わくわくの運動会の前日の

作者:奏音秋里

 いよいよ明日は運動会。
 少年は部屋の窓際にてるてるぼうずを吊して、布団に入った。
「晴れますように……」
 練習の疲れから、すぐに静かな寝息を立て始めたのだが。
 夢のなかで、少年は巨大なてるてるぼうずに追いまわされていた。
「うわぁーーーっ!!」
 起きて眼を遣った窓には、自分でつくった小さなてるてるぼうずが笑っている。
 ほっと安心して、また眠ろうとしたときだった。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 ふふっと笑みを漏らして、魔女は少年の胸を貫く。
 意識をなくした少年の枕許に、大きな白い人形が立っていた。

「てるてるぼうず、皆さんもつくったことあるっすか?」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)の問いかけに、数人が頷く。
 広告紙やらティッシュペーパーやら、材料はいろいろだったが。
「今回のドリームイーターは、てるてるぼうずの姿をしているっすよ。新たな被害が出る前に、倒してほしいんす。よろしく頼みますっす」
 隣でともに、ルビー・グレイディ(曇り空・e27831)も少年について説明する。
 翌日に控えた小学校の運動会を、とても楽しみにしているのだと。
「身長は130センチくらいっすね。陽光で眼を眩ませてきたり、豪雨で此方の攻撃の威力を弱めたりしてくるっす」
 ちなみに、豪雨を降らせるときには上下が逆さになるのだとか。
「ドリームイーターは、小学校の周辺を彷徨いているっす。グラウンドで戦闘してもらっていいんすけど、テントとか入退場門とか運動会の準備がしてあるんで、派手に壊さないようには気を付けてほしいっすね。若しくは、一車線の道路を挟んで向かいにある田圃でも大丈夫っす。田植え前で水が入っているんで、足許の心配はあるっすけど」
 どちらでも、戦うのに充分な広さはあるが、照明を持っておいた方が無難らしい。
 またドリームイーターは、自分の姿に驚かない者を狙う習性がある。
 誘導や戦闘に活かしてほしいっすと、ダンテは付け加えた。
「無事に運動会が開催されるように、皆さんを頼りにしているっすよ!」
 そう言って、地図を差し出してくるダンテ。
 走って飛んで踊ってと、少年の活躍する姿を脳裏に想い浮かべるのだった。


参加者
クロハ・ラーヴァ(熾火・e00621)
滝・仁志(みそら・e11759)
伊・捌号(行九・e18390)
百鬼・ざくろ(隠れ鬼・e18477)
十六夜・雪兎(冬色アステリズム・e20582)
ルビー・グレイディ(曇り空・e27831)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)

■リプレイ

●壱
 現場へ到着したケルベロス達は、二手に別れて行動を開始する。
「久し振りの依頼、緊張するけれど……皆が運動会楽しめるように、がんばる」
 どきどきしながら、十六夜・雪兎(冬色アステリズム・e20582)はまず警察へ向かう。
「お巡りさん、ケルベロスって、信じてくれるかな……んー、緊張する」
 出てきた警官にきちんと名乗り、小学校や田圃の周辺にヒトが入らないようお願いした。
 小学校に迷惑をかけないよう田圃で戦うことも伝えたら、灯りをともして皆と合流。
 ぬかるみ対策の長靴に履き替えて、雪兎も準備を手伝い始めた。
「運動会ってのは明日なんだろ? なら、とっとと敵をぶちのめして、小さな個体を助けてやらねえとなあ」
 立入禁止テープを張りながら、尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)は拳を握る。
 足許は、戦闘に支障のないよう『コンバットブーツ』で固めていた。
「そうね。みんなの楽しみをとり戻さなきゃ」
 百鬼・ざくろ(隠れ鬼・e18477)も、囲まれていくなかで殺気を放ち続けている。
 到着後、広喜とざくろを中心に事情を説明して、一般人に離れてもらったのだ。
「はぁん、てるてるぼうずっすかー。雨が降らんでも荒れてちゃ運動会なんざできねーっすからね。きっちり片づけるっすか」
 贔屓の店で購入してきた『水精霊のアップルチョコレート』を、美味しそうに囓りつつ。
 人払い後に迷い込んだ者がいないか、伊・捌号(行九・e18390)は周辺を警戒していた。
「運動会の前ってわくわくしちゃうよね! いっぱい練習したんだろうし、ビックリしちゃった子もちゃんと起きて運動会に参加できたらいいな」
 置き型のライトを畦に設置して、動く練習をするために、一足先に田圃へ入る。
 沈む足を、フリューゲル・ロスチャイルド(猛虎添翼・e14892)は懸命に抜いていた。
「そうだね。皆の安全のためにも、ぱぱっと片付けよう」
 滝・仁志(みそら・e11759)も、邪魔にならないよう田圃の四隅にランタンを置く。
 長靴を履いていたおかげで、田圃のなかでも比較的、動き易さを確保できていた。
「面白い文化ですよね、由来はどこにあるんでしょうか。二ホンは可愛らしいようで、少し物騒な文化が多いように思います。あと、逆さまに吊るせば雨が降るんでしたっけ?」
 クロハ・ラーヴァ(熾火・e00621)も、フリューゲルと仁志をお手伝い。
 てるてる坊主にも不明な点が多いと、首を傾げる。
「お、現れたようだぜ?」
 準備もほぼ整ったところで、広喜の視線の先に巨大な白が映り込んだ。
 腰に提げた『特製ハンズフリーライト』が、その姿を徐々にはっきりと照らし出す。
「てるてる坊主、大きいとあまり可愛くはありませんね」
 広喜に同じく驚くことなく、クロハはドリームイーターを田圃へと惹き付けた。
 熾火の瞳が、得物を捕らえて逃がさない。
「うわっ、でかいてるてるぼうずだ!」
 眼前を通過するドリームイーターに、仁志はわざと驚いてみせた。
 隣のテレビウムは、そんなんじゃ驚かないよ、って画面で広喜とクロハに合流する。
「実際に聞いていたより大きく見えるわ。わたしより少し小さいくらいだけど、それでもこのサイズはちょっとびっくり」
 左手を、丸く開けた口の前に持ってきて、如何にも驚いた表情をするざくろ。
 長靴を履いた脚で、刺激しないよう一行のうしろを着いていく。
「おー。こんなでけーてるてるぼうずは初めて見るっす。自分、びっくりっす」
「わっ、おっきいてるてるぼうず! ビックリしたー、どうやって動いてるんだろ?」
「すごーく大きなてるてる坊主だね、なんだか可愛いなー」
 ほぼ同時に。
 捌号とフリューゲルに、ルビー・グレイディ(曇り空・e27831)が声をあげた。
 同じ旅団員だったり、顔見知りだったりで、なんだか気があったみたい。
 捌号のボクスドラゴンは、敢えてのノーリアクションでドリームイーターを挑発した。
 フューゲルは、いつものニコニコ顔で、元気に感情を表現する。
「そうだ、こっちで一緒に遊ぼうよ」
 ドリームイーターを囲むように、ケルベロス達も配置についた。
 一般人も、鳥さえもいない、静かな夜。
 長靴を鳴らして、灯りをともして、夜目も利かせて、ルビーは八重歯をみせる。
 ミミックとともに、気持ちを切り替えた。

●弐
 包囲されたことに漸く気付いたらしく、急に焦りだすドリームイーター。
 標的を定めて、早速の豪雨を頭上へと降らせた。
「あんま濡らすんじゃねえ、錆びるだろ」
 機械の部分が多いので雨は苦手なのだが、拭った顔にはぎこちない笑顔が浮かぶ。
「俺、お前の歌知ってるぜ」
 まるでなにもなかったかのように楽しげに、広喜はオーラの弾丸を放った。
「えーと……わ、わぁっ!? びびびびっくりしたー! 小さいてるてるぼうずは可愛いけれど、大きなのがドーンと来たら、びっくりするよね」
 体力に不安があるため、狙われないよう何度でも驚きを繰り返す雪兎。
「迷惑かけないように、がんばる……」
 命中率重視で、凍気を纏わせたパイルバンカーを背後から突き刺した。
「近くに寄ってくると更にびっくりだわ!」
 ざくろも、優しいお兄さんと尊敬する雪兎に倣って驚きの言葉を口にし続ける。
(「顔とか描いてあるのかしら?」)
 素朴な疑問を抱きながらも、攻性植物の形態を変化させて、黄金の果実を収穫した。
「ありがとうございます。ざくろ」
 バッドステータスへの耐性を得て、すぐさま攻勢へと転じるクロハ。
「おや、おや、これは驚いた。この大きさは心臓に悪いですね……あまりこちらを見ないでいただけますか」
 態度を一変させると、愛用の惨殺ナイフに四肢の炎を纏わせ、叩き付けた。
「ダンボールちゃん、お願いね」
 ミミックが、鋭い牙でドリームイーターへと喰らいついているあいだに。
「てるてる坊主はてるてる坊主だから、大きくても怖くないよー」
 ルビーの描いた守護星座が、前衛陣を目映い光で包み込んだ。
「カポ、いこうか」
 テレビウムの頭を軽く撫でれば、仁志の表情はキッと本気モードになる。
「ちょっと可愛いけど、手加減なんて一切しないよ」
 放たれた閃光を追いかけて、ドラゴニックハンマーから竜砲弾を撃ち出した。
「自分らもいくっすかね、エイト」
 準備運動を終え、投球フォームも確かめて、捌号は黒色の魔力弾を命中させる。
「せーぜー悪夢でも視るっす」
 ボクスドラゴンは、ディフェンダーのルビーに自らの属性をインストールした。
「さぁて、がんばらないと、だね!」
 ローラーダッシュの摩擦で炎を熾し、激しい蹴りを放つフリューゲル。
「このままがんがんいくよー!」
 練習の成果もあり、いい感じに動けるのが嬉しくて、尻尾をばたばたさせた。

●参
 晴れたり降ったり、降ったり晴れたり、とっても急がしい空模様。
 そのたびにケルベロス達は、仲間を回復させて、敵の傷を増やしていた。
「聖なる聖なる聖なるかな。我が祈り、折ること能わず」
 だから結果として最終ターンになろうとも、捌号は祈りを捧げ続ける。
 隣に飛びあがるボクスドラゴンも、勢いよくブレスを放った。
「光れ、奔れ、降り注げ。言葉なき声を、響かせ歌え」
 何処からともなく聴こえてくる歌声が呼び起こすのは、偉大なる雷帝だ。
 フリューゲルの願いに応えて、行動を阻害する楔となるべく雷を落とした。
「さぁ、心ゆくまで味わって―」
 色とりどりの光は重力の波を形成し、ドリームイーターの視界を塗り替える。
 テレビウムの応援動画を邪魔させまいと、仁志は幾重もの衝撃を与えた。
「超重量級の一撃をお見舞いするよー」
 持てる力を籠めまくって、ゾディアックソードを振り下ろすルビー。
 大地をも断ち割るような強烈な一撃が、ミミックの武器と同時に背後を捉える。
「大きなてるてるぼうず、すごい、けれど……子ども達、運動会楽しみにしてるから。このままじゃ、絶対にいけない」
 バスターライフルを構えて、雪兎の青眼はドリームイーターを射程に収めた。
 精一杯に踏ん張り、魔法光線を発射する。
「どうぞ、一曲お相手を。ついでに、首のひとつでもはねてしまいましょうか。二ホンでは確か、役目を果たせないてるてる坊主をそうするのでしょう?」
 防御の隙を縫い、目にも留まらぬ速さで蹴りを連発するクロハ。
 地獄化した両脚は陽炎のように揺らいで、エアシューズの軌道をより不明確にした。
「おうよッ! 明日を天気にしねえてるてる坊主は、ぶちのめしていいんだぜっ! どっちが先に壊れるか、勝負しようじゃねぇかあッ!」
 腕部パーツを開放すると、広喜が嬉々として青い地獄の炎を噴出させる。
 両の手のバトルガントレットに爆発的な推力を与えて、最大限の威力を打ち込んだ。
「てるてる坊主は晴れにするのが役目でしょう? 追いかけっこするんじゃなくて、お仕事はちゃんとしてくれなきゃ」
 シャーマンズカードから召喚されたのは、氷結の騎士。
 ざくろの命に従い、その手の槍で以てドリームイーターを貫きとおす。
 銀灰色の瞳を閉じれば、引き連れて、エネルギー体も消滅した。

●肆
 ケルベロス達の耳に、流れる水の音や虫の声が戻ってくる。
「いやぁ、見事に泥だらけだ。しかしたまには楽しいものですね、こういうのも」
 自身の姿を見遣って、思わずクロハは笑みを零した。
 そのままで被害状況を確認して、壊れた畦の修復を始める。
「大丈夫かな……幻想的になっちゃうけれど、壊したまま……は、よくないよね」
 雪兎も、クロハと一緒にヒールを唱えた。
 不思議な花が咲いたけれども、きっと運動会に来る児童や保護者は笑ってくれるだろう。
「上がったらクリーニングするわ。雨に泥に、沢山被ってしまった汚れも全部すっきりよ」
 服が汚れてしまうのは覚悟していたが、このまま帰るわけにもいかないから。
 ざくろは、皆の身体と服を、順番に綺麗にしていく。
「あ、タオルとか持ってきたからつかってつかって!」
 戦闘前に隠しておいたリュックサックから、フリューゲルはタオルを引っ張り出した。
 座って足を拭けるようにとレジャーシートも敷くなんて、気が利いている。
「お茶もあるから遠慮なく飲んでね!」
 人数分のコップまで準備すると、大きな水筒から冷たいお茶を注いで、ほっと一息。
「おー、ありがとうっす。いただくっすー」
 コップをひとつ受けとると、長靴を脱いでシートへと足を投げ出す捌号。
 新しいチョコレートをとりだして、包み紙をちぎった。
「ん。エイトもお疲れさまっす」
 労いながら、優しい甘さをゆっくりと味わった。
「明日、晴れっといいなあ」
 広喜自身には、運動会はもとより、子ども時代経験がない。
 だからこそ、大好きな子ども達にはひとつひとつの体験を楽しんで欲しいと願う。
「それにしても、誰も転ばなくて安心したぜ。俺も、泥が入るのはよくねぇしな」
 上機嫌に、てるてる坊主の歌をうたう広喜を先頭に、少年の家を目指して歩き始める。
 訪ねると、少年は恐る恐るだが、玄関まで出てきてくれた。
「もう大丈夫だよ。それじゃあ、運動会が晴れるようにおまじないするねー」
 ルビーの頭に揺れる愛用のリボンに、なにやら興味津々の様子。
 優しく微笑んで、スターサンクチュアリを発動する。
「夜空を照らす、星座の加護を」
 少年と、ケルベロス達と。
 皆で、明日の天気と運動会の成功を祈った。
「任務完了でしょうか。それでは、明日は楽しい時間をお過ごしください」
 少年にさようならを告げて、今度はクロハから玄関を出る。
 きちんと扉を閉めると、一路、ヘリオンへと向かった。
「星、きれい……」
「ほんと……てるてる坊主もがんばっていたもの。明日の空もすっきり晴れてくれそうね」
 互いに星空の好きなざくろと雪兎は、満天の星に言葉を交わす。
 更に雪も好きなのだと告白する雪兎に、ざくろは雪の花を降らせた。
 触れることはできないが、可憐な純白に皆も溜息を零す。
「小学校の運動会っていいよなぁ。見てるこっちもわくわくするよね。なにより、楽しそうに動き回るようじょがいっぱい……」
 何気なく、テレビウムに話しかける仁志。
 頭のなかにめくるめく想像を展開して、一段と表情を緩めたのだが。
「ってうわちょっと待ってカポ! ちょっと妄想するくらいいいじゃないかーそのバール下ろして!」
 相棒の液晶に映し出された顔と掲げられた凶器に、仁志は本気で後退るのだった。

作者:奏音秋里 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 5
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