正義のケルベロス忍軍～抗争に乗っかっていけ！

■リプレイ

●隠密のしんがり部隊
　港区、反社会勢力御用達の倉庫。そこは現在、魅咲忍軍の拠点として利用されていた。
　正義のケルベロス忍軍の旗印の元、倉庫を包囲した五組の中で、一行は最も離れた位置から作戦開始の瞬間を待ち受けていた。
「どうだっ？　状況はどんな感じだ！？」
　精一杯に声を潜めながら、黒須・レイン（小さな海賊船長・e15710）は急かすように偵察組に問いかけた。
「有用な入り口は結局一か所か。あそこに陣取っちまえば、脱出しようとする連中も援軍も、両方抑えられそうだな」
　隠密気流を纏って物陰に隠れ潜み、高性能スコープを覗き込みながら、レイ・ジョーカー（魔弾魔狼・e05510）は事前に入手した倉庫の地図と実際の状況とを一致させていく。
　同じくイシコロエフェクトを駆使して、敵に気取られぬ範囲の周辺偵察を終え、トワ・トガサカ（性悪説スケアクロウ・e30469）も待機地点の仲間達に合流した。
「警備が手薄な経路というのは期待出来ませんね……矢張りオレ達が最後尾につき、他班の突入による混乱を突く形で対処する作戦――それで良ろしいでしょう」
　同班の皆は神妙に頷いた。
　今回の作戦は、五班連携による突入戦となる。敵主戦力と正面からぶつかる班が三つ、資料奪取を徹底する班が一つ。
　そして、水際での資料流出を阻止しつつ、敵の増援を警戒し、いち早く対処する事――それが、この班の役割であった。
　皆の準備が整ったのを確認し、齋藤・光闇（リリティア様の仮執事・e28622）が無線機に端然と声を吹き込む。
「こちら配置につきました。準備は完了致しております。後は、ＧＯの合図だけです」
　各班の準備は整った。
　作戦決行時間は間近。時計の秒針が刻む音が、緊張を高めていく。
　全班で合わせた時計が指定時刻を示したその瞬間、
『……頃合いだな。始めるとしようか。五六七チーム、先陣頼んだぞ』
　無線機越しに作戦開始が告げられた。
「始まったか」
　呟き、風鈴・響（ウェアライダールーヴ・e07931）は注視していた時計から顔を上げ、戦場へと突入していく他班を見送る。
「オラァ！　正義のケルベロス忍軍だァ！！　大将首、いただきさんだぜッ！！」
「正義の猟犬忍軍！　この拠点、頂戴に参上しました！」
　漏れ聞こえてくるのは威勢のいいケルベロス達の掛け声と、忍軍に駆け抜ける動揺、順次戦闘が火蓋を切っていく騒音。
　最後に資料奪取担当班が突入していったのを確認し、増援警戒班の面々は気配を殺しながら、開け放たれた倉庫入り口の左右に張り付いた。
　内部はすでに乱戦状態だ。大量の魅咲忍者を押し止める班、資料を抱える魅咲忍者達と攻防を繰り広げる班。他二班は、早くも倉庫の奥深くまで侵入し、魅咲・冴との交戦を開始した様子だった。
　そして、混乱極まる状況下、戦場から零れ落ちるように、倉庫からの脱出を図ろうとする者も、若干名。
　接近する複数の足音を聞き取った櫂・叔牙（鋼翼骸牙・e25222）は、螺旋隠れを解いて素早く入り口に立ちはだかった。
「残念ながら……逃がしは、しない」
　背中、肩、前腕から露出した光学攻撃用励起体が輝き、無数の光条が魅咲忍者達に降り注いだ。

●出入り口での攻防
　悲鳴を上げ、たたらを踏む魅咲忍者達。そこにすかさず烈風が巻き起こり、最も弱っていた一体を容赦なく斬り裂いた。
「どうも、魅咲忍軍さん。シマツでした」
　事を起こしてから、落ち着きのある笑顔で丁寧にお辞儀をするシマツ・ロクドウ（ナイトバード・e24895）。
「くっ……ここにもケルベロスか！」
　脱出を図ろうとしていた魅咲忍者達は、口惜しげに顔を歪める。全員が無色の、チャイナドレスに似た揃いの装束に身を包んだ女性ばかりだ。
「如何にも――嗚呼、如何にもその通り、その通りに御座います」
　慇懃に言葉の反復を重ねながら、トワはシュリケンスコールで複数の魅咲忍者を巻き込み、足止めを図る。
「女性ばっかりの忍軍……華があって良いねぇ」
　華麗にクイックドロウを撃ち込みつつ、にやにやと口許を緩めるレイ。生来の女性好きが上乗せされて、表向きの態度はずいぶんと軽い。
「カーネル！　あなたは後ろを警戒！　敵がいたら教えるんだよ！」
　アイリス・フィリス（ガーディアンシールド・e02148）はテレビウムに増援警戒を託しつつ、ヒールドローンを周囲に展開、戦意を高める応援を前衛に送る。
「今日の海賊船長は忍者船長！　悪者の企みなどぱぱっとあばいてやろう！」
　元気いっぱい明朗快活、レインはどこからともなく鎖を現出させ、適当な一体を激しくとっちめる。
「変身」
　短くも気合の籠った掛け声と共に、響は鎧を纏った獣人へと変身を遂げた。同時に生み出した、満月めいたエネルギー光球が、大見得っぷりを燦然と際立たせる。
「来てくださいませ、魔人卸し……、あぁ、めんどくせぇ……呼ばれたんならやる事はやるよ。 おらァ！！」
　一転、人が違ったように荒々しく吼える光闇。鮮血のオーラがその力を高めていく。
　気圧され、押し込まれながらも、魅咲忍者達は手早く陣形を立て直し、日本刀による攻撃を主軸に反撃してくる。ケルベロス達は次々にこれを返り討ちにしていった。
「レインちゃん、左手から新手だよ！　シマツさんは四時の方向に注意です！」
　アイリスは治癒を一手に担いながら、ちょこまかと動き回る魅咲忍者達の動向を、指さしで仲間達に伝えていく。
「この重さの中で動けるか？　止まっとけ！」
　響は魅咲忍者達の時間にかかる重力に干渉し、時間の遅延によってその動きを束縛する。
「書類に……メディア類。抱えているもの、全て。奪取させて、頂く」
　叔牙はたどたどしくも冷徹に、最も疲弊していた一人へと螺旋氷縛波を撃ち込み、撃墜する。
「よく知った技ですよね」
　シマツは笑顔を絶やさず、正確無比の螺旋氷縛波で、さらに中衛の一人を撃沈させた。
　次々と倒れていく魅咲忍者達。一見して資料持ちと分かる者はいないが、隠し持っている可能性も考え、ケルベロス達は片っ端から撃退していった。
　敵を順調に捌きながら、光闇が提案する。
「皆様、第一目標撃破間近でございます。第二目標援軍到着を警戒する傍ら、先行チームの援護を行うというのはいかがでしょう」
「異議なし！　ちょっと苦戦してるみたいだしな！」
　最後の一人をとっちめながら、レイン始め、皆が賛同する。
「結局、資料を持っている敵はいませんでしたね。奪取担当班が頑張ってくれてるんでしょう」
「電子の妖精さんの出番は、ここではなさそうですね。……今はそれよりも」
　倒した敵の懐を逐次検めていたアイリスとシマツは、意識を切り替え、先行チームの戦場へと視線を向けた。
　入り口より少し先、多くの魅咲忍者を押し止め、魅咲・冴への血路を開いた正面突入班は、敵の物量に圧され始めているようだった。
「まだまだ、と言いたいとこっすが……」
「……無理は百も承知だ！　でも、やらなきゃならないんだよ男だからな！」
　五六七が、雄太が、仲間が、敵に取り囲まれ、苦しんでいる、追い詰められている……！
　迷いはない。叔牙は迅速にミサイルポッドを露出させ、レイはライドキャリバーのファントムに跨りエンジンを吹かす。
「射線確認……マルチプル、行きます！」
「行くぜっ！　相棒っ！！！」
　雨あられと降り注ぐ大量のミサイルに、人馬一体の突撃からの銃撃。さらには鎖、手裏剣、烈風、重力……多数の魅咲忍者達の背後を、容赦のないグラビティが強襲した。
「短い間となりましょうが、我等も存分に力を揮わせて頂きましょう」
　光闇は下腹を抑えて折り目正しくお辞儀をすると、一転、ガトリングガンから大量の弾丸を連射し、敵で溢れる戦場を爆炎で彩った。

●機械鎧の女忍者
　……ジェットエンジンのそれに似た、機械的な駆動音。彼方からかすかに響くその異音は、少しずつ音量を上げ始めていた。
　突入班の援護を開始して数巡後。初めに警告を発したのは、テレビウムのカーネルだった。
　アイリスは即座に入り口を振り返り、目を凝らした。倉庫の外、遥か彼方に異様なシルエットを見出す。
　敵影。素早く判断し、無線機に向けて警告を発する。
「みなさん気をつけてください。増援が来ます！」
　一同は鋭く反応した。増援は確実に押し止めなければならない。
「くそうっ、間が悪いなぁ！　みんなっ、迎撃だ！」
「申し訳ありません、ここはお任せします」
　レインが声を張り上げ、シマツが突入班に短く断りを入れ、一同は置き土産のグラビティを放ちつつ、援護を切り上げ身を翻した。急ぎ倉庫を出て入り口の前に陣を張る。
　瞬く間に近づいてくる敵影は、仰々しい機械装甲を身に着けた、銀髪の女性の姿をしていた。ジェット噴射を推進力に、一直線に倉庫へと突っ込んでこようとしている……！
「ダモクレス！？」
「いや……あれも螺旋忍軍だ！」
　直感的に断言し、前に躍り出る響。
　直後、猛スピードで突進する機械装甲の、巨大クローの掌に覗ける砲門が火を噴いた。
　ケルベロスの陣形を断ち割らんばかりに放たれた砲撃は、響の全身で受け止められ、陣営の目前で爆発する。
　なおも、ジェット噴射の音は勢いを緩めない。
「止まらない……突っ込んでくる！」
「何としても――ええ何としても、ここを通す訳にはいきません……！」
　ケルベロス達は次々にグラビティを浴びせ、敵進路を真正面から妨害していく。
　グラビティの衝撃にわずかに体勢をぐらつかせながらも、敵はケルベロス達の目前まで迫る。
　機械装甲に鎧われた女性の唇が、薄く開いた。
「……面倒くさい」
　次の瞬間、推進力を乗せた巨大クローが、響を狙って振り下ろされた。
「ぐぅぅ……ぁぁぁぁあああっ！！」
　激甚な衝撃を響は耐え抜き、巨大クローを払いのけるように押し返した。
　一瞬ぐらついた姿勢を巧みに制御し、ケルベロス達の前に立ちはだかりながら、女性は眠たげな眼差しで一同を睥睨する。
「邪魔。道を開けなさい」
　女性の遥か後方には、不穏な影がぽつぽつと現れ始めていた……。

●目的達成を信じて
　現れた増援の女は、７色の軍団の指揮官に違いなかった。
　機械装甲の合間に覗ける生身は、チャイナドレス風の青いレオタードを纏い、魅惑的な曲線を描き出している。彼女自身よりも大質量とさえ見える機械装甲は、おそらくダモクレスの技術を転用した武器の一種なのだろう。
　その実力は、すでに自陣に撃ち込まれた攻撃の精度と、ディフェンダーたる響の疲弊具合から、嫌というほど知れる。ケルベロス達は隙なく構え、即座に攻撃を仕掛けていく。
「いきなりご挨拶だなっ、通すわけないだろう！」
　レインが惨劇の鏡像を閃かせ、
「第二目標援軍、確認致しました。皆様、処理を始めましょう」
　光闇はスマートに降魔真拳を叩き込み、
「惨殺しますね」
　シマツのブラッディダンシングが軽やかに舞う。
　仲間達に続き飛び出そうとしたトワを、遠方からの援護射撃が鋭く貫いた。
「増援追加ですか……！」
　咄嗟に自己回復を図りながら、トワは奥歯を噛みしめる。
　遅れて戦場に馳せ参じたのは、指揮官よりも明らかにグレードの低い機械装甲を纏った、女性の螺旋忍軍だった。揃いの青色を見るからに、直属の配下なのだろう。
「沙月様！」
「遅い」
　沙月と呼ばれた指揮官は不機嫌にぼやくと、顎でケルベロス達を示した。
「面倒だけど、駆逐するわよ」
「はっ！」
　言うが早いか、沙月は先ほどとは逆の手の砲門を開いた。凄まじい騒音を立てながら数多の銃弾のつぶてが連射され、前衛を横薙ぎに掃射していく。
「増えた……ならば。薙ぎ払う、まで！」
　叔牙はＲａｙＳｔｏｒｍで、沙月とその配下の推進力部位を執拗に撃ち抜く。
「我が言霊は機械の装甲をも断ちましょう――『鋼断』！」
　二文字の言霊が、トワの手刀に力を与え、配下の装甲に大きな亀裂を叩き込んだ。
　ケルベロス達の士気は高い。が、時が進むにつれ、配下の増援は次々に数を増やしていく。
「いやぁ、もったいない。可愛い子は降伏してデートでもしねぇ？」
　レイは軽口をやめず、しかし一切の躊躇なくブリューナクを撃ち込んだ。……その余裕も、そう長くもちそうもない。
　状況は切迫していた。銃弾が縦横無尽に交差し、砲撃やレーザーが爆発を連鎖、巨大クローがケルベロスの体力を抉っていく……数を揃えた螺旋忍軍の容赦のない連携に、ケルベロス達は消耗を強いられ、徐々に追い込まれていった。
　これ以上持ちこたえるのは難しい……皆がそう悟り始めたその時、無線越しに他班の状況が告げられる。
「……正面突入班、撤退……！？」
　アイリスが息を呑み、すぐに真剣な眼差しで皆に目配せした。
　このまま戦い続けていては、突入班が足止めしていた戦力に挟み撃ちにされる可能性が高い……。
　一瞬にして理解が伝播し、一同は頷き合う。ぐずぐずはしていられない。
　戦闘継続、不能。
「すまん――増援警戒班、撤退だ！」
　端的な報せを無線に叩き付けながら、響は時重力遅延を放ち、こちらに殺到しようとしていた配下達の動きを鈍らせた。ライドキャリバーのヘルトブリーゼも、他の一群に激しいスピンをしかけて機動力を削ぎ落し、主の元へと取って返す。
　ケルベロス達は身を翻し、なおも追いすがる銃撃を掻い潜りながら、一心に駆け抜けた。敵を押し止めきれなかった悔しさを、各々の胸に秘めながら。
　他の仲間達の無事を祈り、第一目標である資料確保が果たされている事を、信じて。

作者：そらばる	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年6月6日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 7／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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