たわわな果実は命がけで召し上がれ

作者:stera

「……ねぇ、こっちに来ない?」
「素敵な人達よね」
「ホント、一緒に遊びたいわ」
 この所、平和な日々が続いている。
 相変わらず大阪城は、攻性植物に制圧されたままだったが特に何か起こったという話を聞かない。
 そのせいだろうか、彼らもまた、仕事帰りの道を少しでも縮めようと雑木林の横を通りかかった。
「なんだ? 今向こうから声が聞こえたような??」
「あぁ、雑木林の中から話し声がしたな」
「なんだろうな? 女性の声だったし……行ってみるか?」
 彼らが雑木林の中に入ると、そこには色とりどりの美味しそうなフルーツをいくつも実らせた木が3本。
 そして、その木と一体化するような姿で、たわわな胸を揺らす限りなく全裸に近い女性が、妖艶な笑みを浮かべ足を組み替えた。
「ウフフ。 こっちに、来て」
 男性たちはフラフラ吸い寄せられるように近づいていく。
 それぞれの木に、一体ずつ居る女性へと。
 両手を広げ彼らを抱きしめるように、その胸元に引き寄せた彼女たち。
 陶酔した彼らは無我夢中で彼女たちを求め……しかし、本当に求めていたのは女性の姿をした彼ら攻性植物の方だった。
 やがて、下半身を露出したまま絶命した彼らを、地中に引きずり込んだ彼女たちは、彼らを養分とし高らかに微笑んだ。

「呼び出しに応じてくれたこと、感謝します。 今日頼みたいのは、少々クセのある事案です」
 そう前置きして、ヘリオライダーの皇・基(en0229)は、話を進める。
「『爆殖核爆砕戦』後、大阪城に残った攻性植物達の調査を行っていた、ミルラ・コンミフォラさん達から、新たな情報が得られました。 調査によると、大阪城付近の雑木林などで、男性を魅了する『たわわに実った果実』的な攻性植物、バナナイーターが出現しているようなのです。 バナナイーターは、15歳以上の男性が近寄ると現れて、その果実の魅力で魅了し、絞りつくして殺害する事でグラビティ・チェインを奪いつくしてしまうのです」
 なぜ果物に? と、首をかしげるケルベロスたち。
「バナナイーターの果実というのは、裸の女性の姿をしているのですよ。 まぁ、女性に裸で手招かれて、それを嫌う男は少ないでしょう。 まんまと魅了されて命を持っていかれるという訳です。 皆さんには、この出現するバナナイーターの撃破と誘惑され命を落としてしまう一般人の保護をお願いします」

 基が言うには、一般人が攻性植物の現れる場所へ向かう前に先回りすることも出来るので、そのまま一般人を誘惑させて誘き出すのか、それとも一般人を避難させた上でケルベロスの男性が囮となり誘き出すのか、どちらの作戦を取ることも可能だと言う。
 バナナイーターは、攻性植物の拠点となっている大阪城から地下茎を通じて送られているようで、囮となった人数に応じた数の攻性植物が出現するようだ。
 出現する攻性植物は1体目以外は、戦闘力が低いようなので、ある程度数を出して一気に叩く事も可能だと言う。
「ただ、一つ注意する点があるのですよ。 攻性植物が出現して3分以内に攻撃を仕掛けてしまうと、出現した地下茎を通ってすぐ撤退してしまうのです。 つまり、囮となった者は3分程度戦闘せずに攻性植物と接触する行為が必要になります。幸い敵側もその間は獲物を十分に誘惑する行為に専念するため、囮が一般人であってもすぐ死んでしまうということはありません。 攻性植物の誘惑はケルベロスには効果がありあせんが、囮となる場合はそれを悟らせないような演技も必要になるでしょうね。……役得、かな?」
 最後、サキュバスである基は、クスリと微笑む。

「攻性植物は、色々と形態を変化させ攻撃を仕掛けるようで、距離に関係なく柔軟に技を変化させるようです。異常を伴う攻撃も持ち合わせている様子で、そこが厄介ですね」
 そう言って、敵の攻撃方法について書かれた手持ちの資料を、ケルベロス達に差し出す基。
 ケルベロス達が、その資料に一通り目を通したのを見計らい彼は言う。
「大阪城の調査を行ってくれた皆の労力に報いるためにも、今回の活動を阻止して欲しい。……囮になった場合は、イロイロと大変かもしれませんが、頑張ってくださいね」


参加者
シェイ・ルゥ(虚空を彷徨う拳・e01447)
暮葉・守人(狼影を纏う者・e12145)
月影・環(神霊纏いし月の巫女・e20994)
劉・沙門(激情の拳・e29501)
出雲・緋霈(歪みの道化師・e33518)
榊原・一騎(銀腕の闘拳士・e34607)
ネリシア・アンダーソン(黒鉛鬆餅の蒼きファードラゴン・e36221)

■リプレイ

●キープアウト! 関係シタイ方以外立ち入り禁止
 道路のすぐ横を、少し入っただけで鬱蒼と生い茂る木々。
 キープアウトテープを貼る作業をすすめる暮葉・守人(狼影を纏う者・e12145)とネリシア・アンダーソン(黒鉛鬆餅の蒼きファードラゴン・e36221)。
 雑木林を見渡しネリシアがつぶやく。
「迷いそうな木々だ……」
「ネリシア方向音痴だっけ? 迷わないように俺の後ついてきてよ」
 こちらに向かって歩いてくる3人の人影を見つけたリフィルディード・ラクシュエル(集弾刀攻・e25284)は、すかさず歩み寄ると、ケルベロスカードを見せながら言う。
「ちょっと、この先出るらしくてね。 悪いけど、向こうまわってもらえるかな?」
 3人は、顔を見合わせ頷くと、慌てて元来た道を引き返す。
 ケルベロスが、来るなという道が安全な訳がない。
 命は惜しい、男たちは大慌てで逃げていく。
 その頃、道に立ち止まっていた囮役の男たちは、そろそろ行動を開始しようとしていた。
「バナナイーターが現れるのは、この先だな」
 劉・沙門(激情の拳・e29501)が、手のひらに拳をうちつけそう言った。
「一般人をこんな羨まし……こんな危険なことに巻き込んじゃいけないからね。 3分間、がんばるよ」
「仕方ない、しっかりと、囮としての役割をしないといけないね。……役得だけど」
「バナナイーター愉しみだねぇ~。 イロイロとさせて貰ってコッチのペースに持ち込めるといいねぇ~」
 榊原・一騎(銀腕の闘拳士・e34607)とシェイ・ルゥ(虚空を彷徨う拳・e01447)、出雲・緋霈(歪みの道化師・e33518)の3人も、囮となるために悲壮な覚悟で……というより、どこかウキウキ愉しげな様子で戦術を確認をすませる。
 雑木林を片側に、道を先へと進んでいくと、女性の声が聞こえてきた。
「誰か、愉しい事して遊べる人、いないかしら?」
「ねぇ、素敵な人達が見えるわ、コッチに来て一緒に遊んでくれないかしら?」
「クスクス、愉しいのにぃ、私達と遊びましょう?」
「ほら、早くコッチに来なよ~」
 その声は、雑木林の奥から聞こえてくる。
 バナナイーターの仕業に違いない、彼らは敵がこちらに食いついてきたのを確認し、雑木林の中へと踏み込んでいく。
「こちらも人払いを済ませてしまいましょう。 向こうに見える外灯の辺りにテープを貼りましょうか」
「はい。 囮の皆様にご無理はさせられませんし、急ぎましょう」
 それを見ていた月影・環(神霊纏いし月の巫女・e20994)とオンディーナ・リシュリュー(希求のウィッチドクター・en0228)の二人も、キープアウトテープを手に、人払いの為の作業を進めていく。

●食べごろ? 果実
「うふふふ、いらっしゃい」
「ほら、こっちに……一緒に遊びましょう?」
 それは、果実とは言い難いほど……目の前に現れた攻性植物は、どこから見てもほぼ全裸の女性に見える。
(「たしかに、所詮は植物と分かっていても、この見た目は男としてそそるものがあるね。攻性植物恐るべしってところかな?」)
 揺れる豊満な胸のような部分を惜しげなく晒し手招く姿は妖艶で、何も知らない普通の男性が喜んで飛びついたのは頷ける。
 そんな風に心のなかで納得し、シェイは、一番奥にいるバナナイーターに歩み寄る。
「素敵な人、タップリと愉しませてアゲル」
 バナナイーターは、そう言って首に手を回す。
「それは、嬉しいねぇ」
 応じるようにそう答えるシェイ、慣れた手つきでバナナイーターに手を伸ばす。
「なんでこんな所に裸の女性が……!?」
 一騎が、そう驚いて見せフラフラと近づいていく。
 バナナイーターはクスリと微笑み、彼の手を取り言った。
「もちろん、アナタみたいな子を待っていたのよ。 うふふ、遠慮しないで、触っていいのよ?」
「え、触ってもいいんですか?! うわ……やわらかいのに張りがあって……」
 囮として、ちゃんと騙されているフリをしなければいけない。
 ただ、一騎の場合、男子高校に通う年頃の男の子であり、ほぼ女性に免疫が無いため……魅了されてはいないものの、自分でペースを作るというより寧ろバナナイーターのペースで好きに弄ばれているという感がある。
「ちょ、そこはっ……触っちゃ……」
「あらら、顔が真っ赤よ、可愛いわ。 どこからイジメテあげようかしら? ウフフ」
 バナナイーターは主導権を取れていることを確信し、嬉しそうにニタリと微笑む。
「果たして俺を落とすことができるか!?」
「あら、こちらのお兄さんは、挑発的なのね? 私みたいなタイプは、お嫌い??」
 沙門に対して、そう言ったバナナイーターは、自分の胸に見える部分を触らせる。
「ふん! そんな誘惑に負けてたまるか……むう……何と心地よい感触か……よかろう! 俺が関節技を指南してやる!」
 むに、と両手で豊満な部分を掴むと、バナナイーターの太もものような部位に足を絡ませる、というなんとも痛くない意味不明な関節技? を披露する沙門。
「アァン。 乱暴なのね。素敵だわ」
「ならば、蹴りをくらうか」
 何の力も入っていない『下部分』への蹴りに、バナナイーターは嬉しそうに声を上げる。
「こんな所に裸で居るなんて。 ねぇ、どんなことがされたいの~?」
 緋霈がバナナイーターの耳元に舌を這わせ、ねっとりそう囁くように言うと、悦んでまとわりつくバナナイーター。
「アナタの好きに、シてぇ」
 色っぽい声音でそう返すバナナイーターに対して、普段から培っているテクニックを披露する緋霈。
「誰にもされた事無いようなこと、シてみる~?」
「ダメぇ、まだ、待って。 ゆっくり、愉しむためには、時間をかけなきゃ」
 意味ありげに、そう言ったバナナイーター。
 向こうも、完全に誘惑に堕ちたところをくらい尽くすつもりなのだろう。
 動きを制限されるような事は、のらりくらりかわしながら、ただこちらが貪ろうとする行為には躊躇なく応える。
(「どうせなら、時間いっぱい攻めて愉しませてもらおうかな~」)
 見せつけるような態勢で、女性を相手にする時と同じようにバナナイーターを扱うと、バナナイーターも本物の女性と違わない反応を返してくる。
(「それにしても、とてもあれな恰好だね。今回の囮を役得って思ってる人、何人ぐらいいるんだろうね~。 ……って、全員かな」)
 人払いを終え、仲間達のところに合流したリフィルディード。
 分かれていた残りの仲間達も、次々と駆けつける。
(「う~ん、シャルロッテさんもああいうのがいいんでしょうか……? フィオナさんだとやりそう、ですね……」)
 男性陣の様子を前に、恋人の事やその姉の事など色々と思い巡らせ、ふと自分の胸に目を向ける環。
(「望まれるなら私だって……」)
 芽生えた対抗心、まだ子ウサギさんな環は悩む。
(「やっぱり、よくわからんただの草には欲情しませんよっと」)
 男性ではあるものの、至って他人事、と言った様子で背中に背負ったGun Blade.00【Lost Number】に巻きつけていた黒い布をそっと外す守人。
 その傍には、迷わないよう守人に着いてきていたネリシアの姿が。
(「保健体育だね。 外で素っ裸なのを目にするとは思わなかったけど……一般人を巻き込んで命を喰らう……そんな真似……ネリが許す訳には」)
 戦いに備え、オウガメタルの三綺竜が、黒鉛のワッフル盾に変化する。
(「そろそろ、でしょうか」)
 身構えるオンディーナ。

●3分!
 暗がりの雑木林に突如、けたたましく鳴り響くアラーム。
 物陰から躍り出たリフィルディードは、素早く桜蘭の引き金を引くと、一騎を押し倒そうとしていたバナナイーターの腕を撃ち抜いた。
「ギャァ! い・いったい?!」
「罠にかけるつもりが逆に罠にかかった気分はどんなかね?」
 慌てるバナナイターに対して、リフィルディードがそう言い放つ。
「さて、時間のようだ。それじゃあ、そろそろ本気で行こうか」
 シェイの放った降魔真拳が、敵の体を捕らえる。
 少しよろめくような仕草を見せたバナナイーターだったが、
「そうか、お前たち、ケルベロス!!」
 そう叫ぶと、すぐに身構えニタリと嗤う。
「邪魔はさせないわ。 すぐに私達の手で、天国に連れて行ってあげる、ウフフフフ」
「なるほど、君がボスかな? なかなか、手強そうだね。しっかりと、お相手させてもらうよ」
 アラームに合わせ殺界を形成する守人。
 これで、確実に一般人がここに迷い込んでくることはない。
 後は確実に仕留めていくだけ。
「さぁ、夢の時間は終わりだよ」
 バナナーター達は、戦闘になると鬼のような形相となり、滑らかでか細かった女性らしい手はバクリと口を開けるハエトリグサのようになり、ケルベロス達に食いつく。
 状態異常を伴う攻撃に、うさみみとミニスカートの裾を揺らし奮闘する環。
「オンディーナさん、あちらの皆さんをお願い致します」
「承知いたしました、お任せ下さい」
「とぉりゃー! くらえ、その胸元に!!」
 オンディーナに同行していた日柳・蒼眞(e00793)もバナナイーターの懐、というより胸に向かって飛び込む。
 その無鉄砲な攻撃を見て、すかさず回復するローレリーヌ・ピュージェ(e30037)。
「あまり無理しちゃダメだよ!」
(「まったく、植物の癖に色仕掛けなんてどこで覚えたんだろうねぇ」)
 状態異常を得意とする敵を前に、ローレリーヌは回復の手助けに入る。
 先程は受け身だった一騎だが、
「もったいないけど、倒させてもらうよ! 魔力を込めたこの拳で、その体を内外から破壊する!」
 ガントレットの宝玉が真紅に輝く、バナナイーターにその一撃が直撃すると、果物が崩れるようにボロボロとその姿が崩れていく。
「大地の根源より 求めし物の記憶と息吹を手繰り寄せん この鎧装の主の元に大地の剣を創造せんが為に……ガイア……チャージキャリバーっ!」
 ネリシアは、弱っていた個体に習いを定め、確実にバナナイーターを仕留める。
「ふん!」
 蹴りつけるように身をひねり、バナナイーターとの間合いをはかる沙門。
「八方天拳、三の奥義!焔摩天!」
 地面に叩きつけた拳から放たれた炎をまとう衝撃波は、生き残っていた弱い個体を残らず打ち倒す。
 残るは、ボスただ一人。
 数度やり合い、弱ったバナナイーター。
「悪魔の狙いはそれることなく」
 緋霈の放った弾丸が、バナナイーターのボスの身体を貫いていく。
「あぁあぁああ!! おのれ、ケルベロスっ。く、ぎゃぁああああ!」
 断末魔の叫びが、雑木林に響き渡ると、グシャリと潰れたバナナイーター。
 完全に崩れたバナナイーターをまえに、オンディーナは、そう言うと穏やかに仲間達に向かい微笑みかける。
「これで一安心、ですね。 お疲れ様でした」
 確実に人払いしたことで、一般人への被害を一切出さず、危険なバナナイーターは残らずケルベロス達の手で駆除された。

●食べちゃいますか♪
「それにしても、今回の敵、愉しい……じゃなかった、いつもとは違った意味で強敵だったね。 ……あんな事や、こんな事や……」
 戦闘前のバナナイーターとの行為を思い出し、片付けながらもなにやらニヤニヤ思わず顔が綻ぶ一騎。
「やっぱり男性にとっては色んな意味でアウトな存在みたいねぇ。 退治できてよかった」
 そんな一騎の様子を眺め、リフィルディードがそう言った。
 環は言う。
「あれで植物、というのですから。不思議といいますか……敵も色々な策を講じてくるものですね」
 ペタペタとした足取りで、バナナイーターだったものに近づく沙門のミミック。
 パカンと箱の口を開けたのを見て、
「やめんか。これは口に入れたらいろいろ危ない気もするぞ」
 そう沙門が諭すと、オウギはパタンと箱を閉じる。
「はぁ~、家に持って帰って植えたら愉しいかなぁと思ったけど、これじゃ全然ダメだね~」
 もう人の姿など一切留めていない潰れた果実を前に、残念そうにそう言った緋霈。
「確かにそっくりだったけど、私としては、『食べる』ならやっぱり本物が一番だね。というわけで、お嬢さん方この後どうかな?」
 シェイがそう言うと、すかさずそれに答えるオンディーナ。
「まぁ、私で良ければ是非ご一緒させてください。 ちょうど、『美味しいものが食べたい』と思っていたところです。 皆様~、シェイ様がお食事に誘ってくださるそうですよ~」
「いや、ちょっと、それは食べたいものの方向性がちがうようだね……」
 わざとなのかそうじゃないのか、オンディーナは仲間達にそう言って手を振る。
「ほんとだ、もうこんな時間だね。 バナナイーターも退治したことだし、早くこんな雑木林から出て夕食にしようよ」
 そう言って周囲をキョロキョロ見渡したネリシアの横に立つ守人。
「戦闘で荒らされた箇所の修理も終わったし、もうここに用は無いね。 後は、キープアウトテープの回収くらいかな。 はやく戻ろう。 ネリシアは、ちゃんと俺の後ろについてきて」
 こうして、無事勝利を収めたケルベロスの仲間達は、その場を後にするのだった。

作者:stera 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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