ようこそクソゲーハウスへ!

作者:蘇我真

「はぁ……今日で、この店も終わりか」
 店内には世間一般では全く知られていないゲームハードや、海外でのみ販売されたゲーム、それに謎のゲーム周辺機器などが所狭しと並んでいる。
 表には『クソゲーハウス』という看板に重ねるように『閉店しました』という張り紙がしてあった。
「来店したお客様の好みを詳細に聞き取り、その趣味嗜好に合致したクソゲーを定価で提供するこのビジネス! 仕入れ先は他店のワゴンだし、成功すると思ったのに……!」
 先程から嘆いているのは店主、だった者だ。野球帽を後ろ前に被り、『ゲームは一日24時間!』と書かれた謎のTシャツを着ている。
「こんな店、開かなきゃよかった……!」
「そうか」
「え?」
 後ろから声が聞こえて、元店主は振り返る。そこにいたのは第十の魔女・ゲリュオンだった。
「だ、誰だアン――」
 元店主は言葉を最後まで紡げない。胸を、大きな鍵で突き刺されていた。
 血は出ない。死にはしない。しかし、意識は失ったようで元店主はその場に昏倒する。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『後悔』を奪わせてもらいましょう」
 ゲリュオンはそう呟くと、鍵を引き抜いて新たなドリームイーターを作り出す。
 その姿形は元店主に酷似している。
「さあ、あんたに合ったクソゲーをチョイスするよ! さあ、あんたに合ったクソゲーをチョイスするよ!」
 まるでゲームのNPCのように同じ言葉を繰り返し発している。強風が、店頭の『閉店しました』の張り紙を吹き飛ばしていく。
 ドリームイーターによるクソゲーハウスが、再オープンしたのだった。

「わざわざ好き好んでクソゲーと呼ばれるゲームをプレイする層がいる。俺は……ビブリオマニアのゲーム版みたいなものだから厳密には違うが」
 星友・瞬(ウェアライダーのヘリオライダー・en0065)はゲームに関しては雑食だった。RPGやアクション、ギャルゲーから乙女ゲーまでなんでもやるらしい。
「そういう層に向けたゲームを取り扱っていた店『クソゲーハウス』が潰れ、店長が第十の魔女・ゲリュオンの被害にあった。店長の後悔の想いを元に作られたドリームイーターが、人を襲うべく店舗営業を再開させているようだ」
 このドリームイーターは店長になりかわり、店を営業する。しかし、客がサービスに納得いかなかった場合は怒って客を殺害してしまうのだ。新たな被害が出る前に、ドリームイーターを倒さなければならないと瞬は説明する。
「ちなみにだが、このサービスを心から楽しんでやるとドリームイーターも満足して弱体化したり、昏倒中の元店長も復活時には前向きな気持ちになっているらしい。クソゲー好きなケルベロスがいたら、サービスを受けてみるのもいいかもしれないな」
 もっとも、このチャレンジは依頼解決に必須ではない。余裕があれば狙ってみるといいと瞬は補足する。
「戦闘となる場所は『クソゲーハウス』の店内だな。ワゴンや商品棚などで射線が塞がれがちだが、ケルベロスならなんとかなるだろう」
 数は1体のみで配下はいない。元店主はバックヤードあたりに転がされているだろうと説明しつつ、瞬は店の見取り図を参考資料として提出した。
「いきなり背後から攻撃されて一撃でやられるなど、被害者からしてみれば理不尽なクソゲーだろう。皆が、代わりにこのゲームをクリアしてくれ」
 そう締めくくって、瞬は頭を下げるのだった。


参加者
古鐘・るり(安楽椅子の魔女・e01248)
星野・優輝(戦場は提督の喫茶店マスター・e02256)
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)
ヒストリア・レーヴン(鳥籠の騎士・e24846)
猫夜敷・千舞輝(地球人のウェアライダー・e25868)
黒岩・白(シャーマン系お巡りさん・e28474)
ヴァーノン・グレコ(エゴガンナー・e28829)
マリー・ブランシェット(蝋の翼は誰が為に・e35128)

■リプレイ

●ようこそクソゲーハウスへ
 潰れたはずのクソゲーハウスは、盛況を取り戻していた。
 いや、そもそも営業していた時も閑古鳥が鳴いていたのだから『取り戻す』という表現は間違っているだろう。
 正確に言えば、店がこれほどにぎわうのは初めてのことだった。
「レアものもあるじゃない! これを定価で売るとか、逆にお得よ?」
 古鐘・るり(安楽椅子の魔女・e01248)は商品群に目を輝かせながら、店長扮するドリームイーターへとオーダーを頼む。
「声優が棒読みなのをお願い」
「わかりました」
「随分楽しそうに見えるがク……ごほん、そういったゲームが、好きなのか?」
 クソゲーという言葉を口にするのははしたないと思ったのだろう、濁しながら尋ねるヒストリア・レーヴン(鳥籠の騎士・e24846)。
「ええ、ゲームが趣味だもの。クソゲーだって遊ぶし作るわ。フリーゲームを投稿する時は、RPG・アクション・クソゲーとかのカテゴリから選ぶの」
「えっ、と……クソゲーって出来が悪すぎるゲームのことかと思ってたんだけど、カテゴリなの?」
 るりのマニアック目な解説に困惑する源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)。2年前まで森に住んでいた彼には電化製品は見るもの全てが珍しく、未知の存在だった。それでも貪欲に、新しい知識として吸収しようという心意気があった。
「そう、クソゲーは既にジャンルの一つなのよ」
「うーむ、よくわからないが……単調なものだと飽きそうなので、バグ? というのだろうか、予想外な動きをするゲームはあるだろうか?」
「わかりました」
 ヒストリアのオーダーに答え、ゲーム棚を漁る店長ドリームイーター。
「そうそう、やっぱクソゲーの魅力はバグやね! なんやねんこれって笑い飛ばせるのがええわ」
 猫夜敷・千舞輝(地球人のウェアライダー・e25868)はクソゲーの中にもこだわりがあるようだ。
「レトロゲー……つってわかるかな。もう何十年も前の昔のゲームはな、理不尽で不親切なのが多かったんや。それをみんなでゲラゲラ笑いながら遊ぶのが楽しくてな~」
「見たところ俺より若いが、何歳なんだ……」
 まるで当時を見てきたかのように語る千舞輝へツッコミを入れる星野・優輝(戦場は提督の喫茶店マスター・e02256)。
 その瞬間、試遊していたアクションゲームで主人公が被弾していた。
「あっ、しまった……!」
 慌ててゲームに意識を戻すが、時すでに遅し。画面には無情にもゲームオーバーという文字が映し出される。
「なんて難易度だ……これが心を折りにくるってやつか」
「いやいや、見方を変えれば攻略の楽しみスよ!」
 優輝のプレイを見学していた黒岩・白(シャーマン系お巡りさん・e28474)は、モニターを指さしながら説明していく。
「見えにくい攻撃はパターンや配置を覚える楽しみに、高難易度のアクションは自分の段階的な成長を知る喜びにつながってるっス!」
「あ、ああ、そうだな」
 アドバイスを受けて再挑戦する優輝。一人で遊んでいたらくじけていただろうが、仲間がいるというのはとても心強いものだった。
「しかし、世の中にはクソゲーが溢れている、とは聞きましたがそれを商売の種にするとは……」
 首をひねりつつも店内を見渡しているのはマリー・ブランシェット(蝋の翼は誰が為に・e35128)。
「ゲームは触ったことがないので、どれが面白いか、そうでないかも見極めづらいですね……」
 試しに手に取ったゲーム。表裏をひっくり返してパッケージを確認してみる。
「ホラーのガンシューティングかな? ボクはこういうの好きかも」
 ひょいと顔を出し、パッケージを覗き込むヴァーノン・グレコ(エゴガンナー・e28829)。
「このパッケージだけで、判別するんですか? 事前に情報とか評価を調べないと不安になりませんか?」
 知識を仕入れようとするマリー。行商人としての職業病な面もあるのかもしれない。
「うーん、ボクは前情報なしで、広告とかパッケージを見て面白そうなのを買うタイプだから特に。もし失敗してもそんなに後悔はしないかな?」
 そう答えてから、ヴァーノンは付け加えた。
「だからって、わざわざクソゲーを選びたくもないけどね」
「それは、そうですよね。だから潰れたんでしょうね、この店……」
「お待たせしました」
 店長ドリームイーターがゲームを持ってくる。
 ドリームイーターにクソゲーの選定ができるのか不安だったが、そもそも店にはクソゲーしかない訳で。どれを選んでもアレな感じな訳で……。
「これはひどい」
「く、屈辱的な遊びだな……」
 るりとヒストリアは、それぞれ自分なりにクソゲーを堪能したのだった。

●後悔を消すとき
「………」
 ヒストリアの頭の上、ウイングキャットのリィクはじっとゲームを見ている。
「お澄ましした、可愛らしいお嬢様美猫やなぁ」
 千舞輝は言いながら自らのウイングキャット、火詩羽と見比べる。火詩羽もリィク同様に座って動かない。
「猫か……猫といえばゲーム機のリセットボタンを押すモノと相場が決まっているが、大人しいものだな」
 感心した様子の優輝に、千舞輝は胸を張る。
「まあ、大人しくしとけって言っといたからな」
 それでも、つまらなそうに一声鳴くリィクと火詩羽。
「そうだな、そろそろいいか。店主も満足しただろう」
 ヒストリアはリィクの鳴き声を受けて、ゲームを止めると立ち上がる。
「もうちょっと遊んでたかったっすけど、そうっスね」
 ファイティングポーズを取る白。店長ドリームイーターも、応戦体勢を取るが、その動きはどことなく鈍い。やはりサービスを楽しんでもらったことが、満足となって後悔パワーが足りないのだろう。
「ゲームじゃない本当の戦いを、始めよう、かっ!」
 リボルバー銃を構え、ヴァーノンはいきなり弾丸をぶっぱなした。
「願いの力を俺にっ!」
 放たれたのは鶴だ。折り鶴のドリームイーター、その魂を封印した弾丸が翼を広げて店長ドリームイーターを急襲する。
 鶴の鋭い嘴が、店長ドリームイーターの眼球を啄む。片目を抑えてうずくまる店長ドリームイーター。
「鶴の次は、竜などいかがでしょうか?」
 小柄な身体には似つかわしくない、ごついドラゴニックハンマー砲撃形態を構えるマリー。
「ああ、無理ゲーというものを味わせてやろう」
 そこに優輝も続いた。ふたりで鏡合わせになり、ドラゴニックハンマーの砲塔と突き出された優輝の掌から発射される2撃。
 轟音と共にドラゴニックパワーの奔流が店長ドリームイーターを飲み込んでいく。
 オーラに負け、全身に炎を纏った状態で足止めさせられる店長ドリームイーターへ、次々とケルベロスたちが襲い掛かっていく。
「消えて終わりよ……ジャッジメント!!」
 るりはここぞとばかりに神槍『ガングニール』を召喚し、店長ドリームイーターを串刺しにする。
 足止めの効果を追加し、ジャマーとしての役割を果たす。ゲーマーらしく効率の良い、効果的な一手を打った。
「リィク、私たちもいくぞ!」
「!!」
 繰り出された、そう思ったときには既に稲妻のようなヒストリアの刺突が店長ドリームイーターを抉っている。狙いすましたように、リィクの爪も追撃し、腕に四条の爪痕を残した。
「うぅ……オォォ!!!」
 店長ドリームイーターもやられたままでは終わらない。串刺しにされたまま、謎の指向性音波を出力する。
「うげっ、これは……!」
 千舞輝は知っている。呪われそうなおどろおどろしいこの音楽は、セーブが消えたときに流れるものだと。
 ふつふつと、行き場のない怒りが勝手に湧き上がってくる。それを止めたのは、庇うように前に立った白だ。
「ぐっ……! セーブが消えるなら、ノーセーブでクリアするまでっスよ!!」
 精神へと揺さぶりかける音波攻撃をくらい、顔を歪める白。しかし、一切あきらめてはいない。
「何時間かかろうが、リセット回数が4桁を記録しようが、橋から落ちようが……リアルで楽しく遊ぶ、それが大事っス!」
 手に持ったナイフを振るい、店長ドリームイーターを切り裂く。
 派手に上がる血しぶき。返り血を浴びて生命力を吸収し、受けたダメージを回復していく。
「ようやってくれたな、こいつはお返しや!」
 千舞輝は大量の猫を召喚し、体当たりさせる。
「ネコマドウの二十九、『敵に猫を送る』。ネコモドキより、愛をこめて」
 先程優輝が口にした猫リセットのことが店長の思いに染みついていたのか、ことさらに猫を嫌がる店長ドリームイーター。
 カラフルな猫たちはお構いなしに店長ドリームイーターへと突撃し、すり寄り、ついでにグラビティを奪っていく。
「ウオオオォォォン!!!」
 リセット斬りで暴れまわる店長ドリームイーター。陳列されていた店の品物が倒れ、ワゴンもぐちゃぐちゃになる。
「このままじゃ、必要以上に被害が出ちゃいそうだよ」
「そうだね……今なら当てられる……力を貸してくれないかい?」
 困惑する瑠璃へ、助力を求めるヴァーノン。
「う、うん。わかったよ」
 ヴァーノンに勝算があると見て取った瑠璃は、自らの力を彼へと貸し与える。
「月の女神の銀色の弓矢の力、具現するよ」
 太古の月の力がヴァーノンを覆う。思考がクリアになり、愛用のリボルバー銃の狙いが冴え渡る。
「いいね、これは……月の女神と、森の力を感じる」
 ヴァーノンには弓矢の神でもある月の女神が、どこに撃てば効果的に命中するか囁いてくれるような気がした。
「……すごい、わかるの?」
「わかるよ。ボク、森が好きだから」
 偏差と重力、弾道のズレ。計算せずとも身体で感じ取ったヴァーノンは、一撃を放つ。
「後悔もこれでおさらばだ」
 ヘッドショット。
 頭を打ち抜かれた店長ドリームイーターは、見事に消滅するのだった。

●さらばクソゲーハウス
「一応ヒールはしましたけど、これ、在庫としてはどうなんでしょうね……」
 壊れていた棚やパッケージをヒールしたマリーだが、棚はともかくゲームの箱がサイケデリックな感じに直されてしまっていた。
「商売として、ネット販売に出したときのことを考えると……申し訳ないですが」
「この有様ではネット販売でも状態は可、箱無し扱いといったところだろうな」
 ヒストリアも苦笑する。狭い店内だし、売り物に被害が出ることはどうしても防ぎようがなかった。
「ケルベロスカード、渡した方がいいかもしれませんね」
 マリーの視線はよそへと移る。そこには優輝によって保護された本物の店長がいた。バックヤードで昏倒していたので、毛布をかけてやっている。
「ワゴンのはともかく、レア物なら少しは売れると思うけど……ま、公式でダウンロード販売が始まるとプレミア価格が暴落しちゃうのよね」
 るりも店長をヒールしてやりながら、その先のことをおもんばかる。
「どうしてクソゲーは生まれるっスかね?」
 一方、先に店を出た白は、哲学めいたことを考えていた。
「クソゲーを作る製作者が悪いのか? クソゲーと評するユーザーが悪いのか?」
 クソゲーを売りつける店長の商売は失敗した。
「僕にはわからない……っス」
 店の外観を見上げる。
 戦闘の余波で、クソゲーハウスの看板は傾いてしまっていた。

作者:蘇我真 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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