螺旋忍法帖防衛戦~営業の基本はスマイル

作者:絲上ゆいこ

●集まれ! 螺旋忍軍!
「よぉ、よーく頑張って来てくれたみたいだなぁ、正義のケルベロス忍軍サン達」
 冗談めかして言ったレプス・リエヴルラパン(レプリカントのヘリオライダー・en0131)は笑み。
 そして片目を瞑ってから、掌の上に立体映像の資料を展開した。
「改めてお疲れさん。お前たちの頑張りで多くの情報が得られ、そしてシヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)クンと、嶋田・麻代(レッサーデーモン・e28437)クンが『螺旋忍法帖』を手に入れる事ができたぞ」
 ケルベロス達の収集した暗号文章の解読結果によると。
 螺旋忍法帖とは、螺旋帝の血族のみがその血によって創り出す事のできる『螺旋帝の血族からの御下命を受けられる』螺旋忍軍にとって重要な代物である。
 『螺旋忍法帖に書かれた御下命』を果たした忍軍は惑星スパイラスに招聘され、一族郎党全てに『勅忍』の栄誉が与えられる事となるそうだ。
 一つの御下命で、その誉れを受け取る事のできる忍軍は1つだけ。
 勅忍となる事は螺旋忍軍たちにとって最終目的であり、最高のステータスなのだ。
「どうやら螺旋忍法帖には螺旋忍軍に対する制御コードが仕込まれているようでな。受け取った螺旋忍軍は、御下命を必ず果たさなければいけないという精神状況に陥る様だが……、お前たちケルベロスは作用されないから安心して欲しいぞ」

 今回の螺旋忍法帖には『螺旋帝の血族を捕縛せよ』という御下命が記されていたようだ。
 肩を竦めたレプスが一度瞬きすると立体映像が切り替わり、先日対峙する事となった9つの螺旋忍軍の名が浮かび上がる。
「この前まで暴れていた忍軍たちは、おそらく螺旋忍法帖を拝領していて『螺旋帝の血族を捕縛せよ』という一つの目標に向かって足を引っ張り合って居たようだが……。今回、螺旋忍法帖をお前たち正義のケルベロス忍軍が2巻き奪ってしまっただろう?」
 レプスは首を傾げ、ケルベロスたちを見渡す。
「螺旋忍法帖を持たない者が御下命を果たしても、勅忍になる事は出来ないそうだ」
 立体映像が更に切り替わり、螺旋忍軍という文字が大量に溢れだした。
「しかし直接螺旋忍法帖を拝領した忍軍で無くとも、螺旋忍法帖を手に入れさえすれば勅忍になれるチャンスがある。奪う絶好のチャンスを得たと、日本中の螺旋忍軍達が正義のケルベロス忍軍を狙って目ざとく動き出したんだ」
 螺旋忍軍は『螺旋忍法帖の場所を探す』事が可能であり、どんな厳重な金庫に保管したとしても守りきる事は出来ない。
 いつ来るか解らぬ螺旋忍軍の襲撃に備えて、常にケルベロス達が警護し続ける事は難しいだろう。
「そういう訳でだ。逆に螺旋忍法帖を囮にしておびき寄せ、一網打尽にしちゃおう大作戦って訳だ」
 多くの螺旋忍軍を返り討ちにすれば、ケルベロス達から螺旋忍法帖を奪う事は困難だと螺旋忍軍たちも気づくであろう。
 楽しげに笑うレプスが、映し出した映像は五芒星の形をした水堀。北海道の五稜郭だ。
「ここを防衛拠点として、螺旋忍軍を張り切って返り討ちにしてきてくれよな」
 そして、掌の上の映像は切り替わる。
 次に映し出されたイラストは、朗らかな笑顔を浮かべたあ赤いマフラーにスーツ姿の男だった。
「このチームに担当して貰う螺旋忍軍は、このキリフダがリーダーだ。コイツは一見すれば普通の営業マンにも見える男だが立派に螺旋忍軍だぞー。どうやら、キリフダが手裏剣っぽいと認めれば何でも手裏剣として投げてくるようだな」
 切り替えた地図に、レプスは石垣の前に赤く丸い印を刻む。
「この当たりで待機してくれれば、丁度キリフダたちとカチあえるはずだ」
 キリフダは部下を5人引き連れ現れる。
 戦闘になれば部下を盾とし、注意深く手裏剣で狙いを定めてケルベロスたちを撃退しようとするだろう。
「もしお前達が負けちまった場合、残った敵が本陣に向かい螺旋忍法帖を守るチームに負担が増えてしまう。キリフダを撃破したとしても、部下の一部に突破されてしまった場合、部下は本陣に攻撃を仕掛けに行くぞ」
 複数のチームがそうなってしまった場合、最悪螺旋忍法帖は奪われてしまうかもしれない、とレプスは肩を竦めて資料を閉じる。
「ま。お前達の事だから、オニーサンはそんなに心配してないがなァ。さあて、城で防衛戦ができる機会なんて、この時代滅多に無いぞ。しっかり守ってきてくれよなー」
 両手を一度合わせて瞳を細めたレプスはケルベロス達の顔を見渡し、微笑んだ。


参加者
ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)
八千代・夜散(濫觴・e01441)
リリウム・オルトレイン(星見る仔犬・e01775)
木戸・ケイ(流浪のキッド・e02634)
リィ・ディドルディドル(悪の嚢・e03674)
ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)
小鞠・景(冱てる霄・e15332)
クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)

■リプレイ

●瀞のように
 複数の敵の気配を感じ、キリフダとその部下達は足を止めた。
 見上げた先には、石垣の上に立ったリリウム・オルトレイン(星見る仔犬・e01775)の姿。
 張り詰めた空気。――宿敵、と言うべき相手であろう。
 二人は視線を交わし合い。永遠のように長い一瞬の間が流れ、口を開く。
「おやおや、お嬢さん。お久し振りですね」
「えっ? おにーさんだれですか!?」
「……」
 実際には、数秒足らずの時間だったのであろう。
 しかし。キリフダの部下達の体感した、冷たく凍りついた時間はひどく長かった。
 だって上司が一瞬で笑顔の下でめっちゃおこになったのわかっちゃったもん。
「えっ?」
 何か間違えたかな? と首を傾げるリリウム。
「え、えーいっ!」
 とりあえず構えたバスターライフルから、リリウムは閃光を放ち。
 キリフダは言葉を次ぐ事無く、リリウムにむけて音も無く一枚の名刺を放った。
 それは刃のように鋭く、一直線に交わされ――。
「あら、まるで宿敵だと思っていた相手に忘れられていたみたいな顔ね」
 リィ・ディドルディドル(悪の嚢・e03674)が、上手に掲げたボクスドラゴンのイドの額に名刺はクリーンヒットした。
 名刺の刺さったイドを投げ捨てたリィは、螺旋忍軍達に向かい吐息を吹きかけ。風を巻き上げ、炎を爆ぜさせる。
「そうですね……。あの反応はもしかして事実かも、しれませんね……」
 小鞠・景(冱てる霄・e15332)は、イドの惨状からは目を反らし。
 思案するように呟きながら、ドラゴニックハンマーを凪いで砲弾を叩き込む。
「これはご丁寧にどうも……、いや、投げるのは丁寧なのか?」
 転がるイドから名刺を引き抜いてあげた、スカートを揺らすボクスドラゴンのポヨンから名刺を受け取った木戸・ケイ(流浪のキッド・e02634)が軽く頭を下げた。
「ま、いいけど。名刺は生憎切らしておりまして。――俺は、人呼んで流浪のキッド」
 ケイは両手に構えた刀を挨拶ついでに振り抜き。
「函館、五稜郭……、ここは新選組最後の地だ。この場所での勝利は俺にとって特別な意味を持つ」
 真剣な声音で、ケイは吠える。
「俺は、五稜郭では負ける訳にはいかない。覚悟しろ、お前ら!」
 彼の大太刀より生み出された衝撃波の間に、巨大な手裏剣を構えた部下が割り入り。攻撃を受け、庇う。
「お前たち、後は手筈通りに!」
 キリフダの号令。
 庇った一人を残し、螺旋忍軍たちは一斉に散ろうと地を蹴る、が。
「おっと、ここは通行止めだよ」
 その体で進路を塞ぎ。
 魔力を宿した瞳で螺旋忍軍達を睨めつけた、ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)は橙の瞳を揺らした。
「――逃がさないよ? ちゃんと見てる、からね?」
 自らも忍者の端くれとして、彼らに負ける訳にはいかない。
 ウォーレンは九尾扇を揺らし、更に挑発的な視線を螺旋忍軍へと向けた。
「まあそう言わず、こちらも予定も立て込んでおりまして。お通し願えませんかね?」
 本心の読めない、張り付いたような営業スマイル。
 キリフダは後衛の部下達と視線を交わし、意図を理解した部下は隙を窺いながら鋭く周りを見渡す。
 本陣を背にし、扇形に展開したケルベロス達の追跡を避ける為には――。
「困ります、お客様。こっちも飛び込み営業を通す訳にはいかなくてなァ」
 地に立てたドラゴニックハンマーの柄に、手を添えた八千代・夜散(濫觴・e01441)が冗談めかして肩を竦める。
 続いて囁くのは、古代の魔力を宿した一節だ。
「おい、良いのか? キリフダよ」
 その横から。
 値段の高そうな靴音を響かせたルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)が瞳を細めて囁いた。
 咥えていた煙草を躙り消して紫煙を吐き。問うように首を傾ぐ。
「アレを行かせたとて、裏切らぬとも限らない」
 瞬間。
 動き出そうとしていた部下の前に一瞬で踏み込んだルースはMessiahを横薙ぎに振るい、黒い魔法弾を叩き放つ。
 重ねる形で、夜散が魔力の光線で部下を貫く。
 手裏剣を前に、一斉に構え直す部下達。
「そうであります!」
 爆ぜる手裏剣の前に立ちふさがるのはクリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)だ。
「部下に手柄を奪われてもいいのでありますか?」
 広げた光の羽で体を支え、巨大な盾で手裏剣をなぎ倒しながらクリームヒルトは問いかける。
 ボクスドラゴンの甲竜タングステンが彼女を癒やし、重ねる形でクリームヒルトは加護を歌う。
「部下の勝利は、チームの勝利ですよ」
 笑うキリフダに同意するかのように手をあげたリリウム。
「はい! わたしにもわかります! 部下の手柄は上司の手柄!」
「その通りですよ、小憎たらしいお嬢さん」
 キリフダが応え。
 リリウムも彼を、彼を――見ていない。
 リリウムの視線の先にはカンペがあった。

●部下との信頼関係は大切
「手下を犠牲にして自分だけ美味しい思いをするんですー!」
 リリウムの言葉に、思わず部下達がキリフダを見る。
「でも、部下も上司を犠牲にして自分が成り上がろうとします!」
 キリフダが部下達を見る。
 首を横に振って否定する部下達。
「裏切りと謀略を重ねるのが螺旋忍軍の得意技ですから!」
 いそいそとカンペをカバンの中にしまい込んだリリウムが跳ね、体に纏わせたオウガメタルより黒き太陽を顕現する。
「いやだなぁ、私、これでも、信頼のおける営業マンとして通ってるんですよ」
 踏みしめた大地を強く蹴り。大量の名刺を、手裏剣として鋭い雨の如く放つキリフダ。
 合わせて、部下も前線をかき乱すように突進し。螺旋の力を振りかざした。
「リィ様、イド様! タングステン! 来るであります!」
 飛び込んできた部下を、クリームヒルトが盾をぶちかまして食い止める。
 ぶつかり合った螺旋の力が爆ぜ、がりがりと地が削れ。
 その横から飛びついたタングステンが主人に癒やしの注入を行う。
「なんなら5人全員、本陣に向かわせてみたら?」
 雨に飛び込んだリィは光のオーラを纏わせた腕を胸と顔の前で交わし、ガードを上げる。
「その代わり、あなたの事は8人と3匹でボコボコに潰してあげるけど。運が良くおこぼれに預かれば、部下のひとりが勅忍になれるかも知れないわ」
 裂け傷つく自らの体も厭わず、更に駆けるリィ。
 イドが癒やしを重ねる横で、彼女は言葉を更に紡ぐ。
「それすら相当運が良くなければ難しいでしょうけど、その時あなたもこの世にいればいいわね」
 その体に手裏剣を受けながら強引に地を跳ねたリィは、後衛の部下を狙って踵を叩き込み。
 同時に縛霊手を展開したクリームヒルトが、盾で押さえ込みきった部下達に光弾を放った。
「ボクを抜いて、突破できると思わないでほしいであります!」
 呻き、数歩下がった部下は、キリフダへの忠誠心を表すかのように。攻撃を受けた自らで無く、キリフダへと分身を重ねる。
「分身だ、惑わされないように気をつけていこう」
 扇を仰ぐ。
 幻影をリィに纏わせたウォーレンが仲間達に声をかけ、ポヨンが習うように属性を注入する。
「お? 自分ばかりに回復を集中させて部下は捨て駒か? 良いご身分で」
 回復役の部下を庇おうと、前に出た部下をバールで薙ぎ払ったルースはからかうように煽り。
 彼の切り開いた道を、景は瞳を細めてまっすぐに見据えた。
「――出番ですよ、箒星」
 今は失われた星座。
 空に棲まう御使いの末裔に伝わる星録の一節。
 星のまじない。
 ――尾を引き、箒星は流れ。
「勅忍になりたいと思うのなら、立ち塞がる私たちを部下と共に一刻も早く撃破して突破することが最善手のはずですが」
 景の魔力に貫かれ、倒れる部下。
 凪いだ灰色の瞳を揺らし、景は問う。
「この程度の試練も乗り越えられずに、勅忍になれるとでも?」
 キリフダは答えない。
 ただ、笑顔のまま手のひらだけで指示を行い。部下の背の後ろに隠れる。
 部下の信頼を失うのも、部下を失うのも。
 敵陣のど真ん中にいる状況では痛手であると解ってはいるのだから。
「その営業スマイルは顔に張り付いてんのか?」
「さァてさて、いつまで営業スマイルを浮かべていられるか、見ものだなァ」
 ケイが首を傾ぐと、夜散が意地悪げに口端を歪め。
 弾丸と空の霊力が交差した。

●陣雲は駆け流れ
 巡る攻防は、敵の数を減らし。
 最早、キリフダ一人になってしまった今は、彼の笑顔は仮面に覆い隠されていた。
「如何なる敵が相手でも、――護りきるであります! 皆様には手を触れさせないであります」
 キリフダの手には、落ち葉。
「……は、葉っぱとかも触れさせないであります!」
 声と共に盾を構えたクリームヒルトに落ち葉が殺到し、盾に、体に、葉が突き刺さる。
 痛みに奥歯を噛み締めた彼女に、光が差した。
「翼よ、治癒の光を纏うのです!」
 光の羽が仲間ごとクリームヒルトを包み込む。
 癒やしの光に、真珠色の光が重なった。
「今度は葉っぱ手裏剣だ。本当に色んなものを投げるね……、――大丈夫、痛いのは僕が引き受けるから」
 傷も恐れも躓きも、光の雨になるように。
 ウォーレンに雨が降る。
 真珠色の癒やしの力を籠めて、自らに痛みを引き受けさせる雨が降る。
 ケイは息を飲んだ。
「なあ、もっと営業マンらしい仕事をしろよ。命張って現場で働くなんて、らしくないだろう?」
 もっとも、それだけキリフダは必死だったのであろう。
 キリフダは、それだけ本気だったのであろう。
「本気には、本気で答えるのが俺だ。俺は、……負けてやる訳にはいかない」
 情無用と刻まれた大太刀を構え、彼を見据える。
 部下を失い、体力を削られた今も。
 キリフダが逃げ出す隙を窺い続けている事は、感覚で理解できていた。
 彼にとって絶体絶命である筈なのに、彼はまだ心が折れていないと言う事だ。
「念仏を唱えな。――散るのはお前だ!」
 居合い斬りと共に、桜吹雪が舞い燃え上がる。
 息も絶え絶え、かろうじて受け身を取ったキリフダは炎を纏い。
 その炎ごと断ち切るように、封印箱に収められたイドがキリフダに向かってかっ飛んできた。
「――イド手裏剣よ」
 それは、リィが投げる事で勢いの増したボクスタックルだ。
「さあ、今よ、コマリ、ルース!」
「はい。そろそろおしまい、です」
 再び重ねられる箒星。
 重心を落とした景が、惨殺ナイフを片手に先陣を切り開く。
 これは『悔いのない、正しい選択』であるはずだろうから。
 後を追うのはリィの声掛けに応えたのか、無視したのか。どちらとも取れぬ表情のルースだ。
 細く吐いた息。
 ルースはキリフダを睨めつける。
「漁夫の利や下克上を邪魔するのは嫌いじゃない」
 そもそも、螺旋忍軍は宇宙人である。
 ルースの憧れる日本のニンジャとは全くの別物だ。
「スーツなど着込みやがって……、ニンジャをあまり馬鹿にするな」
 くノ一すらいなかった彼らの軍には、敵愾心しか抱く事はできなかった。
「さて、最後に一つだけ授業をしてやろう。命の行動原理はふたつ。「愛」と「恐怖」だ。――地球で踊れ。踊って散れ」
 転がったイドの箱を蹴り上げ、全身を駆け巡るグラビティを叩き込む。
 ひび割れた仮面から、キリフダの真剣な瞳が覗いた。
「げ、ほ……っ、ならば、私のこの気持ちもきっと愛なのでしょう」
 強かに打ち据えられたグラビティは、殺しきれない勢いをそのままキリフダの体ごと転げ、跳ねさせる。
「惑星スパイラスへの、栄誉への、そして――」
 溢れる血反吐。
 石垣に背を打ち付けられながらも、ぐん、と腕に力が篭もった。
 石垣まで弾き飛ばされたのは、最後の僥倖であろうか。
 力を振り絞ったキリフダはその場から離脱せんと、その石垣を登るべく手を掛け――。
「おっと、もう少しだけゆっくりして行けよ」
 夜散がゆったりと二丁拳銃を構えた瞬間。
「それと、持って行きな。俺の女神のキスを」
 石垣を半ばまで跳ねた登ったキリフダの両腕は、夜散の弾丸に貫かれていた。
 『加速』のルーンによって構成された昇華円環は、彼の女神たる拳銃より吐き出される弾丸の速度を加速度的に上げる事ができる。
「さあキリフダ! 覚悟してください!」
 最後の抵抗を阻止され、石垣から落下するキリフダの元へとリリウムが駆け――ようとして、転んだ。
 いつもどおり転んだ。
「ぎゃわーーっっ!」
 そして、いつもの如くロックをし忘れているリリウムのランドセルから色々な物があふれ、こぼれ、キリフダに殺到する!
「お前は! また! そういう! またそういうッッ!!」
 どかん、がっちゃん。
 螺旋模様の仮面が弾け割れ、バラバラと地にこぼれ落ちた。
「はぁ……本当に、私らしくも無い事を……」
 やれやれと痛みに顔を顰めて、キリフダは瞳を閉じる。
 そして、もう、彼が動く事は無くなった。

●有為の行方は
「しかし。螺旋忍軍の癖に割りと良い仕立てのスーツを着てやがったな」
「なるほど。……注目するべきは、そこでしたか」
「コマリ、多分違うわ」
 景が妙に納得した様子で夜散の言葉に頷き、リィが首を降る。
 転がったままだったイドを拾い上げたルースは、リィにそれを投げつけた。
「ともあれ、俺達の仕事は終わりだな」
「はい、逃す事無く全て撃退できたのであります!」
 倒れ転がった螺旋忍軍の数を、タングステンと数えていたクリームヒルトが頷き。
 ルースは本陣の方向を見やった。
「本陣は無事かな」
「信号弾も上がっていたよう、ですが……」
 ケイの問いかけに、ポヨンと景も本陣を見上げる。
 今から急いで向かっても、決着には間に合わないだろう。
 ならば、せめて無事を祈るように。
「あ」
 はた、と思いだしたようにウォーレンがリリウムの肩をつついた。
「そういえば、リリウムちゃん。キリフダとどんな因縁があったのかな?」
「えっ、えーっと……」
 考え込むリリウム。
 首を傾げるウォーレン。
「何かあったのでしょうねー!」
「何かあったんだね」
 複雑な事情があったのかもしれないが、今となってはもう解らない事だ。
 リリウムとウォーレンは、二人で顔を見合わせて笑う。
 そう。彼らに任せられた役目は、無事果たすことができたのだから。

作者:絲上ゆいこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 0
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