ローカスト調査隊～命を求め虫たちは

■リプレイ

●力を束ねて
　羽音、足音、土食む音。金属同士が擦れ合う音色、悲鳴にもうめき声にも似た鳴き声。
　ローカストの群れに閉ざされた、冷たく薄暗い地下空洞。プロデュー・マス（禊萩・e13730）、九条・櫻子（地球人の刀剣士・e05690）と行動を共にしていたシエナ・ジャルディニエ（攻性植物を愛する人形娘・e00858）に迫るのは、ゲシュタルトグレイブで武装している傭蜂集団ランサー兵の一群だ。
「Peur……これが定命化に失敗した者の末路ですの？」
「ひとまず戦線を構築するぞ！」
　プロデューが激を飛ばし、二人を護るために先頭へと移動していく。
　一方、櫻子は攻撃による牽制、討伐を行うために前へと出ながら、肩越しにシエナへと視線を送った。
「皆さん、常に周りを警戒、声を掛けながら、各個撃破ですわ」
「わかりましたの」
　頷いたシエナは攻性植物ヴィオロンテに力を注ぎ、大顎を形成させていく。
「Appeler！　わたし達はここですの！」
　天に掲げ、激励の咆哮を張り上げさせた。
　更に、合流の標と成すためにボクスドラゴンのラジンを天井近くへと向かわせて行く。
　ローカストを除き、近くに感じる気配は二チーム分。その二チームと合流できたなら、戦いを優位に進めることができるだろう。早々にランサー兵を排除し、強力なローカスト集団と戦う者たちへの救援を行うこともできるかもしれない。
「っ！　ラジン、来ますの！」
　合流を阻まんというのか、それとも偶然か。一体のランサー兵がラジンめがけてゲシュタルトグレイブを投射してきた。
　素早くラジンが身構える中、ゲシュタルトグレイブは甲高い音を立てて天井近くへと跳ね上げられていく。
　ゲシュタルトグレイブがくるくると回転しながらランサー兵のもとへと戻っていく中、櫻子が刀を鞘に収め着地した。
「邪魔はさせませんわよ」
「ああ。奴らの攻撃を抑え、可能なら打ち倒し……少しでも俺たちの領域を広げておくんだ！」
　声を上げながら、プロデューがランサー兵の一群へと突っ込んでいく。
　色々と考えなければならない事はある。
　けれど、何をするにしても自分たちが万全でなければならない。
「Understood！　今はわたしが、お二人を支えていきますの！」
　合流の標を保つため、シエナは思考を二人の援護へと切り替えた。
　幸いな事に、先ほど感じた二チームの気配は近づいてきているようだ。

　ドリルがごとき杭を突き出し、槍ごとランサー兵を貫いた。
「オラァ！」
　鬼島・大介（最終鬼畜喧嘩屋・e22433）は動かなくなったランサー兵を蹴りのけて、右側に蒼色の武装生命体を移動。
　飛来してきたゲシュタルトグレイブを弾き、前方へと踏み込んだ。
　進路上に割り込んできたランサー兵は、パトリシア・バラン（ヴァンプ不撓・e03793）の虹色に輝く右手が引き寄せる。
「邪魔をしないデ！　後で、思いっきり戦ってあげるからサー！」
　暗闇に飲まれた左手で腕の一部を抹消し、右側へと押しのけた。
　勢いのまま踏み込もうとした直後、大介が手で制してくる。
　立ち止まり見つめる中、大介はくわえているタバコを赤熱させ……。
　……爆発音が響く。
　パトリシアにトゲを突き刺そうとしていたランサー兵が、群れの中へと吹っ飛んでいった。
「ありがとう」
「いや、この状況じゃ仕方ねぇ」
　頭をかく大介が、サングラス越しに天井近くへ視線を送っていく。
　ボクスドラゴンが一匹。
　仲間たちが、その場所にいることを示してくれている。
　後一体か二体分ほどランサー兵を乗り越えれば、彼らと合流できるはず。ただそれだけの距離なのに、とても遠いように感じてしまうのは何故だろう。
「……」
　大介はタバコを吐き捨て、新たな一本に火をつけた。
「ともあれ、この勢いで突っ切るぞ」
「はい！」
　二人は進む、ボクスドラゴンの下を目指してまっすぐに。
　ランサー兵が進路を塞いできたのなら、連携を取りつつ打ち倒し……。
「っ！」
　……大介が杭を突き出そうとした時、進路上にいたランサー兵が真っ二つに切り裂かれた。
　斬撃の発生源を辿り視線を向ければ……。
「合流を目指す道中、お前たちを見かけてな。進路が歪むわけでなし、拾いに来た」
　青白い水晶の刃を纏う鉄塊のごとき剣を担いだコクマ・シヴァルス（ドヴェルグの賢者・e04813）がローザマリア・クライツァール（双裁劒姫・e02948）、一比古・アヤメ（信じる者の幸福・e36948）と共に佇んでいた。
　大介とパトリシアが静かな息を吐き出していく光景を前に、ローザマリアは微笑んでいく。
「人数が多いほうが、突破も楽だしね」
「さあ、行こう。あの場所へ」
「……ああ」
　アヤメが手をのばすような仕草をすれば、大介は頷くと共に殿となる位置へと移動した。パトリシアもまた右側からやってくるランサー兵への対処を担い、進軍を再開していく。
　二人でも問題のなかった道中。それが五人に膨らめば、構成的にもバランスが取れているのなら、恐れるものは何もない！
　立ち塞がろうとしてくるランサー兵を押しのけ、時に切り裂き爆破しながら、彼らは合流地点を目指していく。
　僅かに生まれた余裕を用い、コクマが思考を巡らせ眉根を寄せた。
　かつて、コクマはコギトエルゴスムの回収を行っていた。今の奴らはまさにあの時飢えに苦しむ奴らばかりだった。
　だから……せめてその苦しみを終わらせてやるのも慈悲なのかもしれない。
「いや……其れもまた、都合の良い傲慢よ」
　自嘲気味に目を細めながら、稲妻を帯びて突撃してきたランサー兵を鉄塊のごとき剣で弾き返す。
　程なくして開けた視界の先、ボクスドラゴンの……ラジンの下。誰一人欠けることなくシエナたちとの合流を果たした。

●槍撃の嵐
　これ以上多くの仲間との合流を望むなら、目の前のランサー兵を倒してからになる。
　最初からシエナたちとやりあっていた一群と、コクマや大介たちを追いかけてきた集団を合計した数は十二体。そのうち三体のランサー兵は二本のゲシュタルトグレイブを携え、攻撃の音頭を取っている様子も見せていた。
「二本槍の奴ら、少しだけ厄介かもしれないな」
「なら、重点的に注意を払えば良い」
「違いない」
　プロデューは静かな息を吐き、共に防衛役を担うコクマと共に大地を蹴る。
　空を駆けるラジンも引き連れランサー兵たちの中心に到達し、声を張り上げた。
　――抑えることのできない思いがあった。
「拒絶されて！　それで生き残ったら満足かよ！　分からず屋共が！　なぜ歩み寄れないのだ！」
　言葉はランサー兵たちの注意を引いた。
　右から向かい来る稲妻を帯びた突撃を、足元に砲弾を撃ち込み跳ね除ける。
　前方から飛んできたゲシュタルトグレイブは握るナイフで打ち払い、直後に繰り出された連続刺突は剣を振るい弾きあった。
　傍らではコクマが鉄塊のごとき剣を軸に回転してランサー兵を弾き飛ばしている。
　ラジンもまた縦横無尽に跳び回り狙い定めることを許さない。
　三者三様の方法でランサー兵の攻撃をいなしていく中、プロデューは自分の体を暖かな力が包み込んでいるのを感じていた。
　アヤメだ。
　仲間たちの中心で治療の主軸を担うアヤメが、鎖を展開し守護魔法陣を構築。プロデューたちに加護を与えたのだ。
「誰ひとりとして倒れないことが最優先事項！　全力で支えるから……みんな、頑張って」
　元気な笑顔を見せた時、ランサー兵たちの攻勢が少しだけ弱まった。
　今こそ反撃の時が来たと、攻撃を主軸とした面々がランサー兵たちへと向かっていく。
「ヴィオロンテ、まずはあのランサー兵をお願いしますの！」
　シエナが、プロデューたちの間を抜けて孤立したランサー兵を指し示した。
　ヴィオロンテがツルクサの如き茂みに代わり、肥大化。
　そのランサー兵へと覆いかぶさっていく。
　全てはけじめと未来のため。
　スポアローカストを通じて関わった彼らに対しての。
　あるいは、共存の可能性があるアリアンナたちを助けるため！
　恐怖を、心の奥底に押し込めながら……。
　……想いは力に代わりランサー兵を締め上げた。
　動かぬ的故にローザマリアはゆっくりと狙いを定めていく。
「……せめて、最期には戦士として……」
　呼吸を止めると共に心の中のトリガーを引き、冷たき弾丸を発射した。
　ランサー兵の中心へと突き刺さり、その周囲を凍てつかせ……。
「昆虫標本にする針にしちゃデカい気はするが……まぁ、その分相手もデカいんだ。丁度良いだろ！」
　大介がドリル状に回転する杭を打ち込み、穿ち貫いた。
「一体目、っと」
　軽い手振りで串刺しにしたランサー兵を横へと退け、仲間たちの邪魔をしないよう後方へと戻っていく。
　そんな中、二槍のランサー兵と打ち合っていたプロデューが中衛のすぐ近くまで下がってきた。
　単純に弾き飛ばされただけらしく、すぐに最前線へ戻っていく。
　重点的な治療は必要ないだろうと、アヤメは周囲にも視線を走らせた。
　現段階では防衛を担う三人の被害に格差は見られない。
「……」
　頭のなかで何を成すべきかを整理した時、コクマとぶつかり合っている二本槍のランサー兵と視線が合った。
　黒き光沢を持つその瞳に理性の光は……。
「……死ぬのが怖いか。それもそうだよね」
　微かに残る光を見出し、アヤメは語りかける淡々と。
「……ボクも、死ぬつもりは無いよ」
　悲しげに目を伏せて。
　呼吸を紡ぐと共にあるべき笑顔を取り戻し――。
「そう簡単にはやらせないよ！」
　――仲間たちを支えるために歌う、高らかに。
　生きる事を肯定する詩を、元気で朗らかなメロディに乗せて。
　仲間たちが目指す未来を掴めるように。
　様々な想いを抱いている仲間たちを全力で支えること。
　それこそが、己に課した役目なのだから……。

「はいはーい、しばらくお仲間同士でお願いネー」
　パトリシアが微笑んだ時、一体のランサー兵が隣にいた個体にゲシュタルトグレイブを突き立てた。
　反射的に飛び退いたその個体を、櫻子が冴え渡るような一太刀で両断していく。
「……」
　散りゆく氷の破片が櫻子を煌めかせても、ランサー兵たちが注意を向ける様子はない。
　コクマたちが気を引き続けてくれているから。
　アヤメを中心に彼らを支え続けてくれているから。
　刀を鞘に収め、櫻子は攻撃だけに精神を集中させていく。
　同様に、パトリシアも戦場を飛び回るランサー兵たちを観察していた。
　――任務を果たそうとしてオメオメと包囲されたノハ忍者としてのプライドがめっちゃ傷ついてるサア！　次はないゼ虫ドモ。
「油断はできませんケド、順調ですネー……っと」
　二の轍踏まないために全体的な動きも記憶に収めていく中、シエナのヴィオロンテが新たなランサー兵を絡め取った。
　すかさず虹色に輝く右手をかざしていく。
「48arts No．10!」
　ヴィオロンテに囚われたランサー兵を引き寄せて、暗闇に呑まれた左手を接触させていく。
「カアアアァスド、ブライトネェス！」
　けたたましい音色を奏でていた羽が、硬質な体が、強靭かつしなやかな足が、苦痛に歪んでいるようにも思えた頭部が、軌跡を描き続けていたゲシュタルトグレイブが……全てが跡形もなく消え去った。
「さて、次は……」
「あのランサー兵ですわね」
　櫻子が大地を蹴る。
　コクマに弾かれよろめいたランサー兵を瞳の中に収めたまま。
　櫻子が辿り着く前に、そのランサー兵の足が一本爆発した。
　大介の力だろうと考えながら、羽をばたつかせバランスを取ろうとしているランサー兵の懐へとたどり着く。
「……」
　眼鏡の奥に収めた瞳を細め、刀を高く振り上げた。
　大きく息を吸い込み、止める。
　力強く振り下ろす。
　左へ飛ぶランサー兵に避けられてしまったけれど……。
「古の龍の眠りを解き、その力を解放する。桜龍よ、我と共に全てを殲滅せよ」
　桜を纏った古龍を召喚し、そのランサー兵を貫いた。
　櫻子が呼吸を紡ぐとともに桜吹雪が巻き起こる。
　ランサー兵は薄紅色に抱かれるようにして跡形もなく浄化された。
「全体的に弱ってきてるみたいだな」
「そうですね」
　大介に返答しながら退けば、別のランサー兵が後を追わんと羽ばたき始めていく。
　飛ぶ前に、パトリシアに見つめられて動きを止めていた。
　ケルベロスたちは優位を保ったまま次々とランサー兵を撃破していく……！

●未来を掴む礎に
　一体、二体と数を減らしていったランサー兵。
　やがて二本槍の個体へも手が届き攻撃を重ねていった結果、一体を残すのみの状況へと持ち込むことができていた。
　防衛役を努めていた三人の消耗も激しく、気を緩めることはなく最後の一体へと挑んでいく。
　攻撃を重ねる中、懐へと潜り込んだパトリシアがランサー兵の胴体めがけて蹴りを放つ。
「今ですヨ！」
「ええ」
　左の槍で受け止められた……受け止めさせた瞬間に、ローザマリアが鞘に収められたままの、それぞれ因果と応報を司る劒に軽く触れている腕を重力の枷から解放した。
　負けじとランサー兵が左腕の槍を構えたけれど、櫻子が踏み込み。
　一閃。
　左腕を切り飛ばし、ローザマリアの道を確保した。
「お願いします」
　返事の代わりに大地を蹴る。
　間合いの内側へと入り込む。
「Do widzenia．強き敵達。せめて、最期の刹那は戦士の矜持の中で、斃れなさい」
　一つ軌跡が描かれるたび、十を越える斬撃が刻まれた。
　二つの軌跡が重なる時、百をも越える衝撃が空気すらも震わせた。
　ランサー兵に刻まれた斬撃がいくつに上ったか、数えることなどできないだろう。
　ローザマリアが鞘に収めたままの劒から手を離した時、ゲシュタルトグレイブすらも切り刻まれたランサー兵は地に伏せる。
　ローザマリア一人、黙祷した。
　各所から剣戟が聞こえてくる。
　開幕ほどではないけれどまだまだ静寂には程遠い。
　短き祈りを捧げた後、仲間たちへと振り向いた。
「さ、行きましょ。苦戦している班を助けに……アタシ達が、ローカストと運命を共にする必要はないわ」
「ああ、そうだな。お前らもまだ行けるか？」
「仕方ありませんね」
　プロデューが頷き、櫻子が小さく肩を落としながらも了承する。
　治療は道中に行おうと、陣を組んだまま移動を開始した。
　可能ならば、説得を行っている仲間たちの近くの敵を。
　誰ひとりとして欠けることなく帰るため。
　ローカストをも救い出せる可能性を作り出すために……！

作者：飛翔優	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年6月13日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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