「さあてと、皆、準備はええかな?」
宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)が、柔和な表情でケルベロス達に話しかけていた。
「えっと、前回螺旋忍軍の拠点に攻め込んでくれた人は、ご苦労さんやったで。そいでや、その結果シヴィル・カジャスさんと、嶋田・麻代さんが、螺旋忍者にとって重要な意味を持つ『螺旋忍法帖』をゲットしたんや!」
おお……という反応が広がる。しかし、まてと一人のケルベロスが聞く。
「かなり重要そうで格好いい名前だけど、結局何なの?」
その声に、全体が頷く。
「そう言うと思たわ。えっと『螺旋忍法帖』は螺旋帝の血族のみがその血で書き記す事で創り出す事ができる、言わば螺旋忍軍の超重要アイテムや。で、それは『螺旋忍法帖に書かれた御下命』を果たした忍軍は、惑星スパイラスに招聘され、一族郎党全てに『勅忍』の栄誉が与えられる、ちゅうことらしいわ」
と、絹はそういうが、ケルベロスの何人かはまだぽかんとしている。
「つまり、や。これは螺旋忍軍にとって最高のステータスであり、最終目標でもあるんやな。
で、その効果も凄くてな、螺旋忍法帖には『螺旋忍軍に対する絶対制御コード』が仕込まれてて、受け取った螺旋忍軍は『忍法帖に書かれた御下命を必ず果たさなければならない』という精神状態になるらしいわ」
絹は、うちらも受け取ったら名前載るらしいけど、螺旋忍軍ちゃうしな、大丈夫っぽいわ、と続けながらタブレットを確認する。
「まあ、1度の御下命で勅忍となる事ができる忍軍は1つだけ。とか、所持者が螺旋忍法帖の指示を達成する事で、御下命を果たした事になる。とか、御下命はその所持者に限る。とかいろんな条件があるみたいやけどな」
絹はそう言ってタブレットから目を離し、ケルベロスに顔を向ける。
「つまり、そんな重要なものが、我々の手の内にある、ということか」
「そう言うこっちゃ。螺旋忍法帖には『螺旋帝の血族を捕縛せよ』という御下命が記されていたみたいやけど、この『螺旋忍法帖』があれば、螺旋忍軍の核心に迫る事も出来るんちゃうか、って言われとる」
そこで再びあがる感嘆の声。
「でもな、当然リスクはあるんや……」
「狙われる……よね?」
一人のケルベロスがそう言うと、絹は頷く。
「どうやら螺旋忍軍は、螺旋忍法帖の場所を探し当てる事ができるらしくてな、永遠に守り続けるのはまあ、厳しいやろ」
成る程と考え込むケルベロス。だが、絹は少し声を大きくしてケルベロスに話しかける。
「でもこれはな、チャンスでもあるんやで。この特性を利用すれば、螺旋忍法帖を囮にして誘き寄せて撃破することも出来るで。せやからうちらは防衛戦を仕掛ける。ここで多くの螺旋忍軍を撃破すれば、相手も二度と奪って来ることは無いやろ」
何時何処で戦いを仕掛けられるか分からないという事よりも、戦力の集中と敵の動きを限定し、返り討ちにしやすい状況を作るという訳である。
「防衛戦は、石川県の金沢城と北海道の五稜郭が拠点や。皆には金沢城に詰めてもらう事になるから、準備するんやで!」
絹の説明を理解したケルベロス達は、では我々が当たる敵はと尋ねる。
「皆は金沢城で、うちの言う場所に行って貰う。敵は『裏染棗(うらぞめ・なつめ)』っちゅうくノ一とその配下3人。このくノ一はどうやら独自に活動する螺旋忍者らしくてな、『螺旋忍法帖』を狙っているらしいわ。真意はわからんけどな。まあ、どの螺旋忍軍も狙ってるからそれはどいつも一緒やしな。姿は妖艶な感じの美人さんで、えらい肌色の多い服に白衣……。へんたいさんやな。すぐに分かるやろ。白衣って事は、研究者なのかもしれんな。戦い方は、彼女が後方について、その3人に指示して戦わせる戦法を取ってくるから、補助なんかで強化とか行ってくる可能性が高いな。その辺しっかり考えて作戦立てるんやで」
絹の説明に、戦法を考え始めるケルベロス達。
「ああ、せや。当然やけど敗北は悪い方向に行くで。うちらを乗り越えて本陣に行ってしまうしな。複数のチームが敗れてしもたら、それだけ本陣へ影響が出る。敵も『螺旋忍法帖』を狙っているわけやから、どいつかが抜け出して行く可能性も高いやろ。せやから、確実に全滅させるんやで」
敵の目的はあくまでも『螺旋忍法帖』にある。各チームが気を引き締めなければ、この作戦に響いてしまうのだ。
「それに、他のチームが万が一敗れたら、こっちに向かってくる可能性もあるわけや。それはもう、特攻の勢いやろな。せやから自分らが勝っても気を抜かんこっちゃ」
絹はそう言って、ああ、せやったと何かを思い出したような表情をする。
「前回うちらは『正義のケルベロス忍軍』を名乗ったわけや。完全に勝利できたら、ひょっとしたら何者かが接触してくる可能性もあるらしいで。……まあ、それはあるかもしれんし、ないかもしれん。あくまでも可能性の話や。対応は現場の判断に任せるから、考えとってな」
その説明を聞き、ピンと来たケルベロスが、目を見開く。
「まあ兎も角、まずは完全に防衛する事を考えてな。んで、螺旋忍法帖を守りきるんや。頼んだで!」
参加者 | |
---|---|
ムギ・マキシマム(赤鬼・e01182) |
リーズレット・ヴィッセンシャフト(アルペジオは甘く響いて・e02234) |
螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343) |
スミコ・メンドーサ(グラビティ兵器技術研究所・e09975) |
リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540) |
ヒスイ・ペスカトール(銃使い時々シャーマン・e17676) |
セラ・ギャラガー(紅の騎士・e24529) |
鍔鳴・奏(弱モフリスト・e25076) |
●金沢城の一室にて
「おおー。ここからの眺めはまた、格別だな、奏!」
一つの部屋にリーズレット・ヴィッセンシャフト(アルペジオは甘く響いて・e02234)の声が響く。彼女は少し高いこの部屋から見える景色に、少し見とれていた。
「そうだな、リズ。でも、今は依頼だからな!」
リーズレットに近づいて話している鍔鳴・奏(弱モフリスト・e25076)は、少し浮かれ気味の彼女を注意をしつつ、彼女の頭の上に乗っているボクスドラゴンの『響』をぽんと撫でる。
「分かってるって! しっかり守ってくれよ! 超頼りにしてるから!」
にへらと笑って振り返るリーズレットの目に、奏のボクスドラゴンの『モラ』が見えた。モラもどうやらやる気十分なようで、いつもより鼻息が荒く感じられた。
「で、どうしたの? 浮かない顔してるけど」
そんな二人と二匹の様子を見ながら、スミコ・メンドーサ(グラビティ兵器技術研究所・e09975)が螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)に尋ねる。セイヤは話しかけられていることも気付かずに、握った拳を開き、また握っていた。
「にいさん……だいじょうぶ……?」
セイヤは、隣で心配そうに話しかけるリーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)の声に、漸く全員の視線が自分に向いていることに気がつく。
「……すまない」
しかし、セイヤはそれ以上言葉が繋がらないようで、少し頭を垂れる。
「知ってるヤツなのか? その裏染棗ってヤツは?」
ムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)がふとそう直感し、尋ねる。
「そう……だな。知っている」
その言葉に、他のケルベロス達はセイヤの表情の理由を悟る。
「ケルベロスになったヤツは、いろいろあるってもんだ。言いたくなきゃ、言わなくて良いんだぜ」
少しの沈黙の後、ヒスイ・ペスカトール(銃使い時々シャーマン・e17676)が自分の武器である改造銃『ミタマシロ』をガチャリと確認する。
「そうだな。兎も角今回は自分達の仕事をしよう。今はそれで十分だ」
セラ・ギャラガー(紅の騎士・e24529)が言うように、ケルベロス達は、ここ金沢城で絹に依頼された敵を止めることに、重きを置こうと考えていた。一人たりとも、先には行かせない。ケルベロス達はその為に入念な戦略を立てていた。
ドドン!! ダダダダダ!
その時、大きな爆音と共に怒号と足音が聞こえてきた。
「おー、きたきた」
「来たぜ、まずはそいつらを止める!」
スミコとムギの声に、一同に緊張が走る。すると、ふと部屋が暗くなる。
「窓だ!」
セラの言葉に、窓の近くに居たリーズレットを抱え、奏が後ろに飛び退いた。
すかさず、彼女の在った床に螺旋手裏剣が突き刺さる。そして、4人の影が飛び込んできた。
「……あら? お迎えかしら?」
最後に入ってきた女が呟いた時、セイヤが震えながらバトルオーラ『覇龍功』を纏っていった。
「裏染……棗!」
●マッドサイエンティストニンジャ
ケルベロス達はその4人の螺旋忍軍をゆっくりと囲むように動きながら、己の武器を構えた。
「あら……誰だったかしら? ふふふ……」
セイヤを見ながら、妖しげな笑みを浮かべる棗。
「研究所を破壊した俺を忘れた? いや、そんなことは無いはずだ……」
「セイヤ、螺旋忍軍の言うことなんか、あてにならないぜ。アイツらの何が本音かなんて、分からないもんだ」
ヒスイの言う言葉に、少し冷静になるセイヤ。
「あらあら、私は嘘なんか言わないわよ。でも、今は相手をしていられないの。分かるわよね?」
棗はそう言い、さっと腕を上げる。すると、他の3人の螺旋忍軍が棗を隠すように前に出る。
『見えなき鎖よ、汝を束縛せよ』
リーズレットが相手を束縛する魔法を棗に打ち、響が属性インストールを奏に施す。それが、戦闘開始の合図となった。
「ほら、さっさと護りなさい。すぐに治してあげるから、ふふっ」
リーズレットの魔法を、螺旋手裏剣を持った螺旋忍軍が代わって受ける。
「お前が、戦え! 棗!!」
セイヤは棗に攻撃を加えようとするが、既に彼女は後方に下がっている。頭は熱くなっているが、不思議と冷静でいられた。すぐに標的をリーズレットの攻撃を受けた螺旋忍軍に切り替え、降魔の一撃を食らわせる。
「いくよ……っ。にいさん……!」
その螺旋忍軍に追い討ちをかけるように、リーナが雷の霊力を帯びた斬霊刀『鳴月』で高速の突きを放ち、そしてセラが全身を光の粒子に変えて、突撃する。
すると、一度に大きな攻撃を受けた螺旋忍軍は、たまらず吹き飛ばされた。
「ほらほら。もっと頑張るのよ」
しかし、その様子に怯むことも無く、棗は何やら薬瓶のようなものの蓋を開け、前を行く3人に振り掛け、纏わりつかせた。
「……承知」
すぐさま起き上がる螺旋忍軍。
「予想した通りだな。だが、俺の筋肉があるうちは誰もやらせん……さあ、かかって来い!」
ムギがドラゴニックハンマーで、また向かってくる螺旋手裏剣を構える螺旋忍軍に超重の一撃を放つ。だが、その攻撃は避けられ、横から日本刀を構えた螺旋忍軍が切りかかる。
「おっと、もっと気合を入れないと、この筋肉には傷一つつかないぜ!」
ムギはその日本刀の一撃をドラゴニックハンマーで軽くいなす。
「おっと、悪いが好きにはさせないよ!」
そこに、スミコが棗に向けアームドフォート『グレイプニール』の主砲を発射する。
「あら、残念」
彼女はそう言ってその砲撃を飛びあがって避ける。どうやら、隙あればこの戦場を一人抜けようとしているようだった。
「成る程……」
奏はそう言いながら、エアシューズの一撃を一人の螺旋忍軍から受ける。だが、それ程ダメージは受けていないようだ。そして、大きなモーションでゲシュタルトグレイブを大きなダメージを受けていた螺旋忍軍に打ち込む。
「……ぐ!」
腹に突き刺さったその槍を握りながら、その螺旋忍軍は消滅した。
「プランAだな」
「オーケー。Aね」
状況を見極めて呟いた奏に、ヒスイはそう返しながら九尾扇をリーズレットとリーナに指し示した。
●目的
ケルベロスの作戦とは、まず第一に確固撃破を狙うというものだった。敵が回復を施してくることは絹の情報から分かっていた。ただ、時間をかけるわけにも行かない。そこで、ダメージを負った敵を回復の力がまわる前に倒しきる。そう言った作戦を立てた。
勿論、棗は隙を付いて戦場を抜けてくるだろう。そう予測したケルベロスは、棗を牽制することも忘れなかった。それが、プランAである。
「……リズ?」
奏はハートクエイクアローを自分の後ろに隠れながら打つリーズレットに、思わず話しかける。
「ある意味……良い盾だな……素晴らしいぞ、奏!」
そう言って、その高身長の奏の陰にまた隠れる。
「いや、リズの方が強いだろ……。まあ守るけどねー」
にやりと口角をあげ、エアシューズを履いた螺旋忍軍に超高速の突きを放つ。そして、モラがすかさずその傷を広げるブレスを浴びせた。
「よし、次は前からいくぜ!」
ヒスイはそう言って、前衛に九尾扇を広げ、力を授ける。
『これでもくらえ!』
スミコが上空でグラビティの球体を作り出し、そして無数のエネルギーの矢を降らせる。
そしてセラがそのエアシューズを履いた螺旋忍軍に向かい、魂を喰らう一撃をめり込ませると、その螺旋忍軍は消滅を始めた。
「ムギ!」
その時、セラの横を通り過ぎる影に気がつき、彼女は声を上げた。
「おっと、此処から先は通行止めだ、通りたければ我が筋肉を超えていけ」
その棗の動きを予測していたムギが、棗の動きに合わせて立ちふさがる。
「邪魔を……するな!」
棗から先ほどの余裕の表情が消えていた。彼女の目的は勿論螺旋忍法帖にある。その目的は何かは分からないが、ここに襲撃してきたということは、そういう事である。
「いや……お前の好きにはさせない」
その声に棗が振り返る。
「お前の目的も、そしてお前との縁も、ここで終わらせる」
リーナと共に、セイヤが棗に向かう。彼らの後ろには、日本刀を装備した螺旋忍軍が倒れ、消滅を始めていた。
「……正直、俺としては会いたく無かったが。まぁ、折角だ……」
セイヤはそう言って漆黒のオーラを纏い始めた。
「お前との縁もここで清算させて貰う……!」
●縁
「さぁて、あとは大将だけだ!」
スミコの言葉に、棗は明らかに苛立った表情を見せる。
「忌々しい……。螺旋忍法帖があれば、研究が進むと言うのに……!」
棗はそう言って、懐から何かを取り出し、飲み込む。すると、その身体がゆらゆらと揺れ始めた。
「……ほう。それがお前の目的か」
ムギはそう言って、地獄の炎を右腕に集める。
「まあ、お前が何であろうと、俺は俺のやるべき事をやり遂げる。それだけだ」
その炎が鍛え上げられた筋肉と共に、燃え上がる。
『我が筋肉に撃ち貫けぬモノなし!』
そして、棗の腹を打ち抜くと、激しい炎が彼女から噴き出し、壁に激突する。
「ぐはっ!」
その衝撃にゆらゆらと揺れながらも、立ち上がる棗。その憎しみの目はセイヤに向けられる。
『見えなき鎖よ、汝を束縛せよ』
だが、リーズレットの黒い鎖が棗の自由を奪い、『デモニックグレイブ』を構えてペイルウイングを広げたスミコが突っ込み、棗を宙に浮かせる。
『わが攻撃、光の如く、悪鬼羅刹を貫き通す』
『キミの魂は、記憶は、感情は、全て貰い受ける。どうか安らかに』
その宙に浮いた棗の身体をセラの光の矢が打ち抜き、奏が彼女の力を喰らう。
『集え力…。わたしの全てを以て討ち滅ぼす…!討ち滅ぼせ…黒滅の刃!!』
リーナが一振りの漆黒の刃を生み出す。
『―ふるべゆらゆらと』
ヒスイの言霊が『ミタマシロ』からセイヤへと注がれた時、リーナが宙から落下する棗を神速の斬撃でその身体を一閃する。
セイヤはほんの少しだけ目を瞑り、そして呼び出した漆黒のオーラを右腕に収束させる。それはセイヤの拳から今にも抜け出そうとする黒龍の姿となった。
『打ち貫け!!魔龍の双牙ッッ!!』
床に打ち付けられようとしていた棗を、セイヤの拳が床につく事を許さない。ありったけのグラビティを籠めた拳が棗の身体を貫通し、黒いオーラがその体を飲み込んだ時、裏染棗は叫び声を上げることもなく黒龍に喰らい尽くされた。
全てが終わった時、その螺旋忍軍達が侵入してきた窓から一陣の風が吹き込んだ。
少し他のケルベロスを見てくると言ったヒスイが、銃をくるくるとまわしながら帰ってきた。
どうやら、作戦は成功したとの事だった。それに、新たなる情報も得られたという事も合わせて伝えられた。
「作戦成功、らしいぜ」
ムギがセイヤに声をかける。
ただ、セイヤはまた、言葉をつなげる事が出来なかった。
作戦は成功。過去との縁を断ち切ることも出来た。でも、達成感と共に何処か寂しげな感情も、ほんの少しあった。それが何かは分からない。
だが、決して断ち切りたくない縁は確かに残っている。それは、目の前の少女が示している。
「にいさん……」
「ああ……終わった、よ」
セイヤはふと窓から見える風景を見て、目を瞑り、仲間に振り返った。
「有難う」
仲間の笑顔と、金沢城から見えた緑豊かな風景は、セイヤの心を癒し、そして決意させた。
この縁だけは、護り抜く。そう心に誓ったのだった。
作者:沙羅衝 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年6月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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