螺旋忍法帖防衛戦~北の大地に血は流れ

作者:さわま


「先日の螺旋忍軍の拠点への襲撃作戦は無事完了したようだな。貴殿らケルベロスの活躍で、多くの情報と、螺旋忍軍たちにとって重要なアイテムである『螺旋忍法帖』を確保する事ができた」
 集まったケルベロスたちを前に、山田・ゴロウ(ドワーフのヘリオライダー・en0072)が手元の資料をペラリとめくり、説明を開始する。
「螺旋忍法帖とは『螺旋帝の血族の御下命』が書かれた巻物だ。螺旋忍法帖を拝領し、その指令を達成した螺旋忍軍の里は、惑星スパイラスへ招聘され一族郎党全てに『勅忍』の栄誉が与えられる。これは彼らにとって最高のステイタスであり、螺旋忍軍の最終目標であるようだ」
 これまで謎に包まれていた螺旋忍軍の秘密の一端を担うであろう情報にケルベロスの中に騒めきが生じた。
「今回、敵を撃破した際に入手した2巻の螺旋忍法帖だが、所持者の名前が書き換わり、シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)殿と、嶋田・麻代(レッサーデーモン・e28437)殿の名前が記されてしまった。そして、数多くの螺旋忍軍がこの2巻の螺旋忍法帖を狙い動き出す事が予測される」
 螺旋忍法帖を拝領していない忍軍であっても、これを奪い取る事で勅忍になれる可能性がある。それを知った螺旋忍軍がどういう行動に出るかは想像に難くない。
「どうやら螺旋忍軍には螺旋忍法帖の場所を察知する力があるらしく、螺旋忍法帖を守り続ける事は困難を要する」
 例えば、1日もしくは1週間と守り通す期間が決まっているならば、ケルベロスたちはそれをやり遂げてみせるだろう。しかし、いつ襲ってくるか分からない敵から永遠に守り続けるとなれば話は別だ。
「だから発想を転換させる事になった。螺旋忍法帖を囮に螺旋忍軍をおびき寄せ、徹底的な打撃を与える。手酷い被害を被れば、ヤツらもケルベロスから螺旋忍法帖を奪い取るよりも他の組織から奪い取る方が良いという結論に至るはずだ」
 以前、螺旋忍軍が実行し大失敗に終わったケルベロス暗殺作戦の時と同じだと、ゴロウは付け加える。いかにも効果的な作戦に見えても、酷い結果になれば次にやろうとする者はいなくなる。螺旋忍軍に2度とそんな気を起こさせないくらいのダメージを与えてやる事が今回の問題解決の最善策となるだろう。
「石川県の金沢城と北海道の五稜郭が螺旋忍軍の迎撃拠点となる。貴殿らにはその拠点へとやってきた螺旋忍軍の撃破をお願いしたい。よろしく頼む!」

「貴殿らには五稜郭に向かい、螺旋忍軍『麗しのマリアベル』の撃破をお願いしたい」
 作戦の詳細についてゴロウが説明を続ける。
「マリアベルは金髪碧眼の妙齢の女性の外見をした螺旋忍軍だ。凄腕の暗殺者であるだけでなく、巧みな話術を用いた権謀術にも長けている。今回のような搦め手を用いない作戦への参加は珍しいが、その銃とナイフの腕前は脅威といえる」
 戦いとなれば銃とナイフによる死角をついた必殺の攻撃を繰り出してくる。虚実織り交ぜた、マリアベルの術中に嵌れば苦戦は免れないだろう。
「さらにマリアベルは3人の配下を従えている。実力は並の螺旋忍軍といった所だ」
 配下に特殊な能力はないが決して油断して良い相手ではない。
「今回、貴殿らケルベロスが有力螺旋忍軍に敗北すれば、有力螺旋忍軍の本陣への侵入を許す事になる。1チームだけならいざ知らず、複数のチームが敗北するような事になれば螺旋忍法帖を守るのは難しいだろう」
 個々のチームの活躍が全体の勝利へと繋がる事になる。責任は重大だ。
「また、マリアベルは戦況が不利と悟れば、配下だけでも本陣へ向かうよう指示を出す。配下の本陣への突破も出来得る限り防いでくれ」
 その為には強敵に付け入る隙を与えないよう戦いに最善を尽くさなければならない。今回は、敵を圧倒してはじめて完璧な勝利となるだろう。

「貴殿らならばきっとやってくれると信じている。……どうかお願いしますだよ」
 ゴロウは最後にぺこりと頭を下げた。


参加者
ジョーイ・ガーシュイン(地球人の鎧装騎兵・e00706)
レカ・ビアバルナ(ソムニウム・e00931)
一条・雄太(一条ノックダウン・e02180)
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)
紗神・炯介(白き獣・e09948)
ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)
エナ・トクソティス(レディフォート・e31118)

■リプレイ


 函館五稜郭。気配を消し音も無くその中心に向かう4つの人影があった。
「止まりなさい」
 先行する忍び装束姿の男たちに後方のドレス姿の女が声をかける。男たちが慌てて足を止める。次の瞬間、男たちの目の前を無数の銃弾が通り抜けていった。
「お前たち猟犬の鼻はやはり欺けないようね」
 女の視線の先にはエナ・トクソティス(レディフォート・e31118)の姿と、そのかたわらで銃口から硝煙をあげる巨大な重機関砲があった。
「Fire―――」
 女の視線を一瞥するエナ。これが返答だとばかりに、重機関砲がけたたましい音をあげ、冷たい弾丸を撃ち出す。
 素早く散開する男たち。すると周囲を取り囲むように姿を現したケルベロスたちが一気に距離を詰め、瞬く間に戦いの火蓋が切って落とされた。
 ジョーイ・ガーシュイン(地球人の鎧装騎兵・e00706)が一足跳びに男たちの内の1人に接近する。同時に上質のオーダースーツの腰元に差した日本刀『魅剣働衡』を鞘から一気に引き抜く。そして大仰に振りかぶった。
「こっから先は行かせねェぜ? ……でぇりゃァァァ!!!!」
 鬼神の如き剣閃が男へと振り下ろされる。柄を握る手に肉を切り裂く確かな手応えが伝わるが、それでも目の前の男は距離を取るようにすかさず飛び退った。
「雑魚でも一端のデウスエクスって事か……ったく、クッソ面倒くせェ」
 刃にベッタリとついた血を振り払い、悪態をつくジョーイ。そこにレカ・ビアバルナ(ソムニウム・e00931)の声が飛んだ。
「後ろから敵がきています!」
 振り向けば、ジョーイの目と鼻の先に螺旋の拳が迫っていた。咄嗟に身を捻ると、そこに駆けつけたウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)が大柄な身体をねじ込み攻撃を受け止めた。
「罠に自ら飛び込んでくるとは、まさに飛んで火にいるなんとやらだ……燃えろ」
 痛みに顔をしかめながらも手にした愛用のベースギターの弦へと指を走らせる。と、それに呼応するように身体に担架された重火器からナパームミサイルが放たれ、至近距離で男へと炸裂した。
 男から捲き上がるオレンジ色の炎にウルトレスの瞳が狂おしく染まる。指は更に激しく弦を掻き鳴らす。戦場に雄叫びのようなデスメタルサウンドと無数のミサイルの爆発音が轟いた。
「今回はきっちり仕事をさせてもらうぜ!」
 飛び交う爆炎の中を一条・雄太(一条ノックダウン・e02180)が駆け抜ける。硬く握り締めた拳にグラビティを集中させると、浮き足立つ男たちに衝撃波を叩き込んでいった。
 周囲で巻き起こる戦いに、女もまた右腿のホルスターからナイフと白いリボルバー銃を引き抜く。
「勅忍狙ってたなんてビックリだよ。月華衆より部下いないのに精が出るねぇ」
 背後からの声。女が振り返る。
「ねぇ、ママ?」
「私に定命の『人間』の子どもなんているわけないじゃない? 可愛らしいボウヤ」
 目の前のヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)に、螺旋忍軍『麗しのマリアベル』が奇妙に口元を歪め答えた。


 デウスエクスが人間の子どもを育てる。紗神・炯介(白き獣・e09948)の知る限りそんな記録は無いし、両者の関係性からすればそれは当然の事と言えるだろう。
 だが、それが何だと言うのだ。炯介はヴィルフレッドの言葉を素直に受け入れた。
「ママ……前見た時より化粧濃くなってるけど皺増えたの?」
「ヴィルのママ? また随分と綺麗な人だ」
 それが真実かどうかなんて関係無い。ヴィルが言うんだから僕は――。
「ハァイ、レディ。感動の再会の所悪いけど、僕と遊んでよ」
 マリアベルの前に立ちはだかる炯介の武器から黒いオーラが立ち昇る。
「炯介、言っとくけどママに泣かされた男は数知れずだよ」
 隣に立つヴィルフレッドの軽口に、炯介の顔には自然と笑みが浮かんだ。
「それは楽しみだ」
 力になろう、僕の友人。君と共に戦おう――。


「逃げても良いぞ? 雑魚共。逃げられるならな」
 フューリー・レッドライト(赤光・e33477)の言葉に、マリアベル配下の男がいきり立つ。その様子にフッと苦笑したフューリーの眼が鋭さを増した。
 次の瞬間フューリーが大きく踏み込む。すると男の頭上に漆黒の鉄塊が現れた。それはフューリーの愛剣、赤い紋様が刻まれた巨大な黒剣――『赤光』の刀身であった。
「お前を……破壊する!」
 黒剣の紋様がドクンと脈打つように赤い光を放つと、その刀身をゆらりと炎が包み込む。地面ごとえぐるかの如く振り下ろされた一撃に、刃を受け止めた配下が大きく吹き飛ぶ。
 地面を転がった男がチッと舌打ちし顔を上げると、雄太の声が聞こえた。
「おい、事前の作戦相談を無視するな!」
「何を言っているんだ? そちらこそ話と違うぞ」
 言い争う雄太とフューリーの姿。連携の取れていない烏合の衆のようだと2人を見る男たちに侮りの色が浮かんだ。
(「よし。上手く引っかかってくれたようだな」)
 雄太とフューリーは目配せし軽く頷き合う。これは敵の油断を誘う芝居であったのだ。
「雄太さんっ!」
 突然の鋭いレカの声。気がつけば雄太の目の前にナイフを突き出すマリアベルの姿があった。雄太は慌てて首を逸らす。首の薄皮を裂く刃の冷たい感触。あとコンマ数秒反応が遅れていれば、雄太の首は胴体から離れていたのではないか。
 体勢を崩した雄太に流れるように白い拳銃が突き出される。引き金に指がかかる直前。ヴルフレッドの飛び蹴りがマリアベルの後頭部へと撃ち込まれた。
「腕は全然衰えてないみたいだね」
 蹴りは咄嗟に身を翻したマリアベルの両腕に阻まれる。
「つれないな。僕の相手をしておくれよ」
 更に炯介の足技が襲いかかる。2人がかりの連携攻撃に距離を取ろうとその場を離れるマリアベルを、炯介とヴルフレッドは逃すまいと追いすがっていった。
「ご無事ですか?」
 その場に残された雄太に、レカが心配そうに声をかけた。
「ああ大丈夫だ」
 答えた雄太が首元の汗を拭うと、手にベッタリと血がこびりつく。真っ赤に染まった手の平に視線を落とし、先ほどのやり取りを雄太は思い起こした。
 マリアベルは冷徹に雄太の命の狙っていた。妖艶な化粧の奥の瞳はゾッとするほど冷たく、こちらの仕掛けた策などお見通しといった様子であった。
「経験の差か……」
 少し前まで普通の学生であった雄太と、数十年、もしくは数百年に渡り血生臭い謀略の世界に身を置いてきたマリアベル。場数の差はどうしてもある。
 雄太はケルベロスコートの裾で手の血を乱暴に拭い、両手で自分の頬をパチンと叩いた。
「よしっ、結局やる事に変わりは無いさ。ともかくガムシャラにやる以外に俺に能なんて無いからな」
 他の用意した策も大して効果は無いかもしれない。それどころか無様でみっともない結果に終わる事だってあるだろう。だからといって気後れする雄太では無かった。
「レカにも迷惑かけちまうかもしれないけど、さっきみたいなサポートは頼んだぜ」
「ハイッ! 私も、お力添えができるのであれば何だってしますね」
 どこか上気した顔でレカが答える。
 失敗を臆する事無く行動に移す勇気。雄太のそれは普通の人生を歩んできた自分に対する開き直りを含んだものなのかもしれないが、レカには眩しく映った。


 回復役のレカが後方から戦場を注意深く観察する。戦闘開始からかなりの時間が経過していたが、戦いは苛烈さを増していた。
 炯介はマリアベルにピッタリと張り付き、彼女の注意を自分自身に引きつけていた。
「そう、余所見しないで。僕だけ見ててくれよ」
 ほぼ狙い通り、彼女の攻撃は炯介に集中していた。しかしそれは実力者であるマリアベルの攻撃をその身ひとつで引き受け続けるという事だ。
 レカの献身的な回復支援を受けてなお、蓄積していくダメージは尋常ではない。
「嬉しいね。もっと遊ぼうよ!」
 痛みを押し殺し涼しい顔をみせる炯介。仲間を信じ状況が打開するまで援護を続け、見守る事しか出来ない歯痒さにレカの方が苦しそうな表情をしていた。
 そしてレカの待ち望んだ状況の変化はすぐに訪れた。
「狙うは右端のやつだ!」
「元気な奴を集中攻撃するぞ!」
 雄太とウルトレスの口三味線。ほんのわずかに戸惑いをみせた配下の隙をつき、ケルベロスたちは最も弱った配下への集中攻撃を炸裂させた。
 苦しそうな配下が回復の術を試みようと印を切る。しかしそれより速くエナが動いた。
「Crack―――」
 ドンッ、ドンッとエナの放った不可視の衝撃波が次々と配下に命中し、回復を阻害してみせる。ガクリと片膝をついた配下に、ジョーイが接近。そして鞘に収めた刀をすれ違い様に抜刀すると、絶命した配下が地面に倒れ伏した。
「お前たち、先に向かいなさい」
 マリアベルが残り2名の配下に突破の指示を出す。
 命を受け、戦場を離脱しようと試みる配下。しかし突然配下の足元から竜巻が巻き起こり身体をのみ込む。竜巻の中で恐慌状態に陥った配下の耳にフューリーの声が聞こえた。
「迫る死に怯え、その中で朽ち果てろ……『灰塵一閃・罰(デストロイ・ジャッジメント)』!!」
 竜巻を切り裂き、配下の前に漆黒の大剣が出現する。天に向かい力強く振り切った破壊の一撃は配下を空中へと吹き飛ばした。
 と、雄太が大きく跳躍し落下する配下に掴みかかった。
「突破させねぇって……こいつでトドメだ」
 雄太は流れるように体勢を入れ替え、配下の頭を両膝でしっかりとホールドする。
「安らかに、眠れ! 『暗闇脳天落とし(ジ・アンダーテイカー)』」
 受け身を取る事も出来ず、配下は脳天から地面に叩きつけられる。雄太が拘束を解いても、白目を剥いた配下は2度と立ち上がる事は無かった。
 残る配下は1人。離脱を図る配下にいち早くヴィルフレッドが接近する。
 ――パンッ!
 銃声が鳴り響く。地面に倒れ込んだヴィルフレッドから血だまりが広がっていった。
「早く行きなさい」
 硝煙の上がる拳銃を手にしたマリアベルが配下へと指示を飛ばす。そして再びヴィルフレッドへと銃口を向けると、それを遮るように炯介とジョーイが立ちはだかった。
 その隙にレカがぐったりとしたヴィルフレッドに駆けより治療を施していく。見た目よりも傷は深く無いようでレカは安堵の息を吐いた。
「……ママ」
 まだ意識が混濁しているせいか、甘えるような少年の呟きに、レカはこの少年の境遇を思い胸が痛んだ。レカにも大切な家族がいる。その家族と殺し合いに興じるなんて事は想像でさえしたくないというのに。
 必死に逃げる配下。完全に追手を撒いたとばかりに周囲を見渡した。
「逃がさない。一片残らず鏖殺します」
 先回りされたのか、前方から現れたエナの姿に配下は戦慄する。
「まだ曲の途中だ。女のケツを追っかけるのは俺らを倒してからにしろ」
 後方からはウルトレスが逃げ道を塞ぐようにこちらへと近づいてきていた。
 さらに続々と追手の姿が見える。逃げ場は完全に絶たれた、ならば。
 覚悟を決めた配下は、再び武器を構えると自らケルベロスへと襲いかかった。


 ボロボロになった炯介が地面に崩れ落ちる。冷たい目で彼を見下ろすマリアベルは未だ余力を残しているように見えた。しかし、そんな2人の状態とは対照的に、マリアベルは不機嫌に顔をしかめ炯介の顔には満足そうな笑みが浮かんでいた。
 何故ならこちらへと近づいてくる仲間の姿があったからだ。それは同時に配下が突破に失敗した事を意味していた。
「炯介、お疲れ様」
「うん。後は……任せたよ」
 単なる茶飲み仲間じゃない。お互いの背中を預けられる戦友に――僕はなれたかな?
 最後にヴィルフレッドに笑みを返し、炯介の意識は深い闇へと落ちていった。
「さて……残るはお前だけだな。破壊させてもらうぞ……!」
 フューリーが黒剣を振るい、ヴィルフレッドが黒い拳銃から漆黒の弾丸を放った。
 それらの攻撃をマリアベルはなんとか受け流す。孤立無援。四方を敵に囲まれた彼女の動きは先ほどまでと比べてどこか精彩を欠いていた。
「Shoot―――」
 エナの愛用パイルバンカーがバチンと過電荷で火花を散らす。次の瞬間、放たれた杭がマリアベルの上半身を貫くと、崩れたマリアベルの姿が影に包まれた。
 すると影の中から、華美なドレス姿から一転、機能性を重視したレオタード姿のマリアベルが出現する。彼女の手には『傘』が握られていた。
「さっきの厚化粧よりこっちの姿の方が似合ってるぜ」
 妖艶な化粧もいつの間にか落とされ、少しあどけないが魅力的な素顔にジョーイがニヤリと笑う。彼に接敵したマリアベルが傘を振るうと、力自慢のジョーイの身体が後方へ吹き飛んだ。
 鬼神の如く暴れるマリアベルに雄太も必死の形相で立ち向かっていく。
「サイレンナイッ、フィーバァァァァッ――!!!」
 ウルトレスが奏でるデスラッシュがクライマックスを迎えた戦場に響き渡った。


 ケルベロスたちは徐々にマリアベルを追い詰めていった。
「……でぇりゃァァァ!!!!」
 ジョーイが何度目かになる『鬼神の一太刀』を放つ。大仰なモーションから放たれる一撃をかわし続けていたマリアベルであったが、今や傘でその攻撃を受け取るのが精一杯という状況になっていた。
「さっきのお返しだ……おらぁァァァ!!!」
 今度はジョーイがマリアベルを吹き飛ばす。地面を転がった彼女は立ち上がるが、その足元はふらふらとおぼつかない。
「……ママ」
 声に目を向けると、白い拳銃を構えるヴィルフレッドの姿があった。
 観念したかのようにマリアベルの身体から急に殺気が消えた。そして颯爽と背筋を伸ばすと己の心臓を指し示した。
 ヴィルフレッドの指が引き金にかかる。どこか迷いをみせる少年の目をみてジョーイが檄を飛ばす。
「テメーにとっては親なんだろうが眼の前に居るのは俺たちの『敵』だ! 決別する覚悟でやれ!」
 ジョーイの言葉にマリアベルが肩をすくめる。
「何度も言わせないで。私に『人間』の子どもなんていないの。いいからその引き金を引きなさい。可愛いボウヤ」
 ――パァン!
「大好きだよ、ママ。昔も。今も。これからも」
 ――『mamma(イトシノアナタニ)』万感の想いを込めて。贈り物はこの弾ひとつ。
 乾いた銃声が空に響き渡った。


「わかりました。どうやら本陣は無事守り通せたようです」
 他班と連絡をとっていたウルトレスが仲間に告げた。
「この首尾なら次の襲撃はないだろうけど……どんどん大事になってきてるな」
 本陣で起こった出来事の報告を聞いて、雄太がため息をつく。
「それと……」
 レカがチラリと仲間たちから離れた場所で佇むヴィルフレッドへと目を向けた。
「ママ大好きだよ、先に地獄で待っていて」
 少年の手の中には、少し薄汚れたペンダントが握られていた。

作者:さわま 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 8/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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