ケルベロスの前に立つ河内・山河(唐傘のヘリオライダー・en0106)はいつものように唐傘を差していた。
「螺旋忍軍の拠点への攻め込み、おつかれさまです。大任やのに、無事果たしてくださってありがとうございます」
今回の作戦では多くの情報を得ることが出来た上に、シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)と嶋田・麻代(レッサーデーモン・e28437)が『螺旋忍法帖』の所持者となった。
螺旋忍法帖には『螺旋帝の血族を捕縛せよ』という御下命が記されていたようだ。
この螺旋忍法帖があれば、螺旋忍軍の核心に迫る事ができるだろう。
「せやけど、ええことだけじゃありません」
ケルベロスが奪った螺旋忍法帖を手に入れようと、日本中の忍軍の刺客が動き出しているのだと山河は言う。
「螺旋忍軍には、螺旋忍法帖の場所を探し当てることが出来るようです。ずっと守り続けるのは、困難……ううん、至難でしょう」
だが、これは絶好のチャンスとも言える。
敵が螺旋忍法帖を狙うならば、それを利用すればいい。
螺旋忍法帖を囮として螺旋忍軍を誘き寄せて撃破するという寸法だ。
「ここで多くの螺旋忍軍を撃破しとけば、ケルベロスから螺旋忍法帖を奪うんは無理やと判断して奪取を諦めるでしょう。攻撃は最大の防御いうわけです。……ちょっと使い方が違う気もしますけど」
苦笑いを零すも、山河は作戦の説明を続ける。
防衛戦は石川県の金沢城と、北海道の五稜郭の二か所を拠点として行うことになる。
「うちからは金沢城の防衛……『霞隠しのサギリ』いう螺旋忍軍の迎撃をお願いします」
その二つ名の通り霧を使う螺旋忍軍で、霧状の姿の配下を4体連れている。
サギリは圧縮した霧を刀に纏わせる、霧をオーラに変換しての回復。霧を散布し、対象の魔力を崩すといった攻撃を用いてくる。
配下はいずれも螺旋忍者と同じグラビティを使用するだろう。
「もし敗北してしまった場合、残った敵は本陣に向かいます。そうすると、螺旋忍法帖を守るチームに負担がかかってしまいます」
敗北したのが1チームだけならば支えきれるかもしれないが、複数チームとなると非常に厳しいだろう。
さらに、勝利したとしても配下の一部の突破を許してしまえば、やはり本陣に攻撃を仕掛ける。
「せやから、出来るだけ突破させず、全滅を狙うようお願いしたいんです」
山河はくるり、くるり、ゆっくりと唐傘を回す。
「螺旋忍軍……分からんことが沢山ありますけど、今回はそれを知ることが出来るチャンスや思います。皆さん、ご武運を」
参加者 | |
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平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547) |
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896) |
リディ・ミスト(幸せ求める笑顔の少女・e03612) |
ガロンド・エクシャメル(愚者の黄金・e09925) |
雪村・達也(漆黒纏う緋色の炎剣・e15316) |
篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558) |
アトリ・セトリ(常盤の片影・e21602) |
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762) |
●青の中の白
「いい天気だねっ♪」
空へと両手を伸ばすリディ・ミスト(幸せ求める笑顔の少女・e03612)の言葉通り、見事なまでの晴天である。
雲一つないとは言えないが、本陣へ目を向ければ青い空が目に飛び込んでくる。
「防衛戦は嫌いじゃないが」
金沢城を眺めていたガロンド・エクシャメル(愚者の黄金・e09925)は溜息めいた息を吐きだした。
相手の狙いは本陣。
「面倒な戦いになりそうだ」
「ただ守ればいいってもんじゃないからな」
カチリ。さして意味なくオイルライターを鳴らし、雪村・達也(漆黒纏う緋色の炎剣・e15316)は空を見上げた。
青空を背負えば、全身を黒で揃える達也の姿は真夏の影のように明確な輪郭を見せる。
そういえばー、と緩い声。
「螺旋帝って何者なんだろー? 螺旋忍軍の王様みたいなのかなー?」
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)は唇に人差し指をあて、こてり首を傾げた。
「名の響きだけで言えばそうなるが……今はなんとも言えんな」
推測をするにも今は情報が足りていないと神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)。
「んー……螺旋忍法帖があれば、螺旋忍軍の核心に迫る事ができるって話だし、螺旋忍軍の核心に迫る事ができるって話しだし、とりあえず守らなきゃだね」
和の結論に頷きを返す晟だが、顎に手を当て独り言ちる。
「螺旋忍法帖……そこまでして欲するものなのか? 螺旋帝の勅忍がそれほど価値があるとも思えんがな」
無線機の操作をしていたアンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)は、一つ息を零して無線機を片付けた。
「やっぱり使えませんね」
備えとして信号弾を用意してはいるが、外れてほしかった予感だ。
デウスエクスの領域での戦い、あるいはデウスエクスが明確にケルベロスを標的とする場合に、何かしらの対策を打ってくるのは当然と言えば当然ではあるのだが。
「大丈夫っすよ。やることには変わりないっすから。できるだけやりましょ」
篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)はアンセルムにそう言い、そのままちらりとアトリ・セトリ(常盤の片影・e21602)へ視線を向けた。
逃がさず片付けて本陣援護に向かいたいところだが、出来る限りアトリが因縁に蹴りをつけられるように手伝いたいのもまた本音。
そのアトリは口を開くことなく、静かに時を待っている。
しかし穏やかな水面ではなく、真夏に立ち上る蜃気楼のような確かな激情がアトリの内側で揺らいでいるのが見て取れる。
ふいに、晟が口を開いた。
「『霧』が出てきたな」
その視線の先には、晴天には不似合いな4つの霧と白装束の忍びの姿。
この日を迎えるのを、ずっと待っていた。ずっと、探していた。
晴れ行く霧を呆然と見るだけのアトリはもういない。ここにいるのは、この日の為に研鑽を積んできたアトリなのだ。
アトリは腰のホルスターから古錆びた銀のリボルバーを抜き、移動する『霧』へ銃口を向けた。
「借りを返すときだよ、サギリ……此処は一歩も通さない」
●金沢の霧
目にも止まらぬ速さで放たれた弾丸をガロンドは追う。
サギリの配下は霧が人を模ったような姿をしてはいるが視認は容易。ゆらゆらと揺らめいては見えるものの、それだけだ。さらに、今は螺旋忍軍の象徴ともいえる仮面が現れている。
視認性を高めるべく投げようと思っていたカラーボールを使う意味は無いと判断し、攻撃を仕掛けた。
「…裁いてみせろ」
ガロンドを逆恨みする死霊を砲弾とし、ミミック『アドウィクス』によって具現化したアームドフォートで射出。放たれた砲弾は怨嗟の声のような風切り音を上げながら配下の一体に着弾した。
そんな配下には構わずにサギリは音もなくリディとの距離を詰める。
圧縮した霧を纏った刃が少女に迫る。
しかし、その間に達也の機械籠手が割って入った。刃は標的を違え、達也の腕を裂く。その瞬間、忍びはニッと嘲笑うように目を細めた。
達也の背後にいるリディはメッシュ状の長手袋に包まれた指先をサギリへ向け、石化を促す光線を放つ。
「ここは通行止めだよっ! 一人残らずお帰り願えるかなっ!」
返事の代わりに鼻を鳴らしたサギリはトンッと地面を蹴って後方へ跳びあがる。
そのサギリを捕らえるべく、体制を整えた達也は腕に絡めていた鎖を放った。
ジャララララ。
伸びた鎖はサギリを締め上げるもすぐに逃れられる。
サギリが地に手をついて着地したと同時に、配下の一体が動いた。
金沢城を背に立つケルベロス達の隙間を縫うべく走り出す。
「あー、そいつ逃げようとしてる!」
「一人、そっちに行くよっ!」
敵の挙動に注意していたリディと和の声が同時に上がる。
トントントンッと跳ねるような足取りとは裏腹にアドウィクスが猛然と配下に追いすがり、噛みつく。
数拍遅れ、アンセルムは吹雪の形をした『氷河期の精霊』を呼び出した。
「そんなに急がなくても、時間は沢山あるでしょう?」
愛らしい人形を操りながらのアンセルムの挑発。
さして気に留めた素振りも見せず、配下はバッと仲間の元へ跳びあがった。
霧に覆われた姿では表情こそよく分からないものの、四体の配下は全員が僅かな隙も見逃さないとばかりにケルベロスを窺っている。
晟は懐に手を入れ、見せつけるように巻物を取り出した。
「この螺旋忍法帖が分からんとはな。螺旋忍軍の目は節穴らしい」
勿論、ブラフである。
物は試しだと思っての行動だが配下達は見向きもしない。
ここまで一言も喋らなかったサギリが初めて口を開いた。
「紛い物に興味は無い」
螺旋忍軍は螺旋忍法帖の居場所を探し当てることが出来るのだから、本物から離れた場所にある偽物に騙されはしないということだろう。
「あとはぶつかるだけっすね」
佐久弥はチェーンで固定した電灯をぽんと叩くと、照明の代わりに絶望の黒光を照射する。
その隙に和は後方を担う仲間に破魔の力を与えるべく、扇を一振り。
「いくよー! えーと、スナイパー魂の陣!」
「えらく雑な名前っすね」
「ちゃんと効果が出ればそれでいいの!」
「そんなもんかなぁ……」
遊び友達である佐久弥からのツッコミに和は憤然と言い返す。
交わす言葉の軽やかさとは違い、敵に対峙する姿勢は真剣そのものだ。
その間にもしかけてくる螺旋忍軍の攻撃を、『守』に重きを置いた者達が捌いていく。
庇うことが間に合わず、アトリの体に螺旋の掌が触れたものの戦意は健在だ。
むしろ、あの日から今日という日までの抱いていた想いが押し寄せるように高まっていく。
だが決して、意趣返しだけが理由ではない。
突破を許すか否かで本陣の状況は変わる。
ガロンドが言った通り、これは防衛戦。つまり、護る為の戦いだ。
「全力で戦い抜く……!」
常よりも強い声音でアトリは言い切る。
その想いに応えるべく、ウイングキャット『キヌサヤ』は黒い翼を羽ばたかせた。
●霞隠しのサギリ
「ケルベロス数人に勝てないで勅忍が務まるのか?」
突破の隙を探り続ける配下に挑発を投げつけるガロンド。
ゆるり、苛立ちを示すかのように配下の身を包む霧が揺らめくも、行動に変化はない。
ふむ、と晟は呟く。
「こちらの予想以上だな」
予想以上なのは『螺旋忍軍にとっての螺旋忍法帖の重要性』のこと。
晟の言葉はひどく端的であったが、隣に並んだ親友はその意味を正しく汲み取った。
「そうだな。だけど分かりやすくていいよ」
「違いない」
晟がふっと笑みを漏らすと、ガロンドもつられて笑う。
死ぬ気はないが踏ん張りどころである。
黄金竜の意地にかけて、逃がすわけにはいかないとガロンドは戦場を駆ける。
二人のドラゴニアンの体にはいくつもの傷がある。
最前に立つ者が五人と一体であるが為に、複数を癒すグラビティの効果が落ちていることに起因する。傷が浅くすんでいるのは回復を疎かにしなかったから。
しかし、最前に多くの手を割いたからこそ突破を阻止出来ているのだ。傷の代価としては充分である。
ケルベロス達は確実に配下を打ち据えていく。
数を減らすごとに、敵は突破口を探すことさえ困難になっていく。
「誰の幸せだって―――奪わせないっ!」
これ以上の幸せを、友人からは奪わせやしない。
その意志を持ってリディは失われたオラトリオの力――時を操る力を解放する。
時間の巻き戻し。
不完全な力での巻き戻しは歪みを呼び、配下の体にダメージを与えた。
ふらふらとよろめいた配下の体は膝を付くと同時に霧散する。
これで残すはサギリのみ。
「……役立たず共が」
「サギリッ!」
アトリが声を張り上げた。
二体目の配下を屠ってからは距離を詰め、達也がサギリに張り付いていた。
執拗に喰らいついてくる達也に注がれていたサギリの緑色の瞳がアトリへ向けられる。
追尾を断つべく飛び退いたサギリだが、距離を離すよりも先に響き渡る青年の声。
「其は、凍気纏いし儚き楔。刹那たる汝に不滅を与えよう」
するり、蔦が絡みつく人形を撫でながら朗々と唱えあげられたアンセルムの呪文。
空気中の水分は無数の氷槍に姿を変え、サギリを貫いた。
「くっ!」
宙にあったサギリの体が地面に叩きつけられる。
負傷した腕を庇いながら立ち上がったサギリはマントを翻し、霧を散布する。
霧に魔力を蝕まれるリディ達の背後にカラフルな爆煙が巻き起こった。
「ここからが本番だよー! みんな、気合入れてー!」
攻撃こそ行えていないものの、和の回復は的確だ。
その和の回復に合わせ、佐久弥は二本一対の鉄塊剣を一本の大剣へと変える。
「血潮よ燃えろ、加速しろ――」
消え行く霧と煙をさらに散らすほどの勢いでプラズマが放たれた。
回避行動を取ろうとするサギリの足がガクリ、沈む。達也の鎖に何度も捕らわれた結果だ。
直撃を受けたサギリの体からは焦げた匂いが立ち上る。
ところどころ血で染まっていた白装束も今や焦げ、裂かれ、さらに増えた血の染みも己のものが殆どだ。
それでも残忍な緑の瞳はアトリの記憶にあるものと変わらない。
次が最期の時。
アトリの身に、月のように煌くグラビティが降り注いだ。
「任せるよアトリさん。何か因縁があるんだろう? それを、ここで断ち切ってやれ!」
達也が示した勝利への道標をアトリは直走る。
近距離から放たれる仄暗き影の弾丸。放ったのは古錆びた銀のリボルバー。
着弾と同時に影がサギリの体に広がっていく。
発射から着弾まで、霧の忍びは一瞬たりともアトリから目を逸らさなかったが、ついにその体は地面へ倒れ込んだ。
「……霧は晴れるものだよ。いつか、必ずね」
リディが打った信号弾が空に咲く。
撃破を知らせる為のものだが、本陣の行動は変わらないだろう。
アンセルムは戦闘で人形についた埃を丁寧に払ってやると、じっと亡骸を見つめているアトリを促す。
「さ、行きましょう」
一つ、二つ。アトリは静かに、深く息を吐いてから頷いた。側にいるよと言う代わりに、リディは隣に並ぶ。
勝敗は決したが、彼女の内心での決着はついたのだろうか。
それが気がかりで、佐久弥は声をかけようとしたものの、かける言葉を思いつかず結局は飲み込む。
代わりに金沢城へ視線を向けた。
本陣の応援に行きたいところだがあちらの状況が分からない。手助けになればいいが、介入によって何かの邪魔になる可能性も否めない。
話し合った末に八人は帰還を選び、霧の晴れた晴天の戦場を後にするのであった。
作者:こーや |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年6月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
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