「シヴィルたちの入手した暗号文書の解読が完了した……なかなか興味深いないようだぞ、これは」
リリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)は螺旋忍軍への攻撃、そして螺旋忍法帖のダッシュを労いながら、得られた成果を報告した。
螺旋忍法帖……螺旋帝の血族だけが作れるという、螺旋忍軍の重要な密書はケルベロスたち……シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)と嶋田・麻代(レッサーデーモン・e28437)の二名を所持者として記録したらしい。
「その意図はわからないが、螺旋忍法帖の内容はシンプルだ……『螺旋帝の血族を捕縛せよ』……恐らく螺旋忍軍の核心に迫れる御下命なのだろう」
螺旋忍軍なら、更に別の意図を読み取れるのかもしれないが、情報はまだ足りない。そしてリリエがいうには、時間もあまりない。
「どうやら螺旋忍軍は螺旋忍法帖の位置を追跡できるらしい。日本中の螺旋忍軍が一斉に動き出している」
襲い来る刺客から、永遠に忍法帖を守り続けるのは困難極まりない……と、ここまで説明して、リリエはにやりと笑った。
「だから、殴り返してやろうじゃないか」
螺旋忍軍が螺旋忍法帖を狙ってくる……ということは、逆に言えば行動を限定できるということ。螺旋忍法帖を囮に多くの螺旋忍軍を撃破すれば、敵も戦略を考え直してくるだろう。
「防衛戦の場所は石川県の金沢城と北海道の五稜郭の二つ……私たちの担当は五稜郭になった」
地図の一点に丸を描き、リリエは呼びかけた。
「今回、ぶつかることになるだろう螺旋忍軍は『逃し屋』と呼ばれる者たちだ」
赤髪の麗人『ピジョンブラッド』を頭目とする彼らは、人からデウスエクスまで、あらゆる『逃亡』を助ける事を専門とする。
螺旋忍法帖の重大性もさることながら、奪われた秘宝を奪還……逃すという状況は逃し屋として望むところ、というわけか。
「技は多種多様だが、今回は螺旋手裏剣を中心として攻めてくるだろう」
またピジョンブラッド自身はウィッチドクターに似た、対ウィッチドクター用のグラビティも研究しているらしく、これを配下もふくめ使用してくる。
ピジョンブラッドが後方に立ち、理知的で巧みさな采配してくることが多いようだ。
「今回、彼が従えてくる配下は……四体ほどか。先述のもの以外は特徴のない螺旋忍者だが、いくつか注意してくれ」
リリエが言うには、今回の戦いは螺旋忍法帖と所有者を守る戦いだ。本陣を守るケルベロスたちも控えてはいるが、突破が増えれば彼らへの負担も増える。
一チーム程度の敗北ならカバーできるかもしれないが、それ以上は非常に危険だ。
「ピジョンブラッドの阻止は勿論だが、配下の突破にも気を付けてくれ……相手は逃亡の専門家だ。陽動、迂回はお手の物だろう」
任務の為とあらば死して屍拾うものなし。何が彼らをそこまでさせるのだろうか。
「……螺旋忍軍はデウスエクスの中でもあまりに謎が多い。今回はそれに迫るチャンスかもしれないな」
一つの謎を解けば、それは更なるチャンスにつながる。螺旋忍法帖、なんとしても守り抜かねば。
参加者 | |
---|---|
カルディア・スタウロス(炎鎖の天蠍・e01084) |
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542) |
旋堂・竜華(竜蛇の姫・e12108) |
ヒューリー・トリッパー(微笑の道化・e17972) |
筐・恭志郎(白鞘・e19690) |
空木・樒(病葉落とし・e19729) |
ルチアナ・ヴェントホーテ(波止場の歌姫・e26658) |
フェニックス・ホーク(炎の戦乙女・e28191) |
●いつも通り、と言う時は
北海道は函館、五稜郭。
江戸の終わりに北の守りとして建造された数奇な運命の城塞、その一角でケルベロスと螺旋忍軍はぶつかった。
「さてさて、御手を広げてよーい……!」
だしぬけに仕掛けたのは、ヒューリー・トリッパー(微笑の道化・e17972)の『拍手一喝気霊撃』。
身を霊力と気力の生み出すショックウェーブは効果てきめん、隠密気流を切り裂く大音響には螺旋忍軍といえど無視できない。
「ふむ。そう動かざるを得ないだろうな」
ヒューリーは眉を上げる。効果はよくて半分か……無視こそされなかったが、振り向いた男の顔に驚きはなかった。
「ありゃ、外しましたかね?」
「絡め手が得意なタイプとは聞いていましたが……警戒もさすがのようですね」
隙なく構える螺旋忍軍、その中央に一際目立つ紅玉の衣装。噂に違わぬ逃し屋『ピジョンブラッド』の姿へ、カルディア・スタウロス(炎鎖の天蠍・e01084)は繋がらぬ無線を捨て、警戒を確信に変える。
奇襲は完全に読まれていた。厄介『そう』ではない……厄介極まりない難敵だ。突破、奪取が目的の逃し屋に戦いを選ばせたという点は勝ったといえるが、状況はよくて五分。
「賛辞はそのままお返ししよう。躱せるのならば避けたかったよ、ケルベロス」
「その賛辞、真意なら喜ばしいのですが……ピジョンブラッド、逃し屋の方々」
流麗に飛び出した旋堂・竜華(竜蛇の姫・e12108)がご機嫌ようと一礼する。まさに流れるがごとく襲い掛かる、炎を纏う八岐の鎖。それを合図に、猛攻が始まる。
「病葉落とし、だったか。似合わぬことを」
「お会いできて嬉しいですよ、ピジョンブラッド。依頼の達成が、わたくし個人の目的とも合致したのは」
その最先鋒をいくのは空木・樒(病葉落とし・e19729)。一見して普段通りの声だが、筐・恭志郎(白鞘・e19690)にはその気負いが一目見てわかる。
「大丈夫、『いつも通り』頑張りましょう」
彼女は矢面で槌を振るうような人ではない。声に出して霞構えで突く恭志郎だが、一抹の不安はぬぐえない。いつも助けてくれた彼女の力になりたい、そのためには目の前の螺旋忍軍を足止めし、倒す事だが。
「ふーん、あんたもピジョンブラッドっていうんだ」
「ふむ、それで?」
「ならば忍法叙述トリック!」
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)の任侠めいた前蹴り『ファナティックレインボウ』をピジョンブラッドは事も無げに受け流す。
名前の奇縁も、彼一人には手に余る。ピジョンブラッドとピジョン・ブラッドの差は、いろいろな意味で大きいのだ。
「来ます、気を付けて!」
何時の間にか放たれた螺旋手裏剣が彼の目前、ルチアナ・ヴェントホーテ(波止場の歌姫・e26658)の展開した雷壁に火花を散らす。彼女がなければ危ないところだった……二人の紅玉は一瞥、再び散開する。
「忍軍に知り合いはいないけど……対ウィッチドクターの研究にはとっても興味があるわ」
それはやはり樒を意識してのものだったのだろうか? ルチアナは呟き、思う。誰が相手であれ、ウィッチドクターの一人として負けられない。
「強いね。まだ奥の手じゃないみたいだけど……ぴじょぶらっ……ぴじょっ……舌かみそーだよー!」
言いながら実際噛んでいる。舌足らずを振り払うように、フェニックス・ホーク(炎の戦乙女・e28191)の『ブレイブマイン』が火を噴いた。
「バクレツ火遁スペル! ……こんな感じでいいかな?」
まろーだー先輩に頷かれ、うなずき。忍法帖忍者大戦、開幕である。
●阻止戦
「いつも通りでいきましょ!」
ヒューリーも樒に呼びかける。積極的に攻め、邪魔し、攻撃を誘導。その手に薬匙の雷杖がない時点で、彼女の心境は感じ取っていたが、これほどとは。
「知らなかったよ、君が手折りたいほど情熱的だったとは」
返事は叩きつけられる浸食の弾丸。話すことはないとばかりの拒絶だが、それ自体が逃し屋に乗せられているのではないか? そう考えてしまう。
「あるいはそれすら目論み見通り……でしょうか♪」
「……!」
配下の螺旋忍を絡めとり、竜華は魔眼で問いかける。求めるのは答えでなく服従。逃し屋から戦力を奪い取れれば、それは効果的で愉しいことだったのだが。
「せこい真似しやがって!」
カルディアの咆哮で鎖が弾ける。罵倒は仲間でなく、螺旋忍へのもの。迂回する螺旋忍の手裏剣が駆け抜けざま、竜華を狙ったのだ。
「コソコソ抜け駆けなんざ考えんじゃねぇ、進みたきゃブッ倒して進むんだな!」
十字を切る蠍宮の星辰に、螺旋忍は仲間と躊躇なく身を引く。優先すべきは妨害ゆえ、弾き切れなかった。
「付き合いが悪いですね、もう……」
モニタに『ドンマイ』と浮かび上がるテレビウム『マギー』に、竜華はため息をつく。とにかく数が減らせない。
「いかせませんよ。参ります――!」
「守りは一流、か」
隙あらば突破を目論むピジョンブラッドへ恭志郎必殺の突きが刺さるが、浅い。霞構えの烙華は無視できぬ威力だが、打倒す間もなく、放たれる手裏剣が追撃を拒む。
「散らばりすぎたか……ッ、銀の針よッ」
張り付いた螺旋忍が長を援護しようとする様に、ピジョンは咄嗟『ニードルワークス改』で応戦。封じたものの、影を縫い付けられた螺旋忍は転倒の勢いを乗せ手裏剣を放つ。さすがは精鋭というべきか、テレビウム『マギー』のモニタが突き抜かれ、煙を吐く。
「先輩!」
フェニックスの呼びかけに総重量7.5kg、重量級『まろーだー先輩』が羽ばたくが熱は冷えない。手裏剣に塗られた毒……形は違えど、殺神ウイルスの仕業だ。
「ウイルスの強毒は即効性です。メディックの技でも、一度では……ッ」
「構っている場合かな?」
樒の声が声と拳に遮られる。遅れはとっていないといえ、前衛で槌をふるいながらいつも通りというのは、かなり無理がある。
「だったらッ!」
フェニックスの翼が燃えあがる。風がダメなら炎だ。いつもの彼女のぶんは自分たちでカバーすればいいだけだ。
「……翼炎術――不惜身命『燃え尽き滅び黄泉還れ!』」
吹き上がる火柱が敵味方を遮りサーヴァントを強引に癒しあげた。
●突破危地
「小細工はさせませんよ……!」
恭志郎の縛霊手が御霊殲滅砲を連射する。狙う必要はない、まずは足止め、そしてばらまかれた大量の分身術の始末だ。今の彼は盾であり、露払いの射手でもある。
「ありがとう……とらえましたよ。さぁ、炎の華と散りなさい……♪」
応えたのは竜華の微笑み、絡めとった八岐の鎖が炎を上げる。業火に焼かれる螺旋忍が引きずられ、灼熱の鉄塊剣の前へ。『桜火爛漫』の太刀が一刀両断、螺旋を断つ。
「まずは……いえ、やっとでしょうか……」
高揚はすぐにひく……時間はケルベロスたちの味方だが、それも永劫にとはいいがたい。恭志郎の構え直す太刀を手裏剣の大竜巻が襲い掛かる。
「逃げてばかりじゃなく正面からー……って、このタイミングはちょっとセコくないですかね!?」
「正面からも行くさ、勝てるならね」
ボヤキまじりのヒューリーの挑発を、蹴り込まれた気咬ごと受け流すピジョンブラッド。戦力を集中してでも抑えるべきだった。この男、逃し屋と言えど戦下手では決してない。
「く……樒さん……!」
逃し屋たちが前線を押し上げるのと同時、跳ね飛ばされる樒、恭志郎。隠密服の特殊生地が螺旋の真空に裂ける。弾けた忍び装束の下、黒珠の肌が血に染まる。
『立ち上がって……まだ大丈夫……けどこのままじゃ……!』
『女神の福音』が伝えるルチアナの思念に、樒は飛びかけた意識を引き戻した。庇った恭志郎は……ダメか。せめて薬匙の雷杖を手にした自分がいれば……首を振り、樒は考えを振り払う。
「くそ、待ちやがれ……!」
視界の端、カルディアたちが螺旋忍へ追いすがっている。双剣の放つ凍結弾に遮られ、しかし着実に距離を離されている。早急な加勢が必要だが、しかし。
「苦戦は止む無しか。ならば……」
目の前を離れようとする紅玉の色に、暗殺者の迷いは消えた。手にした槌を力の限り、ピジョンブラッドへ薙ぎ払う。
●それは勝利か、敗北か
その選択は宿敵も考えていた。考えていたが、意外という顔があった。
「突破させてならないのは誰か、考えれば自明の理でした」
めり込んだハンマーの槌床を樒が振り抜く。ピジョンブラッドの身体が吹っ飛んだ。
「二兎を追えぬなら、大きい方を……ですね」
掲げられたルチアナの雷杖『舳先の女神』が……いや、それに取りついたオウガメタルが眩しい黒の輝きを放つ。
嵐に飛び込む勇者を助ける逸話の通り、絶望の黒光はピジョンブラッド、そして螺旋忍の足を釘付けにした。
「ありがとよ! 逃しちまったぶんまで……切り裂いてやるぞ、ズタズタにぃぃ!!」
信号弾を放ち、カルディアは怒りに地獄と化した心臓を燃やす。『レス・アルニャート』から漏れる力は魔蠍の双剣に宿り必殺の『ル・クール・デュ・スコルピヨン』と化す。
「さぁ、残りは……」
「ピジョンブラッド、あなただけです……!」
竜華とカルディア、烈火と鮮血の赤が紅玉に向く。優雅な礼から繰り出される鎖と剣舞の連携には、さしもの逃し屋も退かざるを得ない。
そしてそれを見逃すケルベロスたちでもない。
「よーし! 今こそ『ひゃくしきほーい』の陣!」
「ドーモ、フェニックスさん……それじゃ改めて、ジャマーさせてもらいますよ、っと」
陣形を見出したフェニックスの『百戦百識陣』がみなぎらせた力を、ヒューリーは力の限り縛霊手に込める。初手では手元で弾いた力を今度は敵前へ。放たれる『御霊殲滅砲』が退路を断つ。
「退路は絶望、ならば進路に希望をと言いたいが――」
再び両手の手裏剣から大竜巻。息を吐いたピジョンブラッドだが、諦めの文字は全くない。このしぶとさも逃し屋の才能といったところか。
「まぁそうだよねぇ……折角の縁だ、最期まで付き合おうじゃないか」
竜巻の地獄へ、ピジョンその身体を割り込ませた。癒しを受け続けても殺神ウイルスの効果は健在、長くもたないなら全てを縁繋ぎに使ってやる。
「決着を――」
跳ね飛ばし、弱まる暴風を貫いて燃え上がる鎖がピジョンブラッドを抑え込む。恭志郎の打ち込んだ死合いの烙印を、樒の渾身の黒影弾が撃ち抜いた。
「仕舞です、逃し屋」
討伐の証と、樒がピアスに手をかけたのをピジョンブラッドは止めなかった。その代わり、血に濡れた唇が数語ぶん動かす。
竜華にも意味は分からない。ただ、戦い抜いた逃し屋たちへ彼女はドレスの裾を摘まんで一礼する。
「……駄目で元々でしたが、足のつくものはないようですね」
「となると至急、追撃に……と、いいたいところですが。間に合いますかね」
報告にヒューリーはため息を一つ。突破されたのは螺旋忍二名、長たるピジョンブラッドを止めることだけはできたが、勝ち抜けたといってよいものか。
勝利であったとして、それは苦い勝利だった。
作者:のずみりん |
重傷:ピジョン・ブラッド(スターゲイザー・e02542) 筐・恭志郎(白鞘・e19690) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年6月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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