃけ、困った爺ちゃんっす」。
そう告げるダンテの言葉は、半ば冗談にも思えてくる……が、説明を続ける彼の表情は真剣そのものだ。
「とはいえ、幻襄は頭領を名乗るだけあって、かなりの実力を持った相手っす。その上、長年に渡る修行で、その技は更に磨き抜かれているから……かなり手強い相手になる筈っす」
だから絶対に手を抜いてはいけない、とダンテは念を押すと、敵の情報を伝えていく。
「どうやら幻襄は配下である2人の螺旋忍軍の下忍と共に攻め込んでくるみたいっすね……配下の戦闘力もそこそこ高いっすけど、幻襄本人も剣術に秀でた螺旋忍軍みたいっすね……その左右の腰に帯びた2本の刀を巧みに振るって、近くの敵へは急所を狙った鋭い斬撃を、離れた敵には強烈な衝撃波を伴った斬撃を放ってくるっす。又、螺旋忍軍としての高い実力も持っていて、周囲へと放った螺旋の力で敵の動きを纏めて止めたりも出来たり、螺旋を籠めた掌を、敵を破壊するだけでなく、自身の傷を癒す事にも使えたりするみたいっす……冗談抜きの強敵、って奴っすね」
だが、どれだけ手強い敵であろうとも、何処かに勝機はあるはずだ。
そう答えたケルベロスの一人の言葉を聞き、ダンテは大きく頷くと。
「その通りっす。もしも、みなさんが敗北してしまえば、幻襄は本陣に向かってしまい、螺旋忍法帖を守るチームに負担がかかってしまうっす。仮に敗北したチームが1チームだけならば、何とか本陣は支え切れるかも知れないっすけど……もしも複数チームが敗北すれば、螺旋忍法帖を守り切れないかも知れないっす。更に、幻襄に勝利したとしても、配下の一部に突破されてしまった場合、突破した配下は本陣に攻撃を仕掛けるので、何とか突破させる事なく、全員を撃破してもらえると助かるっすよ」
強力な螺旋忍軍を倒し、配下の螺旋忍軍も突破させない。
その任務が、非常に困難かつ危険なものであろう事を、改めて強調すると、ダンテは再びケルベロス達へと向き直ると。
「城で忍者と巻物の争奪戦……なんて、かなり時代錯誤っぽい戦いっすけど、螺旋忍法帖を守り抜けば、いまだ謎だらけの螺旋忍軍の事が何か分かるかも知れないっす……だから、危険な任務っすけど、どうかみなさん、よろしくお願いするっす!」
そう告げ、ケルベロス達の武運を祈りながら、深々と頭を下げたのであった。
参加者 | |
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アイン・オルキス(誇りの帆を上げて・e00841) |
アレックス・アストライア(煌剣の爽騎士・e25497) |
島・笠元二(悪役勉強中・e26410) |
マーシャ・メルクロフ(月落ち烏啼いて霜天に満つ・e26659) |
ルゥ・ランユウ(碧羅天龍・e29550) |
神宮寺・翡翠(ヴァルキュリアの刀剣士・e32488) |
本田・えみか(スーパー電車道娘・e35557) |
一比古・アヤメ(信じる者の幸福・e36948) |
●
木々の間を、3つの影が間を音も無く走り抜けていく。
その影のひとつ……最上忍軍の頭領、最上・幻襄は、彼に付き従う配下の下忍達と共に、目指す敵本陣まであと僅かの場所まで迫った時だった。
――おーほっほっほ!
突如として、周囲に女性の高笑いが響き渡った。
その声を聞き、率いた下忍達と共に立ち止まった幻襄は、彼の眼前へと悠々と現れ出でた、島・笠元二(悪役勉強中・e26410)の姿を目にするや、スッと目を細める。
「あなた達、螺旋忍軍の思い通りには、そう簡単にはいかなくてよ!」
「……ほう、吾等を螺旋忍軍と見抜くとは……成程、主等が噂に聞きし、正義のケルベロス忍軍とやらか」
笠元二の言葉に主等、と返した幻襄は、彼を取り囲む様にして、木々の陰から一人、また一人と姿を現したケルベロス達へと鋭い視線を巡らせていく。
「悪いが、此処から先は進入禁止だ……お引き取り願おうか」
そんな幻襄へと、アイン・オルキス(誇りの帆を上げて・e00841)はその鋭き眼差しで見据えながら、そう宣言する。
「最上・幻襄っ! いざ、尋常に勝負でござる!」
「ここは通さないっすよ! 五稜郭場所開幕っす!」
そこへ、マーシャ・メルクロフ(月落ち烏啼いて霜天に満つ・e26659)と本田・えみか(スーパー電車道娘・e35557)が、高らかに宣戦布告するが、幻襄はその言葉に眉ひとつ動かさず、無表情のまま言葉を返す。
「ほう、吾の名を知る者が居たとは……が、その鈍刀で吾を斬るなど、片腹痛いわ」
「……マーシャへの侮辱は許しませんよ」
「本当、時代錯誤なおじいちゃんだね……気になることもあるから、ちょっとボクらに付き合ってくれない?」
そして、神宮寺・翡翠(ヴァルキュリアの刀剣士・e32488)と、一比古・アヤメ(信じる者の幸福・e36948)も、それぞれの武器を構え、幻襄と下忍達を取り囲む様な動きを見せる。
「ふむ、あくまでも吾等の行く手を阻むか……」
そう言い放った幻襄の言葉に、下忍達は背負っていた刀をすらりと引き抜く。
「おっと、オレの目の前で、素敵な華を手折ろうなんて、マナー違反だぜ?」
その様に負けじと、アレックス・アストライア(煌剣の爽騎士・e25497)が飄々とした台詞と共に、自らも気取った動きで長剣を構えてみせると、女性陣へと軽くウインクを飛ばす。
「何と、女子へと媚びへつらう兵が居ようとはな。やはり、この国の……侍の伝統は失われたか」
「そうかしら? 私は生憎、この国の伝統には疎いのですけど……仲間を害する者が眼前へと現れた時、何をするかなんて、どんな時代でも変わらないと思いますよ?」
「如何にもでござる! 国や形は変われども、心に宿る侍の魂は今も健在である事を……最上爺、拙者がそなたに証明してみせまする!」
「ほう、言うではないか。この国を堕落させた異国の輩めが……!」
ルゥ・ランユウ(碧羅天龍・e29550)の言葉に続いて発せられたマーシャの口上に、幻襄は明らかに不快な表情を見せると、その全身から殺気を滲ませ始める。
「……ならば、主等から血祭りにし、我が復讐の手始めと致そうか」
その言葉を皮切りにして、遂に両者の戦いへと突入していった。
●
「ふむ……まずは主等の布陣を識るとするか」
そう言い放つや、幻襄は構える素振りすら見せず、前衛に立つ者達へと螺旋の力を放ってみせる。
「くっ……!」
身を襲う威力は、ケルベロス達が選んだ布陣のお陰で、半分以下にまで抑えられたが、それでも受けた傷は、軽微とは言い難い。
「ほう、固いな……穴熊、とでも喩えるべきか」
「そう仰る幻襄殿も、駒落ちで拙者たちに勝てるでござるか?」
そんな幻襄へと現代の侍の力を見せ付けるべく、マーシャは構えた二刀を颯爽と振り下ろそうとした……のだが。
「ま、間合いが届かぬでござる……」
残念な事に幻襄は後衛に就いている為、マーシャの剣技は全て、彼に届きそうもない。
「……しからば! 行くぞ、まちゅかぜ!」
だが、それでも彼女は激する事なく、唸るガトリング砲の斉射音を響かせる白き木馬の如きライドキャイバーを駆り、下忍の一人に対して弧を描く斬撃を放つ。
「……マーシャがいるし……私も頑張らないとね」
そんな彼女に負けじと、翡翠も如意棒を振るい、続け様の一撃を打ち込む。
「まずは堅実に此処を守り抜く事が優先だな。では……行くぞ!」
「おっけー、まずは突破されない事が最優先だしね……いざ!」
アインが天空より召喚し、戦場へと解き放たれた無数の刀剣の中、空高く飛翔したアヤメが、刃の雨と共に下忍へと急降下し、その手に集めた螺旋の力を叩き込むと、対する下忍達は素早く印を結び、その身にちらつく幻影を纏ってみせる。
そこへえみかの吐き出した炎の息が、戦場全体に相撲の土俵の如く円状に燃え広がり、彼女達と螺旋忍軍達を囲い込む……が、敵はその炎を難なく避けてしまう。
しかし、当の本人は。
「さーて、同じ土俵に立ったからには、えみかの相撲に付き合ってもらうっすよー!」
どうやら、その事実に気付いていないのか、来たるべき取組に目を輝かせ続けていた。
「うーん、やっぱり簡単に勝たせてくれる程、甘い相手じゃないっぽいねぇ」
「ええ、その様ですね」
そんな敵の動きを、片や飄々と、片や余裕ありげに観察していたアレックスとルゥが、共に後衛の3人をを支援すべく、アスガルドの戦斧と星降の剣を構える。
「では、まずは後衛の方々に、あの分身の術を破って頂きましょう」
「……俺も『天秤の騎士』として、守る戦いをさせて貰うぜ!」
そんな言葉と共に、艶やかな拳士と美しき騎士の貌へと変じた二人の描く、破壊のルーンと天秤座の光とが、翡翠に破魔の加護を、そして後衛達へ守護を与える中、アレックスののウイングキャット、ディケーも彼に従う様に小さな翼を羽ばたかせ、前衛達の邪気を祓おうとする。
「おーほっほっほ、私が手厚く癒してあげるから、キリキリ動きなさい!」
そして高笑いを続ける笠元二が、アヤメへ戦闘能力を高める電気ショックを飛ばすのを見て取ると、幻襄は二本の刀をすらりと引き抜き、攻防一体の構えを取ってみせた。
「戦場に幼子まで持ち込むとは……やはり、この国は壊さねばならぬ!」
幻襄の構えた刀が弧を描きながら、えみかへと振り下ろされる。対するえみかも身に纏った闘気を盾に身を捻る……が、刃は彼女の身体を掠め、鮮血の花びらが宙に舞う。
「くっ、その幼子に刃を向けて、よく言うでござる!」
「……マーシャさん、私も援護します!」
その様子に苦い表情を浮かべつつ、マーシャは翡翠が蹴り込んだ流星の軌道に導かれる様にして愛騎と共に突撃し、下忍達へと桜吹雪の幻を伴った横薙ぎの一閃を見舞う。
そして、アインの黒き鎖が描いた魔方陣の中、ルゥより授けられた破壊のルーンを宿したアヤメが、勢い良く振り下ろした竜の戦槌で下忍の幻を打ち砕いてみせる。
だが、そんな猛攻を受けても尚、敵は苦痛の表情すら見せず、今度はえみかの急所を狙ってと刃を振るってみせる。
「おっと、可愛いお嬢さん、まだ倒れるときじゃないぞ!」
例え子供だろうが、女性を守るのは騎士の務め、と言わんばかりにアレックスはえみかの傷口に優しく触れると、その痛みを取り除く……が、彼女の負傷は予想以上に大きく、続くディケーの羽ばたきや、笠元二の緊急手術を持ってしても、全ての痛みを消し去れない。
だが、えみかはより一層の闘志を燃やすと、身を低く構えるや。
「えみかの粘り腰に付き合ってもらうっすよー!」
気合と共に、下忍へと闘気を纏った張り手を放つ。下忍はすかさず飛び退くも、彼女の闘気は弾丸へと変じ、下忍へと喰らいついた。
数に勝るケルベロスと、紛う事なき実力を持つ最上忍軍。
共に守りの布陣を取り、両者の戦いは激しさを増していくのであった。
●
時折降り注ぐ弾丸の雨の中、刃と刃が重なり、闘気と螺旋が交差する。
そんな時間が、幾度繰り返されたであろうか。
「……よくも、マーシャさんを……!」
アレックスの回復魔法がマーシャの金縛りを解く中、翡翠は恋する人を守るろうと黒鎖の猟犬を解き放つ。下忍はそれをバックステップで避けようとするも、次いで振るわれた太き鞭で足を止められるや、翡翠の鎖にその身を締め上げられていく。
「……あら、はしたなくてすみませんね」
そう発したルゥは、先程下忍達を打ち据えた青き竜の尾を、その艶やかな青き衣の下に隠さぬまま、くすりと笑ってみせる。
そんな猛攻を受け、大きく傷付いた下忍は……予想外の行動に出た。
攻撃の手を止め、もう一人の下忍に護られる様にして、後衛へと移動したのだ。
「ちょっと、あなた達! 私は回復で手一杯なのよ! 何とかしなさいよ!」
「勝手な事を……が、逃がしはしない!」
前衛の負傷を軽減しようと、電気ショックや緊急手術に追われ続ける笠元二の叱咤を受け流しつつ、アインは展開させた武装ポッドから、小型ミサイルの雨を降らせるも、前衛のカヴァーによってそれは阻まれてしまうも、その雨は幻襄へ僅かながらも傷を付けた。
「ほう、今迄の的確な攻撃手段……どうやら主等は此方手の内を知っている様じゃの」
それを見た幻襄は、ケルベロス達へと素直に賛辞を述べてみせる……が。
「じゃが、その裏をかくのも……忍びの戦術ぞ!」
次の瞬間、彼は傷付いた下忍へと、己が掌より螺旋を注ぎ込み、その傷と状態異常を一気に回復させてみせたのだ。
「う、嘘だろ!?」
「メディックだった……の……!?」
流石のアレックスと笠元二も、敵の布陣に動揺を露わにする。
ケルベロス達は強敵相手に、ほぼ最善の戦法を取っていた。
だが、精鋭揃いとは言い難いこのチームで、忍軍の頭領としての実力を誇る幻襄に対して戦線を維持出来ていたのには、それ相応の理由があったのだ。
数百年の修行の末、時代に取り残されても尚、彼の刃と心は錆付いてはいなかった。
だが、真なる強敵を前にしても尚、ケルベロス達の表情に臆する影はない。
そして彼らはこの戦線を守り抜く為、再び気を引き締めると、眼前の敵へと対峙した。
数に勝るも、戦線を支える回復力に難を見せるケルベロス達。
数に劣るも、圧倒的な攻撃力と回復力に支えられた最上忍軍。
互いに攻め筋を欠きつつ、両者は一進一退の攻防を続けていく。
「ああ、もう! 回復が追い付かないじゃないの!」
再び前衛へと戻って来た下忍の攻撃を受けたルゥへ、幾度目かの緊急手術を施しながら、笠元二は苛立ちの声を上げる。
「これじゃあ、悪役として輝けないじゃないの!」
「いや、俺達ってさ、『正義』のケルベロス忍軍なんだが……」
そんな彼女の主張に、流石のアレックスもツッコミを入れながら、自身も仲間の傷を癒すべく、己の魔力を絞り出そうとする。
翡翠の黒鎖が複雑な軌道を描き、マーシャの一閃と共に下忍達へと襲い掛かる。そしてアインが紅蓮の炎を宿した如意棒を振るえば、ルゥの霊力を帯びた戦拳と、えみかの闘気を帯びた張り手が、ほぼ同時に下忍へと撃ち込まれると、僅かではあるが下忍の一人の身体が揺れる。
そんな中。
「ねえ、おじいちゃんが侍に敬意を抱く忍者なら、自分はどうなの?」
アヤメは、敵を喰らうオーラの弾丸を幻襄へと放ちながら、彼の真意とその目論見を探ろうと、問いを投げ掛ける。
しかし、当の幻襄は何も答えはせず、避退したオーラの弾丸を二刀で捌きつつ防御してみせる。
ならば、とばかりに彼女は切り口を変え、再び幻襄へと問い掛ける。
「ねえ、何の為に忍法帖を狙うの? 忍法帖に従えば勅忍になれるらしいけど、姿も知らない相手に仕えて満足?」
「……山猿の様に、きいきいと煩いわ」
「なっ……」
返ってきた思わぬ侮辱の言葉に、流石のアヤメも言葉を失う。
「何故、螺旋忍軍の吾等が、紛い物の主等に情報を漏らさねばならぬ? ならば問うが、主等は吾等に関する事細かな情報を、誰から聞き及んだ?」
「それは……」
「……主も答えられまい? つまり、それが主等への答えだ」
確かに幻襄の指摘通り、此方はヘリオライダーの存在を知られる訳にはいかない。
ならば、幻襄も自身の属する組織や螺旋帝についての情報を、迂闊に漏らす訳がないのだ。
そして幻襄も、この世には畏敬すべき侍が死に絶えたと、確信してもいるのだ。
「くっ……!」
同じ忍びに真っ当に論破され、思わず唇を噛んだアヤメを見て、老獪な忍びはニヤリと笑うと。
「戯言が過ぎたな……さて、死合を続けようぞ!」
幻襄はえみかへと一気に間合いを詰めると、逆手に構えた刀を地へと突き刺す。
「えみかさん、避けてっ!」
「のわーっ!!」
刹那、ルゥの警告よりも速く、空いたその掌で彼女へと触れた幻襄は、彼女の身へと注ぎ込み、その肉体を内部から破壊した瞬間。
「くぅー! いい張り手……持ってる、ね……」
そんな言葉と発し、笑顔を見せたえみかが、まるで電池が切れた玩具の様に、その場へ音を立てて倒れ込む。
「やってくれたな!」
怒りの声と共に、アインが機械の指を二度鳴らす。
次いで、指先に集めた光を、一本の鞭へと姿へと変じさせ下忍達を薙ぎ払う。
その一撃を受け、遂に下忍の一人が苦悶の表情を浮かべながら、地へと倒れ伏す。
これで互いに倒れた者は一人。
このまま押し切れば、幻襄を追い詰める事が出来るかも知れない。
だが、5人となった前衛では、幻襄の放つ螺旋の力に耐えうる事は難しい。
恐らく、此処からは血みどろの激戦になる。
そんな覚悟を、ケルベロス達の誰もが抱いた……瞬間だった。
「……どうやら、時間切れの様じゃな」
「何っ!?」
思わぬ幻襄の言葉に、ケルベロス達の動きが止まる。
それを知ってか知らずか、幻襄はふん、と鼻で笑ってみせると。
「まあ、良いわ。後は幻斎の奴めが、事を上手く進めるだろうて……退くぞ」
その下知を聞き、下忍と身を翻す……そして、幻襄と共にそのまま姿を消していった。
●
「……追いますか?」
「いや、やめよう。奴の実力からすれば、此方が返り討ちに合うだろう」
敵が去り行く中。翡翠の発した問いにに、アインは静かに被りを振る。
「でもまあ、此処は守り切れましたし……後は、本陣次第ですね」
そう口にしたルゥに誘われるまま、ケルベロス達は本陣のあるべき方へと視線を向ける。
その頃、本陣で何が起こっていたのか。
それを彼らが知るのは、もう少し後の事であろう。
今はただ、傷付いた仲間を癒し、倒れた仲間をどうするかを考えねばならない。
そんな思いで、ケルベロス達はそれぞれの動きを見せる中で。
マーシャは敵の去った彼方を見つめ続ける。
「次こそは、必ず決着を付けるでござる……」
だが、その呟きは風に吹き消され、傍らの翡翠にすら、届く事は無かった……。
作者:伊吹武流 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年6月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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