ローカスト調査隊～目覚めし極限の昆虫人間達

■リプレイ

●飢餓状態のローカスト達
　飛騨山脈の奥地、地下深くに広がる空洞内。
　中央の装置に高まるグラビティ・チェインが爆散し、次々にローカストが蘇生する。
　飢えたローカスト達は目を血走らせ、こちらを睨みつけてきた。
「話を聞いてくれる状況やなさそうやな」
「死の恐怖に、狂いかけていますか。この状態でこちらの声が届くかどうか」
　小山内・真奈（おばちゃんドワーフ・e02080）、風峰・恵（地球人の刀剣士・e00989）は自衛の為に構えを取る。
「まさか、この様な状態になるとは」
　もっと入念に準備し、人手が用意できたなら、説得も落ち着いてできたはずなのだが。卯真・紫御（扉を開けたら黒板消しポフ・e21351）はこの状況を憂う。
「定命化すれば、ローカスト達の問題もなんとかなる……。そう思ってたけど、見通しが甘かったわ」
　アンニュイな眼差しを前方に向けるソフィア・フィアリス（傲慢なる紅き翼・e16957）も、このままでは命を預けてくれたローカストに合わせる顔がないと首を振る。
　ただ、ケルベロス達はこの状況においても、説得を諦めてはいない。
　雨宮・利香（黒刀と黒雷の黒淫魔・e35140）は普段、所持する妖刀『供羅夢』を鞘に収めたまま、説得に当たる考えだ。
「地球の人も、デウスエクスの人達も、みんな同じ命です」
　例え説得が困難でも、多くの命と歩む未来を選びたい。表情にこそ表さないが、アシュレイ・ヘルブレイン（生まれたばかりの純心・e11722）は内心でそう願っている。
（「この破壊の力を、むやみに振るうわけにもいきませんね」）
　潰えようとしている彼らの命を救う事が目的。金の短髪に眼鏡とういう壮年の男性、出で立ちのガラティン・シュミット（遺志苛まれし医師・e24979）は『己が本分を忘れる事無き様』にと、自身を戒めつつローカスト達に向き直った。
　飢餓状態に耐えられぬローカスト達は、ケルベロス目掛けて襲ってくる。
「ローカストの兵隊の連中は、もっとむくわれてもええやろ。助けたるで」
　可愛らしい女の子に見えて、中身はおばちゃんな真奈の意見に同意するケルベロス達は、応戦、いや身体を張った説得を開始するのだった。

●話を聞いてもらう為に
　周囲でも多数のチームがローカストの説得に動く中、こちらのチームが見定めた相手は、『傭蜂集団』ガンナー兵４人。強固な装甲と火力の為、機動性を捨てた女性働き蜂達だ。
「アア、アアアアアッ！」
　ホバー状態で飛んでくるガンナー兵。他３人がリーダーをサポートし、サイドの砲塔から大量の針を発射してくる。
　ソフィアはミミックのヒガシバと身を張り、そのミサイルを受け止めた。
「せめて飢えだけでも、凌ぐことができればいいのですが」
　ローカストらは飢えと恐怖の為に、理性を失っている。紫御は相手の攻撃に耐えるべく、前に立つ仲間へと分身を纏わせていく。
　ただ、相手はこちらの態勢が整うのを待ってはくれない。やや装飾が豪華な１体、リーダーが頭上の砲門から強烈な魔法光線をこちらへと叩き込んでいく。
　それを抑えた真奈は、想像以上の威力に顔を顰める。
「動きを止めるで」
　ほぼ、突発的な開戦だったが、戦闘を想定してなかったわけでもない。傷が深くないと判断した真奈は、動きの速いガンナー兵目掛けて電光石火の蹴りを繰り出す。
　説得の為、一行は３人とサーヴァントが盾役に、残りが敵の行動阻害を行うという極端な布陣をとる。メンバー達はすでに長期戦の構えだ。
　利香は、雷魔法の基本となるグラビティを行使する。
「貴方達をこれ以上死なせない為に、ここまで来たの！」
　大きな胸を躍らせつつ、彼女はボール状に固めた黒雷を撃ち出した。それは砲撃を行う後方のガンナー兵に命中し、その身体に痺れを走らせる。
「ローカストの種族の温存の為にも、これから続く命の為にも、そして貴方の為にも！」
「グラビティ・チェインをぉッ……！」
　しかしながら、ローカスト達は耳を貸さず、砲撃を続けるのみ。
　その相手の布陣を見て、レプリカントにしては小柄なアシュレイはディフェンダーは不在のようだと判断する。
「ちょっとだけ痛いけど、ごめんなさいね……」
　確実に相手を動けなくしようとアシュレイはバスターライフルを構え、エネルギー光弾を撃ち込む。
　一方で、ガンナー兵の砲撃は続き、嵐のように放たれるレーザーがケルベロス達の体を射抜く。
「とりあえず、用心はしとって損無いからなー」
　前に出た白虎のウェアライダー、八蘇上・瀬理（家族の為に猛る虎・e00484）が出来る限りローカストの射撃から仲間を守りつつ、光の盾を展開していく。
「ここは耐えどころやね。しっかりしぃや、説得するんやろ？」
　援護を行いつつ、瀬理は元気な声で仲間達へ発破をかける。
　一見、女性のような容姿にも見える恵。彼もまたローカストの攻撃の手を止めるべく、精神を極限まで高めてからリーダーの女性の身体を爆破し、砲台に亀裂を入れた。
　そこで、ガラティンがグラビティ・チェインの供給が出来るようにと、リーダー目掛けて緊急手術を始める。
「コレしきでハ、みたされナイ……！」
　オウガメタルも使って意思疎通を図るガラティンだが、ローカストにはなしのつぶてだ。
（「どうやら、グラビティ・チェインは治癒力に転化させてしまうようですね……」）
　改善されぬ状況に、ガラティンは小さく首を振っていた。

●届けこの想い
　ガンナー兵の放つ砲撃を受けながら、仲間を気遣う真奈が呼びかける。
「回復するで。たてなおすんや」
　気力を撃ち出す一方で、彼女は相手の状態も確認していた。
　見れば、アシュレイの放つ大量のミサイルによって、ローカスト達はさらに体へと痺れを走らせる。ジャマー多めの編成も手伝い、相手の動きをうまく封じる事ができていたようだ。
「ころあいやな」
　真奈の言葉に頷く利香が、ローカスト達へと説得を重ねる。
「地球を受け入れて……、皆が貴方達を歓迎するよ」
　彼女は裂帛の気合を込めて叫びながら、呼びかけを行う。
「……説得が成功したら、無駄に終わるんやけど……。無駄に終わって欲しいなぁ」
　光の盾を展開し続ける瀬理は、この盾が活かされない状況を切に願う。
「私達定命の者は、不死の者と比べてとても弱いです」
　ガラティンも、ガンナー兵達に言葉をぶつける。
「しかし、親は子に何かを遺し、伝えていける……」
　ガラティンの子供達３人はいずれも、自身の技術や知識を受け継ぎ、さらに、ガラティン自身が思いもしない考えを生み出しつつ成長していった。
　こうした状況が積み重なれば、理不尽さえも打ち砕く強さになりうるとガラティンは疑わない。
「この地球で、一緒に暮らしてみませんか？　貴方達と、貴方達の子供達と共に……」
　それに、アシュレイもまた同意する。
「私たち定命の生命は、個としての終わりはあるけれど、次の命へと連綿と繋いでいくところにこそ生きる喜びがあるのです」
　アシュレイが呼び起こすのは、地球の美しい風景の記憶だ。
「思い出してください。初めてこの世界に触れて感じたことを……」
　その記憶にグラビティの力を与えることで、アシュレイはローカスト達の心身を回復させようとする。
「貴方達の一族とも、想いを繋いでいきたいのです」
　確かに、そのグラビティによって、ガンナー兵の傷は塞がって行く。
「クルしい、クルシい……」
　だが、グラビティ・チェインは依然満たされず、ローカスト達はあえいだままだ。
　なんとか、ガンナー兵達の苦しみを、恐怖を和らげられれば。紫御はペインキラーを試みるが、その負担が軽減しているようには見えない。
　続いてソフィアがガンナー兵に見せたのは、幻惑のハニカムという名のローカストが遺した甘い蜜だ。
「私たちに後を託して、コギトエルゴスムになってくれた彼らの為にもあなた達とは戦いたくないのよ」
　同族の品を見ても、なかなか静まらぬローカスト達。ソフィアはやむなく拳に蜂蜜を塗り、ガンナー兵達の口へと直接ぶち込んでいく。拳ごと噛まれて、グラビティ・チェインを奪われてもお構いなしだ。
「どう？　故郷の味で少しは落ち着いた？」
　仲間達の与えた痺れもあり、しばしローカスト達の動きが止まる。
「確かに、定命化しても何十年後かには死ぬかもしれない。でもね、その間に子孫を残して命を繋げることだってできる」
　ソフィアもまた実際に子を生んだ母であり、孫もいる。定命化すれば、女王でなくともできる当たり前のこと。それをなんとか彼女はローカスト達へと伝えようとする。
「故郷に帰れないのは辛いやろうけど、この地球を第２の故郷にしてみんか？」
　ローカスト達にも、地球を愛してもらいたい。そうすれば、死の恐怖から逃れられると真奈は疑わない。
　真奈はドワーフだ。確かに彼女達の先祖はそういった恐怖を感じた過去があるはずだが、異種族の自分達も地球人は、地球は普通に受け入れてくれている。
（「定命化に同意して頂いても、その手段が問題ですね」）
　仲間の説得を目にしながら、地球人である恵は不安を覚えていた。
　地球にある物は、全て限りある命の産物。
　地球を愛すると言う事は、いずれ来る死……不死を捨て限りある命になる事を心から受け入れる事なのだろうか。恵はそれに答えが出せない。
　ただ、それに答えを出したメンバーがここにはいる。
「地球を愛し定命化する感覚……当時の私は、聖王女様が愛し守ったところだったから好きになったと思う」
　ソフィアは、自らが定命化したときのことを割り込みヴォイスを使って語る。地球そのものでなくても、地球の自然や動物……何か好きなれたものを思い浮かべてもらえれば、と。
「地球もいいとこやで、うまいもんもいっぱいあるしな」
　真奈の言葉に同意し、利香は甘い物を食べて地球を愛してはくれないだろうかと、チーズタルトを差し出してみせる。
「『重力の鎖』は貴方達を見捨てはしない。貴方が地球を受け入れれば……絶対！」
　利香もまたサキュバスであり、定命化を受け入れた種族。だからこそ、新たな仲間を拒むつもりなどなく、彼女は本気で言葉を投げかける。
「今すぐここで死ぬか、定命化してこの豊かな地球の大地と共に生きるか、選んだらええ」
　飢えることのなくなったローカストと、瀬理は新たな未来を紡いで行きたいと願っている。
　この場には、定命化した多様な種族が集っているのだ。だからこそ、この星でうちらと一緒に暮らさへんかと瀬理がローカスト達を誘う。
　そこで、少しでも説得の助けになればと、紫御がメモリーコクーンで映像を再生する。流れるは、鬱蒼とした森。大自然の恵み溢れる光景だ。
「ウ、ウアアアアツ！！」
　……言葉を聞いていたローカスト達はしばし攻撃の手を鈍らせていたが、これだけやっても、彼女達が攻撃態勢を崩す様子は全くなかった。
「皆さん、これ以上は……」
　恵は冷静に時間の経過を気にし、説得する仲間達を止める。これ以上の説得は、ケルベロスに大きな被害をもたらす可能性があると、冷静に判断したのだ。
　だが、利香は大きく首を横に振る。
「どんな暗闇の底にだって、光はあるはずだから……私は、最後の最後まで諦めないよ……！」
　飢餓状態にあるローカストらを救う術はないのだろうか。
　そう考えたいケルベロス達だったが、メンバー達の間には、徐々に諦観の念すら浮かび始めていた。

●想いは届かず……？
「やむを得ませんが……」
　ガラティンは仲間の判断を受け、攻撃に転ずる。
「それが君の『核』か……、『核破壊』！」
　脇にいたガンナー兵の核を捉えた彼は、その魂に干渉して破壊の波長を与える。直後、ローカストの四肢の所々が石と化して。
「わからずややな」
　真奈が寂しげに呟いて、その身体をエクスカリバールで殴打していく。ついに１人が目から光を失い、うつ伏せに倒れていく。
　依然として繰り出される射撃。レーザー、大量の針を浴びる瀬理はかすかに涙を見せつつ、光の盾を張る。
　攻撃に転じたケルベロスはあっという間に、ローカスト達を圧倒していく。極限状態となっていた彼女達に、体力が残されていたはずもないのだ。
「穿ち――――――貫く！！」
　恵が発する霊力の風。それを纏わせた重い突きが１体の体を穿つ。
　ソフィアもまた、ミミックのヒガシバの武装具現化による殴打に合わせ、広げた天使の翼から聖なる光で敵陣を撃ち抜き、１人を倒してしまう。
　こんなはずでは。仲間達へと気を乗せた針を気穴へと撃ち込むことで回復させながら、紫御も思う。
「ウウ、ウアアアアッ！」
　だが、リーダーは自らについてきた仲間が倒れども、飢餓から抜け出そうと自身の持つ無数の砲口から無数の針を飛ばすのみ。紫御はその姿に、涙を零してしまう。
　アシュレイはリーダーを牽制し続け、全身から出したポッドより多数のミサイルを放射していく。
「ア、アアアアアッ！！」
　それを浴び、呻くリーダーに利香が攻め入る。
　戦いの最中、彼女は、ローカスト達に対して謝罪の言葉を口にはしなかった。ごめんなさいと言いながら、戦いたくはない。そう思っていたのだが……。
　リーダーの動きが止まる。十分に相手の身体には痺れが行き届いており、動くタイミングもそれほど多くない状況。それでも、利香は縛霊手の掌に光弾を集めて。
「ごめんなさい……」
　全力で放出したその一撃は、ガンナー兵のリーダーの体に風穴を穿つ。
「アリ……ガト……」
　小さく言葉を漏らしたローカストの目から光が完全に失われ、重い音を立てて地面に伏していったのだった。

　一行は武器を収め、嘆息する。中には、蹲って涙を流すメンバーの姿もあった。
「仲間やと思うとったのに……」
　真奈は寂しげに、倒れるローカスト達を見下ろす。
　周りには、少ないながらも説得に成功し、再びコギトエルゴスムとなったローカストもいたようだったが……。残念ながら、こちらのメンバー達の倒したガンナー兵達の遺体に変化は見られない。
　そんなローカスト達を、ソフィアは安らかに眠ることができるようにと弔う。
「コギトエルゴスムになったのなら、せめてピカピカに磨いてあげたかったのにね」
　それすら叶わぬ状況に。メンバー達は皆、己の無力さを感じずにはいられないのだった。

作者：なちゅい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年6月13日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 7／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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