螺旋忍法帖防衛戦~螺旋忍軍の頂点は俺が取る!

作者:陸野蛍

●忍法帖を護れ! 敵は、明朗快活な螺旋忍軍!
「螺旋忍軍各組織の拠点制圧のお仕事、お疲れ様だったな。休む暇が無くて悪いんだけど、次の作戦を決行しようと思う」
 ヘリポートに現れた、大淀・雄大(太陽の花のヘリオライダー・en0056)は、ケルベロス達に労いの言葉をかけると作戦指示書に視線を移す。
「まず、拠点制圧作戦に於いて、月華衆の拠点でシヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)、真理華道の拠点で嶋田・麻代(レッサーデーモン・e28437)が、それぞれ『螺旋忍法帖』を手に入れ、その結果2人がそれぞれの『螺旋忍法帖』の所持者になるという事態が起こった」
 各拠点で手に入れた資料をもとに『螺旋忍法帖』を解読した結果、忍法帖を創れるのは螺旋帝の血族だけで、今回手に入れた『螺旋忍法帖』には、『螺旋帝の血族を捕縛せよ』という御下命が記されており、この『螺旋忍法帖』があれば、螺旋忍軍の核心に迫る事が出来るだろうと言うのが、ヘリオライダー達の見解らしい。
 ただ、彼等も驚いたのは、本物の螺旋忍軍では無い、『ケルベロス忍軍』の2人へと御下命が書き換えられたことである。
 資料の解読結果には、『螺旋忍法帖に書かれた御下命』を果たした忍軍は、惑星スパイラスに招聘され、一族郎党全てに『勅忍』の栄誉が与えられるともあり、各忍軍がそれを目的としていたこと、そして、受け取った螺旋忍軍は『忍法帖に書かれた御下命を必ず果たさなければならない』という精神状態になると言うものもあったが、使命感の強制発動に関しては、今の所、ケルベロス2人にその兆候は見えていない。
「でもな、『螺旋忍法帖』を手に入れて、いいことばかりって訳でも無いんだよな」
 そう言うと雄大は、頭をボリボリ掻く。
「既に他の忍軍にも、ケルベロス忍軍が忍法帖を手に入れたという情報が出回っていて、忍法帖を狙い多くの刺客が放たれることが分かった。螺旋忍軍は忍法帖が何処にあるか察知出来るらしくて、ケルベロス2名が御下命を果たすまでの期間、ずっと守り続けるのは難しい。だから、今回はこれをチャンスと考え、所持者2名が、石川県の金沢城と北海道の五稜郭に籠城し、忍法帖を奪取しに来た螺旋忍軍を迎撃することで螺旋忍軍の、戦力を弱体化させようと思う」
 大きな成果を出せれば、慎重な螺旋忍軍は、ケルベロスが所持する忍法帖の奪取を諦めるだろうとのことだ。
「で、みんなには、金沢城で『月航』と言う名のフリーの螺旋忍軍を迎撃してもらいたい。月航は、好奇心旺盛な若手の小柄な螺旋忍軍で、今回の忍法帖争奪戦に加わった理由も、月航自身が『面白い事になりそう』と思っただけって感じだな。勢力に属していない螺旋忍軍でも、忍法帖さえあれば、惑星スパイラスでの地位を上げることは可能だしな」
 月航はリーダー気質……いや、グループの中心に居るようなタイプらしく、彼を慕う4人のやんちゃな少年螺旋忍軍隊『海従』を連れているらしい。
「月航は、 鮫を象った鎖鎌での近距離範囲斬撃と鎖鎌に螺旋エネルギーを込めて放つ単体攻撃、巨大鮫の幻影で大勢を喰らおうとする遠距離攻撃を使用。海従の4人は、ヨーヨーに似た螺旋手裏剣で近距離攻撃と遠距離攻撃を使い分けてくる」
 ちなみに、『月航』は、背が低いのと童顔なのがコンプレックスの為、その手の言葉には戦況が見えなくなる程では無いが、怒りを覚えるらしい。
「まあ、これは当たり前っちゃあ、当たり前だよな~」
 身長155cmにも満たない雄大には、理解出来るらしく、『うん、うん』と頷いている。
「もし、みんなが月航に敗北した場合、月航は迅速に金沢城城内に侵入し、本陣を崩される恐れがあるから、確実に撃破してほしい」
 今回、金沢城を襲撃する有力な螺旋忍軍は20を超えるらしく、1体程度ならまだしも、それ以上の螺旋忍軍に突破された場合、忍法帖を護りきることは出来ないと予測されるとのことだ。
「海従の4人に関しても、大した戦闘力では無いけど、突破されると本陣に負担がかかるから、撃破漏れの無いようにしてくれな。子供に見えるからって油断するなよ」
 月航の配下達も、幼く見えても、デウスエクスであることに変わりは無いのだ。
「説明は以上! 『螺旋忍法帖』が重要な物であり、護り抜く為には、みんなの力が必要ってことが分かってくれれば、それでいい。今回の防衛戦、みんなの力で必ず勝利を掴んでくれ! 頼んだぜ!」
 笑顔と共に雄大は立てた親指をケルベロス達に向けた。


参加者
天満・十夜(天秤宮の野干・e00151)
天司・雲雀(箱の鳥は蒼に恋する・e00981)
レベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392)
天月・光太郎(満ちぬ紅月・e04889)
佐々木・照彦(レプリカントの住所不定無職・e08003)
ジョー・ブラウン(ウェアライダーの降魔拳士・e20179)
スピノザ・リンハート(忠誠と復讐を弾丸に秘め・e21678)
春夏秋冬・零日(その手には何も無く・e34692)

■リプレイ

●橋上で待つ
「遥々来たぜ、金沢! 城攻めをしに来る忍者から、本丸を守り抜くとか、なんかカッコいいな!」
 ジャッカルの獣人である、天満・十夜(天秤宮の野干・e00151)は、蒼い目を輝かせ、まだ見ぬ敵にワクワクを隠せない。
「相手がデウスエクスとか、どう考えても全然忍んでないとか、あと背丈に将来性が欠片もない辺りが、すっげぇマイナスポイントだけどな!」
 事前情報によれば、現れる螺旋忍軍は『月航』、どの勢力にも与しておらず、自身の配下と共に、自由気ままに生きる螺旋忍軍とのことだ。
 人間換算にすると26歳前後の年齢だが、身長が低く顔も幼い為、コンプレックスを持っているらしいが、その自由奔放さが、年若い螺旋忍軍の少年達の心を掴んでいるらしい。
「まあ、オレ様は『エイティーン』で背の高い、イケジャッカルになれるので問題ないんだけどな!」
 胸を張り言う十夜だが、『エイティーン』の効果は18歳時の姿になれるであって、理想の18歳になれる訳ではない。
 つまり、身長が理想に届くかは全く別の話である。
「あいつと、こんな所で戦うことになるとはな。橋の上の決闘、か……悪くない舞台だが……」
 橋の上に佇み、口にするのは、スピノザ・リンハート(忠誠と復讐を弾丸に秘め・e21678)。
 これから姿を現す『彼』と会うのは何時振りだろうか?
 彼は、自分のことを覚えているだろうか……。
 スピノザが物思いに耽っていると『1・2・3・4……』と規則正しいカウントが聞こえてくる。
 仲間達がそちらを見やれば、佐々木・照彦(レプリカントの住所不定無職・e08003)が相棒のテレビウム『テレ坊』にカウントを表示させ、準備運動をしている。
 今回の参加メンバーの中では、最年長……ダモクレスとしての起動年数も長かった為か、戦闘後の疲労を心配してのことかもしれない。
 ちなみに今回の『テレ坊』の装いは木の葉色の幼稚園児風レインコートで、とても愛らしい。
「橋の上で敵を待つ……さながら、私達は弁慶ですね、みんな揃って。そして、みんな揃って小さな牛若丸さん達が、いらっしゃったみたいですよ」
 レベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392)が柔らかく笑う視線の先、年長の男を真ん中に左右に少年が2人ずつ、横並びでこちらへ向かって来る。
「こう言う時は『あいや待たれい!』とか言うのが筋なのかね? 月航だな?」
 横にビハインドの『マリア』を控えさせ、ジョー・ブラウン(ウェアライダーの降魔拳士・e20179)が口を開いた。
「へえ、俺が来るのが分かってたみたいだな。そう、俺が月航。螺旋忍軍の頂点に立つ男だ!」
 言うと月航は、得物である『鎖鎌『鮫』』を器用に扱い、力を誇示しようとする。
 周りの4人の海従の名の少年達は『アニキカッコいいー!』『流石、螺旋忍軍を統べる男だぜ!』などと盛り上がっている。
 一瞬呆気にとられる、ケルベロス達。
 だが、天司・雲雀(箱の鳥は蒼に恋する・e00981)は、1つ咳払いすると、月航達に語りかける。
「正面突破とは、敵ながら感心致しますが、簡単に此処を通す訳にはいきません」
(「私は、私に出来る精一杯で……皆さんの役に立たなければ」)
「それでも、通ると言ったら?」
「まあまあ、そう急くな。儂達が相手をしてやるから、力を鼓舞して頂点に立ちたいんじゃろ?」
 月航の問いに、春夏秋冬・零日(その手には何も無く・e34692)が、年上の余裕で答える。
「いいこと言うじゃん、おばさん。ケルベロス倒して、忍法帖まで奪ったら、アニキ、ヒーローだぜ!」
「誰がおばさんじゃ! これだから口の悪い餓鬼は嫌いなのじゃ……」
 海従の一人が言った言葉に過剰反応を見せる、零日の肩を『まあまあ』と宥めながら、前に出たのは、天月・光太郎(満ちぬ紅月・e04889)だ。
「さてはて、奪われれば此方が大変なのは分かってはいるが……こういう防衛戦は好きなんでね、思いっきり暴れさせて貰おうか。やろうぜ、ガチバトル! その方がお互い、あとくされないってもんだよな?」
 言葉と共に、光太郎は宙へと紙兵を風に舞わせると仲間達の護りとする。
「そっちがその気なら、俺が頂点を取る、前祝いだ! 行くぜ、お前ら!」
 海従達4人が頷くのを見ると、月航は鮫の意匠が刻まれた鎖鎌を大きく振りまわす。
 鋭い鎌は、前を固める4人を狙ったが、傷を受けたのは、ジョーと照彦、そして十夜の相棒、神炎属性のボクスドラゴン『アグニ』だけだ。
 次に戦場に響くのは雲雀の小鳥の囀りのような美しい声音。
「皆様に神のご加護があらんことを」
『冥獄鎖』が傷を負ったモノ達の周囲で輝けば、傷と共に痛みも引いていく。
「なかなか、やるようだな。だが俺達の本領は……」
「……よう、久しぶり。あれから、背は伸びたか? 悪いけど、ここから通すわけにはいかねーんだよ。全力で止めさせてもらうぜ」
 螺旋の力を掌に込めながら月航に語りかけると、スピノザは軽い足取りで月航に叩きつけようとするが、海従の1人がそれを阻む。
「……おまえは、まさか。……嘘だろ」
「あんたと、海以外の場所で戦うことになるとは思わなかったぜ。いっつも、釣りの邪魔しやがって……思い出すだけでムカつく」
「言ってろよ!」
 月航は、悪ガキの様な笑みを浮かべると、半歩下がり、海従達の螺旋ヨーヨーの射線を開ける。
 すぐに、アグニが自身の炎をグラビティに変え、スピノザに注いだ為、スピノザに大きな負傷は無い。
「おもしれえ! 行くぜ、お前ら! こいつ等倒して忍法帖を手に入れるぞ!」
 その言葉に、海従達も各々のグラビティを意気揚々と高めていった。

●螺旋忍軍と言う名の少年達『海従』
「相手は餓鬼、と言っても油断はせぬ。残念じゃが、この金沢城には一歩も入れさせん」
 刃の如き蹴りをディフェンダーに与えながら、颯爽と橋を飛び回る零日。
「では撃ちますよ。痛くても、ここまで来てしまった、お駄賃だと思って下さい」
 朗らかにも見える笑顔を崩さず、レインボーバスターライフルから七色の魔法光線を放つ、レベッカ。
「忍術じゃないけど、ケルベロスにはこういう技もあるんだぜ!」
 照彦の陰に隠れつつ、十夜が手元のスイッチを押せば、月航を含む三人の周囲で爆発が起こる。
「マリア! 後ろのチビ共にも気を配れ! 変な動きをしたら、そっちを優先しろ!」
 マリアに指示を出しながら、ジョー自身は自身の立つ橋を、力強く踏みしめる。
「そこで震えて止まってな!!」
 橋の上を伝う振動は、グラビティがこもり、ディフェンダーの両脚からダメージを与えていく。
「いっくぜー! 御霊殲滅砲! 纏めてぶっ飛ぶんだな!」
 縛霊手を前方に向け、気合いを込めるように叫ぶと、光太郎は巨大光弾を撃ち出す。
 確実に敵を捉えた筈だ、光太郎はそう思った……それは間違いではない。
 だが、その光弾を抜けてスナイパーの螺旋ヨーヨーが光太郎を狙っていたのだ。
「光太郎君、どきいや!」
 叫びと共に伸ばされる、照彦の手……押し退けられる光太郎。
 ヨーヨーは、照彦の鳩尾を狙ったかのように力強くぶち当たる。
「……佐々木さん!?」
「大丈夫や! 後ろのちっこい子達は、もう少し待っとってや。先に前に居る子たちからや!」
「神様――わたしのオーラを届けて」
 雲雀の紫の瞳は、変わっていく戦況を見逃さぬよう、自身の判断が仲間を傷つけないように広視野に渡って観察していた。
「有難うな、雲雀ちゃん。オッサン、これで元気やで。ちっちゃい子には痛いかもやけど、戦場に出て来てしまったんや。……オッサンを恨んでもいいから、往生してや」
 戦場に立つ子供達に同情の思いを抱きながらも、照彦はバスターライフルから、グラビティ中和エネルギー光弾を放った。
 立ち上る煙の中、幼い少年の悲鳴が聞こえた気がした……。

●地球の為に戦う者とアニキの為に戦う者
「……アニキ、てっぺん……取ってね」
 零日の『星奪刀』が、空をも断ずる斬撃で2人目のディフェンダーを袈裟に斬ると、彼はそう言い残して旋風になって消えた。
(「普段のデウスエクスを斬る感覚……高揚感、戦いに集中できぬのは何故じゃ……。見た目に騙されてはならぬ、こ奴らもデウスエクス。……非情になるのじゃ」)
 戦で心を満たすのが自分……『春夏秋冬・零日』は、自身をそう考えている。
 だが、どうしても竜牙兵やドリームイーターを斬った時と違う感覚が芽生えてしまう。
「くそ、やるじゃねえか。……お前等! ここは俺に任せて、先に忍法帖を取りに行け!」
「でも、アニキ!」
「俺がこんな奴等に負ける訳がねえだろ!」
 月航の言葉にスナイパーの二人は頷き合うと、左右二手に飛び『金沢城』を目指す。
 だが……。
「駄目やで~、ここから先は通されへんねん。飴ちゃんやるから帰り~」
 古びた跳躍システムでスナイパーの1人の前を阻んだ、照彦が言えば、海従の少年は、ヨーヨーを力の限り、照彦の身体に食い込ませる。
「ホントは戦いたくないんや。でもな、キミのアニキさんが矜持を持っとるように、オッサン等にも矜持があるんや!」
 目を瞑り、なるべく少年の顔を見ないようにすると、照彦は身体中からミサイルポッドを出し、スナイパーに一斉掃射する。
「動きが止まりましたね。撃ちます。照彦さん、離れて!」
 その機を逃さず、レベッカは照彦が距離を取ったのを見計り、爆炎の魔力を込めた大量の弾丸をスナイパーに撃ちこみ続ける。
「止めやがれ!」
 月航が鎖鎌をレベッカに向けて真っ直ぐ打ち出すが、ジョーが身を呈してそれを防ぐ。
「俺達だって、ガキの命、取りたい訳じゃねえよ。そのガキを戦場に連れて来たのは、てめぇだろうが!」
 怒りと慟哭、二つの感情が重なった叫びを放ちながら、ジョーが流星の軌跡を描き、月航を蹴り上げる。
「どっけ―!」
 もう1人のスナイパーが活路を見出そうと、ヨーヨーをスピノザに向け、投げつける。
 ヨーヨーはスナイパーの狙った場所に正確に当たった……いや、スピノザが避けなかったのだ。
「相変わらず、ガキ大将みてーなことしてんだと思ってたよ。お似合いだってな……。だがよ、こいつら命がけじゃねえか……何、考えてんだよ! 月航!」
 怒りの咆哮……スピノザは、2本の如意棒を百節棍へと変えると、怒涛の乱打でスナイパーを地に落とす。
「悪いな、ちみっ子。ここが、お前の死に場所になっちまう。……付き合って貰おうか! いっせーのーで――――ドーン!」
 クラビティで網を創りだすと、光太郎はスナイパーの海従に覆いかぶせ、巡るグラビティで傷を広げていく。
「天秤を守護に持つ星剣よ! 凍える宇宙の力を降り注がせろ!」
『Jackal of Libra』を天に掲げ、息絶えかけたスナイパーに冷気の葬送を施す、十夜。
「……皆さん、回復致します。残るは月航……だけです」
 言うと雲雀は、妖精の靴の踵を鳴らし、美しく舞い踊りながら、仲間達を癒やす花弁のオーラを辺り一面に降らす。
(「……私だけは、常に冷静に。強さの無い慈悲は無力ですから……なら、勝利した上で、泣いてあげるしかないですよね」)
 表情こそ、戦場に立つケルベロス……だが、雲雀の心は既に涙を流していたのかもしれない。

●紅き瞳の忍者と蒼き瞳の忍者
「母なる海より出でよ! 大鮫!」
 月航の放った大鮫の幻影は、ケルベロス達のグラビティの流れを乱し、強烈なダメージを与える。
 しかし、既にグラビティ枯渇状態に入り、息を切らせているのは月航の方だ。
「……俺は、負けねえ。……絶対、忍法帖を手に入れる」
「駄目だな。それは、俺様達が絶対に防ぐからな! さあ、オレ様に見下ろされる時間だぜ!」
 身体に刻まれた紋様に宿る力を解放し、十夜は月航に呪詛を施す。
 自身の身体が、子供のそれに戻ってしまったような錯覚に陥る月航……しかし、心の強さに変わりは無かった。
「あいつ等の……あいつ等の……!」
「残念じゃが、儂達が最後の相手じゃ。知っている事があるなら吐け、素直に吐けば、楽に介錯してやるがのぅ」
「うっるせえ!」
 気合だけで戦闘を続ける月航に、もう交渉は通じない……悟った零日は無拳流の極地を放つ。
 凄まじい速さで月航の首筋に放たれた、零日の手刀は、月航に三日月の残像を見せる。
「思いっきり悪い奴っての方が、倒しやすいってことがよく分かったよ……」
 そう言葉にしても、光太郎は掌の光弾を撃ち出すことを止めなかった。
「マリア! 動きを止めろ!」
(「……もう、いいだろう?」)
 マリアの金縛りが月航の動きを止める中、ジョーは脚に星の力を込めて回し蹴る。
「テレ坊、光ったれ!」
 視界が明るくなった瞬間に、照彦は戦乙女の槍で月航を刺し貫く。
「スピノザさん、よろしいですか?」
「……ああ」
 レベッカが言葉短く訊けば、スピノザは頷く。
 それを確認すると、レベッカは、アームドフォートの主砲を一斉発射する。
 遂に膝を付く月航。
「せめて、あなたの最後の記憶が、花で埋め尽くされますように……儚い花の最期の一瞬まで……どうか、その眼に焼き付けてくださいね」
 甘い香りと雲雀の優しい声音、共に舞うのは色取り取りの花弁。ひらり、ひらひら、ふわり、ふわ……幻想的なその攻撃は、月航の上へと降り積もる。
「これで最後……これで、終わりなんだよ。……忍者らしく勝負をつけようか、月航」
 スピノザの掌に螺旋エネルギーが収束していくのを確認すると、月航も最後の……最後の力を振り絞り、螺旋の力を右手に集める。

 橋の上、忍者二人、螺旋の力が吹き荒れた……。

 倒れ伏す忍者と、歯を喰いしばる忍者……対照的に見える、同じ時代に存在した忍者。
 紅き瞳の忍者が訊く。
「……なんで、忍法帖なんか狙ってんだよ。慎ましく、小競り合い続けてれば、よかっただろうが……。そうすれば、あいつ等を手に掛けることもなかったし、あんたと……また、くだらない勝負をすることも出来た」
『結構、楽しかったんだぜ』
 紅き瞳の忍者の言葉に蒼き瞳の忍者が満足気に笑う。
「……仕方ねえだろ。あいつ等、本気で俺が螺旋忍軍の頂点になれると思ってたんだぜ。こんな俺がよ。信じてたんだよ、あいつ等は。俺だけ、信じねえ訳にはいかねえじゃねえか。それが……男だろうよ」
 蒼き瞳の忍者は最後に『ニヤリ』と笑みを浮かべる。
「……行くか、リーダーが居ねえとあいつ等が困るからな」
 蒼き瞳の忍者が瞼を下ろすと、旋風が彼を上空へとさらっていった……。

 この橋の上で、ケルベロスとして戦った者達は『完全勝利』を手にしていた。
 だが、他の戦場では螺旋忍軍との戦いが続いている。
 ……そして金沢城では、侵入者を撃退したケルベロス達が……新たな出会いを果たしていることを、彼等はまだ知る由も無かった。

作者:陸野蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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