ローカスト調査隊~インセクツ・オーメン

作者:鹿崎シーカー

 飛騨山脈、奥地。
 山の中に作られた秘密の基地は、カタコンベめいて静かで暗い。地下に続く長い長い螺旋の通路はまるで奈落への階段である。調査におもむいたケルベロスの面々が、神妙な顔で下っていく。
「……なんもいねえ、よな?」
「どうかな……」
「ローカストのコギトエルゴスムを集めて持ち帰る事ができれば、ヴァルキュリアのように仲間にする事ができるかもしれないですよね」
 小さな声でささやき合いつつ、ケルベロス達はさらに奥へ進んでいく。漂う不穏な空気が濃くなり、彼らの胸に重くのしかかり出した頃。ライトの光が広がる横っ壁を照らし出した。
「ストップ!」
 誰かが叫び、光を強める。即席のサーチライトがなぞるその空間は、直径数百メートルの半球状で、壁には無数の丸いくぼみが彫り込まれている。そしてその中央部には、妙な存在感の謎めく装置。神殿、あるいはコロッセオを思わせる威容だ。
「……なんだこりゃ。墓場か?」
「んなわけあるか。見ろ」
 ライトのひとつがくぼみの中を光で暴く。そこに鎮座するのは、きらめく宝石コギトエルゴスム。壁面を滑る光が、いたる箇所で跳ね返る。
「なるほど。ここは休眠場所で、あの装置は……グラビティ・チェインを溜める機械、といったところか」
「まぁ、そうでしょうね。しかし……」
 照らせば輝く神の宝石。くぼみはそれらを安置する場所であろうが……しかし、光らないくぼみが不思議と多い。光らないくぼみを覗いた誰かが、慌てて大声を上げた。
「コギトエルゴスムがありません! いえ、これは、コギトエルゴスムが破壊されています!」
「はぁっ!?」
 他のメンバーが素早く光なきくぼみを調べる。だがコギトエルゴスムが入った他と違って、そこには黒ずんだ灰めいたものが積もるのみ。中に埋もれて鈍い虹に輝く欠片も見つかる。
「オイオイどうなってんだこりゃ。コギトエルゴスムって壊れるもんか? つーか壊れたら……えーっと、どうなるんだ?」
「どうなるってお前……死ぬんじゃ、ねえの……?」
 巣穴に重い沈黙が立ち込める。崩壊したコギトエルゴスムは多数。粉々になったそれを精査していた一人が、渋い顔を持ち上げた。
「おそらくですが、コギトエルゴスム化した時には既に定命化が始まっていたのでしょう。そして、中途半端に定命化してたから……」
「コギト玉にもなれずに死んだ、ってこと? そんな……」
 再び一同が黙り込む中、握り拳を震わせた一人が即座にくぼみを振り返る。無事なコギトエルゴスムに手を伸ばす。
「クソッ! しんみりしてる場合じゃない! 急いで全部回収しないと!」
「そうだね。早く助けよう!」
 そして、調査隊がくぼみのコギトエルゴスム回収に動きだした。その時である!
 轟音が地下施設を震わせた。中央に立つ装置が突如爆発四散し、内包していたグラビティ・チェインが周囲に飛び散る。それらが各所の宝石たちに吸い込まれたその瞬間、一人が大きく吹き飛んだ!
「ぐっはぁッ!?」
 硬直する一同の前で、振り上げられた黒い甲殻の拳がゆっくり下ろされる。鳴動する地下基地に安置されたコギトエルゴスムが全てまばゆい輝きを発し、昆虫人間の姿に変化していく。
「ギギギギギ……エサ……エサだ……」
「獲物が……」
 復活したローカスト達はうわごとめいてブツブツつぶやく。目には理性より飢餓と恐怖の色が濃い。それに加えて、捕食者じみた殺意が満ちる。ケルベロス達は泡を食いつつ武器を顕現。にじり寄るローカストに突きつけた。
「クッソ! 何がどうなってやがる!」
「話は後だ。構えろ。来るぞッ!」
 基地を揺るがす怒号を放ち、ローカスト達は駆けだした。


参加者
シェリン・リトルモア(目指せ駄洒落アイドル・e02697)
ソラネ・ハクアサウロ(暴竜突撃・e03737)
牧島・奏音(マキシマムカノン・e04057)
カーネリア・リンクス(黒鉄の華・e04082)
夜船・梨尾(獅子と黒犬の兄弟・e06581)
シュテルン・プラティーン(天衣無縫フルメタルクルセイダ・e09171)
一津橋・茜(紅蒼ブラストバーン・e13537)
正門・絵夢(正門流の妖姫・e14620)

■リプレイ

「それは人魚の渦のように―――ッ!」
 歌う牧島・奏音(マキシマムカノン・e04057)を中心に透明な潮が渦を巻く。マンボウの群れを乗せて膨らむそれを突き破るのは五匹の芋虫! 奇声を上げる蜂雀の群れを、カーネリア・リンクス(黒鉄の華・e04082)とシュテルン・プラティーン(天衣無縫フルメタルクルセイダ・e09171)は炎をまといて迎え撃つ!
「行くぜシュテルンッ! 篁流格闘術ッ!」
 爪じみた銀手甲の手と各所で火を噴く赤い装甲。その後ろでシェリン・リトルモア(目指せ駄洒落アイドル・e02697)は魔法陣にビートを刻み雷発射。雷撃を受けた二人は加速した!
「『霙雪・虎爪』ッ!」
「『隼六花』!」
 火の爪とアッパーが二匹に炸裂! だが残る三匹は二人の脇を食い破って突き抜ける。立ちはだかった正門・絵夢(正門流の妖姫・e14620)はサナギめいた装置を操り、幻影の密林とローカストを背に叫ぶ!
「待ってくださいっ! 定命化は怖いかもしれない! でも定命化しても子孫を残せば未来につながる! ここで決断しなければ終わりなんですっ! 地球人をすぐ好きにならなくたって、ただ餌じゃなくて心を持った相手として認めあって……っ!」
 訴えを耳障りな絶叫が塗りつぶす。勢いを増す三匹に、一津橋・茜(紅蒼ブラストバーン・e13537)はハンマーを構えて上半身を後ろへねじる!
「わたし達はおいしくありませんよ。ここにお肉があるので……話し合いまっしょい!」
 燻製肉を口の端に、戦槌をフルスイングする! 全力で打ち返された三匹を包む透明な泡。翼竜めいたドローンを飛ばし、ソラネ・ハクアサウロ(暴竜突撃・e03737)は諭すような口調で告げた。
「生まれてきてから死に恐怖して人を喰い、生き続ければ憎まれる。そんなの……悲しすぎるじゃないですか」
 鳴きながら旋回する翼竜ドローンをどこか遠い目で見上げ、つぶやく。
「憎まれるだけが生きることではないと、私は知っています。人を愛し、星を愛することでも生きられると、私は知っています。だからどうか、生きたいと願ってくれませんか? 私達と共に……」
「……ぐっ!」
 直後、弾かれたシュテルンが泡に衝突。弾けた泡から飛び出した一匹は尾を振るって解放した二匹と地に潜る。カーネリアとシュテルンを突破して飛ぶ二匹に、夜船・梨尾(獅子と黒犬の兄弟・e06581)は鎖を開いた。先端の時計めいた装飾が光り、見えない壁が二匹を遮る! その瞬間、梨尾背後の地面を突き破った一匹に奏音は体当たり!
「っ……ねえ、あなたの名前、聞いても良いかな? 仲良くしようとする相手の名前ぐらい知らないとね」
 一方で地面から飛び出す二匹の牙をシェリンは必死で掻い潜る。噛んでは潜りのヒットアンドアウェイをステップを踏んで回避しながら、バトンを回して桃色の霧を仲間に投擲。割って入ったヨタローにつかまり追尾する二匹に訴えかけた。
「ローカストさんっ! このままだとあなた方は死んでしまうんです! どうかボク達を、地球を受け入れてください! グラビティは奪わなくても手に入るんですよ! ボク達はみなさんを助けたいんです!」
 声も虚しく二匹はさらに加速し徐々に肉迫! 凶牙がコートの裾をかすめると同時にヨタローは跳ぶ。飛翔するバイクの真下をカーネリアが駆け抜ける! シェリンを追って上向く巨体の下に潜り込み、限界まで体をひねった!
「馬鹿……野郎ぉぉぉおおおッ!」
 全力の掌底が一匹の腹に叩きこまれふっ飛ばす! カーネリアは真横で飛翔する隣の個体に組みつき、爪を立ててよじ登っていく。頭部にリボンを結んだ額をくっつける。
「憎んで恐れられて、それで生き延びようってか! 違うだろ! まだあるだろ!」
 燃える銀髪を首に巻き付け、頭ごと無理矢理方向転換。苦しげにうめく蜂雀の胴が両足をとるが意に介さない!
「思い出せよ……お前達はずっと一人ぼっちだったのか!? かつて手ェ取り合った事があっただろ! 思い出せないなら……」
 引き絞る左手が赤々と燃える。手の平を打ちつけた!
「思い出させてやるッ! 『雪崩・裂鋼』ッ!」
 爆炎が散り、長い胴がカーネリアの足諸共捻じ曲がる! 蜂雀は苦しげに悲鳴を上げるとそのまま垂直に落下。真っ逆さまに地面をめがけるそれに茜が駆け寄る!
「肉がぁぁぁーっ…………足りてない! ですッ!」
 かざした手の腕輪が輝き蜂雀の身が真紅のオーラに包まれた! 真横に引かれた胴体めがけて茜は後ろ回し蹴りを叩きこむ。めり込んだブーツが彼岸花めいた花弁の嵐を噴き上げ蜂雀を吹き飛ばす! 転がるカーネリアに鎖の先端を投げ渡し、梨尾は目を見開いた。
「牧島さんっ!」
 遠くで奏音が食いかかる個体をバックダッシュとステップで回避する。むやみやたらに振るわれる牙が濃緑色の上着を引き裂き皮膚と肉を抉り取る! 奏音はライフルを横にし、大振りの牙に銃を噛ませた。足を踏ん張り、銃を押し込む!
「どうせなら、さ……限りある命を生きてみない? 辛いこと、楽しいこと、色々あるだろうけど……憎まれ苦しみながら僅かに生き長らえるよりは、ずっと良いと思うんだ」
 牙を抑える銃身が軋む。次の瞬間振られた尾が奏音の腹をブロウめいて撃ち抜いた!
「がはっ……!」
 アサルトライフルを噛み砕き、狂える牙が頭に迫る! 踏みとどまった奏音は反撃のアッパー!
「『隼六花』っ!」
 拳が間一髪であごを打ち、巨体を宙へ跳ね飛ばす。その背後に、片足を掲げたシュテルン!
「篁流格闘術……『氷柱落とし』ッ!」
 かかと落としが蜂雀を突き落としバウンドさせる。隙を突いた絵夢は奏音に両手をかざし、魔力を込める。
「万物の根源たる重力よ! 血肉となりて彼の者の喪失を修復せよ!」
 放たれた光の鎖が上着に真っ直ぐ吸い込まれ、出来た傷の跡をふさぐ。他方、短銃を連射し翼竜型ドローンを飛ばすソラネの足元が割れ別個の蜂雀が浮上! 噛み裂かれる和装の肩口! 後方へ抜け地面に潜る尾に銃を速射するヨタローを横から蜂雀が体当たりして転倒させた。ソラネは空中に発砲、同時に前から飛び出た蜂雀が腹をめがける!
「ギルティラ、援護をっ!」
 主に応じて赤いTレックス尻尾打撃で芋虫頭部を打ち払う! 虚空で閃光を放つ銃弾に反応した翼竜ドローンが地上めがけて急降下。五匹の蜂雀に次々着弾しては爆発! 爆炎の中で踊る一体に向かって絵夢はルビーめいた水晶を放り投げた。奏音に鎖を投げた梨尾が叫ぶ!
「レーヴェ! 誰かにあの水晶を! 急いで!」
 爆風を抜けた一匹に背を食い千切られつつ獅子霊を送りだした彼を飛び越え、カーネリアは桜吹雪の尾を引き抜刀!
「くぉんのッ!」
 閃く連続居合切り。炎の剣戟が甲殻を焼き切り奥に詰まった肉を割く! 立ち込める酸鼻な臭いを背後にレーヴェは手にした赤水晶を芋虫の口に押し込んだ。だが蜂雀は水晶を吐き出しヘッドバンギングめき牙を振る! 交叉したレーヴェの腕に無数の裂傷!
 やや離れたところで踊り、両手を桃色の霧に沈めたシェリンはロッドを頭上で交差した。
「皆さんに、力をっ!」
 杖先に収束した霧が爆発し狼煙めいて飛翔する。ボフンとくぐもった音を立てて暴発し膨張。渦潮の戦場に薬液の雨を降り注がせた。矢のように低空ジャンプした蜂雀が彼を張り倒し、胸元に牙を突き立てる!
「く、ぐぅぅぅぅっ!」
 胸元を赤く染めながらシェリンは芋虫の頭を押しのけ、ロッドで殴打! 殴られつつも再度噛みつこうとする黄土色の頭を、奏音は照準に捉えた。
「篁流射撃術、『青鎌雨』っ!」
 蒼い光が弧を描いて飛翔した。青白いアーチは狙い違わず芋虫の側頭部に直撃、軌道を逸らす。シェリンはすぐに立ってロッドをクロス。眼前に出た魔法陣をロッドで叩く!
「空間魔法陣『帝胴』展開っ! みなさんに力を! テン! テケテェン!」
 轟雷のビートが空気を震わせ、稲光をほとばしらせる。フック、アッパーのコンボを決めたシュテルンは炎の拳に電光宿し伸びた胴に片足跳躍! もう片方の足で腹をめがける!
「篁流格闘術!」
 マシンガンめいた前蹴りのラッシュ! 炎と稲妻が混じり合って残像を引き、柔らかな胴にえぐり込む。最後に大きく足を引き、渾身一擲!
「『氷鎚・砕』ッ!」
 芋虫が真っ直ぐ吹っ飛んだ。片足状態のシュテルンに振り払われたシェリンが衝突して一緒に転がる。ズタズタのコートからしたたる赤い滴。二人に飛びかかる蜂雀に、茜が真正面から蹴り込む! 黒ブーツに突き立つ牙をにらみつけ、茜はハンマーパンチで反撃!
「いつまで暴走してるんですか! いい加減目ェ覚まして肉食べろやオラァ! ですッ!」
 名状しがたい奇声が空気を斬り裂く! のたうち拳を脱した蜂雀は頭を袈裟掛けに振った。生々しい音が鳴り、パンクファッションの胸元がえぐり取られる。絵夢は即座に魔力を練り上げ両手をかざした。
「再編! ボディ・リコンストラクションッ!」
 太い光の鎖が一直線に跳び茜に着弾、醜い傷をたちまち修復するも荒れ狂う牙が新たな傷を開いて回る。徐々に薄れ、消えゆく鎖に力を込める絵夢にソラネが警鐘を発す!
「絵夢さん避けて!」
「えっ……」
 真横に高速で地を這う蜂雀! 振り上げた口が牙を向き、眼鏡と軍帽を斬り払う。尻餅をついた手から光が消滅。追撃で襲いかかる蜂雀に横合いからギルティラがタックルをかまして一声咆哮。放たれた緑の光を突っ切り、ソラネは大太刀を鞘ごと背後に引き絞る!
「王には冠を、剣には牙を。この王剣に、迷いなし」
 一閃! ノコギリめいた刃が長い胴を噛み千切り、濁った血が激しく噴き出す。頭からかぶりながらも髪を振り、刀を大上段に構えた。
「さすがにこれ以上は危険です。……すみません」
 斬り下ろしが蜂雀の首を断つ。他方、カーネリアが銀髪を巨大な拳に変えて殴りかかる!
「篁流格闘術、『雪崩』ッ! 止ぉぉぉまぁぁぁれぇぇぇえええッ!」
 巨大な手の平が向かってくる蜂雀と正面衝突! 潰れた声を上げ、なおも突き進む蜂雀に声を張り上げた。
「感じろ。そして思い出せッ! お前らと一緒に生きた仲間がいただろッ! いつまで意地張ってんだッ!」
 背後、カーネリアと背中合わせになり大剣を盾にした梨尾とレーヴェが二匹を抑える。塞がっていた傷が開き血をこぼす。ガリガリと刀身が削られる音!
「どうしてッ……ぐ!」
 梨尾がどうにか押しのけた蜂雀に奏音の銃弾が突き刺さった。梨尾は腕に巻いた鎖をほどき、先端を空に振り上げる。それは屈み回転しながら跳びあがったシェリンが放つ桃色の雲にシュートし、爆発。光の雨を辺りに振らせた。血みどろになった茜がエキサイト!
「ヒャッハーッ! 楽しくなってきました!」
 歓声を上げ攻め入る頭部を両手でつかむ! 左手の腕輪が煌々と輝き始めた!
「いいですよーそっちがその気ならっ! 重力地獄にご案内、ですっ! 潰れて落ち着きを取り戻しましょおうッ! 巨王ヒューゲルッ!」
 真紅のオーラがドーム状に展開され捕らえた蜂雀を地面に打ち込む。茶色の大地が無惨にひび割れ、重圧に耐えかねて徐々に圧壊。苦しげなうめき声を聞き流し、シュテルンはレーヴェの右腕を食い千切った蜂雀に一息で接近! 跳躍回転蹴りで攻めかかる!
「篁流格闘術、『浮雪』ッ!」
 二連撃で宙に浮く芋虫が太鼓めいた音を上げて折れ曲がる。遅れて飛ぶ奏音の号!
「シェリンさん今っ!」
「はいっ!」
 硬直した蜂雀の下を潜ったシェリンがロッドをレーヴェの右肩にあてがった。弾ける電光が収束し、獅子の腕を瞬時に再生。梨尾は鎖の先を地面に落とし、シールドバッシュを敢行! 鋼削る歯を打ち返す!
「もうやめてくださいっ!」
 鎖が光の波紋を広げ、拡散。癒しの光を広げつつ、梨尾が大剣を投げ捨て手を伸ばした。
「俺も定命化の時は怖かったです! 頼れる人はいなくて、力はなくなって、でも……!」
 その瞬間のけ反った蜂雀が跳ね上がり、腕を払って頭突きを繰り出す。銀の懐中時計にぶつかるトゲめいた牙! ひっくり返る梨尾にシェリンが駆け寄り、シュテルンとレーヴェが二匹をそれぞれぶん殴る。一方で、別個体と打ち合うカーネリアの銀髪が散った。
「クソッ! この……わからずやがッ!」
 引き裂かれた長髪を振り、カーネリアは刀で接近戦を挑む! そこへソラネの翼竜ドローンが滑空、衝突と同時に小爆発を連鎖する。奏音の銃撃に援護されつつ懐へ飛び込み正拳突き! フックを決めて身をひねる!
「『細雪』ッ!」
 腹にめり込むボディブロー! 腹に拳を埋めるその耳元で、翼竜ドローンがソラネの声を再生した。
『カーネリアさん、これ以上は危険です。残念ですが……その方には止めを』
「なッ……」
『ハクアサウロさんっ! でも……』
 遅くなる時間の中で、絵夢の声が木霊する。長い二秒が無言のまま過ぎ、カーネリアはきつく目をつぶる。地団太めき蹴った大地の欠片を散らし、全力で拳を振り抜いた!
「く……っそぉぉぉぉおッ!」
 渦巻く桜花を引き連れて跳び高速抜刀! 鋭い剣技は黄土の胴を斜めに斬り裂き、上下半身をあえなく割かつ。落ちる亡骸を横目に歯を食いしばるカーネリア。そして赤い重力帯で縛った茜はこめかみに青筋を浮かせ両手を真下に突き入れる!
「んんんんぬゥゥゥゥァアアアアッ!」
 重力帯が強く発光! メシャリと水音が立ち地面のヒビに体液が染みこむ。押し花じみて潰れる死体から漂う血の異臭。残る二匹は甲高い絶叫を放った。横薙ぎに振られる尾にはねられたシェリンは尻餅をつく。
「ローカストさんっ! お願いします! これ以上やったらボク達は……!」
 必死の訴えを咆哮がかき消す。シェリンの赤い瞳に翼竜ドローンや奏音の銃弾を足場に空中三次元機動で加速するシュテルンが映った。銃弾を蹴り飛び、斜め上背後の翼竜に片足を向けたシュテルンは小さくつぶやく。
「やれやれだわ……ヴァンガード・エンジンセット!」
 ドローンに足が触れた瞬間、姿が消えた。
「イグニッションッ!」
 高速の飛び蹴りが芋虫の背に命中、芋虫が一瞬膨らみ破裂四散! 呆然とするシェリンにかかる肉と体液が割り込んだ絵夢の光の盾に阻まれる。残された一匹に、梨尾は鎖を投げ捨て力強く抱きしめた。
「怖いですよね……憎まれても死までの期間が伸びるだけ。定命化してもいつかは死ぬ。それでも、戦わないといけないくて。でも、もう無理に奪う必要は無いです。苦しい時は誰かに縋っていいんです。助けを求めていいんです。……力を貸します。落ち着いたら話したいこともあります。だから! ……この地球で一緒に生きてくれませんか」
 腕を回して数秒。やがて咆哮がフェードアウトし、強張った胴から力が抜ける。声を止めた蜂雀は、腕の中で動かなくなった。

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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