螺旋忍法帖防衛戦~銀鳴

作者:七凪臣

●『螺旋忍法帖』
 ケルベロス達が螺旋忍軍の拠点に攻め込んだ結果、シヴィル・カジャスと嶋田・麻代の二人が『螺旋忍法帖』の所有者となった。
 螺旋帝の血族のみが、その血で記す事で創り出される『螺旋忍法帖』。
 それを螺旋忍軍が拝領するという事は即ち、螺旋帝の血族より御下命を受けるという事。
 そして事を成し遂げた暁には、里の一族郎党全てが惑星スパイラスに招聘され『勅忍』と成る。
 勅忍とは、螺旋忍軍にとって最高の誉。
 しかし彼らは螺旋忍法帖を受け取った瞬間から、そこに記された御下命を必ず果たさねばならない、という精神状態に陥るという。
「幸いにして、ケルベロスの場合はそういう状態にはならないようです。ともかく、螺旋忍法帖のお陰で螺旋忍軍の確信に迫る事が出来そうです」
 大いなる作戦を経て知り得た情報の大凡を開示したリザベッタ・オーバーロード(ヘリオライダー・en0064)は、次なる一手について語り出す。
 ケルベロス達は確かに螺旋忍法帖を得た。これは疑いようもない大収穫だ。けれど、この螺旋忍法帖を奪おうと、日本中の忍軍側の刺客達が動き出したのだ。
 如何に厳重に隠そうとも、彼らは螺旋忍法帖の在処を探し当てる事が出来る。
「流石に、永遠に守り続けるのは難しいでしょう。でも、こう考えればいい」
 ――螺旋忍法帖を囮に、螺旋忍軍を迎え撃てるのだ。
「多くの同胞を失えば、懲りもするでしょう。敵を減らした上に、争奪の意を挫く。まさに一石二鳥だと思いませんか?」
 ケルベロス達の力を信じ、リザベッタは不敵に笑う。

●防衛線~銀狐譚
 防衛戦は、石川県の金沢城と北海道の五稜郭を拠点として実施される。
「皆さんに護って頂きたいのは、嶋田さんが本陣にいる五稜郭側です。現れるのは、銀狐の獣人の姿をした螺旋忍軍です」
 黒にも見える濃灰のロングコートに三つ揃いを着こなすそのデウスエクスは、慇懃無礼な紳士を気取りながら闇色の鋭い爪を虎視眈々と研いでいる。
 配下として連れる三体の白狐の獣人たちは何れも麗しい女の姿。彼女らは銀狐に忠実で、彼の指示であれば何であろうと成し遂げようとするだろう。銀狐の方は、その献身に報いるつもりは皆無のようだが。
「銀狐は、どう動くのが一番効率的かよく解っている。それだけ頭の回る相手だという事です」
 油断は禁物。
 何故なら、敗北を喫すると残敵が本陣へ向かってしまうからだ。敗北が1チームだけなら、本陣チームも凌げはするだろう。だが、複数チームが敗北してしまえば、螺旋忍法帖を守り切れない可能性が濃厚になる。また、銀狐を討ち果たし戦いに勝利したとしても、配下を逃してしまえば結果は同じ。戦力に違いはあれど、本陣チームの負担になる事は間違いない。
「銀狐は何れかの螺旋忍軍に雇われ作戦に加わったようですが、己が美学の為に、務めは必ず果たそうとするでしょう。螺旋忍軍の謎に迫る機会でもあります――勝って帰って来て下さい」
 話を締め括り、リザベッタは願う。
 ケルベロス達が未来を切り拓く事を。


参加者
疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)
狗上・士浪(天狼・e01564)
オルテンシア・マルブランシュ(ミストラル・e03232)
安曇野・真白(霞月・e03308)
音琴・ねごと(虹糸のアリアドネ・e12519)
泉宮・千里(孤月・e12987)
ジャニル・クァーナー(白衣の狩人・e20280)
マルコ・ネイス(赤猫・e23667)

■リプレイ

 五稜郭に隣する一角。安曇野・真白(霞月・e03308)は目を閉じ、『その時』を待つ。
(「叔父さまがこちらに来て下さったらと夢見たこともございました」)
 六月の風が、真白の髪を擽る。まるで誰かに髪を梳かれているように。
(「会いたかったけど会いたくなかった」)
 ざわり。迫る気配に震えた大気に、真白は金の眼を開く。

 母さまは叔父さまを止めたがってらしたから。
 ここで止めます。
 ――母さまの代わりに。

●螺旋
 羽織った艶やかな着物を肩口でふわり躍らせ、泉宮・千里(孤月・e12987)は天より無数の刃を招来する。
「忍びで狐とは奇遇も奇遇、面白い」
 吊餌にとんだ大物が掛かったもんだと嘯く千里が、黒い狐尾で大地を叩くのを合図に刀剣の雨を降らせると、防衛線に飛び込んできた銀と白の毛並がばらばらと舞う。
 けれど『彼ら』の足は止まらない。
 左目の下、一筋の太刀傷が刻まれた銀の獣人は待ち構える一同を一瞥すると、ロングコートの影より太刀を抜くのに合わせ、続く三を振り向きもせず短く鳴いた。
「ひとつ、ふたつ、みっつ」
 それらは白狐の麗人の名だったのか。反応した女たちは、主が描く軌跡をなぞるようにマルコ・ネイス(赤猫・e23667)へ加速する。
「させないのよ」
「たぬき、行くのにゃ!」
 マルコに落ちる四つの影。だが目論見が成就するより先に、オルテンシア・マルブランシュ(ミストラル・e03232)と音琴・ねごと(虹糸のアリアドネ・e12519)のウイングキャット「たぬき」が前へ出た。
「順わぬもの、か……達する先は勅忍とやら。あなたには向いてないんじゃない?」
 順わぬ銀狐――そう呼ばれる螺旋忍軍の月薙ぎの一閃を細腕で凌いだオルテンシアは、金の眼差しに赤の視線を差し入れる。
「ただの仕事ですよ、翼のお嬢さん」
 感情の一切が読めぬ音色は慇懃無礼。だがオルテンシアも、元より真っ当な応えに期待などしていない。
「……そう」
 短い相槌を返したかと思うと、即座に男の元から踵を返す。
「――ベットは済んだ? それじゃ、答え合わせよ」
「なっ!?」
 白のカードを掲げて見せたのは、ふたつと呼ばれた一体。表裏を訪ねる問いは、破綻した定理への誘い。
 ふたつが賭けに負けるのを視界に収め、疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)は「ふぅん」と鼻を鳴らす。
 狙うなら、因縁を語った真白だと予測していた。が、敵は冷静に練度に劣るマルコを標的と定めている。
「誉れ高い『螺旋忍法帖』を狙うに相応な頭ってことか。それじゃぁ、険しい道と立ちはだかってやろうじゃねぇか。ねごと!」
「任せるのにゃっ」
 黒鎖で守護の魔法陣を描き上げるヒコの声に、同じく回復役を担うねごとは、マルコの傷を癒そうと液晶画面へ心和ませるエピソードを素早く打ち込む。
 オルテンシアが連れるミミックのカトルと、真白のボクスドラゴン銀華がふたつを襲う隙に、マルコは加護と安堵を得た。
「助かるぜ」
「真白たちはチームでございますから」
 マルコの謝意に、ふたつ目掛けて跳躍する真白は是を応える。
「そういうことだ」
 地獄の炎が灯る左目を細めたカラカル獣人のジャニル・クァーナー(白衣の狩人・e20280)も短く頷くと、次の瞬きの間に草原を疾駆する速さで敵の背後をとった。
(「狐狩り、か」)
「まさに猟犬の仕事だな」
 戦装束たる白衣を翻し、ジャニルは具現化した黒き太陽で銀狐らを照らす。
「待ってりゃ向こうから喰い付くたぁ、シンプルでいいモンだな」
 同じ銀でも、此方は狼。紳士然とした銀狐を粗暴に嗤い、狗上・士浪(天狼・e01564)は勢い良く竜砲弾を撃ち放つ。しかしその一撃は、先ほどケルベロス達がそうしたように、ひとつによって阻まれた。
 出会い頭の攻防から、世界は目まぐるしく回り始める。
「俺は忍者じゃないんでな! 忍ぶどころか暴れるぜ!」
 名の通り狸にそっくりなたぬきの清き羽ばたきで余力を得たマルコが、二体の白狐をまとめて蹴りつけた。ふたつには躱されたが、戦いはまだ始まったばかりとマルコは心裡で気勢を吐く。
(「行くぜお狐忍者ども! てめえらの運、試してやるぜ!!」)

●形代
 着実に数を減らし突破しようという腹積もりなのか、黒い爪が、星降りの蹴りがマルコを襲う。幾らかは壁で凌ぐものの、ヒコとねごとは持てる最善で癒しに尽力せざるをえない。
 細糸をピンと張ったような緊張感が、戦場を支配する。けれどジャニルの口元には笑みが浮く。
(「螺旋忍法帖か……実に面白い展開になってきたな」)
 機会あらば是非己が名を刻んでみたい欲求にかられつつ、故にこそこの場を収めねばと、尖った耳で戦風を聞く。
「本陣へは向かわせんよ、貴様等にはここでご退場願おう。出来れば手短に済ませたいのだ、大人しく的になってくれたまえ」
 言い放ち、ジャニルは風と化す。
 敵の合間を縫い、肉薄したのはひとつ。だが、狙いは彼女の命ではなく。
「ジャニルを煩わせるな」
 生体に触れることで生成する、爆発を起こす矢。地獄を込めたそれは、ふたつを深々と貫き爆ぜた。
「……くぅ」
 肉片を散らし、ふたつがのたうつ。されど銀狐は眉一つ動かさない。
(「っち。自称知恵者みてぇな奴が狼狽える、とか。そーゆーのを見んのが楽しいのによ」)
「お前、頭死んでんのか?」
 裏腹な内心を挑発で覆い、士浪は銀狐を目掛けて命刈る刃を放る。その一撃は、確かに的を捉えた。けれどすぐさま、癒しのみっつが付与した阻害因子ごと傷を癒してしまう。
「まったく、手応えありありの相手だにゃぁ」
 愛い言葉遣いに似合いの容姿のねごと。しかし本性は還暦超えの竜種。若人らの奮戦を見守る眼差しで、ねごとはマルコ回復に奮闘する。
 そしてこの回復には、護りを固める加護もあった。
「消されるなら、また付ければいいだけだろ!」
 被弾の衝撃が徐々に緩和されているのを実感しながら、マルコは左目を補う地獄を燃やす。
「まだまだぁ! 命、燃やすぜ!! 焼きつくせ! ビリー!!!」
 慣れぬ女性に迫られるのに、つい照れが出てしまうのが嘘のような苛烈さで、マルコは炎で巨大な猫を象り。その口から敵前衛を焼く火を吐かせた。
 敵体に灯る炎は、自然には消せぬもの。輝く赤を包囲の輪を保つ位置に走りながら目端に捉えた千里も、同意を嘯く。
「そうそう。限りなく付けてやるから、遠慮なく受け取れよ。別嬪連中に見惚れてる暇が無いのは残念だがな」
 同じ白狐でも、自分が探す白狐とは違うらしい。その事にまた一つ嗤い、千里は白を従える銀へ死天を躍らせる。
 庇いに出たふたつは、よろけて間に合わなかった。そして顔を上げた時、目の前には真白が居た。
「あなた方とわたくしはおんなじ、ただの形代――退いて下さいませ」
 重ね見る姿ごと、真白は獣の咆哮でひとつの命を絶つ。

「俺の目が届く内は。俺の腕が奮える内は。誰ひとり欠けさせるわけにゃいかないんでね」
 拮抗する戦局に在って、ヒコは一騎当千の勢いで仲間を回復させ続けた。お陰で包囲網は崩れず、螺旋忍軍らは翼捥がれた鳥のように力を削がれつつある。
(「真白も、本当は今すぐにでも銀狐に相対したいでしょうに……」)
 銀狐への宿縁を口にした少女の、それでも事の成功の為にまずは白狐を相手取る様に心打たれながら、オルテンシアはだからこその輔翼として羽ばたく。零距離まで飛び込む先は、ひとつの懐。
「カトル」
 閃かせた刃で敵の命を啜り、振り返り名を呼ぶ。そして従う魔法壺にも似るミミックは思い切り良く白毛に歯を立て、命脈の残滓を嚙み千切る。
 さすれば。
「そろそろ、余裕なくなって来たんじゃないか?」
 唯一の従者となった癒やし手をねめつけ、士浪はククと喉を鳴らす。

●宿縁
 抱き上げて貰った腕の中から見る景色が好きだった。
 母を堕した父を、殺める程に憎んでいたなど、あの時まで知らなかった。
 情けない程の優しさは、母を溶かすほど。
(「叔父さまにとっての父になれなかった自分こそが情けない」)
 一房だけ赤の混じる結髪を余波に靡かせ、真白は鬣の如く伸びる銀に混じる白ごと『螺旋忍軍』を流星の蹴りで打ち据える。
 着地の間際、よく似た色の視線が絡む。だが銀狐は一瞥をくれただけで、真白へ背を向けマルコへ駆けた。
「抜かせませんわ」
 振るわれる氷刃にオルテンシアは身を晒し、凍てた冷たさに閃く。
 銀狐の真白への無関心さは、そうする事で彼女の憎しみを得ようとしているようであると。
(「――宿縁、か」)
 時に厭う言葉も、縁など留めず、留まらず――それこそ順わぬようにあらんとするオルテンシアにとっては、目も眩む鮮やかな響きに他ならず。
 しかし、彼女が俯いたのは一瞬。背後から届いた癒しに、オルテンシアは顔を上げた。
 振り向かずとも、舞う姿は瞼に浮かぶ。
(「駆けるあなたの翼にこそ、風を」)
 大鎌を手に、カトルを従えオルテンシアが奔る。その姿に御業の守護を送ったヒコは、にぃと口端を吊り上げた。
 銀華も加わった集中砲火が銀狐を襲う通り、既に全ての白狐が潰えている。
「俺らの頑張りも効いてるしな」
「まぁな」
 ヒコの笑みの意味を察し、銀狐の牽制に努め続けた千里と士浪も肩を聳やかす。一体一体、味方を奪い。それでいて主力に自由を謳歌させないだけの手は打つ。ケルベロス達の策は、万全だった。
「ここからが本番というわけか――避けぬでくれよ、使い慣れぬ武器ゆえな」
 既に少なくない縛めを内に宿す銀狐に対し、ジャニルは常より重い得物を振り被り、足を止める砲弾を放つ。
「……っく」
「やぁっと顔色変わったな」
 鑪を踏んだ足が不規則なステップを踏むのに敵の意を察し、退路に先回りした士浪は狐を鼻で嗤い、
「策に溺れる策士も悪くねえ――只管に喰らい尽くせ」
 終いの配下さえ使い捨てた男へ、全身に滾らせたグラビティ・チェインの赴く侭に無数の蹴りを、拳を叩きつけた。
「ねごも遊ばせて貰うのにゃ!」
 元よりねごとは、攻撃こそ最大の防御気質。ようやく巡り来た好機に、無邪気な笑顔を弾けさせて一歩前へ出る。
「さぁ、聞くのにゃ。ねごとライトがふんふふ、ふふふんふーん」
 聞き馴染んだ曲を超絶本気で歌い上げる即興ステージは、2.5次元アイドルを自負するねごとの本領発揮。飛んだ歌詞も勢いで誤魔化す怒涛のエナジーに、銀狐の毛がぶわりと逆立つ。
 満身創痍のマルコも勢いに乗る。蓄積ダメージは限界に近いが、立っていられるのだから問題ない。
「ニャアアア!!」
「っ、無粋な真似を」
 力任せに突き出された雷帯びる鉄塊剣に、肉ごとベストを裂かれて銀狐が唸る。
 完全に包囲され、銀狐は圧倒的窮地に立たされていた。本人も、それを解っているだろう。されど金の眼差しは未だ死んでいない。
「王手は打たせやしねぇ。てめーらの野望は此処で終いだ、観念しな」
 よろめくフリで後退った銀狐の進路に、黒髪と黒尾を靡かせ千里が割り込む。
「煙に巻け」
「っ!」
 千里は暗器を放った――はずなのに、気付けば狐花のような焔に襲われデウスエクスが舌を打つ。
「忍術か、妖術か。区別のつかないような技を……っ」
「ははっ。もう清めてくれるヤツはいないぜ」
 ざまぁみろ、と。同胞を道具としか見做していなかった銀狐を、千里は揶揄る。
「元より一人。欲するも一人」
 けれど、どれだけ謗られようとも、手元を危うくする呪縛にきつく苛まれとも、銀狐は強かに活路を探す。
 その時、また。オルテンシアという壁を挟んで、真白と銀狐の目が合った。
 おそらく、偶然。
(「……っ」)
 一切の色が浮かばぬ金に、真白の心臓は引き絞られる。
(「叔父さまの最後は私の心が死に絶える時ではないかしら」)
 逸らされた視線を追い、美しい毛皮を地に染める男を真白は見つめた。
 恋しい想い。
 どうして今、この手で絶やそうとしているのか。
「叔父さま。今も昔と変わることなくお慕いしております、例え――」

●銀鳴
 ケルベロス達は決して足を止めなかった。
 そして檻に捕らえた獣が一頭になれば、猟犬たちの仕事は早く。
「行くぜっ!」
 今にも力が抜けそうな脚を叱咤して、マルコは最後の一突きとばかりに稲妻を迸らせる。
 事実、マルコに余力は残っていない。だが、それは銀狐も同じこと。
「安曇野、そろそろ頃合いっぽいぜ?」
 呉れた超速の拳の手応えに、千里が敵に背を向け飄々と言う。そこへ襲い掛かった銀狐の爪は、銀華が弾いた。もう、さしたるダメージにもならなかったけれど。
 次の一手が運命を決する。
 そう確信したのは、オルテンシアも同じ。
「さぁ」
 征って?
 別れに繋がる言葉は敢えて音にせず、すうっと自らの手は下したオルテンシアは、真白が進む道を開けた。
「終いの時間だ」
 オルテンシアに倣い、翼を休めたヒコが真白の背を押す。
(「……真白は良い友人を持ってるな」)
 自身も迷わず背を預けられる者を持つ――今日はその背を見通しだったが――ヒコは、出立前に託された願いの侭に、駆け出す白狐の少女の行く先を見つめる。
「しくじんじゃねぇぞ。さっさとケリをつけてこい」
 すれ違いざま、士浪も鼓舞の声を張った。
「大丈夫。ここで見守ってるにゃ」
 生きた年数分相応の眼差しで、ねごとも真白を前へ押し出す。
 そうして真白は、完全に設えられた舞台へ上がった。
「本陣へも、この場からも。行かせませんし、逃がしません」
 とつり、とつり。勝手に途切れる決意で己を奮い立たせ、真白は獣の牙を剥く。
「……そうか」
 静かな応えは、やはり他人事のよう。それでも真白は、満月のような瞳を見上げ、唇を噛んだ。
 ――叔父さま、叔父さま。真白に憎まれたいと、思っている叔父さま。そうして、デウスエクスとして生き延びようとしている叔父さま。
 ――ですが、ですが。
「全てを我の糧に、其を望む、望む」
 飛び上がり、真白は銀狐に抱き着いた。けれどそれは抱擁ではなく、獣が獣を喰らう儀式。月を喰む星の如く、肉に牙立て骨を砕き。
 ごくりと白い音が鳴ったのは、銀狐の命を終いまで啜り尽くした証。
「  」
 壊れた人形のように、銀狐が頽れる。
 最期の言葉は、誰の耳にも届かなかった。
 けれど真白は急速に冷え逝く骸を見下ろし、細く囁く。
「あなたさまの望みと知っていても、憎んでなどさしあげませんとも……大好きです、叔父さま」

「さて。他はどうなったであろうな」
 白衣についた埃を払い、ジャニルは静寂に身を浸す。
 何れの通信機でも他班との連絡は取れなかった。状況が分かりかねる以上、援軍を送り出すわけにもいかない。
「ま、後は結果を待つのみにゃ」
 散らばった同胞もまた、自分達と同じよう成すべき事を成せるよう祈り、ねごとは函館の空を仰ぐ。
 果たして螺旋忍法帖の行末は如何に。
 彼ら彼女らは間近に迫る未来で、その答えを知る――。

作者:七凪臣 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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