●探偵の集い場
足の折れた揺り椅子が所在げなく転がっていた。
そこに腰掛ける者はいない。夢は終わってしまったのだから。
「う……ああっ……」
男性が蹲っていた。
嗚咽とともに漏れるのは、ただただ責念と後悔。
ある廃ビルの一室であるその部屋は、良く見渡せば以前の面影が残っている。振り子の壊れた柱時計、煙突の崩れた暖炉、棚の上で項垂れた人形、どこか19世紀のロンドンを思わせるアンティークな内装だったのだろう。
そういえば、男性自身もそう思わせる格好をしている。それは、誰もが知る物語の中の名探偵……。
「こんなにも、愛していたというのに……彼等も、この店も……!」
そう、ここは店だった。
カウンターがあり、キッチンもついていることからカフェだったのは間違いない。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『後悔』を奪わせてもらいましょう」
不意に声がした。
男性が立ち上がると同時に何かがその胸を貫く。
「え……なん、で……」
声の正体に気付かないまま、男性は崩れ落ちた。
その後ろの張り紙にはこう書かれていた。
――カフェ・ワタソン。
●推理の館
自分の店を持つ。
そんな夢を叶えたにもかかわらず、店が潰れてしまい後悔している者が、ドリームイーターに襲われ、その後悔の感情をもとに新たなドリームイーターが生まれるという事件がおきている。
「そばを打っていたらなぜか殺人事件がおきていたんです」
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)が何言ってんだかちょっとわかんない。
殺人事件は別におきていないし、そばを打っていたわけでもないと思う。
「まあまあ、殺人事件は無関係ではないんですよ、何しろ今回の行き先は殺人事件カフェですから!」
物騒な物言いにも程がある。
潰れた店というのが、いわゆるコンセプトカフェで、誰もが名探偵になれるというのがテーマなのだ。
ただまあ、そのために殺人現場とか、捜査とか推理とか体験できるようにいろいろとアトラクションを追加してしまった。結果、ゆっくりカフェを楽しんでる場合などではなく、しかもアトラクションの費用と労力がかさむだけかさみ、閉店と相成ったのである。
「推理ごっことかおもしろそうなんですけどねぇ」
やるならやるで、経営上の問題をクリアすべきだったのだろう。
「あ、ちなみに店主の名前は綿村っていうらしいですよ」
それがカフェの名前の由来。医者は関係ない。
「まあ、やることは簡単です。ドリームイーターが現れたら倒せばいいんです」
話が脱線しつつあるので、ヘリオライダーの茶太が話を引き継いだ。
現状では感情を奪われた男性は昏睡状態で倒れており、ドリームイーターを倒せば目が覚める。
「とはいえ、後悔の念から生まれたドリームイーターですからね……やっぱり店のサービスを楽しむだけ楽しんだほうが良いんじゃないでしょうか」
後悔の念が薄れれば、その分ドリームイーターも弱体化するというものだ。
この場合、みんなで殺人事件ごっこから推理ごっこまですれば良いんじゃないかと思う。
いざとなったら全員犯人でも、全員被害者でもなんとかなる。楽しめば良い、はず。
「どんな風に楽しむかはおまかせします」
サービスの範囲ならドリームイーターも何も語らず協力してくれると思う。
「それに何より、後悔の念が薄れれば男性も前向きになるかもしれませんしね」
そう言って茶太は頭を下げた。
どうかドリームイーターを撃破し、男性をいろんな意味で助け出してほしいと。
話が済んだところでセティが立ち上がった。
「さて、私のほうはいつでも準備出来ています。犯人、被害者、殺人鬼なんかと一緒にいられるか俺は部屋に帰るとか言う人、どんな役でも任せて下さい!」
言いながら、全部ルシエド指さしてる気がするけどきっと気のせい。
「えっと、とりあえず、誰かが殺されて、犯人が誰なのかをみんなで裁判するって流れでしょうか」
なんか違う。
「さあ、行きましょう。ジッちゃんはいつもひとり!」
やっぱりなんか違う。
参加者 | |
---|---|
パティ・パンプキン(ハロウィンの魔女っ娘・e00506) |
クローチェ・テンナンバー(キープアライブ・e00890) |
芥河・りぼん(リサイクルエンジン・e01034) |
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112) |
メアリベル・マリス(グースハンプス・e05959) |
鮫洲・蓮華(パンダあざらし同盟・e09420) |
遠野・葛葉(ウェアライダーの降魔拳士・e15429) |
工藤・千寛(御旗の下に・e24608) |
●たいてい始まった時点で1人は死んでる
店に入るなり、人影が天井からぶら下がってるのが見えた。ゆらゆらと手足が揺れる。
「わ~ん、たすけてくださいですー!」
リリウムだった。アホ毛が天井に引っかかったらしい。放っておこう。
一行が奥のテーブル席まで進んだとき、事件はおきた。彼らが一息ついて振り返ると――。
そこには、セティ・フォルネウス(オラトリオの鹵獲術士・en0111)の鉄山靠を受けて元気に宙を舞うカルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)の姿が!
どしゃあああ、と派手に落下。しんだ。
「え、えーと……?」
突然のことに理解の追いつかないパティ・パンプキン(ハロウィンの魔女っ娘・e00506)だが、何とか自分の役割を思い出し、指を突きつけた。ボクスドラゴンのジャックさんも真似して指さす。
「わかったのだ! 犯人はカルナなのだ!」
「どうしてそうなったんですか!」
即座に起き上がる。カルナ復活。
「なんかあやしいのだ。だから犯人で良いのだ♪」
「どう見ても現行犯じゃないですか!」
「そう、現行犯……どうやら見えてきたようね、この事件の真実が!」
メアリベル・マリス(グースハンプス・e05959)が高らかに宣言したが、真実も何も現行犯。
「推理小説の経験則だと一番犯人らしくないひとが犯人……つまり犯人はミス・セティ、アナタね?」
ミスタ・ハンプ(ぬいぐるみ)を抱えた名探偵に不可能はないのだ。完璧な推理にビハインドのママさんも感心だ。
驚愕の真実に芥河・りぼん(リサイクルエンジン・e01034)がたじろぐ。
「せ、セティさん……何故こんな……」
「仕方なかったんです! だって、ドーナツの中にいなり寿司が仕込んであるから!」
「え、そっち? カラシマシマシだったんだけど」
「辛いのはまあだいたい平気です」
「なんと悲しい事件なのだ……や、もちろんパティも真実は分かっていたのだ!」
なぜかここでわざわざぶっ込んでくるパティ女史。言っておかないとアイデンティティがやばい。
「あ、いえ、そーいうことでなくてですね」
「被害者役よりも先に殺されにいくスタイル……侮れないデスネ!」
「そうそうそれです!」
クローチェ・テンナンバー(キープアライブ・e00890)の言葉にりぼんが便乗した。被害者役が準備する前からこのていたらくである。
「殺されにいく、か。しかし我は知っている。ヤツはこの程度でくたばるようなタマではないと!」
ずかずかずんずんと遠野・葛葉(ウェアライダーの降魔拳士・e15429)がカルナの元へ歩み寄っていく。右手にわさびアイス、左手にハバネロジュースを携えて。
「あ、ちょ、まって僕甘と……」
「なぁに、安心しろ。心配したフリをしてキッチリとどめを刺してやろう!」
「自分で言う!? 何一つ安心できなあがごごごご」
カルナは二度死ぬ。
一連の流れを経て、鹿撃帽をかぶりインバネスコートをはおりパイプを手に持った完璧な格好の工藤・千寛(御旗の下に・e24608)はどこか遠くをながめていた。
「事件でしょうか、事故でしょうか?とても気になります」
「せやかて工藤、目の前で事件がおきてんねんで」
すかさず返す鮫洲・蓮華(パンダあざらし同盟・e09420)だが違和感半端ない。
「……」
「……」
「ハットリ……」
「それ以上はいけない」
蓮華はそっと千寛の言葉を遮った。
とりあえず、カルナが無事に死んだので、ようやく事件は次の局面を迎えることになった。
「ふふふ……やはりこうなってしまいマシタネ」
意味深にクローチェが笑う。
「まだ事件は始まったばかり……何人が生きてこの館をでられるか、楽しみデスネ」
そういって身を翻すと、彼は部屋を出て行こうとしたのだが、そもそも部屋ではないし、扉もないので、お手洗いのドアを開け閉めしてバタンと音だけ出した。
「あからさまにあやしげな行動ね……今夜は事件がおきそう」
「分かりました! もし明日私が吊られたらクローチェさんを疑って下さい!」
「そういうゲームではない気がするけど」
メアリベルが呟いたところでりぼんがよくわからないこといった。
「じゃあ蓮華は霊媒師~。死体がかたる、うむむむ~……セティちゃんは犯人じゃないよ!」
「知ってる」
何故か蓮華は葛葉に対して言ってた。
アオーンとルシエドが鳴いて、その場は一端お開きとなった。
●わりと死体は量産される
光理がカップに紅茶を注ぐと、エルトベーレはそれを手に取った。
「探偵皆様方の尽力空しく事件はおきてしまいました」
何言ってんだこいつ、とでも言いたげにリヒトさんが頭つついてるめっちゃつついてる。ちなみにドーナツはカイさんによりすでに残骸。
「物騒な話ですこと。早く解決していただかないと、この後おうちでだらだらする大事な予定がありますの。あ、今日の私は優雅な貴婦人ですことよ」
ハイルさんが心底ウザそうな顔をした。
「では、現場検証を始めましょう。荒らさないように慎重に調べていきます」
「わかったのだ! 犯人の痕跡が残っているかもぐもぐもぐ」
ばらばらぼろぼろ。
千寛の注意があったそばから、パティがドーナツを食べてカスを零しまくってる。
「くくく、凶器のドーナツを食べるとは計画通り。証拠隠滅も完璧よ」
葛葉が露骨にあやしいこと言ってるけど、それを指摘する前にクローチェがなんか言い出した。
「ワタクシ、そろそろ死んでおくデスネ」
宣言が必要がどうかはさておき、唐突に死体が1個増えた。
「ま、まさか! またしても被害者が出てしまうなんて……! この館でいったい何がおきているんでしょう……」
不安に駆られた表情でクローチェのそばで跪くりぼん。
「あ、ちょっといいデスカ?」
「なんでしょう?」
「ダイイングメッセージはこのへんデスカネ?」
「あ、もうちょっと右が良いです」
喋る死体。そして死んでからダイイングメッセージを書く。
「みなさん、ここにメッセージが!」
さも今気付いたかのようにいうりぼん。そこには血(のり)で書かれた『ドーナツ』の文字が。
「ドーナツ……? そっか、凶器はドーナツなんだね~」
ぽんと手を打って蓮華が言う。
「いくら何でもそんなわけないのだ」
「なるほど、一理ありますね」
「えええ!?」
パティが珍しくまともなことを言ったはずなのに、千寛に否定される。そしてここでメアリベルが動いた。葛葉に視線を向ける。
「最初から凶器がドーナツとしっていた……アナタ、ただの来訪者ではないわね」
「ふっ、バレては仕方がない」
葛葉が大きく胸を張った。
「我は探偵で刑事で犯人で被害者で加害者で容疑者で被告人、しかしてその実態は! 怪盗フォックステイル、我の見事な撹乱で真の凶器がオールドかエンゼルかポンデかわかるまい!」
「全部食べました」
「なんだとう!」
セティの一言ですべてが覆る。
「くっ、今日のところはここで退かせてもらおう、だが覚えておくがいい。すべてのいなり寿司は我のものであると! ではさらばだ、はははははは!」
そう言って葛葉は天井からぶら下がるアホ毛にしがみついた。
「なるほど~、ドーナツが凶器か~」
蓮華が、ドーナツのパウダーをぺろりとなめる。
「ペロッ、これは青酸カリ……うっ」
バターン!
倒れた。あわててウイングキャットのぽかちゃん先生さんが駆け寄る。ぷにぷにする。ふみふみする。顔を上げる。死んでる……って顔してた。
「あー、ずるいのだー! それパティもやりたかったのだー!」
それ死ぬから。
「このままでは事件も迷宮入りに……死体の気持ちを知るために私も死んできます!」
なんかよくわかんないこと言って、気付いたらりぼんも死んでた。ナイフ刺さってる。
ちなみに飽きてきたのか、クローチェと蓮華はあっち向いてほい始めてた。動く死体。
さて、4人が死亡し、1人離脱。メンバーも半分になったところで事件は佳境を迎えていた。
「どうしましょ。みんな怪しく見えてきたわ」
「もうこうなったらダイスで犯人を決めるのだ!」
「それもいいかもしれないわね」
困ったメアリベルにパティが提案した。ポンコツきわまれり。でも何故か承認。
そして転がるダイス、示した犯人は……。
「パティだったのだ……!」
まさかの自爆。だが千寛が手を挙げた。
「待ってください、その推理、なにか違和感を感じます」
「そもそも推理じゃないし、違和感だらけなんですが」
「この一連の事件にはドーナツの存在があった」
セティの突っ込みは軽やかにスルー。
「しかし、実はドーナツは関係がなかったのです!」
まさかの真実。
そう言って千寛はメアリベルを見遣った。
「あなたが犯人ですね? なぜなら亡くなった方の魂が囁くのです」
「なんやて工藤!?」
蓮華が割り込んだ。あなた死んでる。
「ちなみにこれこれこういうトリック以下省略です」
「ち、違うわ、メアリはそんな……!」
理路整然とした完璧な推理に反論できない。気を取り直そうと怪しげなクスリ(ビーカーのジュース)を飲み干す。
「うっ……あたまが……! そうだわ、思い出した……犯人はメアリ……二重人格の殺人鬼グースハンプスがこの斧で殴り殺したの」
斧が凶器の死体は1つもなかった件。
「あなたが犯人……ていうか、黒い人が犯人じゃなかったんですね」
「どうしてこんなことをしたんデスカ!」
カルナとクローチェが思わず声を上げる。だから2人とも死んでんねんで。
「なぜか? そんなの決まってるじゃない、メアリの大好きなマザーグースの歌詞を間違えたからよ。マザーグースを冒涜するのは許さない!」
「これ以上の悲劇は許しません、ここで決着をつけます!」
そそっとりぼんが背景が崖になるよう垂れ幕を用意したところで、メアリベルと千寛が対峙した。
しかし抗いようのない運命、その決戦を遮るかの如くドリームイーターは現れた。
●だいたい崖で犯人と刑事が対峙すると止めにくるひとがいる
出てくるなり速攻、問答無用で星形のオーラがドリームイーターに炸裂した。
「眼鏡をかち割ろうと思ったのですが、まあ良いでしょう。好きにはさせません、後悔があってこそ未来に繋がるもの、 返してもらいます!」
攻撃して、しかも啖呵をきったりぼんに対してドリームイーターが向く。唐突に現れたスケボーに乗って体当たりをしてきたところで、ジャックさんとぽかちゃん先生さんがフォロー、攻撃を上手く反らす。
「よしよし、2人とも良くやったぞ」
すぐに葛葉がサーヴァントたちを順に癒やす一方、パティが攻撃に割り込んだ。
「お菓子をよこすのだ! お菓子をくれぬなら……お主の魂、悪戯するのだ!」
目には見えないが、今頃ドリームイーターには、周りの家具やら壁やらがカボチャ顔になって笑い蠢くのが見えているところだろう。明らかに動揺している所を、敵の背後のジャックオランタンの幻影とともに大鎌で斬り伏せる。
「幻ばかりに囚われないで、こっちが現実デスヨ!」
よろめくドリームイーターにたたみかけるように、クローチェのミサイルが次々に撃ち込まれていく。
「とりあえず、全部自殺にする刑事も良かったかな~?」
ポンッと音を立てたと思うと、蓮華が金髪赤眼と変身した。何故か警官ルック、ただしミニスカで胸も結構開けてる。
「せっかく楽しんでるのに邪魔は良くないよ~」
ドリームイーターの足が止まった。それは彼女の姿に対してか、それとも言葉に対してか。
「それじゃ、刑事じゃなくて警官じゃないですか!」
「え~、しおれたトレンチコートとか可愛くないもん~」
「ごもっともです!」
言っておいて納得するカルナ。
「まぁ、今楽しんでる真っ最中ですし、このクライマックス、2人の邪魔をするのは無粋というものですよ!」
一発、拳を打ちこんで即座に離脱。2人というのは紛れもない。
「お願いします、千寛さん、メアリさん!」
流れに乗ってドリームイーターの一部を石化させたセティが叫ぶ。
「竜をも屠る一撃、その身に受けなさい!」
誰が呼んだか竜殺しの英雄。その聖剣を手に取り、英雄の力を身に纏い、千寛は渾身の力でそれを振り上げた。
眼鏡が、靴が、スケボーが、すべて砕け散りドリームイーターは天井に激突し、床へと落下した。
これにて勝敗は決したと言える、だがまだ終わらない。メアリベルがドリームイーターの背中を踏みつけ、斧を振り上げた。
「リジー・ボーデン斧を振り上げお母さんを40回滅多打ち! メアリは41回滅多打ち!」
あとの惨劇はママが静かに見守っていた。
●けっこう何もしてないだけのメインキャラがいる
エルトベーレの悲痛な叫びが響く。
「ドーナツが無残な姿で発見されました! 裁判でクロを決めて下さい!」
その眼前では、リリウムとルシエドによってドーナツが無残に食い散らかされているところであった。今日もルシエド働いてないと思ったら、こんなところで生存競争に励んでたようだ。
なんやかんやで、事件は一件落着。綿村さんも元気になったところで、今日の反省会だ。
「僕ね、今日は探偵のふりをする犯人をやろうと思っていたんですよ。そうしたら最初に殺されていたんです。何がおきたんでしょう」
「我が殺すより先に殺されるとは情けない!」
カルナの言葉に、なんかまたアホ毛にぶら下がり始めた葛葉が言ってのける。
「アホ毛ごとフォートレスキャノンで撃ち落としてもいいんですよ?」
「まておちつけはなせばわかるそうだ稲荷寿司で手を打とうつぎはころす」
「本音でてますよ」
葛葉は撃ち落とされた。
「あ、オムライスこっちでーす!」
「はいよー」
注文のオムライスがりぼんの目の前におかれた。おもむろにケチャップで人型を描いていく。よく殺人現場で死体を運んだあとに残されるアレである。
「いやー、本当に難しい事件でしたね!」
「まさか殺人鬼が犯人とは意外デスネ」
あっけらかんとクローチェが答える。なお、メアリベルはちょっとそっちの方で笑ってたりする。発狂エンド。ミートパイにしてあげるとか言ってる。
「もしかして犯人の割合高くないですか?」
「気のせいデスヨ」
考えないことにした。
「でも、こういうイベントも良いものですね」
千寛が微笑んだ。
「ミステリーも好きなので読むこともありますが、謎を解くのにわくわくします」
都合上推理が省略になってしまったのは申し訳ないところ。
「実は人が亡くなる話はあまり好きではないのですよね」
矛盾してる。けれど、こういう遊びならその辺あまり気にしなくてもいいのかもしれない。
いやさっきから死にかけてる人がいる気がしないでもないけど。
「実はメアリはかの名探偵と同じイギリス出身なの。ベーカー街の博物館にも行ったことあるのよ」
「あ、そうだったんですね。ミステリーも好きで?」
「ええもちろん。こんなカフェがあって殺人事件なんてステキでステキで」
いつの間にかメアリベルが狂気から正気にもどってた。
随分と楽しんだようだが、惜しむらくはこのカフェがすでに潰れている点だ。なんとか立て直してもらいたいところだが、そこは綿村さんのがんばりと周りの応援次第だろう。
ジャックさんとぽかちゃん先生さんがぺしぺし小突き合ってじゃれていたらママさんがドーナツ持ってやってきた。みんなで食べた。
「セフィ~、何を食べてるのだ。パティにも分けるのだ~」
「カラシマシマシ稲荷寿司です、辛いですよ」
「そ、それは遠慮するのだ……ドーナツは食べないのだ?」
「蓮華も辛いのより甘いのが良いな~」
「じゃあ、みんなでドーナツ食べましょうか。あ、でもケーキとかもいいかも」
「それならアーモンド臭のする粉のかかったケーキが食べたいのだ!」
「ガトーショコラとかいいかも~」
改めて、セティとパティと蓮華で卓を囲んで。稲荷寿司は葛葉の分まで食べた。
「今日は良いとこまで推理できてたのに残念だったのだ~」
(「どの辺が惜しかったんだろう」)
「もっとも悲しく、もっとも辛い事件だったの……ドーナツの代わりにベーグルなんて……」
(「どこでベーグル出てきたんだろう」)
セティの心の突っ込みが冴える。
しかしまあ、楽しんだのであれば些細なことはこの際構わないのだろう。こと楽しむという点についてのみ語るならば、本気を出すばかりが楽しみというわけではないことが分かったと思う。
これを綿村さんが理解してくれたのであれば、きっといずれは店が再建される日も来るのだろう。
「あ、そうそうパティさん」
「どうしたのだ?」
「私の名前、セフィじゃなくてセティですよ」
「!!」
ケーキもぐもぐしつつ、分かってるかもだけどいちおう指摘だけはしておくことにした。
作者:宮内ゆう |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年6月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 1
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