リア充死すべし、慈悲はないッ!

作者:ゆうきつかさ

●某教会
「俺は常々思うんだ。リア充は死すべきだと! だって、そうだろ? リアルが充実しているだけでも、罪ッ! そんな奴は死ぬべきだッ! コイツらがキャッキャッウフフしている間も、俺達はこの世のすべてを恨みながら、常に死ぬ事ばかり考えている! それは何故か! リア充が俺達の分まで、幸せを奪っているからだ。不公平だと思わないか? 俺達の幸せまで奪っておきながら、感謝すらしないのだから……! そんな奴は死ぬべきだ! 感謝を忘れて、愚か者には死を!」
 羽毛の生えた異形の姿のビルシャナが、10名程度の信者を前に、自分の教義を力説した。
 ビルシャナ大菩薩の影響なのか、まわりにいた信者達は、ビルシャナの異形をまったく気にしていない。
 それどころか、信者達はビルシャナの歪んだ教義を鵜呑みにして、『そうだ、そうだ!』と連呼するのであった。

●都内某所
「篠宮・紫(黎明の翼・e00423)さんが危惧していた通り、ビルシャナ大菩薩から飛び去った光の影響で、悟りを開きビルシャナになってしまう人間が出ているようです。悟りを開いてビルシャナ化した人間とその配下と戦って、ビルシャナ化した人間を撃破する事が今回の目的です。このビルシャナ化した人間が、周囲の人間に自分の考えを布教して、信者を増やそうとしている所に乗り込む事になります。ビルシャナ化している人間の言葉には強い説得力がある為、放っておくと一般人は信者になってしまいます。ここで、ビルシャナ化した人間の主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、周囲の人間が信者になる事を防ぐことができるかもしれません。ビルシャナの信者となった人間は、ビルシャナが撃破されるまでの間、ビルシャナのサーヴァントのような扱いとなり、戦闘に参加します。ビルシャナさえ倒せば、元に戻るので、救出は可能ですが、信者が多くなれば、それだけ戦闘で不利になるでしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
「ビルシャナは破壊の光を放ったり、孔雀の形の炎を放ったりして攻撃してくる以外にも、鐘の音を鳴り響かせ、敵のトラウマを具現化させたりするようです。信者達を説得する事さえ出来れば、ビルシャナの戦力を大幅に削る事が出来るでしょう。ただし、信者達はリア充撲滅のため、教会に武器を集めているようです。このまま放っておくと、間違いなく行動に移すため、色々な意味で注意しておきましょう。なお、信者達の生死は成否判定には影響しません」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
「また、信者達はビルシャナの影響を受けているため、理屈だけでは説得することは出来ないでしょう。重要なのは、インパクトになるので、そのための演出を考えてみるのが良いかもしれない。また、ビルシャナとなってしまった人間は救うことは出来ませんが、これ以上被害が大きくならないように、撃破してください。それでは、よろしくお願いします」
 そして、セリカはケルベロス達に対して、深々と頭を下げるのであった。


参加者
リーナ・エスタ(シェルブリット・e00649)
斎藤・斎(黒の剣の担い手・e04127)
メーリス・サタリングデイ(希望の歌・e10499)
氷鏡・緋桜(矛盾を背負う緋き悪魔・e18103)
ヴォルフラム・アルトマイア(ラストスタンド・e20318)
ノーフェイス・ユースティティア(それは無貌であるが故・e24398)
リノン・パナケイア(狂気の道へ・e25486)
鈴森・要(ホワイトナイト・e30620)

■リプレイ

●教会前
「リア充、死すべし。慈悲はない、ですカ……」
 ノーフェイス・ユースティティア(それは無貌であるが故・e24398)は仲間達と共に、ビルシャナが拠点にしている教会の前にやって来た。
 ビルシャナはリア充を親の仇の如く恨んでおり、彼らの命を狙っているようだ。
 そのため、教会に同じような考えを持った信者達を集め、リア充たちに攻撃を仕掛ける準備を進めているらしい。
「これが格差社会が生んだ歪みというヤツなのか」
 リーナ・エスタ(シェルブリット・e00649)が、複雑な気持ちになった。
 おそらく、本音を言えば、リア充が羨ましいのだろう。
 だが、自分達に恋人がいないため、逆恨みにも近い感情を抱いているのかも知れない。
「リア充死すべしだって! どうする白夜くん……オレ達が狙われてるよ!! こわーい!」
 そんな中、鈴森・要(ホワイトナイト・e30620)が、テレビウムの白夜くんに抱き締め、思いっきり頬擦りをする。
 その途端、白夜くんがバールのようなモノを握り締め、要の事をボコボコにした。
「うんうん、なるほどね……。いや、ここまで無茶なビルシャナも珍しいな? これまで見たやつは流石にもう少し理屈を付けてたぞ」
 ヴォルフラム・アルトマイア(ラストスタンド・e20318)が、事前に配られた資料を目に通す。
 それだけ嫌な思いをしたのかも知れないが、リア充側からすればイイ迷惑だろう。
「リア充爆発しろーって言うタイプで、もっとはっちゃけてる人は知ってますけど、こちらの方が陰にこもって、無駄な真剣みがあって付き合いづらいというか、何と言うか……。どだい人を呪おうと何しようと自分が幸せになるわけでもないのに、何をとち狂ってるのでしょうね。本音を言えば、全員殴ってしまいたいですけど、ここは頑張って説得しましょうか」
 斎藤・斎(黒の剣の担い手・e04127)が、自分自身に言い聞かせた。
 色々と思う事はあるようだが、説得できるのであれば、無駄に戦闘は避けたいところである。
「ああ……では、終わらせに行こう」
 リノン・パナケイア(狂気の道へ・e25486)が大きなフクビをしながら、仲間達を連れて教会の中に入っていく。
「だ、誰だ、お前達は……!」
 それに気づいたビルシャナ達が、警戒心をあらわにする。
 どうやら、これからリア充を襲撃するため、士気を高めていたらしく、その手には禍々しい武器が握られていた。
「一応、警告しておくぞ。大人しく投降しろ。もし抵抗すると言うのであれば……命を賭けてもらう事になる」
 氷鏡・緋桜(矛盾を背負う緋き悪魔・e18103)がビルシャナ達の前に立ち、念のため警告をする。
 もちろん、そんな事をしたところで、考えを改める可能性は低いのだが、それでもわずかな可能性に賭けてみた。
「悪いがこれから俺達がする事は正義だッ! これは揺るぎない正義……! 故に、俺達は引かないッ! 考えを改める事はないッ!」
 ビルシャナがキリリとした表情を浮かべ、ケルベロス達にキッパリと言い放つ。
 まわりにいた信者達も、まったく迷いがないらしく、色々な意味でヤル気満々のようである。
「リアジューが悪い人でもそうじゃなくても、暴力で解決しようとするのはダメだよ!! そんな君たちはこれでお仕置きだ――!!」
 次の瞬間、メーリス・サタリングデイ(希望の歌・e10499)が見た目だけ派手な手加減攻撃で、目の前にいた男性信者の意識を奪う。
「……って、暴力を振るっているじゃねえかああああああああああああ!」
 それを目の当たりにしたビルシャナ達が、一斉にツッコミを入れるのだった。

●教会内
「いや、これは暴力じゃないよ……そうじゃないんだよ……っ!」
 その途端、メーリスが急に弱気な態度で言い訳をし始めた。
 見た目が派手だった事もあり、ビルシャナ達はドン引き、ガタブル状態。
「そうじゃない? 一体、何が違うんだ! 本当に悪いと思うのなら、俺達の彼女になれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
 ビルシャナが『これはチャンスッ!』とばかりに、思わず本音を口にした。
「そうだ! そうだ……って、ええッ!」
 これには信者達も驚き、思わず二度見。
「あ、いや、冗談だ。ビルシャナジョーク的なアレだ、アレ」
 ビルシャナも『しまった! つい本音が……!』と言わんばかりの表情を浮かべ、ぎこちない笑みを浮かべる。
「なんだ、俺達はてっきり……」
 信者達も『ビルシャナ様に限って、そんな事を言うはずが……』と言う気持ちがあったのか、同じようにぎこちない笑みを浮かべた。
 だが、共通の彼女が出来る事で『俺達もリア充の仲間入りかも』と言う気持ちもあったため、まんざらでもない感じである。
「まあ色々置いておいて、要するにこれ以上、そのビルシャナについていくなら、これ以上の暴力を奮うよってことだよ!!」
 そんな空気を振り払う勢いで、メーリスがビシィッと叫ぶ。
「やっぱり、暴力を振るっているじゃねえかあああああああああ!」
 そのため、ビルシャナ達が総ツッコミ。
 息の合ったツッコミに、メーリスが反射的に仰け反った。
「ところで、リアルの充実は様々でできると思うのだが、それでは不満だろうか? 趣味、仕事、私は寝ている際非常に充実感を感じている。リア充だと思っているが……。何か一つ、幸せを感じられればそれでいいではないか? どうしても恋愛面じゃないと嫌なのなら付き合ってみるか?」
 リノンが信者達の顔色を窺いながら、何となく禁断の世界に誘う。
「ふ、ふざけるなッ! 確かに、ここまで女に縁がないなら、男もいいかなって思った事もあるが、思っただけだからなッ!」
 強面の男性信者が、恥ずかしそうに頬を染める。
 おそらく、そちらの世界に興味があるのだろう。
 自分が発した言葉に反して、『コイツだったら、イイかも』と言わんばかりに瞳を潤ませていた。
「なあ、どうしてお前らは充実していないんだと思う? それはな……、人を不幸にすることばかり考えてるからさ。人の幸福を妬んでばかりいるからさ。気の持ちようでご飯は美味しいし、行動すれば仲間は増える。楽しいことをやれば良いのさ。誰かを不幸にして幸せになるなんてのは錯覚だ。そんなのはただ虚しくて……空っぽになるだけだ。分かったなら……とっとと楽しいことをしに行くといい」
 ヴォルフラムが信者達を諭すようにして語り掛けていく。
「お前ら、騙されるなっ! こいつらはリア充! つまり俺達の敵だ! そんな奴らが本当の事を言うと思うか? そんな訳がないだろ!」
 ビルシャナが色々な意味で危機感を覚え、信者達に対して警告をした。
「随分とリア充を憎んでいるようだけどさぁ。君らだって、こんな風に恋人とイチャイチャしたいっしょ? なんで諦めるの?」
 要が頭から血を流しながら、白夜くんにキスをする。
 それにイラッとした白夜くんが攻撃を仕掛けてきたものの、頭から流れる血でハートマークを作る勢いで華麗に回避すると、躊躇う事なく頬擦りをした。
「いや、全然羨ましくないから……」
 そのせいか、信者達がドン引き。
 『あれも愛……なのか!? いや、違うだろ! 絶対に……!』と言いたげな様子で、乾いた笑いを響かせていた。
「皆様、かようなまでにリア充を憎んでおいでということは、当然ながらリア充にはなりたくない、ということでよろしいのですよね? でも、本当に? 充実したリアルにキャッキャウフフする事一切なく、この世のすべてを恨みながら、常に死ぬ事ばかり考えているのが正しい生き方と? 本当は嫌ですよねえ、そんな生き方……。人生楽しんだ方がお得だと思いますよね? だってレジの女性とちょっと話してるだけでも『彼女いるなんてリア充死すべし慈悲はない』って襲われますよ、きっと」
 斎が色々と察した様子で、信者達に語り掛ける。
「うるさい、黙れ! 俺は孤独が好きなんだ! 愛などいらん! リア充が不幸になる事こそ、俺達にとっての幸せ!」
 ヤバげな表情を浮かべた男性信者が、何かに取り憑かれた様子で叫ぶ。
 この様子では、リア充絡みで何かあったのだろう。
 何やら狂気めいたモノまで感じるほど、危険な雰囲気が漂っていた。
「てかさ、別にリア充が幸せそうにしてるのと、君らが幸せじゃないなのは全然無関係だよね? 幸せになりたいなら、合掌してみなよ。お手手のシワとシワを合わせて~ってやつさ。手を合わせる所作ってのは相手への敬意や祈り、調和を願うと言う意味があるんだってさ。自分の事しか考えてないうちは幸せになんかなれないよ」
 緋桜がお手本とばかりに、なむなむと両手を合わす。
「何度も同じ事を言わせるなッ! 俺達にとっての幸せは、リア充の不幸……ただ、それだけだ!」
 両目を血走らせた男性信者が、殺気立った様子で叫ぶ。
 だんだん迷いが生まれてきているようだが、ビルシャナがいる手前、無駄に強がっているようだ。
「そもそも、キミ達は負けてばかりいるから、勝つことの本当の意味がわかっていない。『勝ったらいいな』じゃない! 人生は『勝たなきゃダメ』なんだ! 勝たずして生きるなど論外、キミ達も勝ってリア充になればよいのだ! 後ちょっと! もうちょっと頑張ろう! でもそこの鳥(ビルシャナ)と一緒にいると、負けグセがつくから一刻も早く鳥から離れるんだ」
 リーナが真剣な表情を浮かべ、信者達に対して警告をする。
「お、お前ら! 俺を信じろ! こいつらはリア充だ。俺達の敵だ!」
 次の瞬間、ビルシャナが殺気立った様子で、まわりにいた信者達を嗾けた。
 信者達も引くに引けない状況に陥り、半ばヤケになって禍々しい武器を掴み取る。
「仕方がありませんネ。少し痛い目に遭ってもらいましょウ」
 そう言ってノーフェイスが、信者達に当て身を放つのだった。

●ビルシャナ
「おいこら、怯むな! こんなモノは見かけだけ! ただ気絶しているだけだッ!」
 その間もビルシャナが信者達を煽るようにして叫ぶ。
 信者達は既に戦意喪失気味ではあるものの、ビルシャナが背後にいるため、逆らう事も出来ないようだ。
「だったら、試してみるか。本当に見かけだけなのかを……」
 リーナがビルシャナ達の前に立ち、ファイティングポーズを決めた。
 その気迫に圧倒された信者達が、身の危険を感じてたじろいだ。
「どうした、お前ら! 早く、やれ! やってしまえ!」
 ビルシャナが鼻息を荒くさせ、信者達を再び嗾けた。
 しかし、信者達は動かない。
 まるで意志の如く表情を凍り付かせ、その場から動く事が出来なくなっていた。
「もう無理だ。諦めろ。それよりも、自分の心配をするんだな」
 ヴォルフラムがビハインドのアレクと連携を撮りつつ、ビルシャナにゼログラビトンを放つ。
「うぐ……! しまった!」
 その一撃を喰らったビルシャナが、激しくグラリとよろめいた。
「もっと早く気付くべきでしたね。自分の考えが間違っていた事に……」
 それと同時に斎が一気に間合いを詰め、ファナティックレインボウでビルシャナにトドメをさす。
「うぁ……あああ……」
 ビルシャナは口からブクブクと血の泡を吐き、何か言いたげな様子で息絶えた。
「馬鹿野郎が……ビルシャナになんてならなければ、この先幸せになれたかもしれないのに……」
 緋桜がビルシャナの死体を眺め、ゆっくりと手を合わせる。
 もう少し柔軟な考えを持っていれば、このような悲劇を生む事もなかっただろう。
「どうやら、信者達の催眠も解けたようですネ」
 それに気づいたノーフェイスが、ホッと溜息を漏らす。
 信者達は未だに戸惑っているようだが、リア充に対する憎しみは薄れ始めているようだ。
「リアジューはよくわからないけど、きっと君たち自身、もう強い絆で結ばれてるんじゃないかな?」
 メーリスが物凄いドヤ顔で、信者達にビシィッと言い放つ。
 信者達も何やら友情めいたものを感じつつ、その表情は晴れやかである。
「さて……帰って寝るか」
 そう言ってリノンが大きなアクビをしながら、その場を後にするのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。