螺旋忍法帖防衛戦~出張解体ショー

作者:鴇八舟

「皆さん、これは螺旋忍軍を一斉に撃破するチャンスです」
 6月のヘリポートには湿った空気が流れている。イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は、真剣な面持ちでケルベロス達に語りかけた。
「螺旋忍軍の拠点に攻め込んだことが功を奏して、多数の情報を得ることができました。ご協力いただき、本当にありがとうございました。そしてシヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)さんと、嶋田・麻代(レッサーデーモン・e28437)さんが、螺旋忍者にとって重要な意味を持つ『螺旋忍法帖』の所持者となっています」
 作戦の成果を聞いたケルベロス達は、思わず感嘆の吐息を漏らした。
「『螺旋帝の血族を捕縛せよ』という御下命が、螺旋忍法帖には記されていたようです。さらに、『1度の御下命で勅忍になれる忍軍は1つだけ』ということも判明しました。螺旋忍法帖があれば、螺旋忍軍の謎に迫ることができるでしょう」
 しかしこの状況には問題があった。勅忍となるチャンスを得られると知った日本中の忍軍の刺客が、ケルベロスが持つ2つの螺旋忍法帖の強奪を狙っているのだ。
「螺旋忍軍は、螺旋忍法帖の場所を探すことができるようです。鍵のかかる場所に保管したとしても、常套手段で螺旋忍法帖を守り切ることは出来ません。それならば逆に、この機を利用し、螺旋忍軍をおびき寄せる作戦を展開しましょう」
 螺旋忍法帖と、それを持つケルベロス2人の防衛が鍵となる。防衛拠点の1つ、北海道五稜郭の地図を配布しながら、イマジネイターは続けた。
「皆さんには五稜郭で、忍者の老婆『サバミソラムネ』率いる螺旋忍軍を迎え撃っていただきます。サバミソラムネは配下5名を連れており、揃って寿司屋の板前のような格好をしています」
 サバミソラムネの一味は、ケルベロスの螺旋忍者と同じく『螺旋氷縛波』『螺旋掌』『分身の術』のグラビティを使用することが告げられた。
「特にサバミソラムネは、素手で獲物を解体する技術に長けており、主に『螺旋掌』で攻撃してくることでしょう。十分注意してくださいね」
 今回の作戦で多くの螺旋忍軍を撃破すれば、彼らも二度と螺旋忍法帖を奪おうとは考えないだろう。
「ただし……勝利したとしても、一部の配下に突破されれば、本陣に攻撃を仕掛けられてしまいます。できる限り突破させず、全て撃破できるように力を尽くしてください。皆さんの働きが頼りです」
 螺旋忍法帖を守り抜いてほしい。イマジネイターの強い思いが、ケルベロス達の心を奮い立たせた。


参加者
村雨・ベル(エルフの錬金術師・e00811)
塚原・宗近(地獄の重撃・e02426)
日生・遥彼(日より生まれ出で遥か彼方まで・e03843)
ステイン・カツオ(クソメイド・e04948)
弐番堂・むささき(紫電の歯車・e31876)
天乃原・周(出来損ないの魔法使い・e35675)
カリン・エリュテイア(白花舞踏曲・e36120)

■リプレイ

●食材は鮮度が命
 北海道函館市に残る洋式城郭・五稜郭。星型の土塁は緑の木々に覆われており、それを囲む水堀の青とのコントラストが美しい。
 カリン・エリュテイア(白花舞踏曲・e36120)とウイングキャットのシロさんは、ヴァルキュリアの光の翼で飛んで周囲を見渡し、螺旋忍軍を捜索していた。
「……本陣におる人達のためにも、頑張らないといけんね」
 白い毛並みのシロさんは主を心配するように近づき、彼女の頬に顔を擦りつけた。
 ケルベロス達は各々、サバミソラムネ一味の来襲に備えている。石塀の側に控えていた村雨・ベル(エルフの錬金術師・e00811)とシャーマンズゴーストのイージーエイトさんは、隠密気流で気配を隠し、石塀の柄の布をかぶっていた。
「忍者には、忍者っぽいアプローチをしてみないとですね」
 索敵を始めてしばらく経った頃。木に登り、望遠鏡を覗いていた塚原・宗近(地獄の重撃・e02426)は、堀に掛かる木橋を堂々と渡るサバミソラムネと、配下の男女――カンパチとハマチを発見した。揃って寿司屋の板前のような白い調理衣を着、黒の前掛けを締めている。
「なんで……クマ?」
 宗近の頭の中がクエッションマークでいっぱいになる。サバミソラムネはどうしたことか、丸々太ったヒグマを背負って歩いていたのだ。
「これはまた、忍んでない忍者ですね」
 上空で索敵をしていたメルカダンテ・ステンテレッロ(茨の王・e02283)も地上に降り立ち、翼をたたむ。ケルベロス達は疑問に思いながらも集合し、木橋を渡り終えた老婆の行く手を阻んだ。カンパチとハマチは姿勢を低くし、サバミソラムネを庇うように前へ出る。
「おやおや、憎きケルベロスのお出ましじゃ」
 サバミソラムネは相対する者達を威圧した。齢を重ねた、貫禄のある面構えである。
「そのクマはどうなさるおつもりですか?」
 戦闘態勢をとっていたステイン・カツオ(クソメイド・e04948)が問うと、老婆はカッと目を見開いた。
「宿敵よ……貴様もおったのか!」
「は? いえ、サバミソなんたらという方は存じ上げません」
「嘘をつけ!! 寿司屋での貴様の仕打ち、一時たりとも忘れはせぬぞ!!」
 サバミソラムネに睨み凄まれ、彼女は引き気味になりながら記憶を掘り返す。
(「やべえ……もしかしてあの時のアレ、か? アレなのか?? 無罪だろ、無罪だよ私……」)
 そうこうしている間に、サバミソラムネは背負っていたヒグマを草むらにドサッと下ろした。クマが心なしか身じろいだような……。
「ここへ来る途中、森の中で出会ったのじゃ。気絶してるだけでまだ生きておる。普段は魚の解体ばかりしておるが、儂等が螺旋忍法帖を得た暁には、板前達に新鮮なクマ肉の鍋を振る舞おうと思っての。クックック、腕が鳴るわい」
 魚の解体という情報に、ケルベロス一同は首を傾げた。螺旋忍軍として暗躍する傍ら、副業でもしているのだろうか。
「寿司屋さん……なのでしょうね」
 ディフェンダーの日生・遥彼(日より生まれ出で遥か彼方まで・e03843)は、配下達に警戒して前へ出る。どことなくウズウズしているような表情だ。
「螺旋忍軍にしては、ずいぶん喧しいこと」
 メルカダンテはよく喋るサバミソラムネに、真っ直ぐ青い眸を向けている。
「クマを食材にするなんて……むごいでござるな」
 弐番堂・むささき(紫電の歯車・e31876)は眉根を寄せた。おデブなウイングキャットのぐんじょうも、敵に向かって威嚇する。
 ザパンッ!! と堀から水の音がした。板前姿の忍者3人が木橋の両脇――水の中から飛び出してきたのだ。
「我等の出張解体ショー、とくと堪能するが良いッ!!」

●解体するか、されるか
 全身びしょ濡れの男、ズワイが放った螺旋氷縛波は、ディフェンダーであるむささきの体にダメージを与えた。
「うわぁっ」
 布陣が崩れた隙に、女性配下のアカミがサバミソラムネに分身の術をかけ、バッドステータス耐性をつける。
 カリンは御霊殲滅砲の巨大光弾をサバミソラムネに向けて放ったが、板前姿のハマチにガードされてしまう。
「敵のディフェンダーの男から集中攻撃するんよ!」
 カンパチを指し、仲間に攻撃を呼びかける。シロさんは主を援護しようと、キャットリングと猫ひっかきをカンパチに向けて交互に繰り出していく。
 メルカダンテは時空凍結弾や【氷結の槍騎兵】、イガルカストライクを交互にカンパチへぶつけ、氷の効果をかけることに成功した。
「スシ……? サバ、ミソ……ラムネ……? 妙な連中ですが、此処は通しません、というやつです」
「悪いけれど、解体ショーを頼んだ覚えはないんだ――この一撃の重さが全てを証明する」
 宗近はショーへの誘いを挑発的にお断りし、鉄塊剣に自身の全てを込め、鋼刃重撃でカンパチに斬りつけた。
 イージーエイトさんは『祈りを捧げる』でむささきを回復。ベルはサークリットチェインを前衛に使い、さらに黄金の果実で耐性を付与する。天乃原・周(出来損ないの魔法使い・e35675)はカンパチにスターゲイザーの飛び蹴りを炸裂させた。
「螺旋忍法帖は渡さない!!」
 だが配下の数が多すぎた。それぞれの攻撃力は弱めであっても、ケルベロス達のHPは少しずつ削られている。
 クラッシャーであるマダイの螺旋掌が宗近を傷つけ、スナイパーのズワイが螺旋氷縛波でメルカダンテを攻撃する。シャーマンズゴーストのシラユキはディフェンダーとして、クラッシャーやスナイパーを優先的に庇っているが、回復が間に合っていない状況だ。
 さらに敵は、単体効果ではあるが全員ヒールグラビティを持っている。カンパチ1人に攻撃が向けられるのであれば、カンパチだけをヒールすればいいので螺旋忍軍達にとっては比較的楽なのであった。
 苦し紛れにむささきは、マルチプルミサイルをカンパチに向けて打つが、当たる寸前に回避されてしまう。
 そんな中、サバミソラムネは隙を見て本陣へ向かおうとしていた。ステインと遥彼は連携して、老婆の行く手を阻む。
「私どもがサバミソ様のお相手をさせていただきます」
 互いに睨み合い、ジリジリとにじり寄る。
「ほう……配下を先に倒し、儂を主菜に取っておこうという洋風料理方式か。儂は先を急ぐのじゃ」
 ヒグマを下ろして身軽になったサバミソラムネは、2人の脇をすり抜け突破しようとする。すかさず遥彼が老婆を抑え、
「この唇に詩を。この瞳に儚き願いを。此方より彼方までを導く、この愛を貴方に捧げましょう――♪」
 と愛病を発動し、サバミソラムネに怒りを付与した。
「鯖味噌ラムネ……えぇ、えぇ、なんて美味しそうな名前かしら! 大丈夫。私が……私達があなたの血の一滴まで、全て飲み干してあげるわ」
 何故か敵にのみヤンデレになってしまう彼女は、恍惚の表情でサバミソラムネを見つめ、蕩けるようなため息をつく。すかさずステインがツッコミを入れた。
「いや、私は老婆の血なんか飲みたくねえんだけど」
「解体するか、されるかということじゃろうか……面白い。ならばステインとの遺恨も、ここで晴らそうぞ!!」
 ジャマーのポジションであるサバミソラムネは、力強く握りしめていた右手を開き、螺旋掌でステインに襲いかかる。螺旋をこめた掌で敵に軽く触れ、内部から破壊する技で、素手での解体を得意とする老婆にとっては相性抜群のグラビティである。しかし怒りの効果により遥彼に攻撃が当たり、3倍となったプレッシャーの効果がついてしまう。
「儂に解体できぬものなどないわ! この道500年――というのは流石に嘘じゃが、60年間素手で修行してきた儂の技の前にひれ伏せいッ!!」

●突破を許すな!
 ぐんじょうが清浄の翼で遥彼を回復する。サバミソラムネを抑え込みながら、ステインは配下のカンパチを狙って禁縄禁縛呪で攻撃するが、その頃には形勢がかなり危うくなってきていた。長引く戦闘。額の汗を拭う者や、傷口の痛みに耐える者もいる。
「古より伝わりし奇跡の光よ、我が手に!」
 周は天ツ光ノ漣で前衛達にキュアを施す。彼女の民族衣装の内側が青白く光り、最大限に魔術の威力を発揮する。
 後衛から全体を観察していたベルは、方針の変更を呼びかけた。
「大分劣勢になっています! ここは頭のサバミソラムネを先に討ちましょう!!」
「ラムネ様、我等がお守りいたします!!」
 前衛のマダイ、カンパチ、ハマチがサバミソラムネを守護するように前へ立った。
「ここは回復にまわるべきでござるね――Change!」
 むささきは状況を判断して回復役にまわり、Changeと気力溜めで戦線維持に努める。
「ここは通さないってところかな」
 フレイムグリードでサバミソラムネを狙った宗近は、老婆の動きを逐一確認し、警戒していた。
「守りきる……ッ」
 時空凍結弾をサバミソラムネに放ったメルカダンテも、激しい戦闘に息があがっている。
「こっちですよ」
 3人の配下達に割り込まれたステインは、一旦距離をおき、怪光線の光の矢をサバミソラムネに放つ。怒りの効果が付き、これでサバミソラムネの攻撃は、主にディフェンダーの2人に向けられるだろう。
「これだけ人数が多いと、いつどの敵が突破を図るか知れません。お気を付けください」
「小癪な……そんなに儂の螺旋掌の餌食になりたいか!!」
 サバミソラムネはステインに螺旋掌を食らわせ、主に続けとズワイやマダイが、螺旋氷縛波の氷で遥彼やカリンを攻撃する。
 アカミが分身の術でサバミソラムネを回復している最中に、配下達が視線で何らかのサインを交わす。
「まずい、抜かれるよ!」
 不審な動きに気づいた宗近が皆に声をかけ、デストロイブレイドの一撃でマダイを叩き潰し撃破。
「鯖味噌さん、あなたは逃がさない。逃さないわよ? この鎖は、私達の愛の証。さぁ、愛し合いましょう?」
 ヤンデレ成分全開の遥彼は、シャウトでのキュアを終え、猟犬縛鎖でサバミソラムネに捕縛をかけようとする。しかし最初に受けた螺旋掌のプレッシャーが一段階分残っており攻撃を外してしまった。
 ケルベロス達は敵の回復が追いつかなくなるまで、サバミソラムネを集中的に叩いていく。イージーエイトさんは神霊撃で配下の注意を引きつけ、ぐんじょうとシラユキはディフェンダーとして仲間の盾となる。シロさんはサバミソラムネの顔に猫ひっかきを食らわせた。
「うちは、これしか知らんのよ」
 カリンが劣化模造・死行朔誤をサバミソラムネに放ったところで、ようやく敵の疲弊が見えてきた。
「クックッ、かかったな」
 サバミソラムネが不穏な笑みを浮かべる。ケルベロス達は老婆に気を取られていたが、その間に配下のズワイとアカミが布陣の網をくぐり抜けようとしていたのだ。
「儂はもともと老い先短い身じゃ。戦況が悪くなったら、すぐ突破するよう指示を出しとったのよ」
「突破を許すな! ここで仕留める――緑色の眸の怪物!!」
 メルカダンテが、突破していこうとするズワイとアカミに『緑色の眸の怪物』を繰り出すが、カンパチとハマチにガードされてしまう。
「拘束制御術式『賢者の霊鎖』!!」
 分散して突破しようとする配下達を阻もうと、ベルが魔方陣から大量の霊鎖を出現させた。ズワイとアカミに当たりはしたが、カンパチとハマチがすんでのところで分身の術を発動。ヒールを受けたズワイとアカミは、疾風のごとく本陣へ駆ける――。

●天に登る照明弾
 ケルベロス達は必死に、本陣へと走るアカミとズワイの後を追おうとしたが、
「ラムネ様! 我等は必ず任務を果たしますぞ!!」
 板前忍者達の足が速すぎて追いつくことができず、ケルベロス達は突破をみすみす許すしかなかった。
「2人に逃げられてしまったけど、こうなってしまったからには仕方がない。目の前の敵を倒そう」
 周はグラビティブレイクで、メルカダンテは【氷結の槍騎兵】でハマチに大ダメージを与え、撃破。宗近は旋刃脚をサバミソラムネに向けて繰り出し、身を挺して守ったカンパチが息絶えた。
 残るはサバミソラムネだけであるが、老獪である彼女も負けてはいない。螺旋掌と螺旋氷縛波を使い分けて攻撃する。ただ最早、彼女も首の皮一枚で繋がっているような状態だった。
「それではごきげんよう、サバミソさん」
 半透明の、「御業」の炎弾。ステインの放った熾炎業炎砲の炎が、サバミソラムネを焼き尽くす。
「クックッ……儂には勝ったかもしれぬが、板前達が本陣へ攻め入るぞ」
 老婆は末期の言葉を残し、灰となって消えていった。
 サバミソラムネを倒し、結果的に戦闘には勝利をおさめた。しかし、配下2人を本陣へ通してしまった悔しさや、やり場のない感情が、その場に満ち満ちていた。
 戦いで疲弊した皆を、メディックのベルとイージーエイトさんが中心となってヒールしていく。
「このような結果になってしまいましたが、力は尽くしました。後は本陣に託しましょう」
「そうだね、最悪の事態にならないよう祈ろう」
 歯がゆさを抑えて、宗近は鉄塊剣を収めた。
 メルカダンテは翼を羽ばたかせながら、戦闘を振り返る。
「妙な格好の者達でしたが人数が多く、今回の作戦では対応しきれていなかったかもしれませんね」
 傍らにシャーマンズゴーストのシラユキを連れた周は、草むらの上で気絶しているヒグマを、脳髄の賦活でヒールする。
「最初に頭数を減らせなかったのが痛手だったね……」
「ああ、勿体無い。鯖味噌さんの血が一滴も残らなかったなんて……」
 戦いが終わっても遥彼のヤンデレは止まらず、死んだサバミソラムネを想い嘆いていた。
(「自分の行いのせいで誰かが不幸になっているとしたら、私はいったいどうすればいい?」)
 複雑な面持ちで本陣のある方角を見据えていたステインは、自責の念に駆られていた。
「突破されてしまって、申し訳ないんよ……」
 シロさんを肩にのせたカリンは、本陣にいる皆への想いを込め、天高く照明弾を打ち上げた。螺旋忍法帖を守り抜く使命は、本陣へと引き継がれたのだ――。

作者:鴇八舟 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。