終宵の星空鉄道

作者:犬塚ひなこ

●遥かな夜空へ
 真夜中、街外れの丘の上で空を見つめていると光が現れる。
 それは星の光ではなくて、夜空を走る鉄道が放つライトの光だ。宙に浮かんだレールの上を走るその列車は丘の上を停車駅のひとつにしている。
 けれど――目の前に列車が停まっても決して乗り込んではいけない。
 何故なら、黒い影の車掌が操る星空鉄道に乗ったら最期。君の命は夜を駆ける列車の燃料としてあっという間に奪われてしまうのだから。

 そんな御伽噺のような噂を信じた青年がいる。
「噂になるってことは星空鉄道を本当に見た奴がいるってことだろうからな」
 少年のような純粋な心を持ち、興味を向けた彼は深夜の丘の上に訪れていた。遠くて見えなかったらいけないと双眼鏡を首にかけ、春の星空を眺める。
「ううん……星の影に隠れてやしないだろうか」
 うしかい座のアークトゥルスにおとめ座のスピカ。其処から続く春の大曲線の並びを指先でなぞってみても、目的の星空鉄道が現れる気配は見えない。はあ、と青年が溜息をついた、そのとき。
 その身体が崩れ落ち、背後から不穏な声が響いた。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 声の主は魔女アウゲイアス。
 意識を失った青年の胸から魔鍵を引き抜いた魔女は何処かへ去っていく。その後、丘の上には居るはずのない存在――星空鉄道の形をしたドリームイーターが出現した。

●興味と夢と星空と
 星空を走る鉄道に思いを馳せる青年の『興味』が奪われ、夢喰いと化した。
 香坂・雪斗(スノードロップ・e04791)はヘリオライダーの少女から伝え聞いた情報を語り、集った仲間達に協力を願う。
「興味の対象は『星空を走る鉄道』の噂やった。それだけ聞くと良さげやけど、その噂では黒い影の車掌が命を奪うとも言われてたんや」
 その興味から具現化した怪物型ドリームイーターの本体は影の車掌。
 それは現在、自らが生み出す幻影の列車に乗って丘の上空を飛んでいる。このままでは捉えることが出来ないのでこのタイプの夢喰いの性質を利用して誘き寄せる必要がある、と雪斗は告げた。
「誘き寄せは簡単。星空を走る鉄道の噂をしながら丘の上で待っとること!」
 的外れな噂さえしていなければ夢喰いはケルベロス達の前に現れるだろう。そうしたら後は全力で戦うだけ。
 ドリームイーターは一体のみで配下などはいない。
 地上に降りてくれば車掌はケルベロス達のグラビティ・チェインを奪う為に襲い来る。戦闘方法は幻影の列車を出現させての突撃攻撃、光る線路を一直線に飛ばす攻撃、更には星の煌めきを宿す光の渦を放ってくるという。
「強さは俺ら全員でかかって互角程度や。それでも、協力しあえばなんとかなると思う」
 雪斗は信頼を込めた瞳を仲間に向け、小さく頷いた。
 そうして雪斗は戦いへの思いをそっと抱き、強く拳を握る。その際に彼の髪に咲く柊の花が静かに揺れた。
「星空を走る鉄道の話はただの噂に過ぎん。けどな、興味と浪漫を抱くことは悪いことやない。悪いのは……その夢を奪い取って怪物にしてしまうやつや」
 だから、自分達の力で悪しきものを屠ろう。
 緑の瞳を向けた雪斗の眼差しは真っ直ぐに、透き通った意志を宿していた。


参加者
落内・眠堂(指括り・e01178)
葛城・唯奈(銃弾と共に舞う・e02093)
ヴィ・セルリアンブルー(青嵐の鎧装騎兵・e02187)
香坂・雪斗(スノードロップ・e04791)
蓮水・志苑(六出花・e14436)
ティユ・キューブ(虹星・e21021)
日御碕・鼎(楔石・e29369)

■リプレイ

●夜空を駆ける
 満天の星々、抜けるような空。
 辺り一面を埋める煌く大海を見上げていると何かが現われてもおかしくない。今宵の空には、そのような不思議な世界が広がっていた。
「星空を駆け巡る鉄道などまさに物語の世界ですね」
 蓮水・志苑(六出花・e14436)は丘の上で件の噂について思いを馳せる。
 星空を走る鉄道。
 それが今回、青年の興味から具現化した夢喰いの形だ。
 アルスフェイン・アグナタス(アケル・e32634)は空を見上げ、星の光を視た。
「星空鉄道とは、興味があるね。星影からそっと姿を覗かせるだろうかね」
 乗ればきっと飛ぶこととは違った気持ちが味わえるのだろうか。
 アルスフェインの言葉を聞き、葛城・唯奈(銃弾と共に舞う・e02093)も敵を誘き寄せる為の噂話をはじめる。
「ねえ、夜空を走る列車とかどんなのだろうねー? ホントにあるなら一度は乗ってみたいものだよねー」
「星空を走る、なら。何処迄も走っていけそうです。ね」
 日御碕・鼎(楔石・e29369)が小さく頷き、終着点などは有るのだろうかと口にした。すると匣竜のペルルを連れたティユ・キューブ(虹星・e21021)が想像を巡らせる。
「終着駅も気になるけれど、他の停車駅はどんな所だろうか」
 確かに乗ってみたい、とティユは双眸を細めた。
 空の星が瞬く最中、香坂・雪斗(スノードロップ・e04791)も噂に花を咲かせていく。
「こんなに綺麗な星空の中を走るんやもん、きっと素敵な旅になるよね」
 乗ったら最期、なんて怖い噂もあるけれど。
 雪斗が呟くとヴィ・セルリアンブルー(青嵐の鎧装騎兵・e02187)が口をひらく。
「そういえば、昔の物語にもそういうお話があったね。星空をゆく鉄道に乗って、何処までも旅をする話。とても好きで、何度も読み返したっけ」
 落内・眠堂(指括り・e01178)も頷き、そういえば、と昔に読んだ本を思い出した。
「ヴィの言う話は、俺も知っているな。これだけ綺麗で広い空なら夢のひとつも抱いてしまうのは理解できる」
 どこから来て、どこまで行くのか。
 知る人がいないのは、その不気味な噂の所為だろうか。眠堂が思いを巡らせていると、志苑がふと首を傾げる。
「子供の頃に読んだ覚えはありますがあの物語では鉄道は最後何処へ行ったのか……思い出せませんね」
 志苑の言葉に気付き、雪斗は隣のヴィに結末を知っているかと問いかける。
「その列車に乗った人は、最後どうなったん?」
「それは……」
 ヴィが答えようとしたそのとき、アルスフェインが待て、と皆を呼んで制止した。
 見上げた先には一筋の光。
 流れ星のようにも見えたがそれは違う。空を翔けるレールの軌跡だ。
「敵の御出座しのようだな」
「さて、諸々の疑問について聞いてみたいものだけれど。答えを持ってはくれないか」
 アルスフェインとティユが見咎めたのは空から降りてくる列車。そして、其処に乗っている、影の車掌の姿。
 二人が身構えたと同時にティユや志苑が敵を見据えた。
 影の車掌はケルベロス達を標的と見做し、今にも襲い掛かって来そうだ。頷きあった鼎や眠堂達もそれぞれの布陣につき、戦いへの思いを言葉に乗せる。
「来ます。応戦します。ね。逃がさない」
「ああ、すぐに終わらせて星見でもしようか。――行くぜ」
 そして、星空の下の戦いが始まりを迎えた。

●影の線路
 夜空を走る列車の幻影を纏い、車掌は帽子を被り直す。
 鼎はそれが攻撃動作の一部だと気付き、気を付けて、と皆に呼び掛けた。
 その瞬間、幻のレールが一直線にケルベロス達に伸びる。唯奈に向けられた一閃は超速で迫り来た。
「危ない……けど、一度くらいは避けられる! お返しだぜ!」
 唯奈は危機を察し、突撃してくる列車をぎりぎりの所で躱す。その反動を利用して唯奈は身体を反転させ、両手の銃から弾丸を放った。地面に当たって跳ね返った弾は車掌に向かい、鋭い衝撃を与える。
 アルスフェインは目を細め、物凄い攻撃だと関心を覚える。そして、彼はボクスドラゴンのメロと共に仲間の援護に入った。
「星空を往く鉄道か。それだけであれば随分と夢のある物語なのだけれどね」
 影の車掌などと闇めいた噂も付随するのは何故だろうか。正体のわからぬ闇に惹かれるのが常なのかと考え、アルスフェインは光輝くオウガ粒子を放出する。
 仲間の感覚が研ぎ澄まされていく中、メロも主に合わせて己の属性を解放した。
 ヴィと雪斗も戦闘態勢を取り、それぞれの布陣につく前に拳をこつりと合わせる。
「よし、頑張ろう!」
「皆を護ってね。頼りにしてる!」
 かけられた言葉に頷き、ヴィは皆の盾となって護り抜く決意を固めた。
 そして、雪斗が凍気を纏う一閃を放ったと同時にヴィが鉄塊剣を振り下ろす。重厚無比の一撃が敵を穿つ中、守護役のティユと眠堂も打って出た。
「こいつも停車駅の一つにどうだい?」
 不敵に笑んだティユは片目を瞑り、天鵞一誘の力を解放する。その言葉通りに星の輝きめいた光が周囲を包み込み、相手の視界を遮った。
 その目映さが敵の怒りを誘発するのと同様に、眠堂も仕掛けに出る。
 天空高く飛び上がった彼が纏うのは美しい虹の彩。其処から急降下して放った蹴りは影の車掌を貫く。
「命が片道切符じゃ良き旅とは言えないな」
 噂ではかの列車は命を奪うとされていた。身を翻して体制を整えた眠堂が軽く肩を竦めると、志苑が入れ替わりに地を蹴る。
「空飛ぶ乗り物は人類の夢、飛行機がある今でも空飛ぶ列車に憧れる気持ちは理解出来ます、浪漫ですね。しかし――」
 その心の隙間に入り、命を奪う夢喰いが相手となれば話は別。
 高く跳躍した志苑が放つのは流星めいた蹴撃。その興味を返していただきます、としっかりと告げた彼女は敵の動きを鈍らせた。
 其処へ優雅に腕を掲げた鼎が御業を召喚してゆく。
「確かに空に輝く星々が綺麗な所は、其の様な夢想も出来そうです。ね」
 されど噂に喰い付く厄介な虫は追い払うが吉。
 鼎が指先で示した先に炎弾が放たれ、夜空の下に焔が赤々と燃えあがった。
 だが、敵は更なる攻撃を放とうとする。
 怒りの矛先を眠堂に定めた車掌は流星のような光の渦を飛ばした。一瞬で間近に迫った光の数々に眠堂は穿たれる。しかし、咄嗟に懐に隠した短刀を取り出した彼は最後の渦を刃で弾き返した。
 その時、思うのは青年が夢見て興味を抱いた内容のこと。
「しかし純朴な夢だ、壊すには勿体ねえ。彼の信ずる御伽は守らせてもらおう」
 そして眠堂は己の裡にある重力鎖を解き放ち、反撃に移った。唯奈は仲間の一閃が敵を穿つ様を見遣り、再び攻撃に入る。
「これでも喰らえっ!」
 荒々しく声をあげた唯奈はアームドフォートを展開し、その主砲を一斉発射していった。宙を舞う弾が車掌を貫き、衝撃を与えてゆく。
 ヴィは攻撃を自分に引き付けながら、敵が纏う幻想の車両を改めて見つめた。
「夜空を走る鉄道なんて、実にロマンあふれるじゃないか」
 けれど、目の前のそれは浪漫の一言では片付けられない危険を孕んでいる。
 駆けたヴィは手にした二本の刃を振りあげた。近付くと同時に敵を十字に斬り裂いたヴィは敵の傷口を一時的に地獄化する。
 其処から滲む毒が相手の身を蝕み、痛みを齎した。
「こっちからもいくんよ」
 雪斗が其処に続き、稲妻を纏う突きを喰らわせる。
 麻痺の力が車掌の身を駆け巡っていると感じ、志苑も攻撃に専念していく。
「――舞うは命の花、訪れるは静謐」
 淡い声が紡がれ、解放されたのは斬華の刃。
 降り頻る六花、花開く白雪、散り逝く命への献花。繰出す無数の斬撃は氷の軌跡となり、花が咲くかのように敵を斬り裂く。
 更にペルルが竜の吐息を吐いて標的の不利益を増やし、如意棒を手にしたティユが鋭い一撃を加えに駆けた。
「そっちの星の光も眩しいけど、こっちだって」
 負けていないよ、と告げたティユの一閃が車掌の胴を薙いだ。相手の体勢が僅かに揺らいだ隙を狙い、鼎も力を紡ぐ。
 死が纏わらなければ噂だけは素敵なものだ。
「其れを斯うして命狩る者にしてしまうのは、何だか、許せません。ね」
 鼎が考えたのはこの幻影を生み出した魔女の存在。だが、今は目の前の存在を屠るのが先だと首を振り、鼎は狙い澄ました一閃を放った。
 その間にアルスフェインがメロに目配せを送る。その合図に応えたメロは翼を広げて仲間の傷を癒す。続いたアルスフェインは鼎に幻影の力を宿した。
 そして、不意に思う。
 空の視えぬ場所に長く居た為か、星空を往く列車には心惹かれるものがある。けれどこの噂は残念に感じた。
 ――影の車掌などなく、ただ夢のみで創られたものであれば良かったのに。
 浮かんだ思いは振り払い、アルスフェインは皆の背を支えようと心に決めた。
 そうして、戦いは激しさを増す。幻影列車が宙に走り、流星のような光が空に舞う。痛みが齎され、鋭い光が放たれとも、誰も諦めなどしなかった。
 何故なら、彼等が見ているのは勝利だけ。
 噂から生まれた幻影になど負けはしないと誰もが信じていた。

●果ての終着駅
 幾重もの一閃が放たれ、幾度もの衝撃が散った。
 繰り出される攻撃はティユと眠堂、ヴィが受けて痛みを分散させている。その間に雪斗や志苑、唯奈と鼎が攻撃と妨害に徹し、敵の力を確実に殺いでいた。
 アルスフェインはそんな仲間の様子をしかと注視し、癒しの力を施し続ける。
 きっとあと少し、とアルスフェインが呟くと傍についているメロが同意を示すように羽をぱたりと揺らした。
 唯奈も敵の体力が残り少ないことを感じ、畳みかけていこうと決める。両手の銃の引鉄に手をかけた唯奈は薄く笑んだ。
「この弾を避けるのはちーっと骨だぜ? ま、避けさせないけどな!」
 口の端を歪めて笑った唯奈は地面を蹴り、魔法の弾丸を撃ち放つ。まるで視えざる者が動かしているかのような不可思議な軌道を描いた弾は敵を翻弄するように舞い飛んだ。
 しかし、更なる機を得た唯奈の手は止まらない。即座に一直線の早撃ちが叩き込まれ、影の車掌を大きく傾がせた。
 だが、車掌は身を翻して反撃を放とうと動く。
 引き付けていたはずの矛先は今、雪斗に向けられていた。逸早くそのことに気付いたヴィは地を蹴りあげ、離れた光の線路を遮るように駆けた。
「誰も倒れさせはしないぞ! 特に雪斗だけは!」
 まるでたからものを護るかのように、ヴィは身を挺して庇う。激し痛みが体中に駆け巡ったがヴィはしかと開いた蒼の瞳に敵を映した。
 虚空の睛が発動し、瞬時に対象のエネルギーを取り込んでゆく。
 雪斗は自分を守ったヴィに礼を告げ、戦いの終わりを目指して攻勢に移った。おそらく、あと数撃で敵は倒れる。
「この花を、キミへ。――もたらされるのは、『希望』でも『慰め』でもないけれど」
 雪雫の花を具現化した雪斗は真っ白な花弁を相手を喰らう人喰い花へと変化させた。甘やかな死の香りがふわりと漂い、春告の花となって迸る。
 その花の残滓が消えぬうちに、アルスフェインが傷付いた仲間を癒しにまわった。
「咲き花は露と消え、恵む光を空へ残す――これから紡ぐは花の歌」
 揺れし可憐を謳い詠い、彼は掌を差し伸べる。
 紡ぐ調べは花の旋律。音に運ばれた花弁は癒しの光を放つ中、メロも彼といっしょに最後まで癒しを続けてゆく。
 鼎は戦場に広がるあたたかさを肌で感じ取り、敵を見据えた。
「……。行こうか。空へ還る時間だ」
 終刻のときが迫っていると告げ、鼎は絶空の斬撃で敵を斬り裂く。今だよ、と鼎が視線を送れば志苑が行動で以て応える。
「満天の星々に煌く氷の桜を添え、夜空の煌きと共にあなたには消えて頂きます」
 どうか、白空に抱かれて終焉へ。
 お連れいたします、と囁いた志苑は花弁の刃と共に剣撃で敵を斬り刻んだ。氷霞と桜を思わせる一閃が放たれる中、眠堂は思う。
 夜空を走る列車を。そして、星が瞬く空の向こうのことを。
 命を差し出してまで行きたい場所なんてない。でも、もし空の線路の先に会いたいひとが居たとしたら。
「たとえ幻想だとわかっていても、俺は……いや、考えるのは止めよう」
 浮かんだ考えは余所にやり、眠堂は攻撃陣が刻まれた護符を掲げる。それは一瞬にて焦げるように燃え、宙空に紋が浮かぶ。
 ――廿の針はその身を穿ち、樂のしらべは刃となりて、花は添い這う蔦併せ。
 衝撃が敵を貫き、ティユは終わりが訪れることを悟った。ペルルと共に踏み出したティユの虹色真珠の髪が星の光を映して幽かに反射する。
 刹那、匣に身を潜めたペルルの一撃が敵を穿ち、大きな隙を作った。
「悪いね。ここが終点さ」
 そして、そっと囁いたティユは眩い光を放つ。
 星の輝きにも似たそれは言葉通り、幻想の鉄道の終着駅となった。

●瞬く光に
 影は夜空に還り、夢喰いは幻と消えた。
 アルスフェインは丘を一瞥した後、青年が倒れている方へと歩いていく。彼は心地よさそうに眠っており、アルスフェインは無事を確かめた。
「夢主も大事ないようだ。無理に起こすのも悪いかな」
 良かった、と鼎と志苑も安堵を抱く。青年はそっとしておいても大丈夫だろう。眠堂は星空を振り仰ぎ、先程まではよく見れなかった夜の色を眺めた。
 明かりを消し、眠堂は光の瞬きを確かめる。
「小さな星もよく見える夜だ。少し空を眺めていくか」
「星空鉄道か……今度は乗りたいものだね」
 ティユもペルルを抱き、そっと夜空を見上げた。
 ほらみて、とティユが匣竜を見遣れば、その瞳にきらきらと瞬く星の煌めきが映っている。綺麗だと微笑んだティユは不思議な心地良さを感じていた。
 唯奈は空の薬莢をその場に置き、ささやかな墓標代わりにする。
「本当だね。こんなまがい物じゃなく、ホントにそんな列車があるなら、乗ってみたいものだよね」
 夜空を見上げつつ呟いた唯奈に倣い、鼎も目を細めた。
「……。はい。星空を走る鉄道。有るなら、僕も見てみたかったです。ね」
「無いと分かっているからこそ、焦がれてしまいますね」
 志苑は憧れと興味の先にあるものを思い、仲間と共に星空を楽しむ。
 和やかな仲間達の会話を聞きながら、ヴィは雪斗の隣で星空鉄道に思いを馳せていた。そういえば、とヴィは戦いの前に答えられなかったことを紡ぐ。
「……かの列車に乗った人の最後は……そう、綺麗な所へ行ったんだ」
 死に別れる物語を思った彼は言葉を濁し、星空を指さした。あれがスピカだと告げれば雪斗は口元を綻ばせる。
「あの星も、星空鉄道の停車駅かもしれへんね」
「うん、あの青い星だ。そっか、停車駅か」
 ヴィは雪斗と共に在れるこの時間を大切に感じ、見ていた景色を瞳の奥に焼き付けるようにそっと目を閉じた。
 ――もし星空を駆ける鉄道に乗れたとしてもまだ、先でいい。
 あの煌めきはきっと、地上で見るからこそ美しく感じられるのだから。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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