●螺旋忍法帖
「ケルベロスの皆さん、こんにちは。天瀬月乃です」
ブリーフィングルームの壇上に上がった天瀬・月乃(レプリカントのヘリオライダー・en0148)は抑揚のない口調で挨拶をすると、集まったケルベロス達にぺこりと頭を下げた。
「螺旋忍軍の拠点への攻撃、お疲れ様でした。今回の作戦で多くの情報を得る事が出来た上、シヴィル・カジャスさんと嶋田・麻代さんが『螺旋忍法帖』の所持者となりました」
『螺旋忍法帖』。それは螺旋忍者にとって重要な意味を持つ。
「同時に行った暗号解読の結果、この『螺旋忍法帖』は螺旋帝の血族のみが、その血で書き記す事で創り出す事が出来る命令書のようなものである事が分かっています。その『螺旋忍法帖』を拝領し、螺旋帝の血族からの御下命を受け、それを果たすことが出来れば一族郎党全てに螺旋忍軍にとって最高のステータスである『勅忍』の栄誉が与えられるとか……1つの御下命につき、『螺旋忍法帖』を所持していた1忍軍のみ『勅忍』になることができるということですから、螺旋忍軍はお互いの足を引っ張り合うようなマネをしていたのかもしれません」
説明した月乃は呆れたように嘆息した。
「その上、御下命の内容が『螺旋帝の血族を捕縛せよ』です……ホント、バカばっかり」
見事な内輪もめの様相を呈している螺旋忍軍に対して、少女の評した言葉がそれだった。
「……で、早い話が『螺旋忍法帖』の所有者になったケルベロスが螺旋忍軍の標的になったというわけです。短い期間守るだけなら問題ありませんが、螺旋忍軍は螺旋忍法帖の場所を探し当てる事ができるらしく、いつ襲ってくるか分からない刺客に対して永遠に守り続けるのは無理があります」
なので、と月乃が付け足す。
「敵の狙っている螺旋忍法帖を囮にして、出てきた螺旋忍軍を撃破するのが今回の作戦になります」
攻撃してくる敵を逆手に取って、こっちから攻撃を仕掛けようというのである。相手に大打撃を与えられれば、螺旋忍軍は二度とケルベロスから螺旋忍法帖を奪おうとはしないだろう。
「この防衛作戦は石川県の金沢城と北海道の五稜郭を拠点に行うことになりますので、皆さんはこの防衛拠点に向かい、襲い来る螺旋忍軍を迎撃して、螺旋忍法帖を守り抜いてください」
作戦の概要を説明すると、月乃は大型の立体スクリーンに螺旋忍軍のデータと地形を映し出した。
「皆さんのチームには、金沢城の防衛に回り、担当螺旋忍軍の迎撃を行ってもらいます。石垣や木が生い茂る場所はありますが、戦闘には差し支えない広さがあります。相手は螺旋射手の二つ名を持つヘルファルコンというくノ一で、前衛を受け持つ配下を3体引き連れています。耐久力の高い配下が前衛を支え、ヘルファルコンの精密な狙撃を軸に攻撃してきます。ヘルファルコンは攻撃力も高いので、注意してください」
それから、と月乃は念を押すように続けた。
「敗北してしまうと残った敵は本陣に向かってしまい、螺旋忍法帖を守るチームに負担がかかってしまいます。敗北が1チームだけなら、なんとか支えきれると思いますが、複数チームが敗北すれば螺旋忍法帖は守り切れないかもしれません。勝利したとしても、配下の一部に突破されてしまった場合、突入した配下は本陣に攻撃を仕掛けてしまうので、できるだけ突破されないように全て撃破できるように頑張ってください」
そこまで言って、月乃は立体スクリーンを消した。
「それからもう1つ。防衛が完全で殆ど突破させることなく勝利した場合、正義のケルベロス忍軍の力を認めた何者かが、接触してくる可能性があります。おそらく、螺旋忍軍ではない『正義のケルベロス忍軍』が螺旋忍法帖の所持者になることができた秘密にも関わる何者かであると想定されますが……どちらとも言えません。対応は現場の判断にお任せしますので、そうなった場合の交渉はよろしくお願いします」
彼女は再度ぺこりと頭を下げてから締めくくった。
「お城で忍者と攻防戦……どこかの忍者映画のようですが、勝って螺旋忍軍の謎に迫りましょう」
参加者 | |
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叢雲・蓮(無常迅速・e00144) |
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612) |
相馬・竜人(掟守・e01889) |
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214) |
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348) |
ヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046) |
キーア・フラム(黒炎竜・e27514) |
七々美・七喜(黒炎の幼狐・e35457) |
●
石垣の上でケルベロス達はその時を待っていた。
「お城でニンジャ大戦! なんか燃えるよね!!」
叢雲・蓮(無常迅速・e00144)が興奮した様子で、可愛らしい顔を紅潮させる。身振り手振り付け加える蓮に、シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)も手にした愛用のギターを掻き鳴らしたい衝動に駆られていた。
「ああ……早くこの気持ちをロックに奏でたいデース!」
指でギターのボードを叩き、それでも周囲の地形の確認は怠らない。
「ここを通るというのなら、相手の不意打ちは避けられそうなのですよ」
同じく周囲を見回していたヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046)の声にウイングキャットのヴィー・エフトも一声鳴いて応じる。
「この正義の大妖狐、七喜サマが端からブン殴ってやるぜ!」
掌に拳を打ち付けて、前方を睨む七々美・七喜(黒炎の幼狐・e35457)も気合十分だ。闘争心を徐々に高めていく七喜を横目で見ていた相馬・竜人(掟守・e01889)も彼女と同じく、徐々に心を戦闘のそれへとシフトしていく。
「来たわね……」
物陰から一瞬、敵影を見つけて、リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)が微かに目を細めた。見晴らしの良い所に出た敵が4体、こちらに向かってくる。
言いたい事は多々ある。が、リリーはそれを心に仕舞い込むと一つ息をついた。
「まぁ、忍軍の動きにしちゃ分かりやすくていいな」
隠れもせず、こちらへ向かってくる敵の姿を確認し、竜人が呟く。
「あいつらが真っ直ぐ向かってくるなんて……それほど、忍法帖とやらは強力な道具なのね」
リリーの眼に強い決意が灯っていた。
「私も螺旋忍者だから……今回の戦いの趨勢はかなり気になります」
同じ螺旋忍軍に宿敵を持つ円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)も、その眼差しに特別な感情を抱く。顔を上げたオルトロスのアロンが小さく鳴いてくるのをキアリが撫でて制した。
「ローカストに螺旋忍軍と、慌ただしいったら無いわね」
敵の動きを観察していたキーア・フラム(黒炎竜・e27514)が小さく嘆息する。
「隠密気流で潜伏して、奇襲をかけようかと思ったけど、ダメね」
上手くいけばと準備していたキーアだったが、彼女は早々に諦めた。隠密気流は非戦闘時でこそ、その能力を発揮する。戦闘状態で突入してくるデウスエクスには効果を望めなかった。
敵が接近したのを確認したケルベロス達が誰からともなく動き出す。
「さぁ、って。あいつら殺そうぜ」
「思い通りになんて絶対させない!」
石垣を蹴って飛び出す竜人とリリーに続いて、全員石垣から飛び降りた。
●
「上だ」
周囲の警戒をしていたヘルファルコンの声に、黒装束の忍達が一斉に加速した。
次々とケルベロス達が降り立って、その行く手を遮る。
「ここから先には行かせないのですよ!」
「悪ぃが、通行止めだぜ。帰るか殺されるか好きな方を選びな」
ヒマラヤンの凛とした声が戦場へと響き渡り、竜人は手にした髑髏の仮面を装着しつつ、地を蹴った。突破を図ろうとする忍の正面に回り込んで拳を固める。
「挑んでくるか? 逃げても誰も咎めないぜ?」
「上等っ!」
忍が竜人の気迫に負けない咆哮を上げ、螺旋手裏剣を投げ放つ。肩を掠め、血が舞うのも構わず、竜人がその剛腕を叩きつけた。腕でそれを受け止めた忍がマスクの下で笑みを浮かべる。好戦的な、喜色の笑みを。
「落城フラグなんてロックに叩き折るデース! イェイ!」
逆サイドから突破を図ろうとする忍に対し、シィカがギターを掻き鳴らし、ドヤ顔で宣言する。
「こちらの相手はなんとも騒々しいな」
マスク越しにため息をついた忍が冷静に距離を測りつつ、飛び込んでくるシィカを迎撃した。天高く飛び上がったシィカは螺旋手裏剣に傷を負わされながらも、虹を纏って急降下する。そのまま両腕でガードを固める忍を蹴りつけて後方へ飛び退いた。
「ちょ、まっ……」
中央に位置していた忍は怒涛の如く押し寄せるケルベロス達に驚愕の声を上げる。最初に飛び込んだアロンが口に咥えた神器で忍を斬り付け、
「コード・トーラス! これで殴られたら痛いですよ!」
「正義の大妖狐、七喜サマの登場だ! ここを通りたけりゃ、オレ達を倒してからにするんだな!」
オーラを巨大なガントレットに変換したヒマラヤンの連続攻撃の間を縫うように、七喜の自動追尾する矢が忍を攻め立てる。
「カワイコちゃんが俺に迫ってくる!」
「滅ぼすわよ……」
「ボクは男の子なのだよ!」
ヒマラヤンと七喜、二人と入れ替わるように肉薄したキーアと蓮が槍と刀の違いはあれど雷光を帯びた神速の突きを連続で放ち、忍を切り刻んでいく。慌てて距離を取った忍が離れ際に螺旋手裏剣を投げ放ち、キーアの白い腕を切り裂いた。
(コイツ……)
一連の攻撃をいなした敵をキーアが睨む。その実力は温いものではない。
「みんな、大丈夫……?」
攻防を後方より確認していたキアリが先手を打って舞い踊り、前衛の仲間達を花びらのオーラで癒していく。その舞に合わせるように、リリーもまた活性化したグラビティ・チェインを螺旋の舞で練り上げた。
「家族の無念……晴らさせてもらうわ! ヘルファルコン」
「知らんな……滅ぼした者など、いちいち覚えておらん」
涼しげに受け流すヘルファルコンに、リリーが奥歯を噛み締める。荒れ狂った磁気嵐が天に滞留し、それを解き放つようにリリーが手を振り下した。
「応じ来られよ、外なる螺旋と内なる神歌に導かれ、その威光を以て破壊と焦燥を与えん」
磁気嵐が雷の如く、ヘルファルコンへと降り注ぎ、着弾と共に大地が爆ぜる。それは申し分ない威力だった。
「俺らが邪魔するのは予想できたろ? テメエら勝ててねえ過去を考えろよ、バカが」
忍者を名乗っておきながら物の裏が読めない入れ食い具合が気に食わないと、竜人が目の前の忍を挑発する。だが、前衛の忍達は驚く様子はない。
「……我らの前に立つだけの覚悟はしている、ということか」
粉塵を肩で切り、姿を見せるヘルファルコンから凍てつくような圧力を感じて、ケルベロス達が身構えた。
「名乗っておこう。我が名はヘルファルコン。螺旋射手、ヘルファルコンだ。覚えて、逝け」
ヘルファルコンが手にした銃剣を持ち上げる。その動きは恐ろしく滑らかで。気づいた時には乾いた銃声が戦場に鳴り響いていた。
「が……かふっ……」
赤い鮮血が地に染みを作る。その凶弾は最後尾にいた少女の腹部を無情に突き抜けていた。
「キアリちゃん!」
振り向いたヒマラヤンが思わず叫ぶ。
「突破できる者から先へ行け」
ヘルファルコンの冷たい声が静かに戦場へと響いた。
●
「こんなところで倒れるわけにはいかない……」
目も眩むような激痛の中、キアリは自分を奮い立たせた。この戦いの先には自分の宿敵がいるかもしれないのだ。螺旋忍軍に忍法帖を奪われてはいけない。しかし、時を刻むにつれ、そのダメージは深刻の度合いを増してくる。
「私はケルベロス……なにがあろうとも……」
重い足を引きずって、彼女は顔を上げた。今尚、敵の突破を阻むべく奮戦する仲間達を背後から護る為に。
己の身を分身の術で癒し、幻影を纏ったキアリが仲間の為に戦場を美しく舞い踊る。そこには仲間を花びらのオーラで包む、凛としたケルベロスの少女が1人、咲き誇っていた。
「邪魔だ」
ヘルファルコンが戦場に冷気を充満させる。
「来るのですよ! ヴィーくん!」
敵最大の攻撃を感じ取って、ヒマラヤンが叫ぶ。ヴィーは前、後衛に清浄の翼を振りまき、回復に奔走していた。強烈な凍気がケルベロスの後衛を押し包む。
「うぬぬ……」
それを悔しげに見つめるシィカ。対峙した忍がシィカを促した。
「助けに入らぬのか?」
シィカも分かっていた。ここで後衛を庇えば、目の前の敵の突破を許してしまう。それだけは避けなければいけない。
「簡単にキミの突破を許してしまったら、皆に向ける顔がないのデース!」
泣き虫でビビリ屋と言われても、彼女の胸にはケルベロスの仕事に対する誇りと使命感がある。この先に通じる道を簡単に明け渡すわけには行かなかった。その返答をするかのように、シィカがギターを掻き鳴らし、歌う。
「ボクの歌を聴くデース!」
幻影のリコレクションが忍達を押し返して。そこに交差する様に放たれた凍気がケルベロス達を氷に閉ざし、その氷がヘルファルコンの銃撃で砕け散る。
「うっ、く……」
力尽きたキアリが大地へ倒れ込んだ。氷片が舞い散る中、己の傷を無視してキーアが疾走する。
「凍結地獄でも、私の黒炎を凍てつかせる事はできない……全て焼き尽くしてあげるわ!」
地を蹴ったキーアの掌に黒炎が燃え上がった。迎撃する忍の攻撃を掻い潜り、零距離で炎を叩きつける。
「神をも滅ぼす尽きることのない黒炎……魂の一片すら残さず燃え尽きろ!!」
「ぐああ!」
黒炎が一瞬で敵を飲み込んで焼き尽くした。塵すら残さず、忍が消滅する。
「情けねぇな」
仲間の死を横目で見ていた忍が舌打ちして、正面の竜人に視線を戻す。蓄積したダメージを無視できなくなってきた竜人が肩で息を切る。それでも、
「こんなんで殺せると思ったか? 舐めてんじゃねぇぞ」
仮面の下で、その表情は自信に満ち溢れていた。それが鼻についたのか、忍が構え直す。
「終わりだ。突破させてらうぞ!」
「残念だけど時間切れなのだよ!」
疾風の如く、肉薄した蓮の一撃が忍の顔面を強襲し、忍が掲げた手裏剣でその一撃を辛くも受け止める。しかし、勢いのまま体を回転させた蓮の二の太刀が深く忍の胴体を薙ぎ払った。
「おのれ!」
忍が咄嗟に放った手裏剣で技後の蓮を狙う。その間に体を投げ出したアロンが身代わりに、力尽きて消滅した。
瀕死の主の為に最後まで駆け抜けたアロンの消滅を見届けたヒマラヤンが前に出る。同じサーヴァントを相棒とする身として、彼女らの想いに応えるように。
「極大の一撃、喰らうのです!」
ピコピコハンマーが稼動し、砲撃形態へ変形する。その砲口から放たれた竜砲弾が忍の胴体を直撃した。耐え切れず、地を転がる忍の前に、七喜が静かに降り立つ。
「ま、まて……螺旋忍法帖など、お前達には無用の長物だろう」
「んー? 中身の話?」
気を逸らそうとする忍に七喜は唇に指を当てて、考えてからきっかり3秒。
「忘れた!」
満面の笑顔でそう応える。そして軽い跳躍から体を素早く前転させ、キレのある飛び蹴りを踵から敵の胸部に振り下ろした。断末魔の悲鳴を上げて、忍がまた一体消滅する。
「細けー事には拘らねーのが、大物の証ってヤツだ!」
腕を組み、うんうんと自慢げに頷いてみせる七喜。敵の前衛は後一体。
(敵は大分片付いてきた……逃がさないわ、絶対に)
スパイラルネメシスを瞬時に螺旋手裏剣へと持ち替えたリリーが油断なく、ヘルファルコンを狙い打つ。
「手裏剣とはな」
「忍の端くれよ、これでも」
淡々と攻撃を繰り返すヘルファルコンの手元を狂わせるべく狙いを定めるが、効果は薄い。それでも敵の死角に回り込む振りをしつつ、攻撃の手を一切緩めない。
「邪魔をするな」
静かに響く、ヘルファルコンの声。銃剣がピタリとリリーを捕捉した。
「させるかよ!」
乾いた銃声が鳴り響く、その刹那、妨害の任より開放された竜人がリリーの前に体を投げ出す。
「竜人兄ぃ!」
竜人の腹部を貫通する凶弾を目の当たりにして、蓮が叫ぶ。膝から力を失うようにガクリと崩れ落ちた竜人は地に伏したまま、動かなくなった。
「生かさん……1人として、な」
目の前で倒れた仲間の姿が一瞬、リリーの脳裏に過去の出来事を想起させる。
「ヘルファルコン!」
連続して銃剣を構え直し、凍気を撒き散らすヘルファルコン。そうはさせじと、リリーが足に込めた理力を全開放して星型のオーラを蹴り込んだ。強烈な一撃にヘルファルコンは吹き飛びつつも、狙いをケルベロス達に定める。
「攻めるのだよ! シィカ姉!」
「ここで押し切らねーと、やべぇ!」
最後の1人となった忍の前衛に向かって疾走する蓮と七喜。本能的に危険を察知した2人が一気にギアを引き上げる。
「これで終わらせるデース!」
対峙するシィカが日本刀を引き抜き、忍に斬りかかった。螺旋手裏剣を巧みに操り、その斬撃を受け流す忍を蓮と七喜がさらに追いかける。接近を嫌った忍が大きな跳躍で後方へと逃れた。
「氷の棺で眠るといい」
ヘルファルコンの凍気がケルベロス達の後衛に再び襲い掛かる。瞬きすら許さぬ氷結の世界でヘルファルコンの銃撃がケルベロス達を撃ち抜いた。
「ヴィーくん、後を……」
「くっ……ここまでね……」
ヒマラヤンとキーアが氷片の降り注ぐ中、力尽きる。
「しぶとい……」
ひとり、後衛で何とか踏み止まるリリーにヘルファルコンが目を細めた。ヘルファルコンとて無傷ではない。リリーの積み重ねたダメージは確実に彼女に蓄積されていた。
「まだよ、私は……」
崩れ落ちそうになる体を必死に支え、リリーが顔を上げる。自分と同じ思いをする人間をこれ以上増やさない為にも。
「私は負けない!」
最後の力を振り絞り、螺旋の舞でグラビティを練り上げる。
「応じ来られよ、外なる螺旋と内なる神歌に導かれ」
空気中で磁気がバチリと鳴り響き、次第に天に荒れ狂う磁気嵐となって収束する。それはリリーの手の内で雷光の槍と化して、
「その威光を以て破壊と焦燥を与えん」
雷状に解き放たれ、空気を切り裂いて、ヘルファルコンの胸部を貫いた。
「なっ……」
驚愕に目を見開いたヘルファルコンの手からするりと銃剣が抜け落ちて、地面に刺さる。その後を追うようにヘルファルコンもまた、地面へと崩れ落ちた。
●
「勝ったの……?」
リリーは消滅していくヘルファルコンを見ながら、力が抜けそうになるのをなんとか堪えた。敵は未だ、一体残っている。
「まだやるデスか?」
油断なく相手を牽制しつつ、シィカが敵に問いかける。戦い続ければおそらく勝てるのだろう。仲間の生死を問わなければ、だが。それがわかっているから、シィカも忍も数瞬黙して睨み合っていた。
暫く睨み合った後、忍はそのまま戦場を駆け抜けていった。
「みんな大丈夫なのだよ?」
「こりゃ、ヒデェな……」
仲間の元へ駆け寄る蓮の後ろから状態を見回した七喜が顔を顰める。キアリと竜人が特に酷い。急ぎ応急手当をして、生死を確認した蓮が安堵の息を吐いた。キーアとヒマラヤンも意識を取り戻しそうだ。
「なんとかなった、かな……?」
重い足取りで消滅したヘルファルコンの元までたどり着いたリリーがポツリと零す。様々な感情が押し寄せてくるが、まだ終わりではない。それでも今は、
「疲れた……な……」
難敵を倒した緊張感から開放され、リリーは蹲るように、その場へ座り込んだ。
作者:綾河司 |
重傷:相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889) 円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年6月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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