陰鬱たる怨の牙を

作者:幾夜緋琉

●陰鬱たる怨の牙を
『……っ……はっ……!?』
 目を覚ました所は……真っ暗闇の中。
 一切の光なく、ポタ、ポタ……と遠くから雨雫の滴るような音が、聞こえてくる空間。
 そして屋内だからか……じとっとしていて汗が滲む。
『くそ……飲み過ぎた……っ……な、なんだこれ!?』
 汗を拭おうと、手を上げようとした……が、それは叶わない。
 背中に張り付く寝台の様なものに、両手両脚が、確りと拘束されてしまっていたのだ。
『くそっ、なんだよ、これ!!』
 腕、足を動かして、拘束から逃れようとするが……外れない。
 金属同士がぶつかる無機質な音が、暗闇の空間内に暫し、響き渡ると……それに気づいたのか、一筋の影が彼の元へと近づいてくる。
「ふふ……」
 仮面の下の薄ら笑い……その男の言葉に。
『てめえか! なんだよ、これ! 外せよ!!』
 怒りの言葉を投げつける……しかし、仮面の男は。
「喜ぶのです、我が息子よ。お前は、ドラゴン因子を植え付けられ、ドラグナーの力を得たのです」
『ドラグナーの力、だとぉ!?』
「ええ。ただ、まだドラグナーとしては不完全なる状態……このままでは、何れ死ぬ事は避けられません」
『あぁ!? なんだって!? 死ぬだなんて聞いてねえよ!!』
「ええ……ただ、死を回避し、完全なドラグナーとなる為には、与えられしドラグナーの力を振るい、多くの人間を殺し、グラビティ・チェインを奪い取ればいいのです……人を殺す。貴方に、今殺したい人が居るでしょう?」
 不敵な笑みを浮かべる男に。
『……殺したい、奴……っ、あの、野郎……!!』
 渦巻く怨恨に、思い浮かぶ顔。
 腕が、怒りに更に震えていく……。
「そうです。さあ……その怨恨を果たすのです」
 と、その言葉と共に、両手足を拘束していた拘束具がカチン、と外れる。
『ああ……分かった。殺してやろうじゃねぇか、あのオヤジを!!』
 と立ち上がり、彼はそのまま深夜の繁華街へと駆けていくのであった。

「皆さん、集まって頂けましたね? それでは、早速ではありますが、説明させて頂きます」
 と、セリカ・リュミエールは、集まったケルベロス達に一礼すると、早速。
「ドラグナー『竜技師アウル』。彼によってドラゴン因子を移植され、新たなドラグナーとなってしまった人が、事件を起こそうとしている様です」
「この新たなるドラグナーは、まだ未完成とでも言うべき状態であり、完全なドラグナーとなる為に、必要な大量のグラビティ・チェインを得る為、又、ドラグナー化する前の怨恨から、人々の無差別殺戮を行おうとしています」
「そこで、皆さんには急ぎ現場へと向かい、未完成のドラグナーを撃破してきて頂きたいのです」
 と、そこまで言うとセリカは。
「今回の未完成ドラグナーの方は、突如解雇された上司を恨んでいる様で……深夜、終電間近の駅前の繁華街に姿を現わす模様です」
「ドラグナーになった彼は一体のみで、配下が周りに居るという事はありません。又、ドラゴンに変身する様な能力も持っていない様です」
「しかしながら、怨恨はとても深く、激しい様で、その手には重いゾディアックソードを装備し、振り回して来る、高い攻撃力が特徴です」
「又、狙うべくはその上司の男ですが……当然その経路上に居る一般人をも全て殺そうとしています。なので、彼の姿が現れ次第、周囲からの早急な人払いを行う必要があるでしょう」
 そしてセリカは。
「既にドラグナーとなってしまった彼を救うことは出来ません。しかし、彼の行う事は、理不尽で無差別な復讐です……それを許す事は出来ません。どうか、事件を阻止してきて下さい。宜しくお願いします」
 と、深々と頭を下げた。


参加者
楚・思江(楽都在爾生中・e01131)
戯・久遠(紫唐揚羽師団のヤブ医者・e02253)
武田・克己(雷凰・e02613)
エフイー・ゼノ(希望と絶望を司る機人・e08092)
コール・タール(マホウ使い・e10649)
唯・ソルシェール(フィルギャ・e24292)
マリー・ビクトワール(ドワーフの鎧装騎兵・e36162)
安海・藤子(道化と嗤う・e36211)

■リプレイ

●深く刻まれし恨み
 突如解雇される、という事情があるにせよ、その事情の下に人を殺そうと躍起になる、人も、心も未完成なドラグナー……。
 復讐心に心を湧き上がらせ、暴れ廻るドラグナーは、ドラゴンに変身する能力も持っていないという。
「復讐、なぁ……やる分には好きにやればいいと思うが、これは度が過ぎている。こっちまで被害を喰うのは真っ平御免だぜ」
「ああ、全く面倒な相手だなぁ……」
 コール・タール(マホウ使い・e10649)のぼやきに、肩を竦める戯・久遠(紫唐揚羽師団のヤブ医者・e02253)。
 ……確実に、度が過ぎている彼は、一般人をも傷付けようとしている。
 そんな彼を止める為に、集められたケルベロス達。
 とは言えセリカからの話を聞いている限り……彼に対する憐憫の思いも去就する訳で。
「ったく……ただ生きる為にってんならまだしも、こういう趣向ってなぁ、最悪にもほどがあらァな……この男だって被害者だって言うのによ」
 と楚・思江(楽都在爾生中・e01131)が瞑目して言うと、それにマリー・ビクトワール(ドワーフの鎧装騎兵・e36162)と唯・ソルシェール(フィルギャ・e24292)らも。
「うむ。あやつも可哀想じゃ。仕事をやめさせられ、勝手に改造させられたという所をみればのぅ。じゃが……他人を巻き込むというのはいただけんのぅ……」
「そうでございますね……一般人の方達に被害を及ぼす訳にもいきません。確実に、この場で仕留めなくては……」
 と、それにエフイー・ゼノ(希望と絶望を司る機人・e08092)が。が。
「ああ。色々と嫌な思いをしたのかもしれんが、それでも他人を恨み、人を殺める行為は許されざる事だ。ここで仕留めさせて貰うぞ」
 そして安海・藤子(道化と嗤う・e36211)が。
「まぁ何でもいいわ。そう言えば、今回は知り合いの久遠と克己が一緒なのよね? しっかりと支えて上げるから、思いっきり暴れてきなさい!」
 と拳を突き出すと、ふっ、と笑いながら武田・克己(雷凰・e02613)と久遠も。
「ああ、今回は頼むぜ」
「おうさ、頼りにしてるぜ」
 気合いを入れ合う二人、そしてコールが。
「そうだな。やる事は決まってる……と、ああ、連絡の方は大丈夫か?」
「ええ、問題ありません。状況説明及び、避難場所、経路の方についても、話は終わっております」
 ソルシェールが頷き、微笑むと、それに思江が。
「りょーかい。んじゃ……行くとしよーぜ」
 と気合いを入れると共に、そして……ヘリオンから、その場へと降りてゆくのであった。

●夢も希望も無く
 そして、ケルベロス達は夜の終電間際の駅前、繁華街に到着する。
 周囲は酒に酔った男達が、足元おぼつかないまま、陽気にぶらぶらと周りを歩き廻る。
 ……そんな深夜、程なく……未完成ドラグナーが。
『邪魔だ邪魔だ邪魔だぁぁ、さっさとドケぇええ!!』
 と怒り、憤りながら姿を現わす。
 突然の登場に、周りの一般人達は悲鳴を上げる……が、酒に酔い、足元もおぼつかない状況下であっては、中々上手く逃げられない。
 そんな一般人と、未完成ドラグナーの間に、パッと立ち塞がる思江、克己。
 逢うなり早々に、ライトニングボルトをドラグナーに向けて放つと……。
『うぉぉ……てめえ、なんだゴラァ!!』
 怒り叫ぶドラグナーに、思江と克己が。
「おら、目的果たすにゃぁまず俺らを倒さねえと、一歩も進めやしねえぜぇ!!」
「そうだぜ。そのゾディアックソードで何をしようとしている? 人を殺したいのか?」
『ったりめえだ! 俺をの首を切ったあのバカヤロウ、この手で殺さねえと気が済まねえんだよ!!』
 ふつふつと湧き上がる怒り……その怒りにマリー、コールらも話を合わせ。
「ふむ……いや、仕事をやめさせられたのは、おぬしにも原因があったんじゃないかのぅ?」
「そうだぜ? ……話を聞く限り、俺には逆恨みをしている様にしか思えねえ。その怒りっぽい性格で、取引先の人を殴ったとか、物を壊したとか……な?」
『ぐ……っ……う、うるせえ!!』
 どうやら一部、図星だった様である。と、その言葉と共に、コールが殺界形成を発動し、周囲からの人払いを発動……と、そこに久遠が。
「敵は抑える。できるだけ速やかに逃げろ」
 と指示を与えると共に、エフイー、ソルシェール、藤子が。
「みんな、こっちだ!! こっちに逃げろー!」
「こちらです、慌てずにお進み下さい!!」
「ふふ……そうよ。ほら、逃げないと食べちゃうわよ?」
 ……最後の藤子は、何故か露出の高い魔王衣装……アルティメットモードを加え、人々の目を引き、指示を与えて従わせる。
 当然その中には、未完成ドラグナーのターゲットとする、彼を切った男も。
「……あ、おめえだおめえ!! くっそ、ドケえええ!!」
 苛立つドラグナー……しかし、当然ながらケルベロス達は通さない。
「恨む者を倒したければ、わらわ達を倒してからにするんじゃな!」
 と戦言葉で防御を固めるマリーに、コールも、久遠も。
「そうだ。敵は殺す、大前提。例え元が人間であろうと、それを誘導されたとは言え、自分の意思でやめたお前に同情は無い」
「そうだな……さて、始めるか」
 と眼鏡を外し、意識を切り替える久遠。
 そしてそのまま久遠が、旋刃脚の一閃をドラグナーに放ち、パラライズ効果を付与。
 更にスナイパーのコールが。
「目標捕捉……まずは動きを削ぐ」
 と、『伝承武具・戦滅する賢者』で足止めを付与する一方、マリーは自分よりも大きな斧を構え、大きく振りかぶって叩きつける。
 頭上から振り落とされたその一撃に、かなりの大ダメージを喰らうドラグナー……一瞬、意識朦朧とするが、ぶんぶんっと首を振って。
『っ……くそ、てめぇら……!! ふざけんじゃねぇ!! このチビが!!』
 踏みとどまり、口走る言葉……それにマリーは。
「チビとは余計じゃ!!」
 と怒り、反発。
 ……そして、更に克己が絶空斬で斬りかかる一方、思江も。
「ほんと、こんなへなちょこで復讐なんて出来ると思ってんのか? 俺は信じてる。どんな命だって、尊厳ってのがあるんだ。お前さんが奪おうとしている命にも、お前さん自身にもな」
 と、敢て語りかけるように、そして。
「だから俺ぁ止めに来たのよ……その両方を護る為にな!」
 と強く言いながら、前衛陣にライトニングウォールでBS耐性を重ね掛けしつつ、対峙。
 ……そして、次の刻。
 避難誘導させていた仲間達が、程なく合流。
「相手が何であれ、敵である以上、容赦はしない。いい術の実験台になってもらうわ」
 と言いながら、前衛陣にブレイブマインで壊アップを付与。
 更にエフイーが轟竜砲で足止めを付与すると、更にソルシェールが。
「Spemque metumque inter dubiis」
 と、『希望と恐れの闇をさまようべし』にて、ジグザグ効果からのバッドステータスを倍加。
 一気にバッドステータスが増えて、動きが鈍るドラグナー……でも、怒りに身を任して、暴れ続けるドラグナー。
 ……そんなドラグナーの暴走に、克己が更に月光斬で一閃すると、久遠も。
「そう簡単には通さん」
 と達人の一撃を喰らわせ、マリーも大斧で更に叩きつけていく。
 ……次々と叩きつけられる攻撃に、みるみる内にドラグナーの体力が削られて行く。
 そして、経過する事、十数分。
 ドラグナーの猛攻をかいくぐりながら、反撃の強烈な一撃が決まり……そして。
『……くぅっ!?』
 と、その足に決まった一撃が、ドラグナーを膝から崩れ墜とす。
 どうにかして再度立ち上がろうとするのだが……最早、活動の限界。
「よし、動きは止める。後は頼むぞ」
 と久遠が言うと共に、渾身の降魔真拳の一撃を叩き込む……そしてそれに連携し、克己がジャンプして近接。
「風雅流千年。神名雷鳳。この名を継いだ者に、敗北は許されていないんだよ!」
 と、渾身の『神斬』の一閃を叩きつけ……その一撃に、ドラグナーは、完全に地面へと叩き伏せられるのであった。

●その牙の闇に
 そして、ケルベロス達は、どうにか……未完成ドラグナーを倒す。
 ……しかしながら、未完成ドラグナーを倒した事に、強い空虚感を覚える。
「……こんな事がずっと続くのは面倒だ……どこに隠れてやがる、アウル……」
 と拳を握りしめ、苦々しく呟くはコール……それに思江も。
「そうだな……いつか、必ず止めてやるからな……」
 と、遠くの空を見上げながら呟く。
 ……そんな仲間達の言葉を聞きながら、久遠が。
「それにしても……今回はちょいとしんどかったぜ……さて、簡単に診てみるか。大丈夫かお前ら?」
 と眼鏡を掛けつつも、仲間達にヒールグラビティを掛け、体力を回復。
 そして仲間達の回復も一通り終わった所で、続けてソルシェールが。
「ふぅ……さてと、壊してしまったところなどをヒールしてから帰るとしましょうか。幸い深夜ですわ。今の内に治してしまいましょうね」
 と言うと、エフイーも。
「そうだね。良ーし、全部回復するぞ!!」
 と拳をぎゅっと握りしめて、さっさと周りの壊れた構造物を回復していく。
 ……そんな回復の最中、克己が。
「しかしなぁ……ドラグナーを作られては潰す、そのいたちごっこが続いているよな」
 と言うと、コールとマリーは頷きながら。
「そうだな……元凶であるアウルを倒さない限りは、いたちごっこは続くだろうな」
「うむ。そうじゃのう……あやつは今の所、表には現れていない様じゃしのう……何らかの形で引っ張り出さねばの」
 と言うと、それに克己は頷いて。
「そうだな。このドラグナー……誰もが持っているであろう小さな恨みを上手く利用しているこいつは、正直……苛立ちを覚えるぜ……」
 と、それに藤子と久遠も。
「そうね。ドラグナーとは何か……正直その改造する過程にも興味はあるのだけれど」
「改造する過程って……本当藤子は変わらないな」
「え? そうかしら?」
 きょとんとしている藤子……いや、何だかその後ろに居たクロスが、何だか悲しげに見つめてきているが……藤子は気にしていない。
 ともあれ、一通り周りの構造物の回復を行い……そして避難している人達にも声を掛け、町は日常を取り戻す。
 ……それを見ながら、ソルシェールが。
「それにしても前衛一辺倒ではいずれ無理も出てくるでしょう。少しでも他の立ち回りを覚えませんとね……」
 と呟く。
 ……勿論、自分のに合った立ち位置というのはあるだろうし、それを模索するのも大事な事。
 ともあれ、未完成ドラグナーの弔いを抱きながら……ケルベロス達はその場を跡にするのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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