●『螺旋忍法帖』の秘密
「『正義のケルベロス忍軍』、大活躍でしたね! みなさんのお陰で、螺旋忍軍たちの謎にも一歩踏み込むことが出来ましたよ!」
ミルティ・フランボワーズ(メイドさんヘリオライダー・en0246)はニコリと笑いながら、掌上に巻物の立体映像を投影する。
「これが、今回皆さんが螺旋忍軍から奪取した『螺旋忍法帖』です。これには螺旋帝の血族が記した『螺旋帝血族からの御下命』と、これを手にした者の通り名、その者の所属門下の名が記載されています。所持者の書き換えは自動で行われるようで、わたし達が手にしている2巻の螺旋忍法帖には、『正義のケルベロス忍軍』の名と共に、一方にシヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)さん、もう一方に嶋田・麻代(レッサーデーモン・e28437)の名が記されています。この『螺旋忍法帖』に名が載った一門だけが、螺旋帝血族からの御下命を果たす権利を得ている、ということになるようですね」
御下命の内容は『螺旋帝の血族を捕縛せよ』というものだったようだ。螺旋忍軍たちはこの御下命を元に都内を暗躍し、小競り合いを繰り広げていたのだろう。
「『螺旋忍法帖』の奪取は謎めいた螺旋忍軍達の核心に迫る、すばらしい戦果に違いありません。なのですが、皆さんがこれを手にしたことによって、『螺旋忍法帖を手に入れさえすれば、誰もが御下命を果たす権利を得られる』という螺旋忍法帖の秘密を、図らずも暴くことになりました。この事実によって螺旋忍軍の情勢は一変し、全国に潜んだあらゆる螺旋忍軍達が『正義のケルベロス忍軍』が所有する2巻の螺旋忍法帖を強奪しようと動き出しているのです」
螺旋忍軍は螺旋忍法帖の場所を探し当てることが出来るらしく、何処かに隠すことは無意味のようだ。今後度重なるであろう襲撃から螺旋忍法帖を永遠に守り続けるのは、さすがのケルベロス達にも困難と見られている。
「ですが、これまで潜伏し続けていた螺旋忍軍さえもわざわざこちらに出向いてくれるとなれば、こちらにとっても敵を一網打尽にするチャンスでもありますよね? そこで皆さんには、『螺旋忍法帖防衛戦』を展開し、迫り来る螺旋忍軍を片っ端から撃破しちゃって頂きたいのです!」
つまり、螺旋忍法帖を囮に誘い寄せた敵を一網打尽にすることで、螺旋忍軍の大量撃破と、今後の螺旋忍軍の襲撃抑止の一挙両得を狙うのが今回の作戦だ。螺旋忍法帖の所有者となった2人のケルベロスを『本陣』とし、この2人と螺旋忍法帖を守りきれるように戦い抜いてほしい。
「防衛戦は、石川県の金沢城と、北海道の五稜郭を拠点として行います。……彼らにとってケルベロスへの敗北は死を意味しますから、より多くの敵を倒し、こちらが徹底抗戦の構えを見せつければ見せつけるほど、他の螺旋忍軍にも『ケルベロスの螺旋忍法帖を狙うのは割に合わない』と思わせ、大人しく他派閥の螺旋忍法帖を狙うように仕向けることに繋がるでしょう」
●金髪の傭兵
「皆さんには、金沢城の防衛について頂き、螺旋忍軍の傭兵、『スパロウ・ストレイン』率いる5人の螺旋忍軍の迎撃を担当していただきます。スパロウ・ストレインは精悍な顔つきの青年ながら、凶暴で、サディスティックな一面を持つ好戦的な性質の人物のようです。巨大なモーニングスターを愛用し、戦闘狂とも言える攻撃的な戦闘スタイルで、破剣効果を交えた強烈な攻撃を繰り出してくるようですね」
スパロウ・ストレインは、どこかの螺旋忍軍の雇われとして今回の作戦に加わっているようだ。彼は4人のチンピラ風螺旋忍軍を配下として連れており、彼らに防御や支援を担当させ、自らを攻撃の要とした連携で向かってくる。
「もしも皆さんが戦闘に敗れてしまった場合、残った敵は本陣へと向かってしまいます。2つ以上のチームが敗北してしまうと、螺旋忍法帖を守りきるのは難しくなってしまうでしょう」
また、敵勢力を壊滅させ戦闘に勝利したとしても、配下の一部に突破されてしまった場合はその敵も本陣へと向かってしまう。敵勢力は出来る限り確実に全滅されられるように心がけてほしい。
「それと……この防衛作戦で敵の突破を最小限に留めて勝利できた場合、『正義のケルベロス忍軍』の力を認めた何者かが皆さんに接触してくる可能性が予知されています。『螺旋忍法帖』には、螺旋忍軍でもなく、デウスエクスですら無いケルベロスの名が御下命の遂行者候補として記されました。その秘密に関わる者なのだと推測されているのですが……。接触は、あるともないとも言い切れません。もしもの時の対応は、現場の皆さんの判断におまかせすることになるので、どうかよろしくお願いします」
説明を終えたミルティは、自らの掌上に投影された金沢城を眺めながら、感慨深そうに息をついた。
「歴史ある城に陣取って迫りくる大軍団を迎え撃つ……まるで戦国時代にタイムスリップしたかのようですね。戦士の皆様、一所懸命の土地を、どうか守りきっちゃってください! いってらっしゃいませ!」
参加者 | |
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エリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740) |
シエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414) |
シマツ・ロクドウ(ナイトバード・e24895) |
ドゥーグン・エイラードッティル(鶏鳴を翔る・e25823) |
ラグナシセロ・リズ(レストインピース・e28503) |
高円寺・杏(中書令・e28520) |
レスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723) |
差深月・紫音(自称戦闘狂・e36172) |
●
金沢城の南側、人工林を通る小路上に、ケルベロス達は待機していた。
ラグナシセロ・リズ(レストインピース・e28503)が金沢城周辺の地図を広げて、妹のシエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414)と敵の侵入経路などを再確認する。ゆったりとはためくシエラシセロの羽根を、ラグナシセロの相棒、ウイングキャットのロキが追いかけてじゃれついている。
「ずっと探していた、俺のたった一人の弟。まさか、こんな形で再会することになるとは……」
レスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)は思い詰めた表情で、手にしたバスターライフルに視線を落とす。彼の親友であるエリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)も、レスターの心中を察しながら、言葉少なく彼の側で周囲を警戒していた。
「防衛戦ってのははじめてだが、全力で楽しませてもらうさ。誰が相手であれ、闘えりゃそれでいいしな」
差深月・紫音(自称戦闘狂・e36172)が紅の戦化粧を施した目でニヤリと笑う。
「敵、発見。間もなく会敵します」
双眼鏡を覗いていたシマツ・ロクドウ(ナイトバード・e24895)が報告し、ケルベロス達に緊張が走る。
敵集団は生け垣や林を乱暴にかき分けながら、こちらへと駆け抜けてくる。彼らの前に姿を現したスパロウ・ストレインはケルベロス達の姿を認めて忌々しそうに舌打ちをした。
「ちっ、案の定邪魔が入ったか。これだからケルベロスを相手にするのは面倒なんだよ」
スパロウと、4人のチンピラ螺旋忍者。5人の敵を確認したシマツは、彼らに向けて丁寧にお辞儀をしてみせる。
「どうも、スパロウさん達。シマツです」
「ごきげんよう、正義のケルベロス忍軍の者ですわ。そちらはどこの所属の方なのでしょう?」
ドゥーグン・エイラードッティル(鶏鳴を翔る・e25823)も、ガラの悪そうな敵軍団に動じること無く、優雅に挨拶してみせる。
「名乗る義理なんざねーよ。テメーらに付き合ってる暇ぁねえ、死にたくなきゃ退くんだな」
「そうは参りません。わたくし達、この地の防衛の任を賜っておりますので」
「そういうことです。では殲滅させてもらいますね」
シマツはニコリと笑っておもむろに武器を構えた。ケルベロス達は陣形を変え、スパロウ達を逃さぬように包囲する。
「あなた達全員を確実に倒すことが目標なの。悪いけれど一人も逃がさないわ」
高円寺・杏(中書令・e28520)が言い放ち、テレビウムの『中尉』と共に、速やかに戦闘態勢に入る。
「ち、面倒くせえ……!!」
スパロウが無理矢理にケルベロスの包囲陣を破ろうと駆け出した、その時。
「……スパロウ!」
レスターの鋭い叫びが響き渡った。彼はサングラス越しの赤い瞳で、自分によく似た青年の赤い瞳を見据える。その視線と、叫びの主に気づいたスパロウは言葉を失ったように立ちすくみ、一瞬の沈黙の後、彼は突然に高笑いを始めた。
「……計画変更だ。城に向かう前にこいつら全員ぶち殺していくぜ」
哄笑を引っ込めたスパロウはモーニングスターの鎖を鳴らして残虐な笑みを浮かべ、配下達も彼を守るかのように陣形を整える。
「やっぱり、こうなるかよ。腹ぁ括るしかないか……!」
エリオットが苦々しく呟き、武器を抜いて前線へと飛び出す。
レスターも心痛に下唇を噛みながら、二丁のライフルを構えた。
「お前は俺が止める。お前が誰かを傷つけるところなんて、見たくないから」
「……来いよ、『ケルベロス』。その死に様、この目に刻みつけてやっからよ」
そう言ったスパロウの唇から、一つの歌が紡がれだす。引き裂かれた大切な人を乞い焦がれる、激しくも切ない調べが戦場に響きだした。
●
戦闘開始直後、破剣効果を得たスパロウへと配下が一斉に『分身の術』をかけ、彼に何重もの分身の影を纏わせる。
「あくまでリーダーが戦闘の主体ってわけだ。さあ、楽しい殺し合いをやろうぜ? リーダーさんよ」
紫音が挑発を込め、戦場を揺るがす魔力の咆哮を放った。
ケルベロス達も、破剣効果の支援を次々と仲間へかけていく。戦闘は序盤からブレイク合戦の様相となったが、手数を揃えたケルベロスの方が有効にブレイクを働かせていた。
「この奪い合いの先に何が起こるのか……あなた方はご存知なのでしょうか?」
エアシューズを走らせ、暴風の回し蹴りを放ちながらドゥーグンが問う。スパロウは答えず、配下を盾にするように暴風を躱した。
「……どうして、お前が螺旋忍軍なんかに。一体何があった?」
「答える義理ねーつってんだ……ろぉ!」
レスターの問にスパロウはにべ無く答え、モーニングスターを操って後衛に向けて星球を投げつける。
「くっ!」
レスターは咄嗟に右腕を差し出して後衛を庇った。鋭利な杭の一本が彼の二の腕を貫く。スパロウはそれを見てにやりと笑い、痛みによろめくレスターを蹴り倒した。転がったレスターが起き上がる前に、スパロウは彼の二の腕の傷口をグリグリと力強く踏みつける。
「ぐああああっ!!」
加えられた虐遇と激痛にレスターが叫びを上げる。苦悶の表情を浮かべる姿に、スパロウが嗜虐的な笑いを浮かべた。
「ああ……ずっとその顔が見たかったんだよ! 死ぬまでたっぷり楽しませてくれよ、なぁ!?」
恍惚と笑み、更なる暴虐を加えようとするスパロウの足元を突如紫炎の鳥が駆け抜け、燃え上がる炎の壁となってスパロウの視界を遮った。
「レスター……!」
エリオットが放った紫炎のフクロウが敵達を包囲している間に、レスターを速やかに助け起こす。
「悪趣味極まりないわね。暴れられたらそれで満足? そうなら判断を誤ったわね」
杏がすかさず祝福の矢でレスターを癒やしながら、軽蔑の目でスパロウを見やる。
「……そういった『遊び』に気を取られて下さるなら、こちらは殲滅も楽で助かります。さて、多勢にはこれですね」
シマツは変わらぬ微笑を湛えながら、縛霊手を振るって巨大光弾を敵前衛に叩きつけた。
破剣の支援を受けたケルベロス達の攻撃が、敵の状態異常耐性を容赦なく剥がしていく。配下に庇われているスパロウ以外は、みるみる足が止まってあっという間に体力を削られていた。
「頃合いでしょう。確実に仕留めますわね」
ドゥーグンは微笑み、優雅な動作で巨大なドラゴニックハンマーを構える。そのままおもむろにブーストを起動して急加速、流れるような動作で敵ディフェンダーの上空へと回り込み、悲鳴を上げる隙すら与えずに叩き潰した。
「休まず行くよ……!!」
シエラシセロは右手に光鳥のオーラを宿し、2対の翼を羽ばたかせて二人目のディフェンダーへと突撃する。回避不能の音速拳が敵の胴体を捉え、敵は上空へと吹き飛ばされながら光に変わって散っていった。
「続きます……! ロキ!」
ラグナシセロの合図とともにロキが敵ジャマーの眼前へと飛び込み、その顔面をバリバリと引っ掻いた。敵が顔を覆っている間にラグナシセロは飛翔し、フェアリーブーツにオーラを込める。ロキが飛び退くのと同時に彼は敵胸部へと急降下の蹴りを叩き込み、敵は五芒星のオーラに胸部を貫かれて為す術無く力尽きた。
3人目のチンピラが倒れると、敵キャスターが慌てて踵を返し、独断で逃走を始めてしまう。
「追います、逃しませんよ」
シマツが平然とした口調で言いながら、いち早く逃走した敵を追う。光の翼で限界まで加速して敵を追い、そのまま全身を光の粒子に変えて、敵の背後を光の速さで切り裂いた。
「ぐふ……!」
足を止めたキャスターへと、逃走を警戒していたケルベロス達のグラビティが浴びせられ、キャスターは膝をつく。
「誰であれ、ここを突破させるつもりはねぇんでな、ここで終われ」
刃を構え、着物の裾を豪快にはためかせた紫音が飛びかかり、次の瞬間、目にも留まらぬ斬撃で敵の全身を切り刻んだ。血煙を上げる敵の体を蹴り飛ばすと、敵は壊れた人形のように転がってそのまま動かなくなった。
「紫音様!」
ラグナシセロの鋭い警告。紫音が反応した瞬間、攻撃を終えて体勢を直そうとしていた紫音へと、モーニングスターが凄まじい勢いで叩きつけられた。
「がは……っ!」
横殴りの直撃を食らい、紫音の身体が林の奥へと吹き飛んで転がる。モーニングスターにべっとりとついた紫音の返り血を見て、スパロウが満足げに舌なめずりをした。
「はっ、雑魚どもを殺ったぐらいでまさか勝った気じゃねえよなあ? お楽しみはここからだぜ、ケルベロスさんよ」
●
「中尉! フォローして!」
中尉が紫音の応急処置に向かい、ドゥーグンが中尉を庇うように立ち位置を調整する。
「確かに、まだまだ油断はできないようですわね」
緊迫した状況に、ドゥーグン少しだけ表情を険しくする。彼女は自らの瞳に魔力を込めて敵の目を鋭く見つめ、スパロウの視界に巨大な蛇の幻視を現出させた。
「今苦しいとすればそれは相手もよ、ここが勝負の分かれ目なの」
杏は冷静な声で味方を鼓舞しつつ、中空に向けて弓を構えた。放たれた矢は祝福となって紫音へと降り注ぎ、彼の怪我を癒やしていく。大蛇の幻に惑わされた敵は紫音の追撃を諦め、当然のようにレスターへと視線を定める。その視線を遮るようにシエラシセロが敵の目前を横切り、すれ違いざまに拳の光鳥で敵の力を喰らった。
「戦闘、楽しんでるでしょ? もっと楽しくしてあげるから、よそ見はしないで?」
シエラシセロは挑発しながら距離を取る。ケルベロス達は仲間に集中攻撃が向かないように敵に挑発を入れたが、スパロウの標的は度々レスターへと向いた。
「……帰ってこい、スパロウ。俺の手を取って、また一緒に暮らすと言ってくれ……!」
「まぁだ、んなこと言ってんのかよ。だからお前は腰抜けなんだよ!!」
レスターの願いは届かず、傷だらけのレスターへと幾度目かのモーニングスターが振りかぶられる。その攻撃線上に、突然血まみれの紫音が飛び込んだ。
「やってくれるじゃねえか……! やっぱ戦いは、こうじゃねえとなァ……!!」
紫音は額から大量の血を流しながら凄絶な笑みを浮かべ、抜刀した『無銘』で星球を叩き払った。血濡れた着物は負った傷の深さを物語っていたが、ペインキラーの効果が彼の痛みをすべて吹き飛ばしていた。
「お返しだ、オラぁ!!」
目を見開いて紫音は笑い、気迫を乗せた踏み込みとともに敵を逆袈裟に切り上げた。スパロウの傷を抉るような斬撃に、スパロウから苦痛の声が漏れる。
「傷口、拡げますね」
さらにシマツが追いすがり、ゲシュタルトグレイブで敵の傷を容赦なく抉り刻む。スパロウはたまらずヒールを試みたが、もはや傷は癒やしきれないほどに広がっていた。
「あと一息、です……!『豊穣を司りし神々よ、我らに慈悲を与え給え』……!」
ラグナシセロは祈りと共に詠唱し、豊穣の神『フレイ』の癒やしの風で傷ついた仲間を包み癒やす。そよいだ風に合わせて、杏が『ブラッドスター』を奏で始めた。
『もし願うのなら、願うのなら、引き金を引いてみせてよ』
クールな彼女の内なる炎を表現したかのような、情熱的な歌声。レスターの戦いを後押しするかのように、彼女の歌が紡がれる。
「レスター、大丈夫だ。俺が、俺達がお前を支えるから」
エリオットはアックスを構え、レスターを庇うように立つ。スパロウはエリオットを見据え、ふと何かに気づいたように不敵な笑みを消した。
「……そうかよ。先にお前を殺さなきゃならねえみてぇだな」
スパロウは鬼気迫る不気味な無表情で、エリオットを始末しようと猛突進を始めた。
「……!!」
瞬間、飛び出したレスターが、親友へと振り下ろされる星球を右手一本で受け止めた。右腕が折れるような悲痛な音が響く。
「レスターさん!!」
激痛を噛み殺すレスター。スパロウが怒りを宿して彼を睨む。
「何、邪魔してん……」
「うらあっ!!」
スパロウが足を止めた瞬間、エリオットが渾身の力で敵へと突撃し、アックスで敵の体を切り上げた。衝突の衝撃で、敵の体が中空へと投げ出される。
「やれ! レスター!!」
右手をだらりと下げたレスターは、意を決し、残された左手でバスターライフルを落下するスパロウに向けてピタリと構えた。
「くっ……!!」
「外さない。これだけが、お前に誇れる俺の唯一の特技だったから」
レスターは引き金を引いた。絶望と渇望、涙が込められた『最後の聖』(キリング・キス)の弾丸はスパロウの胴体を撃ち抜き、引き裂かれたその身から赤い血しぶきの胡蝶が舞い散った。
●
血塗れで落下し、仰向けに倒れたスパロウの半身を、杏のヒールを受けたレスターが屈んで抱き上げた。
「痛かったろ、ごめん……こんな兄さんで、すまない……!」
レスターの目から、地獄化した涙の蒼い炎があふれ出す。
「勝ったくせに、なに、泣いてんだよ……やっぱ、銃の扱いだけは、さすが、だな……」
スパロウは口の端から血を流しながら、苦笑いを浮かべた。そのまま、最後の力を振り絞って少しだけ身体を起こし、レスターにしか聞こえない声で、何かを呟いた。
それを終えると、スパロウは全ての力を手放して脱力し、その瞳を静かに閉じた。
レスターの嗚咽が漏れ聞こえ、エリオットが彼の側へと駆け寄る。
(「明日は我が身、かもしれないんだよな……」)
自身の弟の事を思い起こし、沈痛な思いを抱えるエリオット。親友の悲痛な声を聞きながら、エリオットは彼の背に、そっと自らの手を添えた。
「……ま、勝ってスッキリ、とは行かねえが、なかなか楽しい戦いだったぜ」
血と汗を拭って笑う紫音へと、中尉がヒールを掛ける。杏は周囲をヒールしつつ、油断なく周囲を警戒していたが、やがてふう、と小さく息をついた。
「人影は、見えないわね。防衛は上手くいったのかしら……」
同じく周囲を警戒し続けるシマツも、武器を下ろしてやや警戒を解く。
「こちらも、人の気配は感じません。わたし達の目標は完全に達成したと見て良いようです」
「ええ。あとは、他班の皆さんを信じるだけですわね」
ドゥーグンが控えめに伸びをして緊張を解き、金沢城の方向を仰ぎ見た。
「……お前が死んだら俺は……一人だ。一体、これから、どうしたら………!」
スパロウを抱いたレスターの目から、止めどなく涙の炎が溢れ続ける。
「……スパロウさんは、レスターさんの所へ、還れたんだよ、ね?」
シエラシセロが泣きそうな顔になりながら、レスターを慮るように呟く。二人の宿命の戦いに、兄であるラグナシセロとの戦いを思い出してしまい、彼女は思わずラグナシセロの服の裾をぎゅっと握った。
「……うん。きっとそう、だよ」
彼女の思いに気づき、ラグナシセロも俯く妹の頭にそっと頬を寄せ、そう呟く。体を震わせて泣き続ける親友の側に、エリオットはただ、静かに寄り添っていた。
作者:ともしびともる |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年6月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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