一人ぼっちの向日葵

作者:陸野蛍

●それは一輪だけ
「不思議なこともあるなあ。3年生が種を撒いたのは、ついこの前なのに、一輪だけこんなに大きく立派な花が咲くなんて」
 その教師は、今日の職員会議の資料を作成しようと、いつもより1時間早く、自身の勤める小学校に来ていた。
 そして、職員室から見えた花に疑問を感じ、花壇の側まで来たのだ。
 花壇には、手書きで『3年2組 ひまわり畑』と書かれたプレートが地面に刺さっている。
「向日葵が1輪だけ、急成長するなんて不思議だなあ……」
 言葉を口にしながら思考していた彼は気付かなかった、いつの間にか向日葵の大きさが一回り大きくなっていた事に。
 そして、薄れて行く意識の中で、その1輪の向日葵に自分が取り込まれてしまったという事実に……。

●不機嫌な向日葵少年
「みんな、集合! お仕事のお時間だ!」
 いつものように、大淀・雄大(太陽の花のヘリオライダー・en0056)の大きな声がヘリポートに響くが、何故かその語調から伝わる雄大の御機嫌は、あまりよろしくない。
「大阪城から散布されていると思われる胞子の影響で攻性植物が生まれてしまった。この攻性植物は、現着時点で既に人間を取り込んで二足歩行が可能な状態になっている。みんなには、この攻性植物の撃破と可能なら、取り込まれた人間の救出をお願いしたい」
『爆殖核爆砕戦』から、半年経とうとしているが、攻性植物の地球侵略の攻勢は未だに静まる気配がない。水面下で、大きな作戦が動いている可能性すらある。
「現場は、鹿児島県さつま町の小学校。攻性植物の種類は……これな」
 そう言って、雄大は自身の左こめかみを指差す。
 雄大の指が指し示すのは、一輪の向日葵……雄大が、ご機嫌斜めなのは、この所為だろう。
『また、この時期かよ……』と言うのが雄大の本音と言うところか。
「取り込まれるのは、小学校の男性教諭。幸い、児童が登校する前に攻性植物は現れる為、よっぽど時間をかけない限り、戦闘域に誰かが来ることは無い筈だ」
 早朝の事件だったと言う点で、事件を未然に防げ、被害を大きくしないことが可能と言うのは救いではある。
「攻性植物『ヒマワリ』の戦闘手段は、顔面部となっている花の部分から向日葵の種を散弾銃の様に飛ばす攻撃、両手の向日葵の葉を一気に硬質化させ刃の様に使う斬撃攻撃、向日葵の黄色い花弁部分にグラビティを収束させ円状の熱波エネルギーを放ってくる攻撃だ」
 近距離、遠距離、複数人への攻撃、取り込んだ教師の頭脳から情報を手に入れるのか、最善の攻撃を選んでくる可能性が高いらしい。
「さっきも言った通り、ヒマワリは男性教諭を体内に取り込んでいる。彼を救う為には、ヒマワリにヒールをかけつつ、ヒール不能ダメージを蓄積させ、ヒマワリだけを死滅させる必要がある。救出してもらいたいってのが当然本音だけど、微妙なダメージ算出が必要になることと、長期戦になる可能性が高い。……難しいと判断した場合は、男性教諭の命を諦めるという選択をするのも、ケルベロスの役目だと思ってくれ」
 戦闘域になるのは、児童の花壇が見えるグラウンドとのことで、花壇から向日葵を遠ざけてしまえば、障害物になる物や壊してしまう恐れがある物も無いとのことだ。
「花壇に咲いた向日葵は一本だけ、それ以外は、まだ芽吹いたばかりって言う状態だ。攻性植物の胞子の影響での急成長だろうから、その向日葵に罪は無い。だけど、人命もかかっている。攻性植物勢力との決着を付けるか、この胞子の生成方法を解明しない限り、こう言った事件は終わらないだろう。だけど、今は、目の前の事件に目を向けて、最善の結果を掴んでくれ。とりあえず、向日葵を攻性植物にするようなやつらは、何時か絶対ぎゃふんと言わせてやらないとな……。とにかく、頼んだぜ、みんな!!」
 ヘリポートに響く雄大の声は、いつも以上に熱を帯びていた。


参加者
雨之・いちる(月白一縷・e06146)
アルルカン・ハーレクイン(道化騎士・e07000)
彩咲・紫(ラベンダーの妖精術士・e13306)
オーキッド・ハルジオン(カスミ・e21928)
津雲・しらべ(ケルベロスより愛をこめて・e35874)
蔵寺・是之(パン大好きな新米巫術士・e36469)
御春野・こみち(シャドウエルフの刀剣士・e37204)
鈴木・智恵(幸福な一般ケルベロス・e37345)

■リプレイ

●向日葵には、まだ早く
「向日葵ですか、もうそんな季節になったのですわね」
 朝の日の光に輝く紫の髪を押さえ、彩咲・紫(ラベンダーの妖精術士・e13306)が呟く。
「それにしても……攻性植物の脅威は収まる様子を見せませんわね。 一つずつ、身近な事件を解決し続けていくしか、無いんですけれど」
『植物を攻性植物化される胞子』、そして、大阪城近郊で確認されている『バナナイーター』による事件、『爆殖核爆砕戦』後も攻性植物勢力の侵攻は、続いている。
「ここを曲がれば、遂に俺の初依頼か……やっぱり、少し緊張するな……」
 言うのは、左頬に傷を負った青年、蔵寺・是之(パン大好きな新米巫術士・e36469)だ。
「まぁ緊張しすぎて、失敗したら元も子も無いか……目指すは一般人を救出しての成功だ……、必ず……救って見せる……!」
 緊張から固さも多少見受けられるが、是之の瞳にはケルベロスとして、誰一人の命も諦めないと言う信念が見受けられる。
「私もデウスエクスと言う意味では、初の依頼となります。周囲に一般人が近づかない様にカラーコーンを置いて来ましたが、不必要だったでしょうか?」
 小柄な鈴木・智恵(幸福な一般ケルベロス・e37345)は、『デウスエクスとケルベロスが交戦中、近づくこと無かれ』と書かれた、カラーコーンを小学校の周囲に配置していた。
 キープアウトテープを貼り、一般人の侵入を防ぐと言うのは、攻性植物と接触後すぐに開戦してしまう今回の状況では時間的に無理だろう。
 だが、智恵と是之が用意したカラーコーンなら設置も回収も殆ど時間がかからない……しかし、ある種の危険性も孕んでいることに2人は気付いていなかった。
 危険と書かれていれば、近づくなと書かれていれば、余計に興味本位で近づく者も居る。
 特に、この場は児童が行き交う小学校付近である、興味に忠実な子供達がこれを目にしてしまえば、ケルベロスと悪物の戦いを見たい子供も出てくるかもしれない。
 幸い、早朝であり、人通りも殆ど無い事から、このコーンを誰かに見られる可能性は低いが、危険と知らせることだけが最善ではないと言うことだ。
「現場の小学校ですね」
 戦場になる小学校を視野に入れ、御春野・こみち(シャドウエルフの刀剣士・e37204)が仲間達に言う。
(「小学校、あんまり通えなかったから、生徒さんが、なんだか羨ましくなっちゃいますね。……生徒さんの為にも、日常と平和を取り戻さないと!」)
 心の中で強く決意を固めるこみちの耳に、途切れ途切れだが、仲間達に伝えようと言葉を紡ぐ、津雲・しらべ(ケルベロスより愛をこめて・e35874)の声が聞こえる。
「居たよ……攻性植物……花壇から、少し離れてる……向日葵。……大きいから、間違い無い……と思う」
 しらべが差した指の先、人間よりも一回り大きな向日葵……いや、攻性植物『ヒマワリ』をケルベロス達は確認する。
 口にする言葉は遠慮がちに、だが、動きはスマートに、しらべが腕時計のアラームを1時間後、50分後、30分後に鳴るようにセットする。
 それに倣うように、こみちも腕時計を30分後にセットし、アルルカン・ハーレクイン(道化騎士・e07000)も、懐中時計を確認すると、仲間達に声をかける。
「それでは、参りましょう」
 小学校のグラウンドに一歩足を踏み入れれば、そこはケルベロスとして戦うべき戦場。
 アルルカンの瞳がスーッと細められる。
「攻性植物! ……お前の相手は俺達だー!!」
 人を内包した攻性植物……自身達が倒さなければならない『敵』を見た瞬間、是之は叫んでいた。
 そして、自身にもたらされた御業の力で、捕縛の縄を作りだすと長距離から放ち、ヒマワリを引きずるように力を込める。
(「これが、俺が得た力……。この力があれば……戦える……!」)
「守れる……! いや、護ってみせる!」
「あなたは撃破しますよ、ヒマワリ。先生も助けさせてもらいます!」
 是之の叫びを肯定するように、こみちは癒しを司る魔法の木の葉を風に舞わせ、仲間達の護りの力とする。
「新人君達が、頑張るって言ってるのよね……先を行く者として、力を見せない訳には、いかないね」
 培ってきた経験を糧に静かに魔力を高めると、雨之・いちる(月白一縷・e06146)は、邪神を封じたとされる、瘴気を纏った魔導書『虚喰』に力を注ぐ。
「封じられし邪神、私に力を貸して。『虚喰』、全てを喰らい尽くして」
 グラビティと共に捧げた、いちるの鮮血を魔導書は受け取ると、封じられた『虚喰』を召還する。
 対峙するヒマワリを貪ろうとする幻影『虚喰』。
「ボクだって、いるんだよっ!」
 グラウンドを突っ切るように小柄な竜人、オーキッド・ハルジオン(カスミ・e21928)は、一気に駆けると、ヒマワリに刃の鋭さを得た回し蹴りを決める。
「ヒマワリさんの中に閉じ込められている、先生を……どうしても、どうしても救いたいから……倒して、救うよっ!」
 オーキッドの言葉に呼応するように、相棒のチャイナな衣装に身を包んだ、ウイングキャット『なると』も清廉な翼を羽ばたかせ、グラビティの流れを崩さぬ力を仲間達に与える。
「なると、頑張ろうねっ! だって、いなくなっていい、いのちなんて……ないからっ!」
 オーキッドの口にした言葉は、この場に居る仲間達、全ての思いだった。

●向日葵の檻
「いけませんね。攻撃を通させて差し上げる訳にはいかないんですよ」
「護るのが……私の役目……だから、私は倒れない……よ」
 アルルカンとしらべが、後方に放たれた、ヒマワリの黄色い光線を受けつつ、反撃に転じる。
「形なき声だけが、其の花を露に濡らす」
 姿無き歌声に合わせ、アルルカンが無音の剣舞を披露すれば、白から黄に変わる花弁の幻想がヒマワリを包む。
(「私は……先生……違う人だけど……守れなかった」)
 それは、しらべの記憶に刻み込まれた悔恨の思い……だから、先生と言う人を護れないと言う事実を心が拒絶する。
(「絶対に、助けたい……」)
 腕に暗器の様に仕込んだ黒鎖でヒマワリを束縛すると、鎖にグラビティを一気に注ぎ込む、しらべ。
「少し、調整が必要ね」
 呟くと、いちるは、自身のオーラを高めるとその塊をヒマワリに向けて放つ。
「頑張って。先生……直ぐに、日常に戻してあげるから」
(「その為に、私達が居るんだからな……」)
 戦闘に入った途端スイッチが入った様に、口を引き結んだ智恵は、影の様な動きを利用し、ヒマワリの背後を取る。
「――その巡りを断つ」
 一言呟き、ヒマワリの首筋にグラビティの流れを遮る手刀を叩きこむ知恵。
「皆さん、まだ時間はあります。先生の身体に負担がかからないように、慎重に攻撃手段を選んでください」
 舞い踊り、癒やしの花弁のオーラを、前を固める者達に放ちながら、こみちが声をあげる。
「俺には、まだよく分かんねぇけど、攻撃により過ぎてるってことか……。なら……」
 御業で仮初めの鎧を創ると、是之はヒマワリに纏わせる。
「長い戦いになるかもね。だけど、ボク達がたおれなければ、先生は救える筈だよね」
 金色に輝く冥府の鎖で、仲間達に守護を与え、オーキッドが言う。
 そんな戦況を、最後衛で観察していた紫は、あらゆる可能性を考えていた。
(「ヒマワリさん……いえ、先生の回復は、いちる様と是之様に任せる形にしましたが、是之様の回復力は微妙な回復量の調整には、凄く適しているけれど……先生では無く、ヒマワリさんの攻撃グラビティの増強にも繋がってしまう。アルルカン様や智恵様が役目を代わっても結果は同じ。オーキッド様、しらべ様のヒールは、護りの力を上げてしまうし……かと言って、いちる様がヒマワリの回復に専念してしまっては、何時までもヒマワリを倒せない……なら、最善は……」)
「しらべ様! ヒマワリが纏ったグラビティの鎧は、しらべ様の拳で砕いて下さいませ!」
「……分かった」
 紫の叫びをすぐに理解したのか、しらべは、音速を超える拳でヒマワリの纏った鎧を打ち砕く。
(「思っていた以上に、先生を救い出すのに、時間がかかってしまうかもしれませんわね」)
「癒しの雨よ、仲間を助けてあげて下さいませ」
 薬液の雨を空から降らし、少しずつ昇っていく太陽を見ながら、紫は、最善の未来を選べるように、戦闘に集中していく。

●向日葵からの救出
『ピー! ピー! ピー!』
 その音は不意に戦場に鳴り響いた。
 こみちは、咄嗟に腕時計を見る。
「皆さん、戦闘開始から、30分経ちました!」
「時間が無いと言うことですね……少し、速度を上げます」
 懐中時計に一瞬だけ目を移すと、アルルカンは獣のそれにした右手でヒマワリを引き裂く。
「先生っ! 苦しいかもしれないけど、がんばってねっ、ボクたちもがんばるからっ! ぜったいぜったい、助けるからっ! 紫! 先生の鎧を壊して! 回復はボクも支えるからっ」
 ヒマワリの中に居る先生に強く呼びかけながら、オーキッドは回復手である紫に、攻撃援護を求める。
「はい、お任せ下さい。ラベンダーの芳香よ……辺りを包み込み、まどろみの世界へ誘え」
 自身を象徴する花、ラベンダーの芳香を周囲に撒き、誘惑の攻撃とする紫。
 ラベンダーの芳香がヒマワリの体内を巡ると、ヒマワリの攻撃に力を貸していたグラビティの力も破壊される。
 ヒマワリに与えてしまった、能力を上げるグラビティを破壊する方法は、しらべの音速の拳以外にも、二つの方法があったのだ。
 1つは、仲間の回復を最優先にしていた、紫とこみちが攻撃に加わること。
 回復手である彼女達には、仲間達の悪しきグラビティの流れを正す力以外に、敵の上がってしまった能力を打ち砕く能力も備わっている。
 もう1つは、能力弱体そして向上に特化した智恵が、破壊のルーンを宿した戦斧で仲間達を癒し、仲間達にそれぞれ、ヒマワリのグラビティを打ち砕く力を与える方法だ。
 これにより、いちるは大きなダメージを瞬時にヒマワリから消し、いちるの回復量では大き過ぎる場合は是之が回復しても、デメリットが生じなくなっていた。
 だが、時間の経過は想像より早い……長期戦を覚悟していたとはいえ、これ以上時間はかけられない。
「オーキッドさん、回復をお願いします。わたしもヒマワリの傷口を広げますっ!」
「任せてだよっ!」
 こみちは、オーキッドの返事より素早く動いていた。
 手にした得物で、空をも断ずるように、太陽の花を引き裂くように……深く傷を付ける。
(「ひまわりって、花を太陽の方に向けるらしいですね。わたし、その姿を直接確認したことがないので、知識で知ってるだけなんですが……。でも、なんだかかわいくて、明るくて、前向きで。……好きなお話です。……でも」)
「あなたは違いますから! 先生を返して下さい!」
 叫びと共に、こみちは得物を振り切る。
(「根拠はないけれど、助けたいって思う気持ちだけは……何よりも真っ直ぐに、そうやって生きてきた。純粋に心を向けることしかできない……ボクにはっ!」)
 ヒマワリの緑の斬撃を受けながら、膨れ上がるオーキッドの想い。
「ボクの涙で、いっぱいにしてあげる!」
 大切なひとの、家族の、友人の、仲間の――救うべき先生の――幸福を願い、胸が締め付けられたオーキッドの瞳から、ぽろりぽろりと溢れる涙は、竜の加護と成りて、銀翼をはためかせると太陽に向かって飛び、慈しみの雨を降らし、仲間の傷を癒していく。
「先公……我慢して待ってろよ……! もう直ぐだ! 必ず救ってやるからなっ……!」
 幾度目かの癒しの力をヒマワリに放ちながら、是之が汗を流し、先生に言葉をかける。
 是之にとっては、初陣……そして、ケルベロスの戦闘としても長時間の部類に入る戦い、集中を切らせないこと、命を諦めないこと……そのことを強く思い、是之は戦場に立ち続ける。
「ヒマワリだけを消すよ。智恵、しらべ続いて……」
 2人に声をかけると、いちるは熟練の動きで、ヒマワリと距離を詰め、流星の軌跡を描く蹴りを放つ。
「向日葵の時季には、まだ早かったね。向日葵に罪はないのに……本当に」
『……残念』
 いちるの言葉が終わった瞬間、智恵の聖なる鈍器が、生きるべき者と死するべきモノを選定するかのように容赦なく振り下ろされる。
「……先生は……返して、もらうよ。……あなたも……次は……綺麗に……咲いてね……さようなら」
 しらべは、ヒマワリの懐に飛び込むと温かく、優しく、抱擁する。
 ……葬る相手に贈る最期の温もり。
 ゆっくりと伸ばされた、しらべの腕から覗く刃が、ヒマワリの首を……いや、花を落とした。
 次第に枯れるように風化していくヒマワリの緑の身体。
 そして……しらべの腕の中には、静かに息をする男性教諭の姿があった。

●向日葵のように輝いて
 彼が目を開くと、一面に朝の青空が広がっていた。
 確か、ヒマワリが咲いていて……。
 自分の置かれた状況をいまいち理解出来ず、少しだけ身体を起こすと、白い髪の女性が、自分の顔を覗いて言った。
「おはよう、先生。大丈夫?」
「え? あれ? 俺は……あなた達は?」
 自身を囲むように数人の男女が居た。
 どうやら、グラウンドの真ん中で横になっていたようだ。
「良かったね、なると。先生、身体も大丈夫みたいだよ」
 幼さを感じる少年は、空を飛ぶ猫――噂に聞くウイングキャットと言うものだろうか?――に笑顔を向けている。
「どうやら目覚めたようですね」
 近寄って来た少女は、何故かカラーコーンを幾つも抱えている。
 そのカラーコーンに貼り付けられた言葉に、彼は驚愕する。
「……デウスエクス!?」
「大丈夫ですよ、全て終わりましたから。ヒールはしましたけど、痛いところは無いですか?」
 紫の髪を結った少女が訊いてくるが、彼は『……いえ』と言う言葉しか発せられない。
「少し説明をしなければいけませんね。もう直ぐ登校時間ですから、手短にですが」
「それでは、私が説明いたしますわ。もう、怖い事は無いんですけれど、あなた様はデウスエクスに囚われていましたの」
 落ち着いた雰囲気の青年の言葉に続けるように、淑女然とした少女が一部始終を説明してくれる。
「つまり、あなた方のお陰で俺は、生きているんですね?」
「……そう……だけど……気にしなくて、いいの」
 おずおずと言った口調でしゃべる少女の顔には、安堵の色があった。
「本当に、本当に有難うございました!」
 彼は、心を込めて頭を下げる。
 少し離れた場所でアンパンを口にしていた青年が、言葉を漏らした。
「……これが、ケルベロスとして人を救うって言うことか。俺は、これからも戦い続けるんだ……それが、俺が力を得た意味なんだ」
 彼には、青年の言葉の真意は分からなかったが、呟く青年の表情は男らしく眩い程に輝いていた……。

作者:陸野蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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