ローカスト調査隊～最後のあがき

■リプレイ

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　飛騨山脈の奥地、ローカストの秘密基地にて。
　謎の装置により蘇ったローカストが次々襲いかかるのへ、春花・春撫を始めとした調査隊は、不本意ながらも応戦する。
「……今の私にできるのは、絶華様や皆様の邪魔にならないよう攻撃すること……」
　エルス・キャナリー（月啼鳥・e00859）は、そう思い極めて、吹雪の形をした『氷河期の精霊』を召喚する。
　白椿の咲く銀髪は足まで届き、背には一対の小さく白い翼を生やした、オラトリオの少女。
　まるで人形みたいに可愛らしい風貌で、性格は純真で騙されやすく、大層素直に育っている。
（「もしもこのまま、ローカスト達が皆様のお声に耳を貸さない時は……その時は」）
　それでも戦闘が始まれば割と冷静で真面目になるエルスだから、今も具に変わる戦況へ目を光らせ、精霊が吹雪でローカスト達を凍てつかせる様も、落ち着いて見つめていた。
　８人が対峙するローカスト群は、蟻と蜂の混成部隊とでも言うべき面子。
　その中に、青い金属の仮面と黄金の甲冑を身につけ三日月の装飾眩い杖を携えた、殊更風体の立派な蟻がいた。
「汝ら……妾の糧となってくださりましょうや？」
　狂気に囚われてもなお古体な物言いを崩さないこの蟻、名をアリエスと言う。
「他人事じゃないけど、追いつめられると何するかわかんないってあるよなぁ。出来るなら定命化して、地球で安住してもらいたいとこだけど」
　そう複雑そうな面持ちで呟くのは、神城・瑞樹（廻る辰星・e01250）。
　長い銀髪を後ろで纏めた美男子だが、髪を伸ばした理由は寝癖をつけない為らしいシャドウエルフの青年。
　表向きは楽観主義に見えるも、実は責任感が強く自他共に厳しい性格だとか。
　最近は、周りの高身長率が気になって、自分の背丈にコンプレックスを感じているそうな。
「上手い言葉が見つからないが……恨まれて種を残すだけが手ではないだろうし、定命化を受け入れるのも一つじゃないか？」
　瑞樹は慎重に言葉を選びながら、地面にケルベロスチェインを展開、前衛陣を守護する魔法陣を描く。
「それに憎しみで無理な延命をした所で、それも無限ではないだろうしな」
　彼の語り口は優しかったが、諦観を誘って消去法で選ばせるような理屈が、狂気に支配されたアリエス達の心へは残念ながら届きそうもない。
　一方。
（「ローカストは私が初めて戦った相手、それが今滅びようとしている……」）
　華輪・灯（幻灯の鳥・e04881）は、どうやら自分でも思いもよらなかった迷いを持て余していた。
　柔らかな白い髪と紅いボケの花のコントラストが可愛らしい、オラトリオの少女。
　性格は何事もノリと勢いで突っ走り、無駄に自信満々な笑顔が人を安心もさせれば不安にもさせる。
　木造二階建てアパート『カリン荘』の大家もとい自宅警備員であり、庭には地下迷宮が封印されていると専らの噂だ。
（「デウスエクスなんて大嫌いなのに、つい……気になって」）
　少し……可哀想だと。
　意識がそこまで単語を繋いだ時、灯は意を決してアリエス達へ呼びかける。
（「私たちを食べて飢えを満たしても一瞬だけです！　……このオウガメタルのように地球で生きる方法があるかもです」）
　ヴェルデと名づけたオウガメタルを指して語りかける彼女の言葉には、確かな情が滲んでいる。それでいて、攻撃の手を緩めない蜂ローカストの足元から溶岩を噴出するのも忘れない。
　だが、ローカストの生きる道を模索する心が本物でも、それを飢餓感に支配された彼女らへ届けるには、彼女らへ仲間になって欲しいと伝えるような素直な感情論が足りなかった。
　ウイングキャットのアナスタシアは、灯の前でぱたぱた羽ばたいて仲間達の異常耐性を高めていたが。
「早く……早くグラビティ・チェインを寄越すのです」
「シアー！？」
　アリエスの猛攻——黒くつるりとした手脚による体術——から灯を庇うも、全身を襲う激痛に耐え切れず、地面へ墜落してしまった。
「灯、しっかりしろ。アナスタシアが戦えない今、お前がやらなくてどうする」
　すると、シグリット・グレイス（夕闇・e01375）が、茫然とする妹分を、兄らしく優しい声音で諭した。
「こ、子どもじゃないから大丈夫ですー！」
　灯は拗ねた風に怒ってみせるも、声の張りに自らを奮い立たせんとするやる気を感じて、安心するシグリット。
　日頃はクールに見られがちだが、その実ただの人見知りなだけというオラトリオの青年だ。
　朝が苦手で大抵は昼まで寝ているらしく、眠い時は機嫌が悪く、口調も荒くなり易いそうな。
　また、何をするにも面倒臭がりで可能な限り妹任せにしている筋金入りの怠惰人間である。
「飢えは自我をも喰らい尽くす、か……きっと耐えられないほどの苦痛だろうな」
　シグリットは彼女らの苦境を慮りつつも、やたら前のめりに攻めてくるアリエス達目掛けてリボルバー銃を乱射。
（「果たして聞く耳を持たない状態の相手に、説得は通じるのだろうか」）
　上手くばら撒いた弾丸で脚を貫き、奴らに攻撃を当て易くなるよう仕向けた。
「死を覚悟し向かって来る者、死の恐怖に理性を失くした者……どちらも相対するに手強く、刃の良き糧となるでしょう」
　西院・織櫻（櫻鬼・e18663）は、無表情かつ淡々とした物言いで、ローカストの決死の行動へ感嘆してみせた。
　漆黒の長い髪と冷たく冴えた光を宿す碧眼を持つ、シャドウエルフの男性。
　欠落した自己に唯一残っていた欲求——技量を高め刃を磨く事を目的として、善悪や使命の為でなく己の為にのみ刃を振るう刀剣士である。
「彼奴等を救いたいと言うなら早めにお願いします。私は殺し合いとあれば手心など加えませんよ」
　仲間達に向かってさらりと言い放つや、蟻ローカスト１体の懐へ正面から飛び込む織櫻。
　迷いのない太刀筋で影の如き視認困難な斬撃を見舞い、蟻ローカストの急所を密やかに掻き斬った。
　強敵との戦闘を恐れず、自身の負傷ですら戦闘継続に支障があるか否かとしか気に留めない織櫻らしい、まさに勇猛果敢な戦い方である。
「ローカストさん達……まさか……こんな事になってるなんて……私達は、絶滅させたい訳じゃないのに……」
　アリス・ティアラハート（ケルベロスの国のアリス・e00426）は、やはり攻撃する事に躊躇いを感じるのか、ヴォーパルソードを構える手が震えていた。
　姫カットの金髪に巻いた水色のリボンと揃いのエプロンドレスが特徴的な、オラトリオの幼女。
「♪Flowery Princess Vanadialice♪　―♪Princess Live♪　――私も歌います……元気を出して……！」
　アリスは流れる魔法音声と共に数分間『変身』して、広大な虹の花の園を召喚。
　ライブステージのように展開した光のホログラムを投影、【もの言う花たち】をインカムに変化させて、可憐に歌い踊る。
　これは、飢餓ローカストへグラビティ・チェインを与えられないか試す行為であったが、実際、ヒールグラビティにグラビティ・チェインを相手へ流し込む作用は無く、ただ蟻ローカストの傷を回復させるだけだった。
　他方。
「説得するのは止めないが、共感はできません。自分にとって大事なのは、地球の平和と地球に暮らす人々ですから」
　と、はっきり言い切るのは、橙寺・太陽（太陽戦士プロミネンス・e02846）。
　敵を絶対に殲滅させる主義であり、敵を助けよう敵を許そうという相手には嫌悪感を隠さない、頑なな性根の高校生レプリカントだ。
（「敵はどいつもこいつも、生かしておいたら世のため人の為にならねえならず者。そんな敵を助けようとする仲間の考えや行動は、地球の人々への裏切り行為以外の何物でもない……」）
　そう決めつける太陽なのだが、もし説得に成功したなら、仲間の方針に従ってローカストを守りつつ撤退しようと考えてもいる。
　蜂ローカストへ容赦ない降魔の一撃をぶちかます彼なりの、最大限の妥協なのだろう。
「……貴様らはこのまま死にたいのか。其れとも……之からでも生きたいのか」
　皇・絶華（影月・e04491）は、感情を抑えた声音で言うと、懐からメモリーコクーンを取り出した。
　さらりとした銀髪と涼やかな瞳、黒づくめの服装がクールな雰囲気の少年螺旋忍者。
　絶華を語る上で外せないのが料理について。
　何故だか彼は栄養価『のみ」に重きをおいている為、バレンタインチョコレートに心を込めれば味に狂気が滲み出たりするのだが、それがデウスエクスとの戦いに役立っている辺り皮肉なものである。
　そんな彼ではあるが、今は至って真剣な表情でメモリーコクーンの映像を流す。
　小さな画面に、恐らく主星『レギオンレイド』だろう鬱蒼とした森が映っている。
「ふふふ……汝らは余程に活きの良い糧。早く仕留めねば——早く！」
　その映像を見ても、アリエス達にはかばかしい反応は認められない。
「皆が憎しみと殺戮に走り……そして散った！　貴様らは最後まで繰り返すか！」
　あのアポロンと共に飢えで狂いそのまま死んでいくというのか！　絶華の厳しい声が響く。
「何も残さず！　命を繋げず！！　『此処で全てを終らせる』のか！」
　彼の説得は、グラビティ・チェインの枯渇に狂わず正常な判断のできるローカストだったなら、心に響くものがあったかもしれない。
　だが、今のアリエス達は、絶華の強く追い詰めるような口調を攻撃的な害意と読み取るだけだ。
「本当にそれが貴様らにとって正しい……その道しかないのか！」
　絶華はローラーダッシュを摩擦させて斬狼に炎を纏わせ、アリエスへ激しい蹴りを浴びせた。

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「皆……ハヤク彼奴等を仕留メテ……グラビティ・チェインヲ……！」
　仮面の奥の目を血走らせ、宝杖を振るって先端の三日月から網のようなグラビティを放ってくるアリエス。
　彼女がグラビティ・チェインの飢餓感によって理性と判断力を失っている事は、誰の目にも明らかだった。
「ぐっ……！」
　率先して前へ出ている絶華が、エルスの代わりに網へ絡め取られ、体力を奪われている。
「ヨウヤク……ようやく、グラビティ・チェインガ……！」
　ドスッ！
　その傍らでは、蜂ローカストが尻を向けて突進してくる毒針攻撃から、瑞樹がシグリットを庇っていた。
　戦いの最中、中央の謎の装置から緑色の発光が８人の目にも認められた。
　アリエスも他のローカスト達も身体へ纏わりついてくる光を振り切るようにして、攻撃を続けている。
「アリエスさん……オウガメタルさん達も、地球で幸せに過ごされてます……貴女達の夢みた『豊穣』が地球にはあるんです……私達は……地球は……貴女達をお迎えしたいんです……！」
　懸命に説得するアリスの最後の呼び掛けには、アリエス達へ仲間になって欲しい——という理屈を必要としない感情が溢れていて、彼らのささくれだった心を確かに揺らした。
　アリスの如く情緒的で、存在を求め受け入れるような優しさを示す説得がもし重なっていれば、正気を失ったアリエス達の心にも何らかの変化があったかもしれない。
　ちなみに、灯のヴェルデやアリスのハート・オブ・プラチナを始めとしたオウガメタルは、持ち主であるケルベロスとなら心通わせ簡単な意思疎通はできるものの、言葉を喋れない為にローカストの説得の一助にはなれなかった。
「お前達が見た地球は！　貴様らにとっても忌々しいのか！？　共に生きる道はないのか！」
　絶華も諦めずに声かけを続ける。
「貴様もローカストを導き上に立つ者であるならば！　此処で終わって本当に良いのか！？」
「ハヤク……早く、グラビティ・チェインと憎悪を妾に！」
「がはっ……！」
　だが、アリエスから容赦ない攻撃をまともに喰らい、思わず膝をついて咳き込んだ。
「ふざけるな！！　絶対許さん！！」
　怒号を発して自分を抑えずに激昂、アリエスへ殴りかかるのは太陽だ。
「敵を倒して愛する地球と人々を守るのが俺のケルベロス道だ、この道は絶対曲げない！！」
　太陽の炎を纏わせた拳を勢いよく打ち込み、森羅万象あらゆる事物を粉砕するという必殺パンチをお見舞いした。
「あいつらにはもう誰の声も届かない」
　そこへいくと、流石にエルスは冷静であった。
「そろそろ無用な温情を捨てて、君たちが守るべきのは何か、誰か、しっかり考えよ」
　エルスは静かな声音で仲間達へ進言するや、蜂ローカストの１体へと肉薄。
「紅蓮の天魔よ、我に逆らう愚者に滅びを与えたまえ！」
　世界の隙間に渦巻く虚無の力を召喚、悪魔のような黒い炎による猛烈な爆発を起こすと、蟻ローカストの全身を文字通り焼き尽くしてトドメを刺した。
「我が刃の前に如何なる守りも無意味と知れ」
　織櫻は、螺旋の力を櫻鬼の刀身へ乗せ、アリエスへ斬りかかる。
　ザクッ！
　アリエスの肩から胸へかけて黄金の甲冑ごと斬りつけ、深手を負わせた。
「妾は……太陽神の代わりにローカスト……を……」
　水のように透明な体液を撒き散らしながら、アリエスが呻く。
「鋭ッ！」
　瑞樹は裂帛の気合いを入れると同時に、しなやかな動きで跳躍。
　——バシバシバキッ！
　ふわと風に乗って、舞うが如き流麗さの連続回転蹴りをアリエスへ叩き込んだ。狙いは奴の思考と動きを止める事。
「ハヤク、早く、グラビティを……妾は……焼き尽くす太陽では、ナク……」
　もはや息も絶え絶えに呟くアリエスだが、
「もう我慢ナラヌ……皆を……ク……月の光ト……」
　その宣言に反して、広げた白い翅からは何も放出されない。
　目論見通りに瑞樹の飛連脚が効いて、ヒールをしくじったのだろう。
「……わかりましたっ、戦うなら情けは無用！　せめて誇り高く全力で！　お相手します！」
　灯もさっぱりと気持ちを切り替えて、華羽の空靴の爪先で地面を叩く。
　そのまま身軽に跳躍すると、蜂ローカストの頭上から光の尾を引いた飛び蹴りを炸裂させ、奴の体力と機動力を大幅に奪った。
「さぁ……悪魔狩りの時間だ」
　妹分と呼吸を合わせて、リボルバー銃の銃口から弾をぶっ放すのはシグリット。
　蜂ローカストの胸部を貫いた銀の弾丸には古から伝わる退魔の呪いが篭っている為、人ならざるものへの殺傷力は抜群、凄まじい威力でローカストの外骨格をも撃ち砕き、死に至らしめた。
「我が身……唯一つの凶獣なり……四凶門……『窮奇』……開門……！」
　絶華は古代の魔獣の力をその身に宿して、自らの身体機能を超強化する。
「……ぐ……ガァアアアアアア！！！！」
　そのまま狂戦士と化してアリエスへ襲い掛かり、カタールを爪の様に振るって狂ったように神速の斬撃を浴びせ続けた。
　青い仮面が真っ二つに割れて、カランと床に落ちる。
「妾ハ……妾は諦メヌ……汝ラヲ屠る……グラビティ・チェイン……ガハァッ！！」
　ビキビキと身体の節々がひび割れて崩れ始めるアリエスの、最期の言葉であった。

作者：質種剰	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年6月13日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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