●蟲の墓標
大地は新緑を纏い、高く厳しい風の吹く、人里より遥か遠い地……飛騨山脈。
その最奥を、百人を超えるケルベロスが進んでいく。
(「半年近く、ローカストは動きを見せていない……恐らく彼らはコギトエルゴスム化して休眠に入っているはず……」)
その説を提唱した春花・春撫(プチ歴女系アイドル・e09155)に賛同し、ケルベロスらは大規模調査隊を編成。逃げ散ったローカストたちの集結場所をここと睨み、山中を虱潰しに捜索していた。
そして今。
「……見付けた。ここだ」
山肌にぽっかりと口を開けた秘密基地を前に、調査隊は佇んでいる。
中は不気味なほどに静まり返り、風の音以外は何も聞こえない。
「……ローカストのコギトエルゴスムを集めて持ち帰る事ができれば、ヴァルキュリアのように仲間にする事ができるかもしれないですよね」
そう言うのは、春撫。
調査隊の面々は互いに頷き合い、地下へと続く長い長い螺旋階段を降りていく。
その先には、壁一面にコギトエルゴスムの埋め込まれた広大な空間が広がっていた。
「ここは……コギトエルゴスムの安置所……?」
それはまるで星屑模様の大聖堂。微かな唸りをあげるのは、広間の中央で稼働している機械だけ。
仲間たちと歩み寄っても、詳細はわからない。だが意図は予測できる。
(「恐らく……自然界の微量のグラビティ・チェインを集積してコギトエルゴスムを蘇らせる装置……」)
それは、砂漠に植えた木が森となるまで待つような、途方もない計画。何万の年月が掛かるかもわからず、計画通りに目覚められる可能性などほとんどない。それでも彼らは、最後の希望を未来に託したのか。
その時。
壁面の宝玉を調べていた者たちから、叫び声が上がった。
「これ見て! コギトエルゴスムが……破壊されてる!」
急いで振り返れば、仲間が手に載せているのは粉々に砕けた宝玉の破片。
(「まさか。デウスエクスは不死。死を与えられる者はケルベロスだけ……」)
そこまで考えて、頭を振る。
いや。違う。デウスエクスに死を与えるものは、もう一つだけある。
「定命化だ……恐らく彼らが宝玉になった時、すでに定命化は始まっていて、その結果この姿のまま自然崩壊に至ったんだろう」
それは、誰の呟きだったか。
壁面を埋め尽くす宝玉の数から見て、スポアローカストのような例外を除けば、ほぼ全てのローカストがここに集結していたはずだ。そのほとんどが、もう……。
いや、こうしている場合ではない。
「無事な宝玉を探すんだ。急ごう!」
●滅びゆく民族
無事な宝玉を探すべくケルベロスたちはみんな壁へと散る。
その瞬間だった。中央の機械が鳴動したのは。
異様な振動に全員が振り返った時、閃光と爆音が響き渡り、中央の機械が蓄積していたグラビティ・チェインが周囲へと飛び散った。
「な、なんだ? 侵入者対策の罠か? みんな無事か?」
「ええ。グラビティ・チェインが放出されただけみたい……攻撃グラビティとかじゃないわ」
「じゃあ、今のは……まさか!」
その意図に、気付いた時には遅かった。
振り返れば、無事だった宝玉が輝きと共に姿を変え、飢餓の叫び声と共にローカストたちが蘇る。
『緊急復活システム……作動。休眠は……失敗ダ……』
『グラビティ・チェインだ……侵入者を喰ラえ……』
『ヒトを襲え……憎シミと拒絶を、集めロ……』
『ソレ以外にワレらが生き延ビル術は……もうナイ』
呻きと共に飢餓に狂った瞳が円陣を組んだケルベロスらに向けられる。
「駄目よ、話を聞いて! 生き延びる道は、それだけじゃ……!」
「よせっ! 囲まれてる! 周囲の仲間と集まって、防陣を組め!」
襲い掛かって来る牙から、仲間たちがぶつかり合うように身を逸らす。
周囲に視線を走らせれば、かつて、闘いの際に兵を率いていた氏族長たちまでもが、飢餓と定命化による死の恐怖に我を失い、ぎらついた瞳を投げかけて来る。
「なんてこと……! あなたたちまで……!」
「枯渇状態、かつ、定命化も末期か……! 話し合いは……難しそうだな」
「囲まれたか! だが、この数なら打ち破れる!」
「氏族長級も弱り切ってるはずよ! 今の私たちなら……!」
「百人そこそこで打ち破れる数、か。生き残りはもう……これだけなんだな」
怒号や指令が飛び交い、番犬たちが瞬く間に即席の布陣を整えていく。
嘆きにも似た唸り声と歯を打ち鳴らす音を立て、ローカストたちは包囲を狭めていく。
「来るぞ! 構えろ!」
悲鳴の如き甲高い叫びと共に、ローカストたちが飛び掛かる……。
そう……これが、ローカストの起こす最後の事件。
狂気の神に導かれ、栄えを失い、飢えを抱き、生きる道筋を追い続けた暴殖の使徒。
デウスエクス・レギオンレイド。
その叙事詩の最終章が、今、紡がれる……。
参加者 | |
---|---|
三和・悠仁(憎悪の種・e00349) |
大神・凛(剣客・e01645) |
クロエ・ランスター(シャドウエルフの巫術士・e01997) |
エリシエル・モノファイユ(銀閃華・e03672) |
板餅・えにか(萌え群れの頭目・e07179) |
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348) |
リモーネ・アプリコット(銀閃・e14900) |
リノン・パナケイア(狂気の道へ・e25486) |
●番犬の願い
それはローカストとの闘いの中、最も長く名を轟かせた諸王の一角。
「狂愛母帝……アリア」
リモーネ・アプリコット(銀閃・e14900)が、刀を構えてそう呟く。
その邂逅は、まるで必然であったかの如く。
(「私が闘ってきたのは地球の平和のため……決して敵を滅ぼすためじゃない。そう……ウェアライダーだってローカストと似た境遇だし、きっと仲良くなれるはず……」)
その想いに共鳴するように、兎のぬいぐるみを抱えた少女が飛びこんでくる。
「アリア、聞いて……! ローカスト、地球の虫や人と……仲良くできた……だから、地球、愛せるはず……戦い以外、方法………きっとある。だから……」
クロエ・ランスター(シャドウエルフの巫術士・e01997)の指先から、魔法の木の葉が舞い散り、アリアの巨体をヒールする。
それは、僅かでもグラビティ・チェインを分け与えられないかという苦肉の策。
(「正直回復も持久戦も得意じゃあないけど……そうも言ってらんないやね。ああいう想い、二度は御免なんでね……意地でもこっちに引き込んでやるさ」)
エリシエル・モノファイユ(銀閃華・e03672)もまた、かつて対峙したローカストの姿を思い描き、回復のオーラを飛ばす。
「お近づきの印ってことで、パンケーキでもいかがです? 蟻のローカストなんだし、甘いものがダメってことはないでしょう?」
デウスエクスへの憎悪と復讐に生きてきた三和・悠仁(憎悪の種・e00349)もまた、彼女たちを見て、己の個人的事情を切り捨てた。
(「納得は、この際不要……独りより、皆の為に。満たせ……!」)
悠仁は己の地獄とグラビティ・チェインを練り上げ、回復の慈雨を降り注がせる。
「抵抗も、非難も、否定も……後でいくらでも受け付ける。今は、こちらの話を聞いてくれ。皆が話しているのは偏に、そちらが生き残る為の話だ」
アリアは鎌首をもたげて起き上がると、咆哮をあげて周囲の下級ローカストたちを呼び集める。だが、金切り声と共に飛び掛かって来た花蟷螂とアリア騎士は、ライドキャリバーのライトと大神・凛(剣客・e01645)が受け止めた。
(「やはりヒールでは、グラビティ・チェインの補給にはならないか……傷薬を飲んで生きてはいけないものな。下級ローカストたちはすでに欠片の正気もない……」)
しかし、この熱意は不戦と融和の証として、心に響くはずだ。
「アリアとやら! この星は自然は多く恵みも豊かだ。ここを愛し、それを守ってみてはどうだろうか。いきなりでなく、自分なりに少しずつでいい。どうだ?」
襲い来る敵に反撃せずに説得することは、困難を極める。
だが、味方が傷を負うのなら、それもまた、守護の鎖で癒せばいい。飛び込んできたのは、リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)。
(「これが呪いか罰だとでもいうの? このままではあまりにも救いが無い……でも、アリオスやアリアンナとは、通じ合うものがあったわ……その首魁、アリアへのアプローチさえ成功すれば、皆、共に歩めるかもしれない……!」)
彼女が解き放ったメモリーコクーンから大森林の映像が浮かぶ。それは、まだ豊かであったころのレギオンレイドの風景だ。
「エゴイスティックかもしれない……けれど、滅び滅ぼされるだけなんて、アタシは御免よ! アリア! 自暴自棄にならないで! 種族を永らえさせる方法はあるわ!」
更に、横から飛び込んで来たランサー兵を、板餅・えにか(萌え群れの頭目・e07179)が押さえつける。喰らいつかれる痛みをペインキラ―で抑えつつ、彼女は努めてにこやかに。
「ええ。私たちは争いにきたわけではないんで。地球で暮らす道もあるんですよ。今ならまだ間に合いますサ。お嬢さんにと思って、子供に人気な甘いお菓子も用意したんですが……親御さんもどうです?」
『……』
語りかけと無抵抗の姿勢を見て、アリアは何かがおかしいと気付き始めたようだ。微かな理性で何が起こっているのか、事態を掴み取ろうとしている。
(「……周辺もチームを組み終えつつあるようだ。アリアの周辺に集ってきた下級ローカストは、アリア騎士、花蟷螂、ランサー兵……計三体、か」)
冷静に周囲を観察しながら、最後に走り寄るのはリノン・パナケイア(狂気の道へ・e25486)。
彼もまた攻撃はせず、ゆらりと立ち上がったアリアへと、声を張り上げる。
「私達は今、オウガメタルと協力関係にある。未だ良好な関係を保っているので地球もなかなか悪くないようだ……どうだろうか。皆の言うように、地球を愛してみては。もちろん、プライドもあるだろう。仲間を殺すか生かすかは委ねよう。ただ、私達は貴方達を受け入れる」
共に歩む未来があるのなら。
その想いは、皆、同じだ。
リモーネの口の端が、それに押されて僅かに綻ぶ。
彼女はそっと刀をしまい、身を呈するように黒く巨大な影の前に立った。
「ねえ……アリア。貴女の子が持っていたキャンディ、食べたことある? ……甘くてとても美味しいの。それからアポルオンのあった場所、覚えてる? 緑が多かったでしょ。貴女のいた星も、昔は同じだったのかしら。地球には、美味しい物も美しい物も、色々ある。折角地球に来たのに、知らないままだなんて勿体ないわ」
『……』
その巨大な複眼は、訝しみながらも、彼女を見つめたまま。
「地球に住む者はね、グラビティ・チェインが無くたって子孫を増やせるのよ。短命だけど、日々精一杯生きてるの。だから寿命なんて怖くないわ。今、貴女達の前にあるのは死の恐怖? 違うわ、この世界は貴女達を祝福する……大丈夫、貴女達の安全は保証するから」
だから……。
その先は、言葉にならなかった。
クロエ、リリー、エリシエルが熱い視線を重ね、悠仁とリノンがそれに寄り添う。凛とえにかは、微笑みながら頷いて。
無機質な黒い瞳は、天を仰ぐ。
彼女は、融和の訴えを、理解したのだ。
そして……。
●女帝の決意
……そしてそれは、吼えた。
その一声は空気を破り、壁を揺らし、砕けた宝玉たちを震わせる。腹の底を打ち据えるかのような、咆哮。
「……!」
そして女帝は、爆音と共に身を宙へ躍らせると、手を差し伸べていたリモーネの眼前の床を破砕し、その体を弾き戻した。残りの七人が待つ場所へ。
「アリア!」
リモーネと絡んだ視線の中にあるのは、炎の如き決意。
交渉の断絶と、宣戦の布告だ。
「そんな……!」
迫る死と絶えぬ飢餓に息を荒げつつ、女帝は最後の意志をかき集め、言葉を口にした。
『言うな……番犬! 他の者がどうあれ、私が屈することはない』
クロエがウサギのぬいぐるみを前に突きだし、腹話術を以って話し掛ける。
「……それも一つの道かも知れねえ。だがそうなればお前についてきた奴らはどうなる? 争いを好まないアリアンナにも殺しをさせるのか?」
『血の贖いもなしに掲げた旗は下ろせぬ。群れの王は名の下に集った民に添わねばならぬのだ。アリアンナ……甘く、愚かな我が娘には……まだこの責務はわからぬだろう……』
ぜいぜいと苦しげに語るアリアからは、なけなしの理性が急速に失われていく。
『我が同胞よ! 降る者を止めはせぬ! だが、抗うならば……恐れるな! 狂愛母帝アリアが、最後までお前たちと共に在る!』
そこで理性の鎖は砕け散り、誇り高き巨獣と化して、アリアは再び咆哮した。
「そんな! アリアンナの気質は、貴女にとって望ましいものでは……なかったの!」
なおも語りかけるリリーを、リノンが押さえた。
「よせ……意志は固い。説得は、失敗だ。最初の一撃をわざと外したことが、せめてもの返礼というわけか……」
「血の贖い……はっ。こちらが命ごと差し出しでもしない限り、女王様が降るわけにはいかない、か。そして、彼女が決意を固めた以上、もう遅い。また……だね」
「あー、この強さ、ちょっとこりゃてきとーに……とか言える状況じゃありませんな……攻撃制限は解除ってことで?」
エリシエルが刃を解き放ち、それにえにかがため息を落として続く。
「手加減できる強さじゃない。向こうも本気で来るぞ。こちらも本気で迎え討つしかない」
「……これがローカストとの最後の戦いとなるんだな。決着を望むのならば、仕方ない。構えろ、ライト!」
悠仁と凛の言葉に従い、全員が武装を解き放つ。
進み出たリモーネの向けた切っ先が、迫りくる狂愛母帝の視線と重なって。
「貴女は死んでいった者たちの誇りを受け継ぐ道を行くのね……ならばせめて……安らかに」
その翅が爆音と共に鳴り響き、そして闘いが始まった。
●狂愛母帝
下級ローカストたちが、雄叫びをあげて突撃する。
しかし飢餓に弱った下級兵など、今のケルベロスたちにとっては大した敵ではない。
花蟷螂の斬撃をその刀でいなし、エリシエルの拳がその腹腔を貫いた。
「すまないね。もう、やるっきゃないんだ。なんたって……この後はとんでもない女王様をお相手しなきゃならないんだからね」
消えていくオーキッドの背後から、黒い巨影が迫り来る。身構えるエリシエルをライトが弾いて庇った。アリアの突進は一撃でライトを消し飛ばし、壁面を瓦礫に変える。
「ライト……! くっ……とんでもない威力だぞ! 直撃を受ければディフェンダーでも一撃で落ちかねない!」
ランサー兵と揉み合いながら、凛が叫ぶ。
「まずいわ……! アリオスよりもっと……いいえ、ジューダスやアポロンを除けば、間違いなく最強のローカストよ! ……止めなきゃ!」
「こりゃー、とんでもない外れクジ引いたかなあ……耐えきれるかなあ……」
リリーの鎖が更に守護の結界を作りあげ、えにかは蟻騎士と闘うリモーネを庇って前に出る。
振り返ったアリアの翅が、爆音と共に衝撃波を放つ。爆撃でも受けたかのように瓦礫は砕け、前衛たちが吹き飛ばされる。
「あれが弱った上での攻撃だと……! 三度も喰らえば、前衛は崩壊するぞ。こんな奴が、まだ残っていたのか……!」
「ゲートの守護者にして、ジューダスに事後を託された者……か。その実力を、甘く見積もっていたかもしれないな……」
悠仁とリノンが視線を合わせ、クロエがぎゅっとぬいぐるみを握り締める。
「でも……退けない。もし、私達、負けたら……みんな、説得どころじゃ……ない」
仲間のため。ひいては、他のローカストのために。
彼らは頷き合う。
「……ああ。俺は雑魚を片付ける」
「私が前衛から狙いを逸らそう。行くぞ……!」
クロエが守りの護符を貼りつけた人形たちが前衛に飛び、悠仁の轟竜砲がアリア騎士を弾き飛ばす。その隙に飛び込んだリノンの瞬速の蹴りが、リモーネに迫る巨体の顎を射抜く。
括目しろ。これが、ローカストだ。
アリアは、そう言わんばかりに咆哮する……。
●お伽噺の終わりに
翅の爆風を薄桃色の刃が断ち割って、凛が駆け抜ける。
「狂愛母帝アリア……! ローカストの最後を彩るに、相応しい相手だ! ……来いッ! 止めて見せよう!」
龍の力を込めた咆哮が、突進してくるアリアを打ち据え、骨の奥まで痺れを走らせる。しかし、アリアは止まらない。
「……さすがだ。闘えたことを、光栄に思うぞ」
アリアは頭から飛びこむと、凛ごと上体を壁にめり込ませた。凛の肢体は、瓦礫に埋もれ、もう動かない。
「凛さん! くっ……応じ来られよ、外なる螺旋と内なる神歌に導かれ、その威光を以て破壊と焦燥を与えん!」
リリーの耀星伝承・第三節が雷撃を招来し、蟻騎士の胸を貫く。騎士の体が、綻びるように消えていく。
「ごめんなさい……でも」
振り返れば、悠仁のサイコフォースがランサー兵の頭を砕いたところだった。
「下級兵は一掃した! 残るは親玉のみだ!」
そういう彼も、すでに全身傷だらけ。すでに前衛も後衛も翅の爆風に晒され、無傷の者は一人もいない。クロエの精一杯の加護と癒し、そして重ねたパラライズで辛うじて戦線を保たせてきたが、それももうここまでだ。
「あちゃあ……こりゃもう、さすがに私ほどの良い女でも、もたないかも知れないね」
アリアが大きく翅を広げる前に立つのは、エリシエルとえにか。
「体力は擦り切れてるはずさ……一撃で良い。防いでくれ。頼りになる、良い女なんだろ?」
「あはは、なんか一言増えてない? ……ま、やりますよ。てきとーにね」
迫る爆風に向けて、二人が走った。えにかの姿が、呑まれるように吹き飛び、消える。
その時、巨体の脇へと音も無い影のようにエリシエルが跳躍した。ふっと吐いた息と共に剣閃が迸り、その脇腹へと深々と刃が突き立った。
(「殺っ……!」)
だが次の瞬間、咆哮と共にアリアが身を捻り、エリシエルを弾き飛ばす。瓦礫の中に埋もれながら顔をあげた彼女が見たのは、腹部の針を持ち上げて迫る、黒い影。
「参ったな……本当に強いね……負けたよ」
轟音と共に、針が落ちる。
血に塗れて振り返った狂愛母帝の前に立つのは、唯一残った前衛であるリモーネと、中、後衛の番犬たち。互いに満身創痍。すでに、どちらが倒れてもおかしくはない。
その時だった。広間を覆うような緑色の柔らかな光が、降り注ぐように輝いたのは。
「これは……」
振り返れば、幾ばくか説得に応じたローカストたちが宝玉へと姿を変えていく姿が垣間見えた。
だが、まだ闘う者も多い。
アリアは動じる様子もなく、優し気な緑光を手で払った。
その決意は、揺らがない。
「……決着をつけます。私が、足を止める。皆さんは、とどめをお願いします」
「リモーネ……駄目。もう、回復……間に合わない……一度、後ろに……」
そう言うクロエの肩をリノンが掴んだ。彼女の覚悟を、察したから。
「わかった……任せてくれ」
微笑みを浮かべ、リモーネが走り出す。
突進してくるアリア。
「……ッ!」
その懐に、渾身の力を込めて跳躍する。守りを全て捨て去り、体ごと繰り出した突きが雷鳴の如く女帝の顎から頭までを貫いた。女帝は絶叫をあげながらリモーネを振りほどこうと暴れ回る。
(「……異郷の地で朽ちるのは不安でしょう。自然の豊かな場所にお墓を作ってあげる……一生かけて弔ってあげる……」)
天井へ、床へと何度も打ち付けられる中、浮かぶのは祈りの言葉。それでもなお、リモーネは決して刃を放さない。
しがみ付く肢体と血が女帝の視界を塞ぐ中、リノンの影が巨体を貫き、悠仁が、リリーが、涙を落とすクロエの攻撃が、アリアの背に殺到していく……。
(「さよなら……アリア」)
リモーネの手から力が抜け、その身がずるりと滑り落ちた時。
最後のローカストも、崩れ落ちた。
こうしてローカストの闘いは、終わる。
『もう……縛るものは、ない……貴女の道を……生きなさい』
その屍の消える刹那、そんな呟きが、風に消えた……。
作者:白石小梅 |
重傷:大神・凛(ちねり剣客・e01645) エリシエル・モノファイユ(銀閃華・e03672) リモーネ・アプリコット(銀閃・e14900) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年6月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 11/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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