花冠をあなたに

作者:遠藤にんし


「あなた方に使命を与えます」
 言葉に、二名の螺旋忍軍は姿勢を正す。
「この辺りには、花冠の作成に長けた者がいるようです。その女性と接触し、仕事を確認、習得しなさい」
 その後、女性をどうするかは言われるまでもなく把握しているのだろう、彼らの手には日本刀が握られていた。
「間違いなく、息の根を止めなさい……グラビティ・チェインを奪うかどうかは、任せるわ」
「かしこまりました、ミス・バタフライ」
 答えたのは、マタドールを思わせる衣装を纏う男の螺旋忍軍。
「一見無意味に思えても、巡りめぐって地球の支配権を揺るがすことでしょう」
 赤いドレスの螺旋忍軍も言い、二人は街へと消えていく。


「職人の技術を盗み、殺害しようとする螺旋忍軍が現れた」
 高田・冴(シャドウエルフのヘリオライダー・en0048)は言い、ケルベロスたちに協力を求める。
「具体的には言えないが、今回の事件が起これば何らかの不利な状況が発生する可能性が高い。今のうちに阻止しておかなければいけないだろう」
 今回、狙われたのは生花の花冠の職人だ。
「彼女にはなるべく避難して欲しいところだが、そうすると予知から外れてしまう。そこで、みんなにはこの職人の元で修行をして欲しい」
 修行期間は三日。
 この期間にある程度技術を習得できれば、螺旋忍軍の狙いをケルベロスに向けることができるだろう。
「敵は二体いる。分断したり奇襲をかけて、ぜひ有利に戦いを進めたいね」
 職人の工房のそばには広い公園があるので、そこを使うと良さそうだ。
「技術の習得と戦い……どちらも気が抜けないね」


参加者
福富・ユタカ(殉花・e00109)
ゼロアリエ・ハート(晨星楽々・e00186)
ミケ・ドール(深灰を照らす月の華・e00283)
ミューシエル・フォード(キュリオシティウィンド・e00331)
アルヴァ・シャムス(逃げ水・e00803)
水沢・アンク(クリスティ流神拳術求道者・e02683)
ルペッタ・ルーネル(花さがし・e11652)
ルビー・グレイディ(曇り空・e27831)

■リプレイ


 生花の花冠職人の元を訪れたケルベロスたちは、弟子入りを申し込む。
「私には歳の離れた弟が居るのですが、弟にこういうものをプレゼントしてあげようと思いまして。名の知れた花冠職人の貴女にご教授願えれば幸いです」
 水沢・アンク(クリスティ流神拳術求道者・e02683)が頼むと、女性は快諾。
「3日間、精一杯頑張ります!」
 ルペッタ・ルーネル(花さがし・e11652)も張り切って、そして彼らの修行生活が始まった。

「さて、折角の機会!」
 三日間だけとは言わずもっと長い期間弟子入りしたいくらいの勢いで、福富・ユタカ(殉花・e00109)は薄く光る瞳を職人に向ける。
「ここは花好きの1人として、しっかり教えて頂きたく!」
 そんなユタカの気合に応えるように、職人の教える言葉にも熱が入る。
「フィオーレの冠、Che bello……」
 茎の柔らかい花で花冠を作ったことがあるミケ・ドール(深灰を照らす月の華・e00283)は、薔薇のとげを丁寧に切っていく。
「ちゃんとできたらお兄ちゃんたちに見せたい……」
「うむ、その意気でござる!」
 ユタカと励まし合い、花冠作成を進めるミケ。
 大好きな花で花冠を作れることが嬉しい一方、花を手折ることへの罪悪感も少しある。
 この命が無駄になることがないように――様々な色彩を交えて、ミケは丁寧に茎を編んでいく。
「おねーさん、なんでそこに花をいれるの?」
 首をかしげるのはミューシエル・フォード(キュリオシティウィンド・e00331)。
 すぐに使うというのに職人が冷蔵庫に花をしまう様子を不思議に思っての質問に、女性はこう答える。
「花は暖かいとすぐ開いてしまうので、一番綺麗に見せたい時に全部が開いてくれるように、こうやって冷やしておくんですよ」
「いちばん、きれいに見せたいときに……」
 ミューシエルは真剣な表情でうなずいて、今度から作る時のためにとしっかり覚えておくことにした。
 ルビー・グレイディ(曇り空・e27831)は、職人の手の中で形が作られていく花冠に感嘆の溜息。
「妖精とかお姫様が被っていそうなくらい素敵だねー」
 ルビー自身は白詰草の花冠しか作ったことはなかったが、上手に出来たらダンボールちゃんにプレゼントしたいと、ルビーは少しずつ作業を進めていく。
「うまく作れたら、リルちゃんにプレゼントしましょう!」
 ルペッタも自身のサーヴァントに贈りたいと張り切って、季節の小花を中心に、可愛らしい花冠に取り掛かる。
 アンクは右手に手袋をしているから、その分手間取りがち。
 しかし、手順を一つずつ確認して、花びらが抜け落ちてしまわないように注意しながら冠を作っていた。
 アルヴァ・シャムス(逃げ水・e00803)も、余計な葉を切り細部にまでこだわって作業を進める。
「俺様的には、デカい花があった方がいいな」
「全体がカラフルですから、白い花だとごちゃっとせずに済みそうですね」
 職人の言葉になるほど、とうなずいて、ゼロアリエ・ハート(晨星楽々・e00186)は自分の花冠にも活かす。
 家で待つ恋人のためにとゼロアリエは赤を中心とした花冠にしていたが、さし色として白や黄色も交えていく。
(「ガーベラも使いたいなぁ」)
 彼女の好きな花もどこかに入れたい――人のためだと思えると、いつまでも頑張れそうな気がした。


 ――そして三日間が経過し、ケルベロスたちの作った花冠がずらりと並ぶ。
「んー、そうですね……」
 花冠の出来栄えによって、見習い程度の実力を得た者――囮となるケルベロスを決めることになるとあって、職人の女性も選ぶ目つきは真剣。
 しばらくの間迷ってから、女性は二つの花冠を手にした。
「まず、こちらの花冠ですね」
「あ、俺のだ」
 赤いガーベラを中心に、白と黄色の小花を散らした花冠はゼロアリエの作ったもの。
「ガーベラがメインで、よく映えているでござる」
 誰が使う花冠なのか、どんな花を使うのかといったイメージが最初からあったため、この三日間で具体的なイメージに向かって作ることが出来たのが良い点だったのだろう。
「メモも取って……遅くまでやっていましたからね」
 何度も繰り返し練習したからこそ、ここまで綺麗に作れたのだろうとアンクも納得。
「あとは、こちらも可愛らしくて素敵です」
「やったぁ!」
 ミューシエルはぱあっと顔を輝かせて、にこにこ笑顔になる。
 色とりどりの小花を散らしたミューシエルの花冠は、あちこちから覗く茎の緑も瑞々しい。
「Che Carino……賑やかだね……」
 使う色が多い分、使う花は小ぶりなものが多く、ごちゃごちゃした印象はない――なるほど、とミケはうなずいた。
「わくわくしちゃう、素敵な花冠ですねっ」
 ルペッタがそっと持ち上げてみても、花冠は崩れずに愛らしい形を保っている。
 おまじないとしてではあるが頻繁に花冠を作っているというのもあって、多少触れたくらいでは乱れない茎の編み込みも見事なものだった。
「もちろん、皆さんの全てが素晴らしいのですが……あえて選ぶなら、このお二人かなと」
 女性の言葉にルビーはうなずいて、事前に考えていた手順を再確認。
「あたしたちは公園で待ってるから、二人は公園まで誘導してね」
「決まりだな。じゃ、始めるか」
 アルヴァが言うと、ケルベロスたちは螺旋忍軍を迎え撃つ準備を始めることにした。

「失礼、ここに花冠の職人は……」
 赤いドレスの螺旋忍軍は問いかけ、ミューシエルの姿を見つけて怪訝な表情を浮かべる。
「貴女が?」
「うん、そうだよ!」
 見るからに幼い姿に螺旋忍軍は不安げな表情でマタドール姿の螺旋忍軍と視線を交わすが、何か勝手に納得したような表情になる。
「花冠の技術を見せて貰いたいのですが」
「だったら、公園に行こうか。初心者は明るい場所でやった方が色合いが把握し易いんだよ」
 ゼロアリエの言葉はもちろんでまかせ――むしろ、気温が高く、風に当てられる可能性のある外よりは室内の方が良いのだが、もちろん螺旋忍軍は知る由もない。
 ケルベロスたちの待ち受ける公園へと足を踏み入れた螺旋忍軍二人は、周囲を見回して、なるほどとうなずく。
「自然に囲まれた中であれば、インスピレーションも湧くというわけですね」
「んー、そうかな? ミューはよくわかんない」
「え?」
「そういう人もいるかもしれないけど――俺としては、戦いやすくていいかな!」
 ゼロアリエの言葉と同時に、隠れていたケルベロスたちが姿を見せる。
「貴様ら――謀ったな!」
 表情を変え、叫ぶ螺旋忍軍。
 始まる戦いの予感に、ゼロアリエはニッと笑うのだった。


「春の苑 紅匂う 花嵐」
 桃の花嵐は、過ぎ去った春の香りを連れてやってきた。
 ウイングキャット・リューズの風によって更に舞い踊る花嵐にミューシエルは楽しそうに笑って、オラトリオの両翼を大きく広げる。
「いくよー!」
 生み出された弾丸はマタドールの螺旋忍軍の肩に食い込み、アンクは右手の手袋を自らの炎で焼く。
「クリスティ流神拳術、参ります……!」
 解放された地獄は右手に、アンクはオーラを纏う左手で、マタドールの螺旋忍軍に肉薄する。
 掌底で叩きつけ、螺旋忍軍は鈍い声を上げて倒れ伏す。
 ミケが振り下ろす斬霊刀『Vivere perla』には迷いもブレもない。断罪するかのように一直線の斬撃は、赤いドレスから覗く螺旋忍軍の背中にひと筋の傷をつけた。
「拙者の目が明るいうちは、必ず守ってみせまする」
 灰色の髪を残像のようになびかせて、ユタカは赤いドレスの螺旋忍軍に肉薄。
 放たれた蹴りは風切り音を響かせると、ドレスごと螺旋忍軍の身を切り裂いた。
「景気付けに、どっかーん」
 ルビーは言って爆破スイッチを押し、生まれたカラフルな爆煙の中からダンボールちゃんが飛び出してマタドールの螺旋忍軍に噛みついた。
「どっちかに集中した方がいいな」
 二体の螺旋忍軍、どちらかに絞ることなく続く攻撃にアルヴァは呟いて、肺いっぱいに空気を吸い込む。
 獣じみた咆哮は赤いドレスの螺旋忍軍へ――あまりの勢いにじりじりと後退する螺旋忍軍に、リルはひっかき傷を負わせた。
「リルちゃんはそっちの敵をお願いします!」
 声を上げるルペッタの手にはゾディアックソード。
 生み出される星々はきらきら瞬いて、小さな小さな太陽のようにケルベロスたちを取り巻いていた。


 二体の螺旋忍軍に対してケルベロスたちは先手を打った――しかし、戦況は必ずしも有利に進むわけではなかった。
「……まだ、倒れないの……?」
 一枚だけ灰にくすんだ翼を打って敵と大きく距離を取ったミケは、螺旋忍軍たちを見て呟く。
 螺旋忍軍はいずれもそれなりのダメージを負ってはいるが、撃破には至っていない……長期化する戦いの中でケルベロスたちも消耗し、ミケは仲間のヒールに回ることにした。
「さぁ、目を閉じて、信じ給え。祈り給え」
 迸る眩さが描くのは、巨大な十字。
「そして厳正なる裁きを受け入れ給え」
 祝福の光が降り注ぐ――輝きを受けて、ルビーはぐっと拳を握り。
「超重量級の一撃をお見舞いするよー」
 ダンボールちゃんのばらまいた黄金を踏み台にして、ぴょんと大きく飛び跳ねた。
 マタドールの螺旋忍軍を捕え、地面にめり込まんばかりに力強い一撃――土埃を吸ったのか咳き込みながら螺旋忍軍は刃をルビーに突きつけるが、ルペッタは輝ける盾を展開してルビーを守る。
 輝きは宙に溶けるが、為した護りが消えるわけではない……だがまだ足りない、と思った時、ユタカが声を上げた。
「痛いの痛いのとんでいけ」
 ユタカは優しいおまじないで仲間を癒し、そうしながらも油断することなく螺旋忍軍を見つめている。
 リルは狙いを変えず、果敢にドレスの螺旋忍軍へとリングを叩きつける――アルヴァの狙いも同じ。
 リルが、アルヴァが赤いドレスの螺旋忍軍を狙うのは、そちらの方が体力の残りが少ないから。
 ……もしも全員で一体の敵に狙いを集中させて攻撃していれば、既に一体は倒され、ケルベロスたちが負うダメージも少なく済んだかもしれなかった。
 しかし全員で狙いを一致させることが出来ておらず、分散する狙いのために撃破は遅れ、ケルベロスたちは想定よりも戦いが長引いてしまっていた。
「クソ野郎、芸術も解せんくせにどうする気だったんだ?」
 吐き捨てるように言いつつ、アルヴァは斬霊刀『夕星ーユウヅツー』に己の魂を乗せる。
「ぬばたまの鴉は生と死のあはひにて」
 投げつけられた斬霊刀に宿る魂は、刹那を経て幻影へと変わり。
 あっさりと命を奪われるドレス姿の螺旋忍軍――残るマタドール姿の螺旋忍軍へと、ゼロアリエは凍てつく力を殺到させる。
 リューズは絶え間なく風を吹かせてケルベロスたちの力となり、ミューシエルは拒絶の秘術を解放する。
「ぜったい、にがさないんだから!」
 ルーンを刻んだ簒奪者の鎌『ハーヴェスター』で接近する傍ら、アンクは両拳を合わせて白炎を発生させる。
「これが今の私に出来る全力……!」
 ミューシエルの刃が届き、続いてアンクの拳が乱打する。
「クリスティ流神拳術壱拾六式……極焔乱撃(ギガントフレイム)!!!」
 幾度も打ちつけられる拳――炎に呑まれ、マタドール姿の螺旋忍軍も骸に変わった。

「一件落着だな」
 アルヴァは言って、帰ったら酒でも飲もうかと思案顔。
 螺旋忍軍の骸に、アンクはケルベロスコートをかけ、花冠を置く。
「それにしても……この技術で何をするつもりだったのでしょうか?」
 今となっては何も分からない……あるいは彼らも知らないのかもしれない。
 もしも本当に技術を覚えるだけならば職人を殺す必要などないはずなのだから、彼らの目的は他にもあったのかもしれない――アンクはそのように想像する。
(「純粋に花冠に興味を持ってほしかったなあ……」)
 花冠職人を狙ったことは許せないと思いつつも、ルペッタはそんなことを思うのだった。
 戦場のヒールを終えるた一同は全てが終わったと職人の女性に伝えに赴き、ユタカはもう少し修行をしたいと依頼する。
「これを機に、完璧にマスターしたいものでござるな!」
 ミケも隣で小さくうなずいて、公園にあった折れてしまった花を差し出す。
「ミケさん……この子、冠にしてあげたい……」
 ゼロアリエはといえば、完成した花冠を恋人にプレゼントしたらどんな顔をするだろう、と想像中。
「ありがとね! いい経験だったよ!」
 お礼を言う表情が晴れやかなのは、戦いが無事に終わったからというだけではなさそうだった。
「ミューも、かえったらふくしゅうしないと!」
 普段使いの時にも良い知識をたくさん吸収したミューシエルは、帰って実践するのが楽しみだという表情。
 ルビーは自分が作った花冠を、そっとダンボールちゃんに乗せる。
「いつもいつもありがとう」
 お礼の言葉を受け取って、ダンボールちゃんはぴょんと飛び跳ねるのだった。

作者:遠藤にんし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。