六月の花嫁はウェディングケーキ

作者:天木一

「ここは?」
 少女が見知らぬ平原を見渡すと、ヒヒーンと馬の嘶きが聴こえる。見ればそこには白馬に乗った美貌の王子の姿。
「おおっ麗しき姫。どうぞ私と結婚してください」
「は、はい!」
 差し伸べられた手に思わず手を重ね、引っ張り上げられるとお姫様抱っこされて白馬が走り出す。
 リンゴ―ン、リンゴ―ンと鐘の鳴る教会に辿り着くと、少女を抱えたまま王子は飛び降り、教会の中へと歩を進める。
「え、結婚式?」
 いつの間にか少女の服装は白いウェディングドレスへと変わっていた。祭壇の前で少女はそっと下されると王子と向き合う。
「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも──」
 そこで神父が誓いの言葉を読み上げられた。
「誓います」
「ち、誓います!」
 二人が誓いの言葉を上げると、神父は厳かに告げる。
「では誓いのケーキカットを」
「はい、ケーキ……え? キスじゃないの!?」
 いつの間にか何メートルもある巨大なケーキが目の前に登場していた。イチゴを沢山あしらった何段にもなる生クリームケーキの前で王子と並ぶ。
「では、よろしいですか?」
「はい!」
 王子が腰に手を回し二人で一本のナイフを持ち、ケーキに入刀する。すると身長よりも大きなケーキがパカッと割れ、パックンと少女を呑み込んだ。
『これで私が花嫁よ!』
「わーーー!?」
 驚き少女は跳ね起きる。そこはベッドの上、つけっぱなしのスタンドライトに照らされていた。
「夢……だよね。小説読んでて寝落ちしちゃったのか」
 枕の横には薄いロマンス小説が置かれていた。
「はあ、王子様が現れるところまでは素敵な夢だったのにー」
 残念そうに少女は本をペラペラと捲る。その時、少女の胸に鍵が突き刺さる。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 突如として現れた女がその手にした鍵を突き刺し、引き抜いた。少女は傷一つ無く意識を失う。
 それを見届ける事なく女は姿を消した。代わりに現れたのは部屋に収まり切らぬ程の巨大なウェディングケーキ。その身にはウェディングドレスを纏って着飾っていた。
『リンゴ―ン♪ さあ、私の王子さまはどこかしらー?』
 巨大ケーキは窓と壁を突き破り、外へと飛び出した。

「ウェディングケーキですよ! ウェディングケーキ!」
 うっとりとロゼ・アウランジェ(ローゼンディーヴァの時謳い・e00275)は、素敵な結婚式場でカップルのケーキ入刀を思い浮かべ瞳を輝かせる。
「結婚式の夢を見た少女から、第三の魔女・ケリュネイアが『驚き』を奪いドリームイーターを生み出してしまったようです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)がケルベロス達に向け事件の説明を始める。
「ドリームイーターはグラビティ・チェインを人を襲いグラビティ・チェインを奪おうとします。皆さんにはそれを阻止する為、速やかに敵を撃破してもらいたいのです」
 眠りに落ちた少女もドリームイーターを倒さなくては目覚める事はない。
「敵は神奈川県の街に現れ、全長5mにもなるドレスを纏ったウェディングケーキの姿をしています」
 内部に取り込んで拘束したり、生クリームを飛ばしてきたり、巨大スプーンでケーキを食べさせたりといった攻撃をしてくる。
「驚きから生まれた所為か、敵は出会った対象をまず驚かせようとするようです。そこで驚かなければ優先的に狙われます」
 その性質を利用すれば、攻撃を受ける対象をコントロールできるだろう。
「6月といえば結婚式のシーズンですが、そんな幸せの象徴であるウェディングケーキが人を襲うのを放ってはおけません。このドリームイーターを撃破し、人々を守ってください」
 少女の事もよろしくお願いしますと、セリカは一礼してヘリオンへと向かう。
「結婚式、ウェディングドレス、大きなケーキ……素敵です! でも悪い事をするなら倒さないといけません。残念ですけど、大きなウェディングケーキを退治しに行きましょう!」
 敵である以上は仕方ないとロゼは気分を入れ替え、頑張りましょうと気合を入れる。それに応じケルベロス達も出発の準備に取り掛かった。


参加者
ロゼ・アウランジェ(ローゼンディーヴァの時謳い・e00275)
ロナ・レグニス(微睡む宝石姫・e00513)
雨月・シエラ(ファントムペイン・e00749)
ギヨチネ・コルベーユ(ヤースミーン・e00772)
トエル・レッドシャトー(茨の器・e01524)
神崎・ララ(闇の森の歌うたい・e03471)
幽川・彗星(剣禅一如・e13276)
天照・葵依(蒼天の剣・e15383)

■リプレイ

●巨大ケーキ
 人気の少ない住宅街の夜道をケルベロス達は進む。
「ケーキ、ケーキ! ケーキは大好きです!」
 ロゼ・アウランジェ(ローゼンディーヴァの時謳い・e00275)の顔が喜色に溢れる。
「中でもウェディングケーキは特別なもの……憧れの象徴。そんな女の子の夢を、悪夢になんてさせません!」
「私もケーキは大好き!」
 大きなウェディングケーキを想像して神崎・ララ(闇の森の歌うたい・e03471)がはしゃぐ。
「だけど自分の結婚式本番では自分で作るつもりだから、ドリームイーターケーキはお呼びじゃないわ」
「ウェディングケーキかぁ……」
 人払いに殺気で結界を張りながら、ロナ・レグニス(微睡む宝石姫・e00513)は大きなケーキを想像してゴクリと唾を呑み込んだ。
「まったくウエディングケーキが相手になるとは……誰かさんが怒り狂っても知らんぞ……」
 呟く天照・葵依(蒼天の剣・e15383)は横目で隣を見る。
「はぁ、ウェディングケーキねぇ……まあ、私作る側なんで? 別に用途はどうしようとも構わないんですけども……食べ物を粗末に扱うのいただけませんねえ。衛生面どうするんですか?」
 そこには苛立つ幽川・彗星(剣禅一如・e13276)が居た。
「しかもこっちとしちゃケーキに対して攻撃とかしなくちゃいけないんですけどぉおおおお? ぶっ殺すぞテメェ……」
 語気を強め殺気を漲らせる。
「どうにも戦闘には不向きな服でございますね」
 筋肉質な体にタキシードをぴっちりと着た、強面のギヨチネ・コルベーユ(ヤースミーン・e00772)は窮屈そうに腕を回す。
「ウェディングドレス……女の子の憧れってヤツだよね。実はそーいうの私にはあんまり分かんないけどね」
 動きにくそうだし汚したら大変そうだと、雨月・シエラ(ファントムペイン・e00749)の中では不便なイメージしか思い浮かばなかった。
「どっちかって言うとケーキのほうが興味あるかなっ」
 美味しく食べるイメージなら幾らでも湧くと笑みを浮かべる。そして周囲を警戒しながら角を曲がると、そこは行き止まりとなっていた。
『リンゴ―ン♪ リンゴ―ン♪』
 壁から音。よく見ればそれは壁ではなくケーキ。そこらの家より少し低いくらいの巨大なウェディングケーキが花嫁の如く純白のドレスを着て待ち構えていた。
「食べ切る……いえ、倒し切るのは中々大変そうですね。しかも肉食系らしいですし、男性陣気をつけてくださいね」
 スマホで写真を撮りながら無表情にトエル・レッドシャトー(茨の器・e01524)は仲間に忠告した。

●王子様
「わー、大きなケーキが襲ってくるー」
「きゃあ! こっちに来ないで!」
 トエルが棒読みで声を上げ、ララは大袈裟に驚いた振りをして後ろに下がる。
「お、大きいケーキです。美味しそう、ですけどっダメよアンジェローゼ。我慢するのです!」
 食べない様にと2時間半位に渡る夫の説得を思い出して邪念を振り払ったロゼは、美しく甘い歌声を響かせて仲間達に力と勇気を与える。
「うおおお!? 思ってたよりでっかい!?」
 葵依は驚いてみせて敵と距離を取る。そしてリボンタイをしたボクスドラゴンの月詠が、くるなら来いと尻尾でぺったんぺったん地面を叩いて注意を引いている間に、周囲に立ち入り禁止テープを張り巡らせる。それをトエルも手伝い素早く人が入らぬように封鎖した。
『リンゴ―ン♪ 私の素敵な王子さまはどこー?』
 苺をふんだんに、生クリームもたっぷりの巨大ウェディングケーキが、苺で顔を描いてケルベロス達を次々に観察する。
「斯様に巨大なケーキ……食べきれるでしょうか。食べて宜しいの出れば、喜んでいただくのですけれども」
 ギヨチネは平然とした顔をして敵の前に堂々とその身を晒し、幻想の花園を展開して蔓で敵を絡み取る。そして咲き乱れる花が相手の心を侵食した。
『リンゴ―ン♪ 見つけちゃったわ私の王子様! 結婚しましょう!!』
 巨大なケーキがぽっと苺で歓喜の表情を作り、巨体が倒れるように迫り来る。
 タキシードをクリームで真っ白に染めながらもギヨチネは受け止める。そのまま押し潰そうとするケーキをテレビウムのへメラも手伝って押し留めた。
「こんなにおっきいケーキ、たべてみたいなぁ……。……でも、たべちゃだめ……みんなに、めいわくかかっちゃう……よね……うぅ、でもたべたい……」
 ケーキに目を奪われながらも、ロナは御業を出現させ炎で炙る。
「巨大ケーキがドレス着てるって……実際に目の当たりにすると結構凄い絵面だ……」
 呆気に取られたシエラは戦いに意識を戻すと、駆け出して飛び蹴りを叩き込んだ。
「立派なケーキですね……これを今から潰さなきゃならないのか、クソッ」
 複雑な表情をしながらも彗星は刀を抜き放ち、霊力を解放して刃を振るう。相手の先手を取り刃は真っ直ぐに上から下へと斬り裂いた。
「ケーキと結婚はご遠慮願いたいですね」
 ギヨチネは手の爪を刃のように伸ばして敵を貫き、そのまま生地を掴んで傾いていたケーキを押し戻す。
『私を食べれば結婚したくなるわよ!』
 ケーキは人よりも大きな巨大スプーンで自らを突き差し、大きな破片をケルベロス達に差し出す。
「ケーキの誘惑になんか……負けないのです!」
 妖精が飛び跳ねるように宙を舞ったロゼは、目を閉じてケーキを見ないようにして蹴りを浴びせる。するとケーキがその口に無理矢理ケーキをねじ込んだ。
「お、美味しいのです!」
 瞳をキラキラさせてロゼが苺と生クリームのハーモニーに夢中になる。
「たべても、だいじょぶ……?」
 その幸せそうな様子に思わずロナもケーキを食べてしまう。そして蕩けるような甘さに頬を緩める。
「むちゅうに、なっちゃう……これはきけんなケーキ、だよ」
 このままではいけないとカードを手にしたロナは氷の騎士を召喚し、ランスで敵を貫き傷口から生クリームが凍り始めた。
「この鼻を擽る甘い匂い……戦闘中じゃなきゃ、大歓迎なんだけど……ねっ!」
 シエラは鋼を腕に纏い、飛び散るクリームを払いながら突っ込むと拳を叩き込んだ。凍っていた部分が砕けて散る。
『もうっ何するのよ!』
 生クリームを噴き出して近づくケルベロス達をクリーム塗れにして吹き飛ばす。だがその足元へ伸びた茨が絡み合う槍のように下からケーキに刺さり穴を空ける。
「どのような姿をしていても容赦はしません」
 茨を手に冷たく告げながらもトエルの視線は美味しそうなケーキに釘付けとなっていた。
「傷口広げて苦しみな」
 回り込みながら彗星は傷口を狙って刀を一閃し傷を深く抉る。
「甘いクリーム♪ ふわふわ♪ まぜまぜ♪」
 ギターを弾くララは結婚式で使われる曲をアレンジして歌い始める。そのメロディは仲間の心を奮い立たせる。それに合わせるようにウイングキャットのクストも風を起こして仲間にべったり付いたクリームを吹き飛ばす。
「巨大なケーキが襲って来るというのもシュールな光景だな」
 葵依は紙兵をばら撒き、仲間を守るように敵との間に配置した。
『食べたいのね? はい、あーん♪』
 巨大スプーンに乗ったケーキの破片を差し出す。
「ケーキもこれだけ量があると見ているだけで胸焼けしてきそうだな」
 白い扇を振るった葵依は、ロゼを妖しく蠢く幻影で包み込みその能力を高める。
「美味しかったです! もっと食べたいですけどっ……我慢なのです!」
 我慢したロゼが白薔薇を手にすると、美しい音色が響きそれに連鎖するようにケーキの周囲で爆発が起こった。
「きれいなドレスだけど、あなだらけにしちゃうよ」
 続けてロナが吸血槍を召喚して放つと、無数に分裂してケーキをドレスごと貫いた。
『ぎゃあああ!? 私のドレスが!!』
 怒りに苺ソースで真っ赤に染まったケーキが突っ込んで来る。
「ここから先は私の時間、ってね……さて、あなたの攻撃……遅すぎません?」
 彗星は刀を振り抜き、ケーキを斬り裂き僅かな隙間から横をすり抜けて後ろに回る。
「近くで見ると一層大きく感じますね」
 舞うように塀を蹴って高く跳躍したトエルは、頭上から炎を纏った足で蹴りつける。
「見てるだけでお腹が空いてくるよ」
 シエラは竜の幻を生み出し、吐き出すブレスでクリームをとろりと溶かした。
「焼いたらもっと甘い匂いがするし」
 連続で熱されたケーキの一部に焦げ目がつく。
『ケーキは食べるものよ!』
 大きなスプーンで自らを抉って美味しそうな苺ケーキを差し出す。それをギヨチネはスプーンごと噛み千切る勢いで食らった。
「甘くて美味でございます。紅茶を淹れてお茶会でも開きたくなりますが、今はそれどころではございませんね」
 ギヨチネは手にオーラの塊を集め、腕を振るってスプーンを打ち払った。
『ヤダッ亭主関白!』
 ぽっと苺色に染まったケーキは次々にギヨチネの口へとケーキを押し込む。息も出来ないほど顔中をケーキで覆われると、餓鬼のように食べ始めた。
「美味しいケーキに惑わされないで」
 ララはオーラを分け与え魅了されたギヨチネの心を正常に戻した。

●結婚
『結婚しましょう! これからはずっと一緒よ♪』
 ケーキがパカッと半分にカットされ、ギヨチネの体をパクッと挟んで取り込んだ。
「そうはさせないのです! 本物のウェディングケーキは人を襲ったりしないのですよ!」
 背後に回ったロゼは蹴りを叩き込み。続けてへメラもバールのような物で叩く。すると衝撃にケーキからギヨチネの体が半分飛び出る。
「服までクリーム塗れだよ、こうなったらどれだけ汚れても一緒だね!」
 クリームの付いた服を見下ろしたシエラは、クリームの飛沫を気にせず突っ込んで鋼の拳を打ち込むと、ギヨチネが解放されて地面に転がった。
「……ドレスがボロボロになるの、いや……みたい、だけど……。クリーム、で……べたべたになるの、は……いいの、かな……」
 自分なら普通のドレスがいいなと花嫁姿を想い浮かべながら、ロナは御業から目の前で炎を浴びせ怯ませた。
 クストがフンッと翼で敵の目の前を飛びながら自己主張して敵の視線を誘導する。
「確かにあなたもオスだけど……猫は相手にされるの?」
 その隙にララはオーラをギヨチネに放ってケーキの甘ったるさを消し飛ばす。
「余所見してたら、影から致命傷が飛び出てくるんですよ?」
 影に紛れるように死角に入った彗星は刀で敵を斬り裂いていく。その速度はどんどん上がり、クリームがぼたぼたと地上に降り注いだ。
「みんな美味しそうですね……。一口くらい……」
 口をクリームで汚した仲間を羨ましそうに見たトエルは、茨でケーキを引き千切って手元に寄せる。そしてじーっと見つめて無表情に葛藤すると、パクリと口にした。
『私の中でたっぷり食べさせてあげるー!』
 全てを呑み込むようにケーキの巨体が迫る。月詠が庇うように飛び込んで真っ白になって地面に落下した。
「甘いものは好きですが、ケーキに食べられる趣味はありません」
 腕の筋肉を膨張させたギヨチネは巨大なハンマーをフルスイングで叩き込み、クリームを吹き飛ばし生地を凍らせてゆく。
「蔦を司る申の神よ! 今こそ白雪に咲き添いて、枯れたる苦界を潤わさん! いざや聞こし召せ蔦ノ花神!!」
 その間に葵依は召喚した幽神から甘く怪しい、そして清らかな雲霧で仲間達を包み邪を払う。
「あなたに相応しい歌を紡いであげるわ」
 ララがケーキが全て食べられてしまう歌を高らかに響かせる。その声に囚われ敵の動きが止まった。
「美味しい事は認めましょう。ですが肉食系ケーキは不要です」
 口の端をクリームで汚したトエルは髪を媒介に茨を召喚し、自らの体に纏わせて敵を殴りつける。すると敵を切り刻み深い傷を負わせた。
「そろそろクリーム塗れも辺りにも大迷惑ってことで……いい加減、終わらせるよ!」
 シエラは黒く分厚い無骨な大剣を担ぐ、そして全身をバネにしたように加速して一気に踏み込むと、迎撃のクリームを更に踏み込んで躱し相手の背後に回って大剣を振り下ろした。鉄塊はケーキを押し潰しむぎゅっと凹ませる。すると傷口からクリームが噴き出した。
「最後の足掻きか、だが私は食べんぞ」
 葵依が紙兵を乱舞させて飛び散るクリームを防ぐ。
「どうしようともこの刃からは逃れられません」
 敵より後に動き出しながらも、彗星は因果を曲げて進み刀を振り下ろす。刃は深く入り、敵を真ん中まで斬り裂いた。
『私の旦那様! 結婚して!』
「申し訳ありませんが、お断りいたします」
 突っ込んで来るケーキに、ギヨチネは両手の爪を刃物の如く変化させ幾重にも斬り刻む。
「たべられないくらい、かたいアイスケーキになっちゃえ」
 ロナは氷の騎士を目の前に呼び出して敵の攻撃を防ぎ、一閃させたランスでドレスに穴を空ける。その穴からどんどんケーキが凍っていく。
『ああっこんなドレスじゃ結婚できないわ!』
「ドレスを汚されたくないのはわかりますが、ごめんなさいね」
 ロゼは拳を打ち込み肩まで突っ込む。
「お色直しはできないのです」
 そして生地ごとドレスを引き千切ると、ケーキは溶けて消え去った。

●甘い夢
「これで漸く窮屈な服を脱げますね」
 着心地悪そうにギヨチネは首元のタイを緩めた。
「いつか貴女だけのウェディングケーキが食べられる時が来ますよ」
 少女の無事を確認したロゼは家にヒールを掛けて翼を広げて地上へ戻る。
「大きなウェディングケーキ、私の式で作るから一緒に食べましょう」
「はい! 楽しみなのです」
 ララは未来の義妹となるロゼに声をかけ外堀を埋め始めた。
「私の時は、薔薇をたくさん飾った可愛いケーキにしたのです。帰ったら、夫にケーキを作って貰いましょう!」
 今から楽しみだとロゼは翼をパタパタと動かす。
「……うーん。帰りにケーキを買って帰らなきゃ色々と納まらない気がして来た」
 シエラは食べられなかったと無念そうに唸る。
「……じゃなくって、これで被害者の女の子も無事に目覚めたみたいだし、めでたしめでたし……ってことで」
 頭を振り本来の目的が達成された事にシエラは笑みを見せる。
「がんばった、あとは……ごほうび、だね……!」
 ロナがこれからケーキを食べに行こうと仲間達を誘う。
「それはいいですね、そうしましょう」
 口元のクリームを拭いながらトエルが賛成する。
「天照さん、ケーキ作ってごちそうするので、後でお店来ませんか」
「おお、いいのか? 彗星のケーキは格別に上手いからな。今から楽しみだ。さすがに襲ってくるケーキを食べる気にはなれなかったものなぁ」
 彗星が誘うと葵依は嬉しそうに頷く。ウェディングケーキに触発された彗星が食べきれないサイズの巨大ケーキを作り、完食するまで帰れない戦いよりも辛いお茶会が待っているとは知らずに。
 ケルベロスが立ち去ると街には甘い香りが残り、人々を美味しい夢に誘った。

作者:天木一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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