ローカスト調査隊～己の存在をかけて

■リプレイ

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　敵襲より身を守るため、集まったケルベロス達。
　混戦状態となった空間の中、草間・影士（焔拳・e05971）らが、冷静に周囲の戦況をうかがう。
「ローカストには、それほど思い入れがあるわけではありませんでしたが……こうして種の滅びを目の当たりにすると、手は差し伸べたくなってしまいますね」
　本能に身を任せ暴れ回るローカスト達に、蒼樹・凛子（無敵のメイド長・e01227）の表情も悲しみが混じる。
　ただひたすらに、種の存続をかけた本能的行動……そこに善悪を見出すことは難しいのかもしれない。
　そこへ襲い掛かってきたのは、かつて太陽神アポロンの神殿を守護していた蟻型ローカスト、イクソス・アーミーの残党達だった。その表情は、同じローカストならざるものには読み切れぬものの、鬼気迫るものを感じさせる事は確かだった。
　うち１体は、より体色の色濃い個体。何らかの強化を施されたタイプとみてよさそうだ。
「油断しないでください……オープンコンバット」
　尋常ならざる殺気を浴び、身構えるミオリ・ノウムカストゥルム（銀のテスタメント・e00629）。
　刃を交えんと、対峙するケルベロスとローカスト……その時、仲間の中から、説得を試みたいという意見が出された。
　ヴァルキュリアである五十嵐・奏星（ヴァルキュリアの鹵獲術士・e36390）やジュ・ダグラス（羽虫・e37252）も説得派だった。２人の種族も、定命化することで存続してきた経緯がある。それゆえに、ここで何もせずにはいられなかったのだ。
　短い論議の末、３分という制限時間を設け、説得を行う事で一致した。もしそれを超過するようであれば、覚悟を決める、と。
　ふと、ゼフト・ルーヴェンス（影に遊ぶ勝負師・e04499）は、中央の装置の残骸を見遣る。あれのヒールを行えば、説得にも良い影響を及ぼすのではないか。そう思うものの、ここからでは距離があり、実行に移すのは困難なようだった。
「グラビティ・チェインを寄越せぇぇぇッ！」
　がきぃっ！
　容赦なく振り下ろされる鎌。その凶刃を受け止めたのは、腰の二刀を抜き放った御神・白陽（死ヲ語ル無垢ノ月・e00327）だった。肩越しに仲間に送る笑みは、説得は任せた、と告げるがごとく。
　そして襲い来るイクソス・アーミー達に、自分達は戦いに来たわけではないと、影士が切り出す。
「死を恐れるゆえに恐怖に囚われるのはわかります、自分達が生きるために憎まれる道を選んだのも……けど、まだ方法はあるはずです」
　相手の牙を逃れつつ、ラインハルト・リッチモンド（紅の餓狼・e00956）が言葉をかける。
　しかし、それに対する返答は、同じ言葉ではなく、暴力であった。

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　あくまで防御に専念し、説得を行うラインハルト達。
「くっ……理解しあい、協力して生き残る道が必ずあるはずなんです。だから、話を聞いてください！」
「永遠の命が失われる、それがどれだけの恐怖か、定命たるわたくし達にはわかりません。ですが、ローカストという種を、貴方達の生きた歴史を、全て無にしてしまうのはあまりにも……」
「ガアアアアッ！」
　凛子の説得を掻き消して、鎌状の刃が振り下ろされる。
「どうか落ち着いて、今一度考えてみてください。無為に暴れて散らすのではなく、貴方達の矜持を、どうか」
　かろうじて刀で受け流す凛子。今は、相手の攻撃を甘んじて受けるしかない。
「このままでは、飢えと死の恐怖と戦い続けなければならない。それらを抑え込むその場凌ぎの生き方よりも、定命化の可能性に賭けてみないか？　成功すればもう飢えに苦しむことはない。他の種族だってそうやって種を存続させてきたんだぞ？」
　呼び掛けを続けるゼフト。
「恐怖を意識したなら、それは強くなった証だ。後はもう一歩進んでみないか。幸い、ここには同じ道を歩んだものも沢山いる」
　影士が視線を向けた先には、奏星達がいる。
「飢えに苦しみ、死にたくないという気持ちはわかります。ヴァルキュリア……私も以前はそうでしたし」
　奏星は、仲間達と共に、オウガメタルでグラビティ・チェインを分け与える事が出来ないかと試みる。
「この星と共存してもらえるなら、飢えに苦しまず、死に怯えずに済むのですよ？　私達と共にこの星と歩みませんか？」
　だが、本来の用途と異なる事と、相手側の拒絶もあり、思うようにいかない。
「諦めないでください。私たちと思いを繋いで、実際に命を繋いだ例もあります。このチャンスに、賭けてみませんか？」
　かつてのイマジネイターのことを交え、語り掛けるミオリ。
　しかし、そんなケルベロス達の言葉を跳ね除けるように、アーミーの攻撃は激しさを増すばかりだった。むしろ、そんな説得が、敵のいらだちを加速させているようにさえ見える。
「地球を愛する事で得られる事も沢山ある。そう信じる事も勇気だ」
　それでもなお、影士の言葉は止まらない。
「このまま憎悪と拒絶を求めても、死に支配されているに等しい。自分の本当に求めるものを今一度考えてみろ」
「そう、死なないで欲しい。このまま、私達の敵として……殺されないで欲しい」
　ダメージを蓄積させる仲間達へと、ジュのケルベロスチェインが、癒しを届ける。そのオオミズアオの羽は、ローカストの目にどう映っているのだろう。
　ジュは、ボクスドラゴンのウカと共に、守勢に徹しつつ、
「この星は、私達ヴァルキュリアをも受け入れてくれた。地球に、ケルベロスに、私達に、お前たちを救う手立てを考える事を、許してほしい」
　そしてジュは、ローカスト達へと、手を差しのべる。
「おいで」
「……！」
　その無防備といえる行動に、アーミー達の攻撃の手が緩んだ……かのように見えた。
　だが、それも刹那の事。再び、響く吠声。
　そして、定められた３分が過ぎる。高まる飢餓感は狂気の域へと至り、説得に応じてくれる個体は、いなかった。
「……この、分からず屋ー！」
　抑えきれぬ感情と共に、ラインハルトが刀を振った。喰らいついてくるイクソス・アーミー達を不可視の斬撃が襲い、その足並みを乱した。
　量産型ゆえに、その戦闘能力は高いわけではない。だがそれでも、これ以上一方的に攻撃を受け続けていては、再び陽の光を浴びる事は難しくなってしまうだろう……。
「死を撒くモノは冥府にて閻魔が待つ。止まらぬのなら、潔く逝って裁かれろ」
　ここまで閉ざされていた白陽の口が開かれたかと思うと、二刀が淡い光を帯びた。これまで耐え忍んだ傷が癒され、感覚がより鋭敏になっていく。
「どうやら奴らは虫のいどころが悪いようだ」
　無念を噛みしめる仲間の心をほぐす様に、ゼフトが苦笑をこぼす。
　対話の時間は終わり、戦の時間が幕を開ける。

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　完全に言葉を介する能力を失い、イクソス・アーミー達が猛攻に出る。彼らにとっては、この場をしのぐ事すらも敗北でしかない。
　だが、ケルベロス達とて、覚悟を決めている。こちらの説得が通じないとわかった以上、相手を討つ事にためらいはない。
　ミオリが両腕を広げると、星座図が展開した。半球状の空間内に現出したそれは、あたかもプラネタリウムのよう。しかしてそれは目を楽しませるものではなく、仲間達を癒し、守護する力。
　味方をかばいつつ、凛子もオーラを練り上げていた。それを浴びた仲間達は、足を止める事なく、戦闘行動に移行する。
「ローカストの戦士として戦い、そして死ぬと言うのなら、相手になろう」
　影士の拳に、戦意が宿る。叩きこまれた炎の闘気が大地を揺るがし、アーミー達の足元から噴出。その体が、次々と宙を舞う。
　辛くも難を逃れたアーミーは、白陽を狙うも、すぐに見失った。飢餓ゆえに研ぎ澄まされたローカストの感覚をもってしても、その姿は追いきれない。
　白陽の一撃を受けた、とアーミーが認識した時には、周囲に氷片が舞った後だった。
　ようやく体勢を立て直しかけたアーミー達を、今度は、巨大な光球が薙ぎ払った。
「縛霊手は初めて使うが……なかなか使いやすいな」
　ゼフトが、敵に向けた掌を下ろす。
　爆煙を振り切り、アーミーの１体が襲来する。だがその動きは、ラインハルトに見切られていた。牙が穿ったのは、肉ではなく虚空。そして手応えのなさを認識する間もなく、アーミーの首はラインハルトによって、はねられていた。
　しかし、一方的に押し込まれるローカストではない。音波やキックで反撃に転じる中、強化タイプが白陽に張り付いた。注入されたアルミ化液が、その体内をかき乱す。
　ウカと共に、翅をはためかせ、ジュが戦場を翔ける。
　開いた魔導書は、禁術の項で止まると、術の発動を行う。それは、仲間の傷を塞ぐだけでなく、力さえも高める。
　倒れるアーミーを乗り越えた奏星の手元から、竜の幻影が舞う。灰塵に帰するローカスト。わずかの間、目を伏せる奏星。
　だが、感傷に浸ることは、ローカスト達が許してくれはしなかった。

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　交戦の末、次々と倒れていくイクソス・アーミー。残るは強化タイプ１体のみとなった。
　凛子が刀を納めたのを好機と見た強化タイプが、飛び込んでくる。しかし次の瞬間、神速の技をもってその身に刻まれたのは、氷の華。
　蒼き龍、凛子の剣技の後、影士が天井へと跳び上がった。深き地の底に虹をかけると、強化タイプの脳天目がけ、脚を振り下ろす。
　よろめきつつ、その場に踏みとどまった強化タイプに、ミオリの照準が当てられる。
「目標捕捉……全データインプット。電磁弾、投射」
　ミオリのアームドフォートからの爆撃が炸裂する。
　衝撃、轟音、閃光、電磁パルス……間断なく襲う様々な現象が、強化タイプの肉体と五感を揺さぶる。
　反撃の隙を与えず、ラインハルトの一突きが、強化タイプの動きを硬直させる。
　その隙に強化タイプの間合いに入り込んだのは、後方にいたはずのゼフト。相手の眉間に当てたバスターライフルは、生存を賭けた死の遊戯。しかして、勝利したのは、ゼフトの方だった。
　強化タイプが弾き飛ばされる中、ジュの祈りをこめた歌が、ケルベロス達の傷を癒していく。この力でローカスト達の事も癒す事が出来たなら、と淡い願いを抱きながら。
　グラビティにつぐグラビティ。体表に無数の傷を刻み込んだ強化タイプに、奏星が斬撃を飛ばした。
　鹵獲術士のノウハウを組み込まれたその技は、見えざる手に操られるようにして、強化タイプの体を、四方八方から刻んでいく。
「グラビティ……チェインを……ッ！」
　手を伸ばし、必死にケルベロスをとらえようとする強化タイプの目に、迫る白陽の姿が映った。瞬間、怯む強化タイプ。白陽が呼び覚ました虚無が、死を強烈に感じさせたからだ。
　交錯する白陽とローカスト……一拍置いて地に伏したのは、後者であった。
　それまでのあがきが嘘のように動きを止め、ただ死を受け入れ、倒れ行く。仲間と共にそれを見届けるジュ。死するローカストの姿は、ようやく訪れた安寧に感謝しているかのようでもあった。
「やっぱり、末期状態になると理解しあう事は出来なくなるのでしょうか？」
　ラインハルトが、自らの無念を払うように、刀を振るった。
「残念ですけど、これも１つの結末。受け容れないといけないのでしょうね……クローズ・コンバット」
　ミオリの口から、重い溜め息が零れ落ちた。
　戦いの末、命を散らしたローカスト達。
　今はただ、彼らが確かに存在したという事実を、ケルベロス達は胸に刻む。

作者：七尾マサムネ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年6月13日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 1／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 3
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