●螺旋忍法帖
螺旋忍軍の拠点に攻め込むという大任を果たしたケルベロス達に、新たな報が届く。
凌霄・イサク(花篝のヘリオライダー・en0186)は単刀直入に話を切り出した。
「お疲れ様です、ケルベロス様。螺旋忍法帖については既に聞き及んでいらっしゃるかと思いますが」
前回の作戦では多くの情報を得た上に、シヴィル・カジャスと嶋田・麻代が螺旋忍者にとって重要な意味を持つ『螺旋忍法帖』の所持者となった。
螺旋忍法帖には『螺旋帝の血族を捕縛せよ』という御下命が記されているようだが、この螺旋忍法帖があれば螺旋忍軍の核心に迫ることが可能だろう。
螺旋忍法帖は、螺旋帝の血族だけがその血で内容を書き足し、創り出せるという貴重なものだ。其処に書かれた御下命を果たした忍軍はスパイラスに招聘され、一族郎党全てに『勅忍』の栄誉が与えられる。これは螺旋忍軍にとって最高のステータスであり、最終目標でもある。
だからこそ、螺旋忍法帖を奪おうと、日本中の忍軍の刺客が動き出していた。
螺旋忍軍は、螺旋忍法帖の場所を探し出すことが出来るらしく、永遠に守り続けることは至難だ。
「ですがこれは、ある意味好機であるとも言えます、ケルベロス様」
敵が螺旋忍法帖を狙うならば、これを囮としておびき寄せ、撃破することが可能なのだから。
「ここは是非とも、敵を誘い出して攻撃に転じましょう」
そして多くの螺旋忍軍を撃破すれば、二度とケルベロスから螺旋忍法帖を奪おうとはしない筈だ。
「防衛戦は、石川県の金沢城と北海道の五稜郭、この二箇所を拠点として行うことになります、皆様には金沢城の拠点へと向かって迎撃していただきたいのです」
螺旋忍法帖を守り抜き、敵を撃破すること。
それが今回の依頼であるとヘリオライダーは告げた。
●金沢城防衛戦
「どちらの拠点にも、多くの螺旋忍軍が襲撃して来る事でしょう。皆様には金沢城にて、螺旋忍軍の『トリスタン』を迎撃してください」
迎撃地点は此処、とヘリオライダーは金沢城周辺図を広げて示した。
諜報者トリスタン。
権謀術策、情報収集及び情報操作を得意とする螺旋忍軍として、エインヘリアルに仕え、彼らから資源や秘技を密かに盗み続けていた。
しかし螺旋忍法帖がケルベロスの手に渡ったことを知ったトリスタンは、潜んでいた世界をあっさりと捨て、金沢城を襲撃する。
螺旋忍法帖を手に入れることが出来れば、己のものとするのも良し、もっと他の強い忍軍に取り入るのも悪くないだろう。個人的に有意義に使うことも出来るかもしれない。
また自分が手に入れることが出来なくとも、螺旋忍法帖に関する情報を得ることは有益だと判断したトリスタンは、配下を引き連れて動き出している。
スカイブルーの髪で、温厚そうな執事姿のトリスタン。ちらりと覗く金色の懐中時計。およそ螺旋忍軍らしくない容姿をしている。
そして配下は4名、これまた螺旋忍軍らしくないメイド姿の配下だが、こちらも隠密活動に長けた者達。
「見た目にそぐわず、トリスタンは戦闘も不得手ではありません。しかし性格的に正面切って戦いを挑んでくるタイプではないので、迎撃には細心の注意を払っておくことが必要でしょう」
最初に仕掛けてくるのは配下のメイド達。
「そして1、2ターン後にトリスタン自身が攻撃してきます。目的のために手段は選ばず、己の不利益になることはあっさりと切り捨て、愉悦の為に動く身勝手な敵です。お気をつけください」
トリスタンの得意な獲物はナイフ、それと札による巫術。配下のメイド達は螺旋の力と九尾扇を使う。
それから、とイサクは説明を加える。
「この戦いは、敗北してしまうと敵が本陣へと向かってしまいます」
つまり、螺旋忍法帖を守るチームに負担がかかってしまう。
敗北が1チームならば、なんとか耐えきれるかもしれない。しかし複数のチームが敗北してしまった場合は、螺旋忍法帖を守り切れなくなる可能性が高くなる。
勝利したとしても、配下の一部を取り逃がした場合はその配下は本陣を襲撃するので、可能な限り配下をも含めた敵の撃破を目指すのが良いだろう。
今回は螺旋忍法帖を守る重要な防衛戦であると同時に、螺旋忍軍の謎に迫る切欠となるかもしれない。
イサクは一礼すると、貴方達をヘリポートへと導く。
「――それでは、ヘリオンでご案内致しましょう、ケルベロス様」
参加者 | |
---|---|
水守・蒼月(四ツ辻ノ黒猫・e00393) |
レナード・アスコート(狂愛エレジィ・e02206) |
海野・元隆(一発屋・e04312) |
黒斑・物九郎(ナインライヴス・e04856) |
嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574) |
レティシア・シェムナイル(みどりのゆめ・e07779) |
エフイー・ヨハン(虚空の彼方をも狙い撃つ機人・e08148) |
幌々町・九助(御襤褸鴉の薬箱・e08515) |
●金沢城
各所に工夫が凝らされ何度も修築された様々な種類の石垣が見られる金沢城。石垣の博物館とも呼ばれるらしい美しき城を背に、ケルベロス達は敵を待つ。
「やれやれ、忍法帖とやらよほど大事なもののようだが、城攻めまでしてくるとはおおごとだな」
海野・元隆(一発屋・e04312)はスキットルの酒を呷った。
足元は些かふらついているようにも見える。
螺旋忍法帖。
ケルベロスが手に入れた二つのうちのひとつが、ここ金沢城に囮として在る。
そして現在、日本各地の忍軍の刺客が動き出していた。
「内部抗争激しい割りに統率取れてたのはそんなカラクリだったのな。こちとら苦労して手に入れたんだ、そうおめおめと横取りさせるかってな」
嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574)は敵の奇襲を警戒しつつ、おびき寄せる隙を作ろうと試みる――と、いっても油断は出来ない。仲間達とたわいなく話すくらいだ。
それに内心はレナのことが気がかりだ。
(「や、当人はとても楽しくやるだろうが……」)
何となく目に浮かぶものがあり、陽治は小さく息を吐く。
視線の先で、レナード・アスコート(狂愛エレジィ・e02206)は普段と変わりない。
赤い髪に隠された顔の左半分。覗くストロベリーピンクの右目は敵の姿を探して周囲の景色を隙なく眺めていた。
「どうしたんだ、ヨージ兄ちゃん」
首をかしげるレナードに、陽治はなんでもないと笑みを見せた。
そんなレナードの背を、幌々町・九助(御襤褸鴉の薬箱・e08515)が見つめる。
(「レオがあいつを倒すのを、見届けねえとなあ」)
――あいつ。
此処を襲撃すると予知された、レナードの宿敵。
石垣を背にしての布陣は、敵の攻撃方向をある程度絞り込んで奇襲を避ける為の策。
その目的としては、作戦は上手くいったと言えよう。
彼らが待ち伏せた前方から、メイド姿の螺旋忍軍は現れたのだから。
「まぁ、判りやすい反応っちゃ反応なんだけど」
水守・蒼月(四ツ辻ノ黒猫・e00393)が意識を研ぎ澄ませれば、周囲のあちこちで複数の戦闘が始まった気配。螺旋忍法帖の強奪を狙う敵が、各々本陣を目指している。
「一気に攻めて来たか。それにしても、忍者って何だったけ?」
現れた敵の姿を見て、蒼月は思わず呟いた。
クラシックな黒のメイド服で衣装を誂えた少女達は、これまた揃いの九尾扇を手に襲撃する。顔も同じ螺旋の面で覆われ、揃いでないのは若干の身長差くらいだ。
「僕も忍者だけどこんな派手に……派手に……」
蒼月の黒い尾がくるんと動く。
「ごめん、派手に動いてるね。それも服装とか忍ぶ気皆無だった!」
蒼月の螺旋氷縛波がメイドの1体に放たれる。氷結の螺旋がメイドの片手を凍らせた。
メイドも氷結の螺旋で元隆を狙う。
しかし元隆が先程までふらついていた様子は勿論演技で――すぐに雰囲気が切り替わり、スキットルの代わりに構えたハンマーが攻撃を受け止める。
「ま、この程度じゃ酔わんよな」
心眼覚醒で受けた氷片を散らし、武器に宿す破剣の力。
「まったく、デウスエクスがメイドを侍らせるなんて烏滸がましいぜ!」
エフイー・ヨハン(虚空の彼方をも狙い撃つ機人・e08148)は仲間の背後にカラフルな爆発を起こして士気を高める。
「私も螺旋忍者でメイドだケド……螺旋忍法帖を渡すワケにはいかないノデ……撃破させて貰うネ」
レティシア・シェムナイル(みどりのゆめ・e07779)のホーミングアロー。妖精の加護を宿した矢が、敵を追尾する。
レティシアの攻撃を見届け、エフイーは確りと頷いた。
「本当の主従関係ってモンを教えてやる!」
レティシアはエフイーのメイドなのだ。つまり、エフイーはメイドを配下に持つ敵にどうしても対抗したいのだ。
「ご主人様が一緒ナラいつもよりも頑張れそうな気持ち……」
レティシアはウイングキャット『イチマツさん』をぎゅうっと抱きしめてから放す。イチマツさんは敵にキャットリングで攻撃する。
「姓は黒斑、名は物九郎! ブチのめしてやりまさァ! ブチネコだけに!」
響き渡る名乗り口上は、黒斑・物九郎(ナインライヴス・e04856)の声。
同時に放つフロストレーザー。熱を奪う凍結光線。
別のメイドが九尾扇を振り、幻夢幻朧影を発動して光が拡がった。
敵ポジションは今まだ不明だ。
陽治の万象浸透撃が眼前に迫った敵へと接触し、対象の内臓等重要器官を破壊する振動波を断続的に放つ。
「――弾けろ!」
敵は衝撃でびくりと震えた。
振動波を受けたメイドに、後方のメイドが百戦百識陣で癒しと破魔力を与える。
その隣で前衛に立つメイドが、己の体に分身の幻影を纏った。
「ふふ、面白い技ですね。よく見せてもらいなさい、エイミ」
柔らかな声音が響く。
エイミと呼ばれたメイドが見上げる先、メイド達を仕切る執事の姿が木の上。唐突に現れたのでなく、メイド達が現れるのと同時に其所に居た。
配下達に先に仕掛けさせ、己はケルベロス達の動きや技を高見の見物ときた。
その遣り方に従順な配下、……という事もなく、彼女たちの中には明らかな不満が漂っている。エイミと呼ばれたメイドはすぐに飛び退いて陽治と距離を取った。
レナードのフレイムグリード。炎弾は執事へと放たれるが惜しくも掠めた。
執事の青年は面白そうにその様子を眺め、レナードは地を蹴って距離を詰めにいく。
九助のビハインド『八重子』がメイドに金縛りを仕掛けるも防がれた。
その間に九助が、脳のリミッターを狂わせる薬を迅速に散布、投与する。
「レオ」
「九助……うん、姉に似てる……でも、」
振り返らず応えるレナードの口角が僅かに上がる。
「でも殺すぞ、敵は敵だ」
御襤褸霊薬、愛別離苦。壊の力がレナードに付与される。
「やれ」
九助の短い声援が、力と共に送られる。
執事姿のトリスタンは、仕掛けてこない。
唯々、レナードの姿を眺めて優しげに笑っていた。
●執事とメイド
「勅忍ってそんなに良いものなの? 上の命令聞くだけの下っ端と変わらなそうに思うけどね~」
蒼月の言葉にメイドは反応しない。執事の存在にケルベロス達が気づいたと同時に、彼女達の動きが若干変わった。積極的に攻撃をしてこない。
蒼月の気咬弾がメイドの1体に喰らいつく。
「とても良い物ですよ、たぶんね」
メイドの代わりに執事の声が降ってくる。
戦場に居ながら、まるでお茶会でもしているかのような優雅さで佇み、攻撃を食らう配下を観察してケルベロスの戦力を計っていた。
エフイーと陽治が前衛のメイド2体をひきつけ、レナードが跳躍して執事に接近する。
後方のメイド2体が素早く下がり始めた。
元隆が轟竜砲を撃つが、下がるメイドを前衛のメイドが庇った。
「ディフェンダーか」
上手く前衛のメイドを足止めしたものの。
……後衛のメイド達はケルベロスや同胞達と距離を取る。
執事の表情は相変わらず笑っていた。戦いを愉しみ、けれど瞳はひどく冷たく感じる。
戦場を、ケルベロス達を、そして己の配下をも愉悦の道具として扱う。そんな執事を戦場に残し、この場を突破しようとする2体のメイド。
勅忍や螺旋忍法帖がそんなに良い物なら、彼女達は彼女達の目的でそれを狙うのかもしれない。忍軍同士での権謀術策と内部抗争、騙し合いが続く螺旋忍軍なのだから。
「ターゲット・ロックオン!狙い撃つぜ!」
Lock On Field。ヨハンに搭載されているエレメンタルシステムの機能の一つが発動。
ラディエントクリスタルから生成されるフォトンエネルギーを特殊フィールド展開能力に変換し、それをエレメンタルシステムによって広範囲展開させる、命中精度の上昇だ。
「ハッ! 従者にだけ戦わせる奴に負けるかよ! それにな、メイドとしての優秀さと可愛さは俺のメイドさんの方が何倍も上だぜ!」
「はい、ご主人様。頑張りマス……!」
レティシアの陰流・癸。水の力で高速で突進する奥義。強い魔力が敵を捉えた。
「これでモ、忍者なのデ……!」
エフイーとレティシアは息の合った連携を見せつける。
対する敵のメイドは、執事に従っているものの、動きはメイド達同士で合わせている。
離れ始めた2体を援護するディフェンダー。
物九郎の旋刃脚が前衛メイドを捉え、陽治が投げバールで後ろのメイドを狙う。
エクスカリバールはメイド服を切り裂くも、敵は戦場を迂回し本陣を目指す。
残ったメイドが九尾九節鞭を放って牽制する。陽治の眼前に伸びた扇の羽はエフイーが上手く庇い、イチマツさんと八重子は氷を受けた。
配下が執事を置いて突破する事は想定外だが、逆に言えば戦力が減ったのでケルベロス達は攻勢に出る。トリスタンは何としても仕留めねばならない。そして可能な限り早急にこの場の敵を撃破して突破した配下を追いたい。
「……イイのかよ」
配下が彼を置いて突破した事を揶揄するも、その状況すら面白がるよう笑うトリスタン。
レナードの血襖斬りが、未だ戦況を眺めるだけの執事を深く斬り裂く。
「構いません。それこそ、螺旋忍法帖の魅力を改めて感じませんか」
血を滴らせながら枝を蹴って飛び降りる執事、それを追うレナード。
絶対に逃がさない。
追われる執事もナイフを抜いた。
「先に遊んであげましょう」
あくまでも螺旋忍法帖を狙うトリスタン、対峙するレナード。
背後で九助のブレイブマインによる彩が爆ぜた。
●確執
「とりあえず、執事さんぶっ倒そう! 頑張ってこう!」
蒼月の影から大小様々な猫が這い出る。そしてメイドの1体にまっしぐら! 幻術『狩猟解禁』の猫たちに襲われたメイドは、扇をわたわたと振る。
「搦め手といえなくもないか」
元隆の煌めきを帯びた蹴りがメイドを確実に狙い、炸裂する。
エフイーのハウリングフィスト、レティシアの気咬弾と連携でダメージを重ねた。
オルトロス『デザイア』は地獄の瘴気で毒を撒く。
「ヘーイ、レナードおねーさーん! 察するにアイツとなんか因縁アリアリってトコなんでしょうわ? ならもっと殺気アゲてけるんじゃニャーですか? ヘイヘイヘイ!」
物九郎はメイドを狙って着実に当てていく。
雪さえも退く凍気を纏わせ、突き刺したパイルランカー。手応えを感じながら武器を引き戻せば、メイドは足元をふらつかせながら反撃に出る。
螺旋氷縛波の斬撃が物九郎を襲う。
「レナ」
陽治の降魔真拳がメイドの体に深く穿たれ、それが致命傷となった。
「楽しく愉快にアゲアゲでいくぞぉ!」
レナードの殺戮本能(マッドネスラブ)――殺意を快楽エネルギーとして取り込む。恋のように純粋な殺意、殺し合い愛し合いたいという衝動のままに、敵を攻撃する。
ナイフはトリスタンを幾重にも刻んだ。
敵もまた、逆手に握った黒き刃を閃かせてレナードに切りつけた。
互いの刃から滴る血が地面に落ちる。
「ふふ……熱い、ですねぇ」
切り刻まれ、血を流す熱に包まれながら、刃の切っ先をレナードの瞳へ向ける。
まるで眼球を狙うように。
「レオ」
ライトニングボルトの雷光が執事を撃つ。
刃を引いて身構えるトリスタン。
九助が烏の羽をはばたかせて移動し、レナードの背後に控える。
「面白い。今日は何を奪ってあげましょうか」
「残念っ、何にもあげないよ!」
蒼月の螺旋氷縛波が、メイドの体を凍らせた。
「それに、これ以上は行かせねえ――そら、お迎えだ」
元隆による彷徨える幽霊船は、海に連なるものに伝わる秘儀の一つ。
何処からともなく現れた巨大な幽霊船が、メイドを押し潰して心身に衝撃を与える。
凍り付いた体をつぶされたメイドは九尾扇を振り上げるも、攻撃を繰り出す力が残っておらず息絶えた。これで、この場の敵は、執事のみとなった。
エフイーのブレイブマインが仲間達の士気を再び高め、レティシアのホーミングアローは執事を射貫く。
「――起源を此処に。我が右手を以って差し招く」
物九郎の、招福猫児・起源。猫にまつわる民間伝承を拡大解釈し実再現する秘奥「信仰の具現化」。右手の動作をトリガーに、敵の腹部へと雷を叩き込む。
「――ッ!」
トリスタンの体に痺れが走る。
立て続けに繰り出す陽治の万象浸透撃が振動波を放つ。
間近に見る敵の姿に、陽治の瞳は複雑な色を浮かべた。
小さく舌打ちし、懐から金鎖の時計を取り出す執事。鎖に繋いだ小瓶には綺麗なストロベリーピンクの眼球が入っている。時計の針が回り、癒しは発動する。
レナードは刃に虚の力を纏って敵を激しく斬りつけた。繰り返し繰り返し斬り付けては傷口から生命力を簒奪する、その体を背後から九助が更に回復する。
●終焉
トリスタンは視線を巡らせた。おそらくは離脱の隙を窺っている。
されどケルベロス達の集中攻撃の前に、そのような好機は無かった。
蒼月の影から喚び出された猫たちが次々と飛びかかってくる。噛み付かれ、引っかかれる敵に、元隆の気咬弾が食らい付く。
「主従関係、崩壊って所だな」
エフイーの凍結光線は敵の片足を凍らせた。
「ご主人様をしっかりとお守りするのがメイド……なのデス」
レティシアの祝福の矢はレナードに破剣の力を与えた。
「俺のレティちゃんが最高のメイドだぜ!」
エフイーは爽やかに笑って、レティシアははにかんだ。
物九郎のイガルカストライクがトリスタンを突き刺した。凍気は傷口から凍らせてゆく。
「今だ、レナードおねーさん!」
「おう」
レナードはナイフを握る。
「まだです」
敵は指に挟んだ螺旋符を投げつけた。魔力が爆ぜて輝き、前方に白光が奔る。
後退しようとする敵の間合いに踏み込み、瞳に映す姿と表情。昔の記憶をなくしたレナードの中に、明確に甦るものは無い。けれど。
(「これでもうオレは何も奪われないんだ」)
短く息を吸い込み、血濡れのナイフは殺意を放つ。
「最後に手向けだ。殺<アイ>してやるよ」
トリスタンの愉悦の笑みは最期、僅かな驚愕に見開かれた。
「お前は、お前の為に、レオに散々酷ぇ事をしたんだよな?」
九助の声が静かに告げる。その声が届くや否や、全身を刻まれて倒れゆくトリスタン。
「じゃあ、今度は、レオの為に――悪いな、しんでくれ」
鈍い音をたてて崩れ落ちた宿敵。血だまりに沈む亡骸を見下ろすレナード。指は武器を握ったまま小さく震えて、瞳には熱いものがじわりと込み上げる。
九助の優しい手が髪に触れた。
途端、堰を切ったように泣きじゃくる。
「こわいものは、いなくなった……!」
子供のように大声で泣くレナードの背や頭を撫でて、九助も泣きそうな笑みを浮かべた。
――好きなだけ泣いて欲しい、遮りたくない、
「……お前は、正しい」
突破した配下は向かった先で撃破される。ケルベロス達がその後の進展と状況を知るのは、それから少しだけ後の事。
作者:藤宮忍 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年6月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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