「おめでとうございます。正義のケルベロス忍軍作戦は、皆さんの活躍により、予想以上の大きな成果をあげました」
ヘリオライダーの高御倉・康が、祝っているにしてはずいぶん緊張した表情で告げる。
「中でも、螺旋忍軍にとって重要な意味を持つ『螺旋忍法帖』の奪取は、大金星といっていいでしょう。『螺旋忍法帖』は、螺旋帝の血族のみがその血で書き記す事で創り出す事ができるもので、そこに記されている『御下命』を果たした忍軍は、螺旋忍軍の本拠惑星スパイラスに招聘され、特別なステータスを与えられるようです。また、今回奪取した『螺旋忍法帖』に記されていた『御下命』は、『螺旋帝の血族を捕縛せよ』というものでした。これによって、今まで謎に包まれていた螺旋忍軍の核心に迫る事ができるのではないか、と期待が持たれていますが、そのためにはまず、螺旋忍軍に『螺旋忍法帖』を奪い返されないよう、何らかの策を使う必要があります」
そう言って、康はプロジェクターに二巻の『螺旋忍法帖』らしき画像を出した。
「既に、正義のケルベロス忍軍から『螺旋忍法帖』を奪取しようと、多くの刺客が動き出しています。彼らは『螺旋忍法帖』の位置を感じ取る事ができるらしく、どこに隠そうと執拗に狙ってきます。その意図を阻む方法はただ一つ、刺客をおびき寄せ、全滅させる以外にありません」
正義のケルベロス忍軍から奪おうとして殺されるぐらいなら、他の忍軍を狙ったほうがマシ、と心底思い知らせる以外、螺旋忍軍の策動を挫く方法はないでしょう、と、康は告げる。
「一般人を巻き添えにせず、螺旋忍軍の刺客をおびき寄せ迎撃する場所として、石川県の金沢城と北海道の五稜郭が選ばれ、すでに『螺旋忍法帖』所有者であるシヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)さんと嶋田・麻代(レッサーデーモン・e28437)さんは、そちらに移動しています。皆さんには五稜郭に赴き、嶋田・麻代さんが籠る本陣を守って、迎撃作戦を行っていただきます」
そう言って康は画像を切り替え、五稜郭の地図と螺旋忍軍とおぼしき少女の画像を出す。
「予知によれば、この女性……螺旋忍軍『真理華道』幹部サッバーノ・スーエヴォーネンが五人の配下を従え、五稜郭のこの位置に斬りこんできます。『真理華道』は嶋田・麻代さんが奪取した『螺旋忍法帖』を持っていた忍軍なので、それを取り戻そうとする気合は凄まじいものがあります。更に彼女は、自分たちデウスエクスに死をもたらすケルベロスを、狂的なほどに恐れ憎んでいます。そのため彼女は、戦闘不能になったケルベロスを放置して先へ進むとか、他の敵と闘うとかいう行動を取りません。必ず最優先で止めを刺し、殺そうとします。また、視界内に一人でもケルベロスがいたら、どんな状況であろうと全力で攻撃してきます」
凄まじく厄介で危険な敵ですが、行動パターンが決まっていて読み易い、と、言えないこともありません、と、康は難しい表情で告げる。
「彼女は、自分の周囲に浮いている八つの螺旋の渦から【見えざる手】と呼ばれる何かを召喚し、標的の……体内を直接攻撃します。敏捷の手と頑健の手があり、交互に使ってくるので見切りは発生しません。それ以外の行動をしたという記録はないようです。ポジションはキャスターと思われます。配下五人は『真理華道』の下忍ですが、普通の忍者装束をまとっており、女装男性ではないようです。螺旋忍者のグラビティを使い、ポジションはディフェンダーです。指揮官がダメージを受けたときの治癒が最優先で、攻撃に出る場合は、傷を負っている相手を集中して狙ってくるようです。指揮官が健在な間はフォローに努めケルベロスと戦いますが、指揮官が倒れたら『螺旋忍法帖』所持者のいる本陣への突破を優先するようです」
そう言って、康は肩をすくめた。
「私としては、戦闘不能にされることなく勝ってくださいとしか言えませんが……もしも戦闘不能にされてしまったら、殺される前に暴走する覚悟を決めておいた方がいい敵かもしれません。皆さんの御武運を祈ります」
参加者 | |
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エニーケ・スコルーク(鎧装女武・e00486) |
日柳・蒼眞(落ちる男・e00793) |
松葉瀬・丈志(紅塵の疾風・e01374) |
天蓼・ゾディア(超魔王・e02369) |
イピナ・ウィンテール(眩き剣よ希望を照らせ・e03513) |
テレサ・コール(ジャイロフラフーパー・e04242) |
白銀・夕璃(白銀山神社の討魔巫女・e21055) |
霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973) |
●激闘、殺すか、殺されるか
北海道五稜郭の戦場。その敵、五人の配下を従えた螺旋忍軍『真理華道』幹部サッバーノ・スーエヴォーネンは、ヒステリックな絶叫とともに姿を現した。
「ケルベロスゥゥゥゥゥ! 殺すぅぅぅぅぅ!」
(「……やれやれ」)
デウスエクスにとって唯一の死因になり得るケルベロスを恐れ憎むのは、ある意味当然の反応だが、それにしても忍者ならもう少し忍べよ、と、声には出さず呟くと、日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)は急速に間合を詰めて斬霊刀を振るい、幻惑をもたらす桜吹雪と共に配下たちを攻撃する。
「ぐあっ!」
「あなた達の運を試してあげますわ!」
蒼眞の列攻撃を受けてのけぞる配下たちに、エニーケ・スコルーク(鎧装女武・e00486)が『馬精靴【マリアンデール】』と名付けた新武器フェアリーブーツを駆使、星形のオーラを回し蹴りで飛ばす。
凄まじいスピードで飛ぶオーラは、配下の一人の頭部を見事直撃、微塵に粉砕して吹っ飛ばす。
「イ、イワン!」
いきなり先制で配下の一人を斃され、サッバーノの顔が恐怖と憎悪と悲嘆に歪む。
「殺したなぁ! さっそくイワンを殺したなぁ、ケルベロス! 畜生! 畜生! 生かしちゃおかないぃぃぃぃ!」
絶叫とともに、ザッパーノの周囲に八つの螺旋渦が出現。エニーケを『見えざる手』が襲う、と見えた瞬間、テレサ・コール(ジャイロフラフーパー・e04242)が飛び出して攻撃を肩代わりする。
「くっ!」
体内機構を容赦なく引き裂かれる激痛に耐え、テレサはザッパーノを見据えて告げる。
「……あなた絶対殺すウーマンなら、私は殺すウーマン絶対防ぐウーマンです」
「何抜かす! そんなに死にたいなら、貴様から先に殺してやる!」
どうせケルベロスは皆殺しにするんだ、どいつから殺しても同じことだ、と、サッバーノは血走った目でテレサを睨み返す。
そこへ松葉瀬・丈志(紅塵の疾風・e01374)が、クールな口調で告げる。
「絶対殺す、か。凄まじい気合いだが、そう簡単にいくと思うなよ」
何なら試してみるか、と呟くと、丈志はサッバーノではなく四人に減った配下に向けて、縛霊手から巨大光弾を打ち出す。配下同士で庇い合いが生じるが、ダメージの偏りはむしろ狙い通りだ。
「よ、よくも……」
ぎりぎりと歯噛みするサッバーノに、イピナ・ウィンテール(眩き剣よ希望を照らせ・e03513)が冷ややかに告げる。
「わざわざ「絶対殺す」などと叫んで威嚇する……それほど死が恐ろしいですか? 必殺の意思を言葉にする必要などない……ただ、一撃一撃に込めて放てばよいのです!」
「やかましい! ほっといてもそのうち死ぬ貴様らと違って、あたしは……あたしらは、貴様らに殺されなければ、死なないんだ! 力尽きて、コギトエルゴスムになっても、役に立つと認めてもらえれば、すぐにでも再生してもらえる……どんなにか憧れて、切望して、死にもの狂いで「不死」を手に入れたか……貴様らなんかにわかるものか!」
激昂のあまり涙すら流して、サッバーノは絶叫する。
もしかして、この人、定命の存在から必死に努力してデウスエクスになったのでしょうか、と小首をかしげながら、イピナは配下たちにオリジナルグラビティ『春夏秋冬・野分(ノワキ)』を放つ。
「天上の暴威、吹き荒ぶ刃!」
吹き荒れる風の如く、魔力の奔流が放たれ、配下たちを薙ぎ払う。当たりどころが悪かったか、あるいは仲間を庇ってダメージを重ね受けしたか、配下の一人が胴を両断されて斃れる。
「あああ……ミハイル……」
呻くサッバーノを注意深く見据えながら、白銀・夕璃(白銀山神社の討魔巫女・e21055)はオリジナルグラビティ『守護刀衣(シュゴノハゴロモ)』を発動、『見えざる手』で重いダメージを受けたテレサを治癒する。
「刃に宿りし魂に願う。かの者に邪気跳ね除ける衣を授けたまえ……」
敵、特にサッバーノの注意を惹かないよう、夕璃は小声で低く唱える。集団戦の定跡、真っ先に癒し手を潰すという戦法を採るだけの冷静さが敵にあるかどうかは分らないが、目立たないに越したことはない。
(「私の目の前では……誰も死なせません……! 暴走も……させません! 命を守る、ウィッチドクターとして……病魔払いの巫女としてっ……白銀夕璃と大天田元真、花筵藤四郎……いざっ……!」)
言葉には出さず、夕璃は内心で強く気合を入れる。
一方、霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)は、敢えてサッバーノに言葉を放つ。
「ケルベロス殺すべし、か。僕もそうだ……デウスエクスは破壊する」
殺されてなどやるものか、と、挑発的に言い放ちながら、和希は後衛陣に光輝くオウガ粒子を放出、感覚を鋭くして攻撃命中率を上げる。
そしてテレサはヒールドローンを飛ばし、自分の傷を癒しながら、前衛陣の防御力を上げる。
続く天蓼・ゾディア(超魔王・e02369)は、光の戦輪を具現化しサッバーノへと飛ばす。すると、残った三人の配下の一人が飛び出し、指揮官を庇う。
「ボリス……ありがたいけど、あたしより自分の命を大事にしな。こいつら相手に死んだら……終わりなんだ」
サッバーノが、涙ながらに配下へと告げる。配下たちは言葉では答えなかったが、それぞれ分身の術を使って自分たちの傷を癒す。
(「ふむ……ただ精神的に余裕がないヤケクソ状態、というわけでもなさそうだな。しかし、敵としてはその方がタチが悪いか?」)
いずれにしても、話してどうにかなるような相手ではないな、と、ゾディアは呟く。彼は、いかにも悪役魔王という外見とは裏腹に、実は底抜けに近いほど人の好い面があるが、それでもこの相手と殺し合い以外の何かができるとは思わない。
一方、ゾディアのサーヴァント、ボクスドラゴンの『魔王竜ルシファー』は、テレサを癒す。回復不能ダメージ分を別にしても、まだ『見えざる手』が一撃で与えたダメージは癒しきれていなかった。
●憎悪、恐怖、狂乱の果て
「死ねえっ! ケルベロス、死ねえっ!」
凄まじいとしか言いようのない憎悪を籠めて、サッバーノは『見えざる手』でテレサを攻撃する。あわや、という瞬間『魔王竜ルシファー』が飛び込んで庇ったが、肩代わりしたダメージが限界を越えてしまったらしく、そのままボックスへと姿を消す。
(「まずいな……」)
仲間を殺させるわけにはいかないが、庇った自分が斃れてしまっては意味がない、と、既に五割を超えるダメージを受けている丈志が呻く。そしてディフェンダーの庇いが発動するかどうかは、自分の意志とは関係ない。
(「変更ターンにグラビティ使用不能は痛いが……しかし!」)
下がるなら今しかない、と、丈志は後衛メディックにポジションを変える。
一方、イピナはサッバーノを狙って如意棒を突き込むが、最後に残った配下が飛び出して庇う。そして、庇った配下はダメージを受けきれず、そのまま斃れる。
「とうとう……盾役がいなくなったな」
告げながら、和希が前衛陣にオウガ粒子を振り撒く。皮肉にも、ポジションチェンジした丈志には治癒が及ばないが、そちらには夕璃がウィッチオペレーションを行う。
「配下を全部犠牲にして、まだケルベロスを一人も斃せない……とんだ看板倒れじゃないか?」
「うるさい! まだ、あたしは生きてる! 貴様らに殺されちまった奴らはどうにもならないけど、貴様らはあたしが殺す! 一人残らず!」
叫ぶサッバーノに、いっそ哀れむような口調でゾディアが告げる。
「とうとうヤケクソになってきたか? 今からでも逃げるというなら、余は敢えて追わぬが……まあ、そうもいかんだろうな」
返答を待たずに、ゾディアはオリジナルグラビティ『紅き星条(ゾンネロット)』を放つ。
「奔れ迅雷、響け雷鳴」
「ぐわっ!」
ゾディアの掌から放たれた紅の稲妻が、サッバーノを容赦なく貫く。
「く、くそっ……あたしは……まだ……」
「死ぬのが怖くてデウスエクスになったのなら、地球やケルベロスに関わるべきじゃなかった。殺される覚悟がないなら、殺すべきじゃなかった。互いに死なないデウスエクス同士で、ゲームをしてればよかったんだ」
淡々と告げ、蒼眞が斬霊刀を構える。
「気持ちはわかるし、やむを得なかったんだろうとは思うが、あんたは最初から道を間違えていた。……全てを斬れ……雷光烈斬牙!」
ランディの意志と力を今ここに、と唱え、蒼眞はオリジナルグラビティ『終焉破壊者招来(サモン・エンドブレイカー!)』を発動させる。雷電の力を帯びた刀が、サッバーノを両断……する寸前で彼女は身をよじり、左腕を飛ばされるだけで済ませる。
「まだ……まだだ! あたしは死なない……あたしは止まらない……手足なんかなくても、生きてれば『見えざる手』は使える! 貴様らを殺せるんだ!」
「ならば、とっとと死んでもらいましょうか」
往生際が悪い、見苦しい、と鼻を鳴らし、エニーケがオリジナルグラビティ『殺人光線砲(カーネイジショット)』を放つ。
「あなたに未来なんていりませんのよ。自らの行いをあの世で悔いながら死ぬがいいですわ」
「ぎゃあっ!」
アームドフォートのレーザー砲から回避を許さない特殊軌道の光線が放たれ、サッバーノを貫く。しかし、まさに往生際悪く、サッバーノはおびただしい血を吐きながら呻く。
「まだだ……まだ、死なない……死なないとも……あたしはデウスエクスだ! 死んでたまるか!」
絶叫とともに『見えざる手』が発動。テレサの胸部が無残に裂かれ、激しいスパークが起こる。
「危険……キケン……生命ノ危険……ジャイロフラフープ自律護衛・神化プログラム「『T』の揺り篭」発動ヲ検討……」
「待って! 待ってください! 行かないで!」
夕璃が絶叫し、自動暴走寸前のテレサにウィッチオペレーションを施してスパークを止める。一方、後衛にさがった丈志は、瀕死のサッバーノをオリジナルグラビティ『Bullet of Ahote(バレット・オブ・アホテ)』で攻撃する。
「この目は、お前を逃がさない……鷹の目」
もしもディフェンダーのままで『見えざる手』に対して庇いを発動していたら、暴走していたのは俺だった、と、内心冷や汗混じりに呻きながら、丈志は正確にサッバーノの頭を撃ち抜く。
しかし頭部を半ば失いながらも、執念か怨念か、サッバーノは何か呻き、もがき続ける。もはや生きているとは言い難いが……死んではいない。
「あ……が……ま……」
「いい加減にしろ……貴様はもはや終わった。堕ちるがいい」
和希が冷ややかに告げ、オリジナルグラビティ『紅き悪意の雨(アカキアクイノアメ)』を放つ。本来、列攻撃用で単体相手には威力の小さいグラビティだが、この場合は当たりさえすれば終わる。
呪詛と悪意の雨がよぎった瞬間、サッバーノは一瞬のけぞり、そして姿を消す。
「え? 消えた!?」
「……自爆して、コギトエルゴスム化……したかな?」
イピナとゾディアが顔を見合わせて言い交したが、和希がゆっくりと進み出て、その場に落ちていた宝石を拾う。
「コギトエルゴスムに似ていますが……違いますね。これにグラビティを与えても、彼女が再生することはありません」
憎悪、恐怖、狂乱の結晶、といったところですか、と、和希は小さく吐息をつく。
その一方で、危うく暴走しかかったテレサを治癒し、敵そっちのけで注視していた夕璃は、どうにか状態が落ち着いたと判断。ほっと安堵の息をつく。
「……よかった」
危なかったけど……誰も死ななかった……暴走もしなかった、と呟き、夕璃は強く握りしめていた二振りの斬霊刀、『大天田元真』と『花筵藤四郎』を収め、感謝を籠めて両手を合わせた。
作者:秋津透 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年6月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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