螺旋忍法帖防衛戦~五稜郭に番犬は哭く

作者:秋月きり

「みんな、螺旋忍軍の拠点に攻め込むと言う大任を無事、果たしてくれてありがとう」
 ヘリポートに集ったケルベロス達へリーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)が労いの言葉を掛ける。機嫌上々な雰囲気は、ケルベロス達の戦果が螺旋忍軍の撃破に留まらず、それを上回る功績を得る事が出来たからなのだろうか。
「今回の作戦で、多くの情報を得る事が出来た上に、シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)と、嶋田・麻代(レッサーデーモン・e28437)の両名が、螺旋忍者にとって重要な意味を持つ『螺旋忍法帖』の所持者となったわ」
 その螺旋忍法帖を解読を進めた処、判明した事が幾つかあった。
 一つは、『螺旋忍法帖を創れるのは螺旋帝の血族だけ』と言うこと。彼の一族がその血で書き記す事で創造が可能と言う事だった。
 そして、そこに記載されている御下命を拝領し、果たした忍軍は惑星スパイラルに招聘され一族郎党全てに『勅忍』の栄誉が与えられると言う事も判明した。これは螺旋忍軍にとって最も誉れ高き事であり、彼らの最終目標と言っても過言でなかった。
「螺旋忍法帖には『螺旋帝の血族を捕縛せよ』という御下命が記されていたわ」
 螺旋忍法帖を所持したまま螺旋帝の血族を捕縛すれば、その御下命を果たした事になるらしい。
 故に、螺旋忍法帖があれば、螺旋忍軍の核心に迫る事が出来る筈。それが彼女達の出した見解だった。
「ただ、良い事尽くめって訳でも無いの」
 表情を曇らせ、嘆息する。それが此度、彼女の見た未来予知のようであった。
「みんなが得た螺旋忍法帖を手に入れようと、日本中の忍軍の刺客が動き出している。そして、螺旋忍軍は、螺旋忍法帖の場所を探し当てる事が出来るらしく、永遠に守り続けるのは困難を極めるわ」
 ただ、と言葉を続ける。逆を言えば、これは絶好のチャンスでもある、と。
「敵が螺旋忍法帖を狙うんだったら、螺旋忍法帖を囮にして撃破する事も可能ってわけ。守り続ける事が困難だったら、倒してしまえばいいのよ」
 攻撃は最大の防御って言うしね、と実に脳筋な台詞は笑顔と共に紡がれた。
 だが、彼女の言う通り、螺旋忍法帖を囮として、多くの螺旋忍軍を誘引・撃破し、ケルベロス達から螺旋忍法帖を奪う事が出来ないと思い知らせるのも、手と言えば手だろう。
「もちろん、無策で戦うつもりは無いわ。この作戦には数多くのケルベロスに従事して貰うし、守衛に長けた城を拠点とする事になったわ」
 防衛戦は、石川県の金沢城と北海道の五稜郭の二地域で行われる事となった。
「みんなはこの防衛拠点で襲い来る螺旋忍軍の迎撃を行い、螺旋忍法帖を守り抜いて欲しいの」
 金色の真摯な瞳が、ケルベロス達に向けられていた。
「それで、みんなの役目だけど」
 五稜郭の中央――すなわち、五稜郭川の本陣を担当して貰う事になる、と厳かに告げる。
「言ってしまえば、みんなの任務は『防衛網を突破してきた螺旋忍軍を迎撃して、螺旋忍法帖を守りきる、最後の砦』となる事ね」
 襲撃する螺旋忍軍に対して、ケルベロス達が迎撃に向かうが、その全てに勝利出来るかは不明だ。仮に全ての襲撃に対し勝利出来たとしても、配下の一部が防衛網を突破、螺旋忍法帖を奪取しようと特攻してくる可能性は十分に考えられる。
「『防衛線を抜けてきた様々な種類の忍軍と戦い螺旋忍法帖を守り抜く』事が求められるわ」
 おそらく、最も難しい作戦を強いられる戦いになるだろうと、リーシャは眉を顰める。
「それと、もしも防衛戦を殆ど突破させる事無く勝利した場合は、正義のケルベロス忍軍の力を認めた何者かが、接触してくる可能性があるわ」
 敵か味方か。現段階ではそれすら不明だ。
「螺旋忍軍でもない『正義のケルベロス忍軍』が、螺旋忍法帖の所持者になる事が出来た秘密にも関わる者と思うけど」
 接触は無いかもしれないし、あるかもしれない。故にその存在への対応や交渉は現場の判断に委ねる、との事だった。
「五稜郭で忍者と防衛線って、ちょっと時代錯誤感はあるけど、これを撃破する事が出来れば螺旋忍軍の謎に迫るチャンスとなるわ」
 そして、いつものように彼女はケルベロス達を送り出す。彼らなら必ず螺旋忍法帖を守り切り、最良の結果を出すと信じて。
「それじゃ、いってらっしゃい。頑張ってね」


参加者
レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)
フィルトリア・フィルトレーゼ(傷だらけの復讐者・e03002)
月日貝・健琉(紅玉涼天・e05228)
タクティ・ハーロット(重力を喰らう晶龍・e06699)
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)
ティ・ヌ(ウサギの狙撃手・e19467)
片桐・与市(墨染・e26979)
八尋・豊水(狭間に忍ぶ者・e28305)

■リプレイ

●黒紅
 急ごしらえののバリケードを駆け抜ける一陣の風は、黒と紅の色を纏っていた。
 ちぃと月日貝・健琉(紅玉涼天・e05228)が舌打ちをする。考えてみれば螺旋忍軍との戦いは妨害電波の連続であった。五稜郭のみ連絡が通じる道理は無い。
「連絡は届かない様だ!」
「でしょうね」
 応じる八尋・豊水(狭間に忍ぶ者・e28305)の表情は苦渋に染まっている。事態は理解した。ならば、目の前に迫る脅威を排除するのみだ。
「信号弾も上がらず、か」
 苦虫を噛み潰した表情で片桐・与市(墨染・e26979)もその事実を告げる。
(「例え上がったとしても『突破された』と言う事実が届くだけか」)
 結果が共に到着する以上、信号弾そのものが無意味となりかねない。ならば、これ以上、外を注視する必要はないと視線をバリケードの上に立つ忍びに戻した。
「私が一番乗りですね」
 黒紅の螺旋忍軍は憂いにも似た微笑と共に、花札を手裏剣の如く繰り出す。その一撃は壁を背にし、本陣奥で忍法帖を抱く麻代に吸い込まれて行った。
 だが、血の華が咲き乱れる事は無かった。
「嶋田さんには指一本触れさせません!」
 フィルトリア・フィルトレーゼ(傷だらけの復讐者・e03002)は凛と告げると、己の得物である鉄塊剣で花札の乱舞を阻む。その緑色の双眸には、彼女に傷一つ付けさせないとの決意が宿っていた。
「そう言う事だぜ!」
 踏鞴踏む螺旋忍軍へ、タクティ・ハーロット(重力を喰らう晶龍・e06699)の光剣が突き刺さる。同時に彼のサーヴァントのミミックによる武器投擲が、螺旋忍軍を強襲していた。
「お前が一番乗りなのは間違いない。だから、その誉れを抱いて逝けや」
 続いて彼に向けられるはランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)からの竜砲弾だった。砲撃を跳躍し回避するものの、足への被弾は彼の機動力を奪っていく。
(「ほぼ無傷で突破、ですか」)
 観察に集中するティ・ヌ(ウサギの狙撃手・e19467)の表情は、むしろ訝し気だった。突破し、本陣へ強襲する敵がいる事は予測していた。だが、よもや軽傷程度で突破されるとは思っていなかった。このような忍軍が十重二十重に襲ってきたら、いくら何でも急ごしらえの籠城戦では対応しきれないと冷や汗を流す。ならば自身の役目はメディックの恩恵を充分に生かすこと。それと奇襲に備えること。
 プリンケプスもそれに倣ったようだ。唸り声を上げ、周囲に視線を送っている。
「必ず守り通してみせよう」
 レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)の宣言は轟音奏でる竜砲弾と共に発せられた。共に疾走るフィルトリアの拳、健琉のエネルギー光線は、黒紅の螺旋忍軍を強襲し、その身体を宙に舞わせる。
「鬼でも蛇でも駆除してあげるわ……」
 煌く一閃は豊水のナイフの一撃だった。同時にビハインドの李々はバリケードの一部を射出。螺旋忍軍の機動力を更に削いでいく。
「我らが忍軍の力、知らしめるとしよう」
 ケルベロスチェインで魔法陣を描く与市に言葉に、黒紅の螺旋忍軍はふっと微笑を浮かべた。
「音に聞いたケルベロス忍軍よ。忍法帖はこのフィリップ・ロークが貰い受けよう」
 そして花札を纏う黒紅の忍軍は跳躍する。その様子はまるで、静かな舞を想起させた。

 黒と紅の舞が視界を覆う。時折放たれる花札の手裏剣は、着実にケルベロス達を梳っていた。
「やはり単独突破を果たしただけはある。強いな」
 ランドルフは素直な賞賛を口にし、アスラメタルによる鋼の拳を叩き付ける。繰り出す猛攻はフィリップの身体を削り取っていった。
 侵略者たるデウスエクスは強い。それは確固とした事実だ。だが、ケルベロス達もまた、数々の戦いを乗り越えてきた猛者であった。その誇りは、たかだか一体の螺旋忍軍に打ち砕けるものでは無い。
「砕きの結晶をその手に! 汝に更なる力を!」
 タクティの詠唱と共に、与市の拳に結晶が宿る。
「――真髄を」
 そして紡がれたのは全てを両断する手刀だった。音も無く、迷いも無く。袈裟懸けに放たれたそれはフィリップの身体を切り裂き、無へと帰していく。
 それは研鑽された彼の業。礎を突き詰め、殺人術にまで昇華した一撃に、フィリップは地に伏す。
「……よもや、ここで果てるとはね」
 光と化しながら、フィリップが最期に浮かべた微笑みは、何処か悲哀に満ちていた。

●哀影
「斬らせて貰いやす」
 続けて飛び込んできた人影は、刺身包丁を日本刀の様に操る二組の忍者だった。ねじり鉢巻きと白い衣服が寿司職人を思わせた。
「HAHAHA。忍法帖はワタシの物デース」
 彼らと共に飛び込んできた螺旋忍軍はリボルバー銃を駆るガンマンだった。鼻頭が赤く、息がアルコール臭かったのは、おそらく酒焼けの所為だろう。
「もう、ふざけた奴らね!」
 豊水が思わず零した言葉に、まったくだとランドルフと与一が頷く。先の黒紅の忍びと合わせて4人。ふざけた人選と思いきや、仕事はきっちりとこなした上で消失しているのだから質が悪い。刺身包丁の一撃と弾丸はきっちりミミックと李々を無へと帰していた。
「これで終わり……な訳は無いですよね」
 額に浮かんだ汗――あるいは冷却水の珠を拭い、健琉が嘆息する。
 守りながらの戦いは消耗が激しい。まして、終わりが見えない戦いであれば尚更だ。だが、それでも自宅警備員の矜持に賭けて麻代と忍法帖は守り切ると頷いたその瞬間だった。
「次、来ました」
 特徴的な耳を動かしながらのティが警告を発する。同時に広がる緊張は8人のケルベロス達に伝播し。
「未だ忍法帖は奪われず、ですか。賞賛に値しますね」
 金色の髪を持つ忍びだった。手にした大太刀もまた、その髪と同じく金色の光を放っている。
「故に我が貰い受けましょう。――最上・幻斎、参る!」
 そして金色の風が吹く。共に駆け抜ける4陣の風は、配下と思わしき螺旋忍軍。よもや、配下毎の突破が叶うなど、夢にも思っていなかった。
「――違う!」
 日本刀の一撃を受け止めたレーグルは一瞬浮かんだ思考を否定する。配下を含めた突破など、守備を担っていたケルベロス達が戦闘を放棄しない限りありえない。ならば彼は。
「すげーカリスマ性だぜ!」
 タクティの呟きに不遜な笑みが返って来る。
 おそらく、幻斎と名乗った忍者は突破が叶った螺旋忍軍を纏め、一つの部隊としたのだろう。単独でも手強い螺旋忍軍を群れとする手腕は、流石と唸るしかなかった。
「今宵の天麩羅は血に飢えています。――覚悟」
「え、えーっと」
 律儀な口上は様式美とでも言うつもりか。しかし、口にした愛刀の名前にフィルトリアは「なんだかなぁ」と言う気持ちを押さえる事は出来ない。
 だが、それでも実力は本物だった。
 月の弧を思わせる斬撃は彼女の鉄塊剣を避け、首元や胸元に傷を負わせる。その都度、ティやプリンケプスから治癒のグラビティが飛んでくるが、積み重なる傷は完治には程遠い。
「フィルトレーゼ殿!」
 それ以上の攻撃は許さないと、レーグルによる電光石火の蹴りが閃く。太刀の腹でそれを受け止めた幻斎へ殺到するタクティの爪撃はしかし。
「たぁ。面倒臭ぇんだぜ」
 割って入った螺旋忍軍の一人に阻まれてしまう。竜爪の一撃を受け止め、されど平然とした表情を浮かべる彼は、纏う恩恵がディフェンダーの物であると伺わせた。
「まったく。ほいほい引き寄せられるとか、Cockroachかっつーの。そう言う事なら駆除するしかねーよな」
「群れで動くのは貴様らの専売特許でしょう。地獄の番犬め」
 ランドルフの挑発に返って来たのは同じくらいの罵倒だった。
 そしてケルベロス達の攻撃が幻斎に殺到する。4人の防御役に阻まれても、頭を潰さない限りこの窮地は突破できない。その判断は過ちでは無かった。
 迎え撃つ幻斎もまた、にやりと笑みを浮かべ配下に命を下す。攻撃を担うのは自身。防御に集中せよ、と。
 剣戟が響く。日本刀と大太刀が、忍軍の刃と犬の牙がぶつかり合い、火花を散らした。
(「良くない、ですね」)
 健琉が内心で呟く。螺旋忍軍5人とは、本来ならば無傷のまま応対するべき相手だ。先に襲撃して来たフィリップ、そして3人との戦闘後では分が悪いのは事実であった。その仮定で2体のサーヴァントを失っている以上、自分達の劣勢は確実。
 それを覆すには――。
 自宅警備員の思考はしかし、突如起きたそれに、停止を余儀なくされた。
 それは轟音だった。耳を劈く程の大音量が、彼らの耳朶を震わせていた。
「――くっ」
 豊水の表情が驚愕に見開かれる。その可能性を失念していた訳ではない。だが、強敵を前にして、そこに意識を割く事が出来なかった。それだけの話だ。
 壁が崩壊していた。否、破壊されたのだ。
 デウスエクスに常識が通じない事を改めて思い知らされる。
 そして。
 急造のトンネルから出現したのは、豊かな肢体を持つ、蠱惑的なくノ一であった。

●反転
「夜城・ネネ……」
 幻斎の言葉に応じる者はいない。ケルベロス達は彼を前にしてネネに反転できず、そしてネネ自身は呟きに応える義理が無かったからだ。
(「援軍? いえ?!」)
 ティの思考は即座に搔き消される。壁を砕いたネネの巨大な分銅はそのまま、麻代を襲撃したのだ。
 ケルベロス達と言う壁も無く、バリケードも意味を為さない。ならば、その狙いは至極当然だった。
「麻代!」
 与市の警告と麻代の跳躍は同時だった。彼女とて歴戦のケルベロス。むざむざと犠牲になる筈はない。
 だが。
「――っ?!」
 分銅が狙ったものは、彼女の身体では無かった。彼女の抱く忍法帖を鎖で絡めとったネネは、鞭の如くそれを引き戻す。彼女が簒奪物を咥えるのと、金色の風が弾けたのは同時だった。
「渡すわけにはいきません!」
 浮足立つケルベロスの間を縫い、幻斎が躍り出る。大太刀の一撃は、踵を返そうとするネネの小刀に阻まれるものの、拮抗状態を作り出すのに充分だった。
「仲間割れ――?!」
「いや、違う。そもそも共闘すらしていなかったのでは?」
 フィルトリアの独白に応えたのはレーグルだった。
 そもそも忍法帖を用いて勅忍に成れる忍軍は一つだけ。ならばここで奪い合いが発生しても不思議では無かった。
「どっちと戦えば?」
 ティが焦燥を浮かべる。幻斎の部下は相変わらずケルベロス達を牽制し、少しでも気を抜けばその刃が皆の身体を切り裂くだろう。
 だが、忍法帖を奪われたままで捨て置く事も出来ない。
「忍法帖が優先だろ!」
 ランドルフの竜砲弾は幻斎と切り結ぶネネに向けられる。轟音と共に吐きだされた砲弾をまともに受けた彼女は整った顔立ちを歪め、しかし、その小刀と分銅を幻斎に叩き付け、応戦する。
(「参ったわね――」)
 ネネが逃走の機会を伺っているのは明白だった。無論、ケルベロス達にそれを許すつもりは無い。だが。
 豊水の舌打ちは、己の潜在意識への苛立ちの表れだった。いざとなれば暴走を辞さない覚悟はあった。だが、忍法帖の収奪は命の危機とは関係ない為か、その発現は訪れない。暴走とは都合の良い戦力増強手段では無い事を思い知らされる。
「そこを退け!」
 地獄の炎弾を、己が行く手を阻む螺旋忍軍に叩き付け、レーグルが吠える。暴走が許されなければ、ネネと幻斎を倒すのみ。それだけの事と覚悟を決めた彼の目の前で、螺旋忍軍の一人が光と化し弾け飛ぶ。
 視線を向ければ、与市による螺旋の一撃が螺旋忍軍を吹き飛ばしていた。
「貴方の罪、私が断罪します……!」
 追撃するフィルトリアの炎はその身を焼き尽くし、無へと帰していく。
「まだ負けと決まったわけではありません!」
 治癒ドローンを召喚するティは仲間の癒しながら、叫ぶ。諦める事は出来ない。自分達の敗北はここに集う全ての仲間の努力を無に帰す事になるのだから。
 その彼女の目前で、幻斎の大太刀がネネの胸を抉る。零れ落ちる宝石は、彼女の命がコギトエルゴスムと化した証だった。
「忍法帖は、最上忍軍が手に入れましたよ」
 一瞬の挙動で宝石と忍法帖を懐に仕舞った幻斎は笑みを浮かべた。

●撤退
「させるかよっ!」
 忍法帖がネネから幻斎の手に移ったが、戦いはまだ終わらない。
 すかさず、攻撃対象を幻斎に変えて竜砲撃を撃ち放ったのはランドルフ。
 だが、そのランドルフの砲撃を、幻斎は辛うじて耐えて後退する。
「逃がしませんよ。オン・ゴウ・ニン!」
 その幻斎を追う様に、豊水が紅の螺旋となりて追いすがり、螺旋忍法帖を奪い返すべく組み付こうとする。
「次から次と……」
 幻斎は螺旋忍法帖を守り切るが、少なくない打撃を受け足が止まった。
「螺旋忍法帖、返してもらう」
 更に、与市のケルベロスチェインが幻斎を捕えようとした時……、
「爆砕爆炎、最上の若殿は、どうやら忍法帖を手に入れたようだ。ならば、助太刀してしんぜよう」
 との声と共に、戦場に爆炎が巻き起こった。
 その爆炎が収まった時、幻斎の隣には、鬼の面をつけた螺旋忍軍が見得を切って仁王立ちしていた。
「千草大将か、ありがたい」
 危機を脱した幻斎は、忍法帖を大事にしまいなおすと、大太刀を正眼に構えてケルベロスに相対した。
 一転、窮地に陥ったケルベロスは、千草大将の実力を計るように距離を取るが、その威圧に背筋に冷たい汗が流れる。
「突破してくる敵が多すぎます。この戦力に、私たちだけでは……」
 距離をとった味方をキュアして回復しつつも、ティは、戦況の不利を悟っていた。
 幻斎だけならば、勝機は残っていただろう。
 しかし、幻斎以上の力を感じる、新たな敵……千草大将が加わった今、その勝機は急速に0に近づいている。
「戦いは、やってみなくちゃ判らないんだぜ?」
 双手のガントレットを構え、戦いを諦めないと口にするタクティも、己の言葉がただの強がりだと理解していた。
 サーヴァントはプリンケプスを除き、既に消失済み。度重なる攻防はレーグルやフィルトリア、健琉と言った前衛に治癒不能ダメージを刻んでいる。中衛の自身達、そして後衛も無傷とは言い難い。
 そして、傷付いていても目の前の幻斎が高い能力を有している事は疑いようが無かった。それを目の当たりにしていたのだから。

「ここで引くなら、追撃はしません。ですが……」
 幻斎が、ケルベロスの背を押す。
 螺旋忍法帖を奪取した今、幻斎にケルベロスを殺す意味は無い。
「あくまでも、忍法帖を狙うなら、殺しますよ」
 引けば追わない、そう保障されれば決死の覚悟を決めて暴走する事もできない。
 つまり、
「――潮時、か」
「そんなっ」
 ランドルフの言葉に、全員が悲嘆の表情を浮かべる。悲痛な叫びはその代弁。だが、その声もすぐに押し黙る結果となった。
 それは苦渋の決断だった。
「我らはケルベロス忍軍。されど、忍びでは非ず」
 命を捨てて得る物があるのならば死地を逝く覚悟はあっても、自尊心の為だけに果てるのは本意ではないと、与市が口にする。ここで幻斎に吶喊しようとも、犬死である事は明白だった。
「――撤退を」
「いずれ戦場で再会しましょう」
 ケルベロス達が戦場から退くのと同時に、幻斎の、そして配下の姿も霧の如く掻き消える。
 それが五稜郭を舞台にした、忍法帖を巡る戦いの終焉であった。

作者:秋月きり 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月21日
難度:普通
参加:8人
結果:失敗…
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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