取り戻せ日本の心! 駆動、田植機ダモクレスッ!!

作者:刑部

 おにぎりサイズのコギトエルゴスム。
 機械の足が生え蜘蛛の様になった其れが、朽ちた廃工場の中にある鉄屑の山へと入り込む。
 暫くすると、その山の中から駆動音が鳴り響き、小刻みに揺れた鉄塊が震えると黒煙を上げながら崩れ落ち、何かの機械がせり出して来た。それは田植機。水田において稲の苗を植える機械であるが、本来稲苗が載る部分が他の機械から調達したのか、円筒状の筒がいくつも付いている。
 辺りを伺う様に機首を左右に向ける田植機型ダモクレス。
「朝はゴ飯ニみそ汁ダロ!」
 何の思念を取り込んだのか、そう咆えた次の瞬間、円筒が一斉に火を噴き轟音と共に廃工場の壁が崩れ落ちる。田植機型ダモクレスは炎を上げ崩れ落ちる廃工場を背に、街に向って駆け出すのだった。

「秋田県南部の山中にある廃工場で、田植機がダモクレスになってまう事件が発生しよるみたいや」
 ケルベロス達を前に杠・千尋(浪速のヘリオライダー・en0044)がそう切り出す。
「幸いにも、まだ廃工場から街に向って動き出したばっかりやから、ヘリオンかっ飛ばしたら、街に付く前に補足できるハズや。奴さんが街に出てまう前に、このダモクレスを撃破したってや」
 と、千尋が説明を続ける。

「ダモクレスはさっきも言うた通り田植機型……ただ本来稲苗が載る部分に砲身が据えられて攻撃力が強化されとって、それがここの廃工場から、こっちの街に向って移動し始めとる」
 机の上に広げた地図上で指を滑らせる千尋。
「で、この辺で田植機としての本能がそうさせるのか、水田に突っ込んで稲を踏み倒し回るという行動にでよんねん。ヘリオンかっ飛ばすから、奴さんが水田に入る頃には補足できると思うし、街の方にはここに続く道を通行禁止にしてもらう様に要請しといたから、今頃警察の人が動いてくれとる筈や。
 ベースとなっとる部分は田植機なんやけど、ガトリングガンみたいなぎょーさんの砲身つけとるから、イメージ的には戦車とか装甲車の方が近いかもしれへん。これをぶっぱなして攻撃してきよんで」
「田植えって事は稲の命を育む最初の事なのに、それに砲身を付けて命を終わらせるものにするなんて、許せないのです」
 話を聞いていたシフ・アリウス(灰色の盾狗・e32959)が、灰色掛かった髪から覗く犬耳をピクピクと動かして抗議する様に声を上げる。
「その通りや。しかも狩られるのは罪もない人達や。そんな事させへん為にも、このダモクレス、きっちり潰したってや」
 シフに同調して頷きつつ、千尋は説明を締め括ったのだった。


参加者
ヒスイ・エレスチャル(新月スコーピオン・e00604)
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)
リリウム・オルトレイン(星見る仔犬・e01775)
百鬼・澪(癒しの御手・e03871)
進藤・隆治(黒竜之書・e04573)
リリー・デザイア(耽美なりし幻像・e27385)
シフ・アリウス(灰色の盾狗・e32959)
天乃原・周(出来損ないの魔法使い・e35675)

■リプレイ


「田んぼニ雑草ガ、稲ヲ植エル為ニモ駆除セネバ!」
 生えているのは育った稲なのだが、田植しかしない彼にとって稲とはもっと小さい物で、今伸びているものは雑草としか思えなかったのか、道を逸れて田んぼに突入すると稲を薙ぎ倒し始めた。
「実りを待つ稲を踏み倒す田植機なんて……元のお仕事を忘れてしまったのでしょうか?」
「もう田植え機というより装甲車に見える……どこから機関砲を取ってきたんだこいつ」
 その様を、憂いを湛えた青い瞳で見つめた百鬼・澪(癒しの御手・e03871)が、傍らに寄り添うボクスドラゴン『花嵐』の頭を撫でると、腕を組んだ進藤・隆治(黒竜之書・e04573)が、もう田植の心は忘れたのだろうと嘆息する。
「やるせないですね。元は田んぼでおいしいお米を作るための田植機が、田んぼを壊すなんて悲しいことです!」
 2人の会話を聞いたシフ・アリウス(灰色の盾狗・e32959)がぐぐっと握り拳を作ると、泥を跳ね上げながらスピンした田植機が此方に気付いた様で、動きを止めて向き直る。
「田んぼヲ雑草マミレにシタのは貴様ラカ! ドウセ朝飯もパンなんだろ! 成敗シテクレル!」
 黒煙を噴き出して吼える田植機ダモクレスは、どうやら怒っている様だ。
「えーっと……この場合は『知らんがな』でいいのでしょうか?」
「失礼な! ごはんとお味噌汁もいいけど、卵かけごはんも捨てがたいっ! あとは、海苔もいいよね~」
 人々の命を守る戦いが田んぼ戦争へと縮小された感覚に、困惑の表情を浮かべたヒスイ・エレスチャル(新月スコーピオン・e00604)が長い緑髪を揺らして振り返るが、腰に手を当て無い胸を張ったシル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)が、心外なとばかりに言い返し、
「わたし朝ごはんは毎日ちゃんとたべます! 朝ごはんはパワー! でも遅刻しそうな日はごめんなさいパンです!」
 尻尾をぶんぶんと振ったリリウム・オルトレイン(星見る仔犬・e01775)が、シルに続いて元気よく手を挙げて答える。
「ご飯には漬物が好きだな。よし、この熱い思いを伝えて信者の……あれ? 相手ビルシャナだったっけ?」
 同調した天乃原・周(出来損ないの魔法使い・e35675)だったが、はたと気づいて傍らのシャーマンズゴースト『シラユキ』に顔を向けると、シラユキは杖と書物を持ったまま肩を竦めて小首を傾げる。
「お米は好きだけど朝はご飯よりパン派、牛乳と一緒にいただくのがベストだと思います」
 顔を掌で覆い、逆側の腕を突き上げる謎のかっこいいポーズをとったリリー・デザイア(耽美なりし幻像・e27385)が宣言すると、
「オウベイカー!」
 ダモクレスが泥を跳ね上げ吶喊し、その砲口が火を噴いた。


「これで汚れる心配はありません!」
 シフがコートとブーツを放り投げ、更に右足のソックスを放り投げ、ダモクレスを迎え撃つべく田んぼに突入し、シルとヒスイが続く中、
「これで少しでもみなさんを守れますように……」
 澪がくるくるっと回したライトニングロッドを突き出すと、迸る迅雷がスパークする壁となって展開しダモクレスの進行を阻もうとするが、
「ヒャッハァーーー!」
 砲弾を撃ちながら容赦なく突っ込んで来るダモクレス。
「田植だから真っ直ぐなのね。だったらこっちもやり易いってもん、よっ!」
 リリーは迫って来るダモクレスに対し、両手に構えた九尾扇を振り下ろすと、大地を裂くが如き烈風が、泥を飛ばしながらダモクレスを撃ってその吶喊を押し留めたところに、隆治の轟竜砲が爆ぜ、箱に入った花嵐が突っ込んだ。
「オ米喰エ!」
 それらを受けたダモクレスも砲門を開き、嵐の如く弾丸を撃ち放って反撃してくる。
「いくら憎悪が振り撒かれ壁を切り裂こうとも、防いでみせます」
 護結のオーラを纏う澪が再び雷壁を展開し、シラユキも祈りを捧げて回復を後押しする。
「天乃原さん、リリウムさん!」
 飛び蹴りを見舞おうと跳躍した周とリリウムに砲口が向くのを見たシフが、泥を跳ね上げ蹴り抜いた脚から星型のオーラが飛び、放たれた弾丸が逸れると、2人に続いて虹を描いて降下したリリーが、
「この衣装でこれじゃサービスし過ぎね。ま、貸しにしといてあげるわ」
 と小さく舌を出し、踏みつける様にしたダモクレスから跳び退いた。

「凄いですね。綺麗なスーツがあっと言う間に泥との斑模様です。えぇ、怒ってなんかいませんよ。予想されていた事態ですし」
 敵の攻撃は元より、前衛で如意棒を振るうヒスイには、後ろからの味方による攻撃でも跳ね上げられた泥によって、その衣装を汚しており、
「ああっ!? ぬかるんで進めないぃー」
 隣では泥が詰まって回らなくなった白銀戦靴『シルフィード・シューズ』のローラーに、視線を落としてボヤいたシルが、ダモクレスに拳を叩き込む。
 そこに余勢を駆ったリリウムの放つドラゴンの幻影と隆治の放ったバスタービームが爆ぜ、ダモクレスにダメージと、前衛で刃を交える味方に泥を浴びせる。その泥を弾き返す様に九尾扇を振るうリリーらに対し、
「次々ト調子ニ乗ルナ!」
 ダモクレスは急激にスピンして前衛陣の足を轢き、泥を撒き散らして距離をとる。澪が直ぐに回復を飛ばす中、
「……スクラップにすんぞコラァ……」
 自分の髪に手をやったヒスイは、その手にべったり付いた泥からダモクレスに視線を向け、ヤンキーばりのメンチを切ると、シフと周の攻撃を回避しようとするダモクレスを思いっきり殴りつけ、霊力を網状に放出して絡めとる。
「! ……足が止まった。思いっきり全力で行くよっ!」
 シルの背に2対の光翼が顕現し、向けた両掌から放たれた高威力のエベルギー波がダモクレスを大きく穿つ。

 杖を掲げたシラユキが静に祈りを捧げ、汚れは落ちないが穿たれた傷を癒す中、
「ぼくに、できることなのなら」
 宙に漆黒の髪を躍らせた周が重力を載せた重い蹴りをダモクレスに見舞う。しかし、周が跳び退さるより早く、
「狙点固定、発射ッ!」
 角度を微調した砲身から放たれる幾重もの弾が周を穿ち、吹っ飛ばされ汚泥に落ちる周。
「やってくれる。澪ッ回復を!」
 一瞥だけして視線をダモクレスに戻した隆治は、澪に回復の指示だけ飛ばすと狙いを定めて轟竜砲を撃ち放つ。それが爆ぜたところにシルとリリーが押さえ込む様に挟撃を見舞い、
「まだまだなのです。いっけぇー!」
 獣耳をぴくぴくさせたリリウムが掌を向けると、ドラゴンの幻影がい出てダモクレスを包む火勢を増大せしめ、泥を焼く嫌な匂いが広がり、続くヒスイの放った黒影弾を受け砲身の1つがへし曲がる。
「……大丈夫だよシラユキ」
 心配そうに覗き込みながら祈りを捧げるシラユキを見て、そう声を掛けた周が起き上がると、シラユキは飛ばされた際に落ちたのであとう『藤の花の栞』を拾い渡す。
「十分攻撃は当たる様になりました。次はこれです」
 シフの攻撃を受けて部品の一部を剥がされたダモクレスを見たリリウムが、大きく振り庇った大鎌を投じ、ダモクレスの防御力を削りに掛ると、花嵐のブレスがそれを追う様に浴びせられ、
「見えた。そこだ!」
 剥がれ飛んだ装甲によって見えた駆動部の軸目掛け隆治の放ったピンホールショット。
 その一撃を受けた軸からベアリングの玉が跳び散り、明らかにダモクレスの機動力が落ちたのである。


 足回りを中心に重ね掛けられたバッドステータスにより、当初の機動力を大幅に削られたダモクレス。対するケルベロスも出したくなかったのか、しかめっ面で出した翼で宙に浮く隆治とて例外では無く、全員泥塗れになってそのダモクレスを半包囲下においていた。
「オノレ……オノレ、オノレ、オノレ!」
 それでもダモクレスは動き難くなった体をぎこちなく回転させながら、その砲口から弾丸を撒き散らす。
「遅い遅い。そんな弾ハエが止まるんじゃないの?」
 泥に沈む前に次の足を出せと言わんばかりの動きでマフラーを棚引かせたリリーが、ウインクして一撃を叩き込んだのを皮切りに、距離を詰めるケルベロス達だったが、そうはさせじと砲口を向けるダモクレス。……だが、
「多数相手に視野狭窄に陥るのは感心しない」
 田んぼの上を滑る様に移動し、ダモクレスの側面につけた隆治のアームドフォートが火を噴き、横撃を見舞われたダモクレスの動きが一瞬止まる。
「流石だね。ぼくも負けてられないな」
 その隆治を一瞥した周が紐解く『lux de petra nephritica』。
 宙に映し出される物語を見ながら袖口から淡い光が漏らす掌を向けると、水晶剣の群が時空を突き破って現れダモクレスに襲い掛かる。
 それでも弾幕を張ったダモクレスも流石で、水晶剣とぶつからなかった砲弾が降り注ぐ。
「最後の足掻きというやつでしょうか? でも、させないのです」
 リリウムを庇う様に澄まし顔の見せる花嵐の姿に、少しだけ口角を上げた澪が雷壁を張って降り注ぐ砲弾を押し留め、それを越えて爆ぜた者には直ぐにシラユキが祈りを捧げた。
「撃ち合いなら負けませんよっ。動けなくなった敵を撃つなんて赤子の手をひねる様なものです」
 飛んで来た砲弾を可変式攻防光盾で防いだシフが、くるっと回ってスカートの裾を躍らせると、アームドフォートをぶつ放す。その砲撃と共に距離を詰めたのはリリウム。
「ほーむらーーーーぐわー!!」
 リリウムはくるくると振り回したドラゴニックハンマーを叩き付けようとしたのだが、泥に足を取られてつんのめり、叫び声を上げて顔から田んぼへ突っ込んだ。しかし距離は詰まっていた為、鎚頭は丁度ダモクレスの先頭部に思いっきり振り下ろされる形になり、ガゴーン! と金属同士がぶつかる大きな音が響く。
 その間、目を閉じてずっと集中していたシルが、カッと目を見開いた。
「焼け焦がし大地に力を与える炎よ、稲を育む清らかなる水よ、移り往く季節を運ぶ風よ、その全てを受け容れし大地よ。それぞれの力、混じり重なりて、それを阻害する目の前の障害を撃ち砕けっ!」
 向けた両掌から迸るエネルギー流が、リリウムの一撃によりふらふらになったダモクレスの体を穿ち、黒煙を上げながらその体が傾く。一直線に伸びその黒煙を貫く如意棒。
「これが画竜点睛です」
 そう言い放ったヒスイの前で、貫かれたダモクレスの体が痙攣する様に震え、
「ヒ……グ……」
 何かを言おうとしたところで小さな爆発を起こして動かなくなったのだった。

 隆治が翼を格納して背中を気にする中、
「泥もまぁ汚れはしましたがそれほど影響はなかったですね」
 シルが渡してくれたタオルで髪を拭きながらヒスイが笑顔を浮かべる。
「田んぼにヒールって効くのでしょうか?」
「……散らばった金属部品を回収してあげた方が良さそうです」
 タオルで顔を拭くリリウムが振り返ると、そのタオルをくれた澪が花嵐の体を拭きながら応じる。
「そうよね。とりあえずダモクレスの残骸は田んぼから引き上げましょう」
「畝が壊れていると大変だから、僕はそっちを見てきます」
 リリーが音頭をとり、再び田んぼに入る中、シフは水田の壁となる畝が壊れていないか確認に回る。
「あーあー、真っ白いハーフコートが……」
「後でクリーニングしてやる」
 既に茶色のハーフコートと化したそれを見てボヤいた周に隆治が声を掛け、皆と一緒にダモクレスの残骸を運び出す。
「多めに持って来ておいて良かったよ」
 その皆に離れた所に置いていたタオルを配るシル。
 そのタオルで体を拭きながら、笑い合うケルベロス達。
 こうしてケルベロス達は秋田県の南部に現れた田植機型ダモクレスを駆逐し、帰路についたのである。

作者:刑部 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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