螺旋忍法帖防衛戦~刀花繚乱

作者:柚烏

『正義のケルベロス忍軍』として、東京で暗躍する螺旋忍軍の争いに介入した結果、一行は螺旋忍軍の拠点に攻め込むと言う大任を果たすことに成功した。
「今回の作戦では多くの情報を得た上に、『螺旋忍法帖』なるものの入手も出来たんだ。これも皆の活躍のお陰だね、本当にありがとう……!」
 皆の任務の成功は勿論、無事に戻って来てくれたことに安堵の笑みを浮かべながら、エリオット・ワーズワース(白翠のヘリオライダー・en0051)は情報を分析した結果、分かったことについての説明を行う。
「どうやら螺旋忍法帖には、『螺旋帝の血族を捕縛せよ』という御下命が記されていたみたいだね。これは螺旋忍軍にとって非常に重要な意味を持つらしく、彼らの核心に迫ることも出来そうなんだ」
 ――暗号の解読を行った結果、螺旋忍法帖とは螺旋帝の血族のみが創り出せるもので、これを拝領した忍軍は『螺旋帝の血族からの御下命を受ける』ことが出来るらしい。
「発見された螺旋忍法帖は現在、シヴィル・カジャスさんと嶋田・麻代さんが所持者になっているよ。けれど、此方が奪った螺旋忍法帖を手に入れようと、日本中の忍軍の刺客が動き出した……」
 どうやら螺旋忍軍は、螺旋忍法帖の場所を探し当てることが出来るらしく、永遠に守り続けるのは困難を極めるだろう。しかし――これは絶好のチャンスでもあるとエリオットは言う。
「敵が螺旋忍法帖を狙うなら、それを囮にして誘き寄せることも可能。……ずっと守り続けることは無理でも、逆に此方から攻撃して一網打尽にするなら、或いは」
 そうして、螺旋忍法帖を狙う多くの螺旋忍軍を撃破すれば、向こうもケルベロスに手を出そうとは思わなくなるだろう。それよりも他の忍軍から螺旋忍法帖を奪う方が、まだ望みがあると判断する筈だ。
「今回は石川県の金沢城と、北海道の五稜郭……この二か所を拠点として、螺旋忍軍を迎え撃つことになる。螺旋忍法帖防衛戦と言う訳だね」
 皆には其々の防衛拠点に向かい、襲い来る螺旋忍軍の迎撃を行って、螺旋忍法帖を守り抜いて欲しい――エリオットはそう告げた後、更に詳しい説明へと移っていった。

「……さて、僕の方からお願いするのは、五稜郭を襲撃する忍軍の迎撃になるよ。名前は飛鷹、剣術の秘技蒐集を行っている螺旋忍軍みたいだね」
 配下として下忍を3体連れているようだが、飛鷹自身は刀による真剣勝負を好み、剣士として認めた相手には仁義も見せる変わった一面もあるようだ。しかし、その実直さは確かな強さに裏打ちされたもの――力を認めぬものは容赦なく斬り捨てる、非情な仕事人であることを忘れてはなるまい。
「もし彼らに敗北してしまうと、残った敵は本陣に向かってしまい、螺旋忍法帖を守るひと達に負担がかかってしまう」
 敗北が1チームだけならば、なんとか支えきれるだろう。しかし、複数チームが敗北することになれば、螺旋忍法帖を守り切れないかもしれない。また、勝利したとしても配下の一部に突破されてしまった場合――突破した配下は本陣に攻撃を仕掛けてしまうので、出来るだけ突破させずに全て倒せるように頑張って欲しい。
「五稜郭と言えば、幕末に大きな戦があったことで知られるけれど……僕たちも守らなければならないものを背負って、この地に立つことになるんだよね」
 かつての戦で散っていった者たちに、思いを馳せたのだろうか――エリオットは一瞬、切なげな表情をしたけれど。それでも皆の無事を願い、彼は精一杯の笑顔を浮かべて敬礼した。
 例えその身が朽ち果てようと、心は最期まで想いを貫けるよう――譲れない信念を乗せた刃と刃が、遥か北の地で交差しようとしていた。


参加者
ハンナ・リヒテンベルク(聖寵のカタリナ・e00447)
北郷・千鶴(刀花・e00564)
吉柳・泰明(青嵐・e01433)
鳥羽・雅貴(ノラ・e01795)
四辻・樒(黒の背反・e03880)
月篠・灯音(犬好きの新妻・e04557)
ヴァルカン・ソル(龍侠・e22558)
レイリア・スカーレット(鮮血の魔女・e24721)

■リプレイ

●追憶の五稜郭
 螺旋忍軍同士の争いに介入した結果、ケルベロス達が手に入れた螺旋忍法帖。螺旋帝の血族からの御下命が記されたそれを奪取しようと、各地に潜む螺旋忍軍たちが一斉に動き出した。
 そんな彼らを誘き出して一気に叩く為、螺旋忍法帖を囮にした防衛戦が行われることとなり――その拠点に選ばれたのが、函館の五稜郭だったのだ。
「樒っ、みてみてっ広いね。ここってお墓なのだ?」
 歴史ある石垣を覆う眩いばかりの新緑を見渡して、月篠・灯音(犬好きの新妻・e04557)は傍らの相棒――四辻・樒(黒の背反・e03880)に声をかける。弾けんばかりに輝く灯音の笑顔に知らず表情を和ませて、樒は簡単に五稜郭の歴史を解説していった。
「元々外敵に備える為の、防衛拠点として造られたようだな。……折角だ、事が終わったら色々見て回ろうか」
 任務でなければ観光も出来たかも――と思っていた灯音に、囁くようにして樒が約束を交わすと、灯音の頬が仄かに染まる。
(「ううん、これはお仕事。私情は挟まない。私の仕事はみんなを守ること」)
 ――命がけの戦を前にしているのだと言い聞かせるが、それでも大切な人との約束は嬉しいもの。凛々しい相棒へ想いを寄せつつも、灯音は敵に備えようと気合を入れた。
「……まさか彼の地にて、剣を振るう機会があろうとは」
 一方、激動の時代に想いを馳せているのはヴァルカン・ソル(龍侠・e22558)であり――彼の脳裏に過ぎるのは、誠の文字を染め抜いた隊旗だったのだろう。刀での戦が終焉を迎えつつある中で、それでも武士として戦火に身を投じた者たちが、此処には居たのだ。
(「これも何かの縁か……守る為に、我等も戦うのであれば」)
 だとすれば、此処に眠る英霊たちに恥じぬ戦を見せなければ。ヴァルカンが腰の刀へ手を掛けたその時、周囲の偵察を行っていたレイリア・スカーレット(鮮血の魔女・e24721)が戻って来た。
「大体の道筋と方角は確認してきた。念を入れるに越した事は無いだろう」
 そう静かに告げた彼女は、此処から本陣までの距離を測っていたようで、万が一の際に迅速に動けるよう準備を行っている。その様子は普段と変わり無く、美しき戦乙女がこの地に何を想ったのか――ヴァルカン達に知る術は無い。
「うむ、しかし本陣との連絡は行えぬようだな」
 更に、何かあった際には情報を共有しようとしていたのだが、生憎と携帯電話や無線の類は使えないようだった。尤も、本陣を護る者たちも突破をしてくる敵に備えているだろうから、此方は此方でやれる事をするしかない――そっと深呼吸をしたハンナ・リヒテンベルク(聖寵のカタリナ・e00447)は、木洩れ日に瞳を細めつつ、緑のにおいを一杯に吸い込んで気持ちを落ち着かせる。
(「深手を負ったり、斃れたりしたら……古の勇士を悼む、優しい友人にも、心配かけること、なる……」)
 どうか無事にと祈りながら、北の地までヘリオンを駆ってくれた少年――その笑顔に、色とりどりの薔薇が重なって、ハンナはそっと両手を胸の前で組んだ。
「……成功させること、最優先に、できれば無事に戻らなくては、ね」
 そんな中、予知によって対峙する敵が分かっているのは幸いか。この地点から襲撃を行う螺旋忍軍は飛鷹と言い、剣術の秘技蒐集を行っているようだ。その名を耳にした時、常ならば水鏡の如き北郷・千鶴(刀花・e00564)のまなざしへ、微かな波紋が広がったことに――彼女と馴染みのある者たちは気付いていた。
(「中々複雑な繋がりがあるようだが、願わくは悔い無き決着を迎えられるよう」)
 私情を抑え、毅然と振る舞う千鶴を見つめる吉柳・泰明(青嵐・e01433)は、相変わらず大した娘だと吐息を零して。ならば自分は、彼女がその意志と道を貫けるよう、同志として力を尽くし支えようと誓う。
「あァ、アイツと同じニオイがする――」
 と、其処で不意に、鳥羽・雅貴(ノラ・e01795)の気配が一変――刃のような殺気を纏った彼は、気を付けろと一声かけてから素早く刀を構えた。
「俺個人としちゃ因縁はねーケド、何か、妙な感じが」
 ――その呟きと同時、一行の前に螺旋忍軍の集団が音も無く現れる。まるで、獲物を狙う鷹の如く舞い降りた忍び――その漆黒の髪を飾る鬼面を目にした千鶴は、指先が白くなる程にきつく、刀の柄を握りしめていた。
「――……っ」
 忘れる筈もない、己の目の前で血だまりに倒れ伏す父と、無表情で血塗られた刀を突きつける男。鬼面の陰から覗く瞳は酷く冷めていて、未熟な娘など興味が無いとばかりに、その時男は千鶴を見逃した――否、最初から目もくれなかったのだ。
(「飛鷹……あなたは、父の仇。然れど、単に此処で仇討ち等しても、父の無念が晴れない事は分かっております」)
 胸に渦巻く様々な想いを振り切って、千鶴は敢然と面を上げた。自分を支えてくれた人々、そして刀を手にする理由を思い出し――彼女は、遥か高みに舞う鷹へ挑もうと立ちはだかる。
「私の務めと本分は、護る事。復讐鬼となれば其れこそ父も泣く」
 ――故に今は唯、一番犬、一剣士として挑むのだと。そうきっぱりと告げた千鶴と、対峙する飛鷹を交互に見遣った雅貴は、泰明と共に彼女を密かに支えようと心に決めたようだった。
「……これも何かの縁、ってヤツかね」
 整った美貌にふわりと緩い笑みを浮かべて、雅貴が呟く中――此方の囲みを突破しようと身構える螺旋忍軍目掛けて、ヴァルカンが咆哮する。
「螺旋忍軍、主命に殉ずるその姿勢は嫌いではないが……貴様等をのさばらせておけば、我等が守るべき人々の平和を脅かす」
 彼の肉体の奥――地獄と化して燃え上がるのは、腹を抉られ失われた臓腑であり。纏う竜鱗はあかあかと、静謐な炎を思わせる輝きを宿していた。
「……ここは通さぬ、覚悟せよ」

●血風舞う
 下忍を従える飛鷹は、本陣を目指して押し切ろうとするが、一行は彼らを突破させないことを第一に行動を開始した。皆の方針は一貫しており、互いに隙を埋めつつ敵を包囲出来るよう、慎重に位置取りを行っている。
「挑む者を無視して、ついた背中の傷を誇れる筈もなし。まさか私達に、後ろを見せたりはしないよな?」
 盛大に歓迎してやろうと二刀を抜いた樒は、此方に注意を向けるべく飛鷹に挑発を行ったが――任務遂行を第一に考える彼の心は、これしきのことで揺らがないようだ。
(「上手く囲えぬのであれば、張り付き遮るまで」)
 ならば冷静に、此方の一点を突こうと斬り込んでくる飛鷹の姿を捉えた千鶴は、彼の牽制を行うべく刀を滑らせた。振るうのは、緩やかな弧を描く月光の太刀――狙い澄ました刃の切っ先が飛鷹を斬り裂く中、仲間たちはその間に配下を仕留めようと動き出している。
「卿等のような者を……飛んで火にいる夏の虫……と、この国の諺で、言うらしい、の」
 何故、来てしまったのと――翠緑の瞳を揺らしてハンナが問うが、騎士の血筋を継ぐ乙女は既に覚悟を決めていた。必要以上に争いを起こすのは、好きじゃない――けれどその結果、まもれるものがあるのなら。
「あなたの相手は、わたし……」
 戦旗靡く聖槍を構えたハンナが狙いを定めたのは、妨害を担う下忍。逃がさないと言うように、彼女の片手に握られた鎚が竜砲弾を撃ち出すと、一方で盾となる下忍にはレイリアの槍が迫っていた。
(「剣術の秘技蒐集、か。その秘技を使って、多くの屍を築き上げてきたのだろう」)
 空の霊力を帯びた穂先が敵の傷口を斬り広げていっても、レイリアの相貌は氷のように揺るがない。かつて剣を用いて多くの命を刈り取ってきた自分に、彼らを咎める資格は無いとは思うが――それでも、螺旋忍法帖を奪わせる訳にはいかなかった。
(「あのイグニスが関わっているならば、尚更だ」)
 ――己の罪と覚悟の象徴である剣を、彼女が抜くことは無い。剣士ではない今の自分に、向こうは露程の興味も持たないのだろうが、それでも腑抜けでは無いことを教えてやろうとレイリアは頷いた。
「さあ、死合おうか」
 そして、二刀の切っ先を突き付ける樒と言えば、普段愛用している得物とは違う感覚に、しっくり来ないとぼやいていたが。それでも彼女は問題なく刀を操り、空間ごと下忍を斬り裂いていった。
(「……が、思っていたより当て辛いな」)
 率先して斬り込む樒もレイリアも、躱されるリスクを考慮して本命の一撃を放てず――其処で苦戦している様子を見て取った雅貴が、詠唱と共に影の中から鋭刃を生み出して視界を眩ませる。
「お眼鏡に適うかはわかんねーケド、コレでも剣士の端くれだ」
 折角だから今回は、父譲りの剣術を駆使しようと雅貴は呟いて。彼の艶やかな銀糸の髪が、陽光を受けて刃の如き煌めきを放つ一方、光すら吸い込むような夜色の髪を靡かせる泰明は、雷の霊力を纏わせた刃を手に戦場を駆け抜けた。
「忍で敵とは言え、剣士としての礼節で以って挑みたく」
 そう言って名乗りを上げた泰明の信念そのままに、神速の突きが真っ直ぐに螺旋忍軍を貫く。守りを切り崩された敵は螺旋の力を放って此方の勢いを削ごうとするが、氷に阻まれても尚、ヴァルカンに宿る炎が消えることは無かった。
「……通さぬ、と言った筈だ。誰一人として」
「さて。戦に華でも、そえましょうか」
 鋼の音を鳴らして交差する刃と刃――刀で語り合うみたいなその様子に、灯音は思わず戦馬鹿なんて言葉が口を吐きそうになったけれど。
(「……それでも、その生き方は美しいと思うのだ」)
 番傘をくるりと回して戦場を舞う彼女は、桜を思わせる光の花びらを辺りに降り注がせていった。

●遥か高みに鷹は座す
 戦が激しさを増す中、一行は螺旋忍軍たちを此処から一歩も進ませないよう、互いに声を掛けて死角を補っている。妙な動きが無いか、後方からは雅貴が感覚を研ぎ澄ませ――牽制を行うと見れば泰明も、その身を壁にして行く手を阻んだ。
「千鶴……!」
 しかし――飛鷹に立ち向かう千鶴は、彼を抑えきることが叶わず、その卓越した技量に翻弄されている。何度と刀を振るい飛鷹の動きを封じようと、彼は千鶴の目指す高みを軽々と超えていくのだ。
(「遠い――けれど、必ずや掴んでみせる」)
 その太刀筋を焼き付け、この攻防と――そしてこれからに活かす為に。盾となる下忍が立ち塞がろうと、千鶴は視線だけは逸らさず、真っ直ぐに飛鷹を捉えようとしていた。
(「成すべきは父の意志を継ぎ、父も志したこの道を貫く事」)
 けれど鬼神の如き速さで距離を詰めた飛鷹は、すれ違いざまに一気に刃を奔らせる。間合いなど意味を成さないその太刀筋もまた、彼が蒐集した秘剣であるのか。膝を屈しかけたレイリア達へ、すかさず灯音が治療を行おうとするが――やはり彼女だけでは回復が追いつかなくなっていた。
「ごめんなのだっ。私では洗いきれないのだ」
 回復重視で動くと決めていたものの、仲間たちへの付与について、然程考慮しなかったのも仇となったか。状態異常の耐性を付けるか、守りを固めるか――或いは、攻撃の精度を高める手段を講じていれば、もっと素早く敵を仕留められたかも知れない。
「任せて……わたしも、まもる、から」
 其処で直ぐに危機を察知したハンナは、吹雪の精霊を召喚する手を止めて、あたたかな光で仲間の援護に回った。更に千鶴のウイングキャット――鈴の浄化の力が体内の痺れを祓うのを受けて、泰明は千鶴の元へと向かい、彼女が最後まで戦い抜けるよう助太刀する。
「番犬としても剣士としても、此処は譲れぬというもの。この先に血塗れた刃は通さぬ」
 泰明の振りかぶる剣――其処に宿る星辰の重力は、飛鷹の纏った幻影を一振りで打ち消して。押されつつある下忍たちは、更に分身をちらつかせて被害を逸らそうと試みたが、それもヴァルカンの放つ音速の拳が無効化していく。
「庇い合ったお陰で時間は掛ったが……終わり、だ」
 悠然とした佇まいで躍り出た雅貴の瞳が、瞬間剣呑な光を帯びて――影の如く忍び寄る刃は躊躇うこと無く、螺旋忍軍の急所を掻き切っていた。
 こうして盾となるひとりが倒れてしまえば、残る者に狙いを定めるのは容易だ。残る盾役を、稲妻を纏うレイリアの槍が一突きで葬ると――ハンナによって身動きを封じられていた最後の下忍も、大した抵抗が出来ぬままに押し切られていった。
「……これで、残るは一人か」
「ああ、飛鷹とやら……剣士としては、刃を交える機会があれば僥倖と思っていたが」
 配下の全滅を確認した樒、そしてヴァルカンらは涼しげな表情で刀を操る螺旋忍軍の男を見据え――剣術に通じるからこそ、否が応でも彼の実力を悟る。
(「叶うなら存分に死合いたいもの。貴様を斬るは我が役目ではないとは言え、この状況ではそうも言ってられぬか」)
 ――しかし、出来るのであれば千鶴が決着をつけられるよう。自分はそれを見届けたいと、ヴァルカンは願っていた。

●千の祈り
 配下を全て失ったとて、飛鷹は動揺する素振りを見せない。それどころか、下忍を仕留める程の実力があるのだと認めたのだろう――幾度となく振るわれる刀は、鬼を斬るかの如き鋭さで、眼前に立つものの血を啜った。
「得物は剣ではないが、剣士としての動きまで捨てた覚えは無い――」
 呟くレイリアは光と化して飛鷹を貫こうと迫るが、それさえ彼は軽やかにいなして、次なる攻撃へと繋げていく。飛鷹の機動力を決して侮っていた訳では無いが、千鶴ひとりで動きを阻害し切れるものでは無かったらしい。
 ――しかし、と雅貴は不敵な笑みを浮かべて月光の太刀を振るう。こうして自分たちも戦いに加わった。もう彼女ひとりに背負わせたりはしない。
(「決着は黙して見届ける――だが、俺に出来る事はやらせて貰う」)
 太古の畏れ――大蛇を斬り裂く太刀筋を、泰明は身体を張って庇い、ハンナは直ぐに治療を行いつつ最期を委ねようと、祈るように千鶴を見つめた。
「平穏な世の為に尽くす事こそ、何よりの手向にして私の悲願。……同胞に迫り、引いては更なる戦を招く刃は、此処で止める」
 静かな構えから一転――千鶴の放つ一太刀は、鬼すら怯むような疾く鋭いもの。遥か高みの鷹へ、一人では決して届かなかった刃。しかし遂に、千の祈りを抱いた鶴は鷹を捉えたのだ。
「――……届いた」
 手向けの如く、儚い桜花が舞い踊る中で鬼面が断ち切られ――秘剣を求め続けた忍は、己の焦がれる剣戦の中でその命を散らしていった。

 こうして激戦の末、敵の突破を完全に防ぐ形で防衛は成功した。相容れぬ仲とはいえ命を奪ったことへの哀しみに、ハンナが十字を切って魂の安寧を祈る隣で、樒と灯音は番傘を差してそっと寄り添う。
「……帰りましょうか」
 ふたりの行く先には、ふと――舞い散る桜花のまぼろしが見えたような気がした。

作者:柚烏 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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