●少女の作戦
「小癪な!」
夜闇を疾走しながら、短刀を抜くとその螺旋忍軍は、敵対勢力の下忍に素早く斬りかかるが、斬りかかられた螺旋忍軍も負けじと、路上の案内標識を足場にして宙に飛び、螺旋手裏剣を撃ち出す。
深夜の繁華街、一般人こそ誰も居ないが、螺旋忍軍同士の戦いで少しずつ街は被害を受けていく。
大きな騒動にならないのは、彼等が隠密を常とし、闇に生きる螺旋忍軍だからこそに他ならない。
だが、その戦いを一人の少女……いや、一人のケルベロスだけは目にしていた。
「あちきの思った通りっす。忍軍同士の戦いは激化の一途っす。東京23区の平和を守るには、やっぱり、アレが必要っすよね!」
そう口にすると、ケルベロスの少女、鯖寅・五六七(ゴリライダーのレプリカント・e20270)は、足早にその場を後にした。
●螺旋の拠点を強襲せよ!
「東京23区での螺旋忍軍の騒動は、みんな知ってるよな?」
資料を手にヘリポートに現れた、大淀・雄大(太陽の花のヘリオライダー・en0056)は、ケルベロスにそう聞くと、話を続ける。
「螺旋帝の血族が地球に落ち延びたことにより、螺旋忍軍のそれぞれの組織が螺旋帝の血族を保護し有力な力を手に入れようとしているってやつだな。現在、螺旋忍軍の各組織は螺旋帝の血族を一応探しているんだけど、実情は敵対忍軍との競争と言うより、他の忍軍を滅ぼす為の小競り合いを東京の各地で起こしている。もとより、他の忍軍を滅ぼそうとしている白影衆のような忍軍がこの戦いに含まれていた事も、今回の抗争が大きくなった要因かもしれないけどな」
現在、東京23区で確認されている組織は9つ。
その中でも、白影衆は他の忍軍と違い、積極的に他の組織を滅ぼそうと暗躍している。
「で、ここからが本題だ。独自で調査していた、鯖寅・五六七によれば、東京23区の螺旋忍軍同士の戦いは激化する一方らしい。そこで、この状況を打破するべく、五六七の提言を受け『正義のケルベロス忍軍』を結成することになった!」
話を聞いていたケルベロス達の顔に驚きと疑問の表情が浮かぶ。
「『正義のケルベロス忍軍』は、ケルベロスとして一般人を守る為に戦うだけで無く、忍軍達と同じ土俵に立ち『螺旋帝の血族』を捜索し、他の忍軍との抗争に新たな勢力として参加してもらう。普段のように、発生した事件に対応するのでは無く、能動的に事件に介入する事が今回は必要だと判断した訳だ」
『忍軍』の名を冠する理由は、簡単だ。
『ケルベロス忍軍』を名乗れば、疑心暗鬼で敵対組織を疑い牽制している、各組織を撹乱出来る可能性が高いからだ。ケルベロスと手を組んだ組織が生まれたのではないかと思ってくれれば、こちらの思う壺と言うものだ。
「現在、それぞれの忍軍は他の全ての忍軍を敵として総力戦を行っている。つまりだ、本拠地が手薄になっている可能性が高い。この好機を活かせば、他の忍軍に大打撃を与え、螺旋帝の血族を探し出し発見するチャンスが廻ってくる可能性も出てくる」
各忍軍の拠点の制圧を目的とし、螺旋帝の血族を見つける事に繋げる……ザックリと纏めれば、これが『ケルベロス忍軍』の役目となる。
「螺旋帝の血族がどんな存在なのかは分かんないんだけど、螺旋忍軍が互いに殺し合ってでも奪おうとする程の価値が必ずある筈だから、螺旋忍軍の各組織より先に発見して、適切に処理する必要があるのは間違いないだろう。何処に居るか皆目見当がつかない状態なんだけどな」
今の所、雄大だけではなく、どのヘリオライダーにも螺旋帝に関わる未来予知は降りて来ていない。螺旋忍軍の持つ情報が全てと言ってもいい状態だ……情報量としては大差ないようだが。
「じゃ、現在東京23区で抗争を行っている、螺旋忍軍の組織の説明をするな。みんなには、この内の一つの組織の拠点を強襲してもらいたい。各組織によって、規模や戦力は異なる。大きな判断材料になるから、確り頭に入れてくれ。まず『月華衆』9つの忍軍の中では、勢力は大きい方になるけど、その全てが今回の抗争に投入されている訳じゃない。作戦指揮官である『機巧蝙蝠のお杏』を撃破する事が出来れば、当面の作戦続行は不可能になるだろう」
拠点として、豊島区の雑居ビルを一つ丸々使用しているらしい。
「次に『魅咲忍軍』組織としての規模は大きくないけど、指揮官である魅咲・冴以外にも、7色の軍団とその指揮官が存在しているみたいだ。魅咲・冴を狙った場合、他の指揮官達が救援に来る可能性が高い為、倒しきるのは難しいかもしれない。ある程度の打撃を与える事ができれば、螺旋帝の事件への関与を諦めるか、諦めなくても、配下の全忍軍を動員して戦力を整えようとする筈だから、当面、作戦を動かすことは出来なくなるだろう」
拠点は、港区の反社会勢力が良く利用する倉庫を占拠し、利用しているとのことだ。
不利になった場合撤退する可能性が高いが、彼女達は何かしらの資料を保持しているらしく、それだけでも確保出来れば十分な意義があるかもしれない。
「どんどん行くぞー。『大企業グループ『羅泉』』社名みたいな組織名だけど、実在する『企業』ではない。『会社組織』の形態が、忍軍の組織に相応しいとして、そのように運営されているってことだ。拠点は、世田谷区のオフィスビルを不法に占拠して使用している。社長室で指揮を執っている、代表取締役社長、鈴木・鈴之助を撃破出来れば、組織として機能しなくなる可能性が高い」
だが、オフィスには戦力こそ高くないが多くの社員が内勤しており、それを突破するには数チームの力が確実に必要であり、鈴之助も忍軍のトップとして、侮れない力量を持っているとのことだ。
なお、『羅泉』の配下には、グループ系列のような下部組織があるようで、鈴之助の統制が無くなれば、それらの組織が此処に動き出す可能性もあるらしい。
「『真理華道』は、新宿区歌舞伎町のバーを拠点としている、ヴァロージャ・コンツェヴィッチが今の指揮官だ。真理華道の他の組織は不明だけど、幹部であるヴァロージャを撃破する事が出来れば、その動きを止める事が可能な筈だ」
『真理華道』を相手取った場合、組織力よりもその構成員の濃すぎる個性が強大な壁になる恐れが高い。
「霊金の河がトップアイドルとして率いる『銀山衆』は、千代田区の電気街地下でコンサートを行う事が確認された。地下コンサートを襲撃すれば、指揮官である霊金の河と対峙することも可能だろう。だけど、会場には銀山衆の他の幹部も警備に出向いているという情報もあるから、油断は出来ないな」
霊金の河も組織を纏めるだけの力を持つ少女だ。その上、同等の幹部まで相手取るとなると、十分な戦力が必要になるだろう。
「『黒笛』のミカドが牛耳っている『黒螺旋』の本拠地は東京には無いみたいだ。つまり、指揮官である『ミカド』さえ討てれば、黒螺旋の勢力は東京23区から一掃出来る。他の地区にある、本拠地から増援を派遣するにしても、かなりの時間を要すると思われるから、実質今回の抗争から排除できるかもしれない」
ミカドは現在、仮の拠点として、大田区の高級住宅街の豪邸を制圧しており、庭には番犬代わりの下忍達が放たれているとのことで、彼等に気づかれずの侵入は難しいらしい。
「雪白・清廉を指揮官とし、他の螺旋忍軍を滅ぼす事を目的として動いている様子の『白影衆』は、今回の作戦だけを考えるなら、敵対する必要は無いかもしれない」
勢力としても小さく、台東区の神社の境内の一部を拠点としているとの情報だ。
「『テング党』は、中規模な忍軍で、江戸川区の河川敷の橋の下辺りに秘密基地を作っている。指揮官のマスター・テングを討つには、ある程度の戦力が必要だと思われる。つまり、戦力集中の為に他の忍軍への強襲を諦めなければならなくなると思う」
『テング党』は、強大な力を持ったマスター・テングの下に更に彼の力に匹敵する四天王が存在するとのことだ。彼等を突破せずにマスター・テングの元へ辿り着くことは出来ないだろう。
「最後『螺心衆』は、この作戦に幹部を派遣していないと報告を受けている。だから、比較的容易に東京の本拠地である、足立区の雑居ビルの拠点を制圧する事が出来ると思う」
他の土地にある螺心衆の本拠地から増援が送られてくる可能性も低く、東京での拠点が潰されれば、今回の螺旋帝に関わる抗争から手を引くものと思われるとのことだ。
「……ふいー。流石に情報量、多いな」
一通り資料を読み上げた雄大は、大きく息を吐き、首をブンブン振ると真剣な眼差しをケルベロス達に向ける。
「今回は9つの螺旋忍軍組織がターゲットになる。敵戦力の全てが拠点に居ないとはいえ、強力な螺旋忍軍達の巣窟、油断は禁物だ。そして、他チームとの連携も重要になってくるだろう。情報は資料に纏めてある。ちゃんと目を通した上で、今回の『正義のケルベロス忍軍』作戦、最善の結果を掴み取ってほしい。信じてるぜ、みんな!」
強く言うと、雄大はヘリオンへと足を向けた。
参加者 | |
---|---|
アンノ・クラウンフェイス(ちっぽけな謎・e00468) |
天司・雲雀(箱の鳥は蒼に恋する・e00981) |
コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986) |
新条・あかり(点灯夫・e04291) |
鈴原・瑞樹(アルバイト旅団事務員・e07685) |
ルチル・ガーフィールド(シャドウエルフの弓使い・e09177) |
矢武崎・莱恵(オラトリオの鎧装騎兵・e09230) |
シルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410) |
●港区倉庫襲撃
(「螺旋忍軍……私の大切な友人が因縁を持つ相手。 少しでも彼らの戦力を減らし、有力な情報を持ち帰りたいですね。……大切な友人の霧が少しでも晴れますように」)
緊張を抑えながら、天司・雲雀(箱の鳥は蒼に恋する・e00981)は、友の顔を思い出す。
「倉庫内の見取り図は用意出来たね。この倉庫の広さで、冴を見つけるのが難しいってことは無いんじゃないかな?」
トレードマークの白衣の下に既知のお姉様に用意してもらったセクシーな忍び装束を着こみ、新条・あかり(点灯夫・e04291)が仲間達にそう告げる。
(「……忍者に見えるようにするべきなのは分かるけど……タマちゃんには、絶対見せられないよ~」)
表情にこそ出さないが、あかりの胸中は着慣れぬ忍者装束の恥ずかしさで一杯になっており、唯一彼女の心を満たしてくれる『彼』の存在でどうにか平静を保っていた。
「無線機器は使えますね。妨害電波等は、出ていないようです」
通信機器や他チームと正確な時間を合わせた時計を確認し、鈴原・瑞樹(アルバイト旅団事務員・e07685)が、コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)に言う。
「そうかい、瑞樹、有難う」
大柄で強面の印象のある彼も、瑞樹ともう1人の女性の前では雰囲気が柔らかくなる。
もう1人の女性、コロッサスの妻である、ルチル・ガーフィールド(シャドウエルフの弓使い・e09177)は、此度の作戦に思いがあるようで、一人思考を巡らせていた。
(「今回の戦い・・・…私自身を一条の矢として臨みます。旦那様が盾、瑞樹さんが回復の要。……私の精一杯で応えて見せます」)
ルチルが今回の作戦の刃ととなることを強く誓っていると、コロッサスの声がかかる。
「大丈夫か? 今回は前衛に出て……」
盾として一歩も引かぬつもりのコロッサスだが、メイン火力ともなれば、ルチルに攻撃が集中する可能性は高い。
そんなコロッサスの気持ちが分かったのか、ルチルは微笑むと、心配性の夫に言葉を紡ぐ。
「ええ。……旦那様こそ、わたしが後ろを守らなくって大丈夫です?」
女性の方が心理的に強くなることがある……ルチルの頬笑みは、コロッサスに力強い勇気を与える。
「見回して来たけど、魅咲忍軍がこちらに気づいている様子は無いみたいだよ。私と同じように隠密気流を放っているメンバーも居るから、一気に突入すれば、先手が取れると思うよ」
『アイドルくの一Ver』の、シルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410)が偵察を終え戻って来ると、コロッサスが立ち上がり通信機を手にする。
「……頃合いだな。始めるとしようか。五六七チーム、先陣頼んだぞ」
静かに無線機を通して他のチームに作戦開始の合図を送れは、各チームから『了解』の返答が聞こえる。
数秒後、聞こえて来たのは、先陣……倉庫の護りを崩すチームの叫び声だ。
「皆の者、先陣ぶった切るっすよー!」
「カチコミじゃオラー!」
幼い少女の声が聞こえれば、語調の荒い男性の声も聞こえる。
「……3・2・1! 私達も行きましょう!」
雲雀の言葉に、一気に駆け出す8人のケルベロス。
「いっくよー! 正義のケルベロス忍軍が魅咲忍軍をぶっ潰しちゃうんだよー♪」
傍らで駆ける、相棒の『タマ』に笑みを向け、忍ばず元気に正面突破を試みるのは、矢武崎・莱恵(オラトリオの鎧装騎兵・e09230)だ。
当然、扉を護る『魅咲忍軍』の注意も引くが、陽動班が彼等の攻撃を許さない。
「ありがとうだよ、みんなっ♪ 絶対、冴を倒してくるね♪」
「表で派手な動きが起これば、中は手薄になる筈だよね」
倉庫の門扉を潜り、目印用のケミカルライトを撒きながら進むのは、アンノ・クラウンフェイス(ちっぽけな謎・e00468)だ。
反社会勢力が使うような、倉庫……当然広い。
だが、障害になるのはコンテナ程度で、冴を見つけ出すのはそう難しくないだろう……。そして、彼らの想像は、当の『魅咲・冴』が現れたことで肯定される。
「正義のケルベロス忍軍よ! 魅咲・冴、覚悟なさい!」
同時に侵入した別チームの女性が、冴に対して高圧的な態度を示している。
だが、冴は怯んだ様子も無く、軽い笑みを見せると。
「どんな侵入者かと思えば、随分面白い子達ね。個性の無いうちの部下達にも見習って欲しいわ!」
冴の言葉と同時に、何処に潜んでいたのか、魅咲忍軍達が一斉に……その数12体、現れた。
そして、冴を中心に分かれると2つのチームを牽制するように、小刀を一斉に抜く。
「この者達は、冴の盾と言ったところか……莱恵、俺達も盾として皆を護り、冴を撃破するとしよう」
「ボク達が冴に引導、渡しちゃうんだよ! タマ、瑞樹さんのお手伝いよろしくね♪」
コロッサスの言葉に答えながら、莱恵は最後衛へと位置したタマにウインクを送る。
「よろしくお願いしますね、タマさん♪」
一言優しく声をかけると瑞樹はケルベロスの表情で、仲間達の集中力を高める粒子を倉庫内に広げた。
「幹部の横槍がいつ入るか分かりませんの! 全力でいきますわよっ!」
「それじゃあまた後で、ね?」
別たれたもう一班の桃色の髪の少女がこの場に居る者達全てをを鼓舞し、黒髪の女性がが互いの武運を祈ろうと頬笑みを向ける。
「そちらの班も気を付けてね。僕達も全力で、冴の撃破を目指すから」
相棒の白銀生命体『エルピス』を纏いながらあかりは、言葉こそクールに、だがその言葉に込めた思いは熱く、二人に答えた。
●魅咲・冴
「ボク達は、『ケルベロス忍軍』。キミたちが、螺旋帝についての資料を保持しているという情報が入ってね。渡してもらいたいんだ」
糸目を笑みの形にし、あくまで交渉するようにアンノが言えば、冴は馬鹿らしいと言った表情を作る。
「『魅咲忍軍』はね、惑星スパイラスの実権を握りたい訳。それに必要なのが『螺旋帝』の力。情報を持ってたとしてもあげる訳無いって」
冴の言葉が終らないうちに1体の螺旋忍軍が、螺旋の力を氷結の力に変え、アンノを狙うが、すかさず間に入った莱恵が巨大な盾で、その攻撃を防ぐ。
「ケルベロス忍軍ね~。何処か他の組織がケルベロスと手を組んじゃった……」
「どちらでしょうね?」
冴の一瞬の思考時間に距離を詰めると、ルチルは手にした如意棒を回転させ突きを放つ。
「あっぶな~い! 奇襲は忍者の専売特許なんだから止めてよね」
「だ・か・ら、私達はケルベロス忍軍なんだよ。ちょっと違うのは私達の方が強いってこと」
ルチルの攻撃をかわし不満を口にする冴に、シルヴィアが言う。
「さぁ! ここからが、私達のステージだよっ! 派手に……いっくよーっ!!」
素顔を隠していた螺旋の仮面を勢いよく剥ぎ取ると、シルヴィアは、戦い続ける者達の歌を奏で、仲間達に守護の力を巡らせる。
「逃す気、無いんだよね。長期戦も視野に盤石の態勢を取らせてもらうよ」
あかりも、纏った金属生命体に心で声をかけると仲間達の命中精度を上げる。
「冴さん、あなたさえ倒せば残りは烏合の衆と言うものでしょう? あなたを倒すのが一番手っ取り早いんです。ですから……願い、祈り、決意……全ての想いをのせて流星の如く降り注げ」
雲雀の思いは光り輝く一矢となって、流星の軌跡を描くと、冴の頭上で夥しい量の矢となり、一気に降り注ぐと冴の忍び装束を傷つけて行く。
「俺も続くぞ」
グラビティの衝撃で白煙が立ち込める中、コロッサスがグラビティを極限まで高め『終焉砕き』を力の限り振り下ろす。
「コロッサスさん今の内に、光の盾を施します。下がってください」
「分かっ……ぐあっ!?」
瑞樹の言葉にコロッサスが答えた次の瞬間、巨漢に分類される身体が勢いよく吹き飛ばされる。
「……やるじゃない。だから、あなた達から遊んであげる、あっちの班もちょっと位は意地を見せてくれる筈だし~」
螺旋の力を右手に収束させながら、冴は気紛れな猫のような笑みを浮かべた。
●忍びの戦い
「こんなものなんだ『ケルベロス忍軍』って。あら、あっちは、だらし無いわね、ちょっと加勢しちゃうか♪」
数多の手裏剣を最後衛に放ち、戦場を見渡した冴は、跳ねるようにもう一つの戦場へと移動する。
「大丈夫ですか、コロッサスさん?」
「大丈夫、俺が必ず守る。瑞樹の騎士として……君を愛する一人の男として!」
コロッサスの心からの言葉に、思わず頬が紅潮するのを感じる瑞樹。
同時に、彼のもう1人の大切な人……ルチルの事も気になってしまう。
だが、ルチルは振り返る事無く、大鎌を振り、魅咲忍軍を切り裂いている。
「瑞樹さん、早く旦那様と皆さんの回復を。それまでは、あなた方に攻撃は通させません」
ルチルの言葉に、瑞樹はオーロラを作りだし、ヒールの力を広げていく。
「向こうのチームには悪いけど、冴が居ない今がボク達が攻勢に転じる好機だよ。冴が戻って来る前に、1体でも多くの魅咲忍軍を撃破するんだ」
言いつつ、あかりは、2本のハンマーを変形合体させると床面を砕き大爆発を起こし、複数の魅咲忍軍を纏めて炎で包む。
「あかりの言うとおりだねっ♪ 私の歌を聴けーっ! ってね♪」
同意するとシルヴィアは、前に進み出、光の翼を広げ歌姫となる。
「永い永い時の果て、世界に届け、私達の想い。魂よ響け、この世界中に。私達が願うのは星の未来。未来掴む為、さぁ、闇を祓おう……♪」
美しい歌声も、魅咲忍軍には不浄を浄化する歌。 聖歌により現れた5本の光の剣は、宙空に五芒星を描くと、魔法陣から力を放つ。
「冴を逃がす訳にもいかないんだ。悪いけど君達には早々に倒れてもらわないとね」
笑顔を崩さず、氷結光線を発射しつつ、アンノが言う。
「タマの属性を頂戴! 力を溜められるだけ溜めておくんだよ♪」
身に纏う鎧と化したオウガメタルの硬度を右手に集め、勢いよく魅咲忍軍をぶち飛ばし、タマへ指示を出す、莱恵。
莱恵が吹き飛ばした魅咲忍軍に忍びの動きで近づくと雲雀は、手にしたナイフを迷い無く振り切る。
(「私に出来る事はそう多くないのかもしれません。ですが、想いの強さは力になります。私の願い、祈り、そして決意それらは私の力であり強さです。だから――決して譲りません」)
自分に出来る事の限界が分かっていてもなお――強くなりたい。
……それが雲雀の覚悟だ。
冴の居ない魅咲忍軍は、数こそ多いがケルベロス達を追い詰める程の戦力では無く、時間が進むにつれ、1体、2体と数を減らしていった……このまま終わらせれば、冴の居るチームに加勢に向かえる……皆そう思っていた。
だが、ケルベロスの目論見は、当の冴自身に遮られることになる。
「何人か死んじゃってるじゃん。もう役立たず~。私が居ないと駄目ってことね~」
その時、再び現れた冴の手から数多の手裏剣が、ケルベロス達に降り注いだ。
●明日への成果
「戦場移動ばっかりで、迷惑なんだよ~。だからボクとだけ戦うんだよ、冴!」
莱恵が叫ぶとタマが莱恵に向かって駆けよって来る。
「行くよ、タマ! 融合だぁ~!!』
タマを肩車することでタマの力を自身のものと統合し、武器を振り回し冴に突撃する、莱恵。その間、タマは鳴き声に挑発のグラビティを込める。
「面白い攻撃だけど、それだけで私は足止め出来ない。向こうは向こうで、私が居ないと駄目みたいなのよね。だから、バイバイ」
追おうとするケルベロス達の前を、残った2体の魅咲忍軍が立ちはだかる。
冴の作戦は単純だった。
ケルベロス達の実力に対し、それぞれ6体の部下達では、分が悪い。
だから、自身が戦場を瞬時に移動し、劣勢になっている方に加勢し、また片方が劣勢になれば戦場を移動する。
冴の螺旋忍軍としての力は高い……戦場の形勢をひっくり返すだけの力を持っていた。
そして、戦場を自由気ままに移動する冴に、ケルベロス達は致命的なダメージを中々与える事が出来ない。少しの負傷なら癒しの力で回復もしてしまう。
それでもケルベロス達は、残りの魅咲忍軍さえ倒せばと、攻撃の手を緩めなかった。
雲雀の御業で作り出した炎が、シルヴィアの歌声が、コロッサスの雷の神剣がダメージを与える中、ルチルの声が静かに響く。
「……暗技、壱百壱匹……真白乃鼠……」
ルチルの詠唱の元、何処からともなく、真白の毛並みの鼠が無数に集まってくると、一拍の後、ルチルの黒い残影を纏った刃と、白い残影を纏った鼠たちの軌道が無数に交差し、魅咲忍軍を切り裂いた。
「聖王女様……どうか、お力をお貸しください」
瑞樹の祈りは、聖王女への祈り、そして……癒しの力。
「アンノさん、力、渡すね。これで止めを! 今を切り拓く力を。前だけ見て進む力を。あなたに」
「有難うだね、あかり君。それじゃ、終わりにしようかな。終焉の刻、彼の地に満つるは破滅の歌声、綴るは真理、望むは廻天、万象の涯にて開闢を射す」
反発する二つの領域を同時に展開したアンノは、魅咲忍軍を周囲の空間ごと消滅させる。
「あとは、冴だよ! あれ? ……なんだか、更に外が騒がしくなってない? 嫌な予感がするんだよ」
莱恵の言葉は、直後に入った無線で裏づけされることになる。
『すまん――増援警戒班、撤退だ!』
その連絡に、ケルベロス達の視線はコロッサスに集まる。
「……仕方あるまい。こちらも撤退だ。資料確保班に期待しよう」
冴を撃破出来ないのは痛いが、脱出経路が無くなってしまえば元も子もない。
戦場撤退を始めたケルベロス達の耳に、冴の声が聞こえてくる。
「あら、そっちは、全滅~? だけど、もういいわ、こんなところに長居してもどうしようもないし。だから、この倉庫はあげる。また会えたら遊んであげるわよ♪」
言葉を残して旋風のように消える冴と、対峙していたもう一つのチーム……そして自分達。
安全な場まで撤退すると、悔しげにコロッサスの口が開かれる。
「あの様な者に翻弄されるとは、俺達の力が足りなかったのか……」
「あと、もう1チームいれば、確実に冴を倒すことは出来たでしょう。力量不足と言うより戦力不足でしょうね……」
落ち付いてはいるが、雲雀の声も落胆を隠せない。
「資料を探しに行ったチームに期待するしかないね」
「この辺りにそれっぽい物も無かったし、冴も持って無かったよね?」
アンノの言葉にシルヴィアが答える。
数分後、『資料全ての押収に成功した』と言う無線が入り、一同は胸を撫で下ろすことになる。
これにて撤収と言う時、静かに物思いに耽る瑞樹にルチルが声をかける。
「わたくしは……瑞樹さんが、もっと……わたくし達と近い関係になってくれたら嬉しいかな?」
瑞樹はルチルの言葉になぜか涙が滲んで、彼女の袖を掴んでいた。
「さあ、帰ろうか……?」
二人の愛する紅き鎧の無骨な大男は、優しげに笑うと……そう言うのだった。
作者:陸野蛍 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年6月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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