もげもげふるーつ

作者:天枷由良

●もぎもぎしてからもぐもぐ
 早朝の大阪城近く。
 大学生くらいの男が一人、ジョギングを行っていた。
 すぐ側に生える攻性植物など彼は気にしていない。
 それは大阪市民にとって、もはや見慣れたものだったから。
 けれども、そんな大阪市民にだって驚くことはある。
「――うふふ。ねぇ、そこの坊や」
 通りがかった雑木林の奥から、聞こえてくる声。
 何者かと道を逸れてみれば、そこにはあられもない姿の女性が一人。
 彼女の座る木には、様々な果物が幾つも実を結んでいた。
「う……美味そうだ……」
 男はふらふらと近づき、その一つをもぎ取ろうと手を伸ばす。
 そして果物でなく、何故か女性自身に実る二つの大きな膨らみを掴んでしまう。
「あぁっ! そっちをもぎもぎするつもりは!」
 慌てる男。けれども女性――もとい攻性植物バナナイーターは、自らの胸元に吸い付いた掌をそっと押さえて微笑むばかり。
「もぎもぎ……していてもいいのですか……!」
 頷くバナナイーター。男は瞳を輝かせ、膨らみを揉んで捏ねてしゃぶりつくす。
「うふふ。可愛いわねぇ。可愛い坊やにはもっとご褒美をあげないとねぇ?」
 その妖しげな声が意味するところに、夢心地の男が気付くことはなく。
 やがてぬぎぬぎむきむきもぐもぐされて、攻性植物の肥やしとなってしまうのでした。

●ヘリポートにて
「攻性植物、バナナイーターの活動を予知したわ」
 ミィル・ケントニス(採録羊のヘリオライダー・en0134)は事務的に切り出した。
「バナナイーターは、大阪城近くの雑木林などに現れる人型の攻性植物よ。十五歳以上の男性が近寄ることで出現、果実の力で魅了しようと誘いをかけてくるの」
 それにまんまと引っかかれば、あとは色々搾り取られて死ぬだけ。
「もしかすると、この事件でグラビティ・チェインを集めて新たな作戦に繋げるつもりなのかもしれないわ。厄介なことにならないよう、バナナイーターを刈ってきてちょうだい」
 現場には、大学生くらいの男が通り掛かるより先に到着できる。
「けれど、バナナイーターは十五歳以上の男性がいなければ出現しないから、彼が誘惑されるのを待つか、もしくはケルベロスの男性から囮を出す必要があるわ」
 どちらを選んでも注意が必要なのは、敵出現から三分は攻撃出来ないことだ。
「バナナイーターは大阪城から地下茎を通して送られているらしく、出現から三分以内に攻撃すると地下茎を使って撤退してしまうのよ」
 幸い、バナナイーターも三分の間は攻撃せず、誘惑するだけ。
 それは一般人の男が相手でも、すぐさま死に至りはしないくらいのものだ。
「ケルベロスの皆なら誘惑なんて無視できるけれど、何も反応がないのでは敵も怪しいと思うでしょう。もしも皆から囮を出すなら、演技でいいから反応してみせるのよ。演技、演技でいいからね?」
 また、バナナイーターは囮となった人数に応じて最大四体まで出現する。
「一体目以外は戦闘力が低下しているから、ある程度数を出して殲滅するのもいいかもしれないわね」
 攻撃方法は果物型爆弾、枝葉を触手のように色々なところへ伸ばす、豊満な肉体で優しく抱きしめ、時にあちこちを刺激したりしながら圧し殺すという三種。どれも正確に狙い定めてくるため、避けることは難しいだろう。
「囮になる人は、これがバナナイーター退治だってことを忘れないようにね?」
 最後に念押しして、ミィルは説明を終えた。


参加者
岬守・響(シトゥンペカムイ・e00012)
テンペスタ・シェイクスピア(究極レプリカントキック・e00991)
セルリアン・エクレール(スターリヴォア・e01686)
難駄芭・ナナコ(爛熟バナナマイスター・e02032)
彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)
ガラム・マサラ(弱虫くノ一・e08803)
唯織・雅(告死天使・e25132)
宮道・雅威(一念の継承者・e27510)

■リプレイ

●到着
「私たち、なんでこんな依頼受けちゃったんでしょうね!」
 早朝。大阪城近くに降り立ったガラム・マサラ(弱虫くノ一・e08803)が、すっとぼけた態度で言う。
 彼女と肩を並べる宮道・雅威(一念の継承者・e27510)は呆然として、程なく何かを言い返そうとしたが。
「おーっとそうでしたー私が誘ったんでしたー! てへ♪」
 こつんと頭を叩いておとぼけを続けるガラムに機先を制され、口を噤んだままだった。
 そんな夫婦漫才じみた光景を余所に、テンペスタ・シェイクスピア(究極レプリカントキック・e00991)は雑木林の一角へと続く道を、キープアウトテープで塞ぐ。
「こんなところで魅了してくる女性とか怪しさ満点なのにな……」
「噂には聞いていたけれど……ね」
 立入禁止の処置を眺めていたセルリアン・エクレール(スターリヴォア・e01686)が呆れ顔を見せれば、無関係の人が迷い込まないかと一応の警戒を施している岬守・響(シトゥンペカムイ・e00012)も、当惑気味に呟いた。
 いくらデウスエクスの仕業とはいえ、たわわな果実に釣られてしまう男の本能はなんとも救いがたい。
 それでも予知されてしまったからには、ケルベロスとして事件解決に尽力しなければならないだろう。
 そう、最終的にやることは、いつもと変わらないのだ。それは響曰く、狩りの時間。
「では……行ってくる」
 雅威は意を決して、雑木林の奥へと歩み出す。
 本来犠牲者となるはずだった男に代わって、彼は攻性植物に身を捧げなければならない。
「きゃー、雅威さんカッコイイー! しっかり見てますからね―!」
 熟したバナナくらい黄色い声援を上げるガラム。
「すぐ近くに……控えていますので……その……」
 たどたどしい口振りで唯織・雅(告死天使・e25132)も励まそうとしていたが、これから起こることを考えているうちに、生贄の背中は遠ざかっていた。

●誘出
 梅雨頃とはいえ、まだ朝の早いうち。木々の合間を抜ける空気は冷やかで心地よい。
 これがただの散歩であれば何を悩むこともなかったのだが。
 雅威は整った顔に苦悩を滲ませ、ゆっくりと歩いていく。
 そうして進むうちに、ほんのりと甘い香りが鼻先をくすぐった。
 いつまでも嗅いでいたくなるような匂いだ。
 もちろん雅威はケルベロスであるから、それに自制が効かなくなるまで誘惑されることはない。
 あくまで敵のもとに続く道標として、匂いを辿っていく。
「――うふふ。ねぇ、そこの坊や」
 やがて聞こえたのは、とろんと微睡むような声。
 何処からともなく現れた攻性植物バナナイーターが、その豊満な肉体を見せびらかすように果樹へもたれかかって、夢の世界に誘おうと手招きをしていた。
「い、いや……その……」
 抗う素振りを見せつつも、雅威は一歩ずつ確実に近づいていく。
 脳裏に過るは恋人の顔。自ら引き受けたとはいえ、本当にこのまま進んでしまってよいものだろうか。
 せめてゆっくりと足を運び、時間を稼ぐ――と、そんな目論見を初い反応と勘違いしたか、バナナイーターは細い枝をいくつか伸ばして青年を絡め取り、強引に引き寄せる。
「ほら、遠慮しないで。いっぱいもぎもぎしていいのよ?」
「……で、では失礼して……」
 ここで拒否反応を示しては、諸々台無しの失敗になってしまう。
 雅威は覚悟を決め、目の前の膨らみに手を這わせた。

 その様子は、少し離れたところに潜む仲間たちにもしっかりと伺えた。
(「ココからならバッチリ見えるぜぇ…!」)
(「いやー、盛り上がってまいりました!」)
 難駄芭・ナナコ(爛熟バナナマイスター・e02032)が不健康そうな顔を引きつらせるように笑い、隣でテンペスタがビデオカメラを回している。
(「熱心に、これは熱心にもぎもぎしていますねー」)
(「……あのさ、あんまり見てあげないほうがいいんじゃないかな?」)
 武士の情けとでもいうか、必要以上の慰み者にするのはどうかと、やんわり止める響。
 けれど二人は――いや、もうガラムでさえ、ボクスドラゴンのマンダーと一緒に余すところなく痴態を睨みつけてしまっている。
(「まるで人の心を理解しているような動きですね」)
 電話越しに実りのないやり取りを終えた彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)も、先を眺めつつ平然とした様子で言った。
(「食虫植物ならぬ食人植物って感じ? ……ま、こういうのに引っかかる男性ってどこでも養分になりそうだよね」)
 酷く退屈そうな声音で、セルリアンが呟く。
(「……そろそろよいな?」)
(「まだだよ。あと二分」)
 両手にトンファーのようなパイルバンカーを携え、今か今かと突入の機を待ち望むテンペスタを、また響が制した。
 その手に握られた懐中時計のせいもあり、響は期せずして歯止め役に収まっていた。
(「……もぎもぎしてぇなぁ、アタイも」)
 暫しの沈黙を挟んだ後、ナナコがぽつりと溢す。
 敵とはいえ、たわわな果実をぶら下げたバナナイーターは紛れもなく女人の姿。
 必然、見比べてしまう。何と? 言うまでもなく、ナナコ自身とだ。
 齢二十四。そうとは思えないほど貧相かつ不健康そうな身体は、きっとこれから先、育つことなどない。
 熟したバナナを幾ら貪っても、ナナコにはたわわな果実など実らないのだ。多分。
(「……くっ」)
 羨ましい。なんて口が裂けても言わない。
(「だって別に、別に悔しいとか、そういうわけでは……わけでは――」)
(「10、9、8、7」)
 お天道様に言い訳するナナコなど放っておいて、響がカウントダウンを始めた。
(「――2、1……0」)
「おらぁぁぁぁ伐採の時間だぜぇぇぇぇぇ!」
 何かに取り憑かれたようなナナコが、いの一番に茂みから飛び出していった。
 仲間たちも順々に続く。その背を眺めながら、雅は抱えていたウイングキャットのセクメトを下ろすと、代わりにバスターライフルを構えて、引き金に指をかける。
「射線、確認。構造的弱点……破壊します」
 冷ややかに独り言ちた後、発射されたグラビティ光線は雑木林を駆けていく。

●戦闘
 まだか。まだ三分経たないのか。
 やきもきしながら演技を続けていた雅威を、強い揺れが襲った。
 望まぬ逢瀬が終わって身体が自由になる。そして起き上がろうとした矢先、女の叫び声が聞こえてきた。
「オラオラァ! もぎもぎしてやんよぉ!」
 目の色を変えたナナコが、両手をわきわきと動かしながら迫ってくるのが見える。
 だが。
「バナナイーターは狩り尽くしてやる! そしてアタイはバナナを喰らう者だ! さしずめバナナイーターイーターってところ――だが!! お前は緑色でまだまだ未熟!  お前はバナナではない! バナナになれ! バナナになるんだよォ!!」
 ……バナナのキメすぎでこうなってしまったのだろうか。
 とにかくナナコは、バナナ愛より溢れるものを口から顔から身体のあちらこちらから放出し、強烈な一撃に変えてバナナイーターへと叩きつけた。
 さらに。
「突入突入ー!! ダブルスパイラルバンカー!!」
 地を這うように飛んできたテンペスタが、つい先日実用化されたばかりのパイルバンカー(トンファー風)から螺旋力を噴き出し、錐揉み回転しながらものっそいスピードでバナナイーターに突き刺さった。
 本来なら「邪魔しないでよ!」とか叫んだり、或いは「きゃあ!」とか女性らしい悲鳴を漏らすはずだったバナナイーターの口から「ぐぼぉっ!」って感じの声が出る。
 けれども暴漢……もといケルベロスたちは、まだまだ数多く控えている。
「切り落としちゃいますよー! ナニとは言いませんが!!」
 朗らかに言いながら、ガラムがチェーンソー剣をぎゅんぎゅん回してやってくる。
 付き従うマンダーが心なしかびくびく怯えているようにも見えて、雅威は一瞬ばかり辞世の句を詠んだ。
 けれども、それは杞憂だった。爆音鳴らして駆動する刃が狙う先はもちろん、バナナ。
 一際激しく唸ったチェーンソー剣を高々と振り上げ、ガラムはバナナイーターをズシャアア!! と、幹ごと両断せんとばかりに斬りつける。
「っ……次から次へと女ばかり。酷いわ坊や、騙したのね!」
 恨みがましく雅威を睨むバナナイーター。
「ふっ! 残念だが、私には既に素晴らしい恋人がいるのだよ!」
 対して雅威は、猛攻を仕掛けたガラムを誇らしげに指して言い返す。
 そして彼自身も刀を手に「煩悩退散!」と叫びながら、先程まで味わっていた柔らかな肌を斬り裂く。
 噴き出す変な汁。それを掻い潜り、響も雷の霊力を帯びた武器で一突き。
 やや遅れてのんびりとやってきたセルリアンは、勇ましい仲間たちと敵の応酬を見やりつつ飛び上がって、木々の合間から覗く空に虹を架けながら落ちてくる。
 その蹴りが炸裂すると、バナナイーターの怒りは雅威からセルリアンに向いた。
 まだギアの上がりきっていない青年は身の危険を感じるも、時既に遅し。細い枝がするすると伸びて、セルリアンを絡め取ろうとする。
 そこへ現れたのが、最初に一射ぶちかましてやった雅。
「残念ですが……そう、簡単に。私の、後に……攻撃は、通しません」
 ぎりぎりと軋む音が聞こえるほどに締め付けられながら、顔色一つ変えない雅は淡々と告げる。
 すぐ側には自らに術をかけて癒やしに特化した悠乃が陣取り、強力な光の盾を具現化して雅を防護しつつ癒やしている。
 女ばかりが邪魔をする光景にまた逆撫でられたか、バナナイーターは醜い表情で枝を緩めると、様々な果実の形をした爆弾を放り投げた。
「セクメト。そちら側……任せます」
 それでも冷静に、サーヴァントへの指示を出しながら、雅は果実を撃ち落としていく。
「マンダー、一応雅威さんをフォローしてあげてください、一応」
 盾役として果実を受け止めるつもりでいた彼を守るよう言って、ガラムはまた攻撃に転じた。

 そうして応酬を続けるうち、手数に勝るケルベロスがバナナイーターを追い込んでいく。
 バナナバナナと連呼するナナコがドリル回転させた杭で敵を貫き、雅がライフルから撃ち出した光弾が直撃。
『―此れより我が身は雷。地を侵す神々よ。畏れよ。』
 竜語魔法を唱えた響は、輝く衣を纏うような形に制御した雷神の力で敵を穿つ。
『蒼穹と雷光の眷属よ、我が盟約に従いて我が身に宿れ。我と汝の力にて、眼前の敵を打ち砕くことをここに誓う』
 セルリアンは枝葉で幾度か狙われながらも、盾役の仲間に庇われて綺麗な身体のまま。たっぷりと余裕をもって詠唱し、敵の至近距離から自身の中に封じられた力を解き放つ。
 それは竜の雄叫びの如く、凄まじい衝撃をバナナイーターにもたらした。
「なかなか良い画を提供してくれたことだけは感謝する。では、滅びろ」
 そろそろ死期も近いだろうと、満面の笑みを浮かべて言ったテンペスタがトンファーを振り回す。
 それはもう、無駄に洗練された無駄の無い無駄な動き。周囲を置いてけぼりにして一人ヒートアップしていく彼女は、いよいよ謎の翠光まで生み出し始めたところで――トンファーなど全く使わずに前蹴りを打った。
 ドゴォォ! と、エグい音が響く。幹ごとぶっ倒れたバナナイーターは辛うじて顔を上げる力くらいは残していたが、見上げた先には世界中のカレー力などという、これまた不可思議なパワーを右脚に溜めて、激しく燃やすガラムが立っているだけ。
 なんだか香ばしい匂いを漂わせつつ、ガラムは全力で蹴りを打ち込む。
 ボロ雑巾のように舞ったバナナイーターは、程なく炎の塊となっていった。
「次は、アタイみたいに黄色く熟してくるんだな!」
 焼きバナナの出来上がりを眺めつつ、ナナコが言い放つ。

●完了
「さて、雅威さん」
 バナナイーターの名残から向き直り、ガラムはニコリと笑う。
「色々とOHANASHIする必要がありますよね?」
「演技とは言えすみませんでした!」
 瞳から光を失っている彼女が二の句を継ぐよりも早く、雅威は身体を半分に折った。
「……いえ、気にしていませんよー。全然。ぜーんぜん」
 後頭部をまじまじと見つめつつ、それでもガラムは掠れた声を漏らして拗ねる。
 そこへ襲い来る新たな困難。
「これ、編集して師団にばら撒いてよい? かなり愉悦なことになりそうなんだけど」
「勘弁してください!!」
 整地しながらほくそ笑んでいたテンペスタに向かって、雅威はまた頭を下げる。
「……いや、うん。もう許してやろうよ。頑張ったよ雅威は。自分じゃ、あんなに上手く囮は務められなかったな」
 同じ男として最後の最後に同情を禁じえなかったか、助け舟を出すセルリアン。
 そんな彼らのやり取りを尻目に。
「いっそ……焼いて、しまえたら。気楽、なのでしょうが……」
 雅は大人しそうな雰囲気で物騒なことを言っていた。
「でも、相手は、攻性植物。ですからね……安直な、対処は。逆効果でしょうし……」
「そうですね」
 悠乃が頷く。思慮深い彼女は、大阪城を眺めながらバナナイーターについてまた色々と思索しているようだった。
 しかし誰も彼もが考えにふけっているわけでもなく。
「やはり青いものより、甘みがある方がうめぇな……!」
 ナナコはひたすら、バナナを貪っていた。
 しかし、そのバナナは勝利のバナナ。ウィナーズバナナである。
 いつものバナナと何が違うかと聞かれたら――それはもう、バナナマイスターたるナナコにしか分からないことなので。はい。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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