螺旋忍法帖防衛戦~死慕ノ華

作者:東間

●好機到来
 ケルベロス達が『正義のケルベロス忍軍』となり、螺旋忍軍の拠点へ攻め込んだ。
 結果、多くの情報得る事が出来た上に、シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)と嶋田・麻代(レッサーデーモン・e28437)の両名が、螺旋忍者にとって重要な意味を持つ『螺旋忍法帖』の所持者となったのだ。
「まずはお疲れ様。聞いた話じゃ、『螺旋帝の血族を捕縛せよ』って書かれてたそうだね。ごかめい、だっけ?」
 ラシード・ファルカ(赫月のヘリオライダー・en0118)曰く、螺旋帝の血族のみが創れるという『螺旋忍法帖』があれば、螺旋忍軍の確信へ迫れる可能性があるという。
 だが、それと同時に、ケルベロスが奪った螺旋忍法帖を手に入れようと、日本中にいる忍軍の刺客が動き出していた。
「面倒な事に、螺旋忍軍は螺旋忍法帖の場所を探し当てられるとかでね」
 つまり永遠に守り続ける事は困難。
 なんだけど――と、ラシードはにっこり笑った。
「向こうが螺旋忍法帖を狙うなら、それを囮にして誘き寄せて撃破……っていう事が出来る。つまり、今の状況は絶好のチャンスとも言えるんだ」
 多くの螺旋忍軍を撃破出来れば、向こうは『ケルベロスから奪うなら他の忍軍から』と考え、ケルベロスから螺旋忍法帖を奪おうとしなくなるだろう。
「防衛戦拠点は2箇所。石川県の金沢城と北海道の五稜郭だ。君達には、五稜郭に向かって欲しい」

●螺旋忍法帖防衛戦~死慕ノ華
「螺旋忍法帖を守る為、五稜郭である螺旋忍軍の部隊を迎撃して欲しい。部隊を率いている螺旋忍軍の名前は『葛』」
 両の手を巨大な爪状の武器で覆い、紅と黒の装束を着た女だ。会えば一目で判るだろう。
 葛に率いられている配下の螺旋忍軍は4体。
 葛を合わせて5となるその部隊は、前衛と後衛のバランスが取れており、全員ヒールグラビティを有しているようだ。
「相手のバランスを崩す事が勝利の鍵になるかな。それと大事な事がもう1つ。螺旋忍法帖を守る為にも、敵を突破させないよう尽力して欲しいんだ」
 螺旋忍法帖に書かれた御下命を果たした忍軍は、惑星スパイラスに招聘され、一族郎党全てに『勅忍』の栄誉が与えられる。これは螺旋忍軍にとって最高のステータスであり、最終目標でもあるという。
 故に、もしケルベロス達が敗北すれば、残存している敵は本陣へ向かう筈だ。
 複数チームが敗北した場合も同じく本陣へ向かい、結果、螺旋忍法帖を守るチームに負担が掛かり、螺旋忍法帖を守りきれなくなるかもしれない。
 そして勝利したとしても、配下の一部に突破された場合、その配下が本陣に攻撃を仕掛けるのは明白な為、ラシードは『出来る限り突破させず撃破して欲しい』と真剣な表情で重ねた。
「城と仲間と、忍法帖……全てを守るのは大変かもしれない。だけど、君達ならきっと大丈夫だ」
 頼んだよ。
 いつもの言葉を添えた男は、赤い目をふ、と和らげて未来を託す。


参加者
メルティアリア・プティフルール(春風ツンデレイション・e00008)
藤守・千鶴夜(ラズワルド・e01173)
連城・最中(隠逸花・e01567)
サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)
フィー・フリューア(赤い救急箱・e05301)
ノイアール・クロックス(魂魄千切・e15199)
尾神・秋津彦(走狗・e18742)
百鬼・神酒(一花心・e29368)

■リプレイ

●相対す
 視界が広い。全員がそう感じるこの場所は文字通り開けており、戦うには丁度良く――残念ながら奇襲に向かない、そんな場所だった。螺旋忍法帖の奪取を目論む敵が油断している、という可能性も低いだろう。
 そんな相手へ奇襲を仕掛けても成功は難しい。ケルベロス達は早々に判断し、気持ちを切り替え、待った。数秒――数分――そして。
「いらっしゃったようですわね」
「1、2……うん、全員確認」
 藤守・千鶴夜(ラズワルド・e01173)とフィー・フリューア(赤い救急箱・e05301)。瑠璃と鮮やかな黄緑の目に映るのは、凄まじい速度で向かってくる敵影5つ。
 尾神・秋津彦(走狗・e18742)は『葵崩之太刀』に手をかけた。ローカストの絶対制御コードに等しいといわれる忍法帖の為、敵は決死の覚悟で来るのだろう。
(「しかしそれは此方も同じ。矜持と矜持の競い合いであります」)
 鍔をぴん、と弾き風のように駆けば、ノイアール・クロックス(魂魄千切・e15199)もパシッと拳を合わせ続いた。
「頑張っていくっすよ! 攻めの防戦、出来る限り守ってやろうじゃないっすか!」
 ニッと笑うその横には、のそのそ起き上がってから主に続くミミック・ミミ蔵もいる。
 敵陣目掛け最初に閃いたのは、サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)がぶん、と投げた大鎌の刃と、秋津彦が繰り出す雷光の突き。寸前で動いた2体が攻撃を受けた直後、宝石を媒介に形を成した植物が忍軍の足に絡み付き、ミミ蔵作の武器も襲い掛かる。
 フィーの編んだ雷壁が癒しと共に建てば、傍らの星灯りと共に、風でふわりたなびく白と黒。千鶴夜の構えた『Altair』が火を噴き、ポラリスの喚んだ炎が奔れば、耳をつんざくような音と共に風穴ひとつと悲鳴がひとつ。
 その一瞬。僅かな間だけ、葛が止まった。螺旋の面に覆われて顔も視線もわからないが、見つめる先には鮮やかな衣纏う機械鬼が1人。
 しかし、ざ、と風が吹いた次の瞬間、葛は両手多う巨大爪をかしゃんと鳴らしていた。刀傷と銃創負った忍軍の傍らに燃ゆる花が咲く。
「狙いは変わらない。でも、邪魔な奴は殺して」
「了解」
 答えた配下達が一斉に手裏剣を放つ。暴風の如き勢いで飛来するそれは2つに分かれ、後衛へ。しかしそれは、盾であるノイアールとメルティアリア・プティフルール(春風ツンデレイション・e00008)が許さない。
「ま、これくらい、どうってことないけど。前衛はボクたちに任せてくれるよね、神酒?」
「これまた頼もしいこと。なら、安心して任せよか……」
 向けられる笑みへ、百鬼・神酒(一花心・e29368)は笑みを返し、その背に触れる。
 頼む、と添えられた言葉はどれ程強く届いたろう。メルティアリアは髪をかきあげ空へ飛び、虹と共に急降下。箱竜ヴィオレッタの癒しに、神酒の描いた守護星座が続く。
 毒が祓われたメルティアリアを含め、盾として立つケルベロスの数は3。彼らの強さをより強固なものへ。とうに外した眼鏡は懐へ――連城・最中(隠逸花・e01567)はオウガ粒子を解き放つ。
「――守りきってみせましょう、全てを」
 光が溢れるその向こう、仲間越しに注がれる視線へと、神酒は眼差しを向けた。
「葛」
 名を口にすれば、ぴくりと僅かな反応。
「……遊ぼか、昔のように」

●眼差し
 敵が動くそれより疾く、サイガは漆黒の爪に降魔を宿してぎらりと笑う。
「ちゃあんと案内してやんよ。来な、死出の旅にも駄賃が必要だ」
 獣のように地を蹴って、防具ごと肉を抉って斬ったのは、先程他を庇った忍軍だ。その体を秋津彦の喚んだ御業が真っ赤に染めながら灼けば、傷みは更に増す。
「ぐっ……! 忍法帖を持つに値しない、地球の狗が!」
 詰り、分身を纏った忍軍だが、己の後方に降り注ぐ無数の刀剣を見て飛んだ。葛の代わりに体中を斬り裂かれ呻く姿に、最中はかすかな溜息をつく。
「勅忍、ね。俺達を倒せずに名誉も何もないでしょうに」
 敗者となっても、忍法帖を手に入れたら名誉が、勅忍の地位が手に入るのか?
 最中の挑発に忍軍が何か返そうとした時、傷口を覆うように火の花が咲いた。
「神酒……そいつらの、せい?」
 囁くような問い掛けに、鬼面の下で瞳が動く。
「アナタがアナタじゃなくなったのは、そいつらの、せい?」
 昔は、まだ――もっと――。
 配下を癒したばかりの葛は、何かを呟きながら、ただ1人へ意識を注いでいる。それへの答えは、戦場照らす絶望の黒太陽。
「なんや、わしに幻想抱き過ぎやないの。変に色気付いた憧れを押し付けられても知らんわ」
 幻滅したと勝手に喚きなさる、笑わせるのも大概にしい――そう突き放すような言葉は、傍から聞いているとキツイく感じられて、千鶴夜は困ったように笑うと葛を見る。
 忍法帖と、隣に立つ鬼面の男。葛から見て、どちらが今ある絶好の機会か。どちらであれ――舐められては困る。娘は微笑み、白銀の銃口から雨霰が如く銃弾を撃ち出した。
「無事任務を達成出来る様、努めましょう。まずは、1体」
 崩れ落ちたのを確認してからポラリスと呼べば、星の隠者の祈りがノイアールを癒していく。その刹那、掌が、螺旋が、後ろへ――しかし。
「ぅぐッ! 百鬼さん、大丈夫っすか?!」
 小さいけれども頑強な盾、ノイアールは無事を確認すると真剣な表情から笑顔へ変わる。
「良かった、うまく庇えたっすね」
「ほんま、頼もしいわ」
 視線を、言葉を交わしてすぐ前へ。ミミ蔵の噛み付きを躱した忍軍の頭目掛け、
「そぉーらっ!」
 釘だらけのエクスカリバールでフルスイング。真っ赤な飛沫がびしゃりと地を濡らす。
 ねえ、と呼ぶ声にフィーは手にある電撃杖をひらり。疎通はそれで事足りた。
「治癒が得意って言っても僕の方が上だよ。君じゃ忍法帖には辿りつけない」
 それじゃ、治癒合戦といこうか。
 『今度は』届かせて、癒してみせる――葛へ鮮やかな目を向けながら放った電撃は、確かな癒しとなってメルティアリアへ宿り、それを受け激しさを増した虹の軌跡は、敵方の盾へ降った。
 ヴィオレッタの竜炎にのまれたその目に怒りが射したのを見て、メルティアリアはフンと鼻を鳴らした。
「ばっかじゃないの。こんな小さい子ひとり倒せずに、突破出来るわけないでしょ?」
 この中では一番小柄だからこそ、その言葉は敵軍へ余計に刺さったろう。サイガはくっ、と笑い獲物を捉える。
「使い走りお疲れさん」
 だが、これは他人事では無いのだと知っている。同じものを相手に見ている。しかしそれはそれ、これはこれ。御託は抜きだと音もなく刃を当てたその次には、忍軍の胴を思いきり掻き斬った。
 大きく欠けたそこを押さえた2体目が、多量の赤を流しながら動かなくなり――奏でられるように、かしゃんかしゃんと爪の音が響き始める。
「やっぱり、そいつらのせいで……アナタが、私の恋したアナタじゃなくなったんだ」
 爪が、葛が霞み――揺れた。

●咲いて裂いて
 ケルベロスを喰らおうと一瞬で迫った深紅の爪が、飛び出したミミ蔵に深い傷を付ける。ノイアールが思わずあっ、と声を上げると、ミミ蔵が両足でその場にぐぐぐ、と踏み留まって見せた。
「うう、かわ……じゃないっす! いや、可愛いっすけど!」
 だんっ、と地を蹴り跳べば、敵方最後の前衛に電光石火の蹴りが決まる。主に続くようにミミ蔵が斧を作り出すが、噛み付きと同じ頑健型だった為、ひらりと躱されてしまった。
「葛様、ここは我らに任せて先へ!」
「どうか螺旋忍法帖を!」
 残り2体となった配下が手裏剣を、内に螺旋渦巻く一撃をミミ蔵に放ちながら言うと、思い出したのか――ほんの一瞬、葛が止まった。しかし。
「はら、もう行ってまうん。久しく会う割につれんね……昔はよう後ろを長様長様、と愛いかったのにのう」
 虚ろな刃を閃かせ、1体をからその生命力を奪った神酒が、残念そうに。途端、ぐん、と葛が男を見る。
 灰髪が踊った僅かな間、立て続けの攻撃で後ろへぐらつき、尻餅をついた小さな体に2つの癒しが飛んだ。
「これは2人一緒がいいかもね」
「絶対に……守り切るんだからっ……!」
 フィーの指先が力強く、そして的確に、深い冬色へ変じたメルティアリアの決意と癒しが、ミミ蔵の受けた傷をたちどころに癒していく。ヴィオレッタからの癒しも加われば、もう大丈夫。
「さあポラリス。3体目と参りましょう」
 浮かべる微笑みは優雅に。星屑踊るような裾の下、太腿のホルスターへ素早く手を伸ばす様は大胆に。千鶴夜の一撃はあまりにも一瞬で、反応が遅れた忍軍から鮮血が溢れる。
「まずい、このままでは……!」
 忍軍はポラリスが重ねようとした炎を避け、そして体勢を整えようとしたのか。回復しようとしたのか。どちらにせよそれは叶わない。
 ケルベロス達は敵の数を減らすのに合わせて包囲を進めていた。それが見事にはまったのは、彼らがしっかりと狙いを合わせ、逃走阻止を念頭に置いた戦い方をしていたからに他ならない。例えば――。
「困りますね。逃がしてもらえると思われたんでしょうか」
 常に目を光らせる存在は複数。回り込んだ最中の言葉遣いは丁寧だが、その温度は冷えていた。
 神速の斬撃は一瞬だけ煌めきを残して忍軍を斬り伏せ、手応えに最中はああ、と呟き、秋津彦も尾を大きく揺らして最後の配下を見る。
「成る程、弱点が見えました」
「小癪な――」
「遅い!」
 秋津彦は一瞬で距離を詰めた。その身のこなし、刀法は狼の名に恥じぬ見事な突きとなり、忍軍を喰らい尽くす。
 雷光の太刀筋がとけて消えれば、残るのは牙に囲まれた花一輪。

●裏見草
 独りとなっても、葛の心は折れる様子を見せなかった。ただひたすら、神酒以外のケルベロスへ向けて恨みを紡ぎ、爪をふるい、花の火を灯していく。
「お前達が……お前達さえいなければ、神酒は、私の知ってる神酒のままだったのに」
 2人の間に何があったのか最中は知らない。わかるのは、葛が過去を取り戻す為に『親しい者』を狙うという現状。地を蹴って、炎と共に奔る。
「……随分と悪趣味なことで」
 生憎、誰も倒れさせる気は無い。その想いと、これまで見せつけた仲間への信頼は真のものだ。だからこそ、仲間達の心強さに己の仕事で応えようと――存分に動く事が出来る。
 炎の蹴撃に、フィーは癒しではなく攻撃で続いた。自らの最善を願った処方箋の果て、大丈夫、という確信がある。
「これ、あげるよ」
 割れて溢れたウイルスが、葛の得意とする癒しを阻む毒になった。
「――返して」
 そう囁き、重ねた両の爪。妖しく立ち上った光が花弁と化し、飛翔する。
 頬に走った傷みで、サイガは自分が狙われたと気付き、同時に、葛の戦い方が効率を無視し始めていると悟った。それだけ鬼面の男に情を抱き、情を抱いているからこそ周囲に強い恨みが向いているのだろう。
「結構。愉しもうぜ、どうせなら」
 五指を捩じ込んだその表情は苛烈なまでの笑み。けれど内にある芯は冷えていた。何故なら相手は忍。しかと殺さねばならない。
 その為の一撃を――昼空の下でも、影のように捉えられない斬撃を千鶴夜も見舞う。流れるように葛を見て感じるのは、自分達への殺意と執着。
(「本陣へ向かう事は、もう――」)
 考えては、いない。
 もし考えたとしても、ここに集ったケルベロス達から逃れる術は無かったろう。
「ヴィオレッタ、ボク達も行くよ……!」
「お、相棒との連携、いいっすね! ミミ蔵!」
 2組の主従が更なる攻撃を連ねれば、鮮やかな装束はより赤々とした地に濡れていき――がく、と傾きかける。だが葛は、爪を突き立て、立ち上がろうとしていた。そこに、影が落ちる。
「葛」
 名を呼べば、頭がぴくりと揺れた。
 上を見れば、赤い眼が2つ。
「往生しよか」
「あ――」
 ぼ、ぼ、と現れた『それ』が、未練を溢す声が、ぞぞぞぞ、と葛を包み込んでいく。
 やがて灯る焔は全身へ広がっていき、想いに憂い、病んだ花を冥土へ誘った。

 終わった後、彼らは本陣がある方を見つめる。
 残念ながら、携帯電話の類は使えない。
 此方は全て討つ事が出来た――だからどうか、と、仲間達の無事と成功を願う。

作者:東間 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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