ミッション破壊作戦~熱い想いを冷たい機械へと

作者:青葉桂都

●魔空回廊を破壊せよ
 各地にあるミッション地域は徐々に数を減らしていたが、しかしまだまだデウスエクスに支配された土地はなくなっていない。
「グラディウスにグラビティ・チェインがたまったと連絡がありました」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は集まったケルベロスたちにそう告げた。
「もう僕以上にご存じの方も多いと思いますが、『グラディウス』はデウスエクスの移動手段である魔空回廊を破壊するための武器です」
 ダモクレスから奪取した物で、外見的には長さ70cmほどの光る小剣だ。
 もっとも、通常の魔空回廊は放っておけば消えるもので、わざわざ壊す必要はない。
「狙ってもらうのは、皆さんが強襲型魔空回廊と呼んでいる一方通行の回廊です」
 それがある場所はデウスエクスに支配されており、ミッション地域と呼ばれている。
 だがグラディウスを使えば人々の暮らしを取り戻すことができるのだ。
「グラディウスは一度使用した後、グラビティ・チェインを吸収して再使用可能になるまでかなりの期間がかかります。どこを狙うべきかは、皆さんで話し合って決めてください」
 決めたらヘリオンでその地まで送ると、イマジネイターは告げた。
「いちおう、ご存知ない方のためにこの作戦の内容について説明させてもらいますね」
 わかっている人は聞き流していいとイマジネイターは言った。
 ミッション破壊作戦で狙うのは、徒歩ではたどり着けない位置にある地域の中枢部だ。
 目的地まではヘリオンで移動し、そこから降下作戦を行うことになる。
「魔空回廊は半径30mほどのバリアに囲まれています。そのどこかにグラディウスを触れさせてください」
 ヘリオンから狙った場所に降下するのは難しいが、それだけ広い範囲内のどこでもいいのであればなんとかなるはずだ。
 そして、高高度からの攻撃はデウスエクスといえども防ぎようがない。
「攻撃について重要なのは、想いを込めて魂の叫びを出すことです。皆さんの熱い想いを、どうか聞かせてあげてください」
 想いが強ければ強いほど破壊確率は上がる。
 仮に破壊に失敗してもダメージは蓄積するので、攻撃が無駄になることはない。最大でも10回ほど降下作戦を行えば破壊できるはずだ。
「グラディウスによる攻撃時は、大きな爆炎と雷光が起こります。デウスエクスが混乱しているうちに撤退してください」
 その際、グラディウスを持ち帰ることも忘れてはならない。
「ただ、一番大事なのは皆さんが無事に戻ることですので、忘れないでくださいね」
 イマジネイターはそう付け加えた。
「ただ、一番大事なのは皆さんが無事に戻ることですので、忘れないでくださいね」
 イマジネイターは付け加える。
 なぜなら、中枢部を守る敵は精鋭で、攻撃で起こるスモークに紛れても完全に戦闘を回避するのは不可能だからだ。
「どこかで敵と遭遇したら、なるべく急いで敵を無力化してください」
 時間がたてば、敵は混乱から立ち直り、連携をとってケルベロスを追いつめようとする。そうなれば誰かが暴走するか、降伏するしかない。
 選ぶ地域ごとに敵の特色があり、戦術は変わってくるだろう。
 だが、なにより速度が重要だということだけは忘れてはならない。
「僕は皆さんを運ぶことしかできません。でも、皆さんがきっと作戦を成功させて戻ってきてくれると、信じています」
 ケルベロスたちを顔をゆっくりと見回して、イマジネイターは告げた。


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
アルケミア・シェロウ(罠仕掛け・e02488)
ノーザンライト・ゴーストセイン(ヤンデレ魔女・e05320)
黒鉄・鋼(黒鉄の要塞・e13471)
フレア・ガンスレイブ(ガラクタ・e20512)
千里・雉華(絶望齎す狂犬・e21087)
ホルン・ミースィア(超神聖合体ホルン・e26914)
エルガー・シュルト(クルースニク・e30126)

■リプレイ

●怒りの向かう先
 千里・雉華(絶望齎す狂犬・e21087)は激怒していた。
 ケルベロスたちを乗せたヘリオンは茨城県鹿嶋市、鹿島臨海工業地帯へ向けて高速で飛行していた。
 雉華の怒りは、そこを支配するダモクレスへ向けられたものだ。
 工業地帯への攻撃はすでに3回目。雉華は以前にも一度参加している。
「今度こそ、強襲型魔空回廊を砕きます」
 同じく二度目の参加であるフレア・ガンスレイブ(ガラクタ・e20512)も呟いた。
 他のケルベロスたちもそれぞれに真剣な表情を見せている。
 とんがり帽子をかぶった魔女がグラディウスをじっと見つめてポツリと口を開いた。
「チャンバラがしたい」
 ノーザンライト・ゴーストセイン(ヤンデレ魔女・e05320)は単に表情が変わらないだけで、緊張はしていないようだ。
「のーじゃんらいと……これ、ぶきには使えないんじゃなかった?」
 ちょっと噛み気味に名前を呼びながら、伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)が首をかしげて魔女の顔を見上げる。
「知ってる……イマジネイターが驚くかと思って」
 魔女はぼんやりとした表情のまま操縦席に目を向けた。
 工業地帯の真ん中にあるバリアが見えてくる。
「頃合いだな、出ようか」
 背筋を伸ばした姿勢のまま立ち上がったのはエルガー・シュルト(クルースニク・e30126)だった。かたわらにあった小剣を自然な動きで握る。
「ああ。行くとしよう」
 全身を隈なく鎧で覆った黒鉄・鋼(黒鉄の要塞・e13471)も静かに立ち上がる。
「楽しもう、とは言えなさそうだね。今回は」
 アルケミア・シェロウ(罠仕掛け・e02488)はいつになく真面目な表情を、狐のお面で覆い隠した。
 足音高くヘリオンの搭乗口へ向かった雉華が、気勢を上げて宙に飛び出す。
「イマジネイターのおねーさん、運んでくれてありがとう」
 ホルン・ミースィア(超神聖合体ホルン・e26914)は操縦席に声をかけると、朝焼け色の翼を広げて飛び出していた。
 他のケルベロスたちも、次々にヘリオンから魔空回廊へ降下していった。

●剣を突き立てろ!
 風を切り裂き、ケルベロスたちは高高度から魔空回廊へ降下していく。
「これで三度……仏だってブチ切れる回数だ。コッチも最初からキレてていいよなァ」
 雉華は少しずつ近づいてくるバリアをにらみつけた。
「テメェ等が狩ったレプリカントと、心ごと喰われた輩の遺族の代理にアタシがテメェ等を叩く。何言ってるかわかんねえだろ? 遺る側にも奪われる側にも立たねえ卑怯者によ」
 地上をうろつく2体のダモクレス……そしてその同型機たちには聞こえないだろう。
 だが、聞こえていなくてもいい。
 すぐにわからせてやる。
「アンタら二人は物的被害も、心の痂も多く大きく広げすぎたッて話だよ。成れの果てを増やすしか自慢できねえクセに浮世に立ってんじゃねえ!」
 光る小剣を突き出す。
 バリアへ先端が触れるのと同時に、世界が揺れた気がした。
 雉華の怒りが形となったかのような巨大な爆炎と雷光がバリアを揺らがせる。
 他のケルベロスたちも次々にグラディウスをバリアへと向けている。
「約束したんだ、どうにかするって。指切りはなるべく守るのが主義なの。せっかく手に入れた感情は奪わせない。感情を、悲しみで埋めさせたりしない」
 アルケミアはかつて交わした約束を思い出していた。
 誰との約束なのか、彼女以外にはわからないだろう。
 けれども想いを高められるならそれでいい。
「だから――これまでスクラップにしてきた連中と同じところに送ってやる。踊る準備は出来たか、ガラクタども」
 外面は真面目に、冷淡に……けれども心の中は強い思いで満たしていく。
「――舞台劇の始まりだ」
 雉華の一撃目に続いて、アルケミアの二撃目がバリアへと弾けた。
「天を掴む程の巨大なドレッドノート。無数の兵器が津波となって押し寄せたあのダモクレス軍との大戦争。キミらは絶対的な勝率を確信して攻めてきたはずだ。それなのに、なんでボクらが勝てたかわかるかな?」
 彼方にいる敵へとホルンは問いかける。
「ボクらを運んでくれた、元ダモクレスのイマジネイターおねーさん。ドレッドノートを操る指揮官の1人。それでも、なんでボクらの味方をしてくれるのかキミ達にわかるかな?」
 きっと、心のないダモクレスには答えのわからない問いだ。
「キミらが目的とするレプリカントの感情除去によるダモクレス化、そんなこと絶対に成功させない! ボクらヴァルキュリアもまた、キミらの知らない感情を、ココロを知ってこの星を愛するものとなった種族だからっ!」
 ヴァルキュリアの翼を広げて、ホルンは小剣を構える。
「熱く苦しいほどのココロの咆哮、見せてあげるよっ!」
 3度目の炎が巻き起こった。
(「こころとか、たましいとか、どこにあるか、わかんない」)
 仲間たちの叫びを聞きながら勇名は思う。
「だけどなんか、あいつらのしてること、すごくモヤモヤする。……ぼく、おこってるのかな」
 しっかり握りしめたグラディウスにどれだけグラビティを込められているのか……勇名自身でもそれはわからない。
「これ以上、好き勝手、させない。なにももっていかせない。……だからこたえろ、グラディウス。ぼくの、まけないってキモチは、ここにある。それは、本当だから」
 だが、想いを込められたと信じて、少女は小剣を突き出した。
 爆発は雉華のものより小さかった気がするが、確実にダメージを与えている。
 一度でもミッション破壊作戦に参加したことがある者ならわかっていることだが、今回も敵の反撃はない。
 ノーザンライトは相変わらずぼうっとした目でバリアを見つめていた。
 けれども、今の彼女は魔空回廊に支配された場所にいる者たちについて考えている。
(「感情を潰しダモクレスに戻す……殺して骸で別のものを作ることと何が違うんだろ? 実験などと称するのは最早冒涜と思うの」)
 いや、本当はヘリオンに乗っているときから考えていたのかもしれない。
 出しなれていない大声を出すために、ノーザンライトは大きく息を吸った。
「心を弄び。その罪意さえないのは。地球では下衆と呼ぶ嫌われ者。嫌われ者は。冒涜者は。二度と、この地に来るなッ!」
 気合を上げてグラディウスを突き出すと、また大きな爆炎が広がる。
 すでに3度目の攻撃となるこの魔空回廊だが、外見からはどれだけダメージを受けているのかうかがうことはできなかった。
 ただ、ケルベロスたちは想いを尽くすよりないのだ。
 厚い鎧の下で鋼も想いを高めている。
(「全力を以て魔空回廊を破壊し、もはや何を為せるでも無いダモクレス達の行進を止めるべし。これ以上、ダモクレスを無駄に死なせない為に。破壊を以て、ダモクレスの名誉を守る為に」)
 それがかつて同胞であった者たちの名誉を守ることだと彼は信じている。
「今度こそ、強襲型魔空回廊を砕きます」
 フレアは剣を握りしめた。
「私はレプリカント。ですが、ダモクレスを辞めたつもりはありません」
 おそらくは異端とされる考え方だろうが、それが偽らざるフレアの想いだ。
「私の夢は地球とマキナクロスの和平。種として滅んでも、個として死を迎えても、私はダモクレスの未来を守りたい」
 少し前を行く鋼が一瞬フレアに視線を向けた気がした。
「誇りに掛けて! 名誉の為に! さらばだ、アニエス! アメーラ!」
 グラディウスをバリアへと突き立てた鋼に続いて、フレアもまたバリアに剣を向ける。
「定命化しなくたって、共存という形でも良いんです。とにかく、私は私の大切な人たち全部を守りたい!」
 ダモクレスさえ歩み寄れば、地球とマキナクロスはよき隣人になれる――そう信じて、フレアは抗い続ける。
「その為にも、まずは侵略行為を食い止めます! 奪わせない、無為に殺させない! アニエスさん、アメーラさん。今度こそ、私の魂を賭けて、貴女方の任務を叩き潰します!」
 強く握りしめた小剣を、彼女は爆炎と雷光に覆い隠された場所へ振り下ろした。
 6回目と、7回目の爆炎と雷光が周囲に広がった。
 降下からの攻撃は体感では長く感じられるが、実際にはわずかな時間でしかない。
 最後の1人が攻撃するまでの差は、おそらく1分もかかっているまい。
「俺の出自は寄生型ダモクレス試作機。かつて少年の身体を奪い、覚醒時には多くの民間人を消失させた」
 エルガーは、少なくとも自分がそうして生まれたのだと認識している。
 ケルベロスとしての力も、敵から魔術を奪い、魂を食らう『奪う者』だ。
「……それでも、これまで出会った命の輝きが、俺に生きる理由をくれた。牙無きレプリカント達の涙が、祈りが、無念が、俺をこの地へ導いた」
 鋭い眼光が魔空回廊を見据えている。
「感謝も称賛も名誉も要らない。奪い続けて来た俺が、奪わせないために力を揮えるなら。アメーラや俺のような存在が、造られない未来を掴めるなら」
 言葉は淡々としていたが、心の中では彼の熱い想いがたぎっていく。
「……――この身の全てを牙と成し、必ず穿ち砕くッ!――……」
 そして、8人目のグラディウスが振り下ろされた。
 地面へと着地しようとしているケルベロスたちは肌があぶられるような感覚を覚えた。
 工業地帯に充満しているなにかが燃えているように感じられる。
 いや、燃えているのはバリアだ。
 爆炎と雷光に包まれた空間の中で、ケルベロスたちはバリアが燃え上がり、溶けていくのを確かに感じ取っていた。

●最後の実験
「破壊に成功した……ようだな」
 エルガーの言葉に、せき込んでいたノーザンライトが顔を上げた。
「そうらしいぜ。ケイサツとしちゃあ、残ってるダモクレスも全員しょっぴいて行きたいところだが、そうもいかねえのが残念だ」
 雉華がにらみつけるような目で周囲を見やる。
「これが和平につながるといいのですが……」
 フレアが呟いた。
「まずは逃げなくちゃね。でも、お客さんはもう来ちゃったみたいだよ」
 アルケミアが狐面の位置を直した。
 煙の向こうから2体のダモクレスが近づいてくる。
「来るなって言ってるのに」
 一息に中身を飲み干したペットボトルを、ノーザンライトが敵へと投げつけた。
「このような形で実験が終わってしまうのは残念ですわね」
「あの中にレプリカントらしき者もいる。最後に狩っていくとしよう」
 アニエス・アレクサンドロヴナとレプリカント狩りのアメーラ。
 2体の女性型ダモクレスのうち、おそらくはもっとも近くにいた者がケルベロスたちの所在に気づいたのだろう。
 もはや後がない敵が、攻撃をしかけてくる。
 ホルンはアニエスの機械の手から、エルガーをかばった。
 拷問具のごとく責め立てる攻撃を守りを固めてしのぐ。
「中身はずいぶんと小さいようだな」
「へっへーん! レプリカントだと思ってた? ざんねーんっ空も飛べちゃうヴァルキュリアでしたっ!」
「……それが鎧であることくらいは見ればわかる」
「ふーんだ、負け惜しみなんて聞こえないよっ」
 翼を広げて敵の横をすり抜けながら、ホルンは爆破スイッチを押した。色とりどりの爆炎が仲間たちを鼓舞する。
 さらにフレアからも支援を受けながら、鋼が敵の弱点を演算して至近距離からアニエスに砲撃を叩き込む。
 敵はアニエスが前衛で、アメーラが後衛に位置どっているようだ。
 戦闘に時間を費やしてはいられないが、多くのミッション地域と違ってここには2体の敵が出現する。必然的にケルベロス側もある程度守りを重視せざるを得ない。
 ノーザンライトは足元に炎の魔法陣を展開した。
「開け溶岩世界への道……来たれ灼熱の妖精よ。癒しと破邪を、与えたまえ」
 守りを固める分低下する火力は、バッドステータスで補うつもりだった。
 けれども、敵にはそれを解除する手段がある。
 灼熱の精霊が与える炎には悪しき魔力を焼き尽くす力がある。ホルンを回復がてら、魔女が呼び出した不死鳥は羽根をばらまいて力を与えていた。
「まずはアニエスを片付けるぞ」
 声をかけながらエルガーが砕竜棍からの砲撃を叩き込んでいた。
 アルケミアが放つ華麗な一撃と、ノーザンライトが召喚する氷の騎兵がアニエスを氷漬けにしていく。
 勇名が時折アメーラへと牽制の攻撃を加えていたが、他の者たちはアニエスへ攻撃を集中していた。
 修復機能を起動して敵は攻撃をどうにかしのごうとしている。
「贖え」
 だが、雉華の周囲に出現した黒いオーラが、アニエスが過去に行った死の事実を想起させて痛みを与え、癒しを妨害する。
 やがて敵にも限界が訪れる。
 鋼は機械のように無言でアニエスへの攻撃を続けていた。
 軍服に似た敵の衣装はすでにボロボロになっている。
 そして、うなりをあげるチェーンソーが、敵の体を両断していた。
 動かなくなった敵へ視線を送る。だが、鋼はなにも言わずに次の敵へと向かった。
 残るアメーラはケルベロスたちから体力を奪い取りながら、フォーマットコードを注入して体を石のように変えようとしてくる。
「起動行程全省略、今すぐに癒しなさい!」
 ホルンのドローンが集中治療を加えて、攻撃に対抗していた。
 氷漬けにして、服を引き裂いて、ケルベロスたちはまたアメーラを追いつめていく。
 敵は回復するコードを用いて対抗しようとしていた。
 だが、エルガーが召喚した風と雷の精霊の力で急加速。灼熱の精霊の炎と雷をまとったブーツで、敵の守りを焼き尽くしながら蹴り飛ばした。
「あっはっは」
 嗤い声が聞こえた。
 アメーラの影から無数の刃が飛び出してくる。アルケミアが生み出したものだ。
 そして数分後、麻痺毒で動きが止まった敵にケルベロスたちが一気に攻撃を加える。
 勇名はドラゴニックハンマーを砲撃形態に変化させた。
「これが、じゃすてぃす」
 言葉の意味はよくわからないが、こういう時に言えばいいらしいセリフと共に、砲撃はアメーラを粉砕していた。
 すでに爆煙は晴れ始めていた。
 もっと敵が強ければ危ないところだったかもしれない。
「思考はあったけど、根本的に何かがなかった。惨めな生き方」
 ノーザンライトが残骸を一瞥し、走り出す。
 他のケルベロスたちも同じだ。ただ、鋼だけは敵に敬礼をしていた。弔う時間はないが、その必要もなさそうだ。
「急ぎましょう。鋼さんも、早く」
「ああ、すぐに行く」
 フレアに声をかけられて、鋼もまた走り出した。
(「定命化、でスか。……それで寸分でも元に戻るってんなら意地にもなりまスが」)
 消えそうな煙の中を走りながら、雉華は心の中で呟く。
(「わざわざ他人の母親間借りする輩に、――持ち合わせる慈悲なんざ欠片と無ェよ」)
 かつて倒したダモクレスのことを思い出しながら、彼女は走り続ける。
 煙の向こうでは、工業地帯が本来あるべき姿を取り戻そうとしていた。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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