●かれらの選択
飛騨山脈・奥地。
地下深くへと延びる螺旋通路をローカスト調査隊は行く。
……ここ数ヶ月、地上ではローカストの動きが全く観測されていない。
そのことから、春花・春撫(プチ歴女系アイドル・e09155)はある仮説を立てた。
ローカストはコギトエルゴスム化した状態で休眠しているのではないか、と。
この説に賛同したケルベロス達が調査隊を編成し、ローカスト達の足跡を求め飛騨山脈を虱潰しに探索した結果、発見したのがこの通路だ。
自然に出来上がった物ではない。明らかに誰かが何かしらの目的で――恐らくローカストがその身を隠すために作り上げたものだろう。
前後左右、通路をぐるりと見渡しても、静かなもので、調査隊以外の気配は感じられ無い。
「ローカストのコギトエルゴスムを集めて持ち帰る事ができれば、ヴァルキュリアのように仲間にする事ができるかもしれないですよね」
春撫の言葉に調査隊の面々は頷いた。
螺旋通路が終わり、一同は大きく開けた半球状の空間に辿り着く。
恐らくはコギトエルゴスムを収納するためのものだろう、壁面には無数の窪みがつけられ、ドームの中央では何らかの装置が小さな駆動音を立てながら動き続けていた。
いうなれば、ここはコギトエルゴスムの保管庫――いや、ローカスト達の寝所なのだろう。
全員がコギトエルゴスム化しているのなら……彼らを目覚めさせるのはこの装置の役目だろうか。
デウスエクスのコギトエルゴスム化を解くにはまとまった量のグラビティチェインが必要だ。
推測だが、この装置は自然界にあるグラビティチェインを集積・貯蔵し、それを用いて彼らを蘇生する為のものではなかろうか。
だとすると気の遠くなるような話だ。自然界に存在するグラビティチェインは極々少量しかない。復活必要量まで集めるとなると、数万年単位のスケールの計画だ。
気の遠くなるような話だが、不死なる存在ならば、そう大それたプランではないのかもしれない。
これがかれらの選択で、事は計画見通りに進んでいるのなら、これ以上の干渉と調査は不要だろう。すぐに立ち去るべきだ。
●想定外
……だが、そうはいかなかった。
壁面を調査していたメンバーが異変に気づく。
――安置されていたはずのコギトエルゴスム、その殆どが壊れてしまっている。
外部から何者かが調査隊以前に侵入した形跡はない。
となると、コギトエルゴスムは独りでに崩れたことになる。
一度定命化に罹ってしまえば、コギトエルゴスムの形を取っても無意味、だったのだろう。
崩れ去ったしまったコギトエルゴスムを修復することは出来ない。しかし、それでも……まだ『生きている』ものがあるかもしれない。
調査隊は急ぎ手分けして壁面を調べ、そして――。
●繰り返す
突如、寝所中央の装置が大きく鳴動する。
すると装置は何一つ躊躇することなく、何かしらの――恐らくローカストと言う種の存続に関わる判断に基づいて、貯蔵していたはずのグラビティチェインを一気に吐き出し爆発四散した。
そして生きていた少数のコギトエルゴスムは放出されたそれを浴びて人の形をとり……定命化末期状態のローカストの眼前に在ったものは、極上のグラビティチェイン達だった。
アレを喰らえば、生き延びられる。
蘇ったローカストの一体がそう言った。
人を襲い、拒絶され、憎悪されるのだ。
餓えるローカストが呪言を吐き出す。
我等が生き延ビル術は、他に無イ。
死にもがくローカストが息も絶え絶え此方に近づく。
「やめろ! 今更お前達と戦うつもりでここに来たんじゃない! お前達だって……そうだったんだろう!?」
誰かがそう叫んだ。しかしローカスト達は止まらない。
彼らの計画は失敗に終わった。此処で歩を止めれば、ケルベロスを殺めなければ、種族は全て死に絶えてしまうと、そう考えているのだろう。
飢えるかれら。対するわれら。
幾度となく繰り返してきた光景だ。
結局……ローカストが全て滅びるまで、この有様を繰り返すしかないのか?
此方の言葉は、飢餓と種族の死に恐怖するかれらには届かないのか?
時間は待ってくれはしない。
かれらは今まさに、われらの命を食もうとにじり寄る。
……どうであれ、此処で死ぬわけには行かない。調査隊の面々は意を決し武器を持つ。
誰も知らない地下の空洞で、ローカストの運命が定まろうとしていた。
参加者 | |
---|---|
シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374) |
アイラノレ・ビスッチカ(飛行船乗りの蒸気医師・e00770) |
セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887) |
クゥ・チコット(シリウスの輝き・e02402) |
文丸・宗樹(シリウスの瞳・e03473) |
ルーク・アルカード(白麗・e04248) |
チェレスタ・ロスヴァイセ(白花の歌姫・e06614) |
霧島・トウマ(暴流破天の凍魔機人・e35882) |
●防衛
彼方から、命を求める狂騒(こえ)が聞こえる。
其方から、命を求める説得(こえ)が聞こえる。
また何処からは、宿縁の終わりを求める剣戟(おと)が聞こえた。
(「……んー。なんつーんだよ、この状況」)
寝所に満ちる因果を掻き分け進む霧島・トウマ(暴流破天の凍魔機人・e35882)の胸中は、はっきりしない灰の色。
(「前までの俺なら阿呆らしくてそのままふっ飛ばしてたけどなァ……」)
日頃の、嵐の如き気性は鳴りを潜め、かと言って、凪の日の水面の如き平穏さとも程遠く。
レプリカントとなって日が浅いが故か、自分が抱く白とも黒ともつかない感情は、自身で上手く飲み込めない。『人の心』と言うものは、どのような精密部品よりも複雑で怪奇的な代物なのかもしれぬ。
疾走の果て、ケルベロス達は自班の目的であるアリアンナの姿を見つける。此方に先んじて接触に成功した班もいるようだ。
此方も彼らに加勢しようと踏み出した矢先、そこへと這い寄る複数の影がある事に気付く。
様子を見つつ、トウマが大量の紙兵を散布する。
この場面で横槍が入れば、例えどれほど優れた説得であろうと成功し得ない。
ならば……防波堤が必要だろう。
そう判断したケルベロス達は近寄る影――蜂雀(ほうじゃん)と呼ばれる芋虫達の進路を塞ぐ。
数は四。皆酷く餓えている様子で、見ていられない。
だからまず……アイラノレ・ビスッチカ(飛行船乗りの蒸気医師・e00770)は蜂雀達へとヒールを試みる。
「私も定命化し永遠の命を失いました。いつか必ず死ぬでしょう。けれどそれが終わりではないのです」
アイラノレが戦場に響く澄んだ声で滔々と語り始めると、蜂雀達の動きが止まった。
此方に敵意は無いと感じ取ったのかもしれない。
傷を癒す優しい雨の中を、魚の形に変じた彼女のオウガメタル・ネスリーが跳ねる。言葉を発することが出来ない分、身振りで彼女の助けになろうとしているのだろう。
「抱えた想いや矜持はこれからの世代に受け継がれ、同胞の中に息づいていく。死ねば全て無になるわけじゃない」
アイラノレは真紅の水晶を蜂雀達に差し出す。それはグラビティチェインを封じ込めた逸品だったが……残念ながら、彼らの興味は薄いようだ。
ふと、宙を揺蕩う幻想魚の数が増える。
優雅に泳ぐそれは、クゥ・チコット(シリウスの輝き・e02402)が喚び出した水の精霊、泡沫の水魚だ。
「地球にも皆さんの好きそうな魅力が沢山ありますよ、一緒に好きになれる所考えてみませんか?」
どんな小さな切っ掛けでもいいから、まずは説得の糸口が欲しい。
クゥは穏やかな笑みを湛え、良く通る声で蜂雀達に近付くと、あらかじめ持ち込んでいた物品を彼等の前に広げる。
蜂雀達が強い興味を持ったのは食料品で、直ぐに平らげてしまった。
……これで彼等の飢えが満たされるなら、どれほど幸福だったろう。
チェレスタ・ロスヴァイセ(白花の歌姫・e06614)は蜂雀達に向けて歌う。旋律に魂を乗せて届けるそれは、生きることの罪を肯定するメッセージだ。
チェレスタが歌いながらメモリーコクーンを起動させると、コクーンは空中に小さな映像を投影する。
そこに映し出されていたのは、かつて惑星レギオンレイドが華やかなりし昔日の、豊穣なる大自然。
それを見た――或いは極限の飢えがそうさせたのかもしれない――蜂雀達は動き出す。
シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)はそんな彼らを制し、割り込みヴォイスも使用して、声高らかに宣言する。これまでのことは水に流そう、と。
「地球に帰化するのであれば、この私が最低限の衣食住を保障しよう!」
この後の生活に関してシヴィルは重点的に語るが、彼女の言葉を聴いても蜂雀達は最早止まらない。
此方に敵意が無いと、それは彼らも十分に承知している筈だ。
ヒールが有効である様子はない。癒せぬ飢えが正常な思考を奪い取ってしまっているのか。
ここから先、刃を交えずに言葉を交わすことは出来ないだろう。
シヴィルとて、ローカストを救いたいと言う気持ちに変わりはない。変わりはないが、その為に自分達が倒れてしまえば、ケルベロスを応援する全ての人々を裏切ることになってしまうのもまた事実だ。
太陽の騎士は、勇気と高潔さを携えて、力なき人々を守るために威風を纏う。
「……仕方がない。切り抜けるぞ!」
ここで倒れる訳には、いかない。
●交戦
彼らに敵意は無い。
あるのはただ、飢えを満たしたいという衝動だけ。
それ故か、振るう剣の切っ先が、セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)へ伝えるのは、彼等と戦う事の虚しさのみ。
「元は敵対していたヴァルキュリア達が定命化したのは、ザイフリート王子が一旦彼女達を殺してコギトエルゴスム化し、私達が地球の事を多く語り、蘇生儀式によって甦ったからです。あなた達も同じ方法で救えるのかは分かりません。ですが……」
色々な方法を出来得る限り試す価値はあるとセレナは考える。
だからこそ。彼等には正気を取り戻してほしいと願うが、彼等からの返答は我武者羅な突撃のみ。
その突撃がセレナに接触する寸前、文丸・宗樹(シリウスの瞳・e03473)のボクスドラゴン・バジルが割って入って受け止める。セレナを庇ったバジルは、誇らしげな様子で『ギャ』と、一鳴きした。
「拗れなければそれでよかったんだが……どうあれ、俺は手を貸すだけだ」
説得か殲滅か、現状どちらに転ぶかはまだわからない。それ故、気質から味方の守護を重視した宗樹が手に持つ爆破スイッチを押し込むと、種々の色を纏った彩煙が爆発と共に立ち昇り、前衛の士気を高めた。
「俺はアンタたちを憎む事も、友好的な態度を取る事も今は出来ない。本当に生きたいなら、友好的なやつらの声を聴け。許容してくれるやつが以外といるみたいだしな」
蜂雀達の意識を誘導するように、宗樹はゆっくりとルーク・アルカード(白麗・e04248)へと視線を運ぶ。
ルークの姿を認めた一匹の蜂雀が我先にと剣のように鋭い牙を伸ばし襲い掛かるが、それに対してルークは手加減攻撃で応じるに留める。
白麗の毛並みを伝う血の線が一筋、二筋。
「グラビティチェインを得て、生きていく為なら閉じ籠もらずに人を襲うのもできたはずだ……きっと、やりたくないからここにいたんだろう? そんな優しい気持ちがあるなら今からでも遅くないはずだ」
ウェアライダー。ヴァルキュリア。地球を脅かしていたデウスエクスが定命化を受け入れて、そのまま住み着いた例は数多くある。
なら、ローカストも……。
「最初の障害は大きいだろう。それを超えた先にはローカストとしての自由があると思う」
蜂雀が呻く。少女を象った尾角が揺らめいた。
聞こえてはいる。
……それなのに。
●はたせなかったもの
ヒマワリのスタンプから発射された砲弾の、その射線を塞いで自ら味方の盾となった一匹の蜂雀に、シヴィルは何時かの光景を重ねる。
あの時も、ローカスト達は互いを庇い合っていた。
本能的な行動か、いや、飢餓に晒され乍ら、それでも仲間意識は確固としてあるのだろう。
「貴様らの魂は飢餓に負けてしまうほど弱いものだったのか? ここで私たちを喰らっても、運命は変わらないぞ。仲間たちと一緒に生き延びたいのであれば、冷静さを取り戻すんだ!」
隣人を愛する概念があるのであれば、地球を愛することだって不可能では無い筈だ。
彼らに僅かな理性の光を見出したシヴィルはそう発破をかける。
チェレスタもまた、過日の約束を思い出す。
鎖による守護魔法陣を構築する彼女の掌中に、あの時すくいあげたはずの命は亡い。
……無いのだ。
現在、『そう』する理由はない。だがあの時は――。
個人の情動や感傷は、大多数の人間が下した酷く冷たい合理的な判断に抗えず、
人は。
あの後。
回収したコギトエルゴスムを。
「最期まで仲間のことを案じていた『彼』も、そしてあなた方も、ただ生きることに必死だっただけで……」
チェレスタは、絞るように声を出す。
あの時結んだ『彼』との約束は果たされず……しかし、それでも……歩を止める訳にはいかない。
「同胞を愛するその気持ちがあれば、私たちはきっと、共に手を取り合って生きる事ができると信じます。もう憎しみあい奪いあわなくても、大丈夫だから……私たちは今、この地球で共に生きる『仲間』です」
歩を止めれば、きっと全てが嘘になってしまう。
『彼』を……広島で倒れた筬虫を知るアイラノレの『ココロ』も軋む。
再び、戦場に雨が降る。
いのちをすくうことは出来なかった。
けれど、死を前にし、それでも最期に同胞を想い、自分達に仲間を託した彼の遺志は……アイラノレ達を通じて今、この場に繋がっている。
決して無意味のものなんかじゃない。
「愛する家族や友の飢えて苦しむ姿より、この豊かな星で生きる姿を見たくありませんか?」
神様みたいに全てをすくうことはできないと解っているが、それでも彼らを救いたい。
クゥがフェアリーブーツを履いて軽やかに踊れば、花びら型のオーラが前列に舞う。
「同胞や家族と平和に暮らしたい気持ちがあれば共存できるはず。怖がらずに落ち着いて、そしてお互いに歩み寄れたらすごく素敵なことなのですよ」
豊かだったころの故郷での生活同様に、彼等には地球でも穏やかに暮らしてほしいと願う。
けれどもそんなクゥの願いとは裏腹に、蜂雀達は止まらない。
再び一匹がルークに狙いを定めると、分身をかぎ分け、今度は思い切り噛みついてきた。
命を啜る音がする。飢えた蜂雀は貪欲だ。失血からか、徐々に意識が遠退く。それでもルークは懸命に説得を続けた。
「で……出会いも最悪で……最初は俺達が怖かっただろうが、争う原因であるアポロンはもういない……本当は戦いなんて望んでないだろ? 俺達はローカストを仲間として、同胞として迎えたいんだ!」
或いは、この行動の『先』にあるものが最も正解に近いのかもしれない。
「ルーク!」
だがそれは即ち、命の無償譲渡だ。これ以上は看過できぬと宗樹は駆け出し、ルークにへばりつく蜂雀を引きはがす。
「……改めて、ケルベロスはお人好しばかりだな。まぁ、そこがいいんだろうが」
そして宗樹は指先に青の光を集め、収束した青光は、一滴の雫となってルークの傷口に零れ落ち、青い波紋を描いて癒す。
「あァ、全くだ」
セレナの緊急手術を終えたトウマが大きく頷く。
「自分でいうのもナンだけどよ、俺みたいな問題児まで受け入れちまうのがこういう地球って場所な訳だよ」
トウマは今の蜂雀達の状況を示す様に拳を強く握り、
「戦って抑え込んでそれで生き延びるのがお前らの本位ってんなら、こっちだって相応に応じねぇと駄目なんだよ。つーか今そんなんだろ?」
でも本心じゃねぇ、殴り合いたくねぇってんなら……そう続けながらトウマはゆっくり拳を解き、
「どうするにしろ、お前らにゃ考えることが出来んだろ。自分が生き残ることだけが種族存続への道な訳がねーんだからさァ」
解いた手を蜂雀達へと差し伸べる。それは、トウマ本人も知らずの内に取った、無意識の動作だった。
「戦士の最後の矜持として、死ぬまで戦いたいのなら応じましょう。ですが、僅かでも生きたいという思いがあるのなら、剣を収めてください」
決してあなた達を騙し討ちしないと、騎士として誓いましょう。
セレナが凛と発したそれは、謂わば最後通牒。
剣を構えるも、どうか退いてくれと一縷の望みをかけて目を瞑る。
彼等を救いたいと思う心と、それで他の者達の命を必要以上に危険に晒す事は出来ないと、暴走すら厭わぬ思い。
何て未熟と、独り言つ。
さだめの時は訪れる。
彼らは一歩も退かない。
ケルベロス達は、覚悟を決めなければならなかった。
……故に。
「我が名はセレナ・アデュラリア! 剣を捨てられないというのならば、相手となりましょう!」
●情動
影遁によって作りだした分身は掻き消えて、ルークは既に蜂雀の背後を取る。
せめて一撃で送ってやるべきだろうか。振り下ろすナイフの軌跡が、嫌にはっきりと見えた。
ルークの斬撃で致命傷を負った蜂雀に、チェレスタはペインキラーを投与する。
飢えを誤魔化すことは出来ないだろうが、せめて、痛みだけでも。
消えゆく蜂雀は、笑うように鳴いていた。漸く飢えから解放されるのが嬉しいと、その声色は語った。
古代語魔法を操るシヴィルが無数に生み出した光の羽は、即ち一つ一つが敵を穿つ光の矢だ。
空を疾る無数の矢は最終的に蜂雀へと収束し、セレナが太陽の如く燦々と輝くそこへ意識を集中させると、陽は爆ぜ命は沈む。
沈みゆく蜂雀は、激怒を持って唸っていた。それはケルベロスに対する怒りでは無く、こんな状況に陥った自分たちの不甲斐なさに怒っているのだと、声色は語った。
トウマの掌中で渦を巻いていた風は螺旋力を帯びて嵐となり、掌を離れ怒涛に変じ吹き荒ぶ。出来上がった乱流を、槍の如く叩き付ける。その技の名は嵐獄槍:貪狼。
嵐に翻弄され宙を錐揉む蜂雀。嵐の終わりに流星が煌めいて、アイラノレは彼を正確に蹴りぬいた。
眠りゆく蜂雀は、悲哀のままに泣き叫ぶ。
崩れた命。命を集積するマシン。
自身の体を動かしていた命の正体を知り悲鳴を上げたのだと、その声色は語った。
そして最後。クゥの創り出した光球は宗樹に宿り、シリウスの輝きを得た青色の瞳は、天駆ける狼の如く閃いて、
宗樹が拳に纏うオウガメタル・プル越しに感じるのは、徐々に消えゆく命の鼓動。
「……恨みたければ恨めばいい」
バジルは陣形を崩し、宗樹の肩に飛び移る。
その光景は、戦いの終わりを意味していた。
「依頼が来れば俺は、俺の守る人達の為にアンタ達と戦う」
その言葉を聞いた死にゆく蜂雀は、幽かに身じろいで首を横に振り……。
「……ア、リ、が……ト」
喜怒哀楽。彼らの死に際にそれがあったと言う事は、説得によって多少なりとも飢餓を振り切ることが出来たと言う事だろう。
その上で、彼らはそれぞれの最期を選んだのだ。
……そして、今回の作戦で重要だったのも、恐らく理屈より情動だ。
一年前を思えばなんと皮肉な話だろうか。
アイラノレは表情を変えず、しかし血が滲むほど強く拳を握る。
自分が救いたいと思ったのは、こういう人たちであったはずなのに。
やりきれない、胸に渦巻く感情のまま、トウマがそう零す。
けれども、僕達はやるべき事をやったのです、とクゥは言う。
それを証明するかの様に、緑の光が地下を照らし、アリアンナをはじめ、説得に成功したローカスト達がコギトエルゴスムに戻る。
その数は十にも満たないが、それでも――。
ローカスト達の未来はまだ、潰えていない。
作者:長谷部兼光 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年6月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 8
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