「……定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は、徐に口を開いた。
「正義のケルベロス忍軍として、螺旋忍軍の拠点を強襲された皆さんは、お疲れ様でした。この作戦を通して、多くの情報が得られました」
特記すべきは、『螺旋忍法帖』だろう。一連の暗号文書の解読の結果、螺旋忍者にとって重要な意味を持つと判明している。
「螺旋忍法帖は、螺旋帝の血族のみがその血で記す事で創り出せます。そして、螺旋忍軍は、螺旋忍法帖を拝領する事で『螺旋帝の血族の御下命』を拝する事となるようです」
先の作戦に於いて、この『螺旋忍法帖』の所持者が2名、『正義のケルベロス忍軍』から出ている。シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)と嶋田・麻代(レッサーデーモン・e28437)だ。
「螺旋忍法帖には『螺旋忍軍に対する絶対制御コード』が仕込まれています。拝領した螺旋忍軍は『忍法帖に書かれた御下命を必ず果たさなければならない』という精神状態に陥るようですが……ケルベロスは例外ですので、ご安心下さい」
尚、今回の螺旋忍法帖には『螺旋帝の血族を捕縛せよ』との御下命が記されている。
「この『螺旋忍法帖』があれば、螺旋忍軍の核心に迫る事が出来るでしょう」
尤も、良い事があれば、悪い事も起こるのが世の常だ。
「ヘリオンの演算により、日本中の螺旋忍軍の刺客の動きが察知されました」
狙いは、シヴィルと麻代が所持する螺旋忍法帖。螺旋忍法帖の御下命を果たした忍軍は惑星スパイラスに招聘され、一族郎党全てに『勅忍』の栄誉が与えられる。1度の御下命で勅忍となれる忍軍は唯一。そして、勅忍は螺旋忍軍にとって最高のステータスであり、最終目標でもあるという。
「『螺旋忍法帖』を持たない者が御下命を果たしても、勅忍にはなれません。螺旋忍軍が血眼になるのも頷けますね……厄介な事に、連中は螺旋忍法帖の場所を探し当てる事が出来るようです。永遠に守り続けるのは困難でしょう」
だが、これは絶好のチャンスとも言えよう。螺旋忍法帖を囮にして、誘き寄せた螺旋忍軍を一掃するのだ。
「情勢に敏い連中です。多くの螺旋忍軍が撃破されれば、2度とケルベロスから螺旋忍法帖を奪おうとはしない筈です」
防衛戦は、石川県の金沢城と北海道の五稜郭を拠点として行われる。
「皆さんはこの防衛拠点にて螺旋忍軍を迎撃、螺旋忍法帖を守り抜いてください」
創のヘリオンが向かうのは、金沢城。シヴィルを本陣に据え、螺旋忍軍の刺客を迎え撃つ事になる。
「皆さんが対峙する螺旋忍軍の名は『スチール』。扇情的な白の改造軍服を着たクノイチです」
軍帽を目深に被り、その表情は判然としないが、如何にも妖艶な風情。長い長い髪は禍々しい鉄黒で、髪自体が意思を持つかの如くうねっている。
「本来は、螺旋忍軍大戦とは無関係の主に仕えているようですが……今回に限り、他の螺旋忍軍に雇われての参戦のようですね」
スチールは3体の配下を連れている。その様相は、例えるなら足のあるビハインド。総じて目隠ししているが動きに遅滞なく、人形めいてスチームパンク風に着飾っている。
「スチール自身は髪が武器です。長い髪を自在に操って敵を締め上げ、引き裂きます」
スチールの嗜好は、男女問わず面食い。容姿が気に入れば両目を(物理的に)奪った上で、お人形として持ち帰る性癖がある。これを逆手に取れば、敵の攻撃目標をコントロール出来るかもしれない。
「万が一にも皆さんが敗北する事になれば、残存の敵戦力は本陣へ向かい、螺旋忍法帖を守るチームに負担が掛かってしまいます」
1チームの敗北で済めば何とか支えきれるだろうが、複数のチームが敗北の憂目を見れば、螺旋忍法帖は守り切れないかもしれない。
「又、スチールに勝利したとしても、配下の一部でも突破されれば、本陣に特攻される事になります。全ての撃破が望ましいでしょう。頑張って下さい」
タブレットの画面をOFFにして、創は静かにケルベロス達を見回す。
「城郭を舞台に忍者相手の防衛戦……21世紀の話とは思えませんが、却ってユニークですね。それに、コードネーム『デウスエクス・スパイラス』、螺旋忍軍の謎に迫る好機でもあります」
螺旋の源を見極める為にも――螺旋忍法帖を堅守するべく、『正義のケルベロス忍軍』は金沢の空を往く。
参加者 | |
---|---|
福富・ユタカ(殉花・e00109) |
ゼロアリエ・ハート(晨星楽々・e00186) |
ユージン・イークル(煌めく流星・e00277) |
シエル・アラモード(碧空に謳う・e00336) |
京極・夕雨(時雨れ狼・e00440) |
八重波・翅弦(翠玉炎天・e05149) |
ティスキィ・イェル(ひとひら・e17392) |
アイカ・フロール(気の向くままに・e34327) |
●螺旋忍法帖防衛戦in金沢
石川県に座す金沢城――本陣を背後に待ち構えるケルベロス達。螺旋忍法帖防衛戦の幕開けまで、もう少し。
「忍法帖自体、渡して良い物ではありませんし。本陣に負担を掛けない為にも、螺旋忍軍に諦めて貰う為にも、ここで全員仕留めます」
凛々しく呟き、金沢城を肩越しに見やる八重波・翅弦(翠玉炎天・e05149)。
「何だか、楽しそうですね?」
「はっはっは。いや、テンション高めだなんてそんな筈ある訳ないでしょう」
その実、戦国武将好きの翅弦。城の防衛戦という状況に燃えていたりする。表に出ていないつもりだが、アイカ・フロール(気の向くままに・e34327)の眼には駄々漏れに映る。
「そうですか……私も、皆さんと無事に帰れるよう全力を尽くします!」
ウイングキャットのぽんずは抱っこして、アイカのほんわり決意表明から暫く。
「あらあら。可愛い子がお出迎えなんて、嬉しいわね」
クスクスクス――さざめくような含み笑い。果たして、ケルベロス達の前に現れたのは妖艶なるクノイチ。率いる3体の螺旋忍軍は目隠ししており、スチームパンク風の装いは煌びやかにして退廃的。
「まぁ! まぁ! なんてセクシーな方なんでしょう!」
シエル・アラモード(碧空に謳う・e00336)の言う通り。そのクノイチの装束は、身体の線も露なデザイン。誇示するように覗く褐色の肌に、(一応)軍服の白とタイの赤、ボタンの金が映える。軍帽を目深に被る面は判然としないが、黄色いルージュを引いた唇から色香が滴るよう。
「正に妖艶という言葉がぴったりなお方ですわ!」
「ああ、何てキワドイんだ……その美しさ、鋼のように輝かしいやっ☆」
たわわな房を目の当たりにして、ユージン・イークル(煌めく流星・e00277)は赤茶の双眸をしぱしぱと。
「ぼ、ボクらも負けてはいられないね」
正直、今回の敵はかなり苦手だが、おくびも出さず、ユージンはウイングキャットのヤードさんと身構える。
「そんな色気には惑わされないよ! 俺はセクシーよりカワイイ派だし!」
扇情的な装束から眼を逸らし、ゼロアリエ・ハート(晨星楽々・e00186)はゴーグル越しにティスキィ・イェル(ひとひら・e17392)を見やる。
紅くて丸くて大きな瞳も、サラサラの髪も、天使の様な笑顔も。大切な恋人は最高だって、思い切り自慢しまくりたい! ……きっと、速攻でメディックが潰える事になるからぐっと堪えるけれど。
「正義のケルベロス忍軍はそう簡単にやられないよ!」
「うんっ! リューズと一緒に頑張るっ」
こんなにも心強く思うのは、彼のウイングキャットも回復担当だから、だけではないだろう。
(「本陣には、1人たりとも通さない」)
謎の人物との接触を持つ為にも。螺旋の源を突き止める為にも。何より、大切な人を守る為にも――ティスキィの決意は固い。
「何やら七面倒ですが、守るべきものはキッチリと守らせて頂きます」
オルトロスのえだまめと並んで、武器を構える京極・夕雨(時雨れ狼・e00440)。
「ユタカさん、『あの時』のような失態を、また晒したりしたらブン殴りますよ」
「はは、善処するでござ」
手厳しい言葉に、福富・ユタカ(殉花・e00109)は乾いた笑い声を上げる。
(「彼女が、スチール……」)
煌びやかな配下の螺旋忍軍の向こうで、艶然と微笑む彼女は、扇情的なアレンジとは言え、白の軍服姿……かつて戦った『彼』を思い起こさせた。
(「彼女も、同じ主に仕えている筈」)
忍法帖は勿論守り切る。だが……今は疑問は胸に秘め、ユタカは黒いクナイを静かに抜いた。
●お人形達
「皆さんの言う通り、中々に妖艶……手強そうな相手ですね。何だか緊張してしまいます」
正直、戦いは得意で無いアイカ。だからこそ、己を奮い立たせて九尾扇を振るう。アイカの腕から飛び降りたぽんずは、清浄の翼を広げる。
アイカもぽんずも、エンチャントの付与は不得手ながら、初手が重畳となったのは幸いだった。特にアイカ自身に蠢く妖影は、ジャマーの役割に大きな援けとなるだろう。
(「俺はドラゴニアンですよ。空への逃亡は、許しません」)
敵は4体。すり抜けられぬよう、包囲網を敷くケルベロス達。上空は翅弦が目を光らせる。だが、絶えず逃亡に気を回して戦うのは、激戦に在って難しい。
(「やはり男性はこのような女性が魅力的に感じるのでしょうか……まあ、今は、それどころではありませんけれど」)
素朴な疑問はさて置き、ついでに扇情的なスチールからも目を逸らして、配下に標準を合わせるシエル。
「前衛から参りましょう!」
「ああ、スチールは最後。お楽しみという奴だな」
応じるユタカが不敵に笑む――配下から倒していくのがケルベロスの方針だ。
敵のポジションを探るべく、夕雨は紫の瞳を見開き、細やかな炎弾を放つ。いっそ綺麗な面立ちは表情乏しく、既に人形めいた様相。
「……あら」
ふと動きを停めたスチールは次の瞬間、ニィと嗤う。
「綺麗な宝玉の瞳に、結って良し切って良し染めて良しの艶やかな髪。丁度、新しい、着せ替え人形が欲しかったの」
――――!!
鉄黒の髪が爆発するように渦を巻く。夕雨を中心に前衛を襲った呪髪は4人+1体を戒め、締め上げ、アイカが奮闘した加護を砕く。
(「掛かった」)
『両目』に拘るらしいと聞いていたから、地獄の片目は偽骸装着で隠蔽している。その甲斐あって、スチールは夕雨に関心を抱いた。誤算は、速攻でエンチャントを1枚砕かれた事か……否、スチールのポジションがメディックと知れば、やりようもあろう。
「皆、新しいお仲間を迎えておあげなさい」
今や、スチールの興味は夕雨に移っている。足を止めた主の命令に、配下3体は無言で従う。イケメンの1体が夕雨の背後を取るや、もう1人の周囲から砂礫が雨あられと降り注ぎ、1歩下がった位置から、美少女が徐に手を翳す。
「水面に映った月のように、静かな輝きをキミへ……ユウちゃんのアメジストの瞳、輝けっ☆」
美少女の射線を遮ったユージンは金縛りを自覚しながらも、夕雨を応援する。符から死神少女の残霊を召喚しながら。
春の苑、紅匂う花嵐――ゼロアリエよりあたたかな春を思わせる桃の花嵐が吹き抜ける。後衛も5名ならば、自らも含むスナイパーの火力を底上げせんと。ティスキィは守護星座を地面に描いている。
「至れ、気の刃」
斬霊刀に籠めた気を放つ翅弦。気刃は龍を象りイケメンの一方を抉る。すかさず、ユタカのジグザグスラッシュが奔った。
「配下の配置は……男がディフェンダーとクラッシャー、少女がジャマーでしょうか」
翅弦の見立ては恐らく正しい。その何れも夕雨を狙う。忽ち積み上がる厄をウイングキャットの翼が清らかに護り、少なからずのダメージをティスキィが癒し続ける。
一方で、標的が固定された事で他のケルベロス達は存分に腕を振るえた。時にスチールは配下に分身を重ねるも、アイカが陣形を見出してはその加護を無力化する。
「よし! 男の方からやっつけるよ!」
狙い過たずバスタービームが敵の胸を貫き、快哉の声を上げるゼロアリエ。集中攻撃にクラッシャーがまず潰え、ケルベロス達は即ディフェンダーの撃破に掛かる。
(「このお人形達も、恐らくは過去の犠牲者……」)
目隠しの下の眼球は……ユージンは刹那、眉根を寄せる。仲間の士気を思い口には出さなかったが、後で弔おうと決めていた。
●鉄黒の執着
配下の掃討にはさして時間は掛からず、全てが倒されてもスチールは突破を図ろうとしなかった。
「ふふっ、随分と頑丈なのね。この子達は簡単に壊れちゃったけど、あなたならながーく遊べそう」
「っ!」
髪の戒めを払いながら、夕雨はねっとりした声音に怖気を揮う。懸命に耐える打たれ強さまで気に入られるとは。敵の攻撃を一切被るのは、ディフェンダーの本懐だろうが……相棒の生傷が順調に増えては、ユタカとて心中穏やかではない。
「……どっかの馬鹿な兄弟子が、昔言ってた。小さな太陽2つ、欲しくないか?」
ユタカのゴーグルの下から現れたのは、発光するかのような橙の瞳。灰白黒の三毛髪と相まってよく映える。
続いて、ゼロアリエも常のゴーグルを外せば、金の瞳が露となった。そのメタリックな輝きは、レプリカント故か。凛花の祝福で夕雨を癒しながら、ティスキィは眩しげに恋人の瞳を見上げる。
「ほらほらっ! ボクだって、本当は輝いてるやっ☆」
いつもは相手を褒める方が好きだけど、スチールにウインク1つ。ユージンがアピールするのはふわっふわの毛の中で輝く瞳。そして、ヤードさんと息の合ったコンビネーション!
「ふふふ。ええ、何て素敵な瞳ばかり」
褒め言葉を口にしながら、スチールの鉄黒の髪は夕雨から離れない。
「でも、どうせ目玉は『旦那』に献上してしまうもの。手元に残すなら可愛いお人形の方がイイわ」
或いは、スチールを目移りさせれば、ダメージの分散も図れたやも知れない。だが、『魅力的な瞳』のアピールだけでは数歩物足りなかった模様。夕雨は、攻撃に晒され続ける事になる。
「残念ですが、あなたのお人形にはなれませんの! 夕雨様は渡しません!」
強気に言い放つシエルだが、最も命中率の高いフォーチュンスターでさえ、スチールにはまだ届かない。
――――!!
夕雨を援ける為に。シエルは轟竜砲を文字通り轟かせる。
「夕雨さん、頑張って!」
応酬の呪髪に何度砕かれようと、アイカは弛まずエンチャントを掛け続ける。
「スチール」
徐に口を開くユタカ。スチールの気を引く為でもあったが、彼女が仕える者を探り出すべく。何とか情報を得たいと考えていた。
「お前の主が誰なのか、是非とも教えて貰いたいものだな」
ユタカの螺旋氷縛波を、鉄黒の一閃が弾く。
「螺旋忍軍に直球勝負なんて、螺旋の技を使う癖にとんだ甘ちゃんねぇ」
「俺も、忍軍の技、使えるんですよ?」
侮る口調にユタカが奥歯を噛めば、代わって、翅弦が狙い付けて氷結の螺旋を放つ。スチールの右肩が、音を立てて凍りつくも……ケルベロスの攻撃が当らなければ、氷の効果も乏しい。石化は尚の事、長期戦覚悟で厄を積む気概でなければ、実戦に耐える発動率は望めまい。
「雨音が絶えませんね」
ケルベロス全員の攻撃を命中させるべく、雨粒程の炎弾がスチールのなまめかしい脚を貫く。夕雨の「雨後の黄昏」は確かにスチールの足捌きを鈍らせた。同時に、えだまめのパイロキネシスが艶美な肢体を炎上させる。
ウフフフフ――。
炎に包まれても、スチールの余裕は崩れない。あっと思う間もなく鋼と化した鉄黒の髪が夕雨を捕え、引き絞る。シャウトの暇も与えず、絡みついたままの鋼髪が更にうねるや、四方に朱が飛び散った。
●鉄黒の化身
「ユウちゃん!!」
鉄黒の戒めが解かれると同時に、えだまめの姿が掻き消える。刹那、両の眼を見開き、夕雨はふわりと灰髪を広げて崩れ落ちた。
元より、オルトロスと魂を分け合う身。執拗なまでに狙われ続ければ、ディフェンダーであっても堪え切れなかった。時にユージンとえだまめがダメージを肩代わりするも、全ての脅威を庇える訳ではないのだ。
「遊び過ぎたわ。忍法帖は流石に難しそうね。でも、ただ働きなんて御免だわ」
「させないよ!」
手を伸ばすスチールの意図を察し、今度こそ進行を阻むユージン。ヤードさんのキャットリングに追撃して、ファミリアシュートを放つ。
「ココで絶対に倒すよ」
スチールの動きは、正確には逃亡と異なる。故に、無意識は理性のたがを外すのを許さない。代わりに、フロストレーザーを発射するゼロアリエ。
(「私でも、皆の役に、たてるなら」)
恋人と息を合わせたティスキィが理力籠めた星型オーラを蹴り込めば、リューズも鋭く鳴いて爪を立てる。
「だてに刀剣士してませんよ?」
足止めを全うした夕雨の意気に応える為にも。ケルベロスの攻撃の度、スチールを氷結が苛むようになれば、翅弦の絶空斬が更なる侵食を深めていく。アイカ&ぽんずの息の合った連携は、大切な旅団の仲間を護りたい一心だ。
「これ以上、誰も倒れさせません!」
――最も実戦経験の浅いアイカのシャドウリッパーがスチールを捉えた、それこそ好機の証。一気呵成の集中攻撃に、妖艶な身体が何度も震える。
「ささ、ユタカ様! 引導を渡す時が来ましたの!」
回り込んだシエルは、妖精の導きの下、正確無比の一撃を繰り出す。
「逃がさねぇよ」
怒涛の攻撃に半身を穿たれるも、尚も倒れる相棒を嘗める視線を身体で遮るユタカ。蠢く髪に先んじて発光する瞳は、鮮血すら橙に見える。文字通りの鋭い眼光に切り裂かれ、スチールは全身を斑に染める。
「嗚呼、後一歩だったのに……残念ねぇ」
ニィと唇を歪め、鉄黒の艶美が崩れ落ちる。
カツン――。
何かが落ちた物音と同時に、その骸は髪一筋残さず霧散した。
「夕雨様!?」
「ユウちゃん、しっかり!」
倒れたスチールに構わず、夕雨に駆け寄るシエル。抱き起こされた少女に意識は無く、ユージンは取るも取り敢えず満月の如きエネルギー光球を投げた。ウイングキャットの翼が、次々と清らに羽ばたく。
刹那、他チームの援護が脳裏を過るも、ウィッチドクターならば目の前の怪我人は見過ごせない。力一杯、気力を注ぐゼロアリエ。アイカのマインドシールドが輝き、翅弦は分身に幾許かのダメージを移す。
「負けないで! きっと癒すからっ!」
ティスキィの決意が、見る間にガーベラの花籠となって少女を包み込む。花の香りは優しい思い出を呼び起こし、花籠彩る赤いリボンは想い人への絆を結ぶ――ありったけのヒールを注がれ、夕雨の息遣いはすぐに穏やかになった。それでも、暫くは安静を余儀なくされるだろう。防具耐性より偽骸装着、スチールの気を引く事に専心したディフェンダーの名誉の負傷であった。
「良かった、でござ」
癒せぬ自身に歯痒さを覚えながら、深く安堵の息を吐いたユタカの足が何かを蹴る。
「これは……」
神さびたロケットペンダントは、正に鉄黒の風合い。恐らくは、今まで対峙していた螺旋忍軍のよすがだろう。その中身は……空っぽだった。
――螺旋忍軍に直球勝負なんて、螺旋の技を使う癖にとんだ甘ちゃんねぇ。
スチールは最期まで有益な情報を残さなかったのだ。
(「拙者は……」)
――たかが『影っぺら1枚』が、一丁前に粋がるか。
何故、『彼』は最期までユタカを認めなかったのか。耳に蘇る罵倒にスチールの嘲弄が重なる。
(「……否、今はそれ所ではないのでござ」)
頭を振って、漸くユタカは仲間達の許に駆け寄る。
「ユタカさん……今度はちゃんと、自分でけじめをつけたんですね」
生憎と、私は見られませんでしたけど――うっすら眼を開いた夕雨の言葉に、ユタカは泣き笑ったような表情で頷いた。
作者:柊透胡 |
重傷:京極・夕雨(時雨れ狼・e00440) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年6月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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