螺旋忍法帖防衛戦~愛欲の金沢攻城戦

作者:ハル


「皆さん、螺旋忍軍の拠点の制圧という大仕事を見事こなしてくれた事、心から感謝しております」
 花の咲くような笑みを浮かべたセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、深々と頭を下げた後、ケルベロス達の奮闘を拍手で讃える。
「そして、拠点の制圧以外で、情報という面でも、皆さんの活躍は大きな意義を持っています。シヴィル・カジャスさんと嶋田・麻代さんが、『螺旋忍法帖』の所持者になった事からも、それは明らかですね」
 そうセリカが言うと、ケルベロスが『螺旋忍法帖』に記されていた内容について問いかけた。セリカは小さく頷くと、
「螺旋忍法帖には、『螺旋帝の血族を捕縛せよ』というご下命が記されていました。そして、螺旋忍法帖は、螺旋帝の血族のみがその血で書き記す事ができるとも。どうやら、書かれたご下命を果たす事は、螺旋忍軍にとって大変な名誉であり、同時に一族すべてに勅忍の栄誉が与えられるようです。ただし、一度のご下命で勅忍となれる螺旋忍軍は、ただの一つ。この内容から、私達は螺旋忍軍の今回の大規模な動き……その核心に迫る事ができるのではと、期待しています」
 しかし、問題もある。
「現在、螺旋忍軍に新たな動きがあるのです。そもそもご下命を受ける事ができなかった忍軍組織が、私達正義のケルベロス忍軍から螺旋忍法帖を奪う事で、勅忍となるチャンスを得ようと伺っています」
 螺旋忍軍は、『螺旋忍法帖の場所を探し当てる』事ができる。堅牢な金庫に保管しようとも、地面奥深くに埋めようとも、常識的な方法では、守り切ることはほぼ不可能だ。
「しかし、この状況を逆手にとり、私達はこの機に螺旋忍法帖を囮に、螺旋忍軍を一網打尽にしようと考えているのです」
 考え方は、拠点の制圧と同じ。守り切れないならば、攻めるまで!
「多数の螺旋忍軍に甚大な被害を与えたなら、彼らも、もう二度とこちらから螺旋忍法帖を奪おうなどとは考えなくなるでしょう」
 戦場の舞台として用意されたのは、石川県の金沢城と北海道の五稜郭。
「拠点にて、襲い来る螺旋忍軍の脅威から螺旋忍法帖を守り抜くため……どうか、皆さんのお力をお貸し下さい」
 セリカは、改めて頭を下げる。
 そして、顔を上げたセリカは、次に敵の詳細について書かれた資料を配った。


「さて、金沢城と五稜郭のどちらを担当してもらうかについてですが、皆さんには金沢城に向かってもらう事になりました。そして、金沢城にて、豹紋蝶ベアトリーチェと名乗る螺旋忍軍を迎え撃って欲しいのです」
 豹紋蝶ベアトリーチェは、洗脳、籠絡、ハニートラップを得意とする螺旋忍軍だ。魔性の色気と可愛らしさを併せ持つ容姿や雰囲気に似合わず、非常に狡猾。洗脳して狂信的に従う配下を3体従えている。
「ベアトリーチェ自体の戦闘能力というのは、特筆するものではないのですが、彼女に従う配下は、彼女のためなら死を厭わず、文字通り己のすべてを賭けてベアトリーチェに尽くそうとします」
 生死を顧みない。それが戦闘において、時に非常に脅威となる。そんな様をベアトリーチェは悠々と眺めているつもりなのだろう。
「もし仮に皆さんが敗北してしまうような状況になると、残った敵は本陣に向かい、螺旋忍法帖を守るチームに負担をかけてしまう事になります。それが1チームならば致命的な問題には至らないでしょうが、2~3チームと増えていけば、当然ながら状況は悪化の一途を辿ります。何よりも、主要敵のみならず、配下の者までが本陣への突破を狙っているのです。ですから、ベアトリーチェを撃破したからと安心せず、細心の注意を払って全滅させるよう努めてください!」
 セリカは、最後に言う。
「螺旋忍軍と矛を交えるには、これ以上ないシチュエーションとも言えますね。ただ、同じ女性として、ベアトリーチェのやり方には嫌悪を覚えます。皆さんのお力を存分に発揮し、螺旋忍法帖を必ず守り抜きましょう!」


参加者
レクス・ウィーゼ(ライトニングバレット・e01346)
ミツキ・キサラギ(ウェアフォックススペクター・e02213)
月隠・三日月(希望の担い手・e03347)
峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)
祟・イミナ(祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟・e10083)
鏡・胡蝶(夢幻泡影・e17699)
植田・碧(エンジェルハイロゥ・e27093)
浜咲・アルメリア(捧花・e27886)

■リプレイ


「ここが私達の拠点になるようだな」
 金沢城は、決して強固な要塞ではない。ゆえ、周囲にはいくつもの防衛用の寺が乱立しており、ケルベロス達に与えられた拠点もその一つ。月隠・三日月(希望の担い手・e03347)は、周辺の状況と建物の構造をチェックしながら、年季を感じさせる太い木の柱をソッと撫でた。
「……防衛戦か」
 ミツキ・キサラギ(ウェアフォックススペクター・e02213)は、三日月の口にした『防衛』という単語に、スッと目を細めている。
(どうしても、『あの時』の事を思い出しちまう。だが、あの時とは違うってことも、証明したい)
 ミツキの脳裏を過ぎるのは、瓦礫と化した旅団と、倒れ伏したかつての仲間の姿。だが、もう二度とあの時のような思いを抱かぬため、ミツキは敵をいち早く屠るための力を磨いてきたのだ。
「防衛戦といえど、今回はワタシ達が望んだものだ。……守りに回るのではなく、あくまで攻めるためのな。……忍んでいた反動か、せっかく螺旋忍軍が活発となったのだ。歓迎のために祟る準備はできている」
 言いながら、祟・イミナ(祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟・e10083)は喉の奥で低く笑った。この日のために、杭には呪力をこれでもかと溜め込んでいる。
「それにしても、来るなら早く来て欲しいよ」
 黒ビキニの上からケルベロスコートを羽織った峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)は、ただでさえ嫌いな上に、性格も悪いらしい敵の存在を、今か今かと待ち望んでいた。
「まぁ、落ち着きな。じきに現れるだろうよ。……あと、その相手とやらは胡蝶嬢ちゃんと因縁があるんだったな」
「……まぁね。私のセンセイみたいな人よ。本当に、奇妙な縁だわ」
 年長者で、子供の扱いを心得ているレクス・ウィーゼ(ライトニングバレット・e01346)は、恵のやる気を適度に抑えながら、鏡・胡蝶(夢幻泡影・e17699)に話しを振る。
 話題を振られた胡蝶は、懐かしそうに目を細めながら苦笑を浮かべ、ゆっくりと頷いた。
「そういう事なら、あたしも胡蝶……あんたの力になるわよ。もちろん、忍法帳も敵の手には渡さない」
「そうね。去年の年末の事も含めて、私も胡蝶さんの因縁には何かと縁があるみたいだしね」
 胡蝶の同僚、チームメイトでもある浜咲・アルメリア(捧花・e27886)と植田・碧(エンジェルハイロゥ・e27093)もそう言ってくれ、胡蝶は微笑みを深める。そこまで言われては、きっちりやり切るのが女の使命。
 ――と!
「豹紋蝶ベアトリーチェと配下3体を確認した! 迎撃に出るぞ!」
 三日月の言葉と共に、ケルベロス達は本陣へと向かうベアトリーチェを迎撃するため、その前に躍り出るのであった。


「今まで見た螺旋忍軍で一番性格悪いなー」
 恵がベアトリーチェに抱いた第一印象は、そんな感想であった。元々『そうらしい』という事は聞いていた恵みであったが、ベアトリーチェはそれ以上に――。
「頑張って、皆。愛してるわよ」
「オオオオオオッ! ベアトリーチェ様のためにィィィィッ!」
 悪魔的であった。ベアトリーチェが囁く心ないと、ちゃんと聞けば分かるはずの愛の囁きに、狂信的な配下の螺旋忍軍はその身を盾に、ミツキと胡蝶の攻撃を防ぐ。
「たくっ、ディフェンダーを優先的に狙おうと思ってたんで、ある意味予定道理とはいえ!」
「ええ、こうまで必至になられると……ね。センセイは相変わらず、お変わりないみたいね」
 洗脳された配下は、獣化したミツキの拳も、胡蝶のヒールで踏み抜かれても、まるで痛みなど感じていないかのようであった。
「……背筋から凍ると良い」
 イミナが氷結の螺旋を放つと、対応するように螺旋忍軍も同種の氷結系の攻撃を放ってくる。さすがに、グラビティの単純な威力比べならばケルベロス達は劣り、実際イミナも蝕影鬼が飛ばす念と、碧の炎を纏った蹴り、そして間に入ってくれるレクスの庇いの援護を借りて、ようやく互角といった所か。
(まずは、ベアトリーチェのポジションを見極めないといけないわね)
 それによって、碧の、そして全体の行動指針も若干ながら変わってくる。
「……え?」
 するとその時、碧とベアトリーチェの目が合った。ベアトリーチェは蠱惑するようにニッコリと頬笑むと……。
「……あっ、つっ……」
 まるで、足場が崩れ落ちるような錯覚を覚え、碧はベアトリーチャから視線を外す事ができなくなる。幸い、効果自体は発現しなかったが、BSを宿したのは明か。
「峰谷殿! 植田殿を頼む!」
「分かったよ、こっちは任せて!」
 その事を悟った三日月が、恵に声をかけながら、電光石火の蹴りでDFを牽制。その隙に、恵が碧に桃色の霧を放出して纏わせた。
「あの方の、ベアトリーチェ様の愛を得るため、貴様ら死ね!」
「うっさいわね! あんたらこそ邪魔なのよ、リリィ!」
 Jmの放つ弧を描く斬撃を、アルメリアは纏わせた百合白皓で防ぐ。
「とりあえず、すあまはあたし達前列の援護をお願い!」
 そして、減衰覚悟で、すあまには羽ばたきで邪気を祓って貰う。今の所、すでにキュアが施された碧を覗けば、ダメージとBSはDfに集中している。
(だったら!)
 アルメリアはミツキと胡蝶が攻撃した対象に合わせて、身体を滑るように移動させると、「鋼の鬼」と化した拳をねじ込んだ。
「どんな奴だって痛みを与えた奴には怒りを向けるもんだからな。俺の事を無視できなくさせてやるぜ?」
 対して、もう一方のDfには、レクスがすれ違い様に銃弾を叩き込み、血の華を咲かせている。攻撃を受けた螺旋忍軍の瞳に、狂信に混じるように怒りが浮かぶのを確認し、レクスは満足げに銃口にフッと息を吹きかけた。

 サァーーーーと、戦場に一陣の風が吹いた。一連のやり取りを終えた両者は、一旦間合いを取って睨み合う。
「……色仕掛もまた呪いのようだ。……配下達が見事なまでに呪われているな」
 すると、イミナがポツリと、正直な言葉を吐き出す。
「さっきも言ったけれど、昔からこういう人なのよ。……少し遅れたけれど久しぶり、何年ぶりかしら……ねぇ、センセイ」
 胡蝶がイミナに軽い説明をすると、イミナは「……なるほど」そう納得する。
 対して、久々の再開の挨拶を受けたベアトリーチェと言えば。
「あなた達ならやれるわ。上手くやればご褒美をあげる」
 胡蝶達にも余裕綽々の態度で、配下達に白く柔らかい肌を寄せ、そこから甘い芳香を立ち上らせながら、強化とキュアを施していた。
「ええ、久しぶりね、胡蝶」
 そして、ようやくこちらに反応を返す。
「キミは配下の背中に隠れてばかりだよね。恥ずかしいとは思わないの?」
「思わないわね。だって、これが立派な私の戦い方ですもの」
 恵の皮肉にも、ベアトリーチェは動じない。
「……チッ」
 だが、ミツキが苛立ち混じりに舌打ちをすると、視線がそちらを向いた。しかし、ミツキが見ていたのはベアトリーチェではなく、ただ指示を待っているだけの配下達。
「行きなさい!」
 ミツキの殺意に反応し、ベアトリーチェは配下のDfをミツキにけしかけた。仲間のDfの庇いも間に合わず、ミツキの肉体に螺旋の籠められた掌が叩き込まれ、ミツキは口端から血を溢す。
「誰かを想って戦うなら、命は大事にするんだな! そんなんだからてめぇらの拳は軽いんだよっ!」
 だが、ミツキは怯まず、逆に吼えながら、パイルバンカーからジェット噴射と共に突撃し、Dfを吹き飛ばした。
「やるじゃん!」
 その根性ある姿に、アルメリアも毒のある笑みを浮かべると、膠着する戦場を再び動かそうと、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りで、吹き飛んだDfを追撃するのであった。


「あなたが倒れれば、私に害が及ぶことになるのよ、頑張って堪えなさい!」
「がっ、……は、はい、い゛っ!?」
 ベアトリーチェの激しい檄が飛ぶ。だが、応じる配下の額に浮かぶのは、大粒の汗。
「哀れだな」
 傷だらけで、死を間近にしながらも、配下達の狂信だけは衰えない。その姿に、三日月は吐き気を催しながらも、
「イミナ殿! 援護するので配下のDFの制圧を!」
「……心得た」
 ニィと笑うイミナの背後から、三日月は使い慣れないバスターライフルの操作に若干手こずりながらも、凍結光線を射出する。
「ぐぁ!?」
 光線は見事配下の忍軍の足を撃ち抜き、膝をつかせる事に成功。
「……ではワタシからも色仕掛だ。…血の色で仕掛ける。…祟る祟る祟る祟祟祟」
「……ぁ」
 そして、慌てて配下が顔を上げると、そこには杭を振り上げたイミナがいた。
「祟祟祟祟祟祟祟祟祟……封ジ、葬レ……!」
 幾度も執拗に繰り返される杭が、DFの身体の至る所に突き刺さり、イミナと標的の両者に血化粧を施していく。ようやくイミナが満足した頃、そこには原型を留めないDFの姿があった。
「畳みかけるぞ!」
 恐らく敵にも多少の動揺があるだろう。そう見たレクスが、仲間に声をかけようとした時――。
「……っ!?」
 前衛全体を巻き込むようにして、蜘蛛の糸が放散される。アルメリアの庇いによって難を逃れたミツキは例外に、粘着質の糸はケルベロス達の動きを阻害。
「あなたも私の虜になりなさい?」
 その隙をつかれ、レクスは瞳と思考をベアトリーチェに支配されそうになっていた。
「13・59・3713接続。再現、【聖なる風】」
 慌てて、恵の浄化の風が前衛の身体を吹き付け、
「こら! あんたデレデレしてんじゃないわよっ!」
 ――癒せ、《枸杞》。叢雲流霊華術、壱輪・芍薬。
 アルメリアが形成した薄紅の芍薬の花が、レクスの周囲に咲き誇る。
「ミツキくん、胡蝶さん、右からDfとJmが接近しているわ! 祟さんは余裕があればjmをお願い!」
「おう、攻めまくってとっとと終わらしてやる!」
「了解よ、碧さん。まずは邪魔者を片づけないとね」
 Jmの 螺旋掌を、すあまの援護も借りながらイミナが抑える。日本刀を手に前衛に襲い掛かるDfに対しては、
(ベアトリーチェの攻撃にはブレイクの効果も含まれていたわ。メディックだと分かれば、BSを付与するよりも!)
 碧の放つグラビティー弾が、正確にDfの肩口を穿つ。衝撃に押され、上半身を無防備にしたDfの腹部に、胡蝶が招来した触手群が襲い掛かる。
「ぐっ、ああああっ!」
 傷口から内部へ忍び込もうとする触手に、Dfは悶絶。さらに続くミツキの、「雪さえも退く凍気」を纏った杭に、凍結して最後の言葉を残す暇も無く、命を打ち抜かれてしまう。
 ――一方、ベアトリーチェの催眠に抵抗していたレクスと言えば、仲間のキュアによって我を取り戻し、虜にしようと色っぽい笑みを浮かべるベアトリーチェにこう告げた。
「俺には既に一等良い女が隣にいるんでね、まして……あんたみたいな女の誘惑なんざお断りさな」
 その瞬間、ベアトリーチェの身体は金縛りにあった。レクスの背後に視線をやれば、レクスは自分の男であると主張するような表情を見せるソフィアの姿。動けないベアトリーチェに、レクスのエスカリバールのフルスイングが直撃した。


 気付けば、残る敵はベアトリーチェただ一人。ケルベロス達も怒りで敵を引きつけていたレクスを筆頭に負傷しているが、まだまだ戦える状態である。
 ゆえに……。
「胡蝶の因縁だとか細けぇ事は今はいい! とにかく守るために攻める! それが俺が学んだ一番の処世術だ! その綺麗な顔を吹き飛ばしてやるぜ!」
 ケルベロス達の優勢は、最早揺るがない。ミツキは全身に絡みつく蜘蛛の糸に動きを阻害されながらも、ベアトリーチェに金狐の強靱な足腰から放たれる蹴りを叩き込む。
「守ってくれる配下がいなくなって、ベアトリーチェも焦ってるはずだよ! なにせ、それしか脳がない女みたいだからねー」
 そして、余裕を持ってここまで至れたのは、できる限り支援に徹してくれた恵とアルメリアの貢献も大きい。負傷の度合いと付与されたBSを鑑みて、恵が桃色の霧を放出する。
「……ふふ、そうかしら? まだ勝負は終わっていないわよ?」
「いつまでそう言っていられるか、楽しみだ!」
 だが、この状況にもベアトリーチェの余裕は崩れはしなかった。三日月のグラビティ・チェインの乗った日本刀の一撃で、【壊アップ】をブレイクされながらも、表情は妖艶な微笑みを浮かべたまま。
「……そういう所は、確かに胡蝶さんに似てなくもないのかもしれないわね」
「顔立ちだけはな。だが、配下を盾としてしか考えていない性根は、嬢ちゃんと違って、醜いにも程があらあ」
 再び放たれた碧の弾丸は、強烈な威力を伴ってベアトリーチェを打ち抜く。レクスの星形のオーラと、ソフィアの念も、それに続く。
「……逃がしも渡しもしない。……蝕影鬼、もっと祟るぞ」
 一日一祟……いや、それでもまだ足りぬと、蝕影鬼の金縛りを受けたベアトリーチェに、イミナの濃密な呪を宿した杭が打ち込まれていく。美しく整っていたはずのベアトリーチェの肌。それは最早見る影もなく、傷のない部位を探す方が難しい程。
「……勝負は最後まで、何が起こるか分からない……わよ?」
 それでも、ベアトリーチェは嗤う。苦痛を表に出してしまえば、それがケルベロス達の勢いをさらに後押ししてしまう事を熟知しているゆえ。彼女は、感情を知り尽くしている。そして、その言葉は決して空元気で言っている訳でもないのだろう。
 アルメリアとベアトリーチェの瞳が交錯する。だが、すあまにBS耐性を施され、今までブレイクもされていないアルメリアには、催眠の効果は薄かった。
「胡蝶! 最後はあんたに託すわ! その手で、決着を! リリィ、準備はいいわね!?」
 これまで、守勢に回った鬱憤を晴らすように、アルメリアの百合白皓で強化された拳がベアトリーチェに死を運ぶ。
「鏡殿!」
 アルメリアに続き、三日月の後押しを受けた鏡は、覚悟を決めてヒールをベアトリーチェの豹紋蝶のタトゥーに狙いをつける。
(自分と戦ってるみたいだ……なんて思ってたのは、私だけだったみたいね)
 誰もが、胡蝶とベアトリーチェは違うと言ってくれた。
「センセイ……いえ、ベアトリーチェ、私は私……鏡・胡蝶よ! 今からあなたの幻影を越えさせてもらうわ!」
 勢いよく、胡蝶のヒールがベアトリーチェのタトゥを踏み抜く。
 ベアトリーチェは最後まで無様を晒すことなく、魔女らしい微笑みのまま、眠りにつくのであった……。

「…………」
 ベアトリーチェと配下の遺体に、三日月が静かに黙祷を捧げている。
「他のところは大丈夫かな……?」
 ふいに、恵が本陣に視線を向けた。連絡手段がない現状、そちらの状況は分からない。ただ、ケルベロス達にできる事は、為すべき事は為した。
 後は、信じるのみである。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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