ローカスト調査隊~哀しみのローカスト

作者:沙羅衝

 ガサゴソガサゴソ……。
「んー。何か出てきてほしいなあ……」
 ここは飛騨山脈。富山県、新潟県、岐阜県、長野県を跨る大きな山脈である。ケルベロス達は、ここでローカストのコギトエルゴスムを探していた。
 というのも、ここ数ヶ月間、ローカストの動きが全く無くなったということから、これは既にコギトエルゴスム化した状態で休眠に入ったのではないかと予測されたからだ。その説を提唱した春花・春撫(プチ歴女系アイドル・e09155)を先頭にして、飛騨山脈を虱潰しに探しまわっているのだ。
 飛騨山脈にスポットが当てられたのは、幾つかのローカストの足跡が残っている箇所が多く見つかった為だ。
 ケルベロス達の調査は途方も無かったが、とうとう、調査隊のケルベロス達は奥地に巧妙に隠された、ローカストの秘密基地を発見したのだった。
 その場所は、ひっそりとしており、何も動く気配はなかった。
「ローカストのコギトエルゴスムを集めて持ち帰る事ができれば、ヴァルキュリアのように仲間にする事ができるかもしれないですよね」
 春撫が漸く見つけた基地をみて呟く。
「さ、いってみようぜ!」
 疲れた表情も見せず、奥に突入していく調査隊。入り口から地下に続く長い螺旋の通路を抜けたケルベロス達は、地下深くで大きな空間に出た。その空間は直径数百メートルの半球状で、壁一面に丁度コギトエルゴスムが収納できるような、小さなくぼみがつけられていた。そして中央部には、謎の装置のようなものが僅かながら動いているようだ。その雰囲気は荘厳であり、大聖堂の遺跡のような空気を発していた。
「なんだろ……これ?」
「前々から気になっていたんだが、コギトエルゴスムにある程度のグラビティ・チェインを与えると、デウスエクスは復活するらしいな。ひょっとすると……」
「集積装置!?」
「さあな、確証はないがな……」
「しかし、ローカストのグラビティ・チェインの集め方は、大体がじわじわとした物でした。どれくらい、かかるのでしょうね」
「全く、気の長い話だな」
 中央の装置を見ていたケルベロスがそんな話をしていると、壁を見ていたケルベロス達がざわついているのに気がつく。
「どうした?」
「これを、見てください!」
「これ……は!?」
 一人のケルベロスが手を差し出す。それは、崩れ去ったコギトエルゴスムだった。詳しく調査をすると、殆どのコギトエルゴスムが窪みの中で崩れ去っていたのだ。
「どういう事だ? デウスエクスは不死では無かったのか?」
「自然に……崩れた。のでしょうか?」
 そう言った予測を立てるが、答えは出るはずも無い。
「おそらくですが、コギトエルゴスム化した時には既に定命化が始まっていたのでしょう。そして、コギトエルゴスムのまま定命化した事で、コギトエルゴスムが崩壊したと考えれば、辻褄が合います」
「ふむ。確かにそれはあるかもしれん……」
 ただ、それもまた推測に過ぎない。ケルベロス達は他に無事なコギトエルゴスムを探してまわろうとした。
 だが、突如として中央の装置が振動する。
「なんだ!?」
 驚くケルベロス達。だが、為す術も無くケルベロスが見つめる装置からグラビティ・チェインが放出され、爆散した。
 そして、その爆散した方向から、むくりと影が起き上がってきた。それは蘇生されたローカスト達であった。
「グラビティ・チェイン……だ」
「アレを喰らえば、生きノビられる」
「グラビティ・チェインを喰ラエ。そして、ヒトを襲い、憎マレ拒絶サレるのだ」
「ワレらが生き延ビル術は、他ニ無イ……」
 そのローカスト達はそう言いながら、ケルベロスに向かって牙をむける。
「糞! 囲まれたか!?」
「集まれ! そして隊列を整えるんだ!!」
「話し合い……は、無理そうか!?」
 一人のケルベロスが、武器を構える。
 ローカスト達の目の光は、死に物狂いである事を物語っていた。


参加者
九石・纏(鉄屑人形・e00167)
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)
黒住・舞彩(鶏竜拳士・e04871)
柳橋・史仁(黒夜の仄光・e05969)
クローディア・ワイトマリア(ムネノコドウ・e19278)
イヴリン・アッシュフォード(アルテミスの守り人・e22846)
鍔鳴・奏(弱モフリスト・e25076)
水瀬・麗奈(風の音は空の彼方へ・e33351)

■リプレイ

●生と死のはざまで
「ちょっとまった!」
 無事なコギトエルゴスムを探していた平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)は、周囲の雰囲気に気がつき注意を促す。
「どうやら、ローカストが出てきたみたいね……」
「そうみたい、だな」
 周囲を見渡していた黒住・舞彩(鶏竜拳士・e04871)の声に、九石・纏(鉄屑人形・e00167)が答える。辺りからは、戸惑いながらも戦闘の音が聞こえ始めていた。
「どうする? 何処かに加勢するか?」
 柳橋・史仁(黒夜の仄光・e05969)がそう言った時、その後方にあった岩の陰から白い姿が出現し始めた。
「柳橋! 後ろだ!」
 ギィン!
 鍔鳴・奏(弱モフリスト・e25076)の声にはっとした史仁が、その白と淡いピンクの鎌を避ける。
「わわっ!? いきなりそんなのってアリですか!?」
 水瀬・麗奈(風の音は空の彼方へ・e33351)はそう言うと、素早くヒールドローンを前衛に展開していった。
「っと、取り敢えず防御を固めます!」
 ケルベロス達はいきなりの攻撃ではあったが、ここは敵が何時襲ってくるかもわからない場所。常に警戒は怠ってはいなかった。
「奏、私が前に出る」
 イヴリン・アッシュフォード(アルテミスの守り人・e22846)が奏に話しかけながら、ヒールドローンを展開し、前に出る。
「分かった、頼む。モラも前に行こうか。それとクローディアは後方から。……無理は、しないようにね」
 すると、奏のボクスドラゴン『モラ』が、イヴリンの横に並んでいく。
「奏君が居るから大丈夫と言いたいけれど。……そうね、無理はしない程度に頑張るわ!」
 クローディア・ワイトマリア(ムネノコドウ・e19278)は、ビハインドの『ナギィ』とともに奏の言葉通り下がる。
「……とは言っても、どう、するかな。色々とあった相手だけども、少なくとも今、本当に生きたいのか。……実は死にたいのか」
 纏はそう言いながら、自分もヒールドローンを展開していった。
「仲間にできるのなら、もちろん素晴らしいし、嬉しいよね……」
 和の言葉はその程度の違いこそあれ、ここに居る全員の気持ちだった。出来るだけ耐える。そして、自分達の言葉を聞いて欲しかった。
 それが、この調査隊に加わった動機であり、本心だった。
 しかし、相対したハナカマキリのローカスト『オーキッド』の眼は、赤く怪しげな光を携えながらいきなりイヴリンに噛み付いたのだった。恐らく、既に意識などない。生と死のはざまで何とか生をむさぼりつくことだけが、オーキッドの意思のように思えた。
 哀しい戦いの、始まりであった。

●本能
「もう貴方達は、地球を愛せなければ死ぬか殺されるの!」
 舞彩が周囲の喧騒に負けないように、割り込みヴォイスで必死の呼びかけを行う。だが、その決死の呼びかけにも、オーキッドは怯む様子も無く突っ込んでくる。
「生きたいなら、本当に生きたいなら……話を……話を聞け!」
 オーキッドの花を模した鎌を避けながら、グラビティの攻撃ではない、唯の頭突きで応戦する舞彩。
「ドワーフも元々重力鎖に囚われて定命化してしまった種族だ、不死者なら死はさぞ恐ろしかろう」
 史仁はそう言って、オーキッドに自らの気力を与える。
「だが心配するな結果はこの通りだ、何とかなる!!」
 しかし、そのヒールの力はオーキッドには届かない。
「俺達が必ず救ってやる! だから、俺達の話を聞け!」
 和は史仁のヒールの力が何故届かないのかを考えながら、それでも話しかける。
「死が怖いのなら話を聞け。俺達ヴァルキュリアのように定命化を受け入れろ。この地球に住めるように、仲間ごと地球を愛せ」
 奏はそう言いながらも、状況を把握する。
(「受け入れられて……ない、のか?」)
 その眼は、既に知性を持つ生体の眼ではない。
「お前達を脅かす、駒のように扱うアポロンはもう居ない。阿修羅クワガタさんのように、仲間を助け、共に生きてみせろ!」
 仕方なく日本刀を鞘から抜き、構える。
「大丈夫、助けにきたよ」
「貴方達を殺そうとしているわけではないの、生きたいと思うのならば、お願い。話を聞いて?」
 イヴリンが奏を庇うように前に出て、クローディアが呼びかける。
「……生き延びる術は他にもあります。地球を愛することができれば、定命化しても死ぬ事はありません。
 子供をつくり、命を紡いでいくことができます。そうすればローカストという種族は、これから先もずっと生き長らえていけます」
 麗奈は呼びかけながら、九尾扇から万が一の為に破魔力を前衛に与えていく。
 だが、それらの呼びかけも、目の前のローカストの眼の色を変えることは出来なかった。
 再び鎌を振り上げ、振り下ろす。
「ぐっ!」
 舞彩は避けようともせずに、その攻撃を受け、自らの力を吸い取らせる。ヒールドローンのおかげで、ダメージは抑えられているが、本人にそのつもりが無ければ、防御など意味が無い。彼女の肩から鮮血がほとばしる。
「馬鹿! 何やってんだ!!」
 纏がアームドフォートから一撃を放ち、二人を引き剥がす。
 吹き飛ばされたオーキッドだが、頭を振りながら再びケルベロス達に近づいていく。
 それは、生きるという本能がそうさせているのか、ケルベロス達には分からなかった。

●声
 戦いは、必死に説得を試みるケルベロスに対し、決死の攻撃を行うローカストという図のまま進んでいった。ケルベロス達は傷つきながらも、耐える。
「戦いを続けて、人々を襲い拒絶されても何も解決にならないわ、定命化を受け入れて私達と共に新しい道を歩みましょう?」
 クローディアが再び話しかけるが、雰囲気は変わらない。仕方なくドラゴニックハンマーから竜砲弾を打ち放つ。
「俺はヴァルキュリア。最近までデウスエクス側だった。そんな俺が今ここに居る」
 奏の日本刀が弧を描き、その足元に切りつけ、思考をめぐらせる。
(「こちらが倒れては、元も子もない……。まずは、落ち着かせないと……。だが、どうやって?」)
「今のお前達の仕事は地球人に憎まれることじゃない、生き延びることだろ。新しい生き方は不安だろうが大丈夫だ、デウスエクスの末裔として、絶対に助けてやる!!」
 史仁が前に出て構え、そして舞彩とイヴリンも続き、決して殺すことの無い様に攻撃を加えていく。
『爆ぜろ。』
 そして、纏が電撃を周囲に放つ爆弾を放つ。殺してしまわないように、精一杯セーブして。
「キ……キガァ……」
 だが、ふらつきながらも、羽を広げ始めるオーキッド。
「襲って来るよ! 構えて!」
「ッシャアアァァァァ……!!」
 和の声とオーキッドの咆哮は同時だった。狙いも何も無いが容赦ない破壊音波が奏と纏を襲う。それを、舞彩とイヴリンが身体を投げ出して全て受け止める。
「イヴリン!!!」
 舞彩は仁王立ちのまま何とか受けきったが、イヴリンが膝をつき倒れる。
「あ、うん……。奏の好きなように。あなたは私が守るよ」
 だが、イヴリンは自分でも何を言っているのか理解出来なかった。このまま自分の欲望のままに何かを行動してしまいそうな不安と快楽に揺れる。
『だいじょーぶ、ちょっとチクッとするだけですよ♪』
 その様子を見た麗奈が巨大な注射器ミサイルを飛ばし、癒しの力を注ぎ込む。だが、イヴリンは暫く動けそうになかった。
 そして、その倒れたイヴリンに向かいグラビティ・チェインを吸収しようと更に前に出てくるオーキッド。
「何故……分からない! 稀代の低燃費種族、しっかりしろ!」
 史仁がやり場の無い怒りを、それは自分の無力さに対して、叫び、涙する。

●狂い咲く花のように
 ケルベロス達は、オーキッドの力を奪いながらも、更に耐えた。
 必死に呼びかけ、そして自分たちもまた、傷ついていく。麗奈やクローディアの回復も、限界に近づいていた。
「シャ……シャァァァァ……」
 オーキッドもケルベロス達の攻撃により、足は動かなくなり、その羽はズタボロになっていった。
 だが、その眼はまだ死んでいなかった。最後の力を振り絞るように、その鎌を振り上げる。
 ザク……。
 その鎌が舞彩に突き刺さる。だが、彼女はその鎌をそっと握る。
「まだ……倒れないわ。……力を解放させてでも、アナタを止めるわ」
「駄目だ! 冷静になれ。ここでお前が暴走したとする。だが、そうなると、お前を殺さなければならなくなる可能性もあるし、助けられるものも助けられない!」
 彼女の反応に纏が素早く反応する。
「でも! 私、何とかしたいのよ!!」
 その叫びは、彼女自身も分かっていなかった。
「キモチはわかる、が、……たのむ。冷静に、なってくれ。……たのむ」
 普段あまり見ることの無い纏の様子に、はっと天井を見上げる舞彩。
「……いつも宮元に言われてるわよね。ちゃんと帰ってきてって」
 舞彩はそう言って、その鎌を引き抜き、膝をつく。彼女は既に限界のようだった。
「……憎悪を得る、という方法は多少の延命にはなる。でも、所詮延命だ。定命化そのものをどうにかしない限り、そう遠くないうちに君たちは死ぬ」
 纏が歩み寄る。
「でも、地球を愛する事ができれば、君たちは生き延びられる。今までだって定命化が始まっても生きる事ができた者たちはいる。ローカストだけが出来ない、なんて事はないだろう」
 そう言って、その鎌に手をやる纏。
「だから、話を聞いてくれないだろうか? そして……生きたいと、言ってくれ」
 その纏の心のこもった言葉と手のぬくもりに、フラフラと頭を揺らし、震えだすオーキッド。
「キァァ……!!」
 そして、取り乱すように、鎌を振り上げ、振り回し始めた。その姿は、決して理解できない得体の知れないモノを振り払うようだった。
「貴方達の言い表せない死への恐怖、なんとなくわかります……。私だって貴方達と同じ……侵略する側でしたから……」
 その姿をみた麗奈がそう呟く。
 しかし、目の前の史仁に鎌を振り下ろした。
「そんな姿になってまで、戦いをやめない、のか」
 史仁はその攻撃を避ける事もしなかった。
 ガキン!
 叩きつけられた鎌が、火花を散らせて彼の目の前の岩に突き刺さる。そして、史仁は理解した。
「お前は、戦士、なんだな」
 史仁はそう言い、地面の砂から幾多の星形多面体を作りだし、和が一冊の本をオーキッドの頭上に出現させる。
「これが、ボクの知識だよ。せめて、この星の事を知って欲しい」
 和は祈るように、沢山の知識をその本に込めた。
『その命、どこまで輝くか』
『知恵を崇めよ。知識を崇めよ。知恵なきは敗れ、知識なきは排される。知を鍛えよ。知に勝るものなど何もない。我が知の全てをここに示す。』
 二人のグラビティが、一体のローカストに降り注ぐ。
「……楽にしてやろう。せめて……」
 奏が日本刀をオーキッドの胸に当てた。
『キミの魂は、記憶は、感情は、全て貰い受ける。どうか安らかに』
 そして、その刃が背の羽を貫き、オーキッドは倒れ、消滅を始めた。
「これ……キミに、あげるよ。リンゴって言うんだよ」
 和がアイテムポケットから、一つのリンゴを取り出し、その鎌の手に自らの手で覆い、渡す。顔を伏せた彼の目には一筋の涙が伝っていた。
「これは、是非一緒に食べようと思っていたクッキーというものです」
 クローディアはそう言って、袋に小分けにしていたクッキーを取り出す。
 その二人の様子を、消えかけていたオーキッドは見つめ返しているようだった。
「あ……」
 すると、消えかけた眼の色が不思議と優しい光を放った事に、クローディアは気がついた。そして最後に笑ったように思えた。
「さよなら……せめて安らかに」
 麗奈の呟きが、聞こえた時。周囲の喧騒もまた、静まっていっていた。

 ケルベロス達は、そのローカストの為に祈った。願わくば、共に歩みたかった。だが、それは叶わなかった。
 だからせめて、その最期は安らかでありますように、と。

作者:沙羅衝 重傷:黒住・舞彩(鶏竜拳士ドラゴニャン・e04871) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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