インフォームド・コンセント

作者:蘇我真

 薄暗い室内。光源は何かしら怪しげな数値を表示する器具のディスプレイと、実験台の上に吊り下げられた円形のライトだけだ。
 その円形のライトから、スポットライトのように明かりを受けているのは、実験台の上に横たえられた男だった。歳の頃は40歳から50歳といったところだろうか。刻まれた皺は実年齢よりも年上の印象を与える。無精ひげに落ち窪んだ眼窩。胡乱げな瞳には何も映らない。
 その傍ら、仮面で素顔を隠したドラグナーが嬉々として血まみれの手袋を外していた。
「喜びなさい、我が息子」
「俺は親父にした覚えはねえけどな」
 男は上半身を起こすと、何度か自らの拳を開閉する。
「身体はちゃんと動くし、すげえパワーだ。手術は成功したのか」
「ああ、そうだ。お前はドラゴン因子を植えつけられた事でドラグナーの力を得た。しかし!」
 ドラグナーが言葉を切る。一瞬間をおいて、男へと宣告した。
「未だにドラグナーとしては不完全な状態であり、おまえはいずれ死亡するだろう」
「死亡、ね……なんだよ、また医療ミスじゃねえか」
 男の反応は薄い。まるで死を恐れていないかのようだった。
「因子を埋め込む施術はまだ実験段階にある。医学の進歩に犠牲はつきものなのだよ」
「その言葉、本当だろうな?」
 飢えた狼のように、男の鋭い視線がドラグナーへと突き刺さる。仮面の奥の瞳は、その視線にも全く動じることはなかった。
「本当だとも。死の運命を回避し、完全なドラグナーとなる為には、与えられたドラグナーの力を振るい、多くの人間を殺してグラビティ・チェインを奪い取る必要がある」
 ドラグナーの言葉を聞いて、男は自らに刺さっていたチューブやコードを乱暴に引き抜き、地面に立つ。
「……フン、細けえことはどうでもいいさ。最初から分の悪い賭けだってのは聞いてたし、納得診療……インフォームド・コンセントってやつだ」
 生まれたままの身体に、実験台のシーツを適当に巻き付けて、スカートのように腰に履く。空いた腕には、いつの間にか簒奪者の鎌が固く握られていた。
「アイのいない世界になんざ未練はねえ。俺が死ぬまで、この腐った世界の人間どもをぶち殺してやるまでだ」
 飢狼の瞳に光が宿る。それは、復讐の光だった。

「ドラグナー『竜技師アウル』によってドラゴン因子を移植され、新たなドラグナーとなった男……ビリー・ワイルドが事件を起こそうとしている」
 星友・瞬(ウェアライダーのヘリオライダー・en0065)は自らの見た予知をそのようにケルベロスたちへと説明する。
「この新たなドラグナーは、まだ未完成とでも言うべき状態だ。完全なドラグナーとなるために必要な大量のグラビティ・チェインを得るため、また、ドラグナー化する前に惨めな思いをさせられた復讐と称して、人々を無差別に殺戮するつもりのようだ」
 ビリーがどのような惨めな思いをさせられたのか、瞬はそれも調べていた。
「ビリーの復讐心の大元は、妻である女を医療ミスで殺されたことだな。体内に医療器具を置き忘れるというケアレスミスだった」
 事情を知ったビリーは当然のように病院を訴えた。しかし、それは退けられたのである。
「相手が悪かった。執刀医は名誉も権力もある男だった。圧力は凄まじく、雇った弁護士はビリーに対し大人しく示談金を受け取るようアドバイスした。弁護士を解雇したビリーは独学で法律を学び、孤独な法廷闘争を続行するも最高裁で敗訴が確定。ビリーにはもはや正攻法で訴える道もなく、同時に何をしても亡き妻が戻ってくることはない」
 そうして彼が受けた絶望はいかばかりか。計り知ることはできないが、だからと言って無差別な殺戮を許す訳にはいかない。
「急ぎ、現場に向かい、ビリー・ワイルドを止めてほしい」
 現場はとある県の総合病院だ。山あいにあり、2つの棟に分けられている巨大な病院であり、医者と患者を含めればそこにいる人数は4桁に届くかもしれない。
「病院内で暴れられると厄介だな。広大な駐車場があるので、そこで迎え撃つのがいいだろう。ビリーの武器は簒奪者の鎌。その能力についてはケルベロスの皆のほうが俺よりも良くわかっているだろう」
 敵対する者の命を刈り取るために生み出された巨大な死神の鎌。医療ミスを憎むビリーにとって、皮肉にも御誂え向きの得物かもしれない。
「ビリーもまた被害者かもしれない。だが、これ以上被害を拡大させないためにも……どうか、奴を倒してくれ」
 瞬は、深々と頭を下げた。


参加者
ナコトフ・フルール(千花繚乱・e00210)
ドルフィン・ドットハック(蒼き狂竜・e00638)
バーヴェン・ルース(復讐者・e00819)
篁・メノウ(わたの原八十島かけて漕ぎ出ぬ・e00903)
滝・仁志(みそら・e11759)
藤林・シェーラ(曖昧模糊として羊と知れず・e20440)
フレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378)
レピーダ・アタラクニフタ(窮鼠舌を噛む・e24744)

■リプレイ

●復讐するは我にあり
「これでよし、っと」
 総合病院の駐車場。集まったケルベロスたちのうち、フレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378)はいくつかのカメラを設置していた。
「それは何をしているのだ?」
 腕を組んだバーヴェン・ルース(復讐者・e00819)がフレックの行動について尋ねる。
「証拠の動画撮影用にね」
 フレックはビリーの復讐を理解し、真実を明るみに出そうとしていた。過去の裁判の記録なども調べていたようだ。
「――ム、そうか……だが、深入りは禁物だぞ」
 こめかみを叩きながらバージェンは考える。自らが、復讐にとりつかれたときのことを。
「復讐者……か」
「確かに戦いをするには十分な理由じゃのう」
 戦闘前、屈伸運動やストレッチをしてその時をいまかいまかと手ぐすね引いて待ち構えるのはドルフィン・ドットハック(蒼き狂竜・e00638)だ。
「でも、自分の大切な人が帰ってこないからって他の大切な人も帰らぬものにするのは、筋が通ってないよ」
 篁・メノウ(わたの原八十島かけて漕ぎ出ぬ・e00903)の呟きに、一般人が戦場へ迷い込まないように誘導していた滝・仁志(みそら・e11759)も同意する。
「そうだね、俺もそう思うよ。罪もない人たちを、守らなくちゃね」
 仁志は背後の病院を見上げる。この白亜の建物には、病弱な幼女も入院していたりするはずだ。未だ見ぬ薄幸の幼女のためにも奮戦しなければ……仁志は心の中でそう強く誓うのだった。
「この場合悪いのは医療ミスした医者と運だろう、なんて言っても感情が納得しないよねェ……」
 大人びた口調で肩を竦めるのは藤林・シェーラ(曖昧模糊として羊と知れず・e20440)だ。
「ま、目には目を歯に歯を……暴力には暴力でもって返すしかないんじゃないかな」
「うんうん! レピちゃんはみんなの笑顔を守るために戦うよ! キュッキュリーン☆」
 レピーダ・アタラクニフタ(窮鼠舌を噛む・e24744)は傘を肩に担いで片足立ちになり、アイドル然としたポーズを決める。
 冗談のような仕草だが、彼女は至って本気だった。アイドルなのだ。
「復讐という『呪い』のクロユリは、ひとたび心に根ざせばそう枯れることはない」
 呼応するように、大きく開いた襟を正して胸板を露出するのはナコトフ・フルール(千花繚乱・e00210)だ。
 彼が虚空へと差し出した手は、何か目に見えない草花を手折るかのように動く。
「このままイエローカーネーションのように『軽蔑』で終わらせてしまうにはあまりにも惜しい。ならばボクたちがイエローからパープルへ……『誇り』ある最期と共に彼の名誉を挽回させてやろうではないか」
「そんなに胸板を出して寒くないのか」
 真面目に心配しているバーウェンだが、ナコトフはキザったらしく首を左右に振る。
「その心配は、彼にしてやってあげてくれないかい?」
 視線の先、駐車場の向こうから歩いてくるひとりの男。
 上半身裸で、下半身にスカートのようにシーツを巻きつけている。手にぶら下げたのは命を刈り取る巨大な鎌。
 フレックは、録画開始のボタンを押した。
「来たわね、ビリー・ワイルド!」

●命の使い方
「たとえ事情があったとしても、誰かを傷つけると言うなら止めますよ。だって、ケルベロスですから!」
 レピーダの宣言に、ビリーは憎悪の視線を返す。
「何がケルベロスだ……正義のヒーロー気取りなら、なぜアイを救ってくれなかった!!」
 裂帛の気合と共にビリーは大鎌を振り上げる。
 生命力を根こそぎ削ぎ取るような袈裟斬りの一撃。
「カーッカッカッ!」
 割り込んだドルフィンが、ガントレットを装着した両腕を頭上でクロスさせて、これを受け止めていた。
「悪いがそれは見当違いの八つ当たりというものじゃ。復讐に囚われたお主のことを見過ごす気はない」
 攻撃を受け止めたまま、呵々と笑うドルフィン。その口の奥から光が煌めく。
「ならば殺り合うのは必然じゃろうのう!」
「うおっ!!」
 鎌を離し、のけぞるビリー。先ほどまで首があった場所を紅蓮の炎が通過する。髪の毛が数本焼け焦げ、嫌な臭いが鼻を突く。
「あっぶねぇ……火を吹くとか万国ビックリショーじゃねえんだぞ!」
「なに、闘争とは人間の性! それこそ己の命を賭けた劇ともいえよう! おぬしも目的を果たしたいのであれば力づくで行ってみよ!」
 水を得た魚のように縦横無尽に駆けまわるドルフィン。
「――ム。その言い様、ワイルド氏は炎を出せぬのか」
 バーヴェンは地獄化した身体から炎を噴出し、己の鉄塊剣にまとわせていく。
「てめえらドラゴンと一緒にするんじゃねえ、よッ!」
「ドラゴンじゃなくてドラゴニアンだケド。そういうとこ、しっかり区別しないと差別発言って思われるよ?」
 ギロチンのように振り下ろされる鎌に対して、シェーラがドラゴニックハンマーを振り上げる。同じスピードで繰り出された2撃が衝突し、火花が散り、澄んだ金属音が鳴り響く。周囲の空気が震えた気がした。
 弾かれて浮き上がる大鎌。
「チイッ!!」
 舌打ちと共にもう一度振り下ろすビリー。体格差と能力差で、立て直すのはビリーのほうが速い。
 かに思われた。
「メノウ!」
 シェーラはそもそも体勢を立て直そうとしていなかった。振り上げたハンマーを砲撃形態に変化させ、その大口径の銃口をビリーへと向けるだけだ。
「任せてっ!!」
 発射される轟竜砲に合わせて、後衛からメノウが飛び出す。
 斬霊斬。非物質化したメノウの刀は、大鎌をすり抜けてビリーの魂だけを斬る。
「ぐうっ!!」
 足止めを食らい、斬霊刀による精神汚染を受けてビリーの目が濁る。
「コンビネーションか……連撃とは厄介だな」
 濁ってもビリーは止まらない。否、彼はきっとハナからもう濁りきっていた。
「キミの怒りはきっと正しい。それでもボクらはアザミの如く『厳格』に、キミを阻まねばならない」
 濁りながらも全てにもがき、抗おうとするその姿勢にナコトフは滅びの美学を見た。
「花言葉は『不滅』……けしてキミを離しはしないよ」
 グラビティによって生成されたアイビーが、ビリーの大鎌に繁茂する。ビリーは切れ味を鈍らせる草花を引きちぎろうとするが、それも叶わない。
「御伽話のような、わけわからねぇ技使いやがって……もう、そういう夢物語は沢山なんだよォ!!」
 ならば、とビリーは鎌ごと投げつけてくる。
「!!」
 テレビウムが身を投げ出して当たりにきたのをあざ笑うかのように弧を描き、後衛の仁志へと飛んでいく。
「えっ、俺?」
 間の抜けた声を上げながら、しゃがんでかわそうとする仁志。しかし、避けきれず大鎌の刃は彼の肩口を切り裂いていく。
 ブーメランのように投げた大鎌を受け取るビリー。そこに硬直の隙ができたのを仁志は見逃さない。
「お返しだよ」
 狙いすましたように低い姿勢を保ったまま轟竜砲でビリーの足を穿つ。避けきれないと察した時点で手の槌を砲撃モードへと変えていたのだ。
「チィ、見た目以上に腹黒じゃねえか!」
「ダモクレス時代に取った杵柄なだけだよ。せめて策士って呼んでほしいなぁ」
 不意に笑いかけてくるビリーへ、仁志もにこやかに笑って返す。
 ビリーのそんな態度が、フレックはまた許せなかった。
「なんで……そんなに楽しそうなの! 殺戮が貴方の願いなの!」
 雷速で突き出された剣が、ビリーの皮膚を切り裂いていく。
「そうだよ、このクソッタレな世界を全部潰す。それが俺の死に様……いいや、生き様だね!」
 対抗するように大鎌の柄を突き出してくる。喉を突く一撃は、断頭台のギロチンを思わせる。
「ぐっ……それもいいでしょう……でも、何故、貴方は病院を襲うの?」
「……ま、ちょいと病院に恨みがあってね」
「調べたわよ。奥さん、医療ミスで亡くしたのよね?」
 ビリーの顔が、攻撃を受けたかのように歪む。
「チッ、人の過去をいちいちほじくり返しやがって……古傷を抉るんじゃねえよ」
「ならば……! 医療ミスで大切な人を殺された貴方が! 理不尽な事象で大切な人を失った貴方が! 同じ事を起こすのか!」
 フレックの絶空斬が、ビリーの身体をジグザグに切り刻んでいく。
「アンコールだよ、盛大なる拍手を!」
 ナコトフが、更に片腕の攻性植物をギザギザな刃の剣に変化させて、刻まれた傷を拡大させていく。
 傷口を抑え、たたらを踏むビリー。フレックはそこに畳みかけた。
「そんなのはおかしい……間違ってる! だって! 貴方は最後まで……その理不尽を憎んでいたんじゃなかったの……!」
 時刻み。フレックの持ちうる最強の剣技。フレックの愛刀たる魔剣とグラビティを共鳴させ相手の時空間『ごと』切り裂く一撃。
「ああ憎いさっ!!」
 その攻撃を、ビリーは見切っていた。斬り開かれる時空を読んで、半身だけでも動ければ躱せる。そして、生じた致命的な隙に心の臓へ死神の刃を突き立てることができた。
 ――足が思ったように動いてくれていれば。
「ぐうっ……!」
 足止めで動かない身体。片腕が根元から別の時空へと持っていかれる。
 すぐさま残った片腕で大鎌を握り、振るう。
 狙いがズレる。
 フレックの腹部。
 わき腹に突き刺さる刃。さほど生気も吸収できない。
「なんだって、俺はいつも肝心なところで失敗しちまうんだ――」
「応――それは逃げたからだな」
 冷静に、バーヴェンが告げる。
「逃げた……? あれだけやった俺が、もう復讐しか道がなかったというのに……!?」
「復讐自体が間違っているわけではない。その憎悪も理解はしよう。だが、時折思うのだ。他の道はなかったのだろうかと。やもすると、感情に流されて、目の前にあった一番歩きやすい道を選んだだけかもしれぬ……と」
 復讐に身を通している男の言葉は、ビリーの言葉に重く圧し掛かる。
「せめて祈ろう」
 そして、言葉以上に重い一撃が、気づけばビリーの身体を切り刻んでいた。
「復讐なんぞで戦っても何の面白味もない!」
 ドルフィンの強烈な踏み込みで、アスファルトが割れる。崩拳のように踏み込み、体内で練り上げられたドラゴンオーラを掌底で叩き込む。
「であるならば、最後くらいは闘争を味わってから死ぬがよい!」
 吹き飛ばされるビリー。体内の気脈が狂い、生命の灯火も激しく揺れ動く。視界一杯に広がるのは、昼というのに満天の星で。
「貴方がこの星の命を憎むよりも強く、レピちゃんはこの星の命を愛します!」
 レピーダの笑顔が、彼の原動力だった復讐心を溶かして奪い取っていく。生命の炎は、いまや篝火程度にまで小さくなっていた。
「貴方もまた、この星の命だから!」
 アスファルトに身体が叩きつけられ、ビリーは大の字になったまま、息も絶え絶えに呟いた。
「負けだ……俺の、な」
「貴方とのやりとりは動画に収めたわ。事実を公表すれば……判決はともかく社会的にあの病院は破滅する……どうする?」
 命の炎が消えゆくところへ、フレックが問いかける。
「どうもこうも……ある、かよ……そんなの、あいつが……望むわけ、ねえ……」
「それがわかるなら、どうして……!!」
 フレックの叫びを聞きながら、ビリーは歯を食いしばって笑った。
「俺が喪失(な)くした分まで……救ってくれ、よ。このクソッタレな、せ……か……い――」
「汝の魂に、幸いあれ……」
 バーヴェンは、消えゆく命をそう弔うのだった。

●約束
 戦いが終わり、病院には日常が戻ってきた。
 病院内に避難していた病人や看護師たちが、口々に感謝の言葉をケルベロスへとかけていく。
 その中に髪を二つ結びにした女児を認めて、仁志は相好を崩す。
「ああ、大事なようじょ……じゃなかった、皆を守れてよかった」
「メノウ、仁志はアブナイから近づかないほうがいい」
「警戒されてる……!」
 メノウを背中に隠すシェーラを見て、仁志は誤解を解くべく身振り手振りを交えて必死に訴えかける。
「違うって! 俺はその、かわいいものが好きなだけで! 確かに君の天真爛漫な笑顔と、そこからちらりと覗く八重歯は魅力的だけど……!」
「……えっと、あたし、地面ヒールしてくるね! さっき攻撃の余波で破壊されてたし!」
「逆効果だった!?」
「……冗談のつもりだったケド、本当に警戒したほうが良いような気もしてきた……」
 戦いが終わり、緊張の糸が緩まって和気あいあいとする一団。その傍らでは、死を悼む一団もいる。
「カカッ、少しは戦うことを楽しめたかのう」
 アスファルトへと笑いかけるドルフィン。身体と大鎌はとうに塵と消え去り、彼がいた面影は、そこに転がるボロボロになったシーツだけだ。
「彼の魂は、どこへと行くのでしょうか」
 レピーダはいつになく真剣な表情で、ビリーを看取る。ヴァルキュリアとして、人の生き死にには敏感だった。
「もちろん、奥さんのところよ。ね?」
「応――。彼の手はすんでのところで血には染まらなかった。あの世でも清浄な腕で、愛する者を抱き留められるだろう」
 フレックの同意を求める声に、バーヴェンは深く頷く。
「彼の為に、この花を捧げよう」
 ナコトフが取り出したのは、一輪のクローバー。シーツの上に、そっと置く。
「クローバーの花言葉は『復讐』、そして『約束』……君が望むのならば、理不尽な真実を曝け出しても良かったのだけれど……君はこれ以上、悲喜劇の再上演を望まなかったようだからね」
 突風が吹く。シーツは、クローバーを包み込むように空へと舞い上がっていく。
「『約束』しようじゃないか。君が憎んだこの醜くも美しい地球を守ってみせる、と」
 そうして、ナコトフは幕を下ろすようにカーテンコール、礼の姿勢を取るのだった。

作者:蘇我真 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 2
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