螺旋忍法帖防衛戦~萬川五稜

作者:刑部

 集まったケルベロス達の顔を見回した 杠・千尋(浪速のヘリオライダー・en0044)は、満足そうに頷くと笑顔を見せて口を開く。
「螺旋忍軍の拠点強襲御苦労さんや。
 色々情報も得られた上で、麻代さんとシヴィルさんが『螺旋忍法帖』の所有者っちゅー事になったんや」
 千尋が、嶋田・麻代(レッサーデーモン・e28437)とシヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)の2人が、『螺旋忍法帖』なる物の所有者となった事を説明すると、ケルベロス達から質問の声が上がる。
「まぁまぁ、説明するからまちぃーや。暗号文章の解読も出来たし結構色々判ったんや。
 先ず、螺旋忍法帖っちゅーんは、螺旋帝の血族だけが作る事が出来るらしいんや。ほんで、これを持つ螺旋忍軍は、勅命を受けた事になって事を成した暁には、惑星スパイラスに招聘されて、一族郎党栄誉が与えらる訳や」
 千尋の説明に頷くケルベロス達。
「今回の螺旋忍法帖には『螺旋帝の血族を捕縛せよ』っちゅー命令が書いてある。螺旋忍法帖を持って無いと螺旋帝の血族を捕縛しても栄誉は無いし、勅命を果たせるのは、当然1つの忍軍だけやから、互いに足を引っ張りあっとった訳やな」
 と言葉を続ける千尋。
「で、2つの忍法帖をこっちで手に入れたから、ちょっと情勢が変わってきたんや。
 拝領した忍軍やのうても、奪う事で栄誉を得るチャンスがあるっちゅーことが、勅命を受けて無い螺旋忍軍にも判った事で、麻代さんとシヴィルさんが持っとる忍法帖を狙って動き出したんや」
 頷くケルベロス達の眼を見て、千尋が説明を続ける。
「螺旋忍軍はどんな方法かしらへんけど、『螺旋忍法帖の場所を探す』事が出来よるみたいで、どんな厳重に保管しとっても、通常の手段で『螺旋忍法帖』を守り切ることは出来へん。つまり襲撃に備えながら守らなあかんねんけど、1週間守れとかやったら可能やけど、永遠に守り続けるっちゅーんは難しいわな」
 と言葉を切る。
「せやから反対にこれを餌に螺旋忍軍を誘き寄せて、大打撃を与えたらおいそれと狙ってけーへんやろうっちゅー作戦をする事になったんや。2つあるさかい作戦は金沢城と五稜郭を使うてやるで」
 と、千尋の口元に八重歯が覗く。

「ほんでや。自分らは五稜郭の方に行って欲しいんや。
 ここで麻代さんの持っとる『螺旋忍法帖』を狙って来る、螺旋忍軍『千草大将』の部隊を迎え撃って欲しいんや。
 千草大将は螺旋模様の入った唐傘を持った、派手な歌舞伎役者みたいな螺旋忍軍や。
 自分以外の血脈が全滅しとるらしく、この忍法帖奪取をお家再興の要諦として、配下の4人の黒衣っちゅー忍びと共に不退転の決意で挑んでくるで。黒衣が守り、その後ろから千草大将が派手な爆発を伴った攻撃をしてくるのが基本スタイルみたいや」
 担当する敵について説明した千尋は、
「負けてまうと千草大将らは麻代さんのおる『本陣』に向ってまうから、忍法帖を守る部隊の負担が増える。ちょっとぐらいやったらなんて事無いやろうけど、数が多いと忍法帖を守りきられへん様になるかもしれへんから、踏ん張りたいところやな。
 むろん、場合によっては全体に固執せんと、一部の配下だけ『本陣』に向わせる。みたいな事をしよるかもしれんから、出来るだけ討ち漏らさんよーにせなあかんで」
 と千尋が注意点について、ケルベロス達一人一人を見ながら確認する。

「まーやる事は餌に釣れてやって来よる螺旋忍軍をいてこますだけや。他んとこに迷惑掛けん様にしっかりやったってや」
 と千尋はまた八重歯を見せて笑うのだった。


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
ユーリエル・レイマトゥス(知識求める無垢なるゼロ・e02403)
干支・郷里(紅夜の亡霊・e03186)
ラームス・アトリウム(ドルイドの薬剤騎士・e06249)
志藤・巌(壊し屋・e10136)
深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)
イ・ド(リヴォルター・e33381)
櫻田・悠雅(報復するは我にあり・e36625)

■リプレイ


 五稜郭の一角。
 伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)が無表情のまま顔を上げると、ユーリエル・レイマトゥス(知識求める無垢なるゼロ・e02403)、そしてイ・ド(リヴォルター・e33381)と目が合う。
「……聞こえなくなった」
「当然だろうな」
 アイズフォンから聞こえる声が、ノイズと共に聞こえなくなった勇名の呟きにイ・ドが答える。どの様な手段を使ったのか不明だが、相手の通信手段を封じるのは当然と言える。そして、それは敵が近づいて来る合図でもあった。
「この地形では互いに奇襲は無理ですし、準備は整っています」
 スカウター越しにユーリエルが周囲に目を配る中、
「……恐らく、ここが正念場。この戦いによって、この先の螺旋忍軍との戦いも変わる。な、ブリジット」
 ラームス・アトリウム(ドルイドの薬剤騎士・e06249)が僅かに口角を上げた顔を向けると、その身を赤で纏めたシャーマンズゴーストの『ブリジッド』が炎を模した杖を掲げて応じる。
「来たぞ」
 赤い髪を掻き上げた櫻田・悠雅(報復するは我にあり・e36625)が言う様に、4人の黒衣を従えた歌舞伎役者の如き派手な男が、一行を睨みながら堂々と正面から現れる。
(「……本陣には嶋田も居る事だし一丁気合いを入れるとするか」)
 と拳同士を打ち合わせ、
「遅かったじゃないか伊達男。この場、タダで通れると思うなよ?」
 と志藤・巌(壊し屋・e10136)が鋭い眼光を向けると、
「十獣が一匹、干支郷里。名乗れよ道化方。シンになれないってことを教えてやるよ」
 干支・郷里(紅夜の亡霊・e03186)も向けた掌を、円を描く様に動かし問い掛ける。
「問われて名乗るもおこがましいが、知らざあ言って聞かせよう。螺旋忍軍が一、千草大将とは我の事。螺旋忍法帖たぁこれ、お家再興の一世一代の好機なり、七難八苦が我を阻もうと、あ、ここは力押しにて罷り通るぅ~」
 くるくると回した八木節傘を横にし、逆手の掌を開いて前に突き出した千草大将が、啖呵を切って首を回すと、控える黒衣がタタン! と拍子木を鳴らす。
「お家再興の為だか何だか知りませんが……私はやることをやるだけ」
 千草大将を睨んだ深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)がオーラを纏うと、ボクスドラゴンの『紅蓮』も炎を纏って舞い上がり、皆も一斉に身構える。
「10人程度の小勢でまぁ、意気軒昂な事よぉ~、この千草大将、伊達に大将でない事を思い知るがいいぃ~」
 その様子を見て見得を切る千草大将。タン……タン、タン、タン、タタタタタ! と黒衣が拍子木のリズムをどんどん短くし、タタン!と最後に大きく鳴らすと、拍子木を投げ捨て忍者刀を抜き地面を蹴る。


「あ、いざいざ、罷り通れぃ~」
 千草大将が大見えを切ると、郷里の放つ礫を受ける黒衣達が破剣のオーラに包まれる。
「おうおう、よくもまァわらわらと……崩れろ、爆震脚!」
 ラームスによる魔法の木の葉を纏い、迫り来る黒衣達に目を細めた巌が、ドン! と踏鳴を起こすと広がる振動が地面を揺らして黒衣達の勢いを削ぎ、
「我が刃、護るべきものの為に」
 相手がオーラを纏ったのを見て、再び箱に入った紅蓮と共に距離を詰めたルティエが、狼爪で黒衣を裂くと、イ・ドが続いて同じ黒衣に重い飛び蹴りを見舞って押し返し、他の黒衣には勇名の飛ばした鎖が、もう1体にはブリジットが立ち塞がっていた。
 その前衛陣を後押しする為に悠雅が爆破スイッチを押すと、カラフルな爆煙が起こって士気を高める。その煙の中から、
「ディスペアー・プレゼント……貴方の一番欲している物、確りと受け取りなさい」
 ヴィクトリーサンタ回路を起動したユーリエルが、コレジャナイ・ボム……紙筒に『らせんにんぽーちょー』と書かれた偽巻物型爆弾……を射出するが、
「小賢しきかな小賢しきかな。爆発とは、あぁ~こうするものよぉ~」
 その爆弾を八木節傘で弾いた千草大将が、ドンと足を踏み出すとケルベロス達に向けたその八木節傘を回転させる。
「気を付け……」
 注意を呼び掛けたユーリエルの声が爆音で掻き消され、凄まじい爆発に晒される前衛陣。特にルティエを庇ったブリジットの体が吹っ飛ばされた。
「これは……『大将』は伊達じゃないって事か、やってくれるぜ」
 その爆発の威力に巌はギリッと奥歯を噛み、爆発に乗じて刃や掌を向けて来る黒衣達の攻撃を捌く。後ろから回復が飛び戦線を支える中。
「命中率を上げないと……」
 ユーリエルはオウガ粒子を放出して自身の感覚を研ぎ澄まし、自分を庇って吹っ飛んだブリジットを一瞥したルティエも、その隙を突いて躍り掛かって来た黒衣に弧を描く斬撃を叩き込み、
「手加減している余裕は無さそうだな」
 と、『Roter Stosszahn』を抜いて大きく息を吐き、紅蓮の吐く灼熱のブレスと共に黒衣に仕寄る。

「煉獄の鎖、かの者達より活力を奪え」
 悠雅の詠唱と共に地に伸びた地獄の炎が鎖となって黒衣達の活力を奪う中、ルティエと郷里が黒衣の一体に攻撃を集中する。
「あ、此処を先途と踏み堪えいぃ~」
 後ろから千草大将が大見得を切るも、悠雅の鎖によるアンチヒールが働いたのか、黒衣の回復は思わしくなく、続いて距離を詰めた巌が『隕焔の篭手』を嵌めた拳を叩き込む。
「逃がしはしない、キサマを排除する!」
 流石に連続攻撃を受けた黒衣が下がろうとするが、逃がさぬとばかりに距離を詰めるイ・ド。下がる黒衣を庇おうと別の黒衣が割って入るが、勇名のアームドフォートが火を噴き、反対にその隙に抜けようとする2体の黒衣には、ユーリエルが重力振動波をぶつけて押し留める。
 そして叩き付けられるイ・ドの蹴り。
 その一撃が致命傷となり、黒衣を刻まれた1体が崩れ落ちた。
「よし、次……」
 イ・ドが抜けようとした黒衣に意識を向けた瞬間、空気が爆ぜ全身を痛みが奔る。
「爆砕爆炎、我が花道を飾りけりぃ~」
 爆煙の向こうで八木節傘をくるくる回す千草大将。
「まだまだ。こちらも負けてはいない。景気づけと行こう。発破!」
 悠雅が彩り豊かな爆煙を起こして味方を鼓舞すると、ラームスも薬液の雨を降らせて戦線を支える。

「まったく、こんなにしゃしゃり出てくる黒衣は聞いた事が無いよ」
 体を沈めた郷里が、脛を薙ぐ様に鋭い蹴りを見舞って黒衣の機動力を裂くと、そのしゃがんだ郷里の頭上をかすめる様に飛んだ砲弾が脛を薙がれた黒衣の胸に爆ぜる。
「じゃすてぃす!」
 その砲弾を放った勇名が、砲口から上る煙の向こうでマイブームの言葉を吐く。……が、その勇名が今度は爆炎に晒され悠雅と共に吹っ飛ばされた。
「……」
 顔を苦悶に歪めたラームスは、自分を庇った巌と庇い損ねて祈りを捧げるブリジットを一瞥して薬液の雨を降らせる。
「……早く黒衣を倒さないとジリ貧だな」
 郷里も千草大将の起こす爆発の威力に辟易としていた。
 しかし、攻撃を集中すると別の黒衣が脇を抜けようとし、突破させまいと個々に当たると攻撃が分散し、後方から回復と爆発が来るという実に厭らしい状況に陥っていた。
「……いかせない!」
 回復を受け上体を起こした勇名は、突破しようとした黒衣の足にケルベロスチェインを絡ませて手繰り、更に畳み掛けたルティエの姿に、黒衣は舌打ちして氷縛波を撃ち放つ。
 そんな状況に変化が訪れたのは、ユーリエルの投じたディスペアー・プレゼントが千草大将に命中した時だった。
「そこな小娘、止まれこそ!」
 次の瞬間、今まで後ろで構えていた千草大将が、怒りを湛えて一気に突っ込んで来た。
 それにいち早く反応したイ・ドの攻撃をくぐり、庇う様に断ち塞がった巌に傘を向ける。巌の振るった拳が潰す傘の向こうに千草大将の姿は無い。
 傘を囮に距離を詰めた千草大将の螺旋掌を喰らったユーリエルは、嗚咽を漏らしながら片膝を着いた。そこに、
「主らとこれ以上遊んでいる暇は、あ、ありもなしぃ~」
 ブリジットの祈りもラームスの回復が飛ぶよりも早く、頭上から更なる一撃を見舞われたユーリエルが、そのまま地面にその身を投げ出す様に崩れ落ちた。


「貴様ッ!」
「ユーリエル!」
 悲鳴にも似た声が交錯する中、混乱に乗じ跳躍して突破しようと踏み込む黒衣達。
「行かせるかぁ!」
 怒りを転化する様に地面を踏み抜く巌が起こした振動で、跳躍のタイミングを逸した黒衣に、
「合理的判断に基づくと、キサマを先に処分すべき」
 イ・ドのハンマーが振り下ろされ、その脳天をかち割った。
「……ばくはつ」
 何処からか新しい八木節傘を出した千草大将の動きを見咎めた勇名が、アームドフォートを撃ち放って警告の声を上げる。その弾丸が炸裂するとほぼ同時、またも後衛陣が爆炎に晒され、悠雅を庇ったブリジットが掻き消え、ラームスを庇った郷里もロングコートを裂かれて片膝をつく。
 だが、その爆発の中にあって紅蓮に火炎属性をインストールされたルティエは、黒衣の一体を葬り去っており、
「仇はとらせてもらいます」
 黒衣の背から刃を抜いたルティエが向き直ると、その右耳カフスのピアスが揺れる。
「まだ終わりではない。力をわけん」
「……」
 悠雅が体を起した郷里に分身を纏わせ、倒れたユーリエルを庇う様に立り、ブリジットが消えた辺りを見て眉を顰めたラームスが、ユーリエルにウィッチオペレーションを施しつつ、後退する。
「黒衣を三体も屠るは見事なり、されどこの千草大将貴様らにこれ以上時間は裂けぬ、いざ、罷り通るぅ~」
 千草大将がケンケンをする様に、3歩ほど前に出て見得を切って八木節傘を回すと、今までより大きな爆発が前衛陣に叩きつけられる。その爆煙に乗じ突破を図る千草大将と黒衣。
「せめてお前だけでも……我が右手に宿る龍よ……暴風の爪を以て我が敵を貫け!」
 額から流れる血で左眼が見えなくなった郷里だったが、暴風の力を纏った抜き手を繰り出し、脇を抜けようとする黒衣を貫いた。
「天晴れなり、本来ならじっくりトドメを刺す所なれど、今宵は、あ、見逃してしんぜよぅ~」
 イ・ドとルティエに裂かれながらも包囲陣を突破した千草大将は、もう一度八木節傘を回して爆発を起こすと、崩れ落ちるケルベロス達を尻目に五稜郭の奥へと消える。
「クソッ……すまねぇ、頼んだぜ」
 巌が信号弾を上げるが、既に幾つか信号弾が上がるのを確認しており、肩で息をするケルベロス達は、本陣を案じながら倒れた仲間を介抱するのだった。

作者:刑部 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月21日
難度:普通
参加:8人
結果:失敗…
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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