●決戦、金沢城!
「螺旋忍軍の拠点に攻め込むという大任、見事に果たしてくれたようだな。まあ、俺は最初から、お前達なら絶対に成功させると信じていたが……」
それ以外にも、今回の作戦では多くのものを得ることができたと、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)はケルベロス達に告げた。謎多きデウスエクス種族、螺旋忍軍に関する情報だけでなく、シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)と嶋田・麻代(レッサーデーモン・e28437)の二人が、螺旋忍者にとって重要な意味を持つ『螺旋忍法帖』の所持者となったのだと。
「『螺旋忍法帖』には『螺旋帝の血族を捕縛せよ』という御下命が記されていたようだな。この『螺旋忍法帖』があれば、螺旋忍軍の核心に迫る事ができるだろうが……」
そこまで言って、クロートはしばし言葉を切った。
ケルベロスによって奪われた螺旋忍法帖。それを入手すべく、今や日本中で忍軍の刺客が動き出している。
螺旋忍法帖を創れるのは、螺旋帝の血族だけ。その上、螺旋忍軍は螺旋忍法帖の場所を探し当てることができるため、偽物を用意して難を逃れるという方法も難しい。
だが、これは同時に絶好のチャンスでもある。敵が螺旋忍法帖を狙うならば、螺旋忍法帖を囮にして誘き寄せて、返り討ちにすることも可能なのだから。
「昔から、攻撃は最大の防御というからな。守ってばかりでは、いずれ逃げ場を失ってしまう。螺旋忍法帖を囮に多くの螺旋忍軍を撃破することで、お前達から螺旋忍法帖を奪うのはリスクが高すぎると、連中に思い知らせてやってくれ」
防衛戦の拠点は、石川県の金沢城と、北海道の五稜郭。この防衛拠点にて、襲い来る螺旋忍軍を迎撃し、螺旋忍法帖を守り抜くのが今回の任務だとクロートは告げる。
「お前達に向かって欲しいのは、金沢城の防衛だ。迎撃を担当してもらいたい螺旋忍軍は、『リリス公爵』。見た目はどこにでもいる女子高生だが、あくまで仮の姿だからな。人心掌握や知略に長け、おまけに戦闘能力も高い。ゲーム感覚で敵と戦うこともある、危険な女だぜ」
その外見に反し、知略に長ける戦術を用いるが故、付いた通り名は『悪魔公爵リリス』。配下として、同じく女子高生風の螺旋忍軍を5人程連れ、自らの取り巻きとして使役している。
「配下の螺旋忍軍は、機動力に長けた者が3名と、守りに主眼を置いた者が2名ってところだな。動きの素早い連中はエアシューズによる蹴撃を、リリス公爵の脇を固める護り手の2人は、日本刀による攻撃を得意とするらしい」
加えて、配下の全員が分身の術にも長け、毒や麻痺といった攻撃に耐性を得る術を持っている。また、リリス公爵自身は後方に下がり、性格無比な狙いによる手裏剣攻撃を仕掛けてくる。
「搦め手を許さず、こちらに力も蓄えさせない。さすがは忍者といったところだが、配下の一人でも突破させてしまうと、本陣に攻撃を仕掛けに行ってしまうからな。当然、お前達が敗北すれば、それだけ本陣にいる者の負担も増すぞ」
1チームが敗北した程度であれば支えきれるが、複数チームが敗北したり、あまりに多くの配下を通してしまったりした場合は、螺旋忍法帖を守り切れるという保証はない。リリス公爵だけでなく、配下も残らず全滅させることが、勝利へ繋がる鍵と言えるだろう。
「螺旋忍軍は謎の多いデウスエクスだが……どうやら、その謎に迫ることができるチャンスが回って来たらしいな。そのためにも、螺旋忍法帖を必ず守り抜いてくれ」
城で忍者と防衛戦とは、随分と時代錯誤な戦いもあったものだ。しかし、戦いの舞台としては、なかなか趣があるとも言える。
そう言って、クロートは苦笑しつつ、改めてケルベロス達に依頼した。
参加者 | |
---|---|
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414) |
ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466) |
アルディマ・アルシャーヴィン(リェーズヴィエ・e01880) |
小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080) |
御門・愛華(魔竜の落とし子・e03827) |
羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339) |
折平・茜(モノクロームと葡萄の境界・e25654) |
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869) |
●風雲金沢城
石川県金沢市。
かつて、百万石の領主の城であった金沢城は、今やケルベロス達と螺旋忍軍の双方が、螺旋忍法帖を巡って争う熾烈な戦いの場と化していた。
「城に忍にと。なかなか面白そうな舞台でございますね」
バケツヘルムを覆う炎を揺らめかせながら、ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)は辺りの様子を見回して言った。時代錯誤な防衛戦でありながら、しかし戦いの舞台としては趣がある、と。
「それにしても……少し、静かすぎますね」
周囲に人の気配がないのを察し、羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)が少しだけ張り詰めていた空気を緩めた。今の金沢城は、螺旋忍軍との決戦の場。そこに選ばれた以上、一般人など退去済みだ。
「やれやれ、こいつも持ち込み損になったか……」
同じく、水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)もまた、用意していた黄色いテープを放り出して言った。そもそも、辺りに立ち入るような者がいない以上、侵入を防止する必要もない。
ここは戦場、決戦の地。いつ、どこから忍の者が現れてもおかしくはない場所。だからこそ、一般の人間に扮した格好の者の方が目立ったのだろう。
「ん? あれやないか?」
小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080)が気配に気づき、指差したその先。6人組の女子高生が、一糸乱れず歩調を合わせ、こちらへゆっくりと近づいて来るのが目に留まった。
「こんにちは、リリス公爵」
宿縁の結ばれた相手を前に、御門・愛華(魔竜の落とし子・e03827)は、敢えて落ち着いた態度を崩さず、後方に控える女子高生へと声を掛けた。
「あら、私の名前を知っているなんて……光栄ね」
どこか小馬鹿にしたような口調で、軽く笑って告げる女子高生。だが、見た目こそ普通の少女に見えるが、彼女は『悪魔侯爵』の異名を持つ存在。
その見掛けに騙されてはならないことは、この場にいる誰もが知っていた。そして、彼女に戦いの主導権を握られたら最後、何を仕掛けられるか解らないとも。
「公爵。貴女の好きな勝負『ゲーム』をしましょう?」
いきなり武器を抜くことはせず、愛華はリリス公爵に提案した。
敵はこの戦いを楽しんでいる。ならば、より楽しめるように誘うことで、流れをこちらに向けられるのではないかと。
「ただ戦うだけでは面白くなかろう! ここは一つ、『戦って負けた方が勝った方の配下になる』という条件を付けるのは如何かな?」
続けて、ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)もまた、ゲームの条件について述べた。もし、負けることがあるならば、制服を着て全員がJK忍者になってやるとも。だが、しかし……。
「はぁ? あなた達、馬鹿も休み休み言いなさい。そんなゲーム、私が喜んで受けるとでも思ったのかしら?」
返ってきたのは、リリス公爵からの嘲笑的な言葉。他の5人の忍軍達も、気づけば薄笑いを浮かべてリリス公爵に便乗している。
「おいおい……ゲームってのは、賭ける物が有るから、面白いんだぜ?」
「そっちにとっても、損な話ってことはないはずや。おばちゃんたちを配下にすれば、いっきに戦力アップやで」
いきなり狙いが外れ、鬼人と真奈が再度ゲームの内容について説いた。が、それを聞いたリリス公爵は、ますます大きな溜息を吐いて、呆れた様子で首を横に振るだけだった。
「ほんっと、解ってないのねぇ、あなた達……。賭けるものなら、既に忍法帖を賭けているじゃない。それに、あなた達は負けても怪我するだけで済むかもしれないけど、私達は死んじゃうから、配下になるならない以前の話だし。そんなアンフェアなゲーム、乗る人の顔が見てみたいわよ」
あまり、螺旋忍軍を舐めないで欲しい。それが、リリス公爵からケルベロス達へと告げられた言葉だった。
「負けるのが怖いんですか? 貴女が私たちに勝てる自信があるなら、断るはずないでしょう?」
それでも、最後まで食い下がって挑発する愛華だったが、今やリリス公爵にとって、ケルベロス達の提案など興味の範疇外である。
「負けるのが怖い? その言葉、そっくりあなたに返すわよ。既に始まっているゲームのルールを途中で変えたり、新しいゲームで遊ぼうなんて言って、勝負の行方を誤魔化したり……。負けん気の強い子どもがゲームに負けそうになって、癇癪を起こしたときにすることじゃないかしら?」
それでも、そんなに自信がないように見えるなら、半分の戦力で相手をしてやろう。そう言って、リリス公爵はエアシューズを履いた3人の配下を下がらせると、残る2人と一緒にケルベロス達の前に立ちはだかった。
「さあ、行きなさい。あなた達には、このゲームを面白くしてもらう任務を与えるわ」
「了解で~す、リリス様!」
リリス公爵の言葉を受け、脱兎の如く後ろへ駆け出して行くJK忍者達。戦うまでもなく敵の半数がいなくなったことで、折平・茜(モノクロームと葡萄の境界・e25654)は思わず呆気に取られた表情になって呟いたが。
「もしかして、撤退した……のですか?」
「いや、違うな……。まさか、迂回して先に忍法帖のある場所へ!?」
敵の思惑に気が付き、アルディマ・アルシャーヴィン(リェーズヴィエ・e01880)が叫んだ時には、既に遅し。足癖の悪い3名のJK忍者達は、既に戦場から去った後。
抜けられたのではなく、撤退すると見せかけて迂回された。強引に押し通ってくるとばかり思っていただけに、これにはさすがのケルベロス達も意表を突かれた形となった。
「うふふ~、ご名答~♪ それじゃ、あなた達の相手はこっちでするわ。さ~て、どこまで楽しませてくれるのかしらね?」
両脇を日本刀使いのJK忍者で固めつつ、リリス公爵がにやりと笑う。晴天の下に映える金沢城を背景に、忍法帖を賭けた死亡遊戯が始まった。
●主導権
敵の半分が撤収し、数的な戦力比は8対3。手数だけならケルベロス達が圧倒的に優位だったが、ともすればリリス公爵は、この状況を楽しんでいるような素振りさえ見せていた。
「ほ~ら、手裏剣の雨が降るわよ? 上手く避けないと、血まみれになっちゃうかもね~♪」
制服の裾から多数の手裏剣を取り出して、リリス公爵はケルベロス達の頭上に、それらを纏めてばら撒いて来た。
「させへんで! 忍法、身代わりのじゅ……って、痛ぁぁぁっ!?」
仲間を庇って盾となった真奈の身体に、降り注いだ手裏剣の殆どが突き刺さった。それを見たリリス公爵は、片手を口元に添えると、さも楽しそうにして小ばかにするような笑顔を向けて来た。
「あっははは! まるで、御裁縫の針山みたいな頭ね! マジ、ウケるんですけど~♪」
「……っ!? なんや、楽しそうやな。そやけど、余裕かましてられるのも、今の内やで!」
この小娘に、遠慮は不要だ。お返しとばかりに蹴りを繰り出す真奈だったが、その一撃はリリス公爵の脇を固める、日本刀を持ったJK忍者に受け止められた。
「ご無事ですか、リリス様?」
眼鏡の位置を直しつつ、JK忍者がリリス公爵に尋ねる。普通の女子高生であったなら、剣道部員と生徒会長を兼ねていそうな雰囲気の少女だ。
「この、不埒者どもめ! 我らがリリス様に、指一本とて触れさせぬ!」
同じく、もう一人のJK忍者が、刀を構えてリリス公爵の前を固めた。こちらは単発に男勝りな言葉遣い。さしずめ、演劇部で男役を務めているような、宝塚タイプの女子高生だろうか。
「忍者がJKねぇ。紛れるって意味じゃ、ある意味、あってるが……」
それならば、JKらしく美しき花の幻に魅了されて散れ。鬼人が斬霊刀を抜き放つと共に、辺りに舞い散る桜吹雪。
「……くっ! そうはさせぬ!」
だが、その斬撃さえも、ショートカットのJK忍者にまとめて受け止められてしまった。それでも、魅了の効果は後から効いてくると思いたかったが、そこはJK忍者達も手慣れたもの。
「この程度で、私の心を動かせる等と思わないことだな!」
胸元で奇妙な印を結び、JK忍者の身体が複数に分裂する。己の分身を幻影として纏うことで、毒や魅了といった効果に耐性を得ようというわけだ。
「なかなか、やりますね。それならば……」
敵を分身させたままでは不利だと悟り、紺がパイルバンカー片手に距離を詰める。回転する杭を打ち込んで、敵の身体を加護諸共に、内から破壊するために。
「……ぐぅっ! い、今のは、少し利きましたよ……」
だが、その一撃でさえも、再び眼鏡JK風の忍者が身体を張って受け止めていた。
「あくまで、仲間の盾となる使命を果たさんとするか……。その心意気、敵ながら見事!」
ならば、もう一撃を受けとめる覚悟が果たしてあるか。今一度、勝負を受けて立ってもらおうと、ジョルディもまたパイルバンカーを繰り出して。
「……っ! しまった!?」
今度は命中。JK忍者の纏った分身を見事に破壊してみせたが、それでも戦いはこれからだ。
「遅いよ……」
氷の粒子を纏った拳で、更なる追い撃ちを繰り出す愛華。氷雪が陽光に煌き、氷漬けにされたJK忍者の制服が、その部分を中心に破けて行く。
「本当は、あの3人を追いたいところですが……」
自らの身体に溜めたオーラで頭に手裏剣が刺さった真奈の傷を癒しつつ、茜は配下二人の後方に控えるリリスを見やった。
先程から、彼女は殆ど一歩も動いていないが、しかしその身体から出る気迫は圧倒的だ。この不利な状況を楽しみつつ、それでいて決して隙を見せない。下手に戦列を離れようとしたら最後、後ろから手裏剣で狙い撃ちにされるだろう。
「ここは、確実に仕留めなくてはなりませんね。せめて、残る敵だけでも……」
妖精弓を構え、矢を引き絞るラーヴァ。その先端が狙うのは、敵ではなく味方であるはずのアルディマ。
「よし、まずは厄介な分身を潰させてもらう」
福と癒やしを宿した矢を受けて、アルディマの伸ばしたケルベロスチェインがJK忍者を絡め取った。瞬間、その周りにいた分身達も、木っ端微塵に砕かれたが。
「あらら……あなた達、思ったよりはやるみたいね。でも、そうでなくちゃ、面白くないわ」
戦いは、これらかが本番だ。もっと、もっと楽しませて見せろ。そう言って、リリス公爵が投げ付けた手裏剣は、巨大な竜巻を発生させて正面から愛華のことを飲み込んだ。
●戯れの果て
戦力を半減させてなお、ケルベロス達と拮抗し得るリリス公爵。だが、それでも手数の差は、確実に彼女の配下である二人のJK忍者を疲弊させていた。
互いに相手を庇い合い、交互に分身を纏ったところで、ダメージは徐々に蓄積して行く。おまけに、纏った分身をその都度破壊されてしまえば、思うように持久戦も行えない。
「どうやら、ここまでのようですね」
「リリス様……。我らが力、お受取り下さい!」
もう一撃食らえば確実に倒れると察してか、二人のJK忍者は自分達ではなく、リリス公爵へと分身を飛ばした。その隙に、鬼人の刃と真奈の鈍器がそれぞれJK忍者達を打ち倒したが、残されたリリス公爵は、それを見ても未だ余裕の笑みを絶やすことはなかった。
「うふふ……散々、この娘達と遊んでくれて、ありがとね。お陰で、私は全くノーマークのまま、お手軽にパワーアップさせてもらえたわ♪」
味方を盾にするだけでなく、身代わりとしての役を果たせなくなれば、その命を捨てさせてでも自らの強さの糧とする。無邪気な少女の奥底に住まうのは、非情なる刃の心を持った、螺旋忍軍の素顔そのものだ。
「いい加減、もう諦めたらどうですか? たった1人で戦って死ぬくらいなら、潔く負けを認めて私達の配下になった方が……」
「ふ~ん……だったら、あなたが私を力で屈服させてみればいいじゃない? できるものなら、だけどね」
もはや、倒されるのは時間の問題だと告げる紺だったが、リリス公爵は決して提案を受け入れようとはしなかった。ならば、共に忍法帖探しに協力してやろうと茜が言ったが、その言葉にもリリス公爵は揺るがない。
「悪いけど、螺旋忍軍は何もしなくても、忍法帖の場所を知ることができるの。だから、そんな条件、取引にもならないわね。残念~」
そういうわけで、いい加減、さっさと死んでくれないか。なぜなら、そろそろ戦いも長引き過ぎて、ゲームにも退屈して来たからと、リリス公爵はにやりと笑い。
「……っ! こちらを先に狙って来ただと!?」
投げ付けられた無数の螺旋手裏剣が後衛を襲い、アルディマが思わず額を腕で庇った。まずは、非力な狙撃手と回復役から潰しにかかる。セオリーを押さえた、実に堅実な戦い方だ。
「これ以上、好きにはさせん! 我が嘴を以て、その幻影を破断する!」
ならば、せめて分身だけでも砕こうと迫るジョルディだったが、繰り出されたパイルバンカーの一撃を、リリス公爵は難なく身を翻して避けてみせた。
「ほらほら、もっと良く狙いなさい♪」
先程から、配下のJK忍者達の分身を砕くために、同じ技を連発せざるを得なかった状況。そのことが、ジョルディを含む攻め手達の攻撃を単調にし、リリス公爵に攻撃を見切る隙を与えてしまっていたのだ。
「こうなれば、逃がさないようしっかり縫い止めて差し上げましょう。我が名は光源。さあ、此方をご覧なさい」
俊敏に跳び回るリリス公爵の動きを止めようと、ラーヴァが灼けた金属矢を放つ。が、その身を穿たれてもなお、リリス公爵は気にする様子さえ見せなかった。
配下が残した分身がある以上、毒も麻痺も気休めでしかない。圧倒的な戦力差があるにも関わらず、リリス公爵はケルベロス達と互角に渡り合う。
だが、それでも、やはり戦いに絶対は存在しなかった。
「確実に仕留めさせてもらうぞ!」
敵の行動パターンを見切ったアルディマが、分身諸共にリリス公爵へと一撃を叩き込む。衝撃に服が破れ、白い肌が露わになったところで、愛華が一気に間合いを詰めた。
「拘束解除……いくよ、ヒルコ!」
その身に取り込んだ魔竜の力。それを一度に解放し、自身の左腕を獄竜の爪へと変える。包帯が吹き飛び、現れし巨爪がリリス公爵の胸元を穿ち……そのまま、力任せに空中へ放り捨てた。
「アダムス男爵のもとに……貴女も送ります」
これで決まった。確かな手応えを感じ、魔竜の力を沈める愛華。しかし、その身が朽ち果ててもなお、リリス公爵は最後まで不敵な笑みを浮かべることを止めなかった。
「うふふ……私の負けね。でも、なかなか楽しかったわ♪ それに、今頃はきっと、あの娘達が……」
そこまで言って、今度こそ完全にリリス公爵は事切れた。だが、強敵を倒したにも関わらず、ケルベロス達の顔色は優れない。
悪魔侯爵との死闘の果てに、彼らが得たもの。それは、戦いに勝って遊戯に負けたという、苦い勝利に他ならなかった。
作者:雷紋寺音弥 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年6月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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