ローカスト調査隊～蟲人達の命の行末

■リプレイ

●望まぬ戦い
　ローカストの秘密基地で突如始まった、ローカストの最後を賭けた、ケルベロス達との戦い。
　多くのローカスト、多くのケルベロス……場が混沌の様を成していく中、シャルロット・フレミス（蒼眼竜の竜姫・e05104）の縛霊手から巨大光弾が発射され、戦場となったこの地を奔る。
　数体のローカストが巻き込まれるが、痛みより飢餓感の方が深刻なのか、歩みも攻撃も止める様子は無い。
「これだけの数のローカストが居ると、指揮官クラスを探すのも至難だな……」
　雑兵ローカストの攻撃をかわしながら、背中あわせになった、四方・千里（妖刀憑きの少女・e11129）にシャルロットが言う。
「皆、陣形を整えるのを最優先……バラバラで居たら、囲まれて終わりだ」
　月弧を描いた日本刀で、ローカストを切り捨てながら千里が言えば、ティオ・ウエインシュート（静かに暮らしたい村娘・e03129）が仲間達を護るように一歩前に出ると、ローカストの牙での攻撃の痛みに耐えている。
「ヒールを広げる、なるべく固まれ！」
　カラフルな爆発を起こしつつ、アルト・ヒートヘイズ（写し陽炎の戒焔機人・e29330）が近くに居るケルベロス達に声をかける。
「もしかしたら……やってみる価値はある、かも……」
　そう呟くと、円谷・円（デッドリバイバル・e07301）は、襲い来るローカスト達に癒しの雨を降り注がせる。
　泡を吹きながら、ローカスト達の身体に付いた傷が治っていく……だが、瞳に灯った獰猛なケダモノの意志と口から漏れ出る、飢餓感は一向に改善していない。
「そん、な！？」
「グラビティ・チェイン！　ヨコセーーーーーー！！」
　円、目掛けて酸を飛ばすローカスト……その酸は、間一髪のところで、巫・縁（魂の亡失者・e01047）の相棒、オルトロスの『アマツ』が白い毛並みに受ける。
「ヒールグラビティじゃ、傷は治っても……グラビティ・チェインの補充にはならないってことか。あくまで、人間を喰らい、体内に巡るグラビティ・チェインを得る事でしか、飢えから脱出する術は無いのか……」
　分析を試みながらも、縁も唇を歪める。
（「この星に生きる一人として、出来る事をやる……その為にこの場に来たが……闘うしか無いのか……」）
　縁の思考に一瞬、迷いが生まれるが、それでも縁自身の答えは、導きだされていた。
「それが、正解で無い戦いであろうと、この星に生きる者を危険に晒す事などあってはならない」
　それでも、縁は攻撃よりも纏う白銀の生命体に声をかける事を選んだ。
「オウガメタル、私達は彼らを助けたい。だから、力を貸してくれ！」
「……英雄、アリオス。……彼を説得出来れば、活路が見出せるかも」
　ローカストの攻撃を華麗な反射神経で避け、少しでも時間を稼げればと、妖精のブーツから癒しの花弁を舞い散らせ、リーナ・スノーライト（マギアアサシン・e16540）が呟く。
「アリオス……何処？　居た！　居た、よ！」
　周囲を窺っていた円が大きな声を上げ、指先を向ける方……英雄アリオスは、飢餓に苦しみながらも別の戦場で、必死に英雄としてケルベロス達と戦っていた。
「アリオスさん！　聞こえますか！　私達は貴方達を救いに……いいえ！　友になりに来ました！」
　ティオが声の限り叫ぶが、アリオスとの戦場があまりにも遠く、ケルベロスとローカストとの戦闘は激化する一方で、掻き消された声は届きそうもない。
　その声に誘引されるように、イクソス・アーミーの集団が、ティオ達を囲むように布陣する。
「貴方達を助けたい、その一心で私達はここに来た！」
　言葉と共に、白嶺・雪兎（斬竜焔閃・e14308）が放った、幻惑をもたらす桜吹雪はダメージを与える為のものではなく、少しでも言葉を届ける時間を稼げればと言う思いで放った花弁だ。
　だが、ケルベロス達との距離を積極的に詰めて来る、イクソス・アーミー……銅色の集団の中の特別な１体、銀色のイクソス・アーミーが吠えるように叫んだ。
「ムサボれ！　ワレラがイキルタメ、コロセー！！」
　小隊のリーダーの様な銀色のイクソス・アーミーの言葉は絶大だった。
　銅色のイクソス・アーミーに、もう迷いは無い……目の前に居るのは、飢餓を救うグラビティ・チェインの塊、それ以外のモノではない。
『チェイーン！！　ヨコセー！！』
　ローカストの……イクソス・アーミー達の叫び。
「ローカストと……手を取り合うことを望んでいるのは、ここにいる私達だけではない。最後まで、あがかせてもらいます……」
　言葉にこそしたが、敵意を持って眼前に迫るローカストとの対話……難しいであろうことを、雪兎は、肌で感じていた。

●聖者の決断
「ティオ！　俺のオーラを受け取れ―！！」
　自身の活力を炎のグラビティに変え、一番負傷の酷いティオに送る、アルト。
「いい加減、気付けよ！　死にたかねぇのは、俺たちだって一緒だよ。んじゃあ、なんでこんな危険冒してまで、話したがるかって……あんたらが死にたくねぇからって思考に縛られてるようにしか見えねぇからだよ！　種族を残らせてぇのか、自分が生き残りたいだけなのか。受け入れ難くなるような戦いを、むざむざする、必要はねぇんだよ。戦わなくて済むならそれが一番だろーが！」
　魂のこもった言葉で、アルトがローカスト達に訴えるが、その言葉は届かない……声を強めれば強める程、イクソス・アーミー達の破壊衝動が煽られているようですらある。
「この……っわからずや……っ！！」
　リーナも攻撃こそすれ、いつもの『魔宝刃ファフニール』の流麗な切れは無い。
　この戦いをリーナの心が、望んでいないのだ。
　暗殺者として生きてきたリーナに、その迷いは……致命的と言えた。
　殺す気の無い刃が、命を奪えることは無く、露出した柔肌も所々、紅い鮮血が滲んでいた。
（「せめて……ローカストの英雄のアリオスが、この戦いを……拒んでいてくれたら。死の恐怖に……飢餓に負けないでくれたら」）
　リーナの耳に遠く聞こえる、アリオスと戦うケルベロス達の訴え、皆、必死に叫んでいる。それでも、避けられない戦い。
（「私達も決めなくては……」）
　千里は既に数匹の銅色のイクソス・アーミーを『妖刀”千鬼”』で貫いていた。
　彼らが死ぬことで、その僅かなグラビティ・チェインが、ローカスト達の正気を取り戻せないかと考えたからだ。
　だが、それは失敗に終わったと言っていいだろう……彼等は死神でも古のヴァルキュリアでも無い、ローカストの中でも下位に属する兵士だ。
　この状況下に於いて、仲間から漏れ出た僅かなグラビティ・チェインに目を向ける事は無い。
「みんな！　他のチームの説得も……多分、殆ど上手くいってない、よ……」
　灰色のでっぷり、ウイングキャットの『蓬莱』に一時、回復援護を任せ、周囲を観察していた円が、握り締めた両手を震わせ、言う。
「私達が争う事に、もう意味はない、よ。恐怖を克服して！　……お願い」
　最後の言葉には悲しみの彩を乗せ、円が訴えるが、その言葉は届かない……少なくとも、自分達の目の前に居る、イクソス・アーミー達に届かなかったことだけは、分かった。……『分かってしまった』と言い変えた方がいいかもしれない。
　次に必要なのは、目の前の現実を受け入れること……自分達がしなければならないことから、目を背けないこと。
「――祈りよ届け、我が友に」
　覚悟と共に円が口にした詠唱により生まれた月が淡く輝き、仲間達に与えるのは――目の前の敵を――破壊する力。
　紫の瞳を閉じ、口を結ぶ円。
　円は選んだのだ……これしか、選べなかったのだ。
　頬を伝う涙を蓬莱が不安そうに見つめる。
「みんな、回復は任せてだよ！　……終わらせてあげて！」
　すぐさま、シャルロットが動いた。
「アリオスの様な強者と戦う機会も、当分来ないだろう……だが、皆を無事に帰すことが、私の役目。私もまだ死ぬ訳には、いかない。可哀想だとは思うが、お前達の糧になる訳にもいかない！」
　雷を纏わせた『蒼眼竜霊刀・咢』をイクソス・アーミーの銅の身体に神速の早さで突き刺す、シャルロット。
（「この星に生きる一人として、出来る事をやる……それが、私」）
　金の仮面の位置を少しだけ合わせ、縁は攻性植物の蔦を捕食の形に変え、イクソス・アーミーを襲わせる。
（「闘うしか無いのなら……容赦は、不要」）
「せめて、ローカストの戦士として死ぬのだな」
　縁の言葉に呼応するように、攻性植物の牙は鋭利な刃物と化す。
（「アリオスは、英雄として……生きる事を選んだのでしょうか？　飢餓に追い込まれたのでしょうか……。任せましたよ……アリオスの最後は、確り見届けてあげてください」）
　アリオス達の戦場を横目に心で呟き、雪兎は目の前の敵軍に集中する。
　銅のイクソス・アーミーが１０匹前後、そしてこの状況でも指揮を貫いているのは、銀のイクソス・アーミー。
「シルバー・イクソスと言ったところでしょうか。黒鎖よ私達に勝利の護りを……勝って見せましょう」
　雪兎の握るケルベロスチェインが護りの陣を敷くと薄闇に発光する。
「……皆さん選択したんですね。もう無理ですか？　苦しいですか？　……分かりました、終わらせます。私達が最期を手向けます！」
　言うとティオは、腕装着型のドワーフ専用粉砕機にグラビティを込めていく。
「起動！　クロノスハート！　粉砕レベル金剛石！　砕け散ってください！」
　両手を、イクソス・アーミーに叩きつけると衝撃と共に爆発を起こす、ティオ。
　ケルベロス達の瞳には、悲しみこそ残っていたかもしれない……けれど、もう……迷いは、無くなっていた。

●憎いから終わらせるのでは無く
「数多の生き血と悲鳴を啜り、人々より忌み嫌われた紅蓮の波刃よ、今こそ我が手に来たれ。その美しき刃をもって、この地を絶叫で満たせ！」
　霊力でコーティングした刃先を波打たせ、炎を『斬竜刀・灰迅』に付与し、斬撃と共にシルバー・イクソスの身体を焼き切る、雪兎。
　その痛みから逃れるように、抗うように、シルバー・イクソスの巨大な爪が、雪兎を襲うが、アルトの相棒、黒髪のビハインド『戒斗』が寸前で大鎌を掲げその攻撃を受ける。
　攻勢に移った、ケルベロス達の攻撃は、グラビティ・チェインがほぼ枯渇していた、イクソス・アーミー達に耐えられるものでは無かった。
　ティオの光の剣が閃き、縁が白銀の相棒と共に放った拳は、イクソス・アーミーの固い甲殻を打ち貫いた。
　シャルロットの光弾が纏めてイクソス・アーミーを撃てば、千里の超巨大ぬいぐるみ型ハンマー『ナノナニックハンマー』が息の根を止める。
　迷いを捨てた、リーナは、本来のスピードを活かし、影に同化することで、イクソス・アーミーの喉笛を掻っ切った。
　イクソス・アーミーの手数の多い攻撃も、アルトと円、２人の潤沢な回復で、すぐに癒される。
　ほんの数分、数多く居た『イクソス・アーミー』は、シルバー・イクソスを残すのみとなっていた。
「円、早く終わらせて……やりてぇよな」
「……うん。終わらせてあげ、よ」
　最後衛のアルトと円は視線を交わすと一気に動いた。
「生まれて、死ぬのは……怖い事じゃないよ。人間だって、死んでも種としては生き続けているの……また、きっと生まれ変われるから、その時は私達の手を取って、ね」
　戦乙女の槍を手にした円は、シルバー・イクソスの瞳を真っ直ぐに見つめ、穂先を真っ直ぐ突き刺す。
「戒めるは焔気、刻むは遺恨の傷、滅ぼすは怨敵！　『戒焔剣：焔讐』、斬り刻めェ！！」
　焔気を練り上げ、シルバー・イクソスを追尾する炎の刃を生成するとアルトは、躊躇なくその焔の刃を振るう。
「俺達が、望んだ形じゃねぇ……だけど、終わらせなきゃいけねぇんだ、許せ」
　次に動いたのは、２人の少女だった。
「集え力……。わたしの全てを以て討ち滅ぼす……！　討ち滅ぼせ……黒滅の刃！！」
「死出に咲くるは死人花…その身体に刻んであげる―――千鬼流……奥義」
　銀紫の髪を揺らすリーナ、碧の黒髪を揺らす千里、少女二人の詠唱が重なれば、リーナの手の中には魔力で生成された黒刃が、千里の手には引力と斥力をリニアのように切り替える高度な重力操作の力を帯びた刀がそれぞれ握られている。
「ラスト・エクリプス！」
「死葬絶華！」
　圧倒的な切れ味を持つ黒刃と瞬時に４２回斬りつける神速の業で、遂にシルバー・イクソスは、膝を付く。
　間髪入れずに、雪兎の炎剣とティオの光剣が交差し、シルバー・イクソスをバツの字に斬りつける。
「一は花弁、百は華、散り逝く前に我が嵐で咲き乱れよ。百華――龍嵐！」
『斬機神刀『牙龍天誓』』を縦に振るい、大地ごと、シルバー・イクソスの身体を別つ縁。
「これで終わりだな。――竜の羽ばたきの如く、敵を圧倒し、翼風と共に散れ！」
　全身にオーラを纏ったシャルロットは、シルバー・イクソスの身体全てを霞に変えるかのように高速斬撃を一息の元に放った。
　シャルロットの剣が動きを止めた時、 シルバー・イクソスが存在したことを証明するモノは何も残っていなかった……。

●最後の希望
　シルバー・イクソスを倒しても、ケルベロス達の戦いは終わらない。
　飢えたローカストは、まだ、グラビティ・チェインの略奪を諦めていない。
　戦闘力の低い一般兵とは言え、数が多い……終わりが見えない。
　ケルベロス達がそう感じていた時だ。
　洞窟の中心部から、緑色に怪しい光が放たれ、『ゴゥゥゥン』という振動が大地から伝割って来る。
　その光が何なのか、すぐには誰も理解できなかったかもしれない……だが、数か所の戦場で、特異なことが起こっていたのだ。
　緑の光を浴びた、ローカストの身体が再び、コギトエルゴスム化していたのだ。
『マイナー！』
『アリアンナ！』
　有力なローカストである彼らの名前を呼ぶ声が聞こえてくる。
　だが、残ったローカスト達は、緑色の光を浴びると、その光を振り払うように、攻撃してくる。
　……あとは、語るまでも無い。
　指揮官クラスのローカストを全て失ったローカスト達は、ケルベロス達の力で蹂躙されることになる。

『ローカストの滅亡』

　誰かが言ったその言葉が、空気を重くする。
　だが、それは違うというケルベロスも居た。
　ローカストのコギトエルゴスムは、まだ残っている……。
　ケルベロス達は、５つのコギトエルゴスムと共に飛騨山脈を後にすることになった。

『ソナテウ』

『アーマードヒーロー』

『虫天・クロス・桑子』

『働きアリのマイナー』

『慈愛幼帝アリアンナ』

　緑の光を浴びて、コギトエルゴスムに戻った５体のローカスト。
　彼らが、最後のローカストの血統。
　５つのコギトエルゴスムが、ローカストの最後の希望となった……。
　彼らがケルベロス達と手を取り合えるか、まだ未来は決まっていない……。

作者：陸野蛍	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年6月13日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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